だんのこまち@wiki
三部
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dannocomachi
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第三部 先輩と後輩
決勝までの十分間
準決勝が終わると、決勝まで十分間の休憩が入りました。
待機ロビーへ戻った私は、椅子へ座ります。
身体が疲れているわけではありません。
現実の身体は、コネクションシートへ座ったままです。
それでも。
何試合も相手の動きを見続けたためか、頭の奥が少し熱く感じました。
目の前には、決勝戦の表示。
<みたらしっぽ 対 チョコチップ>
何度見ても、名前は変わりません。
本当に。
先輩も、決勝まで来ました。
DPo-Xが振動します。
送り主は先輩です。
<本当に決勝になったね>
私はすぐに返しました。
<はい>
<待っていました>
少しして。
<僕も>
短い返事です。
それだけで、準決勝の緊張が少しだけ抜けました。
<手加減はしないでくださいね>
送信します。
すぐに既読。
<しないよ>
続けて。
<チョコもね>
私は画面を見ながら笑いました。
<もちろんです>
現実側の校庭では。
つきみさんが、二年二組の応援席へ戻っていました。
先ほどまで意外がっていたクラスメイトたちも、今は自然に周囲へ集まっています。
「つきみさん、三位以上だよね?」
「準決勝まで行ったから、たぶん」
「本当にすごかった」
「次、どっちを応援する?」
つきみさんは、決勝の二つの名前を見上げました。
「二年二組としては、みた」
「やっぱり」
「でも、チョコにも勝ってほしい」
「両方じゃん」
「二人とも、いい試合をすればいいと思う」
シロさんが、すぐに声を上げます。
「それでいい! 二人とも最高の試合しろー!」
「まだ始まってないよ」
コレットさんが止めました。
「今から叫ぶと、本当に最後まで声が持たない」
「もう少しで始まるから大丈夫」
キャラメルさんが、シロさんへ飲み物を渡します。
「そのもう少しの間は飲んでおこうね」
ミルクさんは、校庭中央の空の決闘場へDPo-Xを向けていました。
「二人が入ってくるところから、ちゃんと残したいな~」
一年二組側。
レンちゃんは、決勝戦の表示を何度も見ています。
「チョコちゃん、本当に決勝まで来たね」
「最初から、来るつもりだったと思う」
フィーちゃんが答えました。
「でも、本当に来ると少し信じられないね」
プラリネさんも、二つの名前を見上げます。
「二人って、指導ペアなんだよね」
「うん。高校へ入る前から知ってる先輩」
レンちゃんが言います。
「だから、たぶん一番戦いづらい相手」
「一番戦いたかった相手でもあると思う」
フィーちゃんが続けました。
周囲の一般生徒からも、決勝への期待が聞こえます。
「一年生が決勝まで来たぞ」
「あの二人、普段から一緒にいるよね?」
「指導ペアらしいよ」
「じゃあ、互いの癖を全部知ってるんじゃない?」
「さっきの準決勝より、読み合いがすごくなりそう」
「どっちが勝つと思う?」
「一撃の重さはチョコチップさん」
「でも、みたらしっぽ先輩は軽い武器で十回当ててきたぞ」
来場者席では。
ミントちゃんが、両手を強く握っていました。
「次、先輩なんだよね」
マキアートさんが言います。
「うん」
「どちらを応援するの?」
「今日は、お姉ちゃん」
迷いのない返事でした。
「でも、先輩にも最後まで戦ってほしい」
「両方ですね」
「最後に勝つのは、お姉ちゃんがいい」
決勝開始まで。
あと一分。
待機ロビーへ戻った私は、椅子へ座ります。
身体が疲れているわけではありません。
現実の身体は、コネクションシートへ座ったままです。
それでも。
何試合も相手の動きを見続けたためか、頭の奥が少し熱く感じました。
目の前には、決勝戦の表示。
<みたらしっぽ 対 チョコチップ>
何度見ても、名前は変わりません。
本当に。
先輩も、決勝まで来ました。
DPo-Xが振動します。
送り主は先輩です。
<本当に決勝になったね>
私はすぐに返しました。
<はい>
<待っていました>
少しして。
<僕も>
短い返事です。
それだけで、準決勝の緊張が少しだけ抜けました。
<手加減はしないでくださいね>
送信します。
すぐに既読。
<しないよ>
続けて。
<チョコもね>
私は画面を見ながら笑いました。
<もちろんです>
現実側の校庭では。
つきみさんが、二年二組の応援席へ戻っていました。
先ほどまで意外がっていたクラスメイトたちも、今は自然に周囲へ集まっています。
「つきみさん、三位以上だよね?」
「準決勝まで行ったから、たぶん」
「本当にすごかった」
「次、どっちを応援する?」
つきみさんは、決勝の二つの名前を見上げました。
「二年二組としては、みた」
「やっぱり」
「でも、チョコにも勝ってほしい」
「両方じゃん」
「二人とも、いい試合をすればいいと思う」
シロさんが、すぐに声を上げます。
「それでいい! 二人とも最高の試合しろー!」
「まだ始まってないよ」
コレットさんが止めました。
「今から叫ぶと、本当に最後まで声が持たない」
「もう少しで始まるから大丈夫」
キャラメルさんが、シロさんへ飲み物を渡します。
「そのもう少しの間は飲んでおこうね」
ミルクさんは、校庭中央の空の決闘場へDPo-Xを向けていました。
「二人が入ってくるところから、ちゃんと残したいな~」
一年二組側。
レンちゃんは、決勝戦の表示を何度も見ています。
「チョコちゃん、本当に決勝まで来たね」
「最初から、来るつもりだったと思う」
フィーちゃんが答えました。
「でも、本当に来ると少し信じられないね」
プラリネさんも、二つの名前を見上げます。
「二人って、指導ペアなんだよね」
「うん。高校へ入る前から知ってる先輩」
レンちゃんが言います。
「だから、たぶん一番戦いづらい相手」
「一番戦いたかった相手でもあると思う」
フィーちゃんが続けました。
周囲の一般生徒からも、決勝への期待が聞こえます。
「一年生が決勝まで来たぞ」
「あの二人、普段から一緒にいるよね?」
「指導ペアらしいよ」
「じゃあ、互いの癖を全部知ってるんじゃない?」
「さっきの準決勝より、読み合いがすごくなりそう」
「どっちが勝つと思う?」
「一撃の重さはチョコチップさん」
「でも、みたらしっぽ先輩は軽い武器で十回当ててきたぞ」
来場者席では。
ミントちゃんが、両手を強く握っていました。
「次、先輩なんだよね」
マキアートさんが言います。
「うん」
「どちらを応援するの?」
「今日は、お姉ちゃん」
迷いのない返事でした。
「でも、先輩にも最後まで戦ってほしい」
「両方ですね」
「最後に勝つのは、お姉ちゃんがいい」
決勝開始まで。
あと一分。
決勝戦
転送が始まりました。
白い光。
足元へ、決闘場の床が現れます。
向かい側。
先輩の姿。
見慣れているはずなのに。
今日は、少し遠く感じました。
頭上へ、武器とライフが表示されます。
<チョコチップ 200>
<中型木刀/威力30>
<みたらしっぽ 200>
<軽量木刀/威力20>
現実側から、これまでで一番大きな歓声が届きました。
自分の名前。
先輩の名前。
どちらも聞こえます。
「先輩」
「何?」
「本当に、決勝まで来てくださいましたね」
「チョコもね」
「約束を守れました」
「うん」
先輩は短い木刀を構えました。
右手。
切っ先は少し下。
どちらへでも動ける、力の抜けた構えです。
「よろしく、チョコ」
「よろしくお願いします、先輩」
「手加減は?」
「しません」
「僕も」
二人で一礼しました。
カウントが始まります。
三。
二。
一。
<DUEL START>
すぐには動きませんでした。
先輩も。
私も。
互いに、相手が最初にどこを見るのかを見ています。
私は、先輩の足。
先輩は、おそらく私の肩。
Aグループの練習で何度も指摘された場所です。
左肩へ、無意識に力を入れない。
木刀だけで攻撃を知らせない。
呼吸を整えました。
先輩が、一歩だけ右へ動きます。
私は追いません。
もう一歩。
少しだけ距離が縮まりました。
先輩の木刀が上がります。
攻撃。
そう思った瞬間。
先輩は木刀を振らず。
足だけで間合いへ入ってきました。
近い。
反射的に木刀を向けます。
先輩は、その外側へ。
手首へ一撃。
<HIT -20>
<チョコチップ 180>
すぐに反対側へ回り。
脇腹。
<HIT -20>
<チョコチップ 160>
二回。
私の木刀が戻るより先に、先輩は離れていました。
観客席から声が上がります。
「速い!」
「最初から二発!」
「チョコチップさんの木刀が戻る前へ入ったのか!」
「速いです」
私が言うと、先輩は少し笑いました。
「軽いからね」
「二回も当てる必要はなかったのでは?」
「一回で離れたら、チョコが追ってくるでしょう?」
「もちろんです」
「だから二回」
やはり。
私のことをよく知っています。
私は正面へ出ました。
先輩は、今度も先に入ろうとします。
木刀を振る。
その動きへ合わせるように見せ。
途中で止めました。
先輩も止まります。
互いの木刀が届かない距離。
「前なら、今ので肩が上がってた」
「先輩が直してくださいましたから」
「教えた相手に使われると、少し複雑だなぁ」
「では、もっと複雑にします」
今度は本当に踏み込みました。
右上から。
先輩が左へ避けます。
Aグループの練習で。
何度も見てきた方向です。
私は木刀を振り切りません。
途中で止め。
先輩が入った左側へ、木刀を返しました。
肩へ。
<HIT -30>
<みたらしっぽ 170>
歓声。
「返した!」
「先輩の避ける方向を読んでた!」
「指導ペアだから、癖を知ってるのか!」
先輩が、少し驚いた顔をします。
「今の、僕の避ける方を見てた?」
「何度も練習していただきましたから」
「やっぱり見られてたなぁ」
「長い付き合いですから」
以前、先輩から言われた言葉です。
先輩は、嬉しそうに笑いました。
「お互い様だね」
次の攻防。
私が前へ出ます。
先輩の短い木刀は、一撃の威力では負けています。
正面で武器同士がぶつかれば、私の方が少し押せます。
木刀同士が接触。
私は両手で押し込みました。
先輩は逆らわず、一歩下がります。
もう一歩。
境界線へ近づく。
そのまま押し切る。
そう見せ。
私は、一度木刀を離しました。
先輩の身体が前へ流れます。
胴へ一撃。
<みたらしっぽ 140>
先輩は倒れません。
流れた姿勢のまま、短い木刀を下から返します。
肩。
<チョコチップ 140>
互いのライフが並びました。
<チョコチップ 140>
<みたらしっぽ 140>
「同じですね」
「本当だ」
「ここからです」
「うん」
少しずつ。
会話の声が短くなります。
先輩が右へ。
私は正面。
短い木刀が何度も小さく動きました。
一回目はフェイント。
二回目も、まだ届かない。
三回目。
本当の攻撃。
私は木刀で受けます。
その直後。
先輩は木刀を持つ手を、右から左へ変えました。
反対側からの一撃。
<チョコチップ 120>
すぐに右手へ戻し。
もう一撃を狙います。
私は後ろへ下がらず、先輩の懐へ入りました。
短い木刀が身体へ届く前。
私の木刀の柄に近い部分を、先輩の腕へ当てます。
<みたらしっぽ 110>
ですが。
近づいたことで。
先輩の短い木刀も届きました。
背中へ。
<チョコチップ 100>
離れます。
<チョコチップ 100>
<みたらしっぽ 110>
先輩が、わずかに有利です。
現実側から。
「チョコちゃん!」
「みた!」
二つの名前が、同時に届きました。
私は息を整えます。
先輩も木刀を構え直しました。
「チョコ」
「はい?」
「楽しい?」
試合の途中で。
先輩が尋ねました。
「はい」
迷わず答えます。
「とても」
「僕も」
先輩が踏み込みました。
今度は、先ほどより速い。
正面への一撃。
受ける。
木刀がぶつかります。
先輩はすぐに離れました。
追います。
境界線の近く。
先輩が、あと一歩で外周へ届く場所まで下がりました。
現実側から。
少し不安そうな声が聞こえます。
「また下がってる」
「去年みたいに止まらないよな?」
「あの位置、前へ出なくなった場所じゃないか?」
その姿に。
去年の記録映像が、ほんの一瞬だけ重なります。
途中から前へ出なくなった先輩。
自分で試合を終わらせた姿。
「先輩」
呼びました。
先輩は、すぐに私を見ます。
「止めないよ」
言葉と同時に。
境界線を蹴るように前へ出ました。
待っていたわけではありません。
逃げていたわけでもありません。
私が追ってくる距離を使い。
一気に間合いを縮めます。
短い木刀。
右。
避ける。
左。
防御。
三撃目。
脇腹。
<チョコチップ 80>
さらに。
手首。
<チョコチップ 60>
二回。
観客席から、大きな歓声が上がりました。
「前へ出た!」
「止まってない!」
「去年とは違う!」
先輩は、最後まで止まりません。
私も。
下がったままにはなりません。
先輩の二撃目が戻るところへ。
木刀を振りました。
肩。
<みたらしっぽ 80>
互いに離れます。
<チョコチップ 60>
<みたらしっぽ 80>
私のライフは、あと三回ではなく。
先輩の木刀なら、あと三回。
先輩は。
私の木刀なら、あと三回でゼロです。
一撃の差が、そのまま有利とは限りません。
私は木刀を両手へ持ちます。
正面。
先輩は片手のままです。
振りの速さでは勝てません。
なら。
動く場所を絞ります。
右から踏み込み。
先輩を左へ避けさせる。
木刀を途中で止め。
左へ返す。
先輩が、さらに外側へ。
もう一歩。
今度は追わず。
先輩が戻る位置へ、木刀を置きました。
肩へ。
<HIT -30>
<みたらしっぽ 50>
「さっきのドラジェさんとの試合みたいだ」
「先輩の試合を見ていました」
「僕が使ったことまで使うんだ」
「使えることは、試してみます」
「本当に、全部見てるなぁ」
少しだけ。
二人で笑いました。
先輩が、また前へ来ます。
一撃。
受ける。
二撃目。
外す。
三撃目。
私は反撃へ入ります。
ですが。
先輩の木刀は、振り切られていませんでした。
すぐに戻り。
私の手首へ。
<HIT -20>
<チョコチップ 40>
あと二回。
先輩も五十。
私は、一回当てれば残り二十。
もう一回で勝利です。
互いに。
ほとんど余裕はありません。
一度、大きく息を吐きました。
先輩はすぐには来ません。
待っています。
私が勝ちを急ぐのかどうか。
見ているのだと思います。
つきみさんとの最後の攻防を思い出しました。
先に動いた方が負けるのではありません。
焦りに動かされた方が負けます。
私は待ちました。
先輩も。
数秒。
歓声まで、少し遠くなったように感じます。
一般生徒の声も、自然と小さくなっていました。
「どっちも動かない」
「何を待ってるんだ?」
「相手が焦るのを待ってるんじゃない?」
「これ、先に入った方が危ないぞ」
先に動いたのは。
私でした。
一歩。
先輩の木刀が動きます。
ですが、攻撃ではありません。
身体の右側を、わずかに開きました。
入れる。
そう見えます。
あまりにも、わかりやすい隙です。
私は、そのまま踏み込まず。
一度止まりました。
先輩も動きません。
互いに。
相手が次に変える動きを待っています。
「来ないんだ」
先輩が言いました。
「先輩が、あまりにも入りやすそうにするので」
「信じてくれてもいいのに」
「戦っている先輩は、あまり信用できません」
「普段は?」
「とても信頼しています」
先輩が、ほんの一瞬だけ笑いました。
その一瞬。
私は踏み込みます。
右側。
先輩が見せていた隙ではなく。
反対の左。
木刀を振りました。
先輩は、すぐに身体を向けます。
短い木刀で、私の木刀を受けました。
防御判定。
軽い武器が押されます。
私は、そのまま押し切ろうとしました。
先輩は木刀を斜めに傾けます。
私の木刀が外へ流れました。
近い。
先輩の短い木刀が、私の腕へ触れます。
<HIT -20>
<チョコチップ 20>
あと一回。
ですが。
先輩も木刀を振った直後です。
私は流された木刀を止めず、そのまま横から返しました。
先輩の胸元へ向かいます。
届く。
そう思いました。
観客席からも。
「入った!」
という声が上がります。
先輩は後ろへ下がりませんでした。
木刀を持つ腕の下へ、身体を沈めます。
私の木刀が、肩の上を通り過ぎました。
先輩が、私の横へ抜けます。
背中側。
振り返るより早く。
脇腹へ、短い木刀の先が触れました。
青い光。
<HIT -20>
<チョコチップ 0>
動きが停止します。
目の前に、大きな表示。
<WINNER みたらしっぽ>
一瞬。
何も聞こえませんでした。
それから。
校庭全体が揺れるような歓声が届きます。
「みたらしっぽ先輩、優勝!」
「最後、下へ抜けた!」
「チョコチップさんも、あと一発だったぞ!」
「一年生で準優勝ってすごすぎる!」
「指導した先輩と、教わった後輩でここまで来たのか」
「二人とも、最後まで全部読み合ってたな……」
私は木刀を持ったまま、結果を見上げました。
負けました。
あと一回。
私の木刀が先輩へ届けば、勝てた試合です。
「……悔しいです」
自然に言葉が出ました。
先輩は短い木刀を消し、私の前へ来ます。
「うん」
「とても」
「僕も、あと一回当てられたら負けてた」
「当てられませんでした」
「今日はね」
先輩が手を差し出しました。
私は、その手を握ります。
「約束どおり、最後まで戦ってくださいましたね」
「チョコが待ってたから」
「私が待っていなくても、次からは戦ってください」
「うん。次からは」
「本当ですか?」
「本当」
先輩は少し笑いました。
「チョコも、本当に強くなったね」
「先輩が教えてくださったので」
「教えすぎたかも」
「では、次は教えてくださらないんですか?」
「教えるよ」
「よかったです」
私は先輩の手を、少しだけ強く握りました。
「次は勝ちます」
「うん」
先輩も、握り返してくれます。
「その時も、手加減しないよ」
「お願いします」
二人で、決闘場の中央へ向き直りました。
勝った先輩。
負けた私。
それでも。
決勝まで来る約束は。
二人とも、最後まで守ることができました。
白い光。
足元へ、決闘場の床が現れます。
向かい側。
先輩の姿。
見慣れているはずなのに。
今日は、少し遠く感じました。
頭上へ、武器とライフが表示されます。
<チョコチップ 200>
<中型木刀/威力30>
<みたらしっぽ 200>
<軽量木刀/威力20>
現実側から、これまでで一番大きな歓声が届きました。
自分の名前。
先輩の名前。
どちらも聞こえます。
「先輩」
「何?」
「本当に、決勝まで来てくださいましたね」
「チョコもね」
「約束を守れました」
「うん」
先輩は短い木刀を構えました。
右手。
切っ先は少し下。
どちらへでも動ける、力の抜けた構えです。
「よろしく、チョコ」
「よろしくお願いします、先輩」
「手加減は?」
「しません」
「僕も」
二人で一礼しました。
カウントが始まります。
三。
二。
一。
<DUEL START>
すぐには動きませんでした。
先輩も。
私も。
互いに、相手が最初にどこを見るのかを見ています。
私は、先輩の足。
先輩は、おそらく私の肩。
Aグループの練習で何度も指摘された場所です。
左肩へ、無意識に力を入れない。
木刀だけで攻撃を知らせない。
呼吸を整えました。
先輩が、一歩だけ右へ動きます。
私は追いません。
もう一歩。
少しだけ距離が縮まりました。
先輩の木刀が上がります。
攻撃。
そう思った瞬間。
先輩は木刀を振らず。
足だけで間合いへ入ってきました。
近い。
反射的に木刀を向けます。
先輩は、その外側へ。
手首へ一撃。
<HIT -20>
<チョコチップ 180>
すぐに反対側へ回り。
脇腹。
<HIT -20>
<チョコチップ 160>
二回。
私の木刀が戻るより先に、先輩は離れていました。
観客席から声が上がります。
「速い!」
「最初から二発!」
「チョコチップさんの木刀が戻る前へ入ったのか!」
「速いです」
私が言うと、先輩は少し笑いました。
「軽いからね」
「二回も当てる必要はなかったのでは?」
「一回で離れたら、チョコが追ってくるでしょう?」
「もちろんです」
「だから二回」
やはり。
私のことをよく知っています。
私は正面へ出ました。
先輩は、今度も先に入ろうとします。
木刀を振る。
その動きへ合わせるように見せ。
途中で止めました。
先輩も止まります。
互いの木刀が届かない距離。
「前なら、今ので肩が上がってた」
「先輩が直してくださいましたから」
「教えた相手に使われると、少し複雑だなぁ」
「では、もっと複雑にします」
今度は本当に踏み込みました。
右上から。
先輩が左へ避けます。
Aグループの練習で。
何度も見てきた方向です。
私は木刀を振り切りません。
途中で止め。
先輩が入った左側へ、木刀を返しました。
肩へ。
<HIT -30>
<みたらしっぽ 170>
歓声。
「返した!」
「先輩の避ける方向を読んでた!」
「指導ペアだから、癖を知ってるのか!」
先輩が、少し驚いた顔をします。
「今の、僕の避ける方を見てた?」
「何度も練習していただきましたから」
「やっぱり見られてたなぁ」
「長い付き合いですから」
以前、先輩から言われた言葉です。
先輩は、嬉しそうに笑いました。
「お互い様だね」
次の攻防。
私が前へ出ます。
先輩の短い木刀は、一撃の威力では負けています。
正面で武器同士がぶつかれば、私の方が少し押せます。
木刀同士が接触。
私は両手で押し込みました。
先輩は逆らわず、一歩下がります。
もう一歩。
境界線へ近づく。
そのまま押し切る。
そう見せ。
私は、一度木刀を離しました。
先輩の身体が前へ流れます。
胴へ一撃。
<みたらしっぽ 140>
先輩は倒れません。
流れた姿勢のまま、短い木刀を下から返します。
肩。
<チョコチップ 140>
互いのライフが並びました。
<チョコチップ 140>
<みたらしっぽ 140>
「同じですね」
「本当だ」
「ここからです」
「うん」
少しずつ。
会話の声が短くなります。
先輩が右へ。
私は正面。
短い木刀が何度も小さく動きました。
一回目はフェイント。
二回目も、まだ届かない。
三回目。
本当の攻撃。
私は木刀で受けます。
その直後。
先輩は木刀を持つ手を、右から左へ変えました。
反対側からの一撃。
<チョコチップ 120>
すぐに右手へ戻し。
もう一撃を狙います。
私は後ろへ下がらず、先輩の懐へ入りました。
短い木刀が身体へ届く前。
私の木刀の柄に近い部分を、先輩の腕へ当てます。
<みたらしっぽ 110>
ですが。
近づいたことで。
先輩の短い木刀も届きました。
背中へ。
<チョコチップ 100>
離れます。
<チョコチップ 100>
<みたらしっぽ 110>
先輩が、わずかに有利です。
現実側から。
「チョコちゃん!」
「みた!」
二つの名前が、同時に届きました。
私は息を整えます。
先輩も木刀を構え直しました。
「チョコ」
「はい?」
「楽しい?」
試合の途中で。
先輩が尋ねました。
「はい」
迷わず答えます。
「とても」
「僕も」
先輩が踏み込みました。
今度は、先ほどより速い。
正面への一撃。
受ける。
木刀がぶつかります。
先輩はすぐに離れました。
追います。
境界線の近く。
先輩が、あと一歩で外周へ届く場所まで下がりました。
現実側から。
少し不安そうな声が聞こえます。
「また下がってる」
「去年みたいに止まらないよな?」
「あの位置、前へ出なくなった場所じゃないか?」
その姿に。
去年の記録映像が、ほんの一瞬だけ重なります。
途中から前へ出なくなった先輩。
自分で試合を終わらせた姿。
「先輩」
呼びました。
先輩は、すぐに私を見ます。
「止めないよ」
言葉と同時に。
境界線を蹴るように前へ出ました。
待っていたわけではありません。
逃げていたわけでもありません。
私が追ってくる距離を使い。
一気に間合いを縮めます。
短い木刀。
右。
避ける。
左。
防御。
三撃目。
脇腹。
<チョコチップ 80>
さらに。
手首。
<チョコチップ 60>
二回。
観客席から、大きな歓声が上がりました。
「前へ出た!」
「止まってない!」
「去年とは違う!」
先輩は、最後まで止まりません。
私も。
下がったままにはなりません。
先輩の二撃目が戻るところへ。
木刀を振りました。
肩。
<みたらしっぽ 80>
互いに離れます。
<チョコチップ 60>
<みたらしっぽ 80>
私のライフは、あと三回ではなく。
先輩の木刀なら、あと三回。
先輩は。
私の木刀なら、あと三回でゼロです。
一撃の差が、そのまま有利とは限りません。
私は木刀を両手へ持ちます。
正面。
先輩は片手のままです。
振りの速さでは勝てません。
なら。
動く場所を絞ります。
右から踏み込み。
先輩を左へ避けさせる。
木刀を途中で止め。
左へ返す。
先輩が、さらに外側へ。
もう一歩。
今度は追わず。
先輩が戻る位置へ、木刀を置きました。
肩へ。
<HIT -30>
<みたらしっぽ 50>
「さっきのドラジェさんとの試合みたいだ」
「先輩の試合を見ていました」
「僕が使ったことまで使うんだ」
「使えることは、試してみます」
「本当に、全部見てるなぁ」
少しだけ。
二人で笑いました。
先輩が、また前へ来ます。
一撃。
受ける。
二撃目。
外す。
三撃目。
私は反撃へ入ります。
ですが。
先輩の木刀は、振り切られていませんでした。
すぐに戻り。
私の手首へ。
<HIT -20>
<チョコチップ 40>
あと二回。
先輩も五十。
私は、一回当てれば残り二十。
もう一回で勝利です。
互いに。
ほとんど余裕はありません。
一度、大きく息を吐きました。
先輩はすぐには来ません。
待っています。
私が勝ちを急ぐのかどうか。
見ているのだと思います。
つきみさんとの最後の攻防を思い出しました。
先に動いた方が負けるのではありません。
焦りに動かされた方が負けます。
私は待ちました。
先輩も。
数秒。
歓声まで、少し遠くなったように感じます。
一般生徒の声も、自然と小さくなっていました。
「どっちも動かない」
「何を待ってるんだ?」
「相手が焦るのを待ってるんじゃない?」
「これ、先に入った方が危ないぞ」
先に動いたのは。
私でした。
一歩。
先輩の木刀が動きます。
ですが、攻撃ではありません。
身体の右側を、わずかに開きました。
入れる。
そう見えます。
あまりにも、わかりやすい隙です。
私は、そのまま踏み込まず。
一度止まりました。
先輩も動きません。
互いに。
相手が次に変える動きを待っています。
「来ないんだ」
先輩が言いました。
「先輩が、あまりにも入りやすそうにするので」
「信じてくれてもいいのに」
「戦っている先輩は、あまり信用できません」
「普段は?」
「とても信頼しています」
先輩が、ほんの一瞬だけ笑いました。
その一瞬。
私は踏み込みます。
右側。
先輩が見せていた隙ではなく。
反対の左。
木刀を振りました。
先輩は、すぐに身体を向けます。
短い木刀で、私の木刀を受けました。
防御判定。
軽い武器が押されます。
私は、そのまま押し切ろうとしました。
先輩は木刀を斜めに傾けます。
私の木刀が外へ流れました。
近い。
先輩の短い木刀が、私の腕へ触れます。
<HIT -20>
<チョコチップ 20>
あと一回。
ですが。
先輩も木刀を振った直後です。
私は流された木刀を止めず、そのまま横から返しました。
先輩の胸元へ向かいます。
届く。
そう思いました。
観客席からも。
「入った!」
という声が上がります。
先輩は後ろへ下がりませんでした。
木刀を持つ腕の下へ、身体を沈めます。
私の木刀が、肩の上を通り過ぎました。
先輩が、私の横へ抜けます。
背中側。
振り返るより早く。
脇腹へ、短い木刀の先が触れました。
青い光。
<HIT -20>
<チョコチップ 0>
動きが停止します。
目の前に、大きな表示。
<WINNER みたらしっぽ>
一瞬。
何も聞こえませんでした。
それから。
校庭全体が揺れるような歓声が届きます。
「みたらしっぽ先輩、優勝!」
「最後、下へ抜けた!」
「チョコチップさんも、あと一発だったぞ!」
「一年生で準優勝ってすごすぎる!」
「指導した先輩と、教わった後輩でここまで来たのか」
「二人とも、最後まで全部読み合ってたな……」
私は木刀を持ったまま、結果を見上げました。
負けました。
あと一回。
私の木刀が先輩へ届けば、勝てた試合です。
「……悔しいです」
自然に言葉が出ました。
先輩は短い木刀を消し、私の前へ来ます。
「うん」
「とても」
「僕も、あと一回当てられたら負けてた」
「当てられませんでした」
「今日はね」
先輩が手を差し出しました。
私は、その手を握ります。
「約束どおり、最後まで戦ってくださいましたね」
「チョコが待ってたから」
「私が待っていなくても、次からは戦ってください」
「うん。次からは」
「本当ですか?」
「本当」
先輩は少し笑いました。
「チョコも、本当に強くなったね」
「先輩が教えてくださったので」
「教えすぎたかも」
「では、次は教えてくださらないんですか?」
「教えるよ」
「よかったです」
私は先輩の手を、少しだけ強く握りました。
「次は勝ちます」
「うん」
先輩も、握り返してくれます。
「その時も、手加減しないよ」
「お願いします」
二人で、決闘場の中央へ向き直りました。
勝った先輩。
負けた私。
それでも。
決勝まで来る約束は。
二人とも、最後まで守ることができました。
おかえり
現実へ戻ると、コネクションシートの背もたれがゆっくりと起き上がりました。
視界に、接続室の天井が戻ります。
試合中は動いていなかったはずなのに。
身体全体から力が抜けたように感じました。
接続確認を終え、廊下へ出ます。
一年生用の接続室の外には。
レンちゃん。
フィーちゃん。
プラリネさんが待っていました。
「チョコちゃん!」
レンちゃんが最初に駆け寄ってきます。
「お疲れさま!」
「ただいま戻りました」
言った瞬間。
プラリネさんが嬉しそうに笑いました。
「おかえり、チョコちゃん」
大会へ向かう前。
勝っても負けても、戻ってきた時にはそう言いたいと話してくれました。
「はい。ただいまです」
フィーちゃんが、私の顔を覗き込みます。
「悔しい?」
「はい」
「楽しかった?」
「とても」
「なら、よかった」
レンちゃんが、私の手を握りました。
「最後、本当にあと少しだったよ」
「先輩の木刀の方が、戻るのが早かったです」
「次は?」
「勝ちます」
「チョコちゃんらしいね」
三人と一緒に校庭へ戻る途中。
来場者用の通路から、ミントちゃんが走ってきました。
「お姉ちゃん!」
そのまま私へ抱きつきます。
「お疲れさま!」
「ありがとうございます、ミントちゃん」
「惜しかった……!」
「はい」
「でも、すごかった!」
「はい」
「先輩も強かった!」
「はい」
「全部『はい』で返さないで」
「ミントちゃんが全部言ってくださるので」
少しだけ笑うと、ミントちゃんも笑いました。
その後ろから、マキアートさんが来ます。
「準優勝、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「ミント、最後の十秒くらいは呼吸していませんでした」
「してたよ!」
「ずっと口を開けたまま、声も出ていませんでした」
「心の中で応援してたの!」
「それは観客席には伝わりません」
いつもの二人のやり取りに。
さらに緊張が抜けました。
二年二組の応援席へ戻っていたつきみさんも、こちらへ歩いてきます。
途中。
つきみさんへ驚いていた一般生徒たちが、自然に道を空けながら声をかけていました。
「つきみさん、お疲れ!」
「三位おめでとう!」
「次の大会も出てよ!」
「次はまだ決めてない」
そう答えながら、つきみさんは私の前へ来ました。
「チョコ」
「つきみさん」
「準優勝、おめでとう」
「ありがとうございます。つきみさんとの試合がなければ、決勝で待てなかったと思います」
「それなら、私も準決勝まで行った甲斐があった」
つきみさんは少しだけ笑いました。
「でも次は、私が二人とも倒すから」
「私も、次はつきみさんに負けません」
「うん」
シロさんは、私と先輩を交互に見ながら大きな声を上げました。
「二人とも、最高だった!」
キャラメルさんが、その隣で笑っています。
「シロちゃん、最後まで声が残ったね」
「だから言っただろ?」
「途中で飲み物を三回渡したからだよ」
コレットさんが言いました。
「私たちのおかげ」
「応援したのは私だよ?」
「喉を残したのは私たち」
ミルクさんは、決勝の写真を何枚か見せてくれました。
木刀を構える私。
短い木刀を持つ先輩。
互いに中央へ踏み込んだ瞬間。
最後。
握手をしているところ。
「最後の写真、すごくいいよ~」
「ありがとうございます」
「試合が終わったあと、二人とも笑ってたから」
「負けた直後なので、少し複雑な顔ではありませんか?」
「でも、嬉しそうにも見えるよ」
確かに。
悔しかったです。
それでも。
先輩が最後まで戦ってくれたこと。
全力の先輩と、決勝で向き合えたこと。
それは、嬉しいことでした。
少し遅れて。
先輩も校庭へ戻ってきます。
二年二組から、大きな歓声。
普段あまり話していない生徒たちからも、次々に声がかかりました。
「みたらしっぽ、優勝おめでとう!」
「去年の分まで戦ったな!」
「ロシェ先輩に勝ったところ、すごかった!」
「決勝も、最後まで全然止まらなかった!」
シロさんが先輩の肩を強く叩き。
フェタさんが、すぐに止めました。
「みた、優勝おめでとう」
「ありがとう」
キャラメルさん。
コレットさん。
ミルクさん。
つきみさん。
二年二組のクラスメイトたちに囲まれながら。
先輩はこちらを見つけました。
人の間から、片手を上げます。
私も手を上げ返しました。
言葉はありません。
ですが。
決闘場で交わした約束は、もう十分に伝わっていました。
視界に、接続室の天井が戻ります。
試合中は動いていなかったはずなのに。
身体全体から力が抜けたように感じました。
接続確認を終え、廊下へ出ます。
一年生用の接続室の外には。
レンちゃん。
フィーちゃん。
プラリネさんが待っていました。
「チョコちゃん!」
レンちゃんが最初に駆け寄ってきます。
「お疲れさま!」
「ただいま戻りました」
言った瞬間。
プラリネさんが嬉しそうに笑いました。
「おかえり、チョコちゃん」
大会へ向かう前。
勝っても負けても、戻ってきた時にはそう言いたいと話してくれました。
「はい。ただいまです」
フィーちゃんが、私の顔を覗き込みます。
「悔しい?」
「はい」
「楽しかった?」
「とても」
「なら、よかった」
レンちゃんが、私の手を握りました。
「最後、本当にあと少しだったよ」
「先輩の木刀の方が、戻るのが早かったです」
「次は?」
「勝ちます」
「チョコちゃんらしいね」
三人と一緒に校庭へ戻る途中。
来場者用の通路から、ミントちゃんが走ってきました。
「お姉ちゃん!」
そのまま私へ抱きつきます。
「お疲れさま!」
「ありがとうございます、ミントちゃん」
「惜しかった……!」
「はい」
「でも、すごかった!」
「はい」
「先輩も強かった!」
「はい」
「全部『はい』で返さないで」
「ミントちゃんが全部言ってくださるので」
少しだけ笑うと、ミントちゃんも笑いました。
その後ろから、マキアートさんが来ます。
「準優勝、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「ミント、最後の十秒くらいは呼吸していませんでした」
「してたよ!」
「ずっと口を開けたまま、声も出ていませんでした」
「心の中で応援してたの!」
「それは観客席には伝わりません」
いつもの二人のやり取りに。
さらに緊張が抜けました。
二年二組の応援席へ戻っていたつきみさんも、こちらへ歩いてきます。
途中。
つきみさんへ驚いていた一般生徒たちが、自然に道を空けながら声をかけていました。
「つきみさん、お疲れ!」
「三位おめでとう!」
「次の大会も出てよ!」
「次はまだ決めてない」
そう答えながら、つきみさんは私の前へ来ました。
「チョコ」
「つきみさん」
「準優勝、おめでとう」
「ありがとうございます。つきみさんとの試合がなければ、決勝で待てなかったと思います」
「それなら、私も準決勝まで行った甲斐があった」
つきみさんは少しだけ笑いました。
「でも次は、私が二人とも倒すから」
「私も、次はつきみさんに負けません」
「うん」
シロさんは、私と先輩を交互に見ながら大きな声を上げました。
「二人とも、最高だった!」
キャラメルさんが、その隣で笑っています。
「シロちゃん、最後まで声が残ったね」
「だから言っただろ?」
「途中で飲み物を三回渡したからだよ」
コレットさんが言いました。
「私たちのおかげ」
「応援したのは私だよ?」
「喉を残したのは私たち」
ミルクさんは、決勝の写真を何枚か見せてくれました。
木刀を構える私。
短い木刀を持つ先輩。
互いに中央へ踏み込んだ瞬間。
最後。
握手をしているところ。
「最後の写真、すごくいいよ~」
「ありがとうございます」
「試合が終わったあと、二人とも笑ってたから」
「負けた直後なので、少し複雑な顔ではありませんか?」
「でも、嬉しそうにも見えるよ」
確かに。
悔しかったです。
それでも。
先輩が最後まで戦ってくれたこと。
全力の先輩と、決勝で向き合えたこと。
それは、嬉しいことでした。
少し遅れて。
先輩も校庭へ戻ってきます。
二年二組から、大きな歓声。
普段あまり話していない生徒たちからも、次々に声がかかりました。
「みたらしっぽ、優勝おめでとう!」
「去年の分まで戦ったな!」
「ロシェ先輩に勝ったところ、すごかった!」
「決勝も、最後まで全然止まらなかった!」
シロさんが先輩の肩を強く叩き。
フェタさんが、すぐに止めました。
「みた、優勝おめでとう」
「ありがとう」
キャラメルさん。
コレットさん。
ミルクさん。
つきみさん。
二年二組のクラスメイトたちに囲まれながら。
先輩はこちらを見つけました。
人の間から、片手を上げます。
私も手を上げ返しました。
言葉はありません。
ですが。
決闘場で交わした約束は、もう十分に伝わっていました。
表彰式
午後の終わり。
校庭中央へ表彰台が用意されました。
バーチャルポッドの投影は終了し、白い決闘場はもうありません。
現実の校庭。
二つのクラス旗。
夕方へ近づいた空。
その下へ、デュエル大会の上位入賞者が呼ばれます。
第三位。
つきみさん。
ヴィクトルロシェさん。
つきみさんの名前が呼ばれた瞬間。
二年二組だけではなく、ほかのクラスからも大きな拍手が起こりました。
「つきみさん、三位だ!」
「来年も見たい!」
「今日まで知らなかったの、もったいなかったな」
つきみさんは少しだけ戸惑いながらも。
逃げることなく、表彰台へ上がりました。
第二位。
私。
第一位。
先輩。
名前が呼ばれるたび、校庭から拍手が上がりました。
私は表彰台の二段目へ立ちます。
すぐ隣。
一段高いところに先輩。
賞状と、小さな記念章を受け取りました。
一年二組から。
「チョコちゃーん!」
レンちゃんたちの声。
来場者席から。
「お姉ちゃーん!」
ミントちゃん。
二年二組から。
先輩とつきみさんを呼ぶ声。
たくさんの声が、一つの校庭へ混ざっています。
表彰の間。
先輩が少しだけ身体をこちらへ寄せました。
「決勝で会えたね」
「はい」
「次も?」
「もちろんです」
「今度は、僕が待つ側かな」
「すぐに追いつきます」
「楽しみにしてる」
自然に口元が緩みました。
準優勝。
最初から目指していた優勝には届きませんでした。
それでも。
胸を張って受け取れる結果です。
反対側では、つきみさんが記念章を見ながら小さく言いました。
「目立つつもりはなかったんだけど」
「表彰台へ立ったら、もう遅いですよ」
私が答えると、つきみさんは少しだけ笑いました。
「次は、もっと上へ行くから」
「私もです」
「僕も負けないよ」
先輩も加わりました。
表彰台の上で。
三人の次の目標が、すでに始まっていました。
閉会式が終わり。
全競技の終了が告げられます。
長かった体育祭の一日も、これで終わりです。
校庭中央へ表彰台が用意されました。
バーチャルポッドの投影は終了し、白い決闘場はもうありません。
現実の校庭。
二つのクラス旗。
夕方へ近づいた空。
その下へ、デュエル大会の上位入賞者が呼ばれます。
第三位。
つきみさん。
ヴィクトルロシェさん。
つきみさんの名前が呼ばれた瞬間。
二年二組だけではなく、ほかのクラスからも大きな拍手が起こりました。
「つきみさん、三位だ!」
「来年も見たい!」
「今日まで知らなかったの、もったいなかったな」
つきみさんは少しだけ戸惑いながらも。
逃げることなく、表彰台へ上がりました。
第二位。
私。
第一位。
先輩。
名前が呼ばれるたび、校庭から拍手が上がりました。
私は表彰台の二段目へ立ちます。
すぐ隣。
一段高いところに先輩。
賞状と、小さな記念章を受け取りました。
一年二組から。
「チョコちゃーん!」
レンちゃんたちの声。
来場者席から。
「お姉ちゃーん!」
ミントちゃん。
二年二組から。
先輩とつきみさんを呼ぶ声。
たくさんの声が、一つの校庭へ混ざっています。
表彰の間。
先輩が少しだけ身体をこちらへ寄せました。
「決勝で会えたね」
「はい」
「次も?」
「もちろんです」
「今度は、僕が待つ側かな」
「すぐに追いつきます」
「楽しみにしてる」
自然に口元が緩みました。
準優勝。
最初から目指していた優勝には届きませんでした。
それでも。
胸を張って受け取れる結果です。
反対側では、つきみさんが記念章を見ながら小さく言いました。
「目立つつもりはなかったんだけど」
「表彰台へ立ったら、もう遅いですよ」
私が答えると、つきみさんは少しだけ笑いました。
「次は、もっと上へ行くから」
「私もです」
「僕も負けないよ」
先輩も加わりました。
表彰台の上で。
三人の次の目標が、すでに始まっていました。
閉会式が終わり。
全競技の終了が告げられます。
長かった体育祭の一日も、これで終わりです。
客席の奥にいた三人
表彰式が終わると、生徒たちは少しずつ自分のクラス旗の周りへ戻り始めました。
私は賞状と記念章を持ち、一年二組のみなさんと一緒に校庭を歩きます。
朝から何度も聞いた歓声も、今は少し落ち着いていました。
競技を終えた人。
応援で声を使い切った人。
撮った写真を見せ合っている人。
みなさん疲れているはずなのに、表情は朝よりもずっと明るく見えます。
二年二組の旗の前では、先輩がクラスメイトに囲まれていました。
シロさんが優勝を自分のことのように喜び。
フェタさんが、先輩の肩を叩きすぎないよう止め。
つきみさんも、その少し隣で第三位の記念章を手にしています。
私たちが近づくと、先輩が人の間から手を上げてくれました。
「チョコ」
「先輩」
決闘場では、あれほど長く向き合っていたのに。
現実へ戻ってから顔を見ると、少しだけ不思議な気持ちになります。
「賞状、ちゃんともらえた?」
「はい。先輩も」
「うん」
「今度は、私が一段上へ立ちますからね」
「もう次の話?」
「忘れないうちにお伝えしておこうと思って」
先輩が楽しそうに笑いました。
その時です。
「三位で満足しているんじゃないでしょうね、つきみ」
少し離れた場所から、聞き覚えのある声がしました。
つきみさんの動きが止まります。
私も声のした方へ振り返りました。
来場者用の通路。
帰り始めた保護者や見学者の間から、三人の姿がこちらへ歩いてきます。
全員、首から来場証を下げていました。
けれど。
どなたなのか、すぐにはわかりません。
FoFで見慣れた装備はありません。
アバターで使っている髪色も、特徴的な衣装も。
神官の杖も。
二振りの剣も。
楽器もありません。
そこにいるのは、現実の私服に身を包んだ三人です。
それでも。
先頭にいる方の、少し強気な目。
隣にいる方の、今にも駆け出しそうな明るい表情。
一番後ろから、二人を穏やかに見ている雰囲気。
何より。
声は、私たちが何度も聞いてきたものでした。
「……アイリス?」
つきみさんが、確かめるように名前を呼びます。
先頭の方が少しだけ眉を上げました。
「気づくのが遅いわよ」
「正解ー!」
その隣の方が、大きく手を上げます。
「エクレアだよ、つきみちゃん!」
最後の一人も、少し控えめに手を振りました。
「スフレです。現実では、初めましてになるのかな」
周囲の空気が、一瞬だけ止まりました。
「えっ」
最初に声を上げたのは、シロさんでした。
「本当にエクレアたち?」
「本当だよ!」
エクレアさんが、その場で一度だけ両腕を広げます。
「剣がなくても、ちゃんとエクレアです!」
「現実で剣を持ってきたら困るよ」
スフレさんが穏やかに答えました。
「それはそうだけど!」
私は、三人の顔を順番に見ました。
何度も一緒にダンジョンへ行き。
レイドで助けていただき。
ギルドハウスで話してきた方々です。
ですが、アバターを通さずにお会いするのは初めてでした。
「アイリスさん、エクレアさん、スフレさん……ですよね?」
「そうよ」
アイリスさんが答えます。
「声でわかりましたか?」
「声もですが……話し方も、そのままでしたので」
「チョコちゃんも、現実だと少し雰囲気違うね!」
エクレアさんが私の前まで来て、顔を覗き込みました。
「でも、花があるからすぐわかった!」
「こちらは、みなさんが来ていること自体知りませんでした」
「そこは秘密だったからね」
スフレさんが言います。
つきみさんは、まだ少し驚いた顔で三人を見ていました。
「いつからいたの?」
「開会式から」
アイリスさんが答えます。
「朝から?」
「一般来場の受付をして、後ろの方で見ていたわ」
「どうして言わなかったの?」
「言ったら、あんたが余計なことを気にするかもしれないでしょう」
「私、別に変わらないと思うけど」
「それは終わってからなら何とでも言えるわよ」
アイリスさんは少しだけ視線を逸らしました。
「つきみが体育祭のデュエル大会へ出るなんて、珍しいと思っただけ。見届けておいた方がいいと判断したの」
「アイリスちゃん、つきみちゃんが出るって聞いた直後に、学校の来場案内を調べてたよね」
エクレアさんが、すぐに付け加えます。
「エクレア」
「それから、何を着ていくか昨日から――」
「それ以上は言わなくていいわ!」
スフレさんが、小さく笑いました。
「受付の申請をまとめてくれたのも、アイリスだよ」
「スフレまで……」
アイリスさんの顔が、少しだけ赤くなっているように見えます。
つきみさんは、しばらく三人を見ていました。
それから、ふっと表情を緩めます。
「来てくれて、ありがとう」
真っすぐな一言でした。
アイリスさんは、一瞬だけ返事に詰まります。
「……別に。私が見たかっただけだから」
「準決勝で、つきみちゃんが残り二十になった時、アイリスちゃん立ち上がってたよ」
「エクレア!」
「チョコちゃんに最後の一撃が入った時は、座ったけど」
「ちゃんと見てたんだね」
つきみさんが言うと、アイリスさんは困ったように口を閉じました。
少しして。
諦めたように息を吐きます。
「周りは意外だって言っていたけど、私は別に驚いてないわ」
アイリスさんは、つきみさんを見ました。
「普段やらないだけで、あんたができないわけじゃないことくらい知ってるもの」
「うん」
「……三位、おめでとう。いい試合だったわ」
今度は、つきみさんが少しだけ目を丸くしました。
「ありがとう、アイリス」
二人の間に。
FoFで長く一緒に戦ってきた人にしかわからない、静かな空気が流れます。
「みたも、優勝おめでとう」
スフレさんが先輩へ言いました。
「準決勝も決勝も、最後までちゃんと戦っていたね」
「見られてたんだ」
先輩が少し照れたように笑います。
「チョコちゃんも、準優勝おめでとう」
「ありがとうございます、スフレさん」
「決勝、二人らしい試合だったよ」
「私たちらしい、ですか?」
「どちらも相手のことをよく知っていて、その知っていることを遠慮なく使っていたから」
「それは、先輩にもかなり使われました」
「チョコも使ってたでしょう?」
先輩が言います。
「お互い様です」
「またそれだね」
エクレアさんは、私と先輩の間へ顔を出しました。
「二人とも、めちゃくちゃ格好よかったよ! 最後、本当にどっちが勝つかわからなかった!」
「エクレアさんの声は、校庭から届いていませんでした」
「アイリスちゃんに止められてたから!」
「正体を隠すと言ったのは、エクレアでしょう?」
「でも、つきみちゃんの試合を見たら声出したくなるじゃん!」
アイリスさんは、今度は私へ視線を向けました。
「チョコチップも」
「はい」
「……よく戦ったと思うわ」
少しだけ間を置き。
今度は、ごまかさずに続けます。
「すごくよかった。準優勝、おめでとう」
「ありがとうございます、アイリスさん」
胸の奥が、また少し温かくなりました。
「みなさんが見ていると知っていたら、もう少し緊張していたかもしれません」
「だったら、黙っていて正解だったでしょう?」
「はい。それは認めます」
「素直ね」
「事実ですから」
私たちが話していると、レンちゃんとフィーちゃん、プラリネさんも近づいてきました。
少し離れた場所には、フェタさんやキャラメルさんたちもいます。
「チョコちゃんたちの、FoFのお友達?」
レンちゃんが尋ねました。
「はい」
私は三人を紹介しました。
「こちらがアイリスさん。エクレアさん。それからスフレさんです」
「初めまして。マリーシュトレンです」
レンちゃんが、きれいに頭を下げます。
「フィリスフィナンシェです。チョコちゃんから、お名前は何度も聞いています」
「ソフィアプラリネです。今日は見に来てくださっていたんですね」
三人も、それぞれ挨拶を返しました。
誰も、本名を尋ねませんでした。
これまで使ってきた呼び名のまま。
この場所でも話を始めます。
「アバターの名前で呼んでも大丈夫ですか?」
フィーちゃんが確認すると、アイリスさんはすぐに頷きました。
「その方が助かるわ」
「私もエクレアでいいよ!」
「スフレでお願いします」
「では、これからもよろしくお願いします」
レンちゃんが笑います。
「チョコちゃんたちから、FoFのお話を聞くことが多いので。ようやくお会いできたような気がします」
「私たちもだよ!」
エクレアさんは、もうすっかり普段の調子です。
「シュトレンちゃんもフィナンシェちゃんもプラリネちゃんも、よろしくね!」
「もう、ちゃん付けなんですね」
フィーちゃんが少し驚きます。
「エクレアは、だいたい全員そう呼ぶ」
つきみさんが説明しました。
「かわいい呼び方の方が仲良くなりやすいでしょ?」
「そういう理由だったんですか?」
「今決めた!」
「やっぱり」
つきみさんが小さく笑いました。
シロさんも、ようやく驚きから戻ってきたようです。
「でも、本当に不思議だな。FoFでは何度も会ってるのに、現実だと初対面なんだ」
「こちらから見ても同じだよ」
スフレさんが言います。
「みんな、声はいつもどおりだけど。姿は画面の中で見ていたものと少し違う」
「チョコちゃんは、わりとそのままだったね!」
エクレアさんが言いました。
「完全に同じではありません」
「でも、すぐわかったよ」
「花のおかげでは?」
「それもある!」
その時、ミルクさんがDPo-Xを持ち上げました。
「せっかくだから、みんなで写真を撮らない?」
アイリスさんが、少しだけ身構えます。
「写真?」
「初めて現実で会えた記念だよ~。共有する人は、この場にいる人だけにするから」
スフレさんがアイリスさんを見ました。
「私は撮りたいな」
「私も!」
エクレアさんは、すでにつきみさんの隣へ移動しています。
「つきみちゃん、こっち!」
「エクレア、引っ張らなくても行くよ」
アイリスさんは二人を見て。
小さく息を吐きました。
「……限定共有なら、いいわ」
「では、撮りましょう」
私たちは、二年二組と一年二組の旗が両方見える場所へ集まりました。
先輩。
つきみさん。
シロさんたち。
レンちゃん。
フィーちゃん。
プラリネさん。
フェタさん。
そして、現実の姿で初めて会ったアイリスさん、エクレアさん、スフレさん。
つきみさんの隣には、アイリスさんとエクレアさんが並びます。
スフレさんは、その少し後ろから穏やかに笑っていました。
「撮るよ~」
ミルクさんの声。
誰も武器を持っていません。
鎧も。
神官の衣装も。
FoFの能力もありません。
それでも。
名前を呼べば、いつもの人が振り返ります。
三。
二。
一。
写真が撮られました。
体育祭が終わった日の校庭。
二つのクラス旗の前。
バーチャル世界で出会った仲間たちが、初めて現実の姿で同じ一枚へ収まりました。
撮影が終わると、シロさんが待ちきれないように両手を上げます。
「よーし! 今夜はだんのこまちで打ち上げだー!」
「三人も来るよね?」
エクレアさんは、すぐに手を上げました。
「行く行く!」
「私は大丈夫だよ」
スフレさんも頷きます。
全員の視線が、アイリスさんへ集まりました。
「どうして私を見るのよ」
「アイリスちゃんも来るでしょう?」
「勝手に決めないで」
「来ないの?」
つきみさんが尋ねます。
アイリスさんは、つきみさんから視線を逸らしました。
「……少しくらいなら、付き合ってあげてもいいわ」
「うん。待ってる」
「待たなくても行くわよ」
そう答えたアイリスさんの声は。
言葉ほど、嫌そうには聞こえませんでした。
私は賞状と記念章を持ち、一年二組のみなさんと一緒に校庭を歩きます。
朝から何度も聞いた歓声も、今は少し落ち着いていました。
競技を終えた人。
応援で声を使い切った人。
撮った写真を見せ合っている人。
みなさん疲れているはずなのに、表情は朝よりもずっと明るく見えます。
二年二組の旗の前では、先輩がクラスメイトに囲まれていました。
シロさんが優勝を自分のことのように喜び。
フェタさんが、先輩の肩を叩きすぎないよう止め。
つきみさんも、その少し隣で第三位の記念章を手にしています。
私たちが近づくと、先輩が人の間から手を上げてくれました。
「チョコ」
「先輩」
決闘場では、あれほど長く向き合っていたのに。
現実へ戻ってから顔を見ると、少しだけ不思議な気持ちになります。
「賞状、ちゃんともらえた?」
「はい。先輩も」
「うん」
「今度は、私が一段上へ立ちますからね」
「もう次の話?」
「忘れないうちにお伝えしておこうと思って」
先輩が楽しそうに笑いました。
その時です。
「三位で満足しているんじゃないでしょうね、つきみ」
少し離れた場所から、聞き覚えのある声がしました。
つきみさんの動きが止まります。
私も声のした方へ振り返りました。
来場者用の通路。
帰り始めた保護者や見学者の間から、三人の姿がこちらへ歩いてきます。
全員、首から来場証を下げていました。
けれど。
どなたなのか、すぐにはわかりません。
FoFで見慣れた装備はありません。
アバターで使っている髪色も、特徴的な衣装も。
神官の杖も。
二振りの剣も。
楽器もありません。
そこにいるのは、現実の私服に身を包んだ三人です。
それでも。
先頭にいる方の、少し強気な目。
隣にいる方の、今にも駆け出しそうな明るい表情。
一番後ろから、二人を穏やかに見ている雰囲気。
何より。
声は、私たちが何度も聞いてきたものでした。
「……アイリス?」
つきみさんが、確かめるように名前を呼びます。
先頭の方が少しだけ眉を上げました。
「気づくのが遅いわよ」
「正解ー!」
その隣の方が、大きく手を上げます。
「エクレアだよ、つきみちゃん!」
最後の一人も、少し控えめに手を振りました。
「スフレです。現実では、初めましてになるのかな」
周囲の空気が、一瞬だけ止まりました。
「えっ」
最初に声を上げたのは、シロさんでした。
「本当にエクレアたち?」
「本当だよ!」
エクレアさんが、その場で一度だけ両腕を広げます。
「剣がなくても、ちゃんとエクレアです!」
「現実で剣を持ってきたら困るよ」
スフレさんが穏やかに答えました。
「それはそうだけど!」
私は、三人の顔を順番に見ました。
何度も一緒にダンジョンへ行き。
レイドで助けていただき。
ギルドハウスで話してきた方々です。
ですが、アバターを通さずにお会いするのは初めてでした。
「アイリスさん、エクレアさん、スフレさん……ですよね?」
「そうよ」
アイリスさんが答えます。
「声でわかりましたか?」
「声もですが……話し方も、そのままでしたので」
「チョコちゃんも、現実だと少し雰囲気違うね!」
エクレアさんが私の前まで来て、顔を覗き込みました。
「でも、花があるからすぐわかった!」
「こちらは、みなさんが来ていること自体知りませんでした」
「そこは秘密だったからね」
スフレさんが言います。
つきみさんは、まだ少し驚いた顔で三人を見ていました。
「いつからいたの?」
「開会式から」
アイリスさんが答えます。
「朝から?」
「一般来場の受付をして、後ろの方で見ていたわ」
「どうして言わなかったの?」
「言ったら、あんたが余計なことを気にするかもしれないでしょう」
「私、別に変わらないと思うけど」
「それは終わってからなら何とでも言えるわよ」
アイリスさんは少しだけ視線を逸らしました。
「つきみが体育祭のデュエル大会へ出るなんて、珍しいと思っただけ。見届けておいた方がいいと判断したの」
「アイリスちゃん、つきみちゃんが出るって聞いた直後に、学校の来場案内を調べてたよね」
エクレアさんが、すぐに付け加えます。
「エクレア」
「それから、何を着ていくか昨日から――」
「それ以上は言わなくていいわ!」
スフレさんが、小さく笑いました。
「受付の申請をまとめてくれたのも、アイリスだよ」
「スフレまで……」
アイリスさんの顔が、少しだけ赤くなっているように見えます。
つきみさんは、しばらく三人を見ていました。
それから、ふっと表情を緩めます。
「来てくれて、ありがとう」
真っすぐな一言でした。
アイリスさんは、一瞬だけ返事に詰まります。
「……別に。私が見たかっただけだから」
「準決勝で、つきみちゃんが残り二十になった時、アイリスちゃん立ち上がってたよ」
「エクレア!」
「チョコちゃんに最後の一撃が入った時は、座ったけど」
「ちゃんと見てたんだね」
つきみさんが言うと、アイリスさんは困ったように口を閉じました。
少しして。
諦めたように息を吐きます。
「周りは意外だって言っていたけど、私は別に驚いてないわ」
アイリスさんは、つきみさんを見ました。
「普段やらないだけで、あんたができないわけじゃないことくらい知ってるもの」
「うん」
「……三位、おめでとう。いい試合だったわ」
今度は、つきみさんが少しだけ目を丸くしました。
「ありがとう、アイリス」
二人の間に。
FoFで長く一緒に戦ってきた人にしかわからない、静かな空気が流れます。
「みたも、優勝おめでとう」
スフレさんが先輩へ言いました。
「準決勝も決勝も、最後までちゃんと戦っていたね」
「見られてたんだ」
先輩が少し照れたように笑います。
「チョコちゃんも、準優勝おめでとう」
「ありがとうございます、スフレさん」
「決勝、二人らしい試合だったよ」
「私たちらしい、ですか?」
「どちらも相手のことをよく知っていて、その知っていることを遠慮なく使っていたから」
「それは、先輩にもかなり使われました」
「チョコも使ってたでしょう?」
先輩が言います。
「お互い様です」
「またそれだね」
エクレアさんは、私と先輩の間へ顔を出しました。
「二人とも、めちゃくちゃ格好よかったよ! 最後、本当にどっちが勝つかわからなかった!」
「エクレアさんの声は、校庭から届いていませんでした」
「アイリスちゃんに止められてたから!」
「正体を隠すと言ったのは、エクレアでしょう?」
「でも、つきみちゃんの試合を見たら声出したくなるじゃん!」
アイリスさんは、今度は私へ視線を向けました。
「チョコチップも」
「はい」
「……よく戦ったと思うわ」
少しだけ間を置き。
今度は、ごまかさずに続けます。
「すごくよかった。準優勝、おめでとう」
「ありがとうございます、アイリスさん」
胸の奥が、また少し温かくなりました。
「みなさんが見ていると知っていたら、もう少し緊張していたかもしれません」
「だったら、黙っていて正解だったでしょう?」
「はい。それは認めます」
「素直ね」
「事実ですから」
私たちが話していると、レンちゃんとフィーちゃん、プラリネさんも近づいてきました。
少し離れた場所には、フェタさんやキャラメルさんたちもいます。
「チョコちゃんたちの、FoFのお友達?」
レンちゃんが尋ねました。
「はい」
私は三人を紹介しました。
「こちらがアイリスさん。エクレアさん。それからスフレさんです」
「初めまして。マリーシュトレンです」
レンちゃんが、きれいに頭を下げます。
「フィリスフィナンシェです。チョコちゃんから、お名前は何度も聞いています」
「ソフィアプラリネです。今日は見に来てくださっていたんですね」
三人も、それぞれ挨拶を返しました。
誰も、本名を尋ねませんでした。
これまで使ってきた呼び名のまま。
この場所でも話を始めます。
「アバターの名前で呼んでも大丈夫ですか?」
フィーちゃんが確認すると、アイリスさんはすぐに頷きました。
「その方が助かるわ」
「私もエクレアでいいよ!」
「スフレでお願いします」
「では、これからもよろしくお願いします」
レンちゃんが笑います。
「チョコちゃんたちから、FoFのお話を聞くことが多いので。ようやくお会いできたような気がします」
「私たちもだよ!」
エクレアさんは、もうすっかり普段の調子です。
「シュトレンちゃんもフィナンシェちゃんもプラリネちゃんも、よろしくね!」
「もう、ちゃん付けなんですね」
フィーちゃんが少し驚きます。
「エクレアは、だいたい全員そう呼ぶ」
つきみさんが説明しました。
「かわいい呼び方の方が仲良くなりやすいでしょ?」
「そういう理由だったんですか?」
「今決めた!」
「やっぱり」
つきみさんが小さく笑いました。
シロさんも、ようやく驚きから戻ってきたようです。
「でも、本当に不思議だな。FoFでは何度も会ってるのに、現実だと初対面なんだ」
「こちらから見ても同じだよ」
スフレさんが言います。
「みんな、声はいつもどおりだけど。姿は画面の中で見ていたものと少し違う」
「チョコちゃんは、わりとそのままだったね!」
エクレアさんが言いました。
「完全に同じではありません」
「でも、すぐわかったよ」
「花のおかげでは?」
「それもある!」
その時、ミルクさんがDPo-Xを持ち上げました。
「せっかくだから、みんなで写真を撮らない?」
アイリスさんが、少しだけ身構えます。
「写真?」
「初めて現実で会えた記念だよ~。共有する人は、この場にいる人だけにするから」
スフレさんがアイリスさんを見ました。
「私は撮りたいな」
「私も!」
エクレアさんは、すでにつきみさんの隣へ移動しています。
「つきみちゃん、こっち!」
「エクレア、引っ張らなくても行くよ」
アイリスさんは二人を見て。
小さく息を吐きました。
「……限定共有なら、いいわ」
「では、撮りましょう」
私たちは、二年二組と一年二組の旗が両方見える場所へ集まりました。
先輩。
つきみさん。
シロさんたち。
レンちゃん。
フィーちゃん。
プラリネさん。
フェタさん。
そして、現実の姿で初めて会ったアイリスさん、エクレアさん、スフレさん。
つきみさんの隣には、アイリスさんとエクレアさんが並びます。
スフレさんは、その少し後ろから穏やかに笑っていました。
「撮るよ~」
ミルクさんの声。
誰も武器を持っていません。
鎧も。
神官の衣装も。
FoFの能力もありません。
それでも。
名前を呼べば、いつもの人が振り返ります。
三。
二。
一。
写真が撮られました。
体育祭が終わった日の校庭。
二つのクラス旗の前。
バーチャル世界で出会った仲間たちが、初めて現実の姿で同じ一枚へ収まりました。
撮影が終わると、シロさんが待ちきれないように両手を上げます。
「よーし! 今夜はだんのこまちで打ち上げだー!」
「三人も来るよね?」
エクレアさんは、すぐに手を上げました。
「行く行く!」
「私は大丈夫だよ」
スフレさんも頷きます。
全員の視線が、アイリスさんへ集まりました。
「どうして私を見るのよ」
「アイリスちゃんも来るでしょう?」
「勝手に決めないで」
「来ないの?」
つきみさんが尋ねます。
アイリスさんは、つきみさんから視線を逸らしました。
「……少しくらいなら、付き合ってあげてもいいわ」
「うん。待ってる」
「待たなくても行くわよ」
そう答えたアイリスさんの声は。
言葉ほど、嫌そうには聞こえませんでした。