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月の監視者 : 遥か昔、我々が生きた時代。
あの青き星は、ただ「輝く空」と……
「アーテリス」と呼ばれていた。

月の監視者 : ゾディアークもハイデリンも、人が創り出したものだ。
真実と正しさだけでできた、絶対の神ではないのだよ。

月の監視者 : 人が、過去を過去として、前に向かって進むこと……
それがハイデリンに込められた願いなのだから。

『月を繰る者たち』


月の監視者 : 先ほども話したとおり、
ハイデリンは万能ではなく、最強でもない。
むしろ、つねに窮地にあると言った方が近いだろう。
月の監視者 : だからこそ、彼女は「もしも」に備えていた。
ゾディアークが予期せず消滅した場合の策を、
この月に仕込んでいたのだ。
月の監視者 : 再び終末に見舞われるアーテリスから、
生命を連れ出す巨大な「船」……
それこそが、月のもうひとつの役目だよ。

『月を繰る者たち』


ウリエンジェ : 私はかつて、水晶公からの申し出に……
彼の命と引き換えに世界を救うことに、力を貸しました。
ウリエンジェ : ミンフィリアにしても、第一世界に送り込む手引きをした。
彼女をサンクレッドやフ・ラミンさんから永遠に奪ったのは、
ほかでもない、私なのです。
ウリエンジェ : 無論、水晶公もミンフィリアも、
私の行い以上に、彼ら自身の気高い意志と願いによって、
その道を選んだことでしょう。
ウリエンジェ : けれど、私が背中を押したことで、
彼らの本当に言いたかった言葉を……
ウリエンジェ : 生きたい、という望みを奪っていたのではないかと、
そう思って、足がすくむことがあるのです。
ウリエンジェ : ……そのことで苦しみ、迷っているときに、
必ず胸をよぎってしまう考えがあります。
ウリエンジェ : アシエンを倒す方法を確立するために……
それによって平和がもたらされると信じて命を捧げた、
ムーンブリダのことです。
ウリエンジェ : 私が、ルイゾワ様の弟子としての、
あるいは「暁」としての使命以外に、
目を向けられていれば……
ウリエンジェ : あなたの命に勝るものなどないのだと、
ちゃんと伝えられていれば。
彼女は、今も笑っていただろうと思えてなりません。

『薄情なヒト』


月の監視者 : これは懐かしい。
……どうしてその花を?
月の監視者 : なるほど、ヴェーネスらしい話だ。
月の監視者 : だとすれば、その花を標として進んだ先には、
私たちですら知らない彼女の真意が、
隠されているかもしれないな。
月の監視者 : 覚えておくといい。
その花は、我々の時代には「エルピス」と呼ばれていた。

月の監視者 : エルピス……その名を携え、行くといい。
この先、アーテリスが暗い影に覆われたとしても、
貴殿らが、希望の光を見つけ出せることを願っている。

『青き星の君たちへ』



ノックに続いて、自分の名を呼ぶ声がする。
この声は……

▼ヤ・シュトラだ

ヤ・シュトラ : こんばんは、起きていてくれてよかったわ。
ヤ・シュトラ : とりあえず……そのまま、動かないでいてもらえて?
ヤ・シュトラ : ……問題はなさそうね。
ヤ・シュトラ : ほら、あなた、第一世界で戦っていたときに、
大罪喰いが放出した光をため込んでいたでしょう?
ヤ・シュトラ : そういう前科があるから、
ゾディアークを倒しても異変がなかったか、
改めて視ておこうと思ったのよ。
ヤ・シュトラ : リーンがいない以上、
気づいてあげられるのは私くらいでしょうしね。
ヤ・シュトラ : 仕方のない状況だったとはいえ、
あのゾディアークと真っ向勝負だなんて……。
ヤ・シュトラ : その前は別人の身体に入れられていたし、
あなた、何か物騒な呪いでもかけられているのではなくて?
ヤ・シュトラ : ……というのは冗談だとしても。
第一世界で、アーモロートを訪れたころのあなたの魂は、
本当に亀裂だらけだったのよ。
ヤ・シュトラ : 見せられるものなら、戒めに見せてあげたいくらい。
私はもう二度と……あんな痛々しいもの、視たくないわ。
ヤ・シュトラ : わかったら、ときには自分を大事になさいな。
それから、何かあったら相談すること。
……理解できて?
ヤ・シュトラ : なら、私は退散するわ。
シャーレアンの夜は冷えるから、あたたかくして、
きちんとベッドに入って眠るのよ。
ヤ・シュトラ : アジントタ……よい夜を。

『アーテリスの明日』
最終更新:2023年10月07日 20:10