エリディブス : ……エルピス?
ふむ、確かにそれは私たちの時代にあったものだ。
エリディブス : もっとも、私が知るのは花の名前ではなく、
「ある場所」の名前としてだが。
エリディブス : エルピスは、創造魔法で生み出された生物の実験場だった。
そこで生態を調べ、認可された種だけが、
世界に解き放たれたんだ。
エリディブス : そして、もうひとつ……。
先の話に出たオリジナルのファダニエルが、
十四人委員会に入る前、そこの所長を務めていた。
エリディブス : そのころの……座に就く前の彼の名は「ヘルメス」という。
エリディブス : とはいえ、それらの事実と終末の関係性はわからない。
エリディブス : 君が持ってきてくれた記憶のクリスタルは、
あくまで十四人委員会に関するもの……
就任前の情報には乏しいんだ。
エリディブス : エルピス自体も、かつての終末で壊れ、残骸すら残っていない。
何か秘された事実があったのだとしても、
君が行って暴くことは……
エリディブス : いや……君はエルピスにいた……。
私はそれを……見た覚えがある……。
エリディブス : おかしい、そんなはずはない……。
この記憶の断片は、なんだ……?
エリディブス : これは……どうして……こんなにも…………。
エリディブス : ……すまない、記憶が混濁したようだ。
だが、おかげでひとつ、思いついた手がある。
エリディブス : 君が過去の……
ヘルメスが所長をしていた時代のエルピスに行く、という手だ。
エリディブス : 恐らく、誰の目にも見えないし、声すらも届かない……。
エリディブス : よしんば干渉できたとしても、
君がやれるのは、せいぜい見聞きすることだけだ。
根本的な解決は望めないだろう。
エリディブス : なぜなら、君が帰ってくる「ここ」は、
あくまで終末が起きたという歴史を辿った世界……
エリディブス : 過去で何をしたところで、悲劇をなかったことにはできない。
今の苦しみをなくしてはくれないんだ。
エリディブス : ……それでも行くのか?
敵であった私に、命を委ねてまで。
エリディブス : わかった……。
ならば私も、調停者の最後の責務として、
君を送り届けるとしよう。
『指し示されたエルピス』
エリディブス : よし、それで準備は完了だ。
間もなく門が開く……星見の間の方に移動してくれ。
エリディブス : いい調子だ。
エーテルも順調に流れ込んでいる。
エリディブス : これなら、私の魂も含めて使い切ってくれるだろう。
エリディブス : 何を驚く。
言っただろう、これが「最後の」責務だと。
エリディブス : ゾディアークが散った今、私がここで永く微睡む理由はない。
エリディブス : 私は還る……そしてまた、会いたい人たちがいるんだ。
夢ではなくて、大地の上で。
エリディブス : だから、振り返らずに行くがいい。
君が「光の戦士」なら……。
――ハイデリンよ 私は先に逝く
真なる者 旧き人も 残すところは君だけだろう
最後のひとりは いちばん寂しい
その役回りを譲ることが ゾディアークからの意趣返しだ
残された者の意地で 君と新たな英雄のやり方で
この星を どうか――
『指し示されたエルピス』
懐かしい雰囲気の青年 : ねえキミ……それ、視えてるでしょ?
聞き覚えのある声の青年 : ……視えてない。
私には何も、視えてない。
懐かしい雰囲気の青年 : えー、そんなわけないでしょ。
懐かしい雰囲気の青年 : ほら!
薄くてちょっとわかりにくいけど、
魂の色がアゼムとすごくよく似てる。
懐かしい雰囲気の青年 : もしかして、彼が創ったものかな?
使い魔だとしたら、魂持ちなんて珍しいね。
聞き覚えのある声の青年 : ……知るか。
あいつ関連なら厄介だ。
似て異なるものなら、さらに厄介だ。
聞き覚えのある声の青年 : 結論、関わらないにかぎる。
さあ行くぞ。
懐かしい雰囲気の青年 : うーん、何か訴えようとしてるみたいだけど、
これじゃあ会話もままならないね。
懐かしい雰囲気の青年 : キミ、少し存在を補強してあげなよ。
どうせ魔力余ってるでしょう?
聞き覚えのある声の青年 : お前、人をなんだと思ってるんだ……。
懐かしい雰囲気の青年 : もちろん、善良なる親友だとも!
こうして遠路遥々つきあってるんだから、
頼みのひとつくらい、聞いてくれるに違いない!
聞き覚えのある声の青年 : ……おい、目を閉じていろ。
さもないと酔うぞ。
聞き覚えのある声の青年 : もう目を開けてもいいぞ。
懐かしい雰囲気の青年 : フフ、フフフフ……待って……。
ちょっとまだ小さくないかい……?
聞き覚えのある声の青年 : 頭部の大きさからして、こんなところだろう。
これ以上だと圧が強すぎる。
懐かしい雰囲気の青年 : なるほど……フフ……。
ヒュトロダエウス : ということで……はじめまして!
ワタシはヒュトロダエウス、創造物管理局の局長さ。
ヒュトロダエウス : 隣にいるのがエメトセルク。
正真正銘、十四人委員会の一員だよ。
ヒュトロダエウス : キミの名前は?
言葉、わかるかな……?
ヒュトロダエウス : いいね、会話ができるなんて優秀だ。
ワタシもそう呼ばせてもらうとするよ。
ヒュトロダエウス : それで、キミはどこからきたの?
あれだけ不安定だったんだ、
ここで創造されたものではなさそうだけど……。
ヒュトロダエウス : わからない……あるいは、答えられないのかな……?
よし、じゃあ質問を変えてしまおう。
ヒュトロダエウス : キミはどうしてここへ?
何をしたいんだい?
▼ヘルメスを探しにきた
ヒュトロダエウス : ……驚いた。
ワタシたちと同じだなんて。
ヒュトロダエウス : ねえ、やっぱりアゼムの使い魔なんじゃない?
本当は一緒に来たかったとか。
エメトセルク : もしそうだったら自力で乗りこんで来るだろう、あいつの場合。
ヒュトロダエウス : ……おっしゃるとおりで。
ヒュトロダエウス : 失礼したね。
ワタシたちは魂の色が視えるんだけど、
キミのそれが、友人の色によく似ていてさ。
ヒュトロダエウス : 加えて、目的まで一緒だったものだから、
早合点してしまったんだ。
ヒュトロダエウス : ワタシたちは、ここの所長であるヘルメスと話をしにきた。
加えて、彼の働きぶりを知るためエルピスを見学したいんだ。
ヒュトロダエウス : ……厳密には、それはエメトセルクの目的で、
ワタシはただの案内役なんだけど。
仕事上、ここには何度か来たことがあるからね。
ヒュトロダエウス : ということで……
よかったら、キミも一緒に来ないかい?
勘違いのお詫びに、案内するよ。
エメトセルク : おい、そんな素性も得体も知れないものを、
公務に連れていけるわけがないだろう。
ヒュトロダエウス : いいじゃない、怪しいと思うなら余計に、
そばに置いて見ておかないと。
ヒュトロダエウス : それに、不思議な生き物を連れているなんて、
ここじゃむしろ当たり前さ。
ヒュトロダエウス : ようこそ、創造生物たちの実験場……
空の果てのエルピスへ!
エメトセルク : さて……どんな事実が待っているやらだ……。
『指し示されたエルピス』
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エメトセルク : さっきから何だ、人の顔をじろじろと……。
ヒュトロダエウス : うん、気持ちがいいね。
それにほら、空に手が届きそうだ!
ヒュトロダエウス : キミにどこまでの知識があるかわからないから、
案内役として、少し説明をしておこうかな。
ヒュトロダエウス : ワタシたちの扱う創造魔法は、
エーテルを素とし、イデアを設計図として、
無機物から生物まで森羅万象を綾なす技だ。
ヒュトロダエウス : 各自が考案したイデアは、
ワタシの勤め先でもある「創造物管理局」に提出されて、
審査、分別、管理される。
ヒュトロダエウス : ここエルピスには、そのうち「生物」に類するものと、
一部の「魔法生物」に類するものが送られてくる。
そして、さらに詳しく観察、研究されるのさ。
ヒュトロダエウス : フフ……なかなか興味深い施設だろう?
ワタシたちと一緒に、見回ってみようよ。
『指し示されたエルピス』
『ペタルダは翻る』
ヒュトロダエウス : さてさて……
ワタシたちの探している「ヘルメス」は、ここの所長。
そして彼自身も創造生物の研究をしているんだ。
ヒュトロダエウス : ということで、まずは職員たちの居住地に、
向かおうと思うんだけど……
ヒュトロダエウス : ……うーん、キミのその格好は、どうにも目立ってしまうねぇ。
ヒュトロダエウス : エメトセルクが、一応お忍びというか抜き打ちで来てるから、
もう少し馴染む外見にしてもらった方がいいかな。
キミ、普通のローブを創ることはできるかい?
ヒュトロダエウス : ダメか。
じゃあエメトセルク、キミが代わりに創って……
エメトセルク : 厭だ……私は魔力を分け与えたんだぞ?
拾ったお前が面倒を見ろ。
ヒュトロダエウス : つれないなぁ。
エメトセルクってば、ほぼ無尽蔵みたいな魔力の持ち主だから、
こんなのまったく問題にならないはずなんだけど。
ヒュトロダエウス : よし、じゃあ最終的にはワタシが形を創るとして、
せっかくだし、できるところまでは自分でやってもらおうかな。
そこの階段を下りて「芽吹の玄関」に行こう。
ヒュトロダエウス : 思ったとおり、ちょうど良さそうな相手がいるね。
キミにこの、「エーテルロープ」を渡そう。
ヒュトロダエウス : それを使って、ローブのもととなる生物を捕まえてきてほしい。
ヒュトロダエウス : この場所には「キアネ・ペタルダ」「コーキネ・ペタルダ」、
そして「イアンティネ・ペタルダ」という3種類の蝶がいる。
うち、いずれか2種類を1体ずつ……ってところかな。
ヒュトロダエウス : 「エーテルロープ」は、使用者の魔力に応じた能力を発揮する。
エメトセルクが見た目を繕ったとはいえ、
キミが有するエーテルの量は、人に遠く及ばない……。
ヒュトロダエウス : だから、しっかり蝶を弱らせてから、
「エーテルロープ」で捕まえるんだ。
がんばってね!
エメトセルク : ダメだダメだ、私は手伝わないぞ。
待っててやるだけ、ありがたいと思え。
ヒュトロダエウス : この場所にいる3種類の蝶のうち、2種類を1体ずつ、
しっかり弱らせてから「エーテルロープ」で捕まえるんだ。
がんばってね!
ヒュトロダエウス : ……うん、完成!
ヒュトロダエウス : はい、よかったらこれを着てね。
ローブや靴、標準的な服装一式だ。
▼生き物をローブに……?
ヒュトロダエウス : より正確には、生き物を「エーテルに戻し」て、
創造魔法によってローブに創り変えているってところかな。
ヒュトロダエウス : 種類の違う蝶を集めてもらったのは、
それぞれが有するエーテルに属性バランスの違いがあるからさ。
混ぜることによって、より均整のとれた服ができる……。
エメトセルク : 熱心に教え込むのはいいが……
そいつが人らしい服を着たところで、
多少なり視る眼がある奴には、すぐに異質だとバレるぞ。
ヒュトロダエウス : まあねぇ……。
でもほら、遠目だけでも誤魔化せれば、
キミの「抜き打ち」の体裁を保つのに役立つじゃない。
ヒュトロダエウス : 彼の言うとおり、キミが異質な存在であることは、
そのローブを着ていようが見抜かれてしまうだろう。
ヒュトロダエウス : そういうときは、下手に言い訳せずに、
自分は使い魔だと名乗ってしまった方がいい。
実際のキミが何なのかは置いておくとして……ね?
ヒュトロダエウス : 問題は、誰の使い魔を名乗るかだけど……
ヒュトロダエウス : うん、アゼムにしてしまおう。
それなら多少変なことをしようが、あれこれ聞いて回ろうが、
「そんなものかな」って説得力がある。
エメトセルク : いない奴を勝手に使う……。
ヒュトロダエウス : いないからこそ、だろう?
ヒュトロダエウス : それじゃあ、キミの素性はひとまずそういうことにして、
職員たちの居住地に向かおうか。
エメトセルク : まあ、そうだな……
アゼムの使い魔というのは、適当な言い訳だ。
あいつも、不満があるなら日頃の行いを正せという話だ。
エメトセルク : もとの大きさなら、人の子どもに思えないか……だと?
そんなわけがないだろう……
少なくとも、生物としての強度が完全に別物だ!
ヒュトロダエウス : 準備はいいかい?
それなら、目指すはここから北……
「アナグノリシス天測園(てんそくえん)」だ。
ヒュトロダエウス : エルピス全域に研究対象である動植物が放たれているけれど、
天測園もまた、職員たちの居住地であると同時に、
創造生物を観察する場でもあるんだ。
ヒュトロダエウス : とりあえず行って、適当な職員に声を掛けてみよう。
ヘルメスの居場所を教えてもらうためにね。
『アナグノリシス天測園』
ヒュトロダエウス : ああ、彼女でよさそうだ。
エメトセルク : 何をしているのかと思えば……
その植物も創造魔法で創られたものか。
天測園の観察者 : あら、あなた方は……?
ヒュトロダエウス : やあ、所長のヘルメスに会いたいんだけど、
彼は今どこにいるかな?
天測園の観察者 : その赤い仮面、十四人委員会の方ですね。
いらっしゃる予定なんてあったかしら……?
ヒュトロダエウス : ちょっと、抜き打ちで確認したいことがあってね。
協力してくれると嬉しいな。
天測園の観察者 : そういうことでしたら……。
天測園の観察者 : ヘルメスは、いつもどおり、創造生物の観察に出ています。
ここ数日は水棲生物の担当だったはずですから、
園内の水場にいるのではないかと。
ヒュトロダエウス : 園内の水場だね、ありがとう。
観察の邪魔をしてしまって、ごめんよ。
エメトセルク : おい、ヒュトロダエウス。
私は初対面になるが、
お前は何度かヘルメスに会ったことがあるんだろう?
エメトセルク : だったら、わざわざ聞いて探さずとも、
エーテルを追えるんじゃないか?
ヒュトロダエウス : うーん、もちろん、できないことはないんだけど……
ヒュトロダエウス : ああ、ワタシとエメトセルクはね、
少し変わった力を持っているんだ。
ヒュトロダエウス : エーテルを、普通よりも深く広く視ることができる眼……
キミの魂の色がわかったのも、そのおかげさ。
ヒュトロダエウス : ヘルメスのエーテルだって、覚えていないわけではないよ。
ただ、それで探してしまっては、機会損失というものだ。
ヒュトロダエウス : せっかくの視察なんだから、
彼が管理するエルピスを見回りながら探す方が、
より人柄や働きぶりもわかるというものじゃない?
エメトセルク : もっともらしく言ったものだ……。
エメトセルク : お前、仮にも同行者なんだ。
探す手伝いくらいはできるな?
エメトセルク : 資料によると、ヘルメスは深緑の短髪をしているそうだ。
それを頼りに探せるだろう。
エメトセルク : 言っておくが、公的な場でフードを被らずにいるのは、
エルピスだからこそ認められている特例だ。
危険な生物もいる以上、視野は広くしておくべきだからな。
エメトセルク : お前にどんな常識が刻まれているかは知らんが、
ほかの場所で、こんな個を主張するような真似はするなよ。
マナー違反だぞ。
ヒュトロダエウス : まあまあ!
おかげで、容姿で人を探すなんていう、
めったにない貴重な経験ができるわけだしさ。
ヒュトロダエウス : さあ、ヘルメスを探して、水場を見ていくとしようじゃないか。
青い有翼の少女 : アンビストマは、不思議なお顔、ね?
うー、ぱー、るー、ぱー、って感じがする!
ヘルメス : 君は……
青い有翼の少女 : あなた、みんなと、ちがう……!
青い有翼の少女 : あの、仲間、もしかして、わたしたち……
だから、その、仲良く……
青い有翼の少女 : ううー、待って、待ってね……
青い有翼の少女 : こんにちは! こんにちは!
聞こえますか……?
青い有翼の少女 : 私はあなたに敵対する者じゃありません。
あなたの音を聞き、想いを感じ、考えを知りたいのです。
青い有翼の少女 : どうか、仲良くしてくれませんか?
青い有翼の少女 : へへ……仲良くし、ませんか!
ヒュトロダエウス : ああ、見つけられたんだね。
ヘルメス : ヒュトロダエウスか。
会うのは、久しぶりだ……。
ヒュトロダエウス : そうだねぇ、職場同士は、しょっちゅう連絡しあってるけど。
今日はキミに会いたいって人たちを連れてきたんだ。
ヘルメス : 十四人委員会の……。
エメトセルク : エメトセルクだ。
お前が所長のヘルメスで間違いないな?
ヘルメス : ……ああ、ヘルメスだ。
アーモロートからでは、遠かっただろう。
エメトセルク : まあな……。
だが、エルピスの用途を思えば仕方のないことだ。
こいつに案内役を頼む羽目になったのは不本意だがな。
ヒュトロダエウス : 失礼しちゃうなぁ。
ワタシはいつだって善良な友人だというのに。
ヒュトロダエウス : それからこちらが、さっきプロピュライオンで拾った……
ヒュトロダエウス : ……って、なんだか懐かれてるね。
そっちの青い子は、ヘルメスの使い魔かい?
ヘルメス : 彼女は、メーティオンという……。
「流星」を意味する名だ。
ヒュトロダエウス : へぇ……ずいぶんと構成するエーテルが薄いんだね。
これだと、あまりに脆い気がするけれど……。
ヒュトロダエウス : 創造物管理局にも、届け出てないでしょ?
イデアを見た覚えがないや。
ヘルメス : 彼女は、自分の個人的な研究のために創造した。
けれどまだ、成果を得ていない段階だ……。
ヘルメス : だから申請できていないが、いずれは伺うつもりでいる。
そのときは、よろしく頼む……。
ヒュトロダエウス : 了解、確かにキミはここの所長であると同時に、
飛行生物創造の第一人者だからね。
こだわりもあるんだろう。
ヒュトロダエウス : 申請、のんびりお待ちしているよ。
エメトセルク : それも結構なことだが、こちらも仕事の話がある。
エメトセルク : ……私が来た時点で、概ね察しているだろうがな。
ヘルメス : 承知した……。
ひとまず、奥の館で待っていてくれ。
ヘルメス : 自分も、観察対象たちを造物院に返したら……
メーティオン : ヘルメス、どうした?
ヘルメス : アンビストマが……1匹……足りない……!
ヒュトロダエウス : ふむ、その子たちと同じエーテルなら、
あっちの方向……敷地の外にいるみたいだね。
それも、木の上だ。
エメトセルク : ……木に登ったのか? あの手足で?
ヘルメス : ミトロン院が空を泳ぐ魚を創ってから、
水棲生物に浮遊能力をつけるのが流行っている……。
ヘルメス : アンビストマも、わずかに……がんばれば、木くらい登れる。
だが、降りられないのかもしれない……!
メーティオン : わたしも、さがすー!
エメトセルク : ……どうするんだ、残りのこいつらは。
ヒュトロダエウス : フフ……フフフ……
ここは、手分けを、するとしようか……フフ……。
ヒュトロダエウス : すまないけれど、ヘルメスを追って、
手伝ってあげてくれるかい?
残りのアンビストマは、ワタシとエメトセルクで見ているよ。
エメトセルク : なぜこんなことに……。
「独創的かつ有益な水棲生物の創造」がミトロン院の理念だが、
何がどうして空を泳がせた……。
エメトセルク : そもそも、それは「水棲」か……!?
ヒュトロダエウス : アンビストマ……そこにいる水棲生物は、
確かに最近登録申請されたイデアだよ。
現在ここで研究の真っ最中ということなんだろうね。
ヒュトロダエウス : 悪いけど、キミはヘルメスを追って捜索を手伝ってあげて。
残ったアンビストマは、ワタシたちで見ておくよ。
メーティオン : ヘルメスー、平気ー!?
メーティオン : ヘルメス、木の上にアンビストマ見つけた!
よじ登って、助けようとした!
メーティオン : そしたら、アンビストマ、ヘルメス踏んで下りてきた!
ヘルメス、ぐるんってなって、今!
▼ヘルメス、大丈夫?
ヘルメス : ああ、大丈夫だ……見苦しいところを……すまない……。
ヘルメス : ひとまず、少し離れていてほしい。
巻き込まないという……保証ができない……。
ヘルメス : ウッ…………。
メーティオン : ヘルメス、平気? 大丈夫?
ヘルメス : あ、ああ……大丈夫だ……。
心配をかけて悪かった、メーティオン。
ヘルメス : それに…………
ヘルメス : Tobari Seto……。
おもしろい響きの名前だ。
新種の生物という感じがする……。
ヘルメス : ありがとう、わざわざ追いかけてきてくれて。
ヘルメス : 君も無事で何よりだ。
だが、いくら浮遊能力があるといえど、
高い木から落ちたら怪我をしてしまうかもしれない。
ヘルメス : 今後はどうか、気をつけてほしい。
ほかの仲間たちも心配……
ヘルメス : …………。
ヘルメス : ほかの仲間たちを、置いてきてしまった……!
ヘルメス : そうか、エメトセルクとヒュトロダエウスが……。
よかった……あとで彼らにもお礼を言わなければ……。
ヘルメス : 今さらになってしまったが……
エルピスの所長として、君たちを歓迎しよう。
どうぞよろしく。
メーティオン : ヘルメス、無事! アンビストマ、無事! よかったね!
『深くにある想い』
ヘルメス : よし……エメトセルクたちが困っているといけない。
まずはみんなで、彼らのもとへ戻るとしよう。
メーティオン : 観察の期間、ずっと放す子と、造物院に戻す子がいる。
アンビストマ、造物院に戻す子!
エメトセルク : やれやれ……。
これでやっと大事な話ができそうだ。
ヒュトロダエウス : こっちは異常なしだったよ。
みんな、のんびりしたものさ。
『深くにある想い』
ヘルメス : 改めて、各方に迷惑をかけた……。
おかげさまで、アンビストマはみんな元気だ。
ヘルメス : 自分は彼らを、待機場所に送り届ける。
魔法で転移させるから、そう時間はかからない。
ヘルメス : 天測園の北側に、ほかよりも大きな館がある。
1階が打ち合わせに使える場になっているから、
そこで待っていてもらえるだろうか?
エメトセルク : 了解だ。
適当に待たせてもらうから、
お前は今度こそ、そいつらを取り逃がすなよ。
ヘルメス : 君も、話に同席するのであれば、北の館へ……。
エメトセルクたちと一緒に、待っていてほしい。
エメトセルク : ヘルメスに指定されたのは、ここで間違いなさそうだな。
エメトセルク : ……だが、お前はダメだ。
同席はさせられない。
エメトセルク : やましい話じゃないが、人の今後を左右する大事な話だ。
どこから来たのかも言えないような奴に、聞かせられるものか。
エメトセルク : なんだ、食って掛かる気か?
▼こちらにも引き下がれない事情がある
エメトセルク : だったら、その事情とやらを明らかにしたらどうだ。
納得できるものなら、協力するぞ。
ヘルメス : ……自分は、彼に同席してもらっても構わない。
エメトセルク : ヘルメス……だが、こいつは……。
ヘルメス : メーティオンに気に入られた存在だということは、
自分にとって、どんな言葉で論じられるよりも信用に値する。
ヘルメス : それに……第三者がいてくれた方が、冷静でいられそうだ。
エメトセルク : ……わかった、お前の意見を尊重しよう。
エメトセルク : 静かに聞いているんだぞ。
ヘルメス : それで、話というのは、やはり……。
エメトセルク : ああ、ファダニエルが座を降りることを決めた。
後任として、お前を推挙している。
エメトセルク : 十四人委員会としても、お前の実績と深い知識を買って、
その提案を受ける方向で動いている。
エメトセルク : あえて面識がない私がここに来たのは、
公正な目で近況を確認するため。
エメトセルク : そして何より、お前自身の意志を問うためだ。
エメトセルク : 現ファダニエルも、もともとはここの所長だ。
公私ともに、お前と親交があったと聞く。
エメトセルク : 座を譲りたいという旨も、何度か話をしていたそうじゃないか。
だから予測がついていたんだろう?
ヘルメス : ……そうだ。
「私が為すべき仕事を終えるときには、お前を推そう」と、
あの方は、何かにつけておっしゃっていた。
エメトセルク : とてもじゃないが、喜んでいるようには見えないな。
それほど十四人委員会の名を背負うのが嫌か?
ヘルメス : いや……そうじゃない……そうじゃないんだ……。
ヘルメス : 委員会に推挙してもらえたことは、光栄に思う。
研究ばかりの自分には、過ぎるほどの申し出だ。
ヘルメス : だが、現ファダニエルが座を降りようとしていること……
それそのものが、割り切れない……。
ヘルメス : ……やはり、彼は……星に還るのだろうか……。
エメトセルク : そのつもりだとは聞いている。
過去に十四人委員会に属した者も、
ほとんどが退任とともに還っているしな。
メーティオン : 星に還るは、死ぬ、のこと……?
ヒュトロダエウス : おや、珍しいね。
エルピスではそう呼ぶ方が主流なのかい?
その言葉を使う人は、滅多にいないと思っていたけれど。
ヒュトロダエウス : 我らは星の意志であり、細胞である……。
この命こそが星に流るる血の一滴、
己が身のごとく星を育め……。
ヒュトロダエウス : それが、ワタシたち「人」の役割だよ。
星を善くすることで、そこに生きるすべてのものが、
幸せでいられるようにするわけだね。
ヒュトロダエウス : みんな、そのために識り、考え、創り出してきた。
おかげで原初のころは荒々しかったという星は、
これほどまでに穏やかに、優しいものになった。
ヒュトロダエウス : 星に還るというのは、
そうして星を育んだ者にこそ与えられる選択肢だ。
ヒュトロダエウス : 大いに生き、己のやるべきことを果たしたと思ったときに、
人々はそれを選ぶ……。
ヒュトロダエウス : 最期の瞬間はいつだって、それは美しいものさ。
エメトセルク : 十四人委員会に加わった者とて、その流れからは逸脱しない。
ここで存分に役目を果たせたら、
まさしく還るにふさわしいと、多くの者は考える。
エメトセルク : 私たちの座は、就いた者にとって命数と同義だ。
……ごく一部の例外を除いてな。
エメトセルク : ファダニエルが還るのを認められないのは、
彼の功績がそれに値しないと考えているからか?
エメトセルク : 知らないわけはないとおもうが……
あの御仁は、多くの素晴らしいイデアを生み出した。
エメトセルク : こと、新たな動物を創ることにかけてはな。
エルピスでの経験を活かし、いくつもの種を生み出したものだ。
ヘルメス : もちろん、それはよくわかっている。
自分は……ただ……
ヘルメス : あれほど偉大で、命を知る人であっても、
やはりそうして終わりを選ぶのか、と……。
ヘルメス : 不甲斐ない……。
こちらの動揺が、彼女にまで伝わってしまったようだ。
ヘルメス : 同席を勧めておいてすまないが、
少しの間、彼女を連れ出してやってはくれないか……?
気分転換をした方がいい。
エメトセルク : わからんな……。
ヘルメスの奴は、何にそれほど抵抗を感じている?
ヒュトロダエウス : 思ったより、話が難航しそうだね。
キミはヘルメスが言っていたとおり、
メーティオンと外を回ってくるといい。
ヘルメス : すまない……この埋め合わせは、あとでまた……。
メーティオン : Tobari、あの、ごめんなさい……。
わたし、外でるね……。
メーティオン : よかったら、一緒に、お散歩いこう……?
メーティオン : ……ヘルメスは、死ぬこと考えると、すごく悲しくなる。
メーティオン : ヘルメスが……まわりの人が悲しいと、わたしも同じに悲しい。
そういう風に、創られてるから……。
メーティオン : でも、もう大丈夫!
だから、仲良くお散歩、希望します!
メーティオン : あなた、目的、エメトセルクと違う……?
どうして、エルピスいる……?
メーティオン : エルピスと、ヘルメス知るため!
じゃあ、じゃあ、わたし紹介する!
メーティオン : わたし、ひとつ教えたら、あなた、ひとつ教える……どう?
▼よしきた!
メーティオン : やったー! とても、とても、嬉しい!
メーティオン : じゃあね……えっとね……
そこの広場で、「メムノン」と話すはどう?
メーティオン : このとおり、わたし「口で会話」、とても下手。
でもメムノン、話すの上手!
きっとあなたの役立つ、から、行こう!
メムノン : おやおや、あなたは……ふむ…………。
メムノン : 人に似せているようですが、まるで玩具の人形のよう……
ということは、メーティオンと同じく、擬人型の使い魔ですね。
どうかしたのですか?
メーティオン : あの、Tobariに、ここのこと教えてほしい!
メムノン : なるほど、彼は新しく来た使い魔なのですね。
ええ、お安い御用ですよ。
メムノン : 前提として、人は星を善くしていくという使命を帯びています。
創造魔法で新たなものを創るのも、そのための行いです。
メムノン : しかし、無暗に創っていては、星にカオスが生じる。
だからこそ、自分たちの創ったものに対して、
適切な判断を下すことが必要になってくるのです。
メムノン : エルピスでは、創造物管理局への正式登録に先駆けて、
生物や魔法生物に対して、より詳しい観察と研究が行われます。
メムノン : どういった性質を持つのか、生育に適した地域はどこか、
他の種や環境にどういった影響を与えるのか……
メムノン : それらをすべて明らかにし、問題なしとされた創造生物のみ、
実際に適切な地域に放つのです。
メムノン : ……あなたたちも、星を善くすることを願って創られた存在。
ヘルメスたちの言うことを聞いて、おりこうにするのですよ。
メーティオン : わたしたち、おりこうだから散歩してる!
教えてくれてありがとう、メムノン。
メーティオン : Tobari、エルピスのこと、ひとつわかった?
そしたら、わたしからも、質問していい……?
メーティオン : じゃあね、まずはね……
あなたは、どこからきましたか!
▼とても遠いところから
メーティオン : うーん、じゃあ、わからないかも……。
わたし、地上はあんまり詳しくないから……。
メーティオン : ああ、だけど……
その場所への、あなたの想いは、伝わってくる……。
メーティオン : ハッ……いけない……!
わたしの力、話してない……!
メーティオン : じゃあ次は、それ教える!
だから、天測園の中で、ヒマそうな創造生物を探して!
メーティオン : たしかに、ヒマそう……!
メーティオン : 名前、なんだっけな……。
そもそも、エルピスに、こんな子いたっけ……?
メーティオン : ともかく、この子の考えてること、読み取ってみせるね!
それが、わたしの力!
メーティオン : わからない……というか…………無……?
メーティオン : 違う、違うの、こんなはずじゃなくて……!
待って、待ってね、今度はあなたに……
メーティオン : こんにちは! こんにちは!
聞こえますか……?
メーティオン : これが私の力……。
周囲の想いを読み取り、自分の想いを返しているのです。
メーティオン : 知的生命は、届いた想いを無意識のうちに言語化する……
だから、頭の中で私が話しているように聞こえるはずです。
メーティオン : 私の「役目」には、この力が欠かせません。
未知の言語を用いる者や、音声に依らない意思疎通を行う者、
あらゆる知的生命と対話ができるようになっています。
メーティオン : 代わりに、口述での意思疎通は、あまり上手くありません……。
メーティオン : でも、ヘルメスから、
人には隠したい想いもあるのだと習いました。
だから、力を使わずに話せるときは、そうしなさいと……。
メーティオン : 私はあなたに、定義するのがとても難しい、
けれど確かな親愛を抱いています。
メーティオン : 「私たち」と性質が似ていること……
その想いが、光色のように不思議な複雑さを持つこと……
それらを好ましく感じ、知りたいと思うのです。
メーティオン : だから、できるだけ力を介さずに話したい。
少し不便かもしれませんが、どうか、仲良くしてください。
メーティオン : ……伝わった?
メーティオン : じゃあ、じゃあ、わたしもまたひとつ、聞くね!
あなたの得意は、何……?
▼戦うこと
メーティオン : すごい……!
じゃあ、危ない創造生物、暴れても、平気ね……!
メーティオン : ヘルメスも、強い……と思うんだけど……
戦うの、好きじゃない……暴れてる創造生物でも……。
メーティオン : ……もしかして、わたしたち、邪魔?
メーティオン : Tobari、次、行こう……!
館に近い建物の中に、「エウアンテ」いる。
そこで、またひとつ、教えるね!
エウアンテ : あらまあ、こんにちは、メーティオン。
今日はお仲間を連れているのね。
メーティオン : こんにちは、エウアンテ!
あのね、リンゴを、創ってほしい。
メーティオン : 瓶に入れて、砂糖、どばどばする!
それ、ヘルメスの好きなもの。
だから、Tobariと食べる!
エウアンテ : リンゴの砂糖漬けね……?
確かにそれは、ヘルメスの好物だけど、
あなたは食べ物を摂るように創られていないのよ。
メーティオン : で、でも、砂糖どばどばのリンゴ、わたしも好き……。
エウアンテ : あなたは心を通じさせる能力を持つ……
だから彼の歓びを、自分の歓びだと思ってしまっているのね。
エウアンテ : この場でリンゴは渡せないけれど、
近いうちに創って、ヘルメスに差し入れるわ。
それを待っていて頂戴ね。
メーティオン : Tobari、ごめん……教えるの失敗……。
うまくいったら、あなたの好きも、聞きたかった……。
▼好きなものを教える
メーティオン : …………わぁ!
すごいすごい、嬉しい気持ち、たくさんね!
メーティオン : 教えてくれて、ありがとう、Tobari。
わたしも、とても、嬉しくなった!
メーティオン : ……ヘルメスたち、話し合い、終わったかな?
様子、見に行ってみようか。
ヒュトロダエウス : いいところに戻ってきたね。
天測園の中を散歩してきたのかい?
エメトセルク : なんだ、もう少し長く散歩していてくれたら、
お前を置いて出発できたんだが……
ヘルメス : ああ、おかえり、ふたりとも。
気分転換はできただろうか……?
メーティオン : とても新鮮! とても楽しい!
Tobariはね、エルピスとヘルメスを、
観察したくて、ここに来たんだって。
メーティオン : だから、教えようとした!
エルピスの役割、わたしの意思疎通の方法、
それから、ヘルメスの好物!
ヘルメス : 最後のは……役立つとは思えないが……。
ヘルメス : 彼女につきあってくれて、ありがとう。
こちらも、話し合いがちょうど終わったところだ。
エメトセルク : 終わったというか、お前が返事を保留にしただけだろう。
それで仕方なく、先に仕事ぶりの確認をすることにしたんだ。
ヘルメス : 面目ない…………。
ヘルメス : そんなわけで、このあと、エメトセルクたちを連れて、
いくつか仕事をこなすことになったんだ。
ヘルメス : メーティオンを連れ出してくれたお礼も兼ねて、
一緒にどうだろうか……?
もちろん、君の役に立ちそうであればだが……。
エメトセルク : ひとつ忠告しておくと、そいつは目的こそ私たちと同じだが、
十四人委員会の指示で動いているわけじゃない。
たまたまプロピュライオンで拾っただけだ。
エメトセルク : 知られた情報がどこに届くかは、保証しないぞ。
ヘルメス : 構わない……。
メーティオンがこれだけ楽しそうなんだ、
悪意ある詮索ではなかったと思う。
メーティオン : Tobariは、本当に、優しい。
わたしが教えた分だけ、自分のこと、教えてくれた……!
メーティオン : ねえ、一緒に行こう!
ヘルメスの仕事、発見いっぱい!
きっと、あなたが探してる何かも、見つかる!
ヒュトロダエウス : 毎日のように創造魔法で生み出されたものを視ているけれど、
エルピスで行われている観察は、また主旨が違うからね。
どんな体験ができるか楽しみだ。
エメトセルク : 情報は開かれているべし……というのは、
十四人委員会も含めたすべての組織が順守すべき基本原則だ。
エメトセルク : だからといって、お前みたいな正体不明にまで、
仕事を見せる必要はないと思うがな……。
くれぐれも、邪魔をするんじゃないぞ。
メーティオン : Tobari、お散歩、ありがとう。
今度はヘルメスたちも連れて、みんなで、出発!
『定義は生命を分かつ』
ヘルメス : では、仕事の続きに向かうとしよう。
まだ何件か、野に放っている創造生物の観察が残っているんだ。
ヘルメス : まずは、天測園の東……
ちょうど先ほどアンビストマを保護したあたりへ。
敷地外に出るから、気性の荒い創造生物には注意してくれ。
エメトセルク : ヘルメスめ……。
話し合いのときは、あれほど意気消沈していたのに、
観察の仕事となると、急に積極的じゃないか。
ヒュトロダエウス : イアンティネ・ペタルダか。
蝶といえば、たくさんの種類が創られている、
人気の生物のひとつだよ。
ヒュトロダエウス : さっき少しだけ捕まえて、
キミのローブに変えさせてもらったけど……
なに、観察に支障をきたすような数じゃないさ。
メーティオン : ペタルダ、きれい!
ほかにも観察中の仲間、いるけど、
みんな、地上に行けたら、いいね。
ヘルメス : これは、しばらく前から放っている新種のペタルダだ。
うん……うん……どこも異常はない……。
ヘルメス : 生物として、存在も安定している。
この調子で観察期間を終えれば、
晴れて地上の適切な地域に送られることだろう。
ヘルメス : 君は「生物」と「魔法生物」をわけるのは何か、知っているか?
ヘルメス : 正解は、魂の有無だ。
そして魂というものは、宿すか否かを決められるものじゃない。
ヘルメス : 自身のみで生存が可能な形に創られたとき、
うちに魂が生じて、「生物」となる。
ヘルメス : 一方で、単独では生存が不可能な形で創られたとき……
たとえば術によって構築されたり、
自然現象に伴って発生するものには、魂が生じない。
ヘルメス : 外見が動植物に似ていたとしても、
それら魂なきものは「魔法生物」になるんだ。
ヘルメス : ……そう、魂を持つこと、生命になるということは、
人が手出しできない領域の現象……。
自分たちが管理すべきだなんて、おこがましい妄想だ。
ヘルメス : さあ、次へ行こう。
報告によると、北の「灯台」のもとに、
ある魔法生物が集まってしまっているそうだ。
エメトセルク : ヘルメスの仕事を見ているというのに、
メーティオンに絡まれてたまらん。
エメトセルク : まあ、こいつを視るだけでも、
創造主であるヘルメスが特異な研究者であることは、
十分すぎるほどわかるがな……。
ヒュトロダエウス : ワタシも、キミには興味があるんだ。
飛行生物創造の第一人者、天を識る者ヘルメス……
その申請前の創造生物を視る機会なんて、そうそうないからね。
メーティオン : ヒュトロダエウスと、エメトセルクのことも、知りたい。
どうしてアンビストマ、外ってわかった……?
ヘルメス : 聞いていたとおりだ。
「雷のプネブマ」が集まっている……。
ヘルメス : ここは「灯台」と呼ばれているが、
島を浮遊させたり、周囲の気温を調整したりするために、
属性のバランスを操作する巨大な魔具なんだ。
ヘルメス : そのため、周囲よりも特定の属性が強くなることがある。
ヘルメス : 雷のプネブマが集まっているのは、
彼らの極端に雷属性に寄ったエーテルを補充するため……
生物でいうところの「おなかがすいた」状態だからだろう。
ヘルメス : ……メーティオンはエメトセルクたちと話し中か。
ヘルメス : だったら君が、雷のプネブマたちに、
餌をやってみないか?
ヘルメス : この「集雷魔法のイデア」を使えば、
使い手の素質によらず、場の雷属性を集められる……
ヘルメス : それで、雷のプネブマたちのそばに、雷球を生成するんだ。
彼らにとって、最高のごちそうになるだろう。
ヘルメス : 蒔き終えたか。
……ああ、ほらご覧。
ヘルメス : 気に入ってもらえたようだ。
彼らは言葉を持たないが、だから素直に行動で示してくれる。
ヘルメス : 言わないからといって、何も感じていないわけじゃない。
人から見て知能が低いからといって、
何もわかっていないわけじゃない……。
ヘルメス : 彼らのように魂のない魔法生物だって、
ペタルダのように儚い生物だって、
みんな、思い思いに生きているんだ。
▼メーティオンは生物?
ヘルメス : さて……理論上の仮定なら話せるが、
最終的にそれを視るのは、創造物管理局の仕事だ。
ヘルメス : ヒュトロダエウスのような視る力のある者には、
きっと正解が見えているのだろうが……
ヘルメス : 自分にとっては、どんな分類を与えられようが、
メーティオンはメーティオンだ。
それで十分だと思っている。
メーティオン : あれ……もう終わってる……?
わたし、視察、邪魔した……!?
ヘルメス : いや、特筆すべきようなことはしていない。
仕事はまだ残っているから、次へ行こう。
ヘルメス : ここから東にある「汐沫(せきまつ)の庭」で観察中の職員たちに、
いくつか確認すべき事項があるんだ。
案内しよう。
メーティオン : かわいいけど、気をつけてね。
大きい口、くしゃみもすごい……ヘルメス、最初に吹っ飛んだ!
エメトセルク : これは……。
いったい何を意図して創造されたんだ……?
ヒュトロダエウス : ああ、これは創造物管理局でも話題になった生物だよ!
ワタシも、すごく気に入ってる。
気の抜けた顔に反して、牙がすごいところとかね!
ヘルメス : 見事なものだろう?
「アンペロス」という……
最近観察をはじめたばかりの創造生物だ。
ヘルメス : 少しいいか?
経過を聞かせてもらいたい……。
メーティオン : それ、エルピス、エルピスの花!
メーティオン : わたしと、一緒の、エンテレケイア!
ヘルメス : その花は、この施設で創られたんだ。
それで、エルピスの名を冠している……。
ヘルメス : 昔ここに、美しい花を創ることを愛している職員がいた。
彼女が試行錯誤するうちに、偶然生み出したのだという。
ヘルメス : おもしろいのは、なんといっても、
周囲の心を映して纏う色を変えるところだ。
ヘルメス : ……とはいえ、ここでも地上でも、
陰りなき純白を纏っていることが大半だが。
ヒュトロダエウス : へぇ、人の心を映す……
それってどういう仕組みなんだい?
ヘルメス : 世界には、エーテルとはまた異なる、
「想いが動かす力」というものがある。
ヘルメス : 自分たちがエーテルを自在に操るように、
この花は、その力を受けたり、作用させることができる。
ヘルメス : ……とはいえ、花自身には明確な意思がない。
だから、周囲の感情によって動いた力を受け、
それを色や輝きといった現象に変換しているんだ。
ニッダーナ : アーカーシャは、ラザハン式の錬金術に存在する概念で、
目には見えない力のひとつよ。
想いが動かす力、なんて言われてるんだ。
ヘルメス : アーカーシャ……。
その呼び名には心当たりがないが、
話を聞くに、同じものを指しているように思う。
ヘルメス : 自分たちはその力を「デュナミス」と呼んでいる。
ヘルメス : そして、エルピスの花のように、
デュナミスを操ることができる存在……
ヘルメス : 想いを自在に現象へと換えられる存在を、
「エンテレケイア」と呼ぶ。
メーティオン : わたしも、わたしも!
エンテレケイア!
ヘルメス : ああ……。
その子は世界で最初の、意思を持つエンテレケイアなんだ。
エメトセルク : 待て待て!
エーテルとは異なる力、デュナミスだと?
エメトセルク : そんなもの、私ですら初めて聞くが?
ヘルメス : 無理からぬことだ……。
まず、デュナミスは人に見えないし、感じ取れもしない。
ヘルメス : 理論上は長らく「あるに違いない」とされていたが、
エルピスの花が偶然創造されるまでは、
存在を実証することさえできていなかった……。
ヘルメス : 次に、デュナミスは、エーテルと比べてずっと弱い力だ。
普通の状態では、エーテルに押し負け、かき消されてしまう。
ヘルメス : だから、自分たちのように多量のエーテルを有し、
何につけてもエーテルを活用する生物は、
デュナミスを使う必要がない……。
ヘルメス : まさに、「在って無い」存在だ。
ごく一部の研究者にしか知られていないのも、頷けるだろう。
エメトセルク : なるほどな……。
しかし、だとしたらどうしてお前はエンテレケイアを……
メーティオンを生み出した?
ヘルメス : ……アーテリスは、エーテルが特別に濃い星だ。
それこそ、名の由来になるほどに。
ヘルメス : だが、宇宙全体でみれば……
計算上、すべての質量とエネルギーの68.3%を、
デュナミスが占めると考えられている。
ヘルメス : エーテルとは比べ物にならないほど大きいんだ。
それを自在に操れるとしたら……?
ヘルメス : 緩く流れる水では石を穿てずとも、
滝のように勢いをつければ、岩をも削っていくように……
デュナミスがエーテルに勝る力になるかもしれない。
ヘルメス : ……とは言ったものの、実のところ、
自分はそんな大それた目的を持っているわけじゃない。
ヘルメス : 天を、宇宙を翔ぶものを、創りたかった。
ヘルメス : そのために、星外では補給しにくくなるエーテルではなく、
別の力を利用できるようにしてはどうかと考えたんだ……。
ヒュトロダエウス : ああ、だからその子は、極端にエーテルが薄かったのか。
ヘルメス : ご明察だ……。
メーティオン : あなたも、薄いと感じる!
だから、エンテレケイアの、仲間と思った……。
メーティオン : ちがう……?
▼きっと仲間だ!
エメトセルク : いや、お前はそんな上等なものじゃなく、
消えかけのうっすら使い魔もどきだっただろう……。
素性は依然不明だぞ。
ヘルメス : エーテルが薄ければエンテレケイアになるというわけじゃない。
だが、デュナミスに干渉しやすくなるのは確かだろう……。
ヘルメス : それが、思いもよらぬ勝利や逆転に繋がるかもしれない。
君の特性として、大切にするといい……。
ヘルメス : ああ、待たせたままになっていた……。
まだいくつか確認したいことがあるから、済ませてくる。
ヒュトロダエウス : デュナミスやエンテレケイアについては、ワタシも初耳だよ。
「エルピスの花」が創造物管理局に申請されたのも、
ワタシが職に就く前だったんだろうね。
メーティオン : エンテレケイアでも、なくても、わたしとあなた、薄い仲間。
はじめて会うから、嬉しい!
ヘルメス : こちらの用件も間もなく終わりそうだ。
『最良の貢献』
エメトセルク : デュナミス……
まさか、この期に及んで認知していない力があるとはな。
しかも、星外ではそちらの方が多い……か。
エメトセルク : もっとも、私たちは星とともに、星のために生きる存在だ。
エーテルが満ちているのにデュナミスを利用するなど、
確かに不条理でありえない話だ。
エメトセルク : それはそれとして、ヘルメスの知識は目を見張るものがある。
現在の十四人委員会に天文の専門家がいないという点でも、
奴が次期ファダニエルになるのは悪くない……
エメトセルク : だが、いかんせん、本人の気が進まないときた!
理由も、奴の中では筋が通っているのだろうが、
こちらには理解しがたい……。
▼エメトセルク自身は、なぜ十四人委員会に?
ヒュトロダエウス : おおっと、その話を聞きたいかい!?
エメトセルクが何を見込まれ、
どうして十四人委員会に入ったのか!
ヒュトロダエウス : いいとも、このワタシが説明しよう。
始まりは、そう…………
エメトセルク : やめろ、黙れ、お呼びじゃない。
エメトセルク : 知るべきは私じゃなくヘルメスだ。
さあ、あいつの仕事ぶりを、引き続き視察していくぞ。
ヒュトロダエウス : 恥ずかしがるような話じゃないんだけどなぁ。
Tobari、あとで機会があったら、
コッソリ教えてあげる
エメトセルク : …………なんだ。
知るべきは私のことじゃなく、
ヘルメスのことだと言っているだろう。
▼十四人委員会について勉強したい
エメトセルク : どうした唐突に……。
だがまあ、無知なまま同行されるよりはいいか……。
エメトセルク : 十四人委員会は、世界が正常に営まれ、
星がより善い未来へ進んでいくように、
諸々の大方針を決定する機関だ。
エメトセルク : 名のとおり十四の座があり、
抜きんでた実力を持つ者が、それぞれ推薦によって就任する。
エメトセルク : 座によって「特定の分野に長じている者が就く」ものと、
「特定の使命に対し、適した実力を持つ者が就く」
ものがあってだな。
エメトセルク : 前者は、水棲生物創造の専門家が就く「ミトロン」の座、
陸棲生物の創造と畜産の専門家が就く「アログリフ」の座……
エメトセルク : 菌類や植物創造の専門家が就く「ハルマルト」の座、
医療を牽引する者が就く「エメロロアルス」の座……
エメトセルク : そして、創造魔法の基礎理論を追求し、
最高難度を誇る幻想生物創造を果たした者が就くことのできる、
「ラハブレア」の座などがそれにあたる。
エメトセルク : 後者は、芸術を振興させる役の「ウルテマ」の座、
弁論と知識を充実させる役の「イゲオルム」の座、
規律の制定と秩序の維持を行う「パシュタロット」の座……
エメトセルク : 冥界、すなわちエーテル界を見守る「エメトセルク」の座と、
物質界、すでに存在する物事の理を解明する、
「ファダニエル」の座……
エメトセルク : そして、お悩み受付係の「アゼム」の座なんかだな。
エメトセルク : ……そんなサラリと大事な話をしていいのか、だと?
寝ぼけたことを言うな、子どもですら知っている基礎知識だぞ。
しっかり頭に叩き込んでおくんだな。
メーティオン : エンテレケイアでも、なくても、わたしとあなた、薄い仲間。
はじめて会うから、嬉しい!
ヘルメス : 待たせてすまない。
こちらが確認しておきたかったことは、
すべて確かめることができた。
ヘルメス : アンペロスも、このままいけば、
無事に地上に放たれることになるだろう。
ヘルメス : ただ……それとは別に、気がかりな話を聞いたんだ。
この近くで行われている「カリュブディス」の観察が、
思わしくない状況になっているらしい。
ヘルメス : 次は、その現場に行ってみようと思う。
ヘルメス : エメトセルクとヒュトロダエウスも、出発しよう!
天測園がある浮島、「ノトスの感嘆」の北側だ!
エメトセルク : 鳥……いや、蛇……
それともヒレを持つ海洋生物か……?
ヒュトロダエウス : カリュブディスだね。
だけど、個体ごとにエーテルの属性バランスが少し違う……
ヒュトロダエウス : ということは、イデアをもとに創った第一世代じゃなくて、
そこから繁殖させたものかな?
メーティオン : こっちの子だけ、青くて、ぴかぴか……?
ヘルメス : カリュブディスの観察、ご苦労様。
一部の個体に問題が出ていると聞いたのだが……。
悩ましげな観察者 : ええ……そうなんです……。
悩ましげな観察者 : カリュブディスは、海洋生物をもとにしながら、
陸上で生活できるように構造を調整したもの。
風属性との親和性を高めることで、飛行が可能です。
悩ましげな観察者 : イデアから創った個体には問題がなかったので、
繁殖させて経過を観察していたんですが……
悩ましげな観察者 : 第三世代の中に、
海洋生物としての性質が強い個体が生まれたんです。
悩ましげな観察者 : 水属性に偏った分、風属性への親和性が弱まり、
何度試しても飛べなくって……。
悩ましげな観察者 : 第三世代でこの変化とは、ちょっと不安定すぎますね。
悩ましげな観察者 : 今回は見送りということで、一度全部「エーテルに戻し」ます。
風属性との親和性をさらに上げるよう、
創造物管理局を通じて、イデアの調整依頼を出そうかと。
ヘルメス : …………確かに、水属性への偏りが強いことで、
ほかの個体よりも、風の制御が難しいのかもしれない。
ヘルメス : だが、飛行能力がないと断定するには早すぎる。
失敗をしたことで、飛ぶのを恐れているのかもしれない。
ヘルメス : 自分が「転身」してともに飛び、
その子がコツを掴むまで、魔法で風の制御を手伝おう。
悩ましげな観察者 : えええっ!?
い、いや……そこまでしなくとも……。
エメトセルク : なんだ、「転身」を知らないのか?
知識が中途半端だな……。
エメトセルク : 「転身」は大量のエーテルを使って、
己の身体の外に、もうひとつの身体を創ることだ。
エメトセルク : 肉体という枷をなくし、望む力に適した形を得ることで、
能力は飛躍的に向上するわけだが……
エメトセルク : それを他者の前で行うことは、力の誇示に等しい。
ローブを脱いで走り回るのと同等の、恥ずべき行為だ。
エメトセルク : お前……普段からそんな簡単に、
転身するなどと言っているのか……?
ヘルメス : ち、違う……!
自分の転身は、風を操り、空を飛ぶのに都合がいいんだ!
ヘルメス : 観察ひとつに大袈裟だと思うかもしれないが、
カリュブディスたちにとっては、命が懸かっている事態だ。
ヘルメス : こちらも最善を尽くして補佐をするべきであって、
それを恥ずべき行為だとは思わない……!
エメトセルク : いや、しかしだな…………
ヒュトロダエウス : ふむ…………。
ヒュトロダエウス : だったらワタシに、いい案がある。
エメトセルクは、その飛べないカリュブディスを、
ほかの個体から離れた場所に移動させてくれないかい?
ヒュトロダエウス : ほかのみんなは、この場に残ってもらえるかな。
ちょっとした準備が必要だからさ。
エメトセルク : ……どんな悪知恵を働かせる気だ?
ヒュトロダエウス : まっさかー!
キミだって「ヘルメスが軽率に転身していた」なんて、
十四人委員会に報告しにくいでしょ?
ヒュトロダエウス : だから……ね?
ワタシを信じて、さあ行った行った!
エメトセルク : ……こいつを借りていくぞ。
ヘルメス : この短時間で名案が浮かぶなんて、
さすが創造物管理局局長だ……!
メーティオン : 登録、見送りなったら、
今のカリュブディス、みんな「死ぬ」になる……。
きっと、絶対、飛ばしてあげよう……
ヒュトロダエウス : さて、エメトセルクは向こうに行ったね。
そこでワタシの考えた作戦なんだけど……
ヒュトロダエウス : ズバリ、エメトセルクに、
カリュブディスの補助をやってもらうのさ!
ヒュトロダエウス : 彼なら、転身しなくても空を飛べるし、
風脈だって視えている。
ヒュトロダエウス : カリュブディスの飛行を補助する風魔法だって、
適切に繰り出してくれるはずだよ。
ヘルメス : それは、そうかもしれないが……
さすがに申し訳なさすぎるのでは……?
ヒュトロダエウス : 大丈夫、大丈夫!
さっきも言ったけど、キミがヒョイッと転身してたって、
当代のファダニエルに報告するよりは、いくらも気が楽さ!
ヒュトロダエウス : いいかい、Tobari。
まずはキミが、エメトセルクに「頼みがある」と切り出すんだ。
ヒュトロダエウス : すると彼は、まず間違いなく厭だと言うだろう。
それで怯んではいけないよ。
しつこく「お願いだ」と伝えれば……勝てる!
ヒュトロダエウス : よーし、それじゃあ突撃だ。
キミたちの健闘を祈っているよ!
Tobari Seto : 頼みがある
エメトセルク : い・や・だ・こ・と・わ・る!!
エメトセルク : ……いや用件は知らんが、
ろくでもない入れ知恵があったのは察したぞ。
諦めろそして別案で出直せ……!
Tobari Seto : お願いエメトセルク
エメトセルク : いや、だから私に言われてもだな……!
ヘルメス : 君ならば、そのカリュブディスが飛ぶのを助けてくれる……
必ずそうしてくれるはずだと聞いた……!
ヘルメス : 偉大なるエメトセルクよ、どうか頼む。
その子に飛び方を教えてやってくれ……!
メーティオン : じゃないと、ヘルメス、
今からここで、だいたんに、転身する!
ヒュトロダエウス : おやおや、こうなったら、
手を貸してあげたほうが早いと思うなぁ。
エメトセルク : 何が「おやおや」だ!
仕組んだのはお前だろう……!
ヒュトロダエウス : そんな人聞きの悪い。
ワタシはただ、そういう素晴らしい選択肢もあるって、
提示をしたまでさ。
メーティオン : お願い、エメトセルク!
エメトセルク : はぁ……私は手伝いのために来たんじゃない。
それだけは、よくよく、覚えておけよ。
エメトセルク : ……おい、地上からカリュブディスを飛ばすのはお前がやれ。
私が力を貸すのは、空中での補助だけだ。
ヒュトロダエウス : それじゃ、ワタシたちは、このあたりから見物していようか。
ヒュトロダエウス : さっきの質問だけど……
ほら、エメトセルクがなぜ十四人委員会に入ったのかって話。
ヒュトロダエウス : 実は、最初に十四人委員会への誘いを受けたのは、
彼じゃなくワタシだったんだ。
エーテルを視る眼を買われてね。
ヒュトロダエウス : ……でも、ワタシは断った。
確かに視ることにかけては人並み以上だけれど、
あくまでも視るだけだ。
ヒュトロダエウス : エーテルを操作する方は、どちらかというと下手な部類なのさ。
実際、転身もできないしねぇ……。
ヒュトロダエウス : 視て、識ることができても、
結果に対応するすべがなくちゃ仕方ないだろう?
ヒュトロダエウス : その点、エメトセルクは完璧だ。
エーテルが視えるだけじゃなく、それを自在に引き寄せて、
強大な魔法を使うことができる。
ヒュトロダエウス : あれほど偉大な魔道士を、ワタシはほかに知らないよ。
ヒュトロダエウス : だからワタシは彼を推したんだけど……
彼を推薦する声は、ほかにもたくさん届いていたんだ。
それも、世界中からね。
ヒュトロダエウス : なんでも、以前彼に手を貸してもらった人たちが、
「彼の実力は確かなものだ」って声を上げたらしい。
ヒュトロダエウス : フフ……当人は驚いたんじゃないかな。
彼としては、人助けをしてたつもりなんて、
これっぽっちもなかったようだからね。
ヒュトロダエウス : ……ワタシとエメトセルクには、
もうひとり、仲のいい友人がいるんだ。
ヒュトロダエウス : それがまあ、なんというか面白い人でね。
やらなくてもいいことにイチイチ首を突っ込んで、
あわや大惨事! みたいなことが常で……。
ヒュトロダエウス : エメトセルクは呆れてばかりだけど、
まあ……心配もしているわけさ。
ヒュトロダエウス : だから呼ばれればついていくし、
必要だと判断すれば、助っ人に駆けつける。
ヒュトロダエウス : 結果として、周りからは、
エメトセルク自身が人助けをしてるように思われたってわけだ。
ヒュトロダエウス : 本当に、とびきり愉快な友人たちさ!
ヒュトロダエウス : 彼らの望みが叶うようにすること、
それがワタシにできる、最良の星への貢献だ。
ヒュトロダエウス : エメトセルクは、
十四人委員会の座は命数に等しいというけれど……
ヒュトロダエウス : だったらワタシの命数は、
友人たちのそれに等しいのだろうと思うよ。
ヒュトロダエウス : いけないね、つい語っちゃった。
どうにもキミには親近感が湧いてしまうものだから……。
ヒュトロダエウス : やっぱり、その色……キミの中にある色のせいかな。
これほど似ているのに違うものだなんて……そんなこと、ある?
メーティオン : すごい、カリュブディス、じょうず!
ヒュトロダエウス : うん、あれならもう大丈夫、飛ぶ練習は終わりでよさそうだ。
ヒュトロダエウス : 近くまで行って、エメトセルクに手を振ってあげなよ。
終了の合図代わりにさ。
ヒュトロダエウス : ほら、浮島の端まで行って、
エメトセルクに手を振ってあげなよ。
終了の合図代わりにさ。
メーティオン : Tobari、みてみて!
カリュブディス、すごいの!
エメトセルクの魔法のおかげ!
ヘルメス : 飛べた……飛べたんだ、あれほど自由に……!
本当によかった…………。
エメトセルクが、こちらに気づいたようだ。
カリュブディスに指示を出し、ゆっくりと陸地に向かっていく。
ヘルメス : ありがとう、エメトセルク。
カリュブディスが、君の適切な指導のおかげで、
あんなにも悠々と飛べるようになった……!
ヒュトロダエウス : 本当、危なげなかったね。
おかげで、のんびり休憩できてしまったよ。
エメトセルク : よく言う……。
エメトセルク : 最初の方こそ補助が必要だったが、
後半は、ほとんど自力で飛んでいた。
あの調子なら、今後は補助もいらないだろう。
悩ましげな観察者 : みなさん、おつかれさまです……!
悩ましげな観察者 : 少し離れたところから見ていましたが、
このカリュブディスでも、しっかり飛べていましたね。
ヘルメス : これで、水属性に偏ったカリュブディスにも、
飛行能力はあると実証された。
ヘルメス : 今回は人が補助したが、彼らは群れを成す性質がある……
経験が蓄積されていけば、同じような個体が生まれても、
群れの仲間が補助するようになるかもしれない。
ヘルメス : その点もふまえて、もう少し観察を続けてほしい。
悩ましげな観察者 : ヘルメス所長がそう言うのであれば……。
悩ましげな観察者 : ただ、そういった可能性に賭けるよりも、
水属性に偏った「例外の個体」が生じないよう、
イデアを調整してもらう方が確実だと思うのですが……?
ヘルメス : …………すでに彼らはここにいるんだ。
まずは目の前のものと、徹底的に向き合ってくれ。
悩ましげな観察者 : はーい、了解です。
メーティオン : ヘルメス…………。
ヘルメス : ……大丈夫だ。
ヘルメス : さて……。
直近で予定していた仕事は、これですべて終了となる。
ヘルメス : ここで一旦休憩にするにせよ、
別の仕事場を視察してもらうにせよ、
ひとまずは、アナグノリシス天測園に戻るとしよう。
ヒュトロダエウス : なかなか興味深い視察だったよ。
最後はとくに……フフ、良い思い出になったとも!
ヘルメス : 今さらだが、こんな他愛もない仕事でよかったのだろうか……。
君は、退屈をしなかったか……?
メーティオン : お仕事、完了!
創造生物、今日はみんな元気で、よかった。
ヒュトロダエウス : なかなか興味深い視察だったよ。
最後はとくに……フフ、良い思い出になったとも!
ヘルメス : 今さらだが、こんな他愛もない仕事でよかったのだろうか……。
君は、退屈をしなかったか……?
メーティオン : お仕事、完了!
創造生物、今日はみんな元気で、よかった。
エメトセルク : …………なんだ。
無理やり手伝いをさせたことに、謝罪でもしてくれるのか?
エメトセルク : だとしたら不要だ。
私は手っ取り早い対処法として、手伝っただけだ。
断じて、お前たちの押しに負けたわけじゃない……。
『炎狼リュカオン』
ヘルメス : Tobari……
こうして戻ってきたわけだが、
君の求めていた情報は、少しでも得られただろうか?
▼デュナミスの件が、関係あったかも……
ヘルメス : デュナミスが、君の目的と関係しているのか……?
それはまた、ずいぶんと珍しい案件のようだ。
熟練の観察者 : おや、ヘルメス所長が、
ちょうどいいところにいてくださった。
ヘルメス : ……自分に何か用だろうか?
熟練の観察者 : いやね、またあの炎狼「リュカオン」が、やらかしたんですよ。
熟練の観察者 : 今日は野原に放って動向を観察する予定だったんですが、
あいつときたら、放った途端に大暴れ。
近くにいた怪鳥オキュペテを、片っ端から殺したんです。
ヘルメス : 食事は十分に足りていたのだろうか?
オキュペテから、リュカオンを挑発したりは?
熟練の観察者 : そのあたりの不備はありませんよ。
単純に、リュカオンは気性が荒すぎる。
熟練の観察者 : 非常に完成された、美しい生物であることは間違いないので、
そういった報告を受けた上でも、
創造物管理局はイデアの登録に踏み切るでしょう。
熟練の観察者 : ただ、あくまでイデアを保管しておくだけで、
実際に世界に放たれることはない……
そんなケースに落ち着くんじゃないかと思います。
熟練の観察者 : エルピスにおいても、もう研究すべき点はありません。
間もなく、主担当のドーロスが、
観察用に創造したリュカオンを「エーテルに戻す」でしょう。
ヘルメス : ……現場はどこだ?
熟練の観察者 : そこの門を出て、道なりに南西へ……
しばらく進むと正面に見えてくるはずですよ。
ドーロスたちがまだ残っているかはわかりませんが。
メーティオン : あっ、待って、ヘルメス……!
エメトセルク : これも奴の仕事なら、私には見届ける義務がある。
すぐに追いかけるぞ。
メーティオン : 重たい想い、満ちてる……。
悲しくて、悔しい……きっとヘルメスの……。
ヒュトロダエウス : この鳥……オキュペテも、決して弱い生き物ではないはずだよ。
ヒュトロダエウス : 見てのとおり大型で、牛や馬に似た屈強な脚と、角を持つ。
それによって、鳥でありながら地上での戦いも得意とする……
というコンセプトだったはずだからね。
エメトセルク : これはまた、ずいぶんと派手に暴れたな……。
当のリュカオンは、どこへ行った?
ヘルメス : 爪痕に噛み傷……それから火傷の痕……
間違いない、炎を繰る狼、リュカオンにやられたんだ。
ヘルメス : だが、リュカオンと、観察者たちの姿がない。
もう引き上げてしまったようだ。
ヘルメス : 主担当を務める「ドーロス」は、
この先にある「十二節(じゅうにせつ)の園(その)」を観測拠点にしているはず。
自分はそこへ向かって、彼から事情を聞いてくる。
ヒュトロダエウス : 一応、ワタシとエメトセルクで、
リュカオンが逃げ出したという線がないか視ておくよ。
そうだとしたら、危ないからね。
ヘルメス : 感謝する。
のちほど「十二節の園」で合流しよう。
ヘルメス : メーティオンは、Tobariの案内を。
君たちは焦らずに来てくれ……!
メーティオン : Tobari、一緒に行こう。
このまま南西、橋のむこうが、十二節の園!
メーティオン : この先が、十二節の園……
ヘルメスは、「ドーロス」探してるはず。
わたしたちも、探そう!
メーティオン : 「ドーロス」は確か、金の髪を束ねた、男の人。
観察者、いっぱいいるけど、ふたりでなら、見つけられるはず!
メーティオン : あっ、いた! ドーロス!
金髪を束ねた男性 : うん? 誰かと思えば、メーティオンじゃないか。
お使いでも頼まれたのか?
ヘルメス : ドーロス、見つけたぞ……!
ヘルメス : 君たちも探してくれていたんだな。
聞き慣れた声がしたおかげで、彼に気づけた。
協力に感謝する。
ヘルメス : 君は、炎狼リュカオンの観察を担当していたな。
彼らはどうした?
ドーロス : どうもこうも、あれだけ暴れちゃ、造物院に返すのも難しい。
ドーロス : ひとまず魔法の檻に入れて、郊外に待機させてるが……
レポートを提出し次第、「エーテルに戻す」つもりだ。
ヒュトロダエウス : 彼の報告に嘘はないと思うよ。
ワタシたちが視た結果と一致してるからね。
ドーロス : 何だよ大勢で……!
しかも、十四人委員会……!?
エメトセルク : いろいろと事情があってな。
だがお前が気にする必要はない、そちらの話を続けろ。
ヘルメス : リュカオンが、オキュペテを殺してしまったと聞いた。
彼らの気性は荒く、世界に放つことは認められない……と。
主担当である君の見解も、そうなのだろうか?
ドーロス : ああ、リュカオンは他の生物に対して異常なまでに攻撃的だ。
そして、戦闘能力は大抵の種族を凌駕している。
ドーロス : あんなものを世界に放てば、
どこであれ、先住の生物たちを根絶やしにするぞ。
ヘルメス : 調べた個体が、偶然そういった性質だったという可能性は?
ドーロス : ないな、何体か創ってみたが、そこに違いは見られなかった。
ドーロス : 「カイロス」で記憶を白紙化して、
学習過程や環境を変えてみてもダメだ。
エメトセルク : カイロス……?
ドーロス : 記憶操作の機構だよ、ヘルメスが創り上げたんだ。
ドーロス : あれを使えば、都度生物を創り直さなくても、
記憶を消したり改変したりして、
別の環境で育成した場合の観察ができるってわけさ。
エメトセルク : なんてものを創ってるんだ……。
エーテルの放射量によっては、
パシュタロットがスッ飛んでくるぞ。
ヘルメス : 法を犯してはいないはずだ……ギリギリ……。
それに、決して人に使うことのないよう、
所長権限で規制をかけている。
ヘルメス : 記憶を操作するなど、到底好ましいことではないが……
違う育成環境を試すために、創られた生物が殺められるのは、
どうしても看過できなかった……。
ドーロス : 殺めるだなんて、大袈裟な!
「エーテルに戻して」改めて創造してるだけだろ?
ドーロス : 所長はどうもそこが気になって仕方ないらしいが、
俺たちがやってるのは、星を善くするための、大事な選定だ。
ドーロス : 何回創り直してでも、しっかり観察すべきだし、
在るべきじゃないものは、きっちり消去する。
その必要性は、誰に問うても、議論の余地すらないと思うぞ。
ヘルメス : ……わかっている。
自分だって、世界に脅威を解き放ちたいわけじゃない。
線引きはできているつもりだ。
ヘルメス : だが、自分たちの判断ひとつに、
創られたリュカオンたちの命が懸かっているんだ。
ヘルメス : 観察の不足や不備はなかったか、
考慮しそこねている可能性はないか、
念入りに確認すべきだ……。
ドーロス : なら、詳しく報告をするから、一緒に検討してくれ。
ヒュトロダエウス : その話し合い、ワタシたちも立ち会っていいかな。
エメトセルクの視察の一環としてさ。
ヘルメス : ああ、もちろん構わない……。
ヘルメス : 彼らを談話室へ……そこで話をしよう。
ヘルメス : 自分の使命はわかっている。
だが、創造されたリュカオンたちの命に責任を持つことも、
エルピスで働く者の使命じゃないのか……。
メーティオン : 人には、人ではないものが生きてること、わからない……
それは魔法と同じで、管理すべきもの……。
メーティオン : ヘルメスは、それが…………。
『伝えたい気持ち』
ヘルメス : そういうわけで、自分たちは話し合いをしてくる。
しばらく掛かりそうだが、君は……
ヘルメス : ……メーティオン?
どこか、具合が悪いのか?
メーティオン : つらくなってるのは、わたしじゃない。
わたしに流れ込んでくる、ヘルメスの心……。
メーティオン : Tobari、わたし、あなたといる。
ヘルメスたちの話し合い、行かない……。
ヘルメス : ……すまないが、任せてもいいだろうか。
ヘルメス : ありがとう……。
それじゃあ、行ってくるよ。
メーティオン : わがまま、ごめんなさい……。
だけど、一緒に、やってほしいことある……。
メーティオン : ヘルメス、話し合い、多分とても悲しくなる。
だから優しいこと、嬉しいこと、歓び、探しておきたい……!
メーティオン : あのね、ヘルメス、いろんな知識あるけど、
エルピスにくる創造生物で、いちばん好きなの、
「花」なんだって。
メーティオン : ほとんどの生物は、新しいこと、美しいこと、
優れていること、望まれる……。
メーティオン : だけど花は今でも、
贈る相手や、伝えたい気持ちに似合うもの、創られる。
それが好ましい、ヘルメス言ってた。
メーティオン : だからわたし、ヘルメスに花、贈りたい!
創るのはできないけど、あるものから選ぶはできる!
メーティオン : Tobari、わたしと一緒に、
ヘルメスに贈る花、探してください……!
まず、園の中から……お願いします!
鮮やかな紫色をした大輪の花が、
あちこちの枝で咲き誇っている……。
メーティオン : きれいだねぇ……!
明るい色、大きな花びら、とても華やか!
メーティオン : ……でも、ヘルメスには、ちょっと元気すぎるかも。
贈る相手を想うから、花、好ましいって言ってた。
別のも、探してみていい……?
すらりと伸びた美しい樹だ。
メーティオンとともに、樹冠を見上げた……。
メーティオン : ……花、ついてないね。
せめてリンゴがついてたら、砂糖どばどばにして、
ヘルメス大喜びだったのに……。
メーティオン : うーん……。
次は、十二節の園の外、見てみよう!
メーティオン : 十二節の園の外にも、草花、たくさん!
いいの、見つかるといいな……!
花畑の中で、花々が美しく咲き誇っている。
色の異なる花で、模様が描かれているようだ。
メーティオン : これなら、さっきより、ヘルメスに似合うかも……?
メーティオン : だけど、花壇の中にあるのは、「触らないで」の意味。
観察に必要だったり、毒持ってる植物だったりする……。
メーティオン : ほかのところに生えてる花、いいのあるかな……?
もう少し、進んでみよう……!
すぐ近くに、うねうねと妖しく動く、
妙に背の高い花が生えている……。
メーティオン : この子は、コーネイオン!
動物みたいに、意志を持って、動く花!
メーティオン : よく、うしろ向いてるヘルメスに、種をぶつけて遊んでる!
贈りものには…………ダメだよね。
メーティオン : それにしても、Tobari、よく見てる……!
すごいね、一緒ならきっと、
ヘルメス嬉しいもの、探せるね……!
メーティオン : Tobariは、お仕事、何してる?
探すの上手で、観測者みたい!
小道が交わる地点で、あたりを見渡した。
……どこにでもある雑草が、小さな花をつけているくらいだ。
メーティオン : このあたりは、何も…………あっ!?
メーティオン : Tobari、すごいのいた!
西の方、道の先! 行こう!
メーティオン : 大物発見、見にいってみよう!
けど、「あの子」に近づくときは、気をつけなくちゃだね……!
あたりには、酷い悪臭が……
雨に濡れたまま日陰に放置されたブーツの臭いが漂っている。
原因は、傍らに佇む、モルボルの一種と思しき生物のようだ。
メーティオン : この子は、アドニス!
口の周りに、花びらみたいなの、ついてる!
頭についてるピカピカが、本当の花なんだって!
メーティオン : ヘルメス、最初にこの子調べたとき、
頭からパクッてされて、5日、部屋から出てこなかった……
どうかな!? 思い出深い!?
▼それは良くない思い出かなぁ……
メーティオン : ダメかぁー……。
メーティオン : うーん……贈りもの、難しいね……。
きれいなもの、おもしろいもの、たくさんあるけど……。
メーティオン : Tobari、あと少しだけ、探していい……?
もう少し島の外側、行って、
なければ、これまでのどれかにするから……。
メーティオン : あなたは、誰かに贈りもの、したことある?
わたし、そういえば、これが初めてかも……。
なんだか緊張、するね……!
浮島の外側に向けて緩やかな下り坂になっており、
青々とした草原が広がっている。
メーティオン : ここの先なら、何かあるんじゃないかって、思ったんだけど……
メーティオン : ……あれ?
今、茂みの向こう、光った気がする……。
何かあるのかな?
メーティオン : アナグノリシス天測園のある浮島と、
十二節の園がある浮島は、
あわせて、「ノトスの感嘆」なんだよ。
メーティオン : 南風の化身ノトスが、「すごいねー」って感動するほど、
美しい場所だ……ってことなんだって。
前に、メムノンから習った!
メーティオン : これ、エルピスの花……!
ここにも、咲いてたんだ……。
メーティオン : ……ヘルメスはね、この花のこと、
好きだけど、好きじゃないみたい。
メーティオン : わたしと同じ、エンテレケイア。
だから、ヘルメスの苦しい気持ちを感じ取って、
暗い色になっちゃう……。
メーティオン : ほかの人が近づいても、いつも、きれいな白のまま……。
ヘルメスは、それが哀しくて、寂しいみたい……。
メーティオン : 本当……!?
あなたのいた場所では、不安の暗い色、してたの!?
メーティオン : じゃあ、あなたにも、何か……
この花を暗く染めるような想い、ある……?
▼不安に感じていることがある
メーティオン : ああ……そうなのね……!
メーティオン : 思い浮かべるだけで、胸が重くなるようなこと、
ヘルメスにもある……
だけど、周りは、そうじゃないみたいなの……。
メーティオン : Tobari……お願い……。
あなたの、その不安を、一度だけ貸してください……!
メーティオン : この花を暗い色にして、ヘルメスに見せてあげたいの。
メーティオン : ヘルメスは、わたしを創ったときからずっと、
ひとりで思い悩んでるから……
暗い色、わかちあうの、必要だと思う……。
メーティオン : いいの……?
メーティオン : ありがとう……ありがとう、Tobari!
ああ……言葉、下手なのが、こんなにもどかしいなんて!
メーティオン : それじゃあ、十二節の園で、話し合い終わるのを待って、
ヘルメスをここに連れてこよう。
きっと、驚くね!
メーティオン : まだ、話し合い、続いてるみたい……。
わたし、あなたと一緒に、待つ!
メーティオン : ヘルメス!
ヘルメス : ふたりとも、待っていてくれたのか……?
メーティオン : 話し合い、終わった……?
ヘルメス : ……ああ、結論は出した。
ヘルメス : メーティオンを見ていてくれて、ありがとう。
ヘルメス : エメトセルクとヒュトロダエウスには、
中にある客室で、そのまま休んでもらうことになった。
ヘルメス : 君にも部屋を用意させてもらう。
案内しよう……。
メーティオン : 待って、案内、わたしたちが先!
ヘルメス : エルピスの花……?
メーティオン : お願い……!
メーティオン : 暗い気持ち、寂しい色、ヘルメスだけじゃない……。
だから……ダメ、ちがう……。
ヘルメス : そうか、君は、メーティオンの頼みを聞いてくれたのか……。
ヘルメス : よければ、少し……
話をさせてもらえないだろうか……。
ヘルメス : 自分は……人に定められた生き方を……
星のために生きるということを、悪いとは思っていない……。
ヘルメス : だが、ここで働いていると、
どうしようもない違和感に襲われることがある……。
ヘルメス : ファダニエルの座についての話を受けたとき、
ヒュトロダエウスが言っていたことを覚えているか……?
ヘルメス : 死とは、やりとげた者が選ぶ選択であり、
最期の瞬間はいつも、美しいものだと……。
ヘルメス : だが、それはあくまで人の話だ。
ヘルメス : 創られた生物が星の益にならないと判断された場合、
彼らは問答無用で消される……死を与えられる……。
ヘルメス : 生まれたばかりで、何も成し遂げていなかったとしてもだ。
ヘルメス : 処分の際は苦しませないようにしているが、
死を与えられることを察した生物たちは、怯え、憤る。
その終わりは美しいものなんかじゃない……。
ヘルメス : ……だが、そんな事実を、誰も気にしていないんだ。
ヘルメス : 星を善くするという目的は当然すぎるほどに当然で、
誰しも疑うことなくそれを信じ、行っている。
ヘルメス : 自分の前には……死にゆく生物たちの瞳には……
哀しみも、絶望も、理不尽への怒りも確かにあるのに……。
ヘルメス : この世界は、素知らぬ顔で幸せそうに笑い続けるんだ。
エルピスの花はいつだって、
無垢な白と、明るい歓びの色に輝いている……。
ヘルメス : そのことへの違和感が……何か、暗いものが……
日に日に胸の内で膨れ上がっているんだ……。
ヘルメス : 周りにおかしいと叫んでやりたくなる一方で、
おかしいのは、こんなことを思う自分じゃないかと……
怖ろしくなってくる……。
ヘルメス : だが、この世界で哀しみを知るのは……
エルピスの花をこんな色に染めるのは、自分だけじゃなかった。
ヘルメス : 花の傍らで何を思ったのかは聞かない。
もしかしたら、メーティオンにせがまれて、
仕方なくやってくれたことかもしれない。
ヘルメス : それでも……ありがとう……。
ヘルメス : こうして確かに哀しみがあり、怒りがあり、苦しみがある。
その事実を知っていてくれることが……こんなにも優しい。
▼どういたしまして
ヘルメス : 君は、変わっているな……。
こんな話、眉を顰められるかと思っていたが……。
ヘルメス : 君は、天に輝く星の正体を知っているか?
ヘルメス : ここからじゃ、ちっともそうは見えないが……
あのひとつひとつが、アーテリスと同じ、
あるいはさらに大きな大地でできている。
ヘルメス : ……これだけの数だ。
自分たちは星のために生きているが、
別の価値観を持つ生命もいるだろう。
ヘルメス : 自分は、彼らに問いかけたい。
彼らがなぜ生きるのかを……命の意味を。
ヘルメス : だから、デュナミスで天を翔ぶ鳥、
メーティオンを創ったんだ。
ヘルメス : 実のところ、メーティオンというのは、
ここにいるひとりだけじゃない……。
ヘルメス : 彼女には大勢の姉妹たちがいて、すでに宇宙へ飛び立っている。
意思を持つ生命を探して、星から星へと翔んでいるんだ。
ヘルメス : 宇宙の探索は予想外のできごとの連続で、
思ったような成果が上げられていない……。
ヘルメス : だが、そろそろ……
次こそは、何かしらの結果が報告されそうなんだ。
ヘルメス : もし、君がここに滞在している間に、報告が届いたなら……
この夜のお礼に、きっと共有させてくれ。
ヘルメス : ……さて、これ以上夜が深くなる前に帰るとしよう。
明日、そろって寝ぼけた顔をしていては、
エメトセルクたちに申し訳が立たない。
ヘルメス : メーティオン、そろそろ戻ろう!
メーティオン : はーい!
エメトセルク : ああ、お前か……。
私たちが話し合いに立ち会っている間、
問題を起こしたりはしなかっただろうな?
ヒュトロダエウス : キミも少しは休めたかい?
それほどエーテル量の少ない身体じゃ、疲れるでしょ。
休憩をしたかったら、遠慮なく言うんだよ。
メーティオン : ヘルメスに、あの花を見せられて、よかった……
どうもありがとう、Tobari。
メーティオン : ……これで、今日、乗り越えられるといいな。
『結論と責任』
ヘルメス : みんな、休息は十分だろうか。
……これより、次の仕事に向かう。
ヘルメス : 立ち会っていたエメトセルクとヒュトロダエウスは、
すでに知っていることだと思うが……
先の話し合いで、リュカオンの処遇が決まった……。
ヘルメス : エルピスに現存する、
観察用に創造されたリュカオンは、7体……。
ヘルメス : そのすべてを…………消滅させる。
ヘルメス : ドーロスの観察は、正しく行われていた。
彼の導き出した結論に、誤りはなかった……
自分は、エルピス所長として、それを認めなければならない。
ヘルメス : リュカオンを解き放てば、
周辺の生態系を破壊し、やがては自身も死滅する……。
世界のどこに移送することも、エルピスに残すこともできない。
ヘルメス : せめてそのイデアを、制約のつく危険生物として残せないか、
創造物管理局に提言するつもりだ……
ヒュトロダエウスも、それは支持すると約束してくれた。
ヘルメス : だが……いずれにせよ、
現存する個体は消し去らなければならない。
ヘルメス : すでに、主担当であるドーロスが、
リュカオンたちを観察拠点から離れた場所に連れ出している。
ヘルメス : 自分は、そこに合流して……見届けるつもりだ……。
人の……己の行いの……結果として……。
エメトセルク : お前がそう決めたなら、私たちも付き合うだけだ。
……視察をするのが役目だからな。
ヘルメス : ああ、行こう……。
ここからだと、大橋を越えた先にいるはずだ……。
ヘルメス : ドーロス!
大丈夫か、いったい何が……!?
ドーロス : ハァ……ハァ……しくじった……。
ドーロス : 強固な「鎖」の魔法で、リュカオンを繋いでおいたんだが……
こいつらが、今までにないくらい、暴れ出して……
魔法が、千切られたんだ……!
ドーロス : とっさに、4体は討ち取った……。
だが、残りの3体に……逃げられて……。
ヒュトロダエウス : ……視えた。
2体は、十二節の園の方角、上空だ。
エメトセルク : 最後の1体は、まだこの先の草原に留まってるな……。
エメトセルク : お前とTobariで、草原の方に対処しろ。
十二節の園の方は、私が引き受ける。
ヘルメス : ……了解だ……恩に着る。
ヒュトロダエウス : ワタシも、微力ながら手伝うよ!
ヘルメス : 君はここで、ドーロスと一緒に待っているんだ。
メーティオン : でも、ヘルメス……!
ヘルメス : …………リュカオンを倒すことになる。
そのときの気持ちを、君まで味わうことはない。
ヘルメス : 君にも、無理強いはしない。
それでも協力してくれるのなら……追ってきてほしい。
ヘルメス : ……ありがとう……それに、巻き込んですまない。
ヘルメス : リュカオンは、この先だ。
見てのとおり宙に浮いた状態……
うまくやらないと、空を駆けて逃げるだろう。
ヘルメス : 作戦がある……
君はリュカオンの正面に出て、注意を引いてくれ。
ヘルメス : 彼らは炎狼の異名で呼ばれるとおり、炎を吐く。
君にも、火球を飛ばしてくるはずだ……。
ヘルメス : 申し訳ないが、それに耐えて、正面に立ち続けていてくれ。
リュカオンの警戒が君に集中したとき……
自分が魔法で不意打ちをかけよう。
ヘルメス : ………………よし、行動開始だ!
ヘルメス : すまない……すまない……本当に……!
ヘルメス : どうか、どうか君の魂が安らかであらんことを……。
ヘルメス : 魂の寄る辺の海が、深き冥界が、穏やかであらんことを……。
ヘルメス : 君たちのイデアは、必ず残す……。
それがいつか……いつかはまた形を得るだろう……。
ヘルメス : 星を善くしなくたっていいんだ……
君の、生きたいという願いが……そのときこそ……どうか……。
ヘルメス : 恨んだまま、赦す必要はない。
その証に、苦しみはここへ置いていくといい……。
ヘルメス : 次に生まれるときにはきっと……
思うがまま、大地と空を駆けまわってくれ。
エメトセルク : ヘルメス、十四人委員会に入れ。
エメトセルク : ……この場所は、お前には向いていない。
ヘルメス : 自分がここを離れたって、誰かが選別を続ければ同じことだ!
ヘルメス : 教えてくれ……!
星を善くするという名分は、今消えた吐息よりも重いのか!?
ヘルメス : やり遂げた者が死ぬというなら……
いつか星が最善に至ったときに、どうする。
よくやったと満足して、死に絶えるのか!?
ヘルメス : …………わからないんだ。
ヘルメス : ファダニエルの座を継げば、
今その座にいる彼が星に還るのを、肯定することになる。
ヘルメス : それが正しいことなのか、わからない……。
ヘルメス : こんなことで悩んでしまう自分が……
人の代表として立っていいのか、わからないんだ……。
メーティオン : ヘルメス……ッ!
メーティオン : 怒らないで……責めるは、ダメ……
とても、苦しい……。
ヘルメス : ……すまない。
ヘルメス : まだ選べる余地が残っているなら、
少し、頭を冷やして考えさせてほしい。
ヘルメス : ヒュトロダエウス。
すまないが、案内は君に任せた……。
ヒュトロダエウス : ……了解。
好きにさせてもらうから、心配ないよ。
ヘルメス : 君も……。
ここに来た目的が果たせることを願ってる。
ヒュトロダエウス : ワタシたちは、ひとまず十二節の園に戻ろうか。
このあとどうするか、そこで相談しよう。
エメトセルク : そうだな……。
ヒュトロダエウス : ここで一段落といこうか。
キミも、突然のことばかりで驚いただろう。
怪我はしていないかい?
エメトセルク : 私たちが合流した時点でヘルメスも察していただろうが、
残り2体のリュカオンへの対処も、すでに終わっている。
エメトセルク : これで、この件は終了だ。
あとはいつもどおりに事が進んでいくだろう……何もかもな。
エメトセルク : ……ヘルメスの考えは、理屈としては理解できる。
素晴らしい終わりだったとしても、知人が星に還ったあとに、
ふと寂しく思うようなことはあるからな。
エメトセルク : だが、何かを喪ったことで、
あれほど深刻に悲しんで、取り乱した経験はない。
……どんな想いなんだろうな、あれは
エメトセルク : ヘルメスに掛けるべき言葉さえ、正直、見当がつかん……。
あいつが、あれ以上塞がないといいんだがな……。