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猛々しき狩猟民 シュバラール族は
この地を「青の森」――ヤクテル樹海と呼ぶ
大昔に隕石が降り注いだことで形成された環境
セノーテや特殊な植生の青を 森の象徴としたのだろう
シュバラール属とマムージャ族の争いが続いてきたこの地で
継承の儀は佳境を迎えることになる――





フンムルク : 君たちには、私たちシュバラール族に伝わる伝統料理、
シャブルク・ピビルを作ってもらいたい。
サレージャ : 料理を作れとは……
ここに来て、またふざけた試練ですか。
ウクラマト : そりゃ、一見、王位とは関係なさそうな試練かもしれねぇけど、
きっとこれにも意味があんだろ。
コーナ : ああ、父上が意味のないことをさせるとは思えない。
国の未来がかかっているとなれば、なおさらだ。
サンクレッド : 頼もしくなってきたな、うちの王子たちは。
アルフィノ : それに、彼らの伝統料理を作るというこの試練、
サレージャが言うほどふざけたものとも思えない。
アルフィノ : 食文化には、その土地の文化や歴史が、
色濃く反映されるものだからね。
アリゼー : ガレマルドの料理には、
農耕民としてのガレアンの文化が反映されてたわね。
寒いから煮込み料理が多かったのも覚えてるわ。
ウクラマト : 言われてみればたしかに……!
これまで会ってきた連中も、
みんな違ったものを食べたり飲んだりしてたよな。
ウクラマト : 魔力を維持するために葦を食べてたハヌハヌ族……。
いろんな飲み物を作ってたペルペル族は、
それを商売の種にもしてた。
ウクラマト : そうか……食事を知るってことは、
そこに生きる奴らを知るってことでもあるんだな。
コーナ : 思えば、継承の儀は学びの連続だった……。
試練を超えようとするたびに、
その土地の歴史や文化について知識が深まっていったんだ。
コーナ : それこそが、この旅を企図した父上の狙いだったのか……。
コーナ : だが、トライヨラの未来を豊かにするのは、
旧来の文化じゃなく、新たな技術であるはずだ。
父上ほどの御方なら、それをわかっているはずなのに……。
『森の狩人、シュバラール族』




ウケブ : シュバラール族とマムージャ族の戦争は、
端的に申しますと土地を巡る争いとなります。
ウケブ : マムージャ族が棲まう下の森は、
日照量が少なく、地力も弱いため実りが少ない……。
ゆえに日の当たる土地を求め、戦いを挑んできたのです。
ウケブ : しかし、高地に陣取る側に地の利があるのは必定、
しばらくはシュバラール族優勢の戦いが続きました。
コーナ : それでも、この村が滅びるほどの何かが……
戦況を変える出来事が起こったのですね?
ウケブ : ええ……マムージャ族が劣勢を覆すに至った要因、
それは、おふたりもよく知る存在が誕生したことです。
ウケブ : 当時のマムージャ陣営は一枚岩とは言えず……
フビゴ族、ブネワ族、ドプロ族の三部族が、
主導権を争っていました。
ウケブ : そんな状態で我らとの戦争が始まったものですから、
戦場でさえ手柄を奪い合う有様であったとか。
ウケブ : しかしあるとき、フビゴの族長が部族間の連携を強化しようと、
ブネワの族長に、互いの子らを婚姻させる政略結婚を申し出た。
それが運命を思わぬ方向へと導きます。
ウケブ : その時代には、同じマムージャ族であっても、
異部族同士では、子を成せないと思われていました。
ウケブ : ところが生まれてしまったのです。
両部族の血を引いた異形の存在……双頭が。
ウケブ : そして、双頭は、
頑強な肉体と高い魔力を兼ね備えた戦士として成長……。
やがて「祝福の兄弟」と呼ばれ、三部族を束ねる王となった。
コーナ : その力がどれほどのものか、僕たちはよくわかっていますよ。
ウケブ : 双頭の台頭によって結束したマムージャ族が、
シュバラール族に猛攻を加えたのは、言うまでもないこと。
以後、戦は激化の一途を辿ることになります。
ウケブ : ここを南へ進んだ先に、
当時の戦場となった「ショブリト灰戦場(はいせんじょう)」があります。
続きはそこでお話ししましょう。
ウケブ : ここが、シュバラール族とマムージャ族の戦いにおいて、
主戦場となった「ショブリト灰戦場」です。
コーナ : 文字どおり灰燼に帰した、この土地を見れば、
どれだけ苛烈な戦いだったのか、察することができますね。
ウケブ : 一族の伝承によれば、
ヨカフイ族が去った500年ほど前から、
森の支配権をかけた争いが始まったのだとか……。
ウケブ : 以来、400年以上にもわたり、幾度もの大戦と、
数えきれない小競り合いが繰り返されてきました。
コーナ : そんな歴史的な戦いを、80年ほど前に、
この地を訪れた父上が終わらせた。
ウケブ : グルージャジャ様は、たった6人の仲間とともに、
シュバラール族とマムージャ族の陣営を相手取った。
結果、見事に戦場を制圧したのです。
ウクラマト : さすがは全盛期のヴァリガルマンダを封印した連中だぜ……。
ウケブ : そうして半ば強引に戦いを中断させたグルージャジャ様は、
争い合う両部族を集めて、会談の場を設けたといいます。
武のグルージャジャ : 先祖が争っていたからというだけで、
お前たちは何百年も飽きずに戦ってきたわけだが……
今日限りで終いにしてもらうぞ!
猛々しいシュバラール族 : その言葉は、我らが森を奪わんとするトカゲ野郎に言え!
こやつらさえいなければ、我らは平穏に暮らしていけるのだ!
剛健なフビゴ族 : 臆病者が……!
そんなに戦いたくないのなら、
大人しく森を明け渡し、尻尾を巻いて逃げ去るがいい!
理のグルージャジャ : どちらか一方が決定的な勝利を得て、もう一方を排除したとて、
いずれまた、次の侵略者が現れるだけです。
理のグルージャジャ : あなたがたは、この海の外にほかの大陸が存在し、
いくつもの国々が覇を競い合っていることをご存知ですか?
理のグルージャジャ : 無理もありません。
大洋を越える方法を持たぬわたくしどもには、
その事実を知る術がありませんでしたからね。
理のグルージャジャ : しかし……やってきたのですよ。
大海原を渡り、この大陸(トラル)へとたどり着いた、
外つ国からの来訪者が。
猛々しいシュバラール族 : ふむ、トナワータ族の大男かと思っていたが、
よく見てみれば、違うようだな……。
剛健なフビゴ族 : なぁ……俺は海を見たことがあるが、
見渡す限り水ばかりで、ほかの大陸なんて見えなかったぞ!
見えないほど遠くにあるなら、どんな船があれば渡れるんだ?
理のグルージャジャ : 問題は、そのような船を我らは作れないという点ですよ。
わたくしどもよりも優れた技術を持つ国が存在し、
トラルの存在を知ったのです。
理のグルージャジャ : 彼らのうちの、いずれかの国がトラルに目をつけて、
支配しようと欲望を燃やしたら……どうなると思いますか?
理のグルージャジャ : おわかりになりましたか?
外つ国の侵略者が、いつ現れるとも限らないということが。
理のグルージャジャ : そうならぬために肝要なのは、
トラルに生きる人々がひとつに団結し、隙を見せぬこと。
もはや小さな部族同士で争っている場合ではありません。
武のグルージャジャ : オレらひとりひとりの力など、たかが知れてる。
だが、互いを知り、手を取り合うことで、
ヴァリガルマンダほどの大きな力にだって対抗できるんだ。
剛健なフビゴ族 : あのヴァリガルマンダに……!?
剛健なフビゴ族 : 言葉だけでは到底信じられないが、
戦場で、お前たちに敗れた今となっては……。
猛々しいシュバラール族 : ああ……こいつらの連携は見上げたものだ……。
弩砲を守るために怪力のヨカフイ族の足元を狙ったら、
ペルペル族の奴に素早く阻まれた。
猛々しいシュバラール族 : すかさず距離を取ってそいつを弓で射抜こうとしたら、
今度はハヌハヌ族が風の魔法で矢をはたき落としてくる……。
互いの弱点を、互いの長所で補う戦いぶりは圧巻だった。
理のグルージャジャ : それが、多部族が手を取り合うことによって生まれる強さ……
わたくしどもが興そうとしているのは、そういう国なのですよ。
猛々しいシュバラール族 : ……しかし、これまで殺し合ってきた相手と、
どうやって手を取り合えというのだ。
武のグルージャジャ : 騙されたと思って、ひと晩だけ付き合え。
ウケブ : そうして始まったのが、伝説の酒宴……。
ウケブ : むろん殺し合いを続けていた部族同士が、
いきなり肩を組んで酒を酌み交わせるはずもなく、
長い沈黙が続いたのだとか。
ウケブ : ここでグルージャジャ様が一計を案じました。
シュバラール族の肉料理と、マムージャ族の蒸し料理、
これを交換させて、互いに食わせたのです。
ウケブ : 相手の伝統料理の美味さに思わず目をみはる両部族を見て、
彼は満足そうに笑うと、ひとつの提案をしたそうです。
ウケブ : ふたつの料理をかけ合わせるぞ、と……。
そして、皆に手伝わせて調理を始めました。
ウクラマト : それが、シャブルク・ピビルってことか!?
ウケブ : あの料理は、
シュバラール族とマムージャ族の文化を合わせて生まれました。
いわば、両部族が初めて手を取り合った証なのです。
ウケブ : 当初交わしたひと晩だけという取り決めは、どこへやら。
新たに生まれた料理の美味さに、両部族の仲はほぐれ、
その宴は三日三晩も続いたのだとか……。
ウケブ : かくして宴の終わりに、両部族は和議を結びました。
このとき、グルージャジャ様が語ったとされる言葉は、
今なお我らの道筋を照らしています。
理のグルージャジャ : 無知ゆえに争い……
武のグルージャジャ : 知りて絆を結ぶ。
ウクラマト : ハハハハハハハハ!!
ウクラマト : いや、悪い悪い。
ウクラマト : この旅でさ、知らなかった奴らのことを知るほどに、
好きになっていく自分に気づいてたんだ。
オヤジたちも同じだったんだって思ったら、おかしくてさ。
コーナ : 「無知ゆえに争い、知りて絆を結ぶ」……か。
ウケブ : さて、これでおわかりいただけましたかな。
両部族に起こった戦いの結末と、
シャブルク・ピビルという料理にこめられた意味を。
ウクラマト : ああ、バッチリだ!
教えてくれてありがとな、ウケブ!
ウクラマト : なんだ、どうかしたのか?
ウクラマト : だれかが近くにいた……?
コーナ : もしかすると、サレージャかバクージャジャあたりが、
また何かを企んでいるのかもしれないですね。
ウクラマト : ったく……あいつらにこそ、今の話を聞かせてやりてぇぜ。
『無知ゆえに争い、知りて絆を結ぶ』



フンムルク : この香り、味、食感……間違いない。
まさにシャブルク・ピビルだ。
フンムルク : この料理は、ふたつの部族の架け橋……。
そのきっかけを作ってくださったのが、君たちのお父上さ。
フンムルク : ただ材料を揃え、レシピを調べるだけでも、作ることはできる。
だが君と仲間たちは、その製法に加えて、
ヤクテル樹海に刻まれた戦いの歴史まで知ろうとした。
フンムルク : 世代を超えて、悲しき歴史を学ぶ……。
それこそまさに、次代の王とその仲間として、
相応しい行いと言える。
フンムルク : あとは、シャブルク・ピビルを平らげさえすれば、
「食の試練」は君たちの勝利だ。
実際に食べなければ、「知った」とは言えないからね。
ウクラマト : よっしゃ、食うのは大得意だぜ!
サレージャ : まだ、私たちの敗北が決まったわけではありますまい。
サレージャ : さあ、検めていただきましょうか。
これがシャブルク・ピビルであることを。
フンムルク : やはりな……。
フンムルク : 確かに、見た目や製法はシャブルク・ピビルそのものだが……
ウクラマト王女たちのものと比べて、香りが足りない。
サレージャ : そ、そんなバカな!
サレージャ : イブルクの肉を香辛料に漬け込み、
地面に掘った穴を釜代わりにして蒸し焼きにする。
これぞ、シャブルク・ピビルでしょう!?
フンムルク : なるほど。
ジャティーカバナナの葉が手に入らなかったのか。
戦のバクージャジャ : 仕方ねェだろうが!
てめェが根回ししたせいで、
どこにもありゃしねェんだからよ!
フンムルク : だが、ウクラマト王女とコーナ王子は手に入れたようだが?
私たちのことを、より知ろうとすることでね。
戦のバクージャジャ : ……だからなんだっつーの!
葉っぱひとつなくたって、大した違いはねェだろ!
フンムルク : マムージャ族の文化を象徴する要素のひとつを欠いたのだ。
この「食の試練」を完遂したとは言えまい。
残念だが、君たちは試練に失敗した。
魔のバクージャジャ : フン……どうでもいいよ、くだらない。
クルル : 感じる……最初のときより、ずっと強烈で仄暗い意志……
とても、家族に向けるようなものじゃ……。
戦のバクージャジャ : ケッ、こんな試練に意味なんてねェ!
秘石なんざ、あとでいくらでも奪えばいいんだからなァ!
ウクラマト : うめぇー!
ウクラマト : ホロホロになるまで煮込んだイブルクの肉に、
香辛料とジャティーカバナナの葉の香りが染み込んで……
クセになる美味さだぜ!
ウクラマト : こいつは、ふたつの部族が平和を築いた象徴。
それを知ろうともせず、力や謀(はかりごと)に訴えるような奴らには、
シャブルク・ピビルの美味さはわからねぇだろうさ。
魔のバクージャジャ : そんなの、わかりたくもないね。
フンムルク : さあ、すべて平らげてこその「食の試練」だ。
ウクラマト : 言われなくたって、全部いただくぜ!
ウクラマト : はぁ~、美味かったぁ~。
ウクラマト : 最高だったぜ、お前の作ったメシ。
冒険者だけじゃなくて、宮廷料理人って道もあるんじゃねぇか?
コーナ : ……意外と、悪くありませんでしたね。
フンムルク : 見事「食の試練」を超えた君たちに、
その証として秘石を贈ろう。
ウクラマト : ついに、試練もあとひとつか……。
コーナ : じゃあ、僕たちは行くよ。
コーナ : 組んだのが、皆さんで……
いえ、ゾラージャ兄さんやバクージャジャではなくて良かった。
『食の試練』




クルル : 20年ほど前に、この集落に異国の魔道士がやってきたはず……
彼について何かご存じであれば、教えてくれませんか?
フンムルク : ……なぜ、あの男のことを知ろうとする?
クルル : その魔道士こそ、私のおじいちゃんかもしれないから……。
フンムルク : 君の祖父……だと?
クルル : ええ、血は繋がっていなくとも、
おじいちゃんは、私にとって大切な家族です。
フンムルク : たしかに、異国の魔道士がこの村を訪れたことがある。
名を、ガラフといったか……。
フンムルク : その反応から察するに、
どうやら、ガラフ殿が君の祖父で間違いないようだね。
フンムルク : だが、すまない。
それ以上のことは話せないのだ。
ウクラマト : やっぱ、黄金郷が絡んでるのか?
フンムルク : ……察してくれ。
これ以上、私から言えることはない。
クルル : 気にしないでください。
あとは、自分の力で答えにたどり着いてみせますから。
クルル : せっかくですから、もうひとつ質問させてください。
この森に、かつてヨカフイ族が住んでいたと聞きました。
彼らの拠点があったのはどの辺りでしょうか?
フンムルク : ……たしかに500年ほど前まで、
ここヤクテル樹海は、ヨカフイ族が支配していた。
当時は下の森……ジャティーカ央森に居を構えていたと聞く。
フンムルク : サカ・トラルの出征を経た後に、
ひとり残らず根拠地のオルコ・パチャへ退いたようだがね。
クルル : ジャティーカ央森……そこで彼らは黄金郷の夢を……。
クルル : それだけ聞ければ十分です。
ありがとう、フンムルクさん。
フンムルク : ……今、君が歩もうとしている路に間違いはない。
黄金郷の謎を追っていけば、わかることもあるはずだよ。
フンムルク : 家族のことを知りたいと願う、君の気持ちはよくわかる。
協力できないのはもどかしいが……
真実にたどり着けることを祈っているよ。
『ふたりの父』



フンムルク : 本当は、何も言わずに、
君たちを見送ろうと思っていたのだがね。
どうやら、クルル殿の姿に感化されてしまったようだ。
フンムルク : ウクラマト王女が、君のような心を許せる仲間と出会えたこと、
同族としてとても喜ばしく思っている。
だからこそ、知っておいてもらいたい話があってね。
フンムルク : だが本題に入る前に、よければ聞かせてくれないか。
ここまで、彼女とどんな旅路を歩んできたのかを……。
フンムルク : フフ……そんなこともあったのか。
どうやらこの継承の儀は、
彼女にとってとても実りある旅となっているようだね。
フンムルク : 教えてくれて感謝する。
私には、ウクラマト王女を知りたいと願えども、
こうしてコソコソと聞くことしかできないのだから……。
フンムルク : では、次は私が話す番だ。
かつて我がもとにいた、娘のことを……。
フンムルク : シュバラール族に、女性が生まれることは稀だ。
だから、彼女の誕生は大きな喜びとなったのだが……
16年前にセノーテに落ち、若い命を散らせてしまった。
フンムルク : ……表向きはな。
だが、真実はまったく異なっている。
フンムルク : 愛すべき我が幼き娘は、
何者かに突き落とされたのだよ……。
フンムルク : 犯人は未だに発見されていないが、目撃者がいるのだ。
怪しい人影が、ジャティーカ央森へ走り去って行ったのを。
フンムルク : ジャティーカ央森と言えば、
マムージャ族の根拠地たるマムークがある場所だが……
彼らと結んだ融和を、疑いたくはない。
フンムルク : しかし、族長の子を……
シュバラール族の未来を担う女性を狙う意味は大きい。
一族を根絶やしにしようという思惑が潜んでいるからだ。
フンムルク : 故に私は、ふたたび命が狙われぬよう、
娘の死を偽装して、養子に出すことにしたのだ。
フンムルク : 連王グルージャジャ様のもとにね……。
フンムルク : その娘の名前は、ウクラマト……
シュバラール族の次期族長として生まれ、
現在はトライヨラの第一王女として、王位につかんとする者だ。
フンムルク : この事実を知る者は、私と連王以外にいない。
ではなぜ、君に明かしたのか……。
フンムルク : あくまで疑惑に過ぎないが、もしも娘の命を狙った者が、
マムークと関わりのある人物だったとすれば……。
その者はシュバラール族に対して、黒い感情を抱いているはず。
フンムルク : ウクラマトがセノーテに突き落とされたときのように、
何かが起こってからでは遅い。
フンムルク : 君にはこの先、注意深く目を光らせておいてもらいたいのだ。
すまないが、引き受けてくれるだろうか?
フンムルク : ありがとう。
念のため伝えておくが、これは連王の選者としてではなく、
かつて彼女の父だった者としての頼みだよ。
武王グルージャジャ : ここから先は、トライヨラの王としてじゃなくてよ、
ラマチのオヤジとして話がしたい。
悪いが、付き合ってくれるか?
フンムルク : その表情の意味はわからないが、引き受けてくれて助かるよ。
私とウクラマト……いや、ウクラマト王女の関係は、
ここだけの秘密にしておいてくれ。
『ふたりの父』



???? : おっと、お待ちくだせぇ。
ウクラマト : お前は、バクージャジャの手下の……。
アタシに何か用か?
フビゴ族の剣勇士 : 一緒に来てもらいましょうか、王女。
嫌なら断ってくれてもいいですが、
そのときは、あんたの大事な人がどんな目に遭うか……。
ウクラマト : アタシの大事な人だって?
いったい何のことだ。
フビゴ族の剣勇士 : お仲間の方は、心当たりがおありでしょう?
フビゴ族の剣勇士 : さすがは王女、ものわかりがいいようで。
それじゃ、大人しくついてきてくださいよ。
ウクラマト : どこまで連れていくつもりだ?
それに、アタシの大事な人って……
ウクラマト : フンムルク!?
なんでお前が……!
ウクラマト : バクージャジャ、てめぇどういうつもりだ!
アタシの秘石を奪うために、無関係な奴を巻きこむんじゃねぇ!
戦のバクージャジャ : 無関係だと?
この男ほど、お前と関係がある奴はいないだろうぜ!
戦のバクージャジャ : なんせ、このフンムルクこそ……
お前の、実の父親なんだからなァ!
魔のバクージャジャ : オイラたちの言うことは信じられないかい?
だけど、これは事実なのさ!
さっき、そこの冒険者と話してるのを聞いちゃったんだからッ!
ウクラマト : ホントなのか、フンムルクがアタシのオヤジだって……。
ウクラマト : そうか……お前が否定しないってことは、
事実なんだろうな……。
戦のバクージャジャ : 理解できたなら、持ってる秘石を賭けて、
オレサマとサシで勝負してもらうぜェ!
戦のバクージャジャ : もし、そこの冒険者が余計な邪魔をすれば……
戦のバクージャジャ : お前の父親を殺す!
ウクラマト : 汚い真似ばかりしやがって……
ウクラマト : 本当の父親とか、そんなことは関係ねぇ!
そこにいるのが誰だろうが、人質とられて黙ってられるか!!
ウクラマト : 来やがれバクージャジャ!
今日こそ、てめぇをぶっ飛ばしてやる!!
魔のバクージャジャ : 相変わらず、威勢だけはいい王女サマだ。
魔のバクージャジャ : 人質を丁重にお連れしろ。
取り戻そうなんていう、無粋な真似ができないようにね……。
魔のバクージャジャ : ……ちなみに、メスネコちゃんが負けたときも、
パパネコちゃんを殺すよう命じてあるんだ。
だって、その方が盛り上がるからねェ!!
ウクラマト : 心配すんな。
ここまで、お前と一緒に旅路を歩んできたんだ。
今さら、あんな野郎に負けるアタシじゃねぇさ。
ウクラマト : 安心しろよ、ビビリ兄弟!
お望みどおり、そっちは「ふたつ」、こっちは「ひとり」だ。
そうじゃなきゃ怖くて戦えないんだろ!?
戦のバクージャジャ : 誰がビビってるってェ……!?
▼手出しはしないから安心しろ、ビビリ野郎
戦のバクージャジャ : メスネコちゃんの飼育係の分際で、
このオレサマをコケにするのかッ!?
戦のバクージャジャ : 殺す、ころす、コロスゥ!!
戦のバクージャジャ : 後悔するなよ、冒険者ァ!!
お前の目の前で、メスネコちゃんを切り刻んでやるゥ!!
ウクラマト : おいおい……お前の相手は、このアタシだろ?
ウクラマト : 卑怯な真似しかできねぇビビリ野郎なんかに、
今さら負けてられるかよ!
ウクラマト : アタシはオヤジの跡を継いで、
みんなの笑顔を護る王になるんだ!



戦のバクージャジャ : 劣等種のメスネコちゃんが……せいぜい遊んでやるぜ!
戦のバクージャジャ : 切り刻むぜェ!
強き想いが力となる……!
魔のバクージャジャ : メスネコちゃん相手なら、この程度の魔法で十分さ!
戦のバクージャジャ : 吹き飛んじまいな!
強き想いが力となる……!
ウクラマト : 劣等種とかどうでもいい!
お前はアタシが倒す!
戦のバクージャジャ : いつまでその威勢が続くだろうなァ?
魔のバクージャジャ : メスネコちゃんの奴……なんか前と違うよ!
限界を突破せよ!
ウクラマト : アタシは、継承の儀をとおして知った……
ウクラマト : この国のこと、みんなのこと、自分のことを!
戦のバクージャジャ : そらそらそらァ!
魔のバクージャジャ : ほらほら、こんなのはどうだい?
魔のバクージャジャ : どれか本物か、メスネコちゃんにわかるかなァ?
強き想いが力となる……!
限界を突破せよ!
ウクラマト : 平和とは何か……
その意味がやっとわかった。
ウクラマト : みんなが笑顔で生きられる国を作ることなんだ!
戦のバクージャジャ : チィッ! しぶといだけの劣等種が!
魔のバクージャジャ : そろそろ殺っちゃおうよ、兄者!
バクージャジャ : これで終わりだ、劣等種!!
強き想いが力となる……!
戦のバクージャジャ : ぶっ潰してやるぜェ!
限界を突破せよ!
ウクラマト : オヤジの跡を継ぐってことは、ただ王になるだけじゃねぇ。
ウクラマト : オヤジが愛したすべてを、受け継いでいくってことだ!
戦のバクージャジャ : 劣等種ごときが、しつこいんだよォ!!
戦のバクージャジャ : こうなりゃ、全力で抹殺してやる!!
ウクラマト : アタシは王になるんだ!
みんなの……笑顔を護るために!!
強き想いが、限界を超えた力を紡ぐ……!
ウクラマト : だからこんなところで……
お前なんかに、負けてたまるかぁぁぁ!!
戦のバクージャジャ : バ、バカな……
オレサマの全力だぞ!?
フビゴ族の剣勇士 : もう見てられませんぜ!
俺たちも加勢します!
戦のバクージャジャ : オレサマとメスネコちゃんの決闘だぞ!
魔のバクージャジャ : オイラたちに恥をかかせるつもりかい!?
フビゴ族の槍勇士 : うるせぇ!
これはあんただけの戦いじゃねぇんだ!
フビゴ族の槍勇士 : こんなところで負けてもらっちゃ困るんだよ!
ウクラマト : 今さら仲間割れかよ!
たいした優等種様だぜ!
ウクラマト : 何人でかかってこようが、アタシは負けねぇ!
ウクラマト : アタシの勝利を、信じてくれてる奴がいるからだ!
強き想いが力となる……!
ドプロ族の妖賢士 : この自信……
いったい、何が彼女を変えたんだ!?



ウクラマト : 盗られた秘石は、たしかに返してもらったぜ。
戦のバクージャジャ : バ、バカな……
このオレサマが、劣等種に力負けした……!?
魔のバクージャジャ : しかも、手下の加勢を受けてなお、
たったひとりのメスネコちゃんを相手に……。
ウクラマト : お前はこれまで、汚い手段を何度も使ってきたな。
ウクラマト : 神輿を奪おうとリヌハヌたちを脅したり、
ヴァリガルマンダの封印を解いたり……
アタシだけならまだしも、まわりを危険に晒してきた!
ウクラマト : だが、その卑劣な行いもここまでだ!
もう二度と、みんなの笑顔は奪わせねぇ!
フビゴ族の剣勇士 : そっちの道はアンタが塞いだの、忘れたのかよ……。
ウクラマト : なに?
あれはバクージャジャの仕業だったのか!
フビゴ族の剣勇士 : 叙事詩に描かれている連王の旅路で、
まだ行ってないのは「友の章」の舞台であるマムークだけ。
フビゴ族の剣勇士 : だから、マムーク方面に行くための洞窟を塞いでおけば、
立ち往生したアンタらを、こうして誘いだせる。
残りの秘石を奪うためにね。
ウクラマト : そういうことか……
って、そんなべらべら喋っていいのかよ?
フビゴ族の剣勇士 : 構いやしませんよ。
どうせ、俺たちの負けなんだから……。
フビゴ族の剣勇士 : 約束どおり、人質は解放しましょう。
フンムルク : すまない、手間をかけさせたね。
ウクラマト : 怪我とかしてねぇか?
ウクラマト : あのさ……お前がアタシのオヤジだってのは……
フンムルク : それにしても、あのバクージャジャを打ち破るとは!
さすがは「グルージャジャ様のご息女」だ!
フンムルク : トライヨラの第一王女、ウクラマト様。
今日までのあなたの成長を、私も誇らしく思っております。
ウクラマト : ……ああ。
アタシの名はウクラマト。
ウクラマト : 連王グルージャジャの娘であり、この国の王となる者だ!
『笑顔を護るための戦い』




コーナ : マムークに通じる道は、まだ塞がったままのようです。
最後の試練に備えて、今は身体を休めておきましょう。
コーナ : ……ラマチじゃありませんが、お腹が空きましたね。
あとで炊事場を借りて、シャブルク・ピビルでも作りますか。
ウリエンジェ : どうやら、お気に召したようですね。
ウリエンジェ : 恥ずかしがる必要はありません。
馴染みなき事物に触れ、知りて魅力に気づき、好ましく思う。
それはとても自然なことです。
コーナ : そう、僕は無知すぎたんですよ……。
これまでトライヨラの人々が守り続けてきたものや、
これからも受け継いでいこうとしているもののことを……。
コーナ : 父上は、トライヨラ叙事詩の旅路をとおして、
この大陸に生きる人々と絆を結んでいった。
それがのちのトライヨラの建国に繋がったのです。
コーナ : なのに、僕は……
外つ国の技術で、トライヨラを変えることに夢中になるあまり、
そこに生きる人々のことを見ようとしてこなかった。
コーナ : こんな僕が王になったところで、
民と絆を結ぶことなど、できるとは思えません。
サンクレッド : 絆を結ぶってのは、相手を認め、相手に認められるってことだ。
サンクレッド : それは決して簡単なことじゃないが……
ひとつだけ、俺たちからお前に助言してやれることがある。
サンクレッド : まずは、相手にお前のことを知ってもらうんだ。
何を見て笑い、何を見て悲しみ、何に対して怒りを覚えるのか。
心の内を知れば、自然と距離も縮まるもんさ。
コーナ : 「無知ゆえに争い、知りて絆を結ぶ」……。
コーナ : ですが、どうやって僕のことを知ってもらえば……
ウリエンジェ : 私も、他人に想いを伝えることが酷く苦手です。
それゆえに、あなたには親近感を覚えもするのですが、
これだけは申し上げたい。
ウリエンジェ : 覚束ない言葉であろうと、伝えてこそ始まるものもあるのです。
サンクレッド : 初めて会ったとき、王を目指す理由を尋ねたよな。
すると、お前はこう答えた。
サンクレッド : 「外つ国の技術を使い、人々を豊かにしたい。
 それが孤児だった自分を王子として遇し、
 留学させてくれたことへの恩返しになるはずだから」とな。
サンクレッド : 俺は、何をしたいのかって計画じゃなく、
何故そうしたいのかって理由で、お前を気に入ったんだ。
サンクレッド : トライヨラの連中にも同じように伝えてやれ。
そうすりゃ、気づいてもらえるはずさ。
サンクレッド : その仏頂面の下に隠した想いをな。
コーナ : 今後はもう少しだけ、努力してみます。
想いを言葉に……乗せられるように。
『ティーンベク洞道を抜けて』




ゾラージャ : 私では超えられんというのか……幻影すらも……!!
ウクラマト : ゾラージャ兄さん、それに……オヤジ!?
アルフィノ : あのグルージャジャ殿は、本人ではない。
全盛期の彼を、呪具で再現した幻影のようだ。
コーナ : あの壺のような呪具を操る彼こそがマムークの長であり、
最後の「連王の選者」でもあるゼレージャ……。
ゼレージャ : トライヨラでは最強の武人と呼ばれているらしいが、
ヒトツアタマなんぞに、「双頭を超える」ことなどできぬわ。
せめて、素直に付き人の加勢を認めれば良かったものを。
アルフィノ : グルージャジャ殿の幻影を倒して、
双頭を超える存在であることを証明せよ……
それこそが、彼が課した試練らしい。
アルフィノ : そして、ゾラージャ王子は単身で試練に挑み、敗北した。
だが、真の問題はそのあとの振る舞い……。
彼はただ負けただけではなく……
ゼレージャ : 愚か者め。
敗北を認めていれば「友の試練」の失格だけで済んだものを、
私に刃を向けるとはな……。
ゼレージャ : 継承の儀から追放となった貴様は、継承候補者にあらず。
どこへなりとも消えるがよい。
サレージャ : まだ終わってはおりませんぞ。
黄金郷にたどり着くのは、この私です……。
コーナ : 「友の試練」に失敗した兄さんは、
ゼレージャに斬りかかって秘石を奪おうとしたのさ。
だが、それも阻まれた……父上の幻影によってね。
ゼレージャ : おお、愛しい息子よ。
よく来たな。
ゼレージャ : 連王グルージャジャを超えられるのは、
「祝福の兄弟」たる双頭として生まれた者だけ。
この試練は、お前のためにあつらえたようなものだ。
ゼレージャ : さあ、試練を始める前に、
ここまでの旅で得た素晴らしい成果を、父に見せてくれ。
ゼレージャ : どういうことだ……なぜ秘石が揃っていない!?
ゼレージャ : これまで何をしていたのだ、バクージャジャ!
ゼレージャ : まあよい、お前にも事情があったのだろう。
案ずることはない、足りなければ奪えばよいのだから。
ゼレージャ : たとえば……そこのふたりからな。
戦のバクージャジャ : 奪おうとしたさ……けど、負けちまった。
何度やったって、オレサマじゃ王女には勝てねェ。
ゼレージャ : 最高の双頭になるべく育てられたお前が、
あのような劣等種に負けた……だと?
ゼレージャ : もはや、ここにお前の居場所はない。
ゼレージャ : ほかの兄弟たち同様、私の目の前から消えろ!
この失敗作が!!
魔のバクージャジャ : ……行こう、兄者。
ゼレージャ : この継承の儀で!
我らが王権を手にするはずだったのに!
あの出来損ないめ!
ゼレージャ : いや……すべての継承候補者が敗退すれば、
グルージャジャとて、玉座に座り続けるしかあるまい。
さすれば、いずれ改めて継承の儀が行われるはず……。
ゼレージャ : そのときに備え、新たな器を用意せねば。
ああそうだとも、残りもとっとと幻影に倒させて……。
ウクラマト : 試練は受けねぇぞ。
ゼレージャ : なに?
継承の儀を辞退するつもりか?
ウクラマト : ここまでの試練をとおして、アタシはその土地に住む人々や、
そいつらが大事にしてる文化に触れてきた。
ウクラマト : きっとこのマムークにも、
アタシが知らなきゃならないことがあるはずだ。
ウクラマト : 自分が治める国のことを知らないような奴に、
オヤジが王位を譲るわけがねぇからな。
試練を受けるのは、それからだ。
コーナ : 僕も同意見です。
父上があなたを連王の選者に任命したことを考えると、
ここにも、僕たちが知るべき何かがあるはずです。
ゼレージャ : せいぜい、ありもしない意味を探すがよい。
いずれにせよ、グルージャジャの幻影と戦い、
倒してみせねば、それまでだがな。
『樹海の民、マムージャ族』




ミーラジャ : 来てくれてありがとう。
私はミーラジャ。
ミーラジャ : ここなら、あなたたちと話しているところを、
マムークの人たちに見られることはないわ。
ウクラマト : それで、話ってのは?
ミーラジャ : あなたたちは……この街をどう思う?
ウクラマト : どうって言われてもな。
まともに話ができねぇ状態だから、
マムークについて何か言えるほど知っちゃいねぇよ。
ミーラジャ : 彼らが言葉を交わそうとしないのは、
今も街に残っている者が皆、「双血の教え」の信奉者だからよ。
ミーラジャ : 力と魔力を併せ持つ双頭こそ、
トラル大陸の人々を導くべき優れた種であるという思想よ。
加えて、他部族を劣等種と蔑み、見下し、拒んでいる。
アリゼー : バクージャジャも似たようなことを言ってたわ。
彼も「双血の教え」の信奉者だったってことなのね。
ミーラジャ : ……私はもう、疲れてしまったの。
「双血の教え」を信じ続けることに。
ミーラジャ : マムークの一部にも、私と同じように考えている人たちがいる。
皆、声を上げることができないだけでね。
ミーラジャ : けれど今なら、「双血の教え」に疑いを持つ人々の背中を、
押すことができるかもしれない。
ミーラジャ : あなたが、
双頭のバクージャジャに打ち勝った事実を知らせることで。
ミーラジャ : だって、「双血の教え」が劣等種と謳うシュバラール族の子が、
優れた種である双頭を、たったひとりで打ち負かしたんだもの。
ウクラマト : ま、次も勝てるとは限らねぇけどな。
あいつ、めちゃめちゃ強いし。
ウクラマト : そう、バクージャジャは強ぇんだよ。
正々堂々と戦えば、かなりの実力のはずなのに……
なんでか汚い真似ばっかりしやがってさ。
ミーラジャ : ……それは、あの子だけが悪いわけじゃないの。
ミーラジャ : これまでも、戦いに敗れた双頭はいた。
ミーラジャ : なのに、どうして「双血の教え」の人々は、
双頭を信奉し続けているのだと思う?
ウクラマト : ……オヤジか。
ミーラジャ : トラル大陸の頂点に立った史上初の存在は、
双頭のマムージャ族だった。
その事実が、彼らに双頭という夢を見せ続けている。
ミーラジャ : 私はそれを止めたいの。
マムークの人々に、「双血の教え」を捨てさせたい……。
ウクラマト : そりゃ、ほかの部族を見下すような考えは、良くねぇけどよ……
お前は、なんでそこまでして……。
ミーラジャ : あなたたちにも、知ってもらうのがいいでしょうね。
双頭を生み出すということが……どういうことなのかを。
『樹海の民、マムージャ族』




ウクラマト : 見せたい場所ってのは、この洞窟のことか?
ミーラジャ : 正確には、この洞窟を抜けた先よ。
ミーラジャ : ここから先は「双血の教え」の信奉者すら、
立ち入ることが許されない禁足地。
けれど心配しないで、すべての責任は私が取る。
ミーラジャ : あなたたちには、知ってもらいたいの。
これまで秘せられてきた双頭の真実を……。
ミーラジャ : さあ、行きましょう。
ウクラマト : ひぇぇ……高ぇなぁ……。
ミーラジャ : セノーテの中に、
石造りの桟橋のようなものが見えるでしょう?
目的地はあそこよ……。
アルフィノ : わざわざ、あんな場所に……
相当な労力をかけて造ったのだろうね。
ミーラジャ : あれは、ヨカフイ族が大昔に造った遺構だと聞いているわ。
その入口を、私たちの祖先が飾り直したそうなの……。
クルル : いったい何のために……?
ミーラジャ : ……見てもらった方が早いでしょうね。
私たちが使役する飛獣がいるから、
それを使って降りましょう。
ウクラマト : バクージャジャ、なんでこんなところに……。
戦のバクージャジャ : ……こっちの台詞だ。
ブザマに負けたオレサマを笑いにでも来たか?
ミーラジャ : 昔から悲しいことがあると、いつもここで泣いていたわね。
戦魔のバクージャジャ : 母上……!?
ミーラジャ : マムークのことを知ろうとしてくれた、ウクラマト王女なら……
私たちが背負ってきた罪を、終わらせてくれるかもしれない。
そう思って、ここに連れてきたの。
ミーラジャ : 話してもいいかしら。
あなたのことを。
戦のバクージャジャ : ……わかった。
だったら、オレサマの口から話す。
「双血の教え」が犯した罪の、これ以上ない当事者だからな。
戦のバクージャジャ : これを見ろ。
戦のバクージャジャ : この壺に入っているのは、双頭の赤子……その亡骸だ。
戦のバクージャジャ : あの遺構はな、死んだ赤子たちの魂が、
化けて死霊になっちまわねェように用意された慰霊堂なのさ。
魔のバクージャジャ : キミたちは、双頭がどうやって生まれてくるのか知ってるかい?
クルル : たしか、茶色い鱗のフビゴ族と、
青い鱗のブネワ族の異部族婚によって、生まれてくるって……。
魔のバクージャジャ : もともとは、シュバラール族との戦いが劣勢に陥った際、
内輪揉めを繰り返してきたマムージャの異部族同士が、
結束力を高めるために始めた婚姻関係だったんだ。
魔のバクージャジャ : すると、思いもよらなかったことが起きた。
フビゴ族とブネワ族が夫婦の契りを結んだ結果、
ふたつの頭を持ち、強大な力を持った子どもが生まれてきたのさ。
戦のバクージャジャ : その双頭の子が長じて戦士たちを率いるようになると、
シュバラール族との戦いでも、勝ちが続いてな。
一気に上の森まで戦線を押し上げちまったのよ。
戦のバクージャジャ : これに味を占めた一部の連中は、
さらなる双頭を求めて異部族婚を繰り返したってわけだ。
……それが、罪の始まりになるとも知らずにな。
戦のバクージャジャ : それから多くの卵が産み落とされたが……
ほとんどの赤子は、殻を破ることができず死んじまった。
魔のバクージャジャ : 無事に孵化する卵は、
百にひとつだなんて言われてるくらいさ。
戦のバクージャジャ : オレサマだってそうだ。
数えきれないほどの兄弟たちの命を犠牲にして、生まれてきた。
マムークの一族を、トラル大陸の頂点に立たせるために。
ウクラマト : 大人の都合で……酷すぎるだろ……。
戦のバクージャジャ : ああそうだ、酷いよな!
でも、取り返しなんてつきやしない……
オレサマは最初から、残骸の中に生まれたんだよッ!
戦のバクージャジャ : だから、オレサマは、負けるわけにはいかなかった!
殻の中で死んでいった兄弟たちの命に報いるために!
たとえどんな手を使ってでも、勝たなきゃならなかったんだ!
戦のバクージャジャ : なのに、結局このザマだ……みんなの命を無駄にした……。
▼その事情には同情するが……
戦のバクージャジャ : ……オレサマなんて、
いっそ生まれてこない方が良かったのかもなァ。
ウクラマト : それは違う……。
ウクラマト : 双頭として生まれたのも、
多くの赤子が犠牲になっていたのも、
お前自身が選んだことじゃねぇだろ……。
ウクラマト : 全部、「双頭」という妄執に取り憑かれた連中が、
やったことだろうが!
ウクラマト : そいつらの罪を、お前が背負うことはねぇんだ!
言えよ! 本当はどうしたいかって!
戦のバクージャジャ : もう……終わりにしてェ。
戦のバクージャジャ : これ以上、兄弟たちが犠牲になるのは……イヤだ。
ウクラマト : お前の願い、聞き届けた!
「双頭」を生みだし続ける奴らを、アタシが止めてやる!
アルフィノ : 「双血の教え」の信奉者たちが双頭を求めるのは、
トラル大陸の頂点に立つためだったね。
アルフィノ : ではなぜ、大陸の覇者を目指すのか。
その裏にある想いがわかれば、あるいは……。
クルル : ええ、それを知るためにも、
彼らと対話できるようになるといいのだけれど……。
戦のバクージャジャ : オレサマを連れていけ。
父上はともかく「双血の教え」を信じる連中にとって、
双頭の言葉は絶対だ。
ミーラジャ : ダメよ。
追放されたあなたが、まだ近くにいると知れば、
ゼレージャは黙っていないはず。
ミーラジャ : あなたの名前を使って、
皆をモシュトラル・ズージャに集めましょう。
そこで、王女様が知りたいことを、聞いてもらえばいい。
戦のバクージャジャ : なら、オレサマの鱗を持ってけ。
ちょうど、弟との継ぎ目あたりの鱗には、
フビゴ族の茶色と、ブネワ族の青色が混じってる。
戦のバクージャジャ : だからこそ、双頭に認められた者の証になる。
マムークにいる連中にこいつを見せれば、
呼び出しには応じるだろうよ。
戦のバクージャジャ : 今まで……悪かった。
言ったことも、やったことも。
今さら、許されるとは思っちゃいねェが……
ウクラマト : そうするほどの理由があったって、知れてよかった。
ウクラマト : だからよ……今はそんなに嫌いじゃねぇぜ?
戦魔のバクージャジャ : ありがとう、ウクラマト……。
アリゼー : ま、嫌いなままでいるより、
好きになれるなら、その方がずっと良いわよね。
アルフィノ : では、マムークの人々に声をかけてみよう。
バクージャジャに譲ってもらった鱗を見せながらね。
ウクラマト : よし……無事に上がってこられたな。
お前とふたりで話したくてさ、
みんなには先に行ってもらったんだ。
ウクラマト : ……アタシさ、バクージャジャのことが本気で嫌いだった。
ウクラマト : だってよ、神輿を奪おうとしたことに始まり、
川上りでは妨害され、「壺の秘石」は奪われて……
挙句の果てには、ヴァリガルマンダの封印を解いたんだぜ?
ウクラマト : もう絶対、許すもんかって思ってたんだ。
ウクラマト : でもさ、あいつがどんな想いで戦ってきたのかを知ったら、
今までのムカついてた気持ちが吹っ飛んじまった。
本当に「知る」ってことは大切なんだな。
▼それでも償いは必要だ
ウクラマト : ああ、わかってる。
あいつの事情と、あいつが犯した罪は別の話だ。
その処遇については、王位に就いたらしっかり考えるさ。
ウクラマト : だけど、今は……
これ以上、バクージャジャみたいな奴を生みださないために、
アタシにできることをやるぜ。
『双血の教え』




ウクラマト : みんな、待たせたな!
アルフィノ : コーナ王子にも声をかけてきたのか。
コーナ : 我が妹ながら、何を考えているやら……。
これは黄金郷に至るための最終試練なんだよ?
コーナ : 僕は、マムークの人たちと満足に話すらできなかったんだ。
放っておけば、君が先行する好機だっただろうに。
ウクラマト : ふたりの方が確実だろ?
コーナ : 協力して、試練を突破しようということかい……?
ウクラマト : 違う違う、試練なんて関係ねぇよ。
マムークのみんなの問題を解決するには、
コーナ兄さんの知恵が必要になるかもしれねぇ。
ウクラマト : そのためにも、兄さんにも聞いておいてもらいたかったんだ。
マムークのみんなが何を願い、何を求めているのかをさ。
コーナ : まったく、君は……。
そういうことなら、耳を貸すし知恵も出すよ。
ウクラマト : みんな、集まってくれてありがとな。
アタシはトライヨラ第一王女、ウクラマトだ。
ぶっきらぼうなブネワ族 : トライヨラの王女だって?
バクージャジャ様の使いじゃなかったのか!
フビゴ族の商人 : 私たちを騙したのか!
???? : そいつは、お前らを騙したりなんかしねェよ!
戦のバクージャジャ : 安心しろ。
こいつが持ってた鱗は、正真正銘、オレサマのもんだ。
フビゴ族の商人 : なぜ、彼らに双頭の鱗を渡したのですか……?
戦のバクージャジャ : ……オレが認めたからだ。
ウクラマト王女は、信頼に足る奴だってな。
ウクラマト : マムークに来て初めて知ったぜ。
双頭が、たくさんの命を代償にして生まれてくることを。
ウクラマト : アタシはここまでの旅で、
それぞれの部族が受け継いできた文化をたくさん見てきた。
どれも変わってて、面白いもんばっかりだったよ。
ウクラマト : 文化ってのは、その土地や暮らしから生まれるもんだから、
何が良くて、何がダメだなんて、誰かが決めるもんじゃねぇ。
だけどな……
ウクラマト : 双頭を生みだす代わりに、
何の罪もない子どもの命が犠牲になるなんて……アタシは嫌だ。
ウクラマト : もしも、お前らの中に、少しでも同じ想いがあるなら、
「双血の教え」を終わらせるために、手を貸してくれ。
戦のバクージャジャ : オレからも頼む。
これ以上、兄弟たちを犠牲にしたくねェんだ。
フビゴ族の商人 : そりゃあ、私たちだって……!
フビゴ族の商人 : ですが、双頭に願いを託さなきゃ、生活は苦しくなる一方だ。
私たちに、どうやって生きろと言うんですか!?
魔のバクージャジャ : まずは、王女サマに伝えてみようよ。
不安や悩みを、包み隠さずにさ。
彼女は、オイラたちのことを心から知ろうとしてくれてるんだ。
フビゴ族の商人 : 私たちのことを……心から……?
フビゴ族の商人 : それが本当なら……私はウクラマト王女と話してみたい。
ミーラジャ : 皆、あなたの前じゃ言いづらいこともあるでしょう。
しばらく、この場を離れてなさい。
アリゼー : ここに集まってることがゼレージャに知られたら面倒ね。
近づく人がいないか、私たちで見張りましょう。
ウクラマト : Tobariは、
アタシと一緒に話を聞いてくれ。
これから「知る」想いを、決して聞き漏らさないようにさ。
『託された絆』
最終更新:2024年08月30日 00:25