だんのこまち@wiki
ギルド結成
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dannocomachi
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四人では広すぎる世界
「右、追加来てる」
「見えてる。スーちゃん、そっち押さえられる?」
「うん、こっちでなんとかするね」
スフレが短く返事をした直後、地面から光の線が走った。
魔法陣のように広がったそれは、こちらへ突っ込んできていた狼型の魔物の足元で弾け、青白い鎖となって絡みつく。
「拘束入れたよ!」
「もらった!」
シュガーシロップが一歩踏み込む。
大きく振りかぶった剣が、拘束された魔物の胴を叩きつけるように斬り裂いた。
相変わらずシュガーシロップの前に出る判断は早い。
見てから動いているというより、最初からそこに行くことが決まっていたみたいな動きだ。
「左の一体、逃げるよ」
「逃がさない」
ガトーショコラの声が聞こえたと思った瞬間、森の奥から飛んできた矢が魔物の後ろ足に刺さった。
魔物の体勢が崩れる。
その隙に短剣を抜き、横から回り込んだ。
「これで終わり」
刃が通る感覚と同時に、魔物の体が光の粒になってほどけていく。
戦闘終了の表示。
経験値、ドロップアイテム、素材。
見慣れたウィンドウが視界の端に流れていく。
「お疲れー」
「お疲れ様」
「ふぅ、今日も結構狩ったな」
シュガーシロップが剣を肩に担ぎながら言う。
目の前には、先ほどまで魔物が群れていた開けた森。
足元には草が揺れ、奥にはまだ見たことのない道が続いている。
このゲームを始めたばかりの頃は、村の外へ出るだけでも慎重だった。
一体の魔物に囲まれただけで焦って、回復薬の使い方すら間違えていたこともある。
それが今では、四人でそこそこのフィールドなら安定して回れるようになった。
レベルも上がった。
装備も整ってきた。
クラスのスキルも、なんとなくではなく、少しずつ意味を持って使えるようになってきた。
「次どうする?」
「このまま奥まで行く?」
「行けることは行けるけど……」
マップを開いた。
森の先には、まだ未踏破のエリアが薄い霧のような表示で広がっている。
そのさらに奥には、推奨人数八人以上のダンジョン。
さらにその先には、まだ名前すら表示されない大きな山脈。
「……このゲーム、広すぎない?」
思わず声に出た。
「今さら?」
ガトーショコラが笑う。
「いや、今さらなんだけどさ。四人で歩いても歩いても終わらないんだよね」
「MMORPGってそういうものじゃないの?」
「そうなんだけど、FoFはなんか違う。フィールドも広いし、NPCも多いし、クエストも多いし、素材も多いし、なんか……やることが多すぎる」
「いいことじゃん」
シュガーシロップは単純に嬉しそうだった。
たしかに、いいことだ。
やることが尽きないゲームなんて、プレイヤーからしたら最高だ。
でも、最高すぎるものは、時々困る。
「戦闘もしたいし、探索もしたいし、生産もやりたいし、レイドも行きたいし、イベントも追いたい」
「欲張りセットだ」
「そう。欲張りセット。」
スフレが小さく笑った。
「生産も、もう少し人数がいたら楽だと思う。素材集めと加工、全部一人でやると時間が足りない」
「探索も同じだね。私たちだけだとルート確認に時間がかかる」
ガトーショコラがマップを覗き込みながら言う。
彼女はいつも、知らない道を見つけるのが早い。
隠し通路や採取ポイント、NPCの妙な会話。
そういうものにすぐ気づく。
「高難易度レイドもそのうち行きたいよな」
シュガーシロップが言った。
その言葉に、少しだけ全員が黙った。
高難易度レイド。
今の自分たちには、まだ遠い場所。
けれど、このゲームを遊んでいるなら、いつかは絶対に挑みたい場所。
「行きたいね」
みたらしっぽが言う。
「でも、四人じゃ無理だよね」
「無理だな」
「無理だね」
「うん、無理」
全員の意見が綺麗に揃った。
こういう時だけ妙に息が合う。
「……じゃあさ」
ガトーショコラが、ぽつりと言った。
「ギルド、作らない?」
「ギルド?」
「うん。今まで四人で固定パーティーみたいに遊んでたけど、FoFってたぶん、もっと大人数で遊ぶこと前提のゲームだと思うんだよね」
ガトーショコラはマップを閉じ、こちらを見る。
「戦闘が得意な人、探索が好きな人、生産にこもりたい人、情報を集める人。そういう人が集まってた方が、このゲームをちゃんと遊べる」
「それは……そうかも」
「ただ人数を増やすんじゃなくてさ。みんなでこの世界を見に行く場所を作る、みたいな」
「場所……」
その言葉は、思ったより自然に入ってきた。
ゲーム内の所属。
ただのシステム。
そう言ってしまえばそれまでだ。
でも、FoFの世界はそれだけでは片付かない。
NPCはまるで本当に生活しているみたいに話す。
町は時間で表情を変える。
フィールドには、誰かが先に通った跡が残っていることもある。
この世界には、プレイヤーが集まる理由がある。
「いいんじゃない?」
シュガーシロップが即答した。
「早っ」
「だって楽しそうだし。人が増えれば強い敵とも戦えるでしょ」
「シロらしい理由だなぁ」
「悪い?」
「いや、めちゃくちゃ良い」
スフレも少し考えてから頷いた。
「生産系の人が増えたら嬉しい。家具とか装備とか、まだ作ってみたいものが多い」
「探索班も欲しいな。フィールドの情報、絶対まだ全然足りてない」
ガトーショコラは楽しそうに言った。
話が、少しずつ形になっていく。
戦闘。
探索。
生産。
レイド。
PvP。
まだ名前も知らない場所。
まだ会ったことのないプレイヤー。
四人では見切れないものを、もっと多くの人と見に行く。
「じゃあ、作るか」
みたらしっぽが言うと、他の三人の視線が集まった。
「ギルド」
そう口にした瞬間、何かが始まる気がした。
ただの思いつきではなく、後から振り返った時に、きっとここが分岐点だったと思えるような。
そんな妙な予感があった。
〜町〜
「ギルド申請ってどこ?」
「中央区の管理庁っぽい」
「管理庁ってなに?」
「ギルドとか商会とか、プレイヤー組織の登録をする場所らしい」
「急にちゃんとしてるな、このゲーム」
町へ戻ると、私たちはそのまま中央区へ向かった。
FoFの町は、いつ来ても人が多い。
正式サービスが始まってからしばらく経ったとはいえ、まだまだ新規プレイヤーも多く、広場では初期装備のプレイヤーがNPCに話しかけたり、露店を覗いたり、迷子になったりしている。
その中を抜けると、石造りの大きな建物が見えてきた。
入口には「冒険者組織管理庁」と書かれた看板。
「すごい役所感」
「ゲームで書類書かされるのかな」
「ありえる」
中に入ると、受付に座っていた女性NPCが顔を上げた。
「ようこそ、冒険者組織管理庁へ。本日はどのようなご用件でしょうか」
「ギルドを作りたいんですけど」
「ギルド設立ですね。代表者の方はこちらへどうぞ」
自然にみたらしっぽが一歩前に出る。
すると、受付の女性が机の上に一枚の書類を出した。
いや、本当に書類が出てきた。
「うわ、本当に書類だ」
「代表者名、組織名、活動目的、初期役職……結構ちゃんとしてる」
ガトーショコラが横から覗き込む。
「ギルド名どうする?」
「そこから!?」
「いや、大事でしょ」
たしかに大事だ。
むしろ一番大事かもしれない。
ギルド名。
自分たちの場所の名前。
何気なくつけた名前でも、この先ずっと表示されることになる。
「かっこいい名前がいい」
シュガーシロップが言う。
「例えば?」
「えーっと……なんか、流星とか、銀狼とか、そういうの」
「急に中二だ」
「いいじゃん!」
「でも多そうだね」
スフレが検索用の小さなウィンドウを出す。
「流星、銀狼、月影、幻影、黒翼……だいたい使われてる」
「みんな考えること同じなんだな」
「じゃあ、ゆるい名前にする?」
ガトーショコラが言った。
「ゆるい名前?」
「私たちっぽいやつ。強そうというより、集まったらなんか楽しい感じの」
「楽しい感じ……」
私は腕を組んだ。
四人の名前を思い浮かべる。
みたらしっぽ。
シュガーシロップ。
ガトーショコラ。
スフレ。
甘い。
全体的に甘い。
「……団子?」
「え?」
「いや、なんか、集まる感じで。団……団子……」
「団子」
シュガーシロップが真顔で繰り返す。
「団子ギルド?」
「それはちょっと屋台すぎる」
「でも嫌いじゃない」
ガトーショコラが笑う。
「団……ノ子?」
スフレが小さく呟いた。
「だんのこ?」
「団の子。集まった子たち、みたいな」
「お、いいじゃん」
思ったより、しっくり来た。
強そうではない。
大手ギルドみたいな威圧感もない。
でも、なんとなく私たちらしい。
「ギルド団ノ子」
私は書類の組織名欄に、ゆっくりと入力した。
確認画面が開く。
<ギルド名:団ノ子>
<この名前で登録しますか?>
「いい?」
三人を見る。
「いいよ」
「うん」
「異議なし」
みたらしっぽは決定ボタンを押した。
視界の中央に、柔らかな効果音と共にメッセージが表示される。
<ギルド『団ノ子』が設立されました>
その瞬間、四人の頭上に小さなギルドタグが浮かんだ。
まだ見慣れない文字。
でも、妙に嬉しい。
「あ、ついた」
「ついたね」
「なんかいいな」
「スクショ撮ろう」
ガトーショコラの一言で、四人は管理庁の前に並んだ。
通行人のプレイヤーが不思議そうにこちらを見る。
まだ四人だけの小さなギルド。
拠点もない。
有名でもない。
メンバー募集の文面すら決まっていない。
けれど、この瞬間から、私たちはただの固定パーティーではなくなった。
「じゃあ、役職決めるか」
「役職?」
「ギルドマスターはみたでしょ」
「え、僕?」
「言うと思った」
「いや、流れ的にそうでしょ」
「代表者で申請したし」
「逃げ場ないよ」
三人が当然のように言う。
「いや、僕そんなリーダーっぽいことできるかな」
「大丈夫大丈夫」
シュガーシロップが軽く言った。
「みたが道を決めて、私たちが横から好き勝手言えばいい」
「それ大丈夫なの?」
「いつも通り」
たしかに、いつも通りだった。
「じゃあ、シロは戦闘班」
「お、いいね」
「前に出るの好きだし」
「好きっていうか、前に出ないと始まらないでしょ」
「ガトーショコラは探索班」
「それは任せて」
「スフレは生産班」
「うん。作れるもの増やしておく」
それぞれの名前の横に役職が追加される。
ギルドマスター、みたらしっぽ。
戦闘班リーダー、シュガーシロップ。
探索班リーダー、ガトーショコラ。
生産班リーダー、スフレ。
文字にすると、急にちゃんとした組織みたいに見えた。
「うわ、なんかそれっぽい」
「それっぽいだけで中身はまだ四人だけどね」
「最初はそんなもんでしょ」
「募集文どうする?」
「初心者歓迎?」
「戦闘好き歓迎?」
「探索好き歓迎」
「生産好きも歓迎」
「結局全部歓迎じゃん」
「じゃあ、FoFを遊び尽くしたい人募集、でよくない?」
みたらしっぽがそう言うと、三人が少しだけ黙った。
それから、ガトーショコラが頷いた。
「いいね。それが一番わかりやすい」
ギルド募集掲示板に、短い文章を打ち込む。
<ギルド団ノ子 メンバー募集>
<戦闘、探索、生産、レイド、のんびりプレイまで。FoFをみんなで遊び尽くしたい人、歓迎します>
送信。
小さなギルドは、この広い世界へ向かって初めて声を出した。
「来るかな、人」
「来るでしょ」
「来なかったら?」
「四人でまた考えればいい」
シュガーシロップが言う。
その言葉に、私は少し笑った。
そうだ。
まだ何も大きくない。
まだ何も始まっていない。
でも、四人なら何度でも考えられる。
この広すぎる世界で、遊び尽くせないものを遊び尽くすために。
まずは、小さな名前をひとつ掲げた。
ギルド団ノ子。
それは、たった四人から始まった。