atwiki-logo
  • 新規作成
    • 新規ページ作成
    • 新規ページ作成(その他)
      • このページをコピーして新規ページ作成
      • このウィキ内の別ページをコピーして新規ページ作成
      • このページの子ページを作成
    • 新規ウィキ作成
  • 編集
    • ページ編集
    • ページ編集(簡易版)
    • ページ名変更
    • メニュー非表示でページ編集
    • ページの閲覧/編集権限変更
    • ページの編集モード変更
    • このページにファイルをアップロード
    • メニューを編集
    • 右メニューを編集
  • バージョン管理
    • 最新版変更点(差分)
    • 編集履歴(バックアップ)
    • アップロードファイル履歴
    • ページ操作履歴
  • ページ一覧
    • ページ一覧
    • このウィキのタグ一覧
    • このウィキのタグ(更新順)
    • このページの全コメント一覧
    • このウィキの全コメント一覧
    • おまかせページ移動
  • RSS
    • このウィキの更新情報RSS
    • このウィキ新着ページRSS
  • ヘルプ
    • ご利用ガイド
    • Wiki初心者向けガイド(基本操作)
    • このウィキの管理者に連絡
    • 運営会社に連絡(不具合、障害など)
ページ検索 メニュー
harukaze_lab @ ウィキ
  • ウィキ募集バナー
  • 目安箱バナー
  • 操作ガイド
  • 新規作成
  • 編集する
  • 全ページ一覧
  • 登録/ログイン
ページ一覧
harukaze_lab @ ウィキ
  • ウィキ募集バナー
  • 目安箱バナー
  • 操作ガイド
  • 新規作成
  • 編集する
  • 全ページ一覧
  • 登録/ログイン
ページ一覧
harukaze_lab @ ウィキ
ページ検索 メニュー
  • 新規作成
  • 編集する
  • 登録/ログイン
  • 管理メニュー
管理メニュー
  • 新規作成
    • 新規ページ作成
    • 新規ページ作成(その他)
      • このページをコピーして新規ページ作成
      • このウィキ内の別ページをコピーして新規ページ作成
      • このページの子ページを作成
    • 新規ウィキ作成
  • 編集
    • ページ編集
    • ページ編集(簡易版)
    • ページ名変更
    • メニュー非表示でページ編集
    • ページの閲覧/編集権限変更
    • ページの編集モード変更
    • このページにファイルをアップロード
    • メニューを編集
    • 右メニューを編集
  • バージョン管理
    • 最新版変更点(差分)
    • 編集履歴(バックアップ)
    • アップロードファイル履歴
    • ページ操作履歴
  • ページ一覧
    • このウィキの全ページ一覧
    • このウィキのタグ一覧
    • このウィキのタグ一覧(更新順)
    • このページの全コメント一覧
    • このウィキの全コメント一覧
    • おまかせページ移動
  • RSS
    • このwikiの更新情報RSS
    • このwikiの新着ページRSS
  • ヘルプ
    • ご利用ガイド
    • Wiki初心者向けガイド(基本操作)
    • このウィキの管理者に連絡
    • 運営会社に連絡する(不具合、障害など)
  • atwiki
  • harukaze_lab @ ウィキ
  • 枕を三度たたいた

harukaze_lab @ ウィキ

枕を三度たたいた

最終更新:2019年11月01日 07:57

harukaze_lab

- view
管理者のみ編集可
枕を三度たたいた
山本周五郎

-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)龝村《あきむら》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)田|主計《かずえ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#6字下げ]
-------------------------------------------------------

[#6字下げ]一[#「一」は中見出し]

 塚本林之助はその役目を龝村《あきむら》宗左衛門からじかに命ぜられた。龝村は江戸の筆頭家老であり、その席には側用人の志田|主計《かずえ》が立会っていて、若狭守宗良《わかさのかみむねよし》の「墨付」も見せられた。
 彼が命ぜられるまえに、その役目を辞退した者が二人いるということなど、むろん彼は知らなかった。ただ国許《くにもと》の軍用金を動かすということと、役目ちがいという二つの点が、ほんのちょっと気になった。――軍用金は手を付けることのできない性質をもっているし、金のことは金奉行が当るべきで、林之助は勘定奉行所の書役支配だから、まったく無関係ではないにしても、正式にいえばその役ではない。だが側用人の立会いで、筆頭家老から命ぜられ、藩主の墨付を見せられたのだから、お受けする以外になにか思案があろうなどとは、思いもよらぬことであった。
「念のため、注意しておくが」と龝村宗左衛門が云った、「いま家中《かちゅう》に根もない流説をひろめ、穏やかならぬ事を企んでいる者があるようだ、ことによるとそれらが、途中でなにか邪魔をするかもしれぬ、たぶんそんな暴挙はすまいと思うが、道次には決してゆだんせぬよう、よくよく気をつけてまいれ」
 そして供は、辻源六、小松藤兵衛、田代重太夫の三人に命じてある、と付け加えた。かれらは馬廻りの軽輩で、剣術の達者だということは聞いていたが、林之助には三人とも殆んど未知の人間であった。
 明朝出立ということで、役部屋へちょっと寄り、住居へ帰って、妻に旅の支度をさせていると、永野又四郎と加島東吾が訪ねて来た。永野は五百石ばかりの大寄合で、又四郎は妻の長兄に当る。東吾は二百二十石の書院番だが、国許にいる小林|主水《もんど》と共に、林之助にとってもっとも親しい友達であった。主水は五年まえに国許の小林家へ婿にいったもので、旧姓は清水といい、年は林之助と主水が二十五歳、東吾が一つ上であった。
「茶はいらない」と又四郎は座敷へとおるなりさわ[#「さわ」に傍点]に云った、「内談があるから向うへいっていてくれ」
 さわ[#「さわ」に傍点]は良人《おっと》を見て、林之助が頷《うなず》くと、すぐにさがっていった。
「今日、御家老に呼ばれたな」と東吾が訊《き》いた、「用はなんだった」
 林之助は命ぜられた役目を告げた。
「承知したのか、まずいな」と云って東吾は又四郎を見た、「まずいですよ永野さん」
 又四郎は「うん」といって義弟を見た。
「その役は辞退するがいい、塚本」と又四郎は穏やかに云った、「中尾も深井も辞退したのだ、知らなかったのか」
 林之助は「知らなかった」と答えた。
「ではこれからいって辞退するがいい」「病気になるんだ」と東吾が云った、「急病の届けを出せば辞退できるよ」
 林之助は「まさかね」と苦笑した。
「まさかではない本気で云うんだ、塚本は事情を知らないのか」と東吾が云った、「国許から運んで来る三千両は、現老職の延命策に使われるんだ、われわれはもう現老職の在任には耐えられない、それは塚本にもわかっているだろう」
 林之助は首をかしげた。
「龝村一派は退陣すべきだ」と東吾は強い口ぶりで云った、「かれらがこのうえ在任したら、藩の仕置も勝手もめちゃめちゃになってしまう、どんなことをしても、龝村一派の延命策は防がなければならない」
 そして彼は、龝村一派の無能と、私曲のかずかずを挙げたが、林之助は遮《さえぎ》って、「そういう話は困る」と云った。
「なにが困る」と東吾が訊いた。
 林之助は当惑したように、自分は勘定奉行所の職員で、つまり老職の支配下にいる人間だし、そうでなくとも、その任にあらぬ者が政治に口を出すことは、御家法として禁じられているからだ、と答えた。
「それは時と場合による」と東吾がやり返した、「それはその任にある者が誠忠で、仕置が正しく行われている場合のことだ」
 林之助は「それもむずかしい」と云って、また首をかしげた。人間の善し悪しや仕置の正不正は、判断する者の立場によって違うことが多い。たとえば、龝村宗左衛門が就任するまえは、松岡|図書《ずしょ》が筆頭家老であり、その系統の人たちで仕置をしていたが、それらに対してもずいぶん非難があった。自分はまだ部屋住で、詳しいことは知らなかったけれども、現在の龝村一派に対する非難より、はるかに烈しかったように思う。そうではなかったか、と林之助は反問した。
「それがなんだ」と東吾が云った、「それだから龝村一派の秕政《ひせい》に眼をつぶれというのか」
 林之助はそんなことは云わない、と首を振った。自分は政治のことはわからないし、わかりたいとも思わない。ただ、家臣として命ぜられたことをはたすだけで、ほかのことにはいっさいかかわりたくない、と林之助は云った。
「では訊くが、幕府から三万両貸与の内情を知っているか」と東吾がせきこんで云った、「一年に一万両ずつ、三年間に三万両貸与の沙汰が出た、その裏にある事情を知っているか」
 また大倉平左衛門の件はどうだ、と東吾は続けた。金奉行の大倉平左衛門が、多額な御用金を貸出したことが発覚し、下役の坪野宅右衛門らと共に追放になった。そして、貸出した金が殆んど回収不能だったが、あの出来事の真相を聞いたことはないか、と東吾は云った。
 林之助は黙って、膝の上で両手の拇指《おやゆび》と拇指をゆっくりと廻していた。
「辞退するがいい、塚本」と又四郎が穏やかに云った、「現老職は退陣すべきだ、国許でも同じ意見が強くなっている、その役目は辞退しなければならない、さもないと塚本自身の立場が悪くなるぞ」
 林之助は黙っていた。東吾が「どうなんだ」と訊いた。辞退するのかしないのか、どうなんだ、とたたみかけるように訊いた。
「おれの気持はもう云った」と林之助は静かに答えた、「ほかに云うことはないようだ」
 東吾は又四郎を見た。又四郎は義弟の顔を見まもっていて、それから、東吾に向ってそっと首を振った。
「さわ[#「さわ」に傍点]、――」と林之助が云った、「茶を持っておいで」
 だが二人は立ちあがった。
 妻は話を聞いていたらしい。東吾の声が高かったので、聞くつもりがなくとも聞えたのだろう、二人を送りだしたあと、いかにも心配そうに、
「大丈夫でございますか」と良人の眼をみつめながら訊いた。

[#6字下げ]二[#「二」は中見出し]

「聞いていたのか」
「はい」とさわ[#「さわ」に傍点]は頷いた。
「わからない」と彼は眼をそらした、「永野さんや加島の云うとおりかもしれない、私は役所の事務以外に頭を使ったことがないから、政治むきの話になると判断がつかない、しかしね、――私が辞退したところで、いずれ誰かがこの役目をはたすことになる、きっとそういうことになると思う」
「そうかもしれませんけれど、お二人はあなたのためを思っていらしったのでしょう」
「そうだろう、慥《たし》かにそうだろうが、勘定奉行は御家老の直属だし、私がその役所に勤めている以上、御家老に命じられた役目を辞退するわけにはいかない、私は政治的な諍《あらそ》いにはかかわりたくないのだ」
 さわ[#「さわ」に傍点]は黙った。
 彼女にはまだ良人がよくわかっていなかった。嫁して来て一年たらずしか経たないし、良人は極めてくちかずが少なく、夫婦でゆっくり語りあうということも殆んどない。それは林之助が早く両親に死別し、母方の伯父夫妻に育てられたため、そういう内気な、人に心をひらくことのできない性分になったようにも思われる。また、その伯父は三浦喜兵衛といって、長く腰物奉行を勤めていたが、古武士ふうの、おそろしく厳格な人で知られていたから、その影響を受けているようにも思われるのであった。
 ――三浦の伯父さまにでも相談するように云ってみようかしらん。
 さわ[#「さわ」に傍点]は幾たびかそう思ったが、口に出して云う勇気はなかった。
 昏《く》れがたになって、辻源六、田代重太夫、小松藤兵衛の三人が、うちあわせのために訪ねて来た。林之助は酒をもてなし、半刻《はんとき》あまりかれらと話した。辻は三十二歳、田代は三十歳、小松は二十七歳になる。かれらは剣術の達者として家中に知られており、こんど供に選ばれたのも、そのためだと思っているらしく、少し酒がまわると、「いったいどういう危険があるのか」という意味のことを、遠まわしに諄《くど》く訊いた。林之助はわからないと答えた。自分は危険なことがあるようには思えない、「おそらくなにごともないだろう」と云い、道中絵図を出して、宿駅の相談にかかった。
「それはお任せします」と辻源六が云った。「貴方《あなた》は国許へいらしったことがおありでしょう」
 林之助は頷いた。彼は故|大炊頭宗敏《おおいのかみむねとし》の小姓だったとき、前後二度、国許へ供をしたことがあり、いまひろげている道中絵図にも、そのときの宿駅に印がしてあった。
「もう一と月おそいといいんですがね」と田代重太夫が帰り際に云った、「旅にはまだ寒すぎるでしょう、国許はことに雪がひどいんじゃありませんか」
「城下の雪景色は見るねうちがあるよ」と林之助が云った。
 三人が帰ったあと、さわ[#「さわ」に傍点]は良人に、「三浦さまへ挨拶にゆかなくてもいいのか」と訊いた。林之助はいいだろうと云った。国許へ転勤にでもなるならべつだが、使いに往って来るのだからその必要はあるまい、と答え、その夜はいつもより早く寝間へはいった。
 林之助は翌朝五時に出立した。
 供は辻源六たちのほかに、小者が四人。墨付の入っている挾箱《はさみばこ》を、小者が交代で担ぎ、それを前後から守るかたちで、東海道を西に向った。――箱根を越すまでは晴天続きだったが、三島から雨になり、大井川も降る中を渡った。一月中旬のことで、晴れていれば海道は暖たかいが、雨となると寒気がきびしく、掛川では小者の一人が悪い風邪をひいて高熱を出し、ついに宿へ置いてゆくことになった。
 浜松は本陣の帯屋が定宿であるが、泊った夜、林之助は主人の七郎右衛門と半刻ばかり話した。どの宿《しゅく》でも、諸侯にはそれぞれ定宿があって、その藩の者が泊ると主人が挨拶に出る。これまでずっとそうだったが、帯屋では夕食のあと、林之助が主人の部屋へいって話した。七郎右衛門は故大炊頭のお気にいりで、中林という苗字を与えられ、江戸屋敷へは士分で出入りが許されている。中林は、大炊頭の俳号「冲林」から取ったものだそうであるが、八年まえ、林之助が参覲《さんきん》の供で帯屋へ泊ったとき、七郎右衛門の世話になったことがあった。彼はそれを覚えていて、礼を述べにゆき、ひきとめられて、半刻あまり話しこんでしまった。
 辻源六たちは「ぬけ出す」相談をしていた。かれらは藤沢でも三島でも、ひそかに宿をぬけだした。林之助は一人で隣りに座敷を取るし、寝るのはいつも早かった。かれらは林之助の寝息をうかがってぬけだし、一刻ほど遊んでから、そっと帰って来て寝るのだが、林之助はまったく気づかないようであった。――田代重太夫が番頭に幾らかにぎらせ、ぬけ出す手筈はすっかりできたが、林之助が戻らないので、三人は苛《いら》いらし始めた。そうして、八時すぎてから林之助は戻って来たが、襖《ふすま》の向うから「もう寝たか」と声をかけ、まだ起きていると答えると、鍵をあけて、「今夜は外へ出ないように」と云った。
 三人は気まずそうな顔で、「はあ」とあいまいな返辞をした。林之助はさりげない眼つきで、三人を眺めて、それから襖をしめた。
「知っていたのかな」と小松藤兵衛が二人に囁《ささや》いた、「知っていたらしいな」
「そうらしい」と田代重太夫が頷いた。
「しかしいま、今夜は、――と云ったぞ」と辻源六が囁いた、「ぬけ出すのを咎《とが》めたのではなく、今夜は出るなという意味らしいぞ」
「というと、どういうことだ」
「わからない、わからないが」と辻は二人を見た、「ことによると御老職に念を押された、例の件に関係があるんじゃないか」
「われわれを阻止しようという連中のことか」と田代が云った、「それならそうと云う筈じゃないか」
「どうかな、おれはそう感じたがね」
 小松が二人を見ながら訊いた、「しかしいったい、どういう連中がどういう理由で、この金送りの邪魔をしようとするのかね」
「大きな声を出すな、金送りのことは極秘だと云われたぞ」
「やつらはいつもこうさ」と辻が軽侮するように唇を曲げて云った、「上のほうの連中とくるといつも勢力諍いだ、御家老の手から政治を奪い返して、自分たちがうまい汁を吸おうというんだ、しかも藩家のおためなどという旗印を立ててな、見え透いてるよ、おれなんかの眼にだって見え透いている。結局うまい汁を吸いたいやつがいるんだ」
「誰だ、松岡さん一派か」と田代が訊いた。
「そんなところかもしれないな、松岡図書」と辻が云った、「かつて龝村さん一派に叩き落された人だからな、うん、気がつかなかったがそんなところかもしれないぞ」
 小松が欠伸《あくび》をしながら、みれんらしく云った、「――今夜は本当にぬけられないのかね」

[#6字下げ]三[#「三」は中見出し]

 田代重太夫は考えこんでいて、もちろん小松藤兵衛などには見向きもせず、ちょっと首をかしげながら辻源六に云った。
「だが、おれはそう思うんだが、できるんならもう老職は交代してもらいたいな」
「どうしてだ」
「だってこうお借米《かりまい》が続いては苦しいよ、二十石あまりの扶持《ふち》を、もう五年も満足に貰っていないんだからね、向うは僅か二割というだろうが、おれは家族を六人抱えているし、一年や二年ならともかく、二十石から二割ずつ五年も削られどおしではまいるよ」
「それはお互いさまだ、お互いさまだが、こういう話を聞かないか」と辻が云った、「こんど御家老の奔走で、公儀から三万両という金を借りられることになったというんだ、聞いたことはないか」
「聞いたようだが、けむったい話だ」
「いや、おれは慥かな筋から聞いたんだ」
「けむったいな」と田代が云った、「三万両なんて金を公儀で貸すとは思えない、まえにもそれに似た話があって、お借米の分も纒《まと》めて下げられるなんて噂《うわさ》だったが、噂だけで消えてしまったからね」
「こんどは慥からしいんだ、それでこんどの金送りがきまったということだ」そして辻はさらに声をひそめた、「なにしろ軍用金だからな、よほどのことがない限り、軍用金に手をつける筈はないからな」
「しかし三万両も借りられるなら、三千両ばかりの金を、わざわざ国許から運ぶことはないように思うがね」
「それが政治というものさ、公儀から借り出すにしても、お頼み申す、よろしいというわけにはいかないだろう、老職には老職で、またわれわれとは違った苦労があるもんだ」そして辻はまた唇を歪《ゆが》めた、「つまりこう手順がついて、公儀からの借り出しが成功すれば、龝村さん一派の勢力は動かなくなる、それを好まない連中、――仮に松岡図書がその人だとして、おそらくその与党が事を毀《こわ》し、老職交代を企んでいるのだろう、おれなどには興味もないが、主君のためとか、藩家のためなどという旗印の立つときは、必ず権勢争奪の陰謀があるものだよ」
 隣り座敷で林之助が咳《せき》をし、「もう寝るほうがいいぞ」と云うのが聞えた。三人は口をつぐんだ、気がつかないうちに声が高くなっていたらしい、辻源六が手を振り、みんな寝る支度にかかった。
 明くる朝はおそく、九時をまわってから宿を立った。理由は云わなかったが、なにかを避けるために時刻をずらせた、ということは察しがついた。それで三人は緊張した気分になった。林之助がなにも云わないだけ、よけいに危険の近いことが感じられるようで、その翌日と翌々日いっぱい、同じような緊張した状態が続いた。――だが、なにごともなく名古屋に着き、その夜、三人はまた宿をぬけ出した。林之助はやはり知っていたらしく、夕食のときに、「あまりおそくならないように」という意味のことをほのめかし、自分は早く寝てしまった。
 米原から雪になった。名高い港のあるその城下町へ着くまで、ずっと雪に降られるか、晴れても踏み固められた雪の道をゆくので、初めて江戸をはなれた辻たち三人や小者たちは、雪の多いのと寒さの激しさにふるえあがっていた。
 城下へはいると、そのまま小林主水の家を訪ねて、草鞋《わらじ》をぬいだ。すでに男の子が生れていて、親になったせいか、それとも肥えたためか、主水はすっかり貫禄《かんろく》がついてみえ、そのうえ言葉にお国|訛《なま》りが付いたので、林之助ははじめ圧迫を感じたくらいであった。――城下も雪であったが、着替えをするとすぐに、彼は国老を訪ねようとした。それは午後四時ころであったが、主水は「明日にするがいい」と止めた。
「そうはいかない」と林之助は云った、「こんどは急の使いだし、到着の挨拶だけでもしておかなければならない」
「まあいい、国許は暢《のん》びりしているんだ、それは明日のことにして酒にしよう」
 林之助は笑った。
「なにを笑うんだ」と主水が訊いた。
「いや」と林之助は首を振った、「それならそういうことにしよう」
 それから風呂にはいり、くつろいで、二人は酒を飲みはじめた。
 辻たちもべつの座敷でもてなされてい、林之助は主水と二人で飲んだ。小林の家族は、義母のます[#「ます」に傍点]女と、主水の妻のたい[#「たい」に傍点]、三歳になる千松、そして妻女の妹かなえ[#「かなえ」に傍点]という五人であった。ます[#「ます」に傍点]女もかなえ[#「かなえ」に傍点]も、たぶん江戸の話が聞きたいのだろう、挨拶に来てそのままそこに坐りたそうであったが、主水は平気で追いたて、妻女も酒肴の世話をするとき以外には、その座敷に置かなかった。
「この婿はたいそう関白だな」
「女はうるさい」と主水が云った、「ふだん女に囲まれてるようなものだからな、義母、女房、義妹、おまけにこのあいだまで、女房の従妹《いとこ》というのもいたんだ」
 林之助がまた笑った。
「なにが可笑しいんだ」
「いや」と林之助が答えた、「――その、主水の訛りが、耳に馴れないんだ」
 主水は苦い顔をして、塚本もこっちへ来たことがあるんだろう、と云った。ああ、先殿のお供で二度来た、しかし一年ずつだったからね、と林之助が答えた。塚本は笑うが、おれはこの訛りを付けるのに苦心したんだ、仇《あだ》やおろそかな訛りじゃあないぞ、と主水は云った。
 少し酔いがまわりだしたとき、主水はなにげない口ぶりで、「暫く遊んでゆけ」と云った。なにげない口ぶりだが、林之助には意味ありげに聞えた。
「とはまた、どういうことだ」
「ゆっくり骨休めをしろというんだ」と主水が云った、「病気の届けを出して、二月いっぱい此処《ここ》にいるがいい、こっちもそのつもりで、滞在する用意がしてあるんだ」
 林之助は黙った。
「それを喰べてみないか」と主水は膳《ぜん》の上の鉢をさした、「鱈《たら》の子漬といって、越後のほうの名物だそうだ。これはまねて作ったんだがうまいぞ」
 林之助が主水を見て訊いた、「加島からなにかいって来たんだな」
「七日まえに早が来た、しかし、情報の交換は半年もまえからやっているよ」
「おれをそのなかまに入れないでくれ、加島にも断わってある、おれは除外してもらうよ」

[#6字下げ]四[#「四」は中見出し]

「まあ待て、もう少し飲もう」
 主水は林之助に酌をし、妻を呼んで酒を命じた。火桶《ひおけ》が二つ、大きな火鉢に炭火がおこっているが、座敷の中は暖たまるようすがなく、呼吸のたびに、空気の冷たさが鼻にしみるようであった。
「江戸では加島の云うことをなにも聞かなかったそうだな」
「ここだって同じことだ」
「塚本には昔からそういう強情なところがあった、しかも手を焼くのは黙ってしまうことさ、黙ってしまった塚本に口をきかせるのは、岩に饒舌《しゃべ》らせるより困難だからな」と云って主水は盃《さかずき》を置いた、「ひとつ直截《ちょくさい》にゆこう、塚本は老職の交代を望まないのか」
「考えたことがないんだ」
「現老職の私曲について知っているか」
「知らない、おれは噂や蔭口で人の判断はしないことにしている」
「それは立派だが逃げ口上にも使える。是非善悪のけじめをつける決断がなく、事実にぶっつかる勇気のない人間も、よくそういうことを云うものだ」
「勇気にもいろいろあるがね」
「二つだけ聞いてくれ、東吾が話そうとしたのに聞かなかったそうだが、簡単に話すから聞いてくれ、一つは大倉父子の件だ」
(作者注・この藩の記事を録した「片耳記」には次のように記してある。即《すなわ》ち「――御金奉行大倉平左衛門、伜《せがれ》とも、不慎の儀これあり、八月五日、父子とも遠慮に仰せつけられる。同月十一日、平左衛門下役、坪野宅右衛門と申す者も一族共へ御預けとなる。大倉父子ならびに坪野らは、御用金ひいきに付、その金高にはいろいろ評判もこれあり。諸方へ貸付け候おもむきのところ、宅右衛門貸付け候分は急々取立て、大概そろひ候やう申し触らし候へ共、御吟味のうへ平左衛門は横田久太夫方へ引取り候やう仰せ付けられ、十月十六日、平左衛門父子は侍お削りなされ、家内|闕所《けっしょ》、その後追放。宅右衛門も同断。過分の御損金[#「過分の御損金」に傍点]に相成候由」云々)
「あの件では大倉父子と坪野が、家内闕所、追放になったこと以外、すべてがあいまいにぼかされてしまった」と主水が云った、「かれらが贔屓《ひいき》金を貸し、それが回収不能になったというが、どこへどう貸したかも、その金高もはっきりしない、――調書にはただ、過分の御損金だった、と記してあるだけだ、それに三人の処分も、初めは親類に預け、再吟味のとき閉門、それから士分を削り、次に闕所、追放と、ぐずぐず手間をかけている、このあいだに事実をはぐらかし、煙滅《いんめつ》してしまったのだ」
「なんのために」と林之助が訊いた。
「真の責任者を隠すためにだ」
「真の責任者だって」
「龝村一味さ、御用金は贔屓貸しにされたのではなく、老職一味が遣ったのだ」と主水が云った、「――かれらの仕置は放漫きわまるもので、藩の勝手は松岡時代よりもひどくなっていたが、先将軍(家継)の御霊屋《おたまや》を普請するとき、お手伝いを願い出たのが命取りになった、その莫大な費用は借財の上に借財を重ね、御用商人はもちろん、いかがわしい高利の金まで借りあさり、詰りに詰って御用金に手を付けたのだ」
 林之助が訊いた、「しかしそれなら、大倉、坪野が黙っている筈はあるまい」
「黙っているさ、かれらは代償をつかまされたんだ、いや事実だ、現に坪野は在所へ帰っている、彼の在所は笈松村《おいまつむら》だが、そこで五町歩あまりの田地を買い、土蔵付きの家を建てておさまっている」
「糾問してみたのか」
「そのときが来たらするさ、大倉父子のほうははっきりしないが、どうやら上方《かみがた》で商人になっているらしい、坪野を糾問すればこれもはっきりすると思う、もう一つは幕府から三万両貸与の件だ」と主水は続けた、「――去る十二月に老中からそういう沙汰があったというが、この時勢にそんな多額な金を、わが藩だけが貸与されるというのはおかしい。なにか仔細《しさい》があるぞと、国許のほうでまず疑いをもった。それで江戸邸と連絡をとったのだが、さぐってみるとあった。一年に一万ずつ、三年間に三万両というが、一万両について二千両ずつ老中に謝礼を払うのだ」
 林之助はゆっくりと頭を振った。
「つまり実際に手に入るのは二万四千両で、それも三年に分割され、しかも返済するときは三万両と、恩謝の礼を加えなければならない。こんなに勝手が詰っているときだ、二万四千両ぐらい右から左へ消えてしまうだろうが、三万両に礼金を加えたものは残る、こんなことを傍観していていいと思うか」
 この藩に限らず、殆んど全諸侯が経済的にゆき詰っている。これをたて直すには政治を根本から変えなければならない。こちらから借りてあちらへ返し、そちらから借りてこちらへ返す、藩士の禄《ろく》を削ったり、御用金をくすねたりするような、こんなでたらめな政治はうち毀すほかはない。――それにはこんどの金送りが絶好の機会だ、この三千両は龝村一派の命脈を保つために遣われる。この金が届かなければ、迫っている年度の仕切りができなくなるし、かれらは退陣せざるを得ない、老職の交代は必至なのだ、と主水は云った。
「かれらには多くの私曲もあるが、いまはそんなことは問題にしない、この放漫な、無計画で腐った仕置ぶりだけで充分だ、ここでかれらを退陣させなければ、それこそ取返しのつかぬことになってしまうぞ」
 林之助は溜息《ためいき》をついた。
「病気になれ、塚本」と主水は云った、「中尾角兵衛と深井|甚九郎《じんくろう》の二人はこの役目を拒んだという、これで塚本が病気の届けを出せば、誰も代る者はないだろう、少なくとも国許には一人もない、おそらくもう江戸邸にも代る者はないと思う、あとのことはおれたちで引受けるから、明日にでも病気の届けを出してくれ、わかったな」
 長い沈黙が続き、やがて、林之助はゆっくり首を振りながら、「むだだな」と云った。
「もしこんどの金送りが、現老職たちにとってそれほど大切だとすると、かれらはどんな手段をもちいても運び出すだろう、江戸家老城代家老、それに側用人が組んでいる、殿はまだお若いし、かれらがその職権をふるうとすれば、藩士である以上それを拒否しとおすことはできない、また、――小林はいまおれに代る者はないと云ったけれども、代る者は必ず出る、おれに代って金送りをする者が必ず出ると思う」
「断言する根拠があるか」
「断言はしないが、現に大倉親子や坪野らの例がある、利をもって誘われれば」林之助はまた溜息をつき、低い声で云った、「――人間は弱いものだからな」

[#6字下げ]五[#「五」は中見出し]

 こんどは主水が黙り、殆んど怒りの表情で林之助の顔を見まもった。
「どうしても不承知か」
 林之助は答えなかった。
「危険だぞ」と主水が云った、「血気の連中は力ずくでも妨害すると云っている。三人や五人ではないんだ、おれたちの手では抑えきれないかもしれないぞ」
「そういう注意もされて来た」と林之助が云った、「供の三人は江戸邸で指折りの腕達者だそうだが、そういうときのために選ばれたらしい、どれだけ腕が立つかおれは知らないが、そのために選ばれたのだということを、こっちの連中に云っておいてくれ」
 主水が云った、「飯にしようか」
 翌日早朝、林之助は城代家老の屋敷を訪ねて、到着の挨拶を述べ、いちど小林へ戻ったうえ、時刻を待って登城した。雪は降ったりやんだりしていた。降りだしたかと思うとやみ、すると雲の切れめから青空が見え、日光が明るくさしつけた。
「妙な天気ですな」と登城する途中で辻源六が云った、「まるで梅雨どきのようではありませんか」
 林之助は三人には危険のあることを知らせてなかった。かれらは降ってはやむ雪に興じ、晴れまに見えた港の、青黒い水や、雪をかむった岬《みさき》や、泊り船などに、立停っては感嘆の声をあげた。
「絶景だ、なるほど絶景だ」と小松藤兵衛が繰り返し云った、「これは慥かに見るねうちのある景色だ」
 城へあがると、林之助は黒書院へとおされた。
 城代家老の脇屋伊十郎、次席の峰岸六郎兵衛、年寄役|肝煎《きもいり》の内野図書、中老の龝村伊兵衛らが席に並んだ。役目の内容はわかっているので、「墨付」の披露が済むとすぐに、老職の詰所へ案内され、そこで金の受渡しや、帰りの日程などをうちあわせた。そのあと休息の間で食事のもてなしがあり、終って茶菓になると、次席家老の峰岸六郎兵衛が、主水と同じ意味の警告をした。不穏なことを企んでいる者があるから、領内を出るまではゆだんしないように、領分境までは警護の人数を付ける、と六郎兵衛は云った。林之助は人数を付けるには及ばないと答えた。その中に不穏な人間のいるおそれがある、そういうことを耳にしたし、供の三人は腕が立つ。警護などを付けると、却《かえ》って相手を刺戟《しげき》することになるだろうと、云って断わった――林之助のようすで安心したらしい、六郎兵衛もしいてとは云わず、やがて脇屋伊十郎から引出物があり、林之助は下城した。引出物は金五両であった。
 その夜、もういちど小林で泊った。主水は彼と夜具を並べて寝、少年時代の思出ばなしなどしたが、金送りについてはなにも云わなかった。久しぶりに話し更かして、いよいよ眠ろうとするとき、林之助は枕を拳《こぶし》でたたいた。
 主水は訝《いぶか》しそうな眼で見た、「なんだ、妙なことをするじゃないか」
「寝首を掻《か》かれないためさ」
「呪禁《まじない》か」
「子供じぶんからの習慣でね」と林之助は云った、「こうすると眼敏《めざと》くなるんだ」
「それはたのもしい、道中ずっとやってゆくんだな」
「ああ、毎晩やるつもりだ」
 やがて二人は眠った。
 明くる朝、林之助を送り出した主水は、玄関で云った、「残念だった、塚本、気をつけてゆけよ」
 林之助は主水を見あげて微笑し、そっと頷いた。微笑は弱よわしく、頷きかたも心もとなかった。それから呟くように云った、「有難う、大丈夫だ」
 それから城へあがり、二頭の馬に金を付けて出立した。
 城をさがるとき、林之助は辻源六たち三人に向って、「刀の柄袋を外しておけ」と云った。三人はすぐに柄袋を外した。かれらは互いに見交わしながら、にわかに緊張し、城下町を出るまでしきりに前後左右へ気をくばった。空もようは同じ按配《あんばい》で、降ったりやんだりしていたが、雪の降っているあいだは(見とおしがきかなくなるので)三人の緊張が眼にみえて昂まった。――だが、案じたようなこともなく、城下町を通りぬけ、長い畷道《なわてみち》も過ぎると、林之助は「もうよかろう」と云い、自分から先に柄袋をかけた。三人も同じようにしながら、いかにもほっとしたらしく、それからは足どりも軽くなるようにみえた。
 旅は無事にはかどった。
 近江路《おうみじ》は晴れて、春が始まったことを告げるかのように、暖たかい日が続いた。不安な気分は去ったようで、林之助はなにも云わないが、もう危険はないというようすが、その態度で明らかにうかがえた。三人はまったく気がゆるみ、大津でも、土山でも、宿をぬけて遊びにでかけた。美濃《みの》へはいるとまた雪だったが、尾張になると晴れた。そして岡崎に着いたとき、夕食のあとだったが、手洗いにいって来た林之助が、さりげない顔つきで三人に云った。
「今夜はでかけないでくれ」
 三人は訝しそうな顔をした。
「なにかあったのですか」と辻源六が訊いた。林之助はなにか考えるような眼つきをし、もういちど云った、「とにかく今夜はでかけないでくれ」
 そして寝るときになると、かれらと自分の座敷との、あいだの襖をあけたままにしておいた。
 翌日は午後になって宿を立った。午後もおそく、もう三時を過ぎていたし、宿を出るとすぐに、林之助はまた「柄袋を外せ」と云った。ごくなにげない口ぶりだったが、それが却って強く、危険の迫っていることを暗示するように聞え、三人は再び緊張した。――その日は南風が強く、空は重たく曇っていたが、藤川までゆくと雨が降りだしたので、泊るかと思うと、林之助は「赤坂までのそう」と云い、みんなに雨支度を命じた。気温は高かったが、かなり強い吹き降りで、道はしだいに山へかかるため、歩くのにかなり骨がおれた。
 藤川から赤坂までは二里九町だが、山中へかかると日が暮れはじめ、宮路山の坂ですっかり暗くなった。雨も風もやむけしきがなく、往来の絶えた坂道に、叩きつける雨がしぶきをあげ、左右の樹立は風のため、時をきって怒濤《どとう》のように鳴り騒いでいた。――金を付けた馬二頭を中に、辻源六と小松藤兵衛が前、林之助と田代重太夫がうしろ、そのあとに小者二人という順であった。道はやがて平らになり、それから赤坂へ向って下りになった。すると、左側が崖《がけ》、右側が(暗くてわからないが)低く谷のようになった処へ来たとき、突然、うしろの馬が暴れだした。
 なんに驚いたものか、その心はするどい悲鳴をあげると、蹄《ひづめ》で地面を叩いてはねあがり、前の馬にぶっつかり、前の馬もはねあがって、人びとをはねとばしながら、二頭とも狂ったように疾走していった。

[#6字下げ]六[#「六」は中見出し]

 田代重太夫は道から転げ落ちた。林之助に突きとばされたのである。林之助が「危ない」と叫び、田代は道の右側へ突きとばされた。そちらは谷のようになっていて、彼はごろごろと転げ落ちた。さして深くはない、十五六尺ばかりの高さで、下は小川らしく、田代はその水の中へ横さまに落ちこんだ。
 ――待伏せだな。
 と田代は思った。やみ討ちをかけられたのだと思い、立ちあがって、
「おーい」と呼びかけた。すると、すぐ向うで答える声がした。
「田代か」と辻源六の声が喚いた、「大丈夫か、けがはないか」
「大丈夫だ、待伏せだな」
「わからない、どこだ」
「水浸しだ、いまそっちへゆく」
 田代は斜面を登っていった。道の上から小松藤兵衛の呼ぶ声がし、小者たちの声も聞えた。辻は斜面にしがみついており、田代といっしょに道へ這《は》いあがった。
「やみ討ちではないのか」と田代がまた云った、「塚本さんはどうした、馬は」
 誰もはっきりしたことはわからなかった。馬は二頭とも疾走し去り、馬子はそれを追っていったらしい。林之助も追っていったのだろう、いくらみんなで呼んで、答える声は聞えなかった。いずれにせよ大事なのは馬に付けた金だから、すぐにかれらも赤坂のほうへ下っていった。風と雨で、話もできないし、まっ暗な道は足もとが危なく、気はあせるが走るわけにもいかなかった。そうして七八町いったとき、道の脇から呼びかける声がし、三人はとびあがるほど驚いた。田代はまた待伏せをくったかと思い、合羽をはねて刀の柄に手をかけたが、辻源六は林之助の声だと気づき、「塚本さんだ」と云った。
「塚本さんですか」と辻はどなった、「どうしました、どこですか」
「こっちだ、この茶店の中だ」
 かれらはそっちへいった。道の脇に茶店の小屋があり、林之助はその中にいた。辻源六は二頭の馬が繋《つな》がれているのを認め、「ああ、馬も無事ですね」と云った。
「馬も荷も無事だ」と林之助が云った、「ここに腰掛がある、はいって少し休むがいい、みんないるか」
「みんないます」と田代が答えた。
「田代はどうだ、馬が蹴《け》あげるので危ないと思ったから突きとばしたが、けがはなかったか」
「けがはしませんが、下に小川があって水浸しになりました」
「この雨だけでみんな水浸しさ、少し掛けて休むとしよう」
「提灯《ちょうちん》をつけましょう」と小松が云った、「おい馬子、提灯を持っているか」
 提灯はなかった。いまの騒ぎで、馬子は二人とも提灯を落してしまったという。それで小者の一人が挾箱をあけて、蝋燭《ろうそく》を出した。小屋の中だから、少しは雨風もふせげるが、蝋燭をつけるまでにはかなりてまどった。――紙で囲った蝋燭の光りが、危なげに揺れながら小屋の中を照らすと、みんなはほっとしたように饒舌《しゃべ》りだした。みんなが待伏せだと思ったそうで、林之助は「脇差を抜いた」と云った。
「刀を抜くつもりで脇差を抜いたらしい。ばかなはなしだ、しかもその脇差をどこかへなくしてしまった」と林之助は珍しくせかせか話した、「どこでなくしたのかわからない、走ってるうちになにかにぶっつかって転んだ、頭をぶっつけたんだが、笠はとんでしまうしそのときなくしたんだろうな、おれはてっきり待伏せをくったと思ったから、そいつらはみんなに任せて、金のほうを守るつもりで馬を追いかけたんだ」
 話しながら、彼はしきりに頭へ手をやった。頭の右側の、月代《さかやき》の際《きわ》のところを、さも痛そうに、押えたり撫《な》でたりする。田代重太夫がなにげなく見ると、そこが血まみれになっていた。
「塚本さん血が出ていますよ、いま手で触っている頭の、そこです、切れてるんじゃありませんか」
 林之助は自分の手を見た。手も血だらけになっていた。辻源六が「灯をみせろ」と云って、林之助のそばへゆき、頭の傷をしらべた。月代の剃《そ》り際のところが、斜めに三寸ばかり切れており、そのまわりがひどく腫《は》れて、傷口からはまだ血が出ていた。これはひどい、と辻は眉をしかめ、医者に診せなければいけないが、血止めだけでもしておこうと、薬籠《やくろう》を出させ、傷口へ膏薬《こうやく》を塗り、晒《さら》し木綿で頭を巻いた。
「この傷がわからなかったんですか」
「わからなかった」と林之助が云った、「いまになって痛みだしたが、ぶっつけたときからずっと痺《しび》れたままで、瘤《こぶ》ができたんだと思っていた」
「よほどひどく打ったんですね」と辻が云った、「骨に障りがなければいいが」
「うん、いまになって痛みだしたよ」
「医者に診せるほうがいいからでかけましょう」と云い、辻は馬子を呼んで訊いた、「赤坂まであとどのくらいだ」
 馬子は「十五六町です」と答えた。
 みんなが馬に乗るようにとすすめたが、林之助は傷にひびくからと断わり、頭から合羽をかぶって、まださかんに荒れている風雨の中へ出ていった。ゆるい下り坂の十五六町だから、昼間ならほんのひと跨《また》ぎだろうが、四半刻ほどもかかって宿へはいり、赤坂には藩の定宿がなかったので、角屋という旅籠《はたご》宿で草鞋《わらじ》をぬいだ。時刻を訊くと、まだ八時を過ぎたばかりであった。
 医者を呼んで、林之助が傷の手当をしているあいだに、ほかの者は順に風呂へはいった。それから食膳《しょくぜん》に向ったのだが、膳に向うとすぐ、林之助がおかしなことを始めた。――彼は脇にある茶道具の、盆にのっている菓子鉢から、饅頭《まんじゅう》を二つ取って飯茶碗に入れ、それへ飲み残しの茶をかけて、箸《はし》でかきこもうとした。茶漬を喰べるつもりらしい、辻たち三人があっけにとられていると、箸でしきりに饅頭を突つきながら、「けしからぬ宿だ」とふきげんに舌打ちをした。
「これは昨日の飯ではないか」と彼は呟《つぶや》いた、「こんなに固まった冷飯を出すとはなにごとだ」
 女中が二人、給仕に坐っていて、不安そうに、辻たちのほうを見た。
「塚本さん」と辻源六が呼びかけた、「どうしました塚本さん、どうかなさいましたか」
 林之助ははっとしたように振向き、みんなが自分を見ていることに気づくと、急に茶碗と箸を置いた。そして晒し木綿を巻いた頭へ手をやり、
「頭が痛い」と云った。
「ひどく痛みますか」
「うん痛い」と林之助は頷いた、「喰べたばかりだが、寝るほうがいいようだ、おれは先に寝るから――」
 そして自分の座敷へ立っていった。

[#6字下げ]七[#「七」は中見出し]

 食事が終ると、女中たちは茶を淹《い》れ替え、夜具をのべて去った。小松藤兵衛がすぐに立って、襖をそっとあけて覗《のぞ》き、「よく眠っている」と云いながらこっちへ戻った。
「頭だな」と田代が云った、「よっぽどひどく打ったんで、おかしくなったのじゃあないか」
「そんなこともないだろう」と辻が軽くそらした、「ひと晩ぐっすり眠れば治るさ、しかし今夜はいちおう用心しよう」
 三人もその夜は早く寝た。
 明くる朝は早く宿を立った。田代重太夫の袴《はかま》はなま乾きだったので、暫く歩きにくそうにしていたが、林之助はときどきそれを笑った。彼はべつに変ったようすもなく、「今日も柄袋は外しておこう」と云い、きれいに晴れた海道をゆきながら、口の中で小謡をうたったりした。――その日は荒井で泊った。舞坂への渡しが混んではいたが、林之助はなにかみつけたらしく、渡し場から引返しながら、「気をつけろ」と三人に囁《ささや》いた。荒井にも定宿はなく、紀の国屋という宿に泊った。
「どうしたのです」と辻が草鞋をぬぎながら訊いた、「怪しい人間でもいたんですか」
 林之助は辻源六を見、それから小松や田代を見た。暢気《のんき》なやつらだ、とでも云いたげな眼つきで、だが辻源六の問いには答えなかったし、夕食のあとで「今夜も出てはならぬ」と云った。
 林之助は早く寝た。それから三人は酒を飲んだ。岡崎からずっと夜遊びに出ない、あいだ二晩であるが、ずいぶん長いこと節制をしいられているような気分で、酒でも飲まずにはいられなかったのである。三人は酔って、十時ごろに寝た。するとまもなく、半刻と経たないうちに、一人ずつ林之助にゆり起こされた。
「起きてくれ、静かに」と彼は声をひそめて云った、「起きて着替えてくれ」
 三人は起きて着替えをした。
「おかしいことがあった、どうもへんだ」と彼は囁いた、「今夜は寝ずに金の番をしてくれ、いいか寝ず番だぞ」
 三人は承知した。
「おれは階下を見てくる、こっちになにかあったらどなってくれ、寝てはだめだぞ」
 そして林之助は階下へおりていった。
 三人は夜の明けるまで起きていた。林之助は階下へおりたままだし、なにごともないので一刻ばかり経つと眠くなった。そこで、一人起きていて交代に寝るとしよう、と相談し、辻と田代が夜具へもぐりこんだ。するとまるで見ていたかのように、林之助がはいって来て怒った。
「役目を忘れたのか」と彼はひそめた声でするどく云った、「三人が選ばれたのは、選ばれるだけの理由があったからだ、安全だと認めたときは夜遊びに出ても黙っていた、今夜は怪しいことがあったから寝ず番だと云ったのだ、冗談だとでも思ったのか」
 人が変ったように、激しい辛辣《しんらつ》な口ぶりであった。辻も田代も閉口してあやまり、それからずっと夜明けまで起きていた。
 明くる朝も早く宿をでかけたが、林之助はおちつかないようすで、往来の人に絶えず眼をくばり、伴《つ》れだった侍などを見ると、立停って、馬を中心に囲い、相手の通り過ぎるのまで待つというぐあいだった。舞坂から浜松までは二里三十町で、そんなふうに暇どっても午《ひる》まえに着いたが、林之助は急に「ここで泊る」と云いだし、帯屋で草鞋をぬいだ。
「私どもにはわからないんですが、本当に跟《つ》けて来る人間がいるんですか」
 辻源六がそう訊いた。林之助は口をあいて辻の顔をみつめて、そしてゆっくりと首を振った。
「一つだけ云っておこう」と彼は辻に向って云った、「この金を覘《ねら》っているやつは、決して旗差物や幟《のぼり》を立てて来るわけじゃないぞ」
 辻源六はむっとした顔で口をつぐんだ。
「午飯が済んだら寝ておけ」と彼は三人に云った、「ことによると夜道をするかもしれないし、泊るとすれば寝ず番だ、ゆうべ寝なかったから昼間でも眠れるだろうが、飲むなら酒を飲んでもいい、但し酔わない程度だ」
 三人は午飯のときに酒を飲んだ。
 金はいつも床間に置く。宿へ着くとまず馬からおろし、油単に包んだ千両箱を三つ、泊る座敷の床間へ運んで置くのである。帯屋でもむろん同じようにし、食事が済むと、三人は床間のほうを枕にして寝た。――ゆうべ満足に寝なかったので、林之助に起こされるまで、三人はよく眠った。起こされたときはもう灯がついており、林之助は「風呂へはいれ」と云った。
「風呂が済んだら飯にしよう、今夜はここへ泊る」
 その夜もまた三人は寝ず番をした。
 翌日は掛川までいった。そこには病気で残った小者が待っていて、「雑用をして宿賃を稼《かせ》ぎました」などと自慢をし、また供に加わった。掛川でも寝ず番、藤枝でも同様で、宇津谷峠を越すときには、三人ともすっかりへばった。駿府《すんぷ》では久しぶりに寝たが、由井、原、そして箱根を越すまで不寝番が続いた。――辻たち三人もまいったが、林之助もこたえたのだろう、昼夜とおして絶えまのない緊張のため、神経が尖《とが》って、苛いらと怒りっぽく、少しもおちつかなかった。しかしそれは小田原までで、それからはがらっと変った。小田原ではみんな寝たし、出発するときも林之助はきげんがよく、頭の傷の手当をしながら、「どうやら無事に帰れるらしいな」と云った。三人はいっせいに彼を見た。
「本当ですか」と小松が晒し木綿を巻いてやりながら訊いた、「すると、もう大丈夫なんですね」
 林之助はにっと笑って「金だけは大丈夫だ」と頷いた。
 金だけはという意味が、三人にはよくわからなかったけれども、林之助はすっかり安心したようすで、それまでのように往来の人を警戒するふうもなく、藤沢で泊ったときには、「よければ息抜きをして来い」と云って、三人にそくばくの銀を与えたりした。おかしいと気がついたのは辻源六であった。いちばん年上だけに、林之助のようすが腑《ふ》におちなくなり、田代と小松が遊びに出たあと、自分は残って、林之助と話してみた。
「うんそう云った、云ったとおりだ」と彼は答えた、「金だけは慥《たし》かに大丈夫だから安心するがいい」
「どうして金だけが大丈夫なんです」
「埋めたんだ」と彼はめくばせをした、「跟けて来た人数や、待伏せの手配があまり厳重なので、とうてい防ぎきれないと思った、それで金だけ取出して埋めたんだ」
 辻源六はぎょっとした。

[#6字下げ]八[#「八」は中見出し]

「しかし現に」と辻が訊いた、「千両箱は三つともこうして」
「中は鉛だ」と彼は囁いた、「金と鉛の棒をすり替えたんだ、重さではわからないからな、万一かれらに襲われたら、これを置いて逃げればいいのさ」
 辻源六はじっと林之助をみつめた。林之助はうす笑いをしながら、暢気そうに片膝をゆすっていた。やっぱりいけない、頭がおかしくなっている、と源六は思ったが、念のために、「どこへ埋めたのか」と訊いてみた。
「それは云えない」と彼は首を振った、「それだけは辻にも云えない、どんなことで漏れるかもしれないからな、埋めたことも極秘だ」
 辻源六はそれで話をやめた。
 林之助が寝てしまい、田代と小松が帰って来てから、辻源六は二人にその話をし、千両箱をしらべてみた。二人も「埋めた」ということは信じなかったし、千両箱にも異状はなかった。あけてみるわけにはいかないが、封印もちゃんとしており、中身をすり替えたような形跡はまったくなかった。
「あの饅頭を茶漬にしたときからだな」と田代が云った、「跟けて来る人間があるように見えたり、寝ず番をさせたりしたのも、みんな頭がおかしくなっていたためだ」
「そうらしいな」と辻が云った、「頭を打ったのと金の心配が重なったから、よけいおかしくなったのかもしれない、とにかく気をつけてゆくことにしよう」
 翌日もおかしなことがあった。
 金を馬に付けて、宿を出るとたんに、林之助は西へ向って歩きだした。驚いて呼止め、それでは方角が逆だと云うと、彼は立停って不審そうに空を眺め、「しかしあれを見ろ」と出たばかりの朝日を指さした。
「陽のおちるほうが西だろう」と彼は指さしたまま云った、「とすれば、江戸は東だからこっちではないか」
 三人は顔を見合せ、辻源六が「あれは朝日だ」と云った。いまは朝の六時で、宿を出たところだ、と説明し、「どうかなすったのですか」と訊いた。
「そうか、朝か」と林之助は首をかしげた、「そうだ、起きて食事をし、傷の手当をして、――少し頭が痛む、でかけようか」
 そして東のほうへ歩きだした。
「どうする」と田代が辻に囁いた、「医者に診せなければいけないだろう」
「役目が大事だ」と辻は頭を振った、「医者は帰ってからにしょう」
 かれらは道をいそいだ。
 その日は川崎まで強行し、翌日の午まえには、霊岸島の上屋敷に着いた。そして大変な騒ぎになった。――予定より三日おくれたので、待兼ねていた老職たちは、林之助の意味不明な報告に驚き、金をしらべてさらに驚いた。辻源六に云ったとおり、彼は「金は埋めて置いた、発見されたり奪われたりするおそれは絶対にない、どうか安心するように」と、辻に話したのと同じことを告げた。老職たちは合点ゆかぬままに、すぐ千両箱をあけて見たが、中には鉛の棒しか入っていなかった。どうしらべてみても、それは正しく鉛の棒であった。
 林之助はそのまま老職の役部屋に留められた。辻たちが呼ばれ、三人は詳しく事情を述べた。数人の医師が(ひそかに)林之助を診察し、佯狂《ようきょう》ではないかという点が、入念に追求された。どの医師も「頭の傷が原因であろう」と診断し、治癒するにしても、時日を要するだろうと云った。
 龝村宗左衛門は事実の漏れることを防ぎながら、林之助の訊問を続けた。辻たち三人には厳重に口止めをし、林之助は看視付きで家へ帰された。いつまでも留めておけば、反対派に疑われるからである。そして稲田、友次、吉原などという、腹心の者が看視に付き、代る代る、金の所在を訊きだそうとした。――初めそれはうまくゆきそうであった。稲田治兵衛が当番のとき、林之助は声をひそめて、そこもとにだけ教えようと囁いた。
「沼津というところを知っているか」と彼は囁いた、「東海道の沼津だ、その宿を西へ出外れたところの海側に、三本松という小さな丘があるが、じつはその三本松の根元に埋めてあるのだ」
 稲田治兵衛はすぐに、その知らせを持っていった。そこでまた辻たちが呼ばれたが、沼津には泊らず、素どおりしていることがわかって途中の宿駅が書き出された。次に、友次伝右衛門が看視に付いたとき、林之助は、「さん、さん」と口の中で繰り返したうえ、「三州吉田だ」と云った。しかしむろん、吉田にも泊っていなかった。
 吉原角之進の番にはもっと真実らしく思われた。林之助は酒を飲みながら、片手でときどき自分の膝を叩いて、そして首をかしげ、「三本松、三州、――」などと呟き、また膝を叩いては首をかしげていたが、やがてにこっと微笑すると、あたりを警戒するように見まわし、すり寄って、
「わかった」と角之進の耳に囁いた。
「ようやく思いだしたが、極秘だということは承知だろうな」
 角之進は深く頷いた。
「駿府の萬屋《よろずや》だ」と彼は囁いた、「駿府では萬屋清兵衛が藩の定宿なんだ、その萬屋の庭に大きな松が三本あるが、まん中の松の根元に埋めて置いたのだ」
「駿府の萬屋《よろずや》、庭の三本松だな」
「まん中の松の根元だ」と云って彼は眼を光らせた、「いいか、極秘だぞ」これは真実と思われた。しらべてみると慥かかに駿府の萬屋に泊り、しかもその夜は不寝番をしなかった。尤《もっと》も萬屋の庭は遠州流のみごとなものだが松はない。側用人の志田主計も、年寄の吉川|忠之丞《ただのじょう》もよく知っていた。だが、松とほかの樹と間違えるということもある。念のためにというので、ひそかに駿府へ早打の使いがやられた。
 早打の使者が帰って来て「そういう事実がない」と告げてから、まもなく老職の交代が行われた。龝村派は退陣し、江戸では富永|靱負《ゆきえ》が筆頭家老、側用人は大道寺|主殿《とのも》。国許では磯野平右衛門が城代、渡辺彦太夫が次席となり、これらを中心に、重職の殆んど半数ちかくが交代したし、続いて奉行職にも任免があった。
 三千両の件は、もちろん新老職にひきつがれ、こんどは家中ぜんたいの問題となった。
 それよりまえ、老職交代が始まるまえに、義兄の永野又四郎が来、次に加島東吾が来た。又四郎は義弟を褒め、東吾は「よくやった」と云った。
「龝村一派は退陣する、金繰りがつかなかったからだ」と東吾は云った。
「よくやってくれた、主水から手紙が来て諦《あきら》めていたんだ、もう主水にもわかっているだろうが、おれも主水もうまく騙《だま》された、主水は手紙でかんかんに怒って来たが、これを聞いたときの顔が見えるようだ」
 林之助はぼんやり聞いているだけであった。

[#6字下げ]九[#「九」は中見出し]

 東吾は昂奮《こうふん》していて、「龝村派がなにかするかもしれないから、自分たちの手で警護を付ける」と云い、用心をしろと、注意して去った。
 新しい陣容がきまると、林之助は呼び出されて、金の所在を訊かれた。林之助は答えられなかった。
「わかりません、どうしても思いだせないのです」と彼は云った、「金をすり替えて、どこかへ隠したことだけは覚えているのですが、どこだという記憶は少しも残っていないのです」
 どうして隠す気になったのか、という問いに対しても、彼はやや暫く考えていた。
「覚えているのは、金が覘《ねら》われているということでした」と彼は考え考え云った、「あの金送りについて、江戸でも国許でもだいぶ威《おど》されました、腕ずくでも妨害するとか、無事では済まぬぞ、などと云われましたので、金を取られてはならぬ、という一念にとらわれてしまい、そのうちに頭を打ってから、さらに判断が狂って、そんなことをしたのだろうと思います」
 再び幾人かの医師に診察された。幕府の名高い典医も招かれたが、やはりはっきりした診断はつかず、「恢復《かいふく》を待つほかはない」というだけであった。――このあいだに、永野又四郎や加島東吾らがしきりに訪れ、東吾は連日のように来て彼をせめた。いまだに林之助がそらを使っていると信じているらしく、「もう龝村派にはなにもできない、心配はないからうちあけてくれ」と繰り返しねばった。
 林之助は訝しそうに東吾を見た。
「心配なんかしないさ」と彼は云った、「おれは初めから心配なんかしてはいない、誰にだっておれをどうにかすることなんかできやしないからな」
「それはどういう意味だ」
「あの金さ、――」と云って林之助は微笑した、「金の所在を知っているのはおれだけだからさ、気がつかなかったのか」
 東吾は憤然と彼を睨《にら》みつけた。
 或る日、永野又四郎が来て、老職から出た話だがとまえおきをし、「その場所へゆけば思いだすかもしれないから、いちど泊った宿を順に歩いてみたらどうか」と云った。林之助は首をかしげて、いかにも自信がなさそうに、おそらくむだ足でしょうと答えた。
「だがためしてみてもいいだろう」
「いいですとも」と彼は頷いた、「浜松の帯屋で脇差を借りましたから、ついでにそれを返して来ます」
「脇差を借りたって」
「馬が暴走したときになくしたので、帯屋の主人に代りを借りたのです、駄物だから返すには及ばないと云っていましたが、ゆくならついでに返すとしましょう」
 相談がきまり、東吾がすすんで同伴者になった。
 二人は近江の大津までゆき、そこから引返した。林之助は「岡崎より西ではない」それだけは慥かだと云ったが、東吾が承知しなかったのである。往復に二十余日かかり、結果としては二人がかりで、帯屋までわざわざ脇差を返しにいったようなことに終った。
 妻のさわ[#「さわ」に傍点]はこの旅によほど期待していたとみえて、失敗だと聞くと、落胆のあまり涙をこぼした。
「泣くことはない、おまえに心配は決してかけない」
「でもこのままでは済みませんでしょう」とさわ[#「さわ」に傍点]は云った、「いよいよわからないときまれば、きっとお咎《とが》めがあるに違いございませんわ」
「まさか三千両で切腹もさせないだろう」と彼が云った、「追放にでもなったらなったでいい、頭が治って金の所在を思いだしたら、二人で一生暢気にくらせるというものだ」
 さわ[#「さわ」に傍点]は眼をみはって良人を見た。
「あなたは、――」とさわ[#「さわ」に傍点]は云った、「そのお金を自分のものになさるおつもりですか」
「追放にでもなったらという話さ」と彼が云った、「三千両といえば、おれなどが一生かかっても手に入れられる金ではないからな」
 さわ[#「さわ」に傍点]はふるえながら、じっと良人を見まもっていた。
 これは夫婦だけで話したことだし、林之助はもちろん、さわ[#「さわ」に傍点]だって他人に漏らすわけはないのだが、いつかしら家中に、よく似た噂《うわさ》がひろがった。つまり、「塚本はあの金を自分のものにするつもりだ」というのである。記憶を失っているというのは嘘で、じつはほとぼりのさめるのを待ち、時機をみて出奔したうえ、金を取出すつもりなのだ。なにしろ「勘定奉行所の役人だからな」などと、穿《うが》った評まであらわれた。――林之助はずっと勤めを休んでいた。まだ頭がしっかりしていなかったし、新しい老職による人事更新で、彼の書役支配は保留になっており、情勢では「無役」になるのではないかといわれていた。それで殆んど外出もしないのだが、周囲の噂はよく耳にはいったし、おそらく堪りかねたのだろう、伯父の三浦喜兵衛に呼びつけられた。
 喜兵衛は六十二歳であった。三年まえ、長男の左膳に家督を譲って隠居し、道閑と名のっているが、古武士ふうの、一徹な性分は変っておらず、まっ白になった眉毛の下から、するどい眼光で林之助を睨んだ。
「私は伯父上から、世評で人の判断をするなと教えられました」と林之助は答えた、「そのほかに申上げることはございません」
 伯父は彼を睨んでいて、やがて云った、「それは他人を判断する場合だ、世評にのぼるような失態が自分にあったら、侍として責任をとらなければならぬ」
「どう責任をとるのですか」
「自分でわかる筈だ」
 喜兵衛の眼光はするどいままで、その言葉つきも静かながら、圧倒するようなひびきを含んでいた。林之助は返辞をしなかった。
「責任をとるか」と喜兵衛が云った。
 林之助は黙って首を振った。
「よし、それなら嫁を返せ」と喜兵衛が云った、「永野からそう申して来たのだ、すぐに嫁を永野へ返してやれ」
 そして、「それだけだ」と頷いた。
 三浦から永野へ知らせたのだろう、又四郎が来て、さわ[#「さわ」に傍点]を伴れ戻していった。温厚で実直な又四郎は、家中ぜんたいの悪評に耐えられなくなったらしい。「まだ子供がないことでもあるし――」などと云いわけをし、さわ[#「さわ」に傍点]は御殿へあげるつもりだと云った。当のさわ[#「さわ」に傍点]は泣くばかりであった。いやな評判や、兄の意志に対抗できるほど、まだ良人の気ごころがわからなかったし、ごく温順な育ちなので、自分でどうするという決心もつかなかったらしい。林之助はなにも云わなかった。
 夏になって、加島東吾が普請奉行にあげられ、次いで国許から小林主水が出て来た。主水は出府するとすぐに、林之助を訪ねて「暫く厄介になるぞ」と云った。
 吉川忠之丞が国詰になり、そのあとへ入るのだが、「それまで御小屋があかないのだ」というのである。
「おれは構わない」と林之助は皮肉でなく云った、「おれは構わないが、小林こそ、おれなんぞのところにいていいのか」
「友達ということに変りはないさ」と主水は云った。
 そしてそのとおり、塚本家へ荷を解いた。

[#6字下げ]十[#「十」は中見出し]

 主水は江戸の寄合役肝煎になった。
 正式に任命されたのは、主水が出府して十日ほど経ってからであったが、その日、東吾を加えた三人で小酒宴をした。自分と東吾は出世祝い、塚本は、まあしくじり祝いか、などと主水はつけつけ云った。留守役がよく使う浜町の「おく村」という料亭にあがり、夕方から一刻ばかり飲んだ。――東吾とはずっと疎遠になっていたしその夜も林之助と同席することは気がすすまなかったのだろう、どこかしらこちんと、うちとけない感じで、ともするとなにか云いだしそうにした。だがそのたびに、主水がうまく梶《かじ》を取って話をそらし、どうやら気まずいことも起こらずに済んだ。
 屋敷へ帰ったのは八時ころであるが、東吾と別れて家へはいると、主水は「もう少し飲もう」と云い、支度をさせ、十時過ぎまで二人で飲んだ。主水は珍しくはずんでいて、林之助が「うれしそうだな」と云うと、あけっ放した調子で「なにしろ寄合肝煎だからな」と正直に云った。そして上機嫌に酔い、寝るときになると、自分の夜具を林之助の寝間へ敷かせた。
「女のいない家というやつは片輪みたようなものだ」と横になるなり主水は云った、「どうする、あとを貰わないのか」
「おれに嫁を呉れる者がいると思うのか」
「国許にこころ当りがあるんだ」と主水が云った、「女のいない家というやつは、膏臭《あぶらくさ》くて不潔でいけない、世話をするから貰ってしまえ」
 林之助はくすくす笑った。主水のお国訛りが可笑《おか》しかったのである。主水はふと気がついたように、「そうだ」と云って頭をあげ、拳で自分の枕を叩いた。林之助は妙な眼つきで、それを見ていた。
「明日は早く起きなくちゃならない。こうやっておくと早く眼がさめるんだ」と主水が云った、「おい、塚本が教えたんだぞ」
 林之助は躯《からだ》を固くし、眼を凝らして、灯を暗くした寝間の一点を、いつまでもじっと睨んでいた。
「どうした、もう眠ったのか」
 林之助は低い声で「待ってくれ」と云った。それから彼は起き直り、団扇《うちわ》で静かに胸もとを煽《あお》いだ。主水はそのようすを、寝たまま、黙って眺めていた。するとやや暫くして、林之助の顔がほぐれ、にやっと微笑した。
「わかった」と彼は云った、「ようやくわかった、そうか、これだったのか」
 主水は次の言葉を待った。
「三本松とか、三州とか、三という数が頭にひっかかっていたが、これだ」と云って彼は、拳で、自分の枕を叩いた、「いま小林のするのを見て思いだした、これだ、枕を三度たたいたのが記憶に残っていたんだ」
「金の所在か」と主水が訊いた。
「はっきり思いだした、浜松の帯屋だ」
「だって帯屋へは、あとで加島といってみたんだろう」
「脇差を返すのに気をとられたんだな」
「帯屋のどこへ隠したんだ」
「土蔵の中だ」と林之助が云った、「奥蔵に藩の御用|葛籠《つづら》がある、間違いはない、その土蔵の中の御用葛籠に入っている」
 主水は「こんどはおれの笑う番だな」と云って、くすくす忍び笑いをした。
「なにが可笑しい」と林之助が云った。
 主水は起き直り、「いやたいしたことじゃない」と、これも団扇を取って煽いだ。
「なにが可笑しいんだ」
「枕を三度たたいたとは苦しいからさ」
「本当にそうなんだ」と林之助は力をこめて云った、「宿で寝るときにはいつもそうしたが、帯屋では三度だった、忘れないために三度たたいたんだ」
「もういい、わかった、おれはおよそ察していたんだ、こんど出府して以来、金の所在についておれは一度も触れなかったろう」と主水が云った、「おれは一度もその話をしなかった、というのは、塚本のほうで云いだすとにらんでいたからだ、いつかきっと云いだす、おそかれ早かれ、必ず云いだすに相違ないとにらんでいたんだ」
「すると、おれが偽っていたとでもいうのか」
「いや感嘆しているんだ」主水はそこでちょっと口をつぐみ、まじめな静かな調子で、ゆっくりと云った、「――塚本はあのとき、勇気にもいろいろあると云った、それがへんに頭に残った、そこへ加島から手紙が来た、馬の暴走、不慮のけが、頭がおかしくなって金を隠したこと、これを読んだとき、そうかと思った」
 林之助は黙って団扇を動かしていた。
「あのとき金送りを妨害すれば、老職交代のあとにしこりが残る、龝村派は妨害されたということを忘れないだろう、だが、こんどのような方法をとれば、塚本が悪評されるだけで済むし、塚本自身にしても災難でけがをし、頭がおかしくなってやったとなれば、それほど重く咎められはしまい、まして、あとくされなしに老職交代ができたとあってみればさ」
 林之助はやはり黙っていた。
「次にはっきり見当がついたのは鉛の棒だ」と主水は続けた、「すり替え事にしては、まえに用意しておかない限り、鉛の棒などがすぐ手にはいるわけがない、帯屋というのでわかったが、おそらく往きに泊ったとき相談したんだろう、あの老人は先殿に恩義があるから、事情を了解して引受けた、おれはこう思うがどうだ、違うか」
 林之助は呟くように云った、「おまえは探索方のような人間だ」
「友達だと云わないのか」
 林之助は立っていって、雨戸をあけ、そこで団扇を動かしながら、「月が出ている」と呟き、そのまま縁側に腰をおろした。
「おれは政治は嫌いだ」と彼は云った、「よかれあしかれ、政治的な諍いにはかかわりたくなかった」
「前言を取消そう、慥かに、それも一つの立派な勇気だ」と主水が云った、「但し出世はしそこねたがね」
「もちろん、そんなことで出世なんかしたくないさ」
「地味なやつだ」と主水が云った、「嫁を貰え」
「女房はいるよ」
「出てゆかれたんだろう、出ていった女などにみれんがあるのか」
「あれとは夫婦になってから、まだ一年そこそこしか経っていなかった。二十年ちかい友達の東吾でさえ、おれからはなれてしまった。あれが兄の意見にさからえなかったのは当然だ」
「みれんがあるんだな」
「あれはすなおで可愛い女だ、伴れ戻されるとき、途方にくれて泣いていたが、ただ、泣くばかりで、どうしていいかわからない、といったようすがまだ眼に残っている、あいつはいい女房になるよ」
 主水は暫く黙っていた。それから、やがてまたくすくす笑いながら云った。
「東吾は今夜もむくれていたな、金の所在がわかっても、当分むくれているだろうな」
「昔からあんなふうなところがあった」と云ってから、林之助はふと振向いた、「――断わっておくが、今夜の話は東吾にはないしょだぞ」
「そのほうがよければそうしよう」
「永野にもだ――永野又四郎は女房の兄で、いずれ小林に復縁の仲立ちをしてもらうが、この話は決してしないでくれ」
「おまえは地味なやつだ」と主水が云った、「しかし復縁の仲立ちは引受けるよ」
 二人は沈黙し、やがて、林之助は立って雨戸を閉め、こっちへ来て、「やれやれ」と云いながら横になった。主水は天床をみつめたまま、林之助の「やれやれ」という声に安らぎの調子を感じた。
「肩の荷をおろしたというところか」
「そんなところだ」
「ひどいやつだ」と主水が云った、「まわりの者が狼狽《ろうばい》したり怒ったり、泣いたり笑ったりして騒ぎまわるのを、澄まして高みから眺めていたんだろう、どんな気持だった」
 林之助は少しまをおいて云った、「それも小林の想像どおりだろうな」
「わるいやつだ」
「いい経験だったよ」
「ねよう」と主水が云った、「浜松へは自分でゆくんだぞ」



底本:「山本周五郎全集第二十七巻 将監さまの細みち・並木河岸」新潮社
   1982(昭和57)年8月25日 発行
底本の親本:「サンデー毎日臨時増刊陽春特別号」
   1957(昭和32)年4月1日発行
初出:「サンデー毎日臨時増刊陽春特別号」
   1957(昭和32)年4月1日発行
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

タグ:

山本周五郎
「枕を三度たたいた」をウィキ内検索
LINE
シェア
Tweet
harukaze_lab @ ウィキ
記事メニュー

メニュー

  • トップページ
  • プラグイン紹介
  • メニュー
  • 右メニュー
  • 徳田秋声
  • 山本周五郎



リンク

  • @wiki
  • @wikiご利用ガイド




ここを編集
記事メニュー2

更新履歴

取得中です。


ここを編集
人気記事ランキング
  1. 異変斑猫丸事件(工事中)
  2. 平八郎聞書
  3. 藤次郎の恋
もっと見る
最近更新されたページ
  • 2002日前

    白魚橋の仇討(工事中)
  • 2002日前

    新三郎母子(工事中)
  • 2002日前

    湖畔の人々(工事中)
  • 2002日前

    鏡(工事中)
  • 2002日前

    間諜Q一号(工事中)
  • 2002日前

    臆病一番首(工事中)
  • 2002日前

    決死仏艦乗込み(工事中)
  • 2002日前

    鹿島灘乗切り(工事中)
  • 2002日前

    怪少年鵯十郎(工事中)
  • 2002日前

    輝く武士道(工事中)
もっと見る
「山本周五郎」関連ページ
  • No Image 風格
  • No Image 甦える死骸
  • No Image 宗太兄弟の悲劇
  • No Image 山本周五郎
  • No Image 一領一筋
  • No Image 津山の鬼吹雪
  • No Image 新戦場の怪
  • No Image 殺人仮装行列
  • No Image 世間
  • No Image 豪傑ばやり
人気記事ランキング
  1. 異変斑猫丸事件(工事中)
  2. 平八郎聞書
  3. 藤次郎の恋
もっと見る
最近更新されたページ
  • 2002日前

    白魚橋の仇討(工事中)
  • 2002日前

    新三郎母子(工事中)
  • 2002日前

    湖畔の人々(工事中)
  • 2002日前

    鏡(工事中)
  • 2002日前

    間諜Q一号(工事中)
  • 2002日前

    臆病一番首(工事中)
  • 2002日前

    決死仏艦乗込み(工事中)
  • 2002日前

    鹿島灘乗切り(工事中)
  • 2002日前

    怪少年鵯十郎(工事中)
  • 2002日前

    輝く武士道(工事中)
もっと見る
ウィキ募集バナー
新規Wikiランキング

最近作成されたWikiのアクセスランキングです。見るだけでなく加筆してみよう!

  1. MadTown GTA (Beta) まとめウィキ
  2. AviUtl2のWiki
  3. R.E.P.O. 日本語解説Wiki
  4. シュガードール情報まとめウィキ
  5. 機動戦士ガンダム EXTREME VS.2 INFINITEBOOST wiki
  6. ソードランページ @ 非公式wiki
  7. シミュグラ2Wiki(Simulation Of Grand2)GTARP
  8. ドラゴンボール Sparking! ZERO 攻略Wiki
  9. 星飼いの詩@ ウィキ
  10. ヒカマーWiki
もっと見る
人気Wikiランキング

atwikiでよく見られているWikiのランキングです。新しい情報を発見してみよう!

  1. アニヲタWiki(仮)
  2. ストグラ まとめ @ウィキ
  3. ゲームカタログ@Wiki ~名作からクソゲーまで~
  4. 初音ミク Wiki
  5. 検索してはいけない言葉 @ ウィキ
  6. 発車メロディーwiki
  7. 機動戦士ガンダム バトルオペレーション2攻略Wiki 3rd Season
  8. Grand Theft Auto V(グランドセフトオート5)GTA5 & GTAオンライン 情報・攻略wiki
  9. オレカバトル アプリ版 @ ウィキ
  10. MadTown GTA (Beta) まとめウィキ
もっと見る
全体ページランキング

最近アクセスの多かったページランキングです。話題のページを見に行こう!

  1. 参加者一覧 - ストグラ まとめ @ウィキ
  2. 魔獣トゲイラ - バトルロイヤルR+α ファンフィクション(二次創作など)総合wiki
  3. 高崎線 - 発車メロディーwiki
  4. 鬼レンチャン(レベル順) - 鬼レンチャンWiki
  5. 暦 未羽 - ストグラ まとめ @ウィキ
  6. 召喚 - PATAPON(パタポン) wiki
  7. ステージ攻略 - パタポン2 ドンチャカ♪@うぃき
  8. 暦 いのん - ストグラ まとめ @ウィキ
  9. 鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 - アニヲタWiki(仮)
  10. ロスサントス警察 - ストグラ まとめ @ウィキ
もっと見る

  • このWikiのTOPへ
  • 全ページ一覧
  • アットウィキTOP
  • 利用規約
  • プライバシーポリシー

2019 AtWiki, Inc.