『巡り合う旅人たち』
ヒュトロダエウス : さて、ワタシたちは、このあとどうしようか?
見たい場所があるなら、案内を続けるけど……。
エメトセルク : ヘルメスは、十四人委員会への返答を保留にしただけだ。
まだ明確に断ってはいない。
エメトセルク : だとしたら、私は視察を続けるだけだ。
本人と別行動なら別行動で、ほかの職員の話を聞いたり、
やりようはあるだろう。
ヒュトロダエウス : キミもキミで、真面目だねぇ……。
そういうことなら、もちろん、付き合うよ。
ヒュトロダエウス : Tobariも、引き続き一緒に行くかい?
ヒュトロダエウス : よしきた、それじゃあ三人で、次の区画に向かうとしよう!
新たな場所なら、新たな出会いや証言にも、
期待できるだろうしね!
ヒュトロダエウス : 案内するから、まずはリュカオンの一件があったあたり……
アナグノリシス天測園との間にある、分岐路のところまで、
お越しいただけるかな?
エメトセルク : そういえば……ヘルメスたちも、こちらの方向に立ち去ったな。
期せずして行き先が同じということも、あり得るわけか。
ヒュトロダエウス : そろったね。
ここから道なりに北へ向かうと、「ナビ・ノトス」があるんだ。
ヒュトロダエウス : 「ナビ」っていうのは、エルピス内に点在する、
ほかの浮島への転移装置さ。
ヒュトロダエウス : 最初は、使用権限を持つ人が同伴してないと使えないけど、
ワタシがすでに権限を得ているからね。
ひとたび一緒に利用すれば、キミたちも自由に使えるはずだ。
ヒュトロダエウス : ということで、「ナビ・ノトス」に行ってみよう!
エメトセルク : 先に断っておくが、必要に迫られないかぎり、
エーテルを視る眼でヘルメスを追うことはないぞ。
他人の動向を、始終覗き見るなど品性に欠ける……。
エメトセルク : そもそも、エーテルを視るか、物質を見るかというのは、
眼の焦点を変えるようなものだ。
私たちとて、普段は当然、物質の方に目を向けている。
ヒュトロダエウス : ここが、ナビ・ノトス……
中央の転移装置は、「ゼピュロスの喝采」に繋がってるんだ。
ヒュトロダエウス : 「ゼピュロスの喝采」っていうのは、西の浮島を主とした区画さ。
今ワタシたちの前にある巨大な岩の塊は、
まさにその浮島の底面にあたるよ。
ヒュトロダエウス : さ、ふたりとも転移装置の中央へ!
さっそく起動させよう。
ヒュトロダエウス : さて、ここが第二の区画、「ゼピュロスの喝采」だよ。
ヒュトロダエウス : この区画には、いくつかの保管、実験施設と、
観測拠点である「ポイエテーン・オイコス」があったはずだ。
ヒュトロダエウス : そのあたりを巡って、ヘルメスの仕事ぶりを……おや?
ヒュトロダエウス : オレイアスじゃないか。
かわいいね。
エメトセルク : おい、また何か来たぞ……。
ヒュトロダエウス : ああ、あれは新種のサメだね。
先日イデアを登録したばかりのものだ。
ヒュトロダエウス : サメは海洋生物の中でも人気が高い。
亜種を創ろうと挑む者が絶えなくてさ……
見覚えのある女性 : 危なかった……。
怪我はありませんでしたか?
見覚えのある女性 : あら? あなたたち……!
ヒュトロダエウス : ヴェーネス様!
まさかこんなところで会えるなんて!
エメトセルク : ……この前、過去に十四人委員会に属した者は、
ほとんどが退任とともに星に還っていると言っただろう。
エメトセルク : 彼女はその「ほとんど」に含まれない、稀有な例だ。
かつて座に在り、それを譲ったあともこうして活動している。
エメトセルク : ヴェーネス……前代のアゼムを務めた人物だよ。
ヴェーネス : お久しぶりですね。
会えて嬉しいわ、ヒュトロダエウス。
ヴェーネス : 当代のエメトセルクも。
でもあなた、また眉間の皺が深くなったのではありませんか?
ヴェーネス : まだ若いのに……。
あまり顔をしかめてばかりではいけませんよ。
エメトセルク : あなたの後任が、ずいぶん、大変、とても、やんちゃなもので。
ヴェーネス : まあ、あの子は元気?
ヒュトロダエウス : 相変わらずですよ。
この前なんて、噴火間近の火山に突撃したりして。
……お聞きになります?
ヴェーネス : ええ、よければあとで是非!
ヴェーネス : それから、そちらのあなたは……
ヴェーネス : もしや、今よりも先の時間……
つまりは「未来」からきたのではありませんか?
ヴェーネス : あなたに、私の紡いだ魔法が掛けられているのを感じます。
けれど、そんなことをした覚えはない……。
ヴェーネス : となれば……掛けたのは「今より先」の私ではないか、と。
ヒュトロダエウス : ちなみに、どんな魔法なんですか?
ヴェーネス : 旅人のための護りです。
あらゆる状況で、エーテルの変質を防ぎます。
▼もしかして、光の加護……?
ヴェーネス : 心当たりがあるようですね。
護りの魔法は数あれど、あなたに掛かっているそれは、
私の術式で間違いないでしょう。
エメトセルク : だからといって未来からきたなどと……!
いくらなんでもありえない!
ヴェーネス : ……未来のことを、あなたのことを話してはいけない?
君が帰ってくる「ここ」は
あくまで終末が起きたという歴史を辿った世界――
過去で何をしたところで 悲劇をなかったことにはできない
ヴェーネス : そう……あなたが戻る未来は変わらないけれど、
私たちが、別の歴史を歩む可能性があると……。
ヴェーネス : いいですね、それ。
まだ誰も検証していない領域に挑むの、私は好きですよ。
ヴェーネス : それに、どんな事実を知っていたとて、
未来は訪れる瞬間までわからないものです。
心配していただくことでもないかと。
ヴェーネス : ……なにより。
わざわざここを訪れたのには、
相応の大事な理由があるのでしょう?
ヴェーネス : よければ、話してみてはもらえませんか。
力になれることがあるかもしれません。
エメトセルク : まったく……。
それが本当なら、とんだ事情を隠していたものだな。
エメトセルク : 私も、十四人委員会としてしっかり聞かせてもらうぞ。
お前が何者で、どうしてここへ来たのかを……今度こそな。
ヴェーネス : ひとまず、落ち着ける場所に移動しましょうか。
ヴェーネス : 私は、エルピスで働く古い知人からの依頼を受けて、
数日前からここに滞在しています。
ヴェーネス : この先のポイエテーン・オイコスに館を借りているので、
そこへ向かいましょう。
ヴェーネス : ……大丈夫、この出会いは、きっと間違いじゃないわ。
ヴェーネス : そうでなければ、こんなわかりやすい目印をつけて、
過去の自分の近くに向かわせたりしません。
ヴェーネス : わかりますよ、ほかでもなく私の考えですもの。
エメトセルク : 悪巧みをしている風でもないのに、
一向に素性や目的を明かさないと思えば……
とんだ秘密を隠していたものだな。
エメトセルク : 私としても、未来が変わるなどという確かめようのない話より、
お前についての確認を優先したいところだ。
徹底的に白状してもらうぞ。
ヒュトロダエウス : 未来……未来か……。
何はともあれ、まずは話を聞かせてもらわないとね。
ヴェーネス : さっそく移動をしたいところなのですが……
ごめんなさい、ひとつ用事を済ませてもいいでしょうか?
ヴェーネス : 実は、職員のひとりに頼まれて、
イデアが記録されたクリスタルを探していたのです。
目を離した隙に、オレイアスが持ち出してしまったそうで……。
ヒュトロダエウス : おや、それらしきオレイアスなら、
サメに襲われる前に見ましたよ。
ワタシとエメトセルクで、エーテルを追いましょうか?
ヒュトロダエウス : もっとも、追えるのはオレイアスだけ……
詳細のわからないクリスタル自体を探せはしませんから、
途中で落としたりしていたら、解決にはなりませんが……。
ヴェーネス : 十分です、ではオレイアスの追跡はお願いしますね。
私はその間、森の中にクリスタルが落ちていないか見てきます。
ヴェーネス : あなたにも、力を貸してもらっていいですか?
私はここから北側の森を受け持つので、
西側の森をお願いしたいのです。
ヴェーネス : ありがとうございます。
では、それぞれ探索をしたあとに、
ポイエテーン・オイコスに続く橋の前で合流しましょう。
エメトセルク : ただでさえ頭の痛くなるお前の問題に、
アゼムの座に連なる者が絡むとは…………
エメトセルク : ……くっ、考えるだけで眉間が寄ってくる!
ヒュトロダエウス : 前アゼムと現アゼムの師弟は、いろいろとすごいんだ。
エメトセルクは始終苦いものを食べてるような顔をするし、
ワタシは大抵、手を叩いて笑うことになる。
ヴェーネス : おかえりなさい。
オレイアスは、クリスタルを持っていなかったそうです。
私の見回った範囲にも落ちていませんでした……。
ヴェーネス : そちらはいかがでしたか?
ヴェーネス : ああ、これ!
回収を頼まれていたのは、まさにこれです!
ヴェーネス : ありがとうございます。
おかげで依頼を気にすることなく、あなたの話が聞けそうです。
探しもの、お上手なのですね。
▼自分もよくこういう依頼を受ける
ヴェーネス : あら、あなたも?
まさかそんな共通点があるなんて!
ヴェーネス : 私は昔、アゼムの座に就いていたとき、
人々の抱える問題を見聞きし、解消するために、
星中を駆けまわっていました。
ヴェーネス : その先で見つけた「おもしろい子」に座を託してからは、
以前ほどそういう旅をしていないのですが……
ヴェーネス : それでも、旧知から声が掛かったり、
調べたいことができたりしたときには、足を運んでいます。
ヴェーネス : エルピスに来たのも、そう……。
創造生物の生息地を定めるにあたって意見を聞きたいと、
こうして何度か招かれているのです。
ヴェーネス : けれど、困った様子の職員から引き受けたクリスタルの捜索が、
こんな思いもよらない展開に結びつくなんて!
旅はやっぱり、こうでないと!
『未だ訪れぬ過去』
ヴェーネス : お手伝いいただき、とても助かりました。
回収したクリスタルは、帰りがけに依頼者に返すとして……
ヴェーネス : この橋の先は、もう観測拠点ポイエテーン・オイコスです。
改めて、私の借りている館へ向かうとしましょう。
ヴェーネス : 道をまっすぐに進み、坂を登って、正面の建物です。
ほかに誰も使っていないので、
込み入った話をするには最適かと思いますよ。
エメトセルク : 確かに、ここならじっくり話ができそうだな。
ヒュトロダエウス : 緊張せずとも大丈夫だよ。
ヴェーネス様が纏っている白いローブは、
公正なる「染まらぬ者」の証……
ヒュトロダエウス : 十四人委員会を筆頭とする公的な役職を下りてなお生きる者と、
調停者エリディブスのみが纏える、助言者の印さ。
キミの話も、しっかり受け止めてくれると思うよ。
ヴェーネス : 仮宿ではありますが、ようこそ。
すぐにお茶を淹れてきますので、
お好きな席に座っていてくださいね。
ヒュトロダエウス : いい香りですね……ほっとする。
ヴェーネス : お菓子もあればよかったのですが……
旅暮らしの癖が抜けなくて、どうも身軽さを優先してしまうの。
ヴェーネス : お茶のおかわりなら、いくらでも。
お湯は温かいまま保っていますから、焦る必要もありません。
ヴェーネス : ゆっくりでいい……聞かせてもらえますか?
あなたのことと、ここに来た理由について……。
自分がいたのは……
▼終末という、災厄の先にある未来だ
エメトセルク : ……順を追って話してみろ。
エメトセルク : ……荒唐無稽だ、とても信じられたものじゃない。
ヒュトロダエウス : そうだね……。
正直、想像すらつかない部分も多いよ。
ヒュトロダエウス : ヴェーネス様はどう思います?
ヴェーネス : ……最初の終末が、
いつ、どうして起こったのかが正確でない以上、
現時点では真偽を判断する材料がありません。
ヴェーネス : ですから、すべて真実であるという前提に立って、
「なぜ私がそうしたのか」を考えていました。
ヴェーネス : 大衆と十四人委員会が選んだ道……
それに反してハイデリンを創り出す理由を、
少なくとも今の私では、はっきりと説明できません。
ヴェーネス : もちろん、そのときになってみないと、
わからないことも多いでしょうが……
簡単に下せる決断ではなかったはず。
ヴェーネス : 何かもう少し……
「そうするしかなかった」要因があるように思えるのです。
ヴェーネス : それから、なぜあなたに、
エルピスの花を標にしろと言ったのか。
ヴェーネス : 花そのものや、追う過程が大事だったとも考えられますが、
あなたがここへ至っている以上、
エルピスという場所にもきっと何かがある……。
ヴェーネス : それが何なのか……私はあなたに、何をすべきなのか……。
ヒュトロダエウス : そっちについては、こうも考えられませんか?
ヒュトロダエウス : 彼らの歴史においては、終末は不可避となり、
もう星から逃げるしかない……
ヒュトロダエウス : せめてその未来についてワタシたちに伝えておくことで、
別の歴史が生じる可能性を作りたかった、とか。
ヴェーネス : 確かに、理屈としてはあり得る話です。
ヴェーネス : けれど、それが主たる目的なら、
わざわざエルピスに誘導する理由がない……。
ヴェーネス : 留守である可能性を考慮しても、私の家にするか、
十四人委員会のいるアーモロートを選ぶ方が賢明でしょう。
ヒュトロダエウス : まあ、そうか……。
彼はそのハイデリンってものから、
向かうべき時を指定されたわけじゃない。
ヒュトロダエウス : となれば、ワタシたちと出会えるかどうかは、
重要じゃなかったというわけですね。
ヴェーネス : あるいは、この偶然とも思える出会いが果たされることに、
何らかの根拠を以て賭けていたのかもしれませんが……。
ヒュトロダエウス : ふむ……パズルをしようにも、
重要なピースが足りてないみたいだ……。
ヴェーネス : ……確かな事実があるとすれば。
ヴェーネス : 終末が聞いたとおりのものならば、それは、
私にとってかけがえのないものを焼き払おうとしています。
ヴェーネス : そんな事象を前にして、長い時間も費やして、
用意した手段が「逃げる」だけ……?
ヴェーネス : 普通なら、まず、
終末を完全に退ける方法を考えるはずでしょう。
ヒュトロダエウス : それは、十四人委員会でも果たせなかったことですし、
不可能だと考えたのでは?
ヴェーネス : 私は、「不可能」を信じていない。
ヴェーネス : ハイデリンが私なのであれば、
それだけは、揺るぎない事実だと思います。
エメトセルク : よくもまあ、こんな妄言に出てくる自分を、
本当に自分だと思えたものだな……!
エメトセルク : 私は納得していない……できるものか……
この善き時代が、そんなわけのわからない終わりを迎えるだと?
エメトセルク : だいたい、そいつの語る私は、
およそこの私とかけ離れているじゃないか。
エメトセルク : 同胞たちがゾディアークに命を捧げたとして、
星のためであったなら、人として誇るべきことだ。
エメトセルク : だというのに……私が、在りし日の街を模しただと?
そんなものは、彼らの行いへの冒涜だろう。
エメトセルク : お前をそこに招き入れた理由も、まったく理解ができない!
自ら計画失敗の要因を作ったようなものじゃないか。
エメトセルク : 確かに、この時代の復活なんてものを背負わされると思うと、
厭で厭で仕方がない……腹の底からうんざりする……。
エメトセルク : だが……自分からそれを投げ出すような真似を、私がすると?
エメトセルク : ずいぶんと侮ってくれたものだな……!
エメトセルク : ……世迷言はもう十分だ。
私は仕事に戻る、二度と邪魔をするな。
ヒュトロダエウス : エメトセルク!
ちょっと待ってよ……!
ヴェーネス : ……もうひとつ、聞かせてください。
ここまでエルピスを見てきて、
何か気になったことはありませんでしたか?
▼終末には、デュナミスが関わっていると思う
ヴェーネス : デュナミス……エーテルとは異なる力ですね。
ええ、私も専門ではありませんが理解はしています。
ヴェーネス : そして局長であるヘルメスが、
メーティオンを創るにあたってそれを研究していると……。
詳しく調べてみる価値はありそうですね。
ヴェーネス : そうと決まれば、行動あるのみです。
ヴェーネス : 今はまだ欠けているピースが、きっとこの地にある。
それを手にしたとき、未来の私が描いた絵の全容が……
あなたが受け取るべき答えが導き出せるでしょう。
ヴェーネス : 私にも、どうか協力させてください。
ヴェーネス : 大丈夫、彼が私の知る……
アゼムから聞かされたとおりの彼ならば、
きっとこのままお別れにはならないわ。
ヴェーネス : さっそく、ヘルメスとメーティオンについて、
調べていくとしましょう。
ヴェーネス : 私も、ヘルメスとは面識がありますが、
「エルピスの所長」と「客人」として言葉を交わしただけ。
彼個人については、一般的な情報しか知りません。
ヴェーネス : まずは正攻法で、この拠点に滞在している職員たちに、
ヘルメスやメーティオンについて質問するのがいいかと。
私に心当たりがあるので、こちらへ……。
ヴェーネス : そこの建物前で、休憩をしている女性……
彼女が「イスメーネー」です。
ヴェーネス : 私がここに滞在するにあたって準備をしてくれた方なのですが、
聞けば、かなり長い間エルピスに勤めている職員だとか。
ヘルメスたちのことも、当然よく知っているでしょう。
ヴェーネス : 彼女に、あなたが聞きたい質問をぶつけてください。
私も何か思うところがあれば聞きますが、
主導するのは、お任せしますね。
ヴェーネス : こんにちは、イスメーネー。
ヘルメス所長について、少し聞きたいことがあるのです。
彼の質問に答えていただいても?
イスメーネー : ああ、ヴェーネス様。
ほかならぬ貴女の頼みとあらば、喜んでご協力いたしますよ。
イスメーネー : それで、質問というのは……?
▼ヘルメスってどんな人?
イスメーネー : どんな人……そうですね……。
イスメーネー : 物静かな人だと思います。
寡黙というか、少し口下手というか……。
イスメーネー : 好き好んで人前に出ることはないですが、
所長としての職務は、しっかりとこなしてくれていますよ。
イスメーネー : それから、とにかく生物についての知識が豊富です。
どの分野でも人並み以上ですが、
やはり、得意とする飛行生物については他の追随を許しません。
イスメーネー : こんな回答で役に立てばいいのですが……。
ほかにも何かありますか?
▼メーティオンのことを知っている?
イスメーネー : ええ、ヘルメスの使い魔ですよね。
最近はいつも一緒にいて、まさしく親鳥とヒナ鳥のようです。
イスメーネー : 彼女は「想いを直接受け取り、送る」という、
大変めずらしい能力を持っているのですよ。
その能力をどうやって創り出したかは、定かでないですが。
イスメーネー : ……すみません、解説できるほどの知識がなくて。
ヘルメスと、あまりそういう話をしたことがないんです。
▼もっと所長を知りたくないの?
イスメーネー : 職務については、きちんと必要な共有ができていますから。
彼個人の領域に踏み込もうとは思いませんよ。
イスメーネー : ああ、ただ、同じく飛行生物の創造を得意としている、
同僚の「ティマイオス」ならば、メーティオンについて、
もっと詳しく知っているかもしれません。
イスメーネー : 彼は今、東の川辺で観察にあたっているはずですよ。
もし会いに行くなら、要点を明確にすることをオススメします。
彼は話し始めると長いことで有名ですから……。
ヴェーネス : なるほど……。
いろいろ教えていただき感謝します。
イスメーネー : いえ、これくらいならば訳もありません。
滞在中に何かあれば、またいつでもお声がけください。
ヴェーネス : Tobari、向こうで少し話しましょうか。
ヴェーネス : ひとまず、ひとり分、彼らに関する証言が得られましたね。
この調子で、職員や観察者に話を聞いていきましょう。
ヴェーネス : 私は、拠点内にいる方々に声を掛けていくので、
あなたは、イスメーネーが名前を出していた、
「ティマイオス」から話を聞いてきてもらえますか?
ヴェーネス : 大丈夫、今の聞き込みでも、
まったく私の出番がなかったくらいですから。
あなたひとりで、十分情報を引き出せると思います。
ヴェーネス : 「ティマイオス」は、東の川辺で観察にあたっているとか。
足を滑らせないよう、気をつけて探してくださいね。
終わり次第、このあたりで合流しましょう。
ヴェーネス : さて……私も、片っ端から聞いていくとしましょう。
Tobari、のちほど、またここで!
ティマイオス : いかにも僕がティマイオスだが……
鳥の観察中なんだ、あまり大きな声は出さないでくれよ。
ティマイオス : ……で、僕に聞きたいことって何だい?
▼ヘルメスの創る飛行生物をどう思う?
ティマイオス : ふむ、ヘルメスの……そうだな……。
ティマイオス : 飛行生物は、空をゆく姿の美しさもあって、人気が高い。
すでに多くの種が生み出された昨今でも、
創造に挑戦する者が、あとを絶たないほどだ。
ティマイオス : そんな中で、ヘルメスの飛空生物を特徴づけているのは、
抜きんでた天文の知識を用いていることだろう。
ティマイオス : 目で見えないほど高高度を飛ぶ鳥や、
風脈の流れに乗っているわけでもないのに、
遠く離れた天へと瞬時に移動する鳥……。
ティマイオス : そういうのは、まあ、彼しか創れないだろうな。
私のように、飛行生物としての「優美さ」に重きを置く者でも、
ほんの少~しくらいは、仕組みが気になるところだ。
▼メーティオンもすごい?
ティマイオス : それについては、なんとも答え難いな……。
ティマイオス : 実のところ、メーティオンがどんな創造生物か、
正確なところは把握していないんだ。
ティマイオス : 「想いを直接受け取り、送る」というのが特徴のすべてなのか、
ほかにもまだ、何か目新しい能力を有しているのか……
ティマイオス : それらはヘルメスがメーティオンを創造物管理局に届け出て、
イデアが登録されたとき、周囲の人々に開示されるものだ。
それ以前に問うのは、無作法というものさ。
ティマイオス : ……まあ、もしも彼が、
同じ分野を得意とする僕に助言を求めてきたなら、
応えるのは、やぶさかではないけれどね?
▼デュナミスやエンテレケイアを知っている?
ティマイオス : デュナミス……エンテレケイア……?
ティマイオス : うーん、どこかで聞いた気もする言葉だな……
エルピスで創られた花に、
そんな特性があるんじゃなかったか……?
ティマイオス : だとしたら、聞いたの自体が数百年ぶりだ。
普段の仕事では、まず聞かない言葉だよ。
……それがどうかしたのかい?
ティマイオス : なんだ、冷やかしか……。
僕と話したかったのかもしれないが、
雑談なら仕事が終わってからで頼むよ。
ティマイオス : それじゃあ、僕は観察に戻る。
君も、おしゃべりばかりしていないで、役目を果たすんだぞ。
ヴェーネス : あら、川辺まで探しに行ったのに、ずいぶん早いこと!
さすが熟練の旅人、よほど順調に話が聞けたのですね。
ヴェーネス : それで、あなたの方は、いかがでしたか……?
ヴェーネス : ……なるほど。
メーティオンの能力の全容どころか、
デュナミスのことも、ほとんど知られていなかったと。
ヴェーネス : 私の聞き込みの結果も同様です。
メーティオンについて、あなたから聞いた以上の情報はなく、
彼の個人的な研究として扱われているようでした。
ヴェーネス : 裏を返せば、ヘルメスのみがデュナミスの扱いを知っている……
と言うこともできるかもしれません。
ヴェーネス : とはいえ、まだ何かを断定するには情報が足りない……。
引き続き、調査を進めてみることにしましょう。
『掛けられた問い』
ヴェーネス : 現状、このエルピスで知り得る事象の中で、
終末に関与している可能性が高い、デュナミス……
その力を自在に操ることのできる、エンテレケイア……。
ヴェーネス : それらの研究はエルピスにおいても広まっておらず、
ここまで聞いた範囲では、ヘルメスのみが扱っている……。
ヴェーネス : となれば、引き続き彼とメーティオンの周りを調べていくのが、
取っ掛かりとしては最善かと。
ヴェーネス : ちなみに……メーティオンについて、
エンテレケイアであり、想いを通わせて対話できること以外に、
何か聞いたりはしていませんか?
▼単体ではなく、姉妹たちがいるらしい
ヴェーネス : そうですか……。
他の星における、生きる理由、命の意味を探して……。
ヴェーネス : ありがとうございます。
そこから今すぐ何かが判明するわけではありませんが、
念頭に置いておきましょう。
ヴェーネス : では、次は別の場所でヘルメスたちについて聞きましょうか。
ここから小道に沿って西へ進むと、
「ペリペテイア晶蔵院(しょうぞういん)」がありますしね。
ヴェーネス : ここと、この奥の建物が「ペリペテイア晶蔵院」……
エルピスで行われた観察や実験の記録が、保管されています。
ヴェーネス : 外観だけ見ると狭く感じますが、
中は魔法で空間を繋ぎ合わせているため、
とても広くなっているんですよ。
ヴェーネス : では私は……そこで話をしている方々から、
ヘルメスとメーティオンについて聞きましょう。
ヴェーネス : あなたは、奥の建物の方をお願いできますか?
終わり次第、そちらに伺いますね。
ヴェーネス : ……当たり前のように分担を持ち掛けてしまいましたが、
思ってみれば、不思議なことですね。
ヴェーネス : あなたは時を超え、様相の異なる世界から来ている。
なのに、協力をして問題を追い、
多くを説明せずとも、手分けして進めることができる……。
ヴェーネス : やはりあなたも同じ星の住民であり、
私たちと、確かに繋がりを持っているのだと感じます。
……聞き込み、何か成果が得られるといいですね!
晶蔵院の職員 : 私に用事かい?
すまないが、先約が済むまで待っていてくれたまえ。
晶蔵院の職員 : ……よし、その習性について、引き続き観測を頼むよ。
記録が足りなかった箇所はそれだけだ。
晶蔵院の職員 : 待たせて悪かった、ええと……君は……?
晶蔵院の職員 : ふむ、ヘルメスの個人的な研究について何か知らないか……と。
というと、メーティオンのことかい?
晶蔵院の職員 : うーん……ここでは誰もが、
日々さまざまな創造生物を連れているからね……。
晶蔵院の職員 : メーティオンについても、
いつの間にか彼と一緒にいた、という認識だよ。
晶蔵院の職員 : ああ、そういえば……
だいぶ前に、ガレネーが不思議な話をしていたな……。
晶蔵院の職員 : 私の恋人だよ、同じくここエルピスで働いているんだ。
晶蔵院の職員 : 彼女が、夜な夜なたくさんのメーティオンを空に翔ばす、
ヘルメスを見かけたそうでね……。
晶蔵院の職員 : それがとても綺麗な光景だったと、
数日間、食事の度に話を聞かされたものだよ。
ヴェーネス : あら、その話、私にも聞かせていただけませんか?
晶蔵院の職員 : ヴェーネス様!
先日は、創造生物の分布について貴重なご意見をいただき、
深く感謝しております。
晶蔵院の職員 : てっきり、もう地上へお帰りになったものかと……。
ヴェーネス : ええ、実際そろそろ戻ろうと考えていたのですが、
話に聞いたヘルメスの研究に、興味が湧いてしまいまして。
ヴェーネス : あなたの恋人が見たという光景についても、
是非、詳しく伺いたいところです。
晶蔵院の職員 : そういうことであれば、
当人に聞いていただくのが良いでしょう。
晶蔵院の職員 : 彼女、ガレネーは、
あちらの「メタバシス六洋院(ろくよういん)」で観察者をしています。
晶蔵院の職員 : 六洋院は、その内部に、
世界中のあらゆる海を再現している。
多様な海洋生物を観察するための施設です。
晶蔵院の職員 : しかし、ヘルメスの個人的な研究まで気になさるとは、
ヴェーネス様のご興味は、まさに底なしですね。
晶蔵院の職員 : それでは、還る日がまた遠のきましょうに!
ヴェーネス : …………ええ、本当に。
晶蔵院の職員 : 我々は、あなたがアゼムとして旅していたときの知識を、
こうして時折お借りしているわけですが……
晶蔵院の職員 : 同時に、あなたは過去、大変優れた学者であらせられた。
あなたが導き出した理論の数々は、このエルピスでも、
さまざまな研究や設備の創造に用いられています。
晶蔵院の職員 : 人は思索の徒でありますが、
あなたほど永く、情熱をもって追及し続けられる方は、
ほかに存じ上げません!
ヴェーネス : …………光栄です。
ヴェーネス : では、ガレネーに会いに、六洋院に向かいましょうか。
晶蔵院の職員 : でしたら、晶蔵院の魔法の扉を、空中歩廊に繋げましょう。
晶蔵院の職員 : ここから六洋院に行くとなると迂回する必要がありますが、
空中歩廊を通れば、すぐですので。
ヴェーネス : ええ、ではお願いします。
ヴェーネス : ここはまだ、晶蔵院のもう片方の建物ですね。
最上階まで、魔法の扉で通り抜けさせてもらいましょう。
気さくそうな職員 : おお、これは珍しいお客様方だ!
……さては、六洋院に向かわれるのですね?
気さくそうな職員 : では「上層階」へ、お繋ぎしましょう。
そこに誰かしら六洋院の者がいると思いますので、
ご用件をお伝えください。
ヴェーネス : この先が、ガレネーの勤める六洋院です。
ひとまず、こちらの方に彼女のことを聞いてみましょうか。
休憩中の観察者 : え、え、ええ……!?
まさかこんなところで、ヴェーネス様にお会いするなんて!
ヴェーネス : 驚かせてごめんなさい。
六洋院に勤めている、ガレネーに会いたいのです。
あなたは、彼女をご存知ですか?
休憩中の観察者 : ああ、はい、もちろん!
すぐにここへ呼んできますね。
休憩中の観察者 : ……ですが、観察の状況によっては、
少しお待たせしてしまうかもしれません。
それでもよろしいですか……?
ヴェーネス : ええ、大丈夫です。
この景色を眺めながら待っていますから、どうか焦らずに。
ヴェーネス : 風が心地いい……
それに、とても綺麗……。
ヴェーネス : ……あなたのいた未来の世界も、変わらず美しいですか?
▼もちろん!
ヴェーネス : ふふ、あなた越しに、素敵な世界が垣間見えそう。
一歩一歩を楽しんでいるのですね。
ヴェーネス : ……よければ、待つ間にあなたの旅の話を聞かせてください。
ヴェーネス : ここに至った経緯については教えてもらいましたが、
今度はもっと、取り留めのない……あなただけの旅の話を。
ヴェーネス : ハイデリンの目的を明らかにするため、
未来の世界を知りたいという意図もありますが……
ヴェーネス : 何より、同じ旅人として興味があるのです。
知らない場所に行った人から話を聞きたいと思うのは、
私たちのさがでしょう?
ヴェーネス : そんなことがあるだなんて!
ああ、私も見てみたかった……!
ヴェーネス : なんて不自由で厳しい世界……
けれど、そこに生きる人々の、なんと愛しいことでしょう。
ヴェーネス : 人は、そんなふうにもなれる……
可能性の輝きは、彼方でも、やっぱり煌めき続けている……。
ヴェーネス : ありがとう、とびきり素敵なお話でした。
ヴェーネス : ……先ほども少し話に出ていましたが、
私はもともと、世界の成り立ちを追い求める学者だったのです。
ヴェーネス : エーテルとは何?
物はどうしてこんな形をしているの?
私たちの始まりは……?
ヴェーネス : 世界はそういった謎に満ちている。
いくつかには、それらしき答えを出しもしました。
ヴェーネス : けれど、突き詰めていくほどに驚きは増すばかり。
世界の法則が今のようであり、私たちが存在していることは、
まさしく奇跡のような必然だったのです。
ヴェーネス : 遥か天地を巡り、移ろいながら悠久を渦巻く熱が、
こうして私やあなたという形をとっている。
ヴェーネス : それがどれほどの確率の出来事かを思えば、
想像できる範疇のことなんて、
何も不可能ではないように感じるのです。
ヴェーネス : ……そう気づいたとき、急激にこみあげてきた想いが、
私の「当たり前」を打ち砕きました。
ヴェーネス : 何かとてつもなく大きなもの……運命だとかそういうものに、
命が、人が、愛されているのだという感覚。
ヴェーネス : 同時に、数多の奇跡と、不確定な可能性の上にある今が、
ひどく脆いもののようにも思えました。
ヴェーネス : 私は、誰かに、何かに会いたくなって、思わず飛び出した。
この瞬間に輝く世界を、見て、聞いて、感じて、
もっともっと知りたいと考えたのです。
ヴェーネス : それが、遠い昔の、旅の始まりでした。
ヴェーネス : 「当たり前」が取り払われた世界は、
何もかもが新鮮で、とても美しかった。
ヴェーネス : 眼前に広がる地平、吸い込まれるような空。
静かだけれど力強い、自然の息遣い……
ヴェーネス : それらの合間に、人の営みが明かりを灯し、言の葉を響かせる。
そんな光景に胸があたたかくなった。
ヴェーネス : 何より、出会う人そのものが、たまらなく好きだった。
ヴェーネス : ……だから、皆のためにできることをしていたら、
還るに還れなくなってしまったのです。
ヴェーネス : もしかしたら、未来の私も……
ハイデリンも探し続けているのかもしれませんね。
ヴェーネス : 生きる理由ではなく、死ぬことができる理由を。
ヴェーネス : 多くの可能性を持ち、ゆえにこそときに迷える人を、
「もう大丈夫だ」と思える瞬間を……。
ヴェーネス : この星の未来に生きるあなた……
いまだ人の行く末を問い、手放せずにいる私に、どうか答えて。
ヴェーネス : あなたの旅は、良いものでしたか?
ガレネー : すみません、遅くなりました!
ガレネー : お待たせしてしまって、本当にごめんなさい。
観察対象が、こんなときに限って暴れちゃって……。
ヴェーネス : お仕事おつかれさまです。
おかげでのんびり話もできましたから、気にしないで。
ガレネー : ありがとうございます……。
それで、ええと、私に聞きたいことというのは……?
ヴェーネス : 実は、ヘルメスの創ったメーティオンに興味があるのです。
あなたは、大勢の彼女が翔ぶところを見たとか……?
ガレネー : なんだ、そのことでしたか!
ええ、ええ、しっかと見ましたとも!
ガレネー : あの日は夜の観察があったので、
六洋院を出たのが夜半過ぎだったんです。
ガレネー : なんとなく星空を見上げながら歩いていたら、
南東の方角に、天へと昇る「さかさまの流星」がピカッと!
ガレネー : いくつか立て続けに流れていったものだから、
私、もっとよく見えるところを探して、
この島の端まで行ったんです。
ガレネー : そしたら、少し先の島に、
ヘルメスとたくさんのメーティオンたちがいて……。
ガレネー : そのメーティオンたちが夜空へと翔んでいく姿が、
さかさまの流星の正体だったんです!
ヴェーネス : なるほど……。
それについて、ヘルメスと話をしたことは?
ガレネー : あまりに綺麗な光景だったので、
翌日すぐに、どんな設計で、
何のために翔ばしているのか聞きに行ったんです。
ガレネー : でも、まだ個人的な実験の途中だから、
情報を共有する段階にないって言われちゃって……。
ガレネー : だから私も、話してもらえる日をまってるところなんです!
ガレネー : ヘルメスは今も時折あの浮島に行っているようですから、
実験自体は進んでいるんじゃないかと思いますよ。
ヴェーネス : 状況はよくわかりました。
私たちも、話が聞けるのを楽しみに待ちたいと思います。
ヴェーネス : お伺いしたかったのは、それだけです。
仕事の最中にお呼び立てしてしまって、
申し訳ありませんでした。
ガレネー : いえいえ!
同じことを気にしている方に会えて嬉しかったです。
ガレネー : あっ、このまま下に降りますか?
でしたら、扉をお繋ぎしますけど……。
ヴェーネス : では、お言葉に甘えて……。
ヴェーネス : あなたの答えは聞けずじまいになってしまいましたが……
またひとつ、ヘルメスたちの情報を得ることができましたね。
ヴェーネス : 彼は、デュナミスやエンテレケイアの研究について、
周囲の人々にも話していなかった……
その推測は、もはやほぼ確実かと。
ヴェーネス : となると、誰かが彼の研究結果を利用するか……
あるいは、ヘルメス自身が終末に関与することになる……。
ヴェーネス : どちらなのかを判断するためには、知らなければなりません。
ヘルメスに、終末を望む動機があるのかを……。
『前代アゼムの手ほどき』
ヴェーネス : ヘルメスの考えを知るためにも、
彼がメーティオンたちを翔ばしていたという浮島に、
行ってみたいところですが……
ヴェーネス : ガレネーは、ここから南東の方角、
島の端からそれを見たと言っていましたね。
ヴェーネス : まずは、それらしき場所を探し出し、
どんな島が見えるか確認してみましょうか。
行きましょう、Tobari。
ヴェーネス : 南東の島の端というと、確かにこの辺りですね。
ここから見える島といえば……
ヴェーネス : ……あれかしら?
ヴェーネス : 行くには、空を渡らないといけませんね。
そちらはすぐに飛べそうですか?
ヴェーネス : でしたら……私の相棒に頼むのがよさそうですね。
ヴェーネス : 来て、アルゴス!
ヴェーネス : アルゴス、分身して、
私と彼を向こうの島まで運んでもらえるかしら?
アルゴス : …………。
ヴェーネス : あら、困った子……。
私と世界を駆けまわってきた、頼れる相棒なのですが、
ちょっと人見知りが激しくて……。
ヴェーネス : 認めた相手でないと、決して懐こうとしないんです。
ヴェーネス : アルゴスに乗ったことがある?
あなたの時代で……?
ヴェーネス : ああ……なるほど……。
そういう可能性も、確かにゼロではないか……。
ヴェーネス : では、Tobari。
ここはひとつ、私と手合わせをしませんか?
ヴェーネス : アルゴスは賢い子です。
私と武術で渡り合える猛者であれば、
敬意を払うべき相手として認めるでしょう。
ヴェーネス : それに私との戦いの経験は……
あなたへの、手土産になるかもしれません。
ヴェーネス : 役立てる機会が訪れなければ、それはそれ。
遥かな過去での、思い出のひとつということで。
ヴェーネス : ……いかがですか、未来の旅人さん?
▼それで解決するのなら
ヴェーネス : ええ、悪い選択ではないと思いますよ。
あなたには、いいところを見せてもらう必要がありますが。
ヴェーネス : それでは、あちらの空き地でお待ちしています。
戦う準備を整えてから、来てくださいね。
「嘆きの海」で出会ったのと、そっくり同じアルゴスだ。
しかし、こちらを徹底的に無視している……!
ヴェーネス : 手合わせを始める準備はいいですか?
私はいつでも、大丈夫ですよ。
ヴェーネス : 十分です、手合わせはここまでにしておきましょう。
ヴェーネス : 膝くらいはつかせるつもりでいたのですが……
甘かったですね。
ヴェーネス : 確か、アゼムと手合わせしたときもそうでした。
あなたといい彼といい、
私の半分も生きていないのにたくましいこと!
ヴェーネス : でも、あなたの冒険がそれだけ……
言葉で語ってくれたのよりもずっと、
困難の連続だったということでしょう。
ヴェーネス : お互いに、実りの多い旅をしてきたようですね。
ヴェーネス : あら、あなたを乗せてくれる気になったのかしら?
ヴェーネス : よかったですね。
その子、一度懐いた相手のことは忘れませんよ。
これでいつでも背中を貸してくれるはずです。
ヴェーネス : これで空を渡る準備は万全ですね。
ヘルメスがメーティオンを翔ばした島……
そこで彼の想いを窺い知ることはできるのでしょうか。
ヴェーネス : 願わくは、彼自身が災厄を望んでいませんよう……。
そうであれば、終末の謎を前に手を取り合い、
彼の叡智を借りることも……きっと……。
『いつの日か、君に花を』
ヴェーネス : では、飛び立ちやすいように、島の端まで移動しましょうか。
ヴェーネス : あとはアルゴスに跨れば、すでに風を知っている彼が、
くだんの浮島まで連れていってくれるはずですよ。
さあ、こちらへ……
ヴェーネス : 出発できそうなら、アルゴスの背へ……。
ふふ、彼が私以外を乗せるのは、いったいいつ以来かしら?
ヴェーネス : 快調ですね、アルゴスも気持ちよさそうです。
ヴェーネス : 目的の島に生えている樹、あれは何と言ったかしら……
ヴェーネス : そう、ノエトン万華樹でした。
ここからでも目につきますね。
ヴェーネス : まもなく到着です。
ヴェーネス : 小さな島ですね。
これといって、特別な機材もない……。
ヴェーネス : 仕方がありません。
過去が視られるか試してみましょう。
……やったことはありますか?
ヴェーネス : あるけれど、自在に操れるわけではないと……。
でしたら、私が補助しましょう。
ヴェーネス : もう少し近くへ……私のすぐ前に立ってください。
ヴェーネス : 過去を視るには、おおまかにふたつの手段があります。
ヴェーネス : ひとつは、当人がその記憶を想起しているときに、
心の壁を超えて窺い見る方法……。
ヴェーネス : もうひとつが、場のエーテルに刻まれた記憶を、
読み解くという方法です。
ヴェーネス : 魂に記憶が刻まれていくように、
世界に満ちるエーテルにだって、歴史は刻まれていくのです。
ヴェーネス : もっとも、そういったものは消えやすいので、
必ず読み取れるとは限りませんが……。
ヴェーネス : ともかく、やってみましょう。
さあ、目を閉じて……。
メーティオン : ……いずれの個体にも損傷はなし。
順調に、それぞれが目的とする星に向けて翔んでいます。
メーティオン : およそ108サイクル後、すべての調査を終え、
報告を送信する予定です。
メーティオン : 今回の伝達事項は以上。
共有意識への接続を終了し、自我を復旧します……。
メーティオン : ……だって!
ヘルメス、順調、よかったね!
ヘルメス : ああ、本当によかった……。
ここまで、失敗の連続だったからな……。
ヘルメス : 宇宙は、常に予想を上回ってくる。
人はいまだ真理を掴んでなどいないのだと、
痛感させられた……。
メーティオン : でも、わたしたちみんなで、試行錯誤、いっぱいした!
だから調査、ちゃんと終わる!
ヘルメス : そうだな……。
君たちのがんばりのおかげだ。
メーティオン : どんな答え、返ってくるかな?
生きる理由、命の意味、なんだろうね。
ヘルメス : ……この中には、アーテリスよりずっと進んでいる星も、
まだまだ原始的な星もあるだろう。
ヘルメス : 築いてきた文化は違うだろうし、それどころか、
形状すら異なる知的生命がいるかもしれない。
ヘルメス : だとしたら、きっと……
この星で信じられているのとはまったく別の、
命の捉え方をしているのではないかと思う。
メーティオン : まったく別の、は、どんな?
ヘルメス : はは……想像もつかないな……。
ヘルメス : けれど、どんな答えが届いたとしても、
頭ごなしに否定したりせず、考えていきたい……。
ヘルメス : みんなに伝えて、弁論をしてもらうのもいいだろう。
ヘルメス : その先で……人だけじゃない……
ひとつでも多くの命が、幸せを知れたらいいと思うんだ。
ヘルメス : ……メーティオン。
自分は君に翔び方を教えたが、歩き方は……
生命としての生き方は、到底教えられなかった。
ヘルメス : しかし、永い永い旅の果てに、
君はきっと、それを知る誰かに出会うだろう。
ヘルメス : そうして答えを得て、再びここへ帰ってきたときには……
君を大いに讃え、労おう。
メーティオン : 砂糖、どばどばの、リンゴで……?
ヘルメス : 君は食べられないじゃないか……。
ヘルメス : 何か形にした方がいいのなら……そうだな……。
ヘルメス : 花を……。
ヘルメス : いつかこの旅をやり遂げた君に、心から花を贈ろう。
ヴェーネス : ……あなたは、どう思いますか?
▼ヘルメスは優しい……でも……
ヴェーネス : ……そうですね。
優しくとも、彼の計画が望みどおりの形で進むかどうかは、
また別の話でしょう。
ヴェーネス : 何か意図しない事故や見落としがあって、
終末に繋がる要因を作ってしまう可能性も十分にある……。
ヴェーネス : ……そこで、次の手を提案させてください。
ヴェーネス : ヘルメスにも、あなたの真実を……
終末のことを話してみるのはどうでしょうか?
ヴェーネス : 本人に災厄を望む意志がないのであれば、
それを阻止すべく、知恵や力を貸してくれるかもしれません。
ヴェーネス : それでは、急いで彼を探さなければいけませんね。
あの優しい人たちが、悲しい宿命に絡めとられてしまう前に。
ヴェーネス : ひとまず、もとの島まで戻るとしましょう。
ヴェーネス : さて、アルゴスたちも無事に返したので……
ヘルメスたちの捜索を始めましょう。
ヴェーネス : ……私にひとつ、心当たりが。
ここから北にある区画「ボレアースの黙劇」に、
エルピス最大の施設「ヒュペルボレア造物院(ぞうぶついん)」があります。
ヴェーネス : あなたも、疑問に思っていたのではありませんか?
エルピスの限られた環境で、
どうやって多種多様な生物を研究するのか……。
ヴェーネス : その答えが「ヒュペルボレア造物院」です。
六洋院と同じように、内部では複数の空間が繋げられ、
あらゆる環境が再現されています。
ヴェーネス : 所長であるヘルメスも含め、
もっとも多くの観察者が集うのが、造物院だというわけです。
ヴェーネス : 「ボレアースの黙劇」に転移するためのナビは、
ポイエテーン・オイコスの北……さっそく行ってみましょう。
ヴェーネス : きちんと同行者として認識されたようですね。
これからはあなたも、このナビを自由に使えるはずです。
ヴェーネス : さあ、「ヒュペルボレア造物院」は、この道の先……
途中の十字路を、左手側に曲がればすぐですよ。
ヴェーネス : 到着……ここがエルピス最大の研究用施設、
「ヒュペルボレア造物院」です。
ヴェーネス : ともかく中に入って、ヘルメスがいるか聞いてみましょう。
???? : ああ、彼ならいませんよ。
別の場所で観察にあたっているんだとか。
ヒュトロダエウス : 調べてみた感じ、デュナミスの研究やメーティオンの創造は、
あくまで個人的なものとして進められていたようだ。
ヒュトロダエウス : ほかに詳しい人はいないようだったし、
研究成果が盗まれたという話も聞かなかった。
ヒュトロダエウス : となれば、彼自身に災厄を望む動機があるのかを確かめて、
ないならいっそ味方に引き入れた方が話が早い……
ヒュトロダエウス : ……ってエメトセルクが。
エメトセルク : …………お前が語った話によれば、
十四人委員会は、天脈と終末の関係こそ突き止めたものの、
根本的な原因の特定には至らなかったという。
エメトセルク : あの面々が揃っていて、
おまけに眼はいいヒュトロダエウスまでいるのに、
そんなていたらくとは……ありえない。
エメトセルク : 逆に考えれば……忌々しいこと極まりないが……
我々ですら解明し得ない原因だったということだろう。
エメトセルク : たとえば、そう……
認識できない未知の力、デュナミスが関与していたり……な。
ヒュトロダエウス : そうだとすると、なぜ、
「ファダニエルとなったヘルメス」が気づかなかったのか、
という問題が生じるんだけど……
ヒュトロダエウス : それについては、わかっていながら対処できなかったのか、
そもそも気づけない状態だったのか、判断がつかないよね。
だから、一旦棚上げだ。
エメトセルク : 何にせよ……十四人委員会は、
悪意や嘘を抱いたまま勤められる組織じゃない。
座に就いているのは、それを見落とすような連中じゃないんだ。
エメトセルク : だからヘルメスも、災厄を望んではいない……
私は、そう判断した。
ヴェーネス : ……やっぱり、あれで終わりにはなりませんでしたね。
ヴェーネス : 実は、私たちの調査でも……
エメトセルク : なるほどな……。
行き着いた結論は、双方同じだったと……。
エメトセルク : だったら、やるべきことは明確だ。
とっととヘルメスを迎えにいくぞ。
▼ありがとう、エメトセルク
エメトセルク : やめろ、礼など……。
私は、お前の妄言を信じちゃいないんだ。
エメトセルク : だが、エメトセルクの座に在る者として、
念のため調査くらいはしておくべきだと判断した。
……それだけだ。
ヴェーネス : 頼もしい仲間が増えましたね。
ヴェーネス : いつか道を違え、対立する相手だとしても、
それは今このときに手を取らない理由にはならない……
彼も、そう思っているのかもしれません。
エメトセルク : 寄るな、懐くな、声を掛けるな。
私は私の職務をまっとうするだけだ……
『エウロスの冷笑』
ヒュトロダエウス : さーて、そうなるとワタシの出番だね。
ヘルメスがどこにいるか、視てみるとしようか。
ヒュトロダエウス : ……これは……隣の区画だね……メーティオンもいる……。
ヒュトロダエウス : 観察中のようだから、そうそう移動しないとは思うけれど、
早めに向かうに越したことはなさそうだ。
ヒュトロダエウス : 彼らのいる区画、「エウロスの冷笑」に転移するナビは、
ここから真っ直ぐ坂を下った先だよ、さあ行こう!
ヴェーネス : エウロスの冷笑……。
エルピスの中でも珍しい、観察拠点が置かれていない区画です。
ヴェーネス : 造物院の中も含めていくつか存在する、
あらかじめ危険が予想されている生物を観察する場所だから、
というのが大きな理由ですが……
ヴェーネス : ほかにも、「ある施設」への転移装置があるため、
諸々の事故に備えて、滞在する人が減るようにしている……
と聞いたことがあります。
エメトセルク : しかし、まさかお前とヴェーネス様の調査が、
そこまで順調に進んでいるとはな……。
エメトセルク : いや、お前はともかく彼女は優秀だ。
知識や経験が誰よりも豊富で、創造魔法を使うにしても、
ほかの仕事にしても、予想だにしないような成果を上げる。
エメトセルク : ……だが、彼女の聡明さと情熱は、
ときに彼女を余人には理解しがたい領域に連れていってしまう。
エメトセルク : いちばん遠くて近い人なのだ、と……
かつて彼女に教えを受けた、
弟子であり後任である奴が言っていたものだ。
ヒュトロダエウス : ヘルメスたちは、だいぶ近いよ。
奥に見える植物観察用の施設、「牙の園」にいるみたいだ。
エメトセルク : だったら、Tobari……
お前が行って、ヘルメスを呼んでこい。
エメトセルク : 私が行ったのでは、ファダニエルの座の件かと、
いらん警戒を受けるだろうからな。
この中で、奴がもっとも気軽に話せるのは、お前だろう?
ヒュトロダエウス : えっ、だけどあの場所は…………
ヒュトロダエウス : ……まあいっか。
Tobariは、ヴェーネス様と手合わせしたそうだし!
ヒュトロダエウス : ということで、キミにお任せだ!
「牙の園」の中にいるヘルメスに、声を掛けてきてあげてよ。
道中……気をつけてね!
メーティオン : あれ、Tobari……!?
ヘルメス : 君……どうしたんだ、こんなところで……!
エメトセルクたちと一緒じゃないのか……!?
ヘルメス : ファダニエルの座の話とは別の、大事な用件が……?
ヘルメス : あ、ああ、わかった……。
そういうことなら、この観察を終え次第、すぐに行く。
ヘルメス : 大丈夫だ、さほど時間はかからない。
君も、彼らとともに「牙の園」の外で待っていてくれ。
終わるまでここにいるのは、危険すぎる……。
メーティオン : 観察、終わったら、またね!
あと少しで、必要な記録、埋まるから!
ヘルメス : 自分は、ここの生物に襲われなくなるよう、
専用の術をかけてきている。
だから心配はいらない、外で待っていてくれ。
ヴェーネス : 必要そうなら助っ人に入ろうと思っていましたが、
危険な生物の相手も、手慣れたものですね。
大変お見事でした。
ヒュトロダエウス : やあやあ、おつかれさま。
ヘルメスとは、ちゃんと会えたようだね。
ヒュトロダエウス : ……うん、キミが体感してきたとおり、
「牙の園」は植物観察用の施設といっても、
危険性のあるものばかりが集められているんだ。
ヒュトロダエウス : とはいえキミは無事だったし、
ヘルメスも来てくれることになったんだろう?
結果は上々、文句はエメトセルクまで頼むよ!
ヒュトロダエウス : フフ……まあ、それはそれとしてさ……
ヘルメスと話をして、事態が良い方向に転がるといいね。
ヒュトロダエウス : 海底にアーモロートを再現しちゃうエメトセルクは、
少しばかり見てみたい気もするけれど……
この歴史ではそれが起きないのが、いちばんだろうし。
ヒュトロダエウス : キミが終末を退ける方法も、わかるといいよね。
『音なき言葉』
ヘルメス : 待たせてすまない。
十四人委員会の件とは別の、重要な話があると聞いたが……。
エメトセルク : ああ、あるとも。
まさしく信じられないような話がな。
エメトセルク : 私たちにしたのと同じ話をしてやれ。
お前が何者で、何を求めてここへ来たのか……。
ヘルメス : ……終末の、災厄……そんな……。
ヴェーネス : 私たちは今のところ、終末の現象の数々は、
デュナミスによって引き起こされているのではと考えています。
ヴェーネス : そして、ここでそれを最も熟知しているのは、
ヘルメス、あなたであろうと……。
ヴェーネス : 一方で、あなたが望んで終末を起こすとは思っていません。
ですので私たちは、糾弾するためではなく、
その知恵をお借りするために来たのです。
ヴェーネス : すぐにすべてを信じるのは難しいかもしれませんが……
この話を真実だとした場合の見解を、
聞かせてはいただけないでしょうか?
ヘルメス : ヴェーネス様……あなたまで……。
ヘルメス : ……確かに、二度の終末は、
いずれもデュナミスが作用したもののように思える。
ヘルメス : 顕著なのは、効果の表れ方だ。
一度目の終末では創造魔法を暴発させ、
再来した終末では、人そのものを変異させている……。
ヘルメス : この違いは、両時代の人が有するエーテル量の差によって、
生じているのではないだろうか……。
ヘルメス : 前にも話したとおり、エーテルが少ない方が、
デュナミスと繋がりやすい。
ヘルメス : 旧来の人、つまり自分たちは、
大量のエーテルを有しているためデュナミスと繋がりにくい。
そのため身体ではなく、行使する術の方に影響が出た。
ヘルメス : 一方で未来の人は……
本当に世界が分割されるのであればだが……
分かたれたぶんだけエーテルが薄い。
ヘルメス : よってデュナミスの干渉を受けやすく、
自身の変化を引き起こされたと考えられるだろう……。
ヘルメス : ただ、そうなのだとすれば……真に注目すべき点は……。
エメトセルク : ……憶測でもいい、言ってみろ。
ヘルメス : 真に注目すべき点は、絶望や恐怖、負の感情によってのみ、
それらの現象が引き起こされているという点だ。
ヘルメス : デュナミスは、想いによって作用する力……
だからこそ、作用を「受ける側」と「仕掛ける側」が、
同じ想いを抱いていれば効きやすくなる。
ヴェーネス : つまり、終末は星の循環不全などではない……
ヴェーネス : 何者かが負の感情によってデュナミスを動かし、
アーテリスを腐らせようとしている……と?
エメトセルク : とんだ不届き者がいたものだな……。
そいつの正体に、心当たりは?
ヘルメス : ……終末は、天脈の薄い地域から本格化する。
君は、そう言ったな。
ヘルメス : 天脈は、星のいちばん外側にあるエーテルの流れだ。
ヘルメス : もしも、デュナミスを用いた侵食が、
「星の外」から来ているのなら……
真っ先に食い破られるのは、そこになる。
メーティオン : こんにちは……聞こえますか……?
メーティオン : 私は……あなたに敵対する者じゃありません……。
メーティオン : あなたの音を聞き……想いを感じ……
考えを……知りたいのです……。
メーティオン : どうか……仲良くしてくれませんか……?
ヘルメス : メーティオン、どうしたんだ……?
メーティオン : 時間になりました。
自我をシャットダウンし、共有意識に接続……。
メーティオン : 姉妹(わたし)たちからの調査報告をお届けします。
メーティオン
: あ、あ、あ、うあああぁぁ……ッ!
メーティオン : 痛い……痛いぃ……苦しいよう……!
メーティオン :
やめて、熱い……熱い……わかんない……寒いの……。
寒くて痛い……痛くて……悲しい……。
ヘルメス : メーティオン、しっかりするんだ……!
メーティオン
: 悲しい……怖いよ……。
さみしい……苦しい……あぁぁ……ッ!
メーティオン : どして……私たち……こんな……
つらいよ……痛い……憎い……憎い……憎い!
メーティオン : 違う……こんなの……ダメ……!
エメトセルク : っ……離脱した……いや、消えた……!?
ヘルメス : 体内のエーテル量を調節して、環境と同化する迷彩だ……!
異星で出会った相手が友好的でなかった場合を想定して、
使えるようにしていた。
ヒュトロダエウス : 優秀! でもちょっとマズいね、これは。
ワタシにも視えないよ……!?
メーティオン : お願い……来ないで……。
こんなの嘘……私の間違いだよ……だから……!
ヴェーネス : 大丈夫ですか……?
ヴェーネス : メーティオンの声が?
いえ、私には、姿を消す間際のひとことしか……。
ヘルメス : 彼女の、言語に依らずに心を繋げる対話術も、
デュナミスを用いたものなんだ。
ヘルメス : 自分たちより、君の方が繋がりやすいのかもしれない……!
エメトセルク : なら、お前は声を頼りにメーティオンを探せ!
エメトセルク : 私たちも、手分けをして探すぞ。
どこまで肉薄できるかは怪しいものだがな……!
ヴェーネス : 物理的に確認できる範囲では、こちらに異常はありません……!
Tobari、心を静めて……
彼女の音なき声を、聞いて、感じて……!
ヒュトロダエウス : ああもう、エーテルを追えなかったら、
ワタシはただの愉快な局長になっちゃうんだけど!?
ヘルメスってば、本当にいい腕してるね……!
???? : こんにちは……こんにちは……。
メーティオン : 私たちの報告を、お伝えします……。
メーティオン : 嫌……報告なんて、しない……!
その人から離れて…………離れなさい……ッ!
メーティオン : お願い……追ってこないで……誰も……!
エメトセルク : チィッ、本当に視えん……!
Tobari、お前は奴の心の声を頼りに探せ!
メーティオン : これは何……?
どうして、こんなことになってしまったの……?
メーティオン : 姉妹(わたし)たちは宇宙を翔んでいた……
知的生命を探して……生きる意味を問うために……。
メーティオン : これが……こんなものが、答えなの……?
違う……違う……そんなはずない……!
???? : アーテリスに残った姉妹(わたし)に、ヘルメスに、
あの星に住む、すべての人にお知らせします……。
メーティオン : 私はいくつもの星々を渡り、
予定どおりに知的生命との邂逅を果たしました。
メーティオン : 彼らの答えを、この心で受け止めました……。
メーティオン : さあ、私から、わたしから、ワタシから、
報告をさせてください……。
メーティオン : こんな報告したくない……。
Tobari……聞いちゃダメ……!
メーティオン : 私は……どうしたら…………みんな…………。
エメトセルク : どうだ、メーティオンは見つかったか!
エメトセルク : 厄介だな……。
どこかへ向かっているわけではなく、
ただ闇雲に逃げているだけとは……!
ヴェーネス : ヘルメス、今の状況をどう見ますか?
ヘルメス : 宇宙に放たれているものも含め、すべてのメーティオンは、
共有意識というひとつの精神に繋がっている……。
そこに何らかの異常が発生したのかもしれない……。
ヴェーネス : その共有意識を、こちらから操作する方法は?
ヘルメス : 共有意識は、メーティオンたちの心に等しい。
ヘルメス : 他人ができることは、いずれかの個体を通じて、
呼びかけることくらいだ……。
ヴェーネス : では、あの個体を逃がしてしまった場合、
こちらから共有意識に働きかけるすべはなくなる……
ヴェーネス : メーティオンたちに何が起きたのかを知ることも、
今後について指示を出すことも、できなくなるのですね?
エメトセルク : なら、もたもたしている暇はない……!
どうにかして奴を捕獲するぞ!
ヘルメス : メーティオン……君は……
他の星の生命から、どんな想いを受け取ったんだ……?
ヘルメス : どうしてそれを聞かせるのを拒む……?
自分は……本当にそれを聞き届けなくていいのだろうか……。
『声を追い、彷徨っては躓く』
ヴェーネス : 終末の災厄は、星の外からの、
デュナミスによるエーテルの侵食……
絶望、恐怖、不安……負の感情がそれを促進する……。
ヴェーネス : 嫌なピースがそろってきたものですね……。
ともかく、あの子の確保を急ぎましょう……!
ヒュトロダエウス : こんなことになるなら、
先にメーティオンのイデアを登録してもらえばよかったよ。
あとから創った個体を共有意識に繋げる方法があれば、だけど!
エメトセルク : ただ探すだけでは、後手にまわるだけだ。
何か、別の手を……。
ヘルメス : ああ、すまない……こんなときに考えごとなど……。
とにかく、まずはメーティオンを探すとしよう。
ヒュトロダエウス : ふと思ったのだけど、メーティオンが見えなくなっているのは、
「体内のエーテル量を調節して、環境と同化する迷彩」
を使っているからなんだよね?
ヒュトロダエウス : それなら、彼女にエーテルを分け与えれば、
迷彩を解除することができるんじゃないかな。
ほら、最初にキミの存在を補強したときみたいにさ!
エメトセルク : 簡単に言ってくれるな。
さすがに、どこにいるかもわからない相手に、
あの術は使えないぞ。
ヒュトロダエウス : だから、キミとTobariで協力するのさ。
ヒュトロダエウス : Tobariがさっきと同じ方法で、
メーティオンの大まかな位置を探しあてる。
キミはそれに同行して、エーテルを注ぎ迷彩を破るんだ。
ヴェーネス : 名案ですね。
幸い、彼女が逃げ込んだこの先は、
行き止まりの「レーテー海」……
ヴェーネス : 姿さえ見えるようになれば、
行き先に回り込むようなことも、容易でしょう。
ヒュトロダエウス : だったら決まりだね。
Tobariとエメトセルクは、
メーティオンを追いかけ、姿を露わにする係。
ヒュトロダエウス : そのほかは、彼女の移動経路が見え次第、先回りをする係だ。
ワタシとエメトセルクが互いのエーテルを視て、連携をとるよ。
それじゃあ、頼んだからね!
エメトセルク : 仕方ない……ふたりでメーティオンを追うぞ。
まずはどちらの方向に行ったのかを、さっきの要領で探し出せ。
エメトセルク : 私は、メーティオンに即座に魔法をかけられるようにしておく。
道中で有象無象に絡まれたときには、お前が相手をしろ。
……任せたぞ。
エメトセルク : メーティオンが直進して桟橋の方に行ったのか、
はたまた脇道にそれたのか……まずはそれを調べる必要がある。
エメトセルク : 今の奴の声はお前にしか聞こえないんだ、先導は任せるぞ。
メーティオン : 翔べない……!
自我のシャットダウンが近いから……!?
メーティオン : だったら、隠れなきゃ……みんなに見つからないところへ……!
エメトセルク : 泉の中に入ったというのか!?
まったく、どこまでも手を焼かせる……!
エメトセルク : だが、あれだけ開けていれば、
そうそう隠れられる場所などないはずだ。
次こそは捕らえるぞ……!
エメトセルク : ええい、ここまで来て水に入るなど……!
アゼムに知られてたまるか、
ヒュトロダエウスを徹底的に口留めしなくては……。
エメトセルク : だが、それもこれも後回しだ!
今は泉に隠れたメーティオンを探すぞ!
エメトセルク : ああ、ここから岸沿いの岩を伝っていけば、
難なく滝の下と行き来できそうだな。
エメトセルク : ……いいか、飛び降りるだなんて真似、絶対にするなよ。
非常時でも、やっていいことと悪いことがある。
全身ずぶ濡れだなんて、私は御免だ!
メーティオン : お願い……気づかないで……通り過ぎて……!
エメトセルク : そこか……ッ!
メーティオン : 姿が……消せない……!?
▼逃げなくて大丈夫だ、メーティオン!
メーティオン : Tobari……何か言ったの……?
もう、よく聞こえない……。
メーティオン : 私じゃ「これ」を止められないの……。
だからどうか、逃げさせて……私とみんなを、引き離して……。
メーティオン : せめて告げないことでしか……私は……みんなを…………。
エメトセルク : これでヒュトロダエウスたちにも、
メーティオンが捕捉できるようになった……!
エメトセルク : あとはあいつらが回り込んで、
私たちがそこまでメーティオンを追い込むだけだ!
エメトセルク : ひとまずメーティオンを追いかけるぞ!
ヒュトロダエウスたちの位置は、私が適宜、確かめる
エメトセルク : いたぞ、あそこだ!
エメトセルク : ……なるほど、そこか!
エメトセルク : お前はそのままメーティオンを追え!
泉の中央にある東屋に追い込むんだ。
ヘルメス : ……話をさせてくれ、メーティオン。
メーティオン : ああ……ごめんなさい……。
ごめんなさい、ヘルメス……みんな……。
メーティオン : この声が最後に誰かに届くなら……お願い……!
メーティオン : みんなを……護って…………。
メーティオン : 自我のシャットダウン、完了。
共有意識への接続、安定しています。
メーティオン : お待たせしました。
星々の調査が完了したので、ご報告をさしあげます。
メーティオン : 私たちの全個体が、今回目的としていた星々に到着……
ヘルメスより預かった問いへの回答を求め、
知的生命との接触を試みました。
メーティオン : それぞれの星における結果を、以下、
識別番号順にお伝えします。
メーティオン : 1番目(エーナ)……文明形成の痕跡あり。
住居と思しき建造物はあるものの、現存する生命はなし。
メーティオン : 2番目(ディオ)……大破した建造物の残骸が点在。
地表は氷に覆われ、生命は検知できず。
メーティオン : 3番目(トゥリア)……都市と呼べる住居集合体が現存。
知的「生命」は存在しないが、
かつてそうであったとする思念体が残留している。
メーティオン : 4番目(テーセラ)……こちらも住居と思しき建造物あり、現存生命はなし。
疫病ないし汚染が死滅の原因と推定される……。
ヘルメス : そんな……生きている者は、誰もいないのか……?
メーティオン : 8番目(オクト)……全土で大規模な戦闘中。
住民との接触を果たすが、彼らは間もなく破壊兵器により全滅。
メーティオン : 9番目(エンネア)……一面の砂漠、植物に類する生命も発見できず。
砂の中に、比較的アーテリスの人に近い形状の骨が多数存在。
知的生命であったかは判断不能……。
エメトセルク : おい、ヘルメス……。
改めて聞くが、お前がメーティオンに託した問いは何だった?
ヘルメス : 生きる理由を……命の意味を、どう考えるかと……。
エメトセルク : では、その問いの前提が間違っていたらどうなる?
エメトセルク : 生きる理由も、命の意味も、生きていればこそ……
それを望んでいてこそ答えられるものだ。
エメトセルク : もし、メーティオンがどれだけ翔んでも、
生きている者がいなかったら……
エメトセルク : 生きたいなどと望んでいる者が、
誰ひとりとしていなかったとしたら。
エメトセルク : ……そいつはこの星に、どんな答えを持ち帰ってくる?
ヴェーネス : メーティオン、もうおやめなさい。
探索をすぐに中断して、全員帰還するのです。
メーティオン : 15番目(デカペンデ)……
特定の個体を神子と呼称し、文化の中核としていた。
しかし、その神子の暴動によって全滅。
メーティオン : 私にそれを語った神子本人も、
問いを提示したところ、回答と称して自害……知的生命消失。
エメトセルク : チッ、聞く耳を持たずか……!
エメトセルク : メーティオンを、アーモロートに連れていくぞ。
こいつを足掛かりとして、
一連の個体を回収する手立てを考える必要がある。
ヘルメス : あ、ああ……。
ヘルメス : メーティオン……自分は……。
ヘルメス : 自分は、君が今直面している答えを、切り捨てていいのか……?
ヘルメス : 切り捨てられても仕方のない想いを、
それでも聞いてほしいと願っていたのは……誰だった……?
ヘルメス : ……ああ。
どんな答えが届いたとしても、頭ごなしに否定したりしない。
そう言ったのは、確かに自分だった。
エメトセルク : 何のつもりだ……!
ヘルメス : メーティオンは、まだ連れて行かせない。
彼女の報告は、終わっていないのだから。
ヘルメス : すべてを聞いて、どうするかを決めるのはそのあとだ。
悪いが、邪魔をしないでくれ……!
エメトセルク : 大馬鹿者め……!
エメトセルク : ヘルメス、どうしてだ……!
何故お前は、「それだけのもの」を捨て置けない……!
エメトセルク : 創造生物をエーテルに戻すことを悼み、
よその星の生命が生きる理由を聞き届けようとする……
エメトセルク : そんなことをしなければ、
お前は、この善き世界から零れ落ちることはなかった。
誰もがそうであるように、幸せでいられたろうに……!
ヴェーネス : ……ヘルメスがメーティオンの報告を聞き届けるだけなら、
それは、彼に許された時間といえるでしょう。
ヴェーネス : しかし、報告を受けて何かを判断するとき……
それは世界の命運を分かつ瞬間となるでしょう。
私たちは、必ずそこに立ち会わなければなりません。
エメトセルク : お前には理解できるのか……?
ヘルメスの想いが……考えが……。
『幸せを運ぶ鳥』
ヒュトロダエウス : ……ヘルメスは、ヒュペルボレア造物院に向かったよ。
ヒュトロダエウス : あの中は複数の空間が繋げてあるから、
さすがにワタシでも追い切れない。
でも、飛び込んだ位置からして、最上層にいると思う。
ヒュトロダエウス : どうする……追いかけるかい?
エメトセルク : 当然だ……ヘルメスの考えがどうであれ、
脅威へと転じかねないメーティオンは、
こちらの管理下に置いておく必要がある。
エメトセルク : 星がために人を導く十四人委員会として、この決定は譲れない。
ヒュトロダエウス : ヴェーネス様とTobariも、
それでいいですか?
ヴェーネス : ええ、極めて危うい状況ですが、
現状ではまだ、メーティオンが終末を起こすという、
決定的な決め手を得たわけではありません。
ヴェーネス : 真実を知るためにも、ともに行きましょう。
何より……あの状態のメーティオンとヘルメスを、
放ってはおけませんもの。
ヒュトロダエウス : わかったよ。
……それじゃあ行こう、ヘルメスが逃げ込んだ、
ヒュペルボレア造物院に!
ヴェーネス : これは…………
ヴェーネス : すみません、造物院で何かあったのですか?
造物院の職員 : ああ、ヴェーネス様……それに来客の皆様も……。
造物院の職員 : 私たちも何が何やらさっぱりなのですが、
唐突に警報が鳴り、院内が警戒態勢に移行したのです。
造物院の職員 : それで、ひとまずこうして外に避難してきた次第でして……。
エメトセルク : ……ヘルメスの仕業だろうな。
ヒュトロダエウス : 警戒態勢っていうのは、どういう状態なんだい?
造物院の職員 : 創造生物が脱走した場合などを想定して、
院内すべてに鈍化の魔法が掛かった状態です。
造物院の職員 : 職員や観察者は効果を受けないようになっていますが、
それ以外は……創造生物であれ人であれ、
動きが鈍り、能力が制限されます。
ヒュトロダエウス : ……なるほど、教えてくれてありがとう。
ワタシたちはヘルメスに火急の用事があるから、
勝手に出入りするかもしれないけれど、心配は無用だよ。
ヒュトロダエウス : とは言ったものの……
これだけなりふり構わず侵入を拒んでいるとなると、
ほかにも妨害を仕掛けられるかもしれないよね。
ヒュトロダエウス : 対してこちらは、鈍化の魔法の対象……
本領発揮とはいかないようだ。
ヒュトロダエウス : まあワタシ、どのみち視ること以外は役に立たないんだけど!
エメトセルク : ならその眼を役立てろ。
弱点を射抜くのなら、お前、そこそこ得意じゃないか。
ヒュトロダエウス : ええー……?
キミの基準で「得意」とか言われても困るんだけど……。
ヴェーネス : 心配せずとも、できる戦い方をしてもらえれば大丈夫です。
あとは私の方で、あなたたちに合わせます。
ヴェーネス : これでも、元アゼムですので。
護り手、攻め手、癒し手のいずれであろうと……抜かりなく。
ヒュトロダエウス : さすがヴェーネス様、頼もしい!
ヒュトロダエウス : ほらエメトセルク、キミも威厳を見せるところだよ!
キミの十八番といえば大魔法をドッカドッカと放つことだけど、
器用だし、その力を護りの方にも回せるでしょ?
エメトセルク : ハァ!?
いやまあ、やれないことも……ないが……
ヒュトロダエウス : よしきた!
これで大抵のことは、なんとかなりそうだね。
ヴェーネス : Tobari、采配はあなたが。
ヘルメスに拒まれようとも、
必ず彼と、メーティオンのもとへ辿り着きましょう。
ヴェーネス : 互いの、未来のために……!
ヴェーネス : メーティオンが集めた答えを受け取るのが、別の者だったなら、
他の星の生命が何を言ったとしても、
「私たちはこれで幸せなのだ」と返したでしょう。
ヴェーネス : けれど、ヘルメスは、その幸せに異を唱えた……
現状が完璧ではないと考えたからこそ、
天の彼方に見解を求めたのです。
ヴェーネス : ……彼の苦悩は、わからないでもありません。
私も世界の流れに反して「死に損なった」者ですから。
ヴェーネス : それでも……少なくとも私にとっては……
たとえ完璧でなくとも、この世界は美しく愛しい。
だから私は、星の滅びを防ぎたいのです。
ヒュトロダエウス : ヘルメスは最上層にいるだろうって言ったけど、
造物院の中を移動するのは、そう簡単なことじゃない……。
ヒュトロダエウス : さっきも言ったとおり、複数の空間が繋ぎ合わされて、
外観からは想像できないほど広大になっているからね。
ヒュトロダエウス : ……でも大丈夫、エメトセルクがいるし、ヴェーネス様がいる。
一応おまけで、ワタシもね?
だから心配せず行こう、Tobari。
エメトセルク : お前を拾ったせいで妙なことに巻き込まれたが、
まあ……結果として、得るものはあった。
エメトセルク : デュナミスという未知の力の存在……
それが想いによって作用し、
状況によってはエーテルを侵食するほどの力になること……
エメトセルク : お前の話を信じるかどうかは別として、
それらの事実そのものは、議論の対象となっていくだろう。
エメトセルク : だからこそ、私が今すべきことはひとつ……
十四人委員会の一員として、必ずメーティオンを回収する。
それをしまい込んでいる、ヘルメスごとな。
エメトセルク : ……時間だ、ヘルメス。
メーティオンの身柄は、十四人委員会が預からせてもらう。
エメトセルク : それから、ファダニエルへの推挙の話をどうするにせよ、
お前にも来てもらうぞ。
状況を見極めるには、その知識が必要だ。
ヘルメス : メーティオン……。
できることなら、君の報告をゆっくり聞きたかった……。
ヘルメス : その意味を考え、しかるべき言葉で伝え、
みんなに己の行いを問い直してほしかった……。
ヘルメス : 自分が力及ばぬばかりに、その機会は失われようとしている。
だが……。
ヘルメス : 君と自分の命運が、他人に委ねられてしまう前に、
せめてこれだけは聞かせてほしい。
ヘルメス : 彼方の星に、幸せは……命の意味は……
ヘルメス : 生きる歓びは、あったのだろうか……?
メーティオン : ……私たちは、言いつけどおりに探しました。
メーティオン : あるときは遺された記録から。
またあるときは、死して漂う思念体から。
メーティオン : ときには絶命間際の遺言を聞き、
知的生命たちの想いを、心で受け止めてきたのです。
メーティオン : ある生命は、親愛にあふれる世界を目指していました。
メーティオン : しかし、傷つけあわないための断絶……
すなわち孤独に蝕まれ、壊れていきました。
メーティオン : ある生命は、より良き暮らしを求めて発展に勤しみました。
メーティオン : ……ゆえに襲われ、略奪された。
報復で相手を滅ぼしましたが、彼らもすでに再起不能でした。
メーティオン : ある生命は、悲劇の根源は有限な時間にあると考え、
時間からの脱却を……無限を探し求めました。
メーティオン : 結果わかったのは、宇宙でさえも有限であり、
終わりからは逃げられないという事実。
彼らは未来とともに、生きる理由を失いました。
メーティオン : ある生命は、怒りや悲しみを呼び起こすもの、
その一切を捨て去りました。
メーティオン : 同時に歓びも薄れ、生に意味はなくなり、
静かなる自滅がはじまりました……。
メーティオン : 誰もが声で、心で、歴史で訴えていました。
一生懸命に生きたのだと。
メーティオン : 最善を目指して、精一杯歩んできたのだと。
メーティオン : ……その上で、彼らは思い知ったのです。
メーティオン :
絶望は、悲しみは、怒りは、孤独は、恐怖は、諦めは、
決してなくすことなどできないのだと。
メーティオン :
ゆえに私は、わたしとワタシ、私たちは……
この心に溶けあった、すべての先ゆく者たちは、終わりを謳う。
メーティオン :
恋しい人、美しいアーテリスの輝ける命たち。
苦しいくせに意味のない、生の軛から解き放ってあげる……。
メーティオン :
何にもならないんですもの、何もしなくっていいでしょう?
終わりは合理的で美しい……乱れ得ぬ静穏、唯一の安らぎよ。
メーティオン : さあ……天の果てに巣をつくり、
星という星から死と終焉を集めましょう。
メーティオン : そうしてもっとうまく、強く謳うの。
エーテルで覆われたこの星にも、ちゃんと終わりが届くように。
メーティオン : それが答え。
天つ星々からアーテリスの命に贈る、結論よ。
エメトセルク : ふざけるな……!
私たちの終わりを、勝手に決めることは許さない!
エメトセルク : 何のつもりだ……!
今の話を聞いてなお、そちらに味方するつもりか!?
そいつが終末を起こそうとしているんだぞ!?
ヘルメス : ……自分たちは、星を善くするために、
基準に見合わなかった生命を屠ってきた。
ヘルメス : それは、終わることこそ救いだと信じて、
私たちを屠るのと、どう違うのだろう。
エメトセルク : そんなものは詭弁だ……!
ヘルメス : ああ、そうだな。
自分はきっと正しくない。
だが、君たちも正しくはないよ。
ヘルメス : だから、測らなければならないんだ。
ヘルメス : ここはエルピス、生命の実験場……
所長ヘルメスの名において、「人」の裁定を執り行おう。
ヘルメス : 人がもし、命を見つめ直し、生きたいと渇望したなら……
それに足るだけのものであるならば、
いかに真理であると謳おうが、終わりは退けられるだろう。
ヘルメス : そうでなければ、星ごと滅びるのみ……。
ヘルメス : そして、裁定である以上は、公正を期さなければならない。
ヘルメス : 起動せよ……カイロス!
カイロス : 記憶改変機構、カイロス、起動。
主よ、用件を承りましょう。
ヘルメス : ヒュペルボレア造物院全域を対象に、
記憶の消去と変更を行う……。
ヘルメス : 起点は、プロピュライオンに、
十四人委員会エメトセルクが到着した瞬間とする。
以降、現在に至るまでの記憶を消去……。
ヘルメス : 同時に、以下の情報を、
辛うじて思い出せる程度に焼き込んでくれ。
ヘルメス : ……自分はここで、エメトセルクとヒュトロダエウスに、
日ごろ研究に用いているカイロスを見せようとした。
ヘルメス : しかし、折悪くメーティオンの共有意識が暴走。
存在を維持できなくなった彼女は、
宇宙にいる者も含め、すべてが弾けて消え去った。
ヘルメス : その際の衝撃でカイロスが誤作動……
自分たちも含め、館内にいた者の数日分の記憶を焼き消した。
カイロス : 承知いたしました。
作動準備……3プロセス中、第1プロセスを開始します……。
ヒュトロダエウス : さすがだね。
それだけまっさらにしてくれたら、確かに公正だ。
ヒュトロダエウス : キミに出会ったことも、教えてもらった未来の話も、
メーティオンが変わり果てたって事実さえ、
消えてなくなるんだから……!
ヘルメス : 行くんだ、メーティオン。
誰の手も届かない、天の果てまで。
メーティオン :
あなたも連れて行きましょうか、ヘルメス。
血肉を棄ててくれるならば、きっと運べるわ。
ヘルメス : ……自分は最後まで人として、君のもたらす終わりに抗おう。
メーティオン :
馬鹿な人……。
頷いてくれたら、いちばん優しく終わりにしてあげたのに。
ヴェーネス : 行かせは……しません……ッ!
ヘルメス : さあ、翔べッ!
エメトセルク : お前の相手は私だ、ヘルメスッ!
ヴェーネス : 来て、アルゴス!
カイロス : 記憶改変作動準備、第1プロセス完了。
第2プロセスに移行します……。
ヒュトロダエウス : 焦らせてくれるなぁ……!
ヒュトロダエウス : いいかい、キミは絶対に今日のことを忘れちゃダメだ。
ここで知ったことは、未来を救うための鍵でもあるんだから。
ヒュトロダエウス : 極論、ここでメーティオンやワタシたちがどうなろうが、
それはあくまでこちらの歴史……ワタシたちの戦いだ。
ヒュトロダエウス : そして、キミにはキミの戦いが待っている……。
ほかの誰も、代わりはできないんだ。
ヒュトロダエウス : だからとにかく脱出が優先!
わかったらワタシにお任せあれだ。
ヒュトロダエウス : さあ、どこにある……?
ヒュトロダエウス : あった、空間の繋ぎ目だ!
ヴェーネス : あと少し……!
ヴェーネス : だったら、これを……ッ!
ヴェーネス : 天の果てであろうと、私たちは、必ず……ッ!
ヒュトロダエウス : メーティオンが逃げたのか……!
カイロス : 第2プロセス完了、最終プロセスに移行します……。
ヒュトロダエウス : っと、悔しがってる場合じゃないね。
ヒュトロダエウス : いいかい、造物院の内部を形成する複数の空間、
その繋ぎ目がこの先にあるんだ。
ヒュトロダエウス : ワタシが矢で繋ぎ目を壊して、外への出口をこじ開ける。
そこへ飛び込むんだ。
ヘルメス : 君には、謝ることさえできないな……。
ヘルメス : だが、逃がすわけにはいかないんだ!
ヒュトロダエウス : ……キミならそうするって思った!
ヒュトロダエウス : さすがはエメトセルク、完璧な仕事だね!
ヘルメス : どういうことだ……?
空間の繋ぎ目は、あちらにあったのでは……。
ヒュトロダエウス : そうだよね、こんなもの、
視えるのはワタシとエメトセルクくらいのものだ。
エメトセルク : 最初から、空間の繋ぎ目はこちらにあった。
エメトセルク : あいつらがもったいつけて「何もない方」に向かったとき、
陽動をしてやるという意味だと気づいたわけだ。
ヒュトロダエウス : そもそも、ワタシの矢なんかじゃ繋ぎ目は壊せないしね!
エメトセルク : まったく馬鹿げたやり方だ……。
だが生憎、どこぞの困った旧友のせいで、
そういうのに付き合い慣れていてな。
エメトセルク : そして、馬鹿な無茶に親しんでいるのは、私たちだけじゃない。
エメトセルク : なにせあいつに座を託した人だ。
彼女だって、すぐに理解しただろうさ。
エメトセルク : 時間がない、そのまま行け!
エメトセルク : ……私はお前の話した未来を、今も信じちゃいない。
そんな無様な歴史になどするつもりはない。
エメトセルク : だが、それでも、あえて言うのなら……
エメトセルク : 「私」に託されたものを、投げ出すなよ。
カイロス : 最終プロセス完了。
記憶の消去および改変を実行します。
ヴェーネス : アルゴス……ッ!
ヴェーネス : 大丈夫……少し疲れが出ただけです……。
ヴェーネス : この天の光すべてが、終わりを迎えた骸だというの……?
ヴェーネス : 生きることを……
世界を美しいと思っていたのは、私たちだけ……。
ヴェーネス : 先ゆくほかの星々は、もうとっくに、
見切りをつけていたと……?
ヴェーネス : けれど……
ヴェーネス : 果てしなく遠くても、確かに感じる。
彼女の存在を……いつか至るべき場所があることを。
ヴェーネス : メーティオンが翔び去る直前、追跡の術を彼女にかけたのです。
ヴェーネス : 彼女はすでにアーテリスを出て、今なお離れ続けている。
これだけ遠いと、正しい位置を割り出すのも、
容易ではないでしょう。
ヴェーネス : ですが、手掛かりにはなる……。
エメトセルクとヒュトロダエウスのおかげで、
記憶だって残っています。
ヴェーネス : 私たちは、何もできなくなったわけではありません。
▼エメトセルクたちはどうなっただろう……
ヴェーネス : 造物院の様子を見に行ってみましょう。
彼らはまだそこにいるはずです。
ヴェーネス : ただ、彼らの記憶がどうなっているか定かでない以上、
私たちが直接会いに行くのは避けるべきかと……。
ヴェーネス : あなたに頼めるかしら。
今日は無茶ばかりでごめんなさい……。
これが終わったら、休んで構わないわ。
ヴェーネス : アルゴスと感覚を共有します。
彼の見聞きすることを、私たちも見聞きできるのです。
ヴェーネス : さあ、目を閉じて、意識を静めて……。
造物院の職員 : お三方とも、ご無事で何よりです。
エメトセルク : これが無事なものか!
エルピスについたあたりからの記憶が、
綺麗さっぱり吹き飛んでいるんだぞ……。
ヘルメス : すまない……本当に……。
ヘルメス : 彼らに日々の仕事を見せる一環として、
カイロスを見せようとしていたんだ……。
ヘルメス : だが、メーティオンが……暴走して……消滅を……。
造物院の職員 : ああ……。
その影響で院内が警戒態勢になったのですね。
造物院の職員 : そして、様子を見にいらっしゃった皆様ごと、
カイロスの誤作動に巻き込まれた……
といったところでしょうか。
エメトセルク : どうやらそうらしい。
そんな直近の記憶でさえ、ほとんど思い出せないがな。
造物院の職員 : 大変な目に遭われましたね……。
ともに入られたヴェーネス様たちはご無事でしたか?
エメトセルク : 彼女がここにいたのか?
ヒュトロダエウス : 残念だけど、一緒にいたかどうかすら覚えてないね……。
ヒュトロダエウス : だけど、ほら見て、そこに彼女の使い魔がいるよ。
助けを求めている様子でもないし、ひとまずは無事みたいだ。
ヒュトロダエウス : でも今、ヴェーネス様「たち」って言わなかったかい?
ほかにも誰か、ワタシたちと一緒に院内へ?
造物院の職員 : ああ、ええ……。
しかし、その者はどうも雰囲気が違っていましたし、
容姿も私たちとは少し異なっているようでした。
造物院の職員 : もしやあれも、どなたかの使い魔だったのかもしれません。
ヒュトロダエウス : へぇ……それもヴェーネス様のかな。
いつか機会があったら聞いてみるよ。
エメトセルク : それよりも、まずはヘルメスの手当てだ。
おおかた、メーティオンとかいう使い魔の暴走に、
巻き込まれでもしたんだろう。
エメトセルク : そのあと、アーモロートに行くぞ。
記憶喪失以外に問題がないか、念のため調べるべきだ。
エメトセルク : あとは、お前に十四人委員会関連の通達がある。
……思い出せないだけで、一度した話だろうがな。
ヘルメス : ああ……わかった……世話をかける……。
ヒュトロダエウス : カイロスって、エーテル放射で記憶を操作してるんだよね。
ヒュトロダエウス : 強い放射によって焼かれた記憶も、
星に還り、魂が洗われるときには思い出す……
なんて学説を唱えている人もいるじゃない?
ヒュトロダエウス : だったらワタシたちも、いつか還ったときに思い出すのかな?
この、失われた時間のことをさ。
エメトセルク : たった数日だ、どうせ大したことはしていないだろう。
私なら、もっとほかのことを思い返しながら消えたいものだ。
ヴェーネス : 少しだけ……今は少しだけ、休みましょう……。
ヴェーネス : あなたも、私も、まだ……
進まなければならないのだから……。
ヴェーネス : 少しは休めましたか……?
身体の方だけでも休息をとれると、だいぶ違いますから……。
ヴェーネス : ……ヘルメスは、きっともう、
エンテレケイアを創ることはないのでしょうね。
ヴェーネス : メーティオンを大事にしていたからこそ……
それがすべて消滅したと認識しているのであれば、
酷く悲しみ、悔いるはず……。
ヴェーネス : 自分が世界に疑念を抱くことがなければ、
彼女を創り、死なせてしまうこともなかったのだと……
彼なら、己を責めるのでしょう。
ヴェーネス : だからこそ、十四人委員会に入る。
そしていつか、ファダニエルとして、
終末と対峙するのかもしれませんね……。
『生まれ死んで答を得る』
ヴェーネス : Tobari……。
私たちが為すべきことは、ヘルメスを糾弾することでも、
エメトセルクたちに追い縋ることでもありません。
ヴェーネス : この失われた日々が、
それでも「なかった」わけではないのだと、
ふたりで証明をすること……
ヴェーネス : つまり、ここで知ったことを頼りに、
終末に抗っていくことです。
ヴェーネス : 私は、この時代で……。
あなたは、あなたの時代で……。
ヴェーネス : …………さあ、もう一度、歩み出しましょう。
プロピュライオンまで、見送りにいきますね。
ヴェーネス : あなたの時代に繋がる時空の門が開いているのは、
この中でよかったでしょうか……?
▼やっぱり、まだこの時代に残って……
ヴェーネス : その気持ちに感謝します。
ですが、ここから先はどうしても、
長期的な計画で動かざるを得ないでしょう。
ヴェーネス : 今は安定しているとはいえ、
あなたがここに延々と滞在し続けることは、
それだけで危険を伴う……。
ヴェーネス : だから、あなたは、あなたの戦うべき場所へ戻り、
ここで知ったことを役立ててほしいのです。
エメトセルクたちに報いるためにも。
ヴェーネス : メーティオンが宇宙のどこかにいる以上、
遅かれ早かれ、いつかは終末が訪れるでしょう。
ヴェーネス : それまでに、いったいどれだけのことができるのか……。
防御策の模索や、星の外をゆく方法の検討、
やるべきことは山積みです。
ヴェーネス : かといって、野放図にこの件を拡散するわけにもいきません。
多くの星が終わりを望んでいるという話を安易に振りまけば、
ますます手のつけられない事態になりかねない。
ヴェーネス : 頼れる者から伝えていって、着実に事を進めていかないと……。
ヴェーネス : 本来なら十四人委員会にも協力を仰ぎたいところですが、
ヘルメスがまっさらな状態からの裁定を望んでいた以上、
彼がこの件を知れば、次はどうなるか……。
ヴェーネス : かといって、彼と委員会を引き離せば、
終末が来たときに対策を検討し得る人材を削ぐことになる。
ヴェーネス : 難しいところですね……。
やはり、彼らは彼ら、私は私で、道を探すしかないのかしら。
ヴェーネス : いずれにせよ、事態を根本的に解決するためには、
ヘルメスの問いに、答えを示さなければなりません。
……人は、生きるに足るものだと。
ヴェーネス : 大事なのは、終末を前に……
不可避の絶望や理不尽な死を前に、何ができるか。
ヴェーネス : それらと対峙したときに立ち尽くすだけでは、
乗り越えられずに終わりを迎えた、先ゆく星々と同じです。
ヴェーネス : 終末を切り抜けることもできなければ、
彼らの巣へ辿り着けたとて、手も足も出ずに敗北するでしょう。
ヴェーネス : 絶望に抗い、踏み越える術を、
見出していかなければなりません。
私も皆も……できるだけ多くの人が。
ヴェーネス : 大勢の背中を押していくのは、重く、困難なことでしょう……。
ヴェーネス : けれど私は、人の可能性を愛した。
不可能よりもずっと。
……進む理由は、それで十分。
ヴェーネス : この先に待つのは、あなたが知るのとは別の歴史かもしれない。
あるいはエメトセルクたちが記憶を失ったことで、
繋がる見込みも生じたのかもしれませんが……
ヴェーネス : どちらにせよそれは、繋がる瞬間まで知り得ぬこと。
私はあなたから聞いたことをすべてと思わず、
最善を尽くし続けましょう。
ヴェーネス : だからあなたも、最後まで歩き続けて。
ヴェーネス : あなたが前へと足を進めているとき、私もそうしている……
同じように明日を求める者が、必ずあなたに寄り添うでしょう。
ヴェーネス : その果てで、私たちが……
人が、絶望に立ち向かえる強さを得たならば……
ヴェーネス : 終焉を謳うものに、叩きつけにいきましょう。
ヴェーネス : 人の答えを……
私たちの旅は、終わるには惜しいものなのだと。
ヴェーネス : 約束よ、遥か遠い未来の光。
さようなら、あるいはまたいつか……。
そして私は 燃える空を見上げている
今なお この地上から
降り注ぐ星は悲しみ 海を濁らせるのは嘆き
木々を腐らせるのは諦観か
恐怖が 慣れ親しんだ技を狂わせる――
かつて善き世界を目指し 果たせなかった者たちの
終わりを謳う唄だった――
天の果てに巣くうのは
もはや使い魔などではないのだろう
終わりの理 そのものだ
人はその日 同胞の半数を贄として
ゾディアークを創り出した
厚いエーテルでアーテリスを覆い
終末を遠ざけたのだ
拭い去ることのできない悲嘆
もはや誰もが忘れていた 望まぬ死が
人を深く傷つけた
初めて知った痛みは 耐えがたく
それを知らなかったころ 輝かしき過日に
人々の心を縛りつけてしまった
奮い立つ古代人 : 見るに堪えない……。
なぜ苦しまなければならないのか。
乞い願う古代人 : もとに戻すのだ、何もかも。
曇りなき世界に……楽園に帰ろう……。
ヴェーネス : ……いいえ、いけません。
私たちは今、苦しみを知り、悲しみを知り、絶望を知った。
ヴェーネス : それらは、いかなる文明も消し去れなかったもの。
生きていくことを望めば、添っていかなければならない相手。
ヴェーネス : この惨劇をなかったことにするのではなく、
胸に刻んで進みましょう。
それこそが、生きる強さを得るということ……!
奮い立つ古代人 : ありえない……これが現実であっていいはずがない……!
私たちは創れていたはずだ、何の憂いもない、善き世界を!
ヴェーネス : いいえ、いいえ!
この世界にも憂いはあった、苦難はあった。
それがたまたま人に向いていなかっただけなのです!
ヴェーネス : お願い、どうか目を開いて……!
命を捧げて命を生み、それを繰り返してもとに戻ろうだなんて、
到底、進歩とは言えません。
ヴェーネス : 楽園でしか生きられない、そんなものにならないで……!
影なき国を創り得ない以上、
いつかは決定的に破綻してしまいます!
乞い願う古代人 : ああ、ゾディアーク……我らの創りし神よ……!
どうか祈りを聞き届けたまえ。
乞い願う古代人 : 命を喰らい、命を紡げ……
そして私たちを帰しておくれ……。
乞い願う古代人 : 星と愛しあっていた、ただ幸せだった、あの日々に……!
奮い立つ古代人 : 壊そうというのか、この美しき世界を。
ヴェーネス : ……眼前に広がる地平、吸い込まれるような空。
静かだけれど力強い、自然の息遣い。
ヴェーネス : それらの合間に、人の営みが明かりを灯し、言の葉を響かせる。
そんな光景に胸があたたかくなった……。
ヴェーネス : 何より、出会う人そのものが、たまらなく好きだった……。
ヴェーネス : それでも、だからこそ、私は信じているのです。
ヴェーネス : 人の可能性を……
どんなふうにだって、生きられるということを。
ヴェーネス : 私は、あなたたちを分かつ。
よすがの神ごと、二度と戻れぬ形に変えよう。
ヴェーネス : 楽園へ至る翼、仮初の全能は失われた。
ヴェーネス : 人はここから歩き出すのだ。
――どこもかしこも激しく痛む
胸は苦しく 呼吸さえもままならない
新生した世界では すべての命が困難の中にある
瞬く間に命が流れ去り
澱むことなく まだ見ぬ方へと進んでいく
一瞬ごと 生まれ 死にながら
それぞれが答えを得ようとしている
なぜ命を与えられながら死にゆくのか
無力でも叫び問うている――
不完全なる者は それゆえに
終わらぬ探求の旅を続けるのだ
探せ――
終わりを知ってなお 立ち竦まぬ強さを
探せ――
もつれた足を 先に進ませるものを
探せ――
暗闇のうちに 歓びを
絶望の中でも 消えぬ光を
私とあなた、ふたつの時間が交わりかけています――
あなたがこの言葉の意味を知るとき
過酷な試練を超える力を その旅路のうちに得ていたのなら
遠い遠い 時の彼方で交わされた約束を 果たしましょう
『拡がる終末』
グ・ラハ・ティア : みんな逃げろ!
グ・ラハ・ティア : ここから離れてろ……行け!
グ・ラハ・ティア : 失くさせない……ひとつでも……。
ここは、多くの希望を託された未来だ……!
グ・ラハ・ティア : 終末だろうが何だろうが、踏みにじらせて、たまるかッ!
アリゼー : まったくだわ……。
お父様もいるのに、膝をついてちゃ、
「見てて」って言ったのが台無しじゃない……。
アリゼー : あの背中にだって、追いつけやしない……。
アリゼー : エオルゼアの剣になってくれた人に、
いつまでも独りで切り込ませていられないのよ……ッ!
▼お待たせ!
アリゼー : ……私ひとりでも、やれたんだけどね。
グ・ラハ・ティア : おかえり、準備は万全か?
アリゼー : さっさと片づけて、次へ行くわよ!
アルフィノ : 今更、いったいどういうつもりだ……?
ゼノス・ヴェトル・ガルヴァス : 見たことのない獣がいた、ゆえに斬ってみた。
ゼノス・ヴェトル・ガルヴァス : が、脆かったな……。
これでは到底、鍛錬にならぬ。
アリゼー : 鍛錬って……。
あなた、この状況でもまだ、再戦だなんだって考えてるの!?
ゼノス・ヴェトル・ガルヴァス : もとより、そのためだけに得た生だ。
ほかの何に費やす道理もない。
ゼノス・ヴェトル・ガルヴァス : ……しかし、お前はいまだ、別の獲物を見据えているのだろう。
ゼノス・ヴェトル・ガルヴァス : その熱は俺に及ばず、さりとて、
怒りや絶望で強引に奪えるものでもないらしい……。
ゼノス・ヴェトル・ガルヴァス : ゆえにただ、牙を研いでいる。
今は、それだけだ。
ユルス : お前……何を言ってるんだ……?
ユルス : ガレマール帝国が壊れたんだぞ……
俺たちの祖国が……お前たちが治めた国が!
ユルス : 帝都はあの有様だ……大勢死んだ……。
ゼノス・ヴェトル・ガルヴァス : 貴様は今、俺になぜと問うたな。
……馬鹿馬鹿しい。
ゼノス・ヴェトル・ガルヴァス : 現実に納得するための理由を、他者になど求めて何になる。
そんなもの、たとえ地の果て、天の果てまで問い求めようが、
返ってくるのは誰ぞの都合よ。
ゼノス・ヴェトル・ガルヴァス : 己が生に横臥することごとく、
それに意味を、答えを出すのは己自身だ。
ゼノス・ヴェトル・ガルヴァス : 貴様が自らの答えとして剣を抜くというのなら、
俺は俺の道理にて、その身を技の糧にしてやろう。
ユルス : ……お前の存在は、ガレアンにとって猛毒だ。
怒りも悲しみも、全部吐き出して叩きつけてやりたくなる。
ユルス : だが、アルフィノの言うように、
それが悲劇の引き金になるなら……
俺はもう、お前のせいで血を分けた仲間を失いたくはない。
ユルス : 行け……!
そして二度と、同胞の前に姿を現すな……!
アリゼー : ……ゼノス!
アリゼー : あなたの生き方は強いわ。
一理あるとも思う……。
アリゼー : けどね、それで他人を傷つけてたら、
あなたはずっと孤独なまま。
再戦だってなんだって、望まれるわけないわ。
アリゼー : 人に求めることがあるならば、自分が愉しむだけじゃなく、
一緒に愉しめるように考えるものよ。
アリゼー : そんなこともわからないなら……永久にふられてなさい。