万仙陣の戦神が顕象するのを防ぐため、人界と天界、畜生道の境涯によって線引かれた二つの宇宙。
結果として両者を繋ぐ穴も塞がれてしまい、迷い込んだエトランゼの三人を返すために「ニルヴァーナとエトランゼのより強固な線引き」が必要になる。
その間、暇潰しと称してサンサン園にある医療の記録に目を通す南天だったが……
テンカイ「様々な戦場から降って来た科学と魔法と出会った医療の歴史。
キミの興味はいつも、命が救われた過去に向いている……」
テンカイ「キミは本当に、生きることへの渇望を満たすのが好きだね」
南天「この世界が私の伝説ごと病を消してくれたなら、
もっと別のことに目を向けたかもしれませんね」
テンカイ「そんなことはないだろう?」
テンカイ「キミの“決意”は“生きること”だ。
キミが未来への渇望を失うなんてありえない」
南天「――……ええ、ありえてはいけない」
南天「私の死病は、元の世界では私に負けたんですよ」
南天「ニルヴァーナの奇跡がどうしようもできない“伝説”に、
緋衣南天はあらゆる“道具”を使って勝利しました」
テンカイ「だから、ニルヴァーナの医療や奇跡、魔法を調べて、
ひとつひとつを比べている……勝利を忘れないために」
テンカイ「キミは、キミを勝利させた“奇跡”を愛しているんだ♪」
南天「――は?」
テンカイ「おいおい、ボクはこの世全ての喜びなんだぜ?
キミの喜びだって、この世界では“ボクそのもの”だ」
テンカイ「キミは、キミが何よりも役に立つと信じているもの。いや……
恋人かな? その人物の“価値”と奇跡を比べている」
テンカイ「それも、ひとつの愛の形なのかな?」
南天「人の世界でもないのに、人の心に口出しをしないでくれませんか?」
テンカイ「わぁ……鋭い切り口だあ」
(中略)
南天「伝説に隻腕だと描かれた戦士は腕を再生することが出来ず、
病に倒れた伝承を持つミナシゴは、決して病の予兆から逃れられない」
南天「天界、あなたにも救えないミナシゴが居るんですよね。そして、
私の死病も消し去ることができないんですよね?」
テンカイ「うん、ボクは歓びの世界だからね」
テンカイ「キミの寿命を永遠にすることも、キミの病を消すことも、
六道の天界はやろうとしていない……キミを決定的には救わない」
テンカイ「キミを救済するという点に関して、ニルヴァーナの天界は、
緋衣南天の“シンノヒカリ”を超えることは決して無い」
南天「ええ……どれだけ命の渇望が満たされた歴史を読んでも、この地獄に
私の為に存在する“信明くん”よりも使えるものはない」
南天「私は、それを確かめて“満足”している」
南天「さぁ、望んだ言葉は聞けたかしら?」
黒死病・ロンドン大火、キルデアの聖ブリギット、ナイチンゲール、ヒポクラテスの宣誓、アスクレピオス、会津世直し一揆、ルサルカ、聖なる杯……世界中のありとあらゆる医療や不死、豊穣に関連する“伝説”を持つ戦神・ミナシゴが全力で処置して『痛み分け』が精一杯だった南天の“伝説”、逆十字。
彼女を癒すことが出来るのは、南天が『最も使える道具』として信頼する少年ただ一人。
その事実を何度も何度も噛み締めながら、南天は元の世界に戻り彼と再会することを心待ちにするのだった。
最終更新:2025年04月01日 00:02