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鍬とり剣法

最終更新:2019年10月31日 19:50

harukaze_lab

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鍬とり剣法
山本周五郎

-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)平島《ひらじま》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)下|栢《はく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数)
(例)※[#「二点しんにょう+官」、第3水準1-92-56]
-------------------------------------------------------

[#8字下げ]一[#「一」は中見出し]

 寛永十三年の春三月。
 紀伊の国新宮の城下から北へ二里、平島《ひらじま》という小さな宿場に枡屋吉兵衛《ますやきちべえ》という旅籠《はたご》がある。その表に面した二階の窓に凭《もた》れて一人の武士が、ぼんやりと海を眺めていた。
 この季節には珍しい驟雨《しゅうう》が去ったあとで、午に近い春日は野山に燦々《さんさん》と輝き、名に高い熊野灘もとろりと凪いで、群青を溶いた硯海のように静かである、……窓に凭れた武士は、頬杖をついたまま、さっきから放心したように、その海の青を見まもっていた。
 年齢は三十六七であろう、彫の深い浅黒い顔に、濃い一文字眉と、力のある静かな双眸がひどく印象的だ。痩形の長身ではあるが、骨組も肉付きもがっちりとして、しかも発条《ばね》のように強い柔軟さをもっている。……宿帳には藤堂《とうどう》家の臣で、木村伊右衛門《きむらいえもん》と記してあった。
「お客さま、御膳をお持ち致しました」
 下女が午の食事を運んで来た声で、茫然と刻を忘れていた彼はようやく身を起こした。
「……もう午になるか」
「はい、今日はお好きな蝦《えび》がどっさり漁《と》れましたから、よろしかったらどうぞお代えくださいまし」
「それはかたじけないな」
 客の武士は、言葉少なに膳へ向った。
 すると、……二杯目の茶碗を手に取った時である。彼は持っていた箸をぴたっと止めて、なにかに驚いたように、くっと向うへ眼をあげた。……実にすばやい、獅子のような眼光であった。
 彼はなにを見たのか?
 障子の明けてある横手の小窓から、この宿の中庭の一部が見える。屋根の庇《ひさし》が鉤形を描いて、さっきの驟雨の名残りの雨滴《あまだれ》が、ぽたりぽたりと滴り落ちている、……武士の眼は、その雨滴れのする軒下にひたと止った。
 軒下の暗がりに誰かいるのだ。
 そして脇差を左の腰に引つけて、庇から滴り落ちる雨滴の水滴を、抜打ちに斬っているのである。……それがべつに身構えもせず、声もあげず、きわめて無頓着な様子である。三ヶ所から滴り落ちる水滴は、それぞれ緩急、頻疎を異にしているのに、その一つ一つを決して※[#「二点しんにょう+官」、第3水準1-92-56]さず、無雑作にすぱりすぱりと斬払っている。
 武士の表情は、嘆賞の色に輝いた。
「なにをそんなに御覧になっていらっしゃいます」
 下女が不審そうに振返って。
「ああ、剣術きちがいでございますか」
「……狂人《きちがい》だと?」
「はい、下男の庄助《しょうすけ》と申しまして、評判の剣術きちがいでございます」
 下女の話を簡単に記すと……
 庄助は貧農の子であったが、幼少から武芸事が好で、野良仕事をしている時にも、手作りの木剣を離したことがない、少し暇でもあると二日も三日も山へ籠って帰らぬことがしばしばであった。木立を叩き廻ったり獣を追ったりして、武術修業をするのだという、……村人たちは狂人だと嗤《わら》っていたが、成長するにしたがって、奇妙なことに自然と会得するものがあったのか、仲間と喧嘩をしても不思議なくらい木剣をよく使い、五人や六人が棒を持ってかかっても、彼の着物に触ることさえできないようになった。
 そればかりではない、いつか旅の武者修行者に試合を挑むことを覚えたが、これまで十数度の立合いに一度として負けたことがないのだ。……庄助はますます自信を得て、今年の春からとの枡屋へ下男に住込んだ。駅路の宿だから名ある武芸者が泊ることもある。
 もししかるべき人物が泊ったら、これに試合を申込んで、剣道の奥義を究めようという考えなのであった。
「そういうわけで、ここにいるのですが」
と、下女は給仕をしながら続けた。
「あの人は自分の好きでなにをしようと勝手ですけれど、可哀そうなのはお文《ふみ》さんです」
「……お文さんとは?」
「庄助さんの許嫁《いいなずけ》ですけれど、あの人のことが心配で離れていられないのですね。今ではとの宿の飯炊きをしながら、庄助さんの心が真面目になるのを待っているんです」
「それは奇篤な……」
 客の武士はもういちど内庭を見やった。……そこではまだ、きらりきらりと、雨滴を斬る白刃の光が、春日に輝いていた。
 それから三日めの午さがりだった。
 海辺まで歩きに出た客の武士が戻ってくると、宿の裏手で若い男と十七八になる娘とが、なにか烈しく揉合っているのをみつけた。
「待って、庄助さん、行かないで」
「うるさい、放せというのに」
「いいえ待ってください、おまえは殺されてしまいます」

[#8字下げ]二[#「二」は中見出し]

「馬鹿なことを! おれは強いんだ」
「おまえの強いのは知っているけれど、相手はお武家さまです。あなたの身にもしものことがあったらあたしは生きてはいられません。どうか行くのは止《よ》してください」
「いつまで同じことを云ってるんだ、心配なら一緒に来て見るがいい、放せ!」
 力任せに突放されて娘は生垣へ倒れかかる、その隙に若者は素早く走り去って行った。――娘は狂気のように、
「待って、庄助さん」
と追おうとしたが、ふと武士の姿をみつけて馳《か》け寄って来た。
「お武家さま、お助けくださいまし、行って、庄助を助けてやってくださいまし」
「どうしたのだ」
「紀州さまの御家中に鈴木民部之助《すずきみんぶのすけ》という剣術の御名人がいらっしゃいます。その鈴木さまと、法台寺の原で試合をしに参ったのでございます。あの人は殺されるに違いありません。どうか行ってお助けくださいまし」
「せっかくだが……」
と武士は頭を振って、
「鈴木民部之助と申せば紀伊家でも指折の達人、とても拙者などが参ったところで相手にはならぬ」
「いいえあなたさまであればこそお願い申すのでござります。木村伊右衛門とは仮のお名、まことは荒木又右衛門《あらきまたえもん》さまでございましょう」
「なに、……馬鹿なことを申す」
「たとえお隠しなされても、わたくしは一昨年《おととし》、伊賀の上野で御功名を遊ばしたおり、この眼でお姿を見ているのでござります」
 退引《のっぴき》のならぬ一言だった。
 正に彼は、荒木又右衛門だったのである。……寛永十一年、伊賀の上野における復讐事件以来、彼は義弟の渡辺数馬《わたなべかずま》とともに、藤堂家に留められていた。……例の仇討が旗本と大名との対立にまで発展していた事件なので、幕府が藤堂家に命じて二人を留めさせたのだという……ともあれ以来あしかけ三年になるが、彼はまだ藤堂家に客分として滞留していたのである。
「そうか」
 又右衛門は頷いた。
「そう知られていれば仕方がない、助けることができるかどうかは分らぬが行ってみよう。案内してくれ」
「有難うございます、どうぞ急いで」
 娘は先に立って走りだした。
 道を新宮のほうへ四五丁行って右へ折れると、松林を縫ってひと筋の小径が、爪尖登りに山のほうへ通じている、それをおよそ十丁ほど行ったところに、左手へ台地のように広く突出た原があった。
 昔そこに法台寺という巨刹があったとかで里人は法台寺の原と呼んでいる。先に立って走っていた娘は、その原へかかるなり悲鳴のような声をあげた。
「あっあれ、……」
 そこではすでに試合がはじまっていた。
 庄助は萠《も》えだした若草を踏んで、三尺あまりの無反《むぞり》の木剣を上段に構えて立っている。……それに対して相手は、おそらく鈴木民部之助であろう、大剣を中段にとって構えていた。……両者の間およそ三間、それよりやや離れて五名の武士が、二人の様子をじっと見戍《みまも》っていた。
 又右衛門は静かに近寄って行ったが、七八間のところで立止り、左手で大剣の鍔元《つばもと》を掴んだまま、庄助の躰をひたと睨んだ。
 やや強い南風の日で、流れる雲が時々さっと二人の上へ影を落して去る。汗止をした庄助の額が、いつか赤く充血していたし、民部之助の横鬚には脂汗が糸をひいていた。……気合は充分に満ちているのだ。喰合った二人の呼吸と視線とが、まるで空中で火花を散らしているように見える、すると突然、
 ――えい!
という凄じい絶叫が聞えた。
 どっちから出た声か分らない、絶叫とともに二人が両方から同時に踏出し、木剣と白刄とが直角に風を截って閃いた。……三間の間隔が一瞬縮ったと見る刹那、大剣を地上へ叩き落とされた民部之助が、四五間うしろへ跳びのきながら脇差を抜く、すかさず庄助が跳込もうとするとたんに、
「待て、それまでだ!」と、又右衛門が声を掛けた。
 ずんと五躰へ徹る声だった。……庄助は撃たれたように踏止まる。民部之助も、伴れの五人も夢から覚めたようにこっちへ振りかえった。……又右衛門は静かに民部之助のほうへ会釈して、
「無礼を仕った。これは拙者ゆかりの者でござる、御教授まことにかたじけない、失礼ながらこれにて引取らせます」
「………」
「庄助、戻るのだ、参れ!」
 若者の眼を睨みながら云うと、民部之助のほうへもういちど会釈をして、又右衛門はそのまま静かに踵を返した。

[#8字下げ]三[#「三」は中見出し]

「余計なことをなさる、どうしてお止めなさったのだ。もうひと太刀で民部之助を打止めていたものを」
 庄助は不平そうに繰返して云った。……又右衛門は黙って歩いていたが、松林の中へ入ったとき静かに足をゆるめながら、
「そうかも知れない」と低い声で云った。
「おまえの太刀筋は非凡なものだ、師につかずしてそれだけ刀法を会得したのは珍重だ、けれど……もうその辺で木剣は捨てなければいけない」
「どうしてです、なぜです」
「分らないか、……それなら訊《き》くが、おまえそれ以上に強くなってどうしようというのだ。なるほど、もうひと太刀で民部之助を打止めることができたであろう。しかしそれでどうしようというのか」
「剣道の奥義が知りたいのです。剣の極意を究めて天下に名を成したいのです」
「……駄目だ」又右衛門は、冷やかに云い放った。
「おまえにはできない!」
「なんとおっしゃる、私にはできないと?」
「そうだ、おまえの木剣はいまにおまえの身を亡ぼす、……庄助、鳥に翼を与えられたのは太陽を盗めというわけではないぞ」
 云い捨てて大股に去って行く、又右衛門の後姿を憎悪の眼で見送った庄助が、木剣を取直して追おうとする……お文はその腕へ体ごと縋りついて、
「いけません。あのかたは」
「放せ!」
「あのかたは荒木又右衛門さまです」「……なに」
「伊賀の上野で仇討をあそばした」
「荒木、……又右衛門」
 庄助は、さっと顔色を変えて立辣んだ。
 彼は七八日前から泊っている侍客として、その男を知っていた。けれど宿帳に書いてあるとおり、藤堂家の木村伊右衛門という平凡な客としか考えていなかったのである。……そして今、お文の口から本名を聞かされた刹那、さっきからの、なんとなく圧《おさ》えつけられるような気持の原因が分った。民部之助を追詰めようとした時、
 ――それまでだ!
と叫ばれた、五体に徹するあの声、そして庄助参れと云われて、抗うことのできなかった、あの時の断乎たる様子など、……今にして思えばすべてが頷ける。
 ――よし、この人だ。庄助は固く心に決めた。
 ――この人こそ剣道の師だ、たとえ火竜の口を潜っても、この人から道の秘奥を伝授してもらうぞ!
 お文を急《せ》きたてて庄助が宿へ帰ってみると、又右衛門はすでに出立したあとであった。
 伊賀へ帰ったと確めて、庄助はすぐにそのあとを追った。むろんお文も一緒である、……脅しても宥めても、彼女は庄助から離れることを承知しなかったのだ。
 それから二日め、尾鷲《おわせ》の浦で庄助は、又右衛門に追いついた。
「なにをしに来た」
 又右衛門のほうから、声をかけた。……庄助は道の上へ坐って、「お願いでございます。どんな苦労も厭《いと》いません。どうか剣法の弟子にお加えくださいまし」
「ならぬ、剣のことは忘れろ、それがおまえの身のためだぞ」
「たとえこの身の果てがどうなりましても、私は極意を究めたいのです、剣道の秘密が知りたいのです。どうか伊賀へお伴れくださいまし」
 又右衛門は鋭く若者の眼を瞶《みつ》めていたが、やがて静かに云った。
「そうか、それほど望むなら来るがよい」
「あ、……お許しくださいますか」
「大道無門、おまえがそれほどの執心を、これ以上拙者が拒むことはできぬ、いかにも剣の極意を授けて遣わそう、来るがよい」
「有難うございます」
 庄助は、声を震わせて平伏した。
 途中、伊勢神宮へ参拝して、伊賀の上野へ帰ったのはもう三月末のことであった。……又右衛門は城下|栢《はく》ノ畑に屋敷を貰っていて、そこには家中の士を教える大きな道場が付属している、……庄助とお文には屋敷内の小屋を与えて落着かせた。
 四月に入ると、季候のいい上野盆地はすっかり初夏の装いになり、若葉の野山には、早くも杜鵑《ほととぎす》の声が聞えるようになった。
 帰ってからしばらくは、顔を見る機会もなかった又右衛門が、ある夜庄助を居間へ呼んで、
「庄助、望みどおり極意をやるぞ」
と、膝を正して云った。
「有難うございます。では支度を致しますから」
「いや支度には及ばぬ」
 又右衛門は、立とうとする庄助を制した。

[#8字下げ]四[#「四」は中見出し]

「おまえの太刀筋は未曽有のものだ、たとえ、いかなる達人が現われても、それ以上おまえに刀法を教えることはできまい。しかし庄助、剣の道は刀を上手に使うだけではないぞ、いかに剣を上手に使い、いかに巧みに人を斬ることができてもそれで剣の道を究めたとは云えぬ……分るか、そこで拙者が改めて剣の秘奥を伝授するからよく訊け」
「………」
 庄助は一語《ひとこと》も聞き※[#「二点しんにょう+官」、第3水準1-92-56]すまいと、息を殺して待った。しかし又右衛門は、きわめて静かな声でつづけた。
「この屋敷の裏に杉の木がある、朝から日没まで、太陽のめぐるにしたがって杉の木の影は、地面の上を移って行く……よいか」
「はい」
「その杉の木の影が落ちるところ、影の届く周劃のなかを捜すのだ。……おまえに授ける極意書は、銅の経筒に納めて三尺深く地中に埋めておいた。……いま申す杉の影の落ちるところを掘返してみろ、そこに極意がある」
「あの巨《おお》きな杉でございますか」
「荒地のまん中に立っている一本杉だ、分ったら今宵からでも始めるがよい。……ただし断っておくが自分でするのだぞ、他人の手を藉《か》りたらたとえ経筒をみつけても、極意を授けてはやらぬぞ」
 庄助は平伏して退いた。
 どういう意味で極意書を地中へ埋めたか、そんなことは考えてみる気持もなかった。小屋へ帰るとすぐ身支度をして、鍬を借りて来て裏手へ出かけた。
 屋敷の裏は一面の荒地で、布引山のほうへなだらかに高くなっている、その荒地のほぼ中央どころに、五六百年も経ったかと思える杉の巨木が立っていた。……庄助はその杉の木蔭に立ってしばらく四辺《あたり》を見廻していたが、やがて、その根元へと力任せに鍬を打下ろした。
 ――どんな名人達人が現われても、そのうえおまえに刀法を教えることはできぬ。
 ――おまえの太刀筋は未曽有だ。
 さっき云われた言葉が耳の底に強く残っている、荒木又右衛門ほどの者でも、これ以上教えることはないというのだ。……あとは極意書をみつけて、その伝授を受ければいい、そうすれば、天下の剣法家として、名を挙げることができるのだ。
 庄助はなにもかも忘れて、その仕事に没頭し始めた。
 杉の高さ八十尺あまり、日の出と日没とに投げる影の範囲は、想像を遙かに越えて広くかつ遠かった、しかし庄助はいささかも※[#「足へん+寿」、第4水準2-89-30]躇しなかった。朝から夜になるまで、食事の暇も寝る間も惜しんで掘り続けた。……お文はむろん手伝うことを許されなかった。湯を運び食物の世話をする他は、黙って庄助のすることを見ているだけだった。
 季節は梅雨に入り、やがて盛夏を迎えた。
 盆地の習いで風がないし、照りつける日光は髪を縮らせるかと思われる、それでも庄助は怯まなかった。髪も髭も茫々と伸び、垢と土とにまみれた手足は、松の木肌のように荒れていた。彼は着たままで眠り、眼が覚めるとそのまま鍬をとる生活を百幾十日のあいだ続けていたのである。
 その日も朝から烈日が照りつけていた。
 暗いうちから掘り続けていた庄助は、もう汗も出切って、呑込む唾もないほど渇いていたが、もうひと息、もうひと息と頑張り続けた。……雑草のはびこる頃なので、打込むたびにそれらの勁《かた》い根が鍬にかかってくる、庄助はそれを掴んで、遠くへ投げては、ふたたび鍬を打込んでいた。
 するとその時、不意にうしろで、
「庄助、なぜ草の根などに気を取られる」という声がした。振返って見ると、あれ以来いちども会わなかった又右衛門が立っていた。……はっとして気付くと、掘起した雑草が、いつか右手にうず高く堆《つも》っていた。
「どうして草を除くのだ」
「……は」
「おまえは地中の経筒を掘り当てればいいのではないか、それなのに石塊《いしころ》や雑草を遠くへ投げている、……どうしてそんなことをした」
「一向に、私……」
「庄助!」又右衛門は、静かな声で云った。「おまえ気がつかないか」「………」
「それがおまえに伝授した極意だぞ」「………」
「己を生かし世を生かす、……これが剣道の極意だ。今のおまえにとって、掘起した土から石や雑草を除く必要はない、しかし必要のないことをおまえは自然としていた。……そのために、見るがよい、おまえの掘起した土地は、そのとおりそのまま立派な耕地になる。……これが剣道の極意なのだ」
「……先生」
 庄助は、崩れるようにそこへ坐った。……又右衛門は投出されていた鍬を、庄助の手に渡しながら云った。
「伝授の印にとの鍬をやる、国へ帰って立派な農夫になれ、おまえの非凡な才能とこの鍬とで、己と世とを生かすのだ。……剣のかなたにある剣の極意を忘れるな」
 庄助は泣いていた。……そしてお文も。
 お文がなにか叫びながら走寄ると、庄助は土まみれの手でお文の肩を力いっぱい抱しめた。……それを見て、又右衛門は静かに屋敷のほうへ立去って行った。



底本:「強豪小説集」実業之日本社
   1978(昭和53)年3月25日 初版発行
   1979(昭和54)年8月15日 四刷発行
底本の親本:「講談雑誌」
   1940(昭和15)年10月号
初出:「講談雑誌」
   1940(昭和15)年10月号
※表題は底本では、「鍬《くわ》とり剣法」となっています。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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山本周五郎
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