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  • 怪人呉博士

harukaze_lab @ ウィキ

怪人呉博士

最終更新:2019年11月01日 04:22

harukaze_lab

- view
管理者のみ編集可
怪人呉博士
山本周五郎

-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)鈴《ベル》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)は|隠し《ポケット》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)※[#感嘆符二つ、1-8-75]
-------------------------------------------------------

[#3字下げ]悪魔のお嬢さん[#「悪魔のお嬢さん」は中見出し]

 鈴《ベル》を押すと若い女中が出て来た。
「呉《くれ》先生はおいででしょうか。僕は理科大学の研究生で押川三郎《おしかわさぶろう》という者ですが」
「少々お待ち下さいませ」
 女中が引込《ひっこ》んで化おんで行くと、間もなく十八九になる洋装の美しい令嬢が出て来た。――すてきに美しい、三郎は些《ちょ》っと顔が赧《あか》くなるような気持さえした。
「父をお訪ね下さいましたそうで」
「はあ――」
「真《まこと》に失礼でございますが、父は迚《とて》も気難し屋で研究中は何誰《どなた》にもお眼に掛らない事になって居りますんですけど」
「それは承知して来ました」
 三郎は|隠し《ポケット》から封書を取出《とりだ》して、
「実は大学から、先生の研究室へ委託生として選ばれて来たんです。当分先生の側でお手伝いかたがた研究の実習をさせて頂くように、総長の沼波博士《ぬなみはかせ》の手紙を持って来ているんですが」
「では父にそう申しますわ。暫《しばら》くお待ち下さいませ」
 令嬢は三郎から手紙を受取《うけと》って去ったが、十分ほどすると足早に戻って来て、
「お待たせ致しました、どうぞ」
「失敬します」
「お靴のままで結構ですの」
 そう云いながら、令嬢は低い声で、
「あのう、お聞きになってらっしゃるかも知れませんが、父は非常に性急《せっかち》で、癇癪が強うございますから、若《も》し失礼な事を申上《もうしあ》げてもどうぞ御勘弁下さいませ」
「はあ、大丈夫です」
 間の抜けた返辞だったが、なにしろ、相手が怪人とか雷とか、悪魔などというひどい綽名《あだな》まで附いてかる呉博士のことで、心中びくびくもの[#「もの」に傍点]で来たくらいだから、――実際のところ、大丈夫ですと云《い》うのは、三郎の本音なのである。
 母屋の廊下を突当《つきあた》った扉《ドア》を開けて、更《さら》にもうひとつ樫《かし》造の頑丈な扉《ドア》を入ったところが研究室であった。各種各様のレトルトや試験管や実験器械が、処狭《ところせま》しと並んでいる部屋の中央に大きな書物卓子《かきものテーブル》があって、――半白の髪と髯をもじゃもじゃにした中老の博士が掛けていた。
「君が押川三郎か、此方《こっち》へ入れ」
 三郎が挨拶もせぬうちに、博士は大きな声で呶鳴《どな》った。
「失礼致します」
「沼波の話に依《よ》ると君は優秀な学生だという事だが、学校の教室で三年や四年勉強したからって人間の価値が定《きま》るもんじゃないぞ。殊《こと》に近頃の学生共は口先ばかり旨くて中身はなっちょらん[#「なっちょらん」に傍点]、実に馬鹿気たもんだ」
 殆《ほとん》ど呶号《どごう》するように喚きながら、椅子《いす》を起《た》って大股に歩き廻る。そのあいだ中(少しきたない[#「きたない」に傍点]話だが)博士は右手の小指を鼻の穴へ押込《おしこ》んではぐいぐいと捻廻《ひねりまわ》すのだ。
 ――妙な癖があるもんだ。
 三郎は博士の喚く声より、この世界的な学者の珍妙な癖を面白そうに見ていた。博士は背の低いずんぐりした体つきで、幾月も手入れをしない半白の髪は肩まで垂れ、頬から顎から一面の髯である。――是《これ》がいま世界注視の的になっている「XF超火薬」の発明者とは迚も思えない風態だ。
 大学を罵倒し、教育制度を罵倒し、学界をくそみそにやっつけた博士は、ようやく気が済んだものか、又しても鼻糞をほじりながら、急に振返《ふりかえ》って、
「宜《よ》し、明後日《あさって》の金曜日から来い」
 と藪から棒に云った。
「何時に伺ったら宜《よろ》しいですか」
「儂《わし》は毎朝暗いうちから仕事を始めとる。来たい時間に来るが宜《い》いだろう。――些《ちょ》っと待て、是を教えといてやる」
 博士はそう云って、北側の窓際に並んでいる試験管の列の前へ案内した。
「此《この》中には儂《わし》の研究した類塩化カリウムが入っている。いま、シアン反応の試験をしているんだ。明日は是へ『F一号』という儂《わし》の発見した薬剤を入れて見せよう。君がまだ曾《かつ》て見たことのないような、素晴しい碧緑玉《エメラルド》色になるぞ、――あッ痛※[#感嘆符二つ、1-8-75]」
 ふと三郎の手が博士の左腕に触れたとたん、折角《せっかく》鎮《しずま》った博士の癇癖がまた爆発した。
「馬鹿野郎、この腕は爆薬試験で火傷《やけど》をしているんだ。気をつけろ馬鹿野郎」
 馬鹿野郎というのは乱暴である。
「済みません、知らなかったものですから」
「知らん? 儂《わし》が腕に火傷《やけど》をしている事を知らんと云うのか、抜けているな貴様は。――もう宜い、明後日また会う、帰って呉《く》れ」

[#3字下げ]おや、ピストルの音! ダッと倒れる物音![#「おや、ピストルの音! ダッと倒れる物音!」は中見出し]

 初めて会った他人《ひと》が腕に火傷《やけど》をしているかどうか分る筈《はず》はない。それを「抜けているな」と云うところなど正に「怪人」という綽名を辱《はずかし》めぬ奇言だ。――会釈もそこそこ研究室を出ると、扉《ドア》の外で令嬢が心配そうに待っていた。
「まあ、父がとんだ失礼な事を申上げまして、どうぞお赦《ゆる》し下さいませ」
「いや心配しないで下さい」
 三郎は赧くなりながら慌てて打消《うちけ》した。
「学者はみんな同じですよ、けれど抜けているな[#「抜けているな」に傍点]と云われたには少し驚きました」
「ほほほ自分の方が余程抜けていますわ」
 明るい令嬢の笑いに誘われて、三郎も思わず笑いながら玄関へ出た。
 翌日、沼波博士へ報告に行くと、
「そうか、承知したか」
 にこにこ微笑して、「なにしろ怪人博士だから注意してやって呉れ給え、腹は頗《すこぶ》る善人なんだが口が悪いからな、――どうだ鼻糞をほじっていたろう」
「御存じなんですか」
「高等学校時代からの癖なんだ。呉の鼻の穴はいまに後頭部までほじり[#「ほじり」に傍点]抜けるだろうと云われたものだよ。まあ確《しっか》りやって呉れ」
 三郎は失笑《ふきだ》しながら帰った。
 金曜日の朝、参考書とノートをひと抱え持って、押川三郎は平川町の呉博士邸を訪れた。庭から直《じか》に研究室へ来いと云われていたので樹木《たちぎ》に囲まれた美しい芝生を歩きながら、
 ――お嬢さんが出て来ると宜いな。
 ――ふとそう思った。
 是から当分あの怪人と一緒に暮すのだと思うと些《いささ》か閉口だが、明朗で眩《まばゆ》いような美しいお嬢さんの事を考えると却《かえ》って軽い楽しさを感じさえするのだった。――然《しか》し部屋にでも籠《こも》っているのか、令嬢は遂《つい》に出て来なかった。
 研究室の横手の扉《ドア》を叩《ノック》すると、
「――誰だ」
 喚くような返辞と共に、内側から博士が扉《ドア》を開けた。
「なんだ君は、断りも無しに屋敷の中へ入って来るなんて怪《け》しからんじゃないか、新聞の勧誘なら断るぞ」
「僕です先生、押川三郎です」
「なんだ押川とは」
 如何《いか》にも怪人らしい、一昨日《おととい》の事をもう忘れている。然し新聞の勧誘と間違えるのは辛辣だ。
「理科大学の押川三郎です。おとつい[#「おとつい」に傍点]総長の添書を持って来た委託研究生です。今日から来いと仰有《おっしゃ》られたので伺ったんです」
「そうか、そんな事もあったようだな」
「失礼します」
 三郎は構わず研究室の中へ入った。――博士は不機嫌な様子で暴々《あらあら》しく扉《ドア》を閉め、
「儂《わし》はいま捜し物をしとるから、君は勝手に君の仕事を始め給え」
「一昨日の実験を拝見したいんですが」
「そんな事を一々覚えて居られるか」
「否《いい》え、あの類塩化カリウムへ『F一号』を加える実験です」
 博士は左手を大きく振りながら、
「君がやれ君がやれ、儂《わし》はいまそれどころでは無いんじゃ、塩化カリウムなんぞ糞を啖《くら》えだ。君が何でも勝手にやってみろ。それから、――今日は女中も娘も居らんから、昼食《ひるめし》の註文には君が行くんだぞ」
「結構です、然し先生」
「うるさいッ、儂《わし》は大事な捜し物がある」
「けれどF一号は何処《どこ》に有るんですか、……」
 みなまで聞かず、
「そこの戸棚を捜してみろ、馬鹿野郎」
 喚きながら研究室の階上へ登っていった。
 何かいうと馬鹿野郎だから始末が悪い。然し幾ら自分でやれと云ったって、入れる薬品の定量も分らないのでは手が出せはしない。――三郎は仕方がないので、まず自分の研究の順序をつけようと思い、隅の卓子《テーブル》に向ってノートを披《ひろ》げた。
 三郎が大学の研究室で与えられた題目《テーマ》は、呉博士と同じ系統の「超強力爆薬」である。これは在来の材料を用いず、全く新しい、然《しか》も日本が無限に蔵している或る物質を以て造るのだ。然し今のところ、世界一と云われる呉博士の「XF超火薬」を凌駕する物が出来るかどうかは未知数で、その点からも博士の指導は、今後の成功不成功に重大な影響があるのだ。
「然しどうも、あの馬鹿野郎と云われるのは苦手だな」
 三郎はノートをめくりながら呟《つぶや》いた。
 壁の時計がゆるく午前十時を打った。階上では博士がまだ捜し物をしているらしく、物を置換《おきかえ》えたり、がさがさと何か掻廻《かきまわ》している音が聞える。――三郎はふと、或る西洋の笑話を思出した。
(学者、おい儂《わし》の眼鏡を知らんか?)
(夫人、御自分が眼へ掛けていらっしゃるじゃ有りませんか)
(学者、いや、是はいま捜そうと思って掛けたんだよ)
 眼鏡を捜すのにその[#「その」に傍点]眼鏡を掛けている、是では百年捜しても分るまい。
 ――博士もそんな事じゃないかな。
 と思っていると突然、階上に凄《すさま》じい銃声が起り、だっ[#「だっ」に傍点]と激しく人の倒れる音がした。

[#3字下げ]真紅に変る試験管[#「真紅に変る試験管」は中見出し]

 三郎は弾かれたように椅子から起つと、半ば夢中で階段を馳上《かけあが》った。二階は図書室で、右手に書類を入れる大型金庫がぼっかりと口を開け、その前に博士が到れている。
「あ! 先生」
 走寄《はしりよ》って抱起したが、火傷《やけど》をしている左腕を掴んだので慌てて放した。――博士は拳銃《ピストル》を持っている右手をあげて、西側の開いている窓を示しながら、
「怪しい奴が逃げた、見て呉れ」
「お怪我《けが》は?」
「儂《わし》の事なんか構うな、早く見ろ」
 三郎は窓際へ走《は》せつけた。人の姿は見えないが、窓の外に長い梯子《はしご》が立掛《たてか》けてある。――博士は呻《うめ》きながら立上った。
「何も見えませんが、梯子が立掛けてあります」
「もう少しで殺《や》られるところだった。こんなに奴等の手が廻っていようとは思わなかったぞ、――その梯子から忍込《しのびこ》んで、其処《そこ》の隅に隠れていたんだ」
「泥棒ですか」
「そうだ、儂《わし》のXF超火薬の合成法を盗みに来た大泥棒だ。先に此方《こっち》がみつけたから一発ぶっ放してやったが危いところだった」
「金庫が開いていますが、まさか合成法を盗んで行ったのじゃないでしょうね」
「金庫は儂《わし》が開けたんじゃ」
 博士が云いかけた時、三郎は階下の研究室で妙な物音がするのを聞いた。いきなり身を翻えして階段を馳下《かけお》りる、――と、今しも一人の怪漢が扉《ドア》の外へ出ようとするところだ。
「待てッ」
 弾丸のように跳掛《とびかか》ったが、相手はひらりと外へ出てぱッと扉《ドア》を叩きつける。そのはずみに鍵が掛ったのであろう、三郎は体ごとぶっつかったがびくともしない。
「先生、鍵を、鍵をッ」と叫ぶと、博士が下りて来て、
「止《や》めろ」と喚いた。
「君は学生だ、警官じゃない。逃げる者を追ってまで危険を冒す必要はない」
「然し何か重要な物を盗まれたら」
「儂《わし》が捜してもみつからぬ物が、奴等に容易《たやす》く分って堪《たま》るか、ここには超火薬合成式の外《ほか》に重要な物など有りはせん」
 博士はそう云って声をひそめ、
「実は、――今朝からその合成式を捜しているんじゃ」
「それは又どうした訳なんです」
「毎《いつ》も書庫の大金庫へ入れて置くんだが、四五日まえに一度出して見た、その時|何処《どこ》かへ蔵《しま》い失くしたらしいんじゃ、どう捜しても分らん」
「盗まれたのでは無いでしょうね」
「馬鹿野郎、いま此処《ここ》に二人も怪しい奴が忍込んでいたのを見たろう。盗出《ぬすみだ》した物をまた盗みに来る馬鹿があるか、馬鹿野郎ッ」
 左の拳で卓子《テーブル》をどしんと叩きながら、博士は苛々と喚きたてた。
「そんな下らん事を云う暇に、貴様も手伝って捜すが宜い」
「――――」
「赤い大封筒に入っているんじゃ、眼が違えば案外早く分るかも知れん……」
 語尾は弱々しく嗄《かす》れていた。
 三郎は直《すぐ》に立って、てんで勝手の分らぬ室内だが、兎《と》に角《かく》命ぜられるままに捜し始める。博士は再び階上へ去った。――三郎は仕方なしに書物卓子《かきものテーブル》の周囲を掻回していたかふと卓子《テーブル》の上にある吸取《すいとり》紙に眼をつけた。まだ真新しいもので、大きく微《かす》かに一行、インクを吸取った痕《あと》があるむろん左文字になっているし、荒々しい走書だから読みにくい。
「中…央…郵…便…局…、留――置」
 ようやくそう判読した。
 別こ意味のないものである。三郎は暫《しばら》くその文字を見ていたが、ふと振返って右の棚の方を捜しにかかった。すると硝子《ガラス》張の薬品戸棚の中に「F一号」と書いた小壜《こびん》のあるのをみつけたので――急に実験がしてみたくなり、素早く取出して北側の壁際に並んでいる類塩化カリウムの試験管の前へ進んだ。――そして小壜の栓を抜き、中の薬液を試験管の中へ少しずつ滴《たら》し込んだ。
「おや?」
 一昨日博士は、――すばらしい碧緑玉《エメラルド》色になると云った。
 然しいまF一号の薬液を加えると、不思議にもそれは鮮かな赤に変ったのである。
「妙だな、慥《たしか》にF一号なんだが」
 と呟いた時、階段を下りて来る博士の跫音《あしおと》が聞えたので、慌ててまた捜しに取掛かった。
「みつからんか」
「分りません。母屋《おもや》の方へお持ちになったのでは有りませんか」
「母屋の方もすっかり捜したんじゃ、兎に角この研究室内にある事は慥《たしか》だ。こんな事なら娘を遊びに出すのでは無かった、どうも捜し物は女の方がうまいよ。――時にもう午《ひる》だが、そこらへ行って何か註文して来んか」
「は、何を云いましょう」
「そんな事を儂《わし》が知るか、少しは気を利かせろ、馬鹿野郎ッ」
 三郎は急いでとび出した。

[#3字下げ][#中見出し]不思議、不思議※[#感嘆符二つ、1-8-75] 赤封筒の行方[#中見出し終わり]

 門の外へ出て二三歩行った時、
「押川さん」と手を挙げながら、洋装の美しい娘が向うから走って来た。博士の令嬢である。
「お帰りなさい、今日から来始めました」
「宜しく、――父はいまして?」
「捜し物かあるんで、貴女《あなた》がいらっしゃれば宜いって仰有《おっしゃ》ってるところです。――あ、それから御注意しますが」
 と三郎が曲者《くせもの》が忍込んでいた事を手短かに語ると、令嬢はさっと顔色を変えた。
「然し心配しなくても宜いですよ、警察へも保護を頼みますし、僕だって二人や三人は相手に出来ますから」
「じゃあ私直ぐ父の処へ行きますわ。昨日の朝から一週間の予定で鎌倉の別荘へ行ったんですけれど、何だか妙に父の事が心配になって帰って来ましたの。矢張《やっぱ》り虫が知らせたんですのねえ、宜かったこと」
「早く行ってあげて下さい。僕もお昼の食事を誂《あつら》えて直ぐ帰ります」
 足早に門を入る令嬢と別れて、半丁あまり行ったが、三郎は不意にぴたっ[#「ぴたっ」に傍点]と道へ立停まった。――急に眼が鋭くなり、ぐっと下唇を噛みながら何か考える。
「赤……、碧緑玉《エメラルド》色になる筈が赤になる、赤、赤、それから、――中央郵便局、留置」
 妙な事を呟いていたが、やがて決心がついたように、暫く行って左手にある鰻屋へ入った。
 三郎は鰻屋で、電話を二通掛けた。一つは警視庁、一つは中央郵便局へ。警視庁へは呉博士の身辺に危険が迫っているから、至急保護をするため警官を送って呉れというのであった。――それから急いで研究室へ帰ってみると、博士は令嬢を促して一心に捜査を続けていた。
「まだみつかりませんか」
「みつかったら捜しはせん、馬鹿者」
 やけに喚く。
「お父さま!」
 令嬢は父をたしなめながら、三郎の方へ美しい眼で謝った。――博士は尚《なお》も大声に、
「君はいま娘に、警察へ保護を頼むと云ったそうじゃが余計な事をすると承知せんぞ。警官などに何が出来る、みんなぼんくら[#「ぼんくら」に傍点]の木偶《でく》の坊じゃ、あんな能無し共に頼むほど儂《わし》は老耄《おいぼ》れちゃおらん」
「仰有《おっしゃ》るように致します」
 三郎は温和《おとな》しく答えた。――令嬢は気の毒そうに、優しい眼差で幾度も詫びるように三郎を見ながら
「さあお父さま、二階の書庫を一緒に見ましょう。きっと書棚の間にでも入っていますわ、本の後にでも落ちているんでしょう」
「本の後は捜したよ」
「でも見落しという事がありますもの、一緒に行って捜しましょう」
「それは無駄ですよ」
 三郎が静かに云った。――博士は大きく眼を剥出して、
「何? なんと云ったッ」
「書庫を捜しても無駄だと云ったんです。お嬢さん――止した方が宜いですよ」
 意外な言葉だった。令嬢も驚いて問返《といかえ》そうとした時、庭を横切って来る人の跫音《あしおと》がして、研究室の扉《ドア》を叩《ノック》した。――そして入って来たのは四名の警官だった。
「な、何だ君等は※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」
 博士は見るより拳を振回して、
「なんの用が有って来たんじゃ、ここには君等の来る用はない。この馬鹿者が余計なおせっかい[#「おせっかい」に傍点]をしたんじゃ、帰り給え」
「まあ些《ちょ》っとお待ち下さい」
 三郎はそれを遮って、
「御苦労さまでした」
 と警官たちに会釈した。
「実は呉博士の身辺に非常な危険が迫っているのです。二時間ほど前にも、現在この研究室の中へ二人の曲者が忍込んできました。今でも恐らく狙っているでしょう、――拳銃《ピストル》をお持ちですか」
「持って来てます」部長が答えた。
「結搆です。いつでも射てる用意をしておいて下さい。――そこで、先生、書庫を捜しても無駄だと云った訳をお話し致しましょう」
「聞こう!」
「失礼ですが先生の忘れっぽいのにも驚きました。火薬合成式の書類を入れた赤封筒は、先生が自分で中央郵便局へ局留にしてお出しになったではありませんか」
「中央郵……あッそうか」
 博士は思わず歓喜の声をあげた。
「そうだ局留郵便じゃ、曲者に狙われて居るので、暫く安全な場所へ隠して置こうと思って局留にしたんじゃが――すっかり忘れて居ったわい。然し、君はどうしてそれが分ったのかい」
「先生の卓子《テーブル》の上にある吸取紙に、その宛名が写っていたんです。それで試しに鰻屋から電話を掛けて訊《き》いてみましたら、慥《たしか》に中央郵便局にあるという返辞でした」

[#3字下げ]意外! 意外! 怪人博士の正体![#「意外! 意外! 怪人博士の正体!」は中見出し]

 博士はほッと安堵の息をついて、
「然しそれなら何故《なぜ》、帰って直ぐに云わなかったんじゃ」
「お嬢さんが被居《いらしっ》たからです。お嬢さんを危険にさらすのは厭《いや》ですからね」
「娘になんの危険があるんじゃ」
「曲者です。先生の超火薬合成式を盗もうとする売国奴です。其奴《そいつ》は今でも我々を狙っています。だから先《ま》ず警視庁へ保護を頼み、それから赤封筒の在所《ありか》を」
 云いかけた三郎は突然、
「あッ危い! 先生、後に曲者がッ」
 と喚く、博士が咄嗟《とっさ》に拳銃《ピストル》を抜出《ぬきだ》して振返る。刹那! 三郎は背後《うしろ》から、だだ[#「だだ」に傍点]と博士の右腕へ跳《おど》り掛った。――電光のような素早さ、令嬢や警官があっ[#「あっ」に傍点]と驚きの声をあげた時、三郎は博士の拳銃《ピストル》を奪取《うばいと》って、
「――手を挙げろ」
 と喚いた。博士は壁を背に息を喘《はず》ませて突立った。――令嬢は震えながら、
「押川さん、父を、どうなさいますの」
「馬鹿者、貴様気でも狂ったか」
「動くな!」
 三郎は拳銃《ピストル》を突きつけたまま叫び、
「動くと射つぞ売国奴! 貴様が何者だかという事はもう分っているんだ。――お嬢さん、行ってあの髪の毛と髯を※[#「てへん+劣」、第3水準1-84-77]《むし》って下さい」
「そんな、そんな」
「大丈夫です、此奴《こいつ》は先生じゃありません。先生の合成式を盗みに来た国賊です。お嬢さんが鎌倉の別荘へ行かれた留守に、先生を何処《どこ》かへ押籠め、誰か来た時の用意に先生の姿に化けて書類を捜していたんです。初めは僕も先生だと思いました。お嬢さんもそうお信じになった。それほど此奴《こいつ》は巧《たくみ》に先生の挙措動作を真似ていますが――然し先生の唯《ただ》一つの癖、高等学校時代からの癖を見落していました。もう一つ、先生は研究中に左の腕へ火傷《やけど》をなすった。些《ちょ》っと触っても非常に痛毫がられた。ところが此奴《こいつ》は、さっき僕が左の腕を持って援起《たすけおこ》した時なんとも云わなかった。……僕はその時もう気がつきました。此奴《こいつ》は偽者だと、――行って彼の鬘《かつら》を、※[#「てへん+劣」、第3水準1-84-77]り取っておやりなさい」
 令嬢はまだ半信半疑で、恐る恐る近寄って行ったが、その刹那! 相手はいきなり令嬢の体を掴んで引寄せ、ぴたりと自分の楯にした。
「あっ!」
 と叫ぶ三郎警官たちも拳銃《ピストル》を向けて迫ろうとしたが相手はせせら笑って、
「射つなら射ってみろ。可哀そうだがこの娘さんに風穴が開くぜ。小僧――遖《あっぱ》れだ。よくも俺の正体を見破ったよ。博士のそぶり[#「そぶり」に傍点]は充分研究した積《つも》りだが、腕の火傷《やけど》には気がつかなかった。ふふん……然しお気毒《きのどく》だが合成式は貰ったぜ、貴様がいま喋言《しゃべ》った事は、窓の外にいた仲間に筒抜けだ、今頃はもう中央郵便局へ行って……」
「捉《つかま》っているんだ」
 三郎が叫んだ。「電話で打合せがしてある。取りに行かせて捕縛させるために態《わざ》と大きな声で饒舌《しゃべ》ったんだ。何故《なぜ》だか分るか――それはな、其奴《そいつ》を捉《つかま》えて先生の居所を白状させるためなんだ」
「ち、畜生、計《はか》りゃアがったか」
「お嬢さんを放せ、もう[#「もう」に傍点]じたばたしても駄目だ。往生際をよくしろ」
「なに、くそっ」
 片手で半白の鬘を※[#「てへん+劣」、第3水準1-84-77]取《もぎと》ると凶悪な顔をひき歪めながら、怪漢は後さがりに階段の方へ行く、三郎は歯噛みをしたが、怪漢が片足を階段へ掛けた刹那、――まるで飛礫《つぶて》のように、だっ[#「だっ」に傍点]と身を以《もっ》て相手へ跳掛《とびかか》った。
 がらがらッと物の倒れる音、令嬢の悲鳴、相撃つ肉弾の響き、一瞬二人の姿は、もつれたままだっ[#「だっ」に傍点]と床へ到れたが、突上げる三郎の鉄拳が凄い勢《いきおい》で鼻柱を砕く。
「むっ」呻いてひるむところを、はね起きた三郎は、やっ[#「やっ」に傍点]と許《ばかり》に上からのし掛って、
「手錠、手錠」と大声に叫んだ。――令嬢は蒼白《まっさお》になって、階段の手摺に凭《もた》れて震えていた。

 中央郵便局で捉った悪漢の言葉に依って、彼等の隠家《かくれが》から救出された博士を迎えるため、――それから間もなく、三郎は令嬢と一緒に自動車で警視庁へ向った。
「研究中の類塩化カリウム液が、先生の仰有《おっしゃ》ったのとは違って赤く変った。赤、赤、赤は危険信号の色です。先生は悪漢たちに捕えられた時、僕にこの信号を残すためカリウム液に別の薬品を入れていらしったのです。――然し奴等も皮肉ですね、僕たちに盗み出す手伝いをさせようとは、是だけは洒落《しゃれ》ていますよ」
「お蔭さまですっかり無事に納《おさま》りましたのね、父が聞いたら何と云ってお礼を申すでしょう」
「きっと斯《こ》う仰有《おっしゃ》いますよ、馬鹿野郎ッて」
「まあ、ほほほほほほ」
 令嬢は思わず失笑《ふきだ》したが、
「でも、若し貴方《あなた》が看破《みやぶ》って下さらなかったら、私まで悪者の手に捉って苦しめられたに違いありません。そう思うと本当にぞっ[#「ぞっ」に傍点]と致しますわ、――このお礼にはどんな事をしても足りませんのね」
 令嬢は僅《わずか》に頬を染めながら云った。
 若し博士がこの会話を聞いたら、それこそ「馬鹿野郎」と呶鳴《どな》るであろう。然しいま三郎と令嬢は若い者だけの知る温かい幸福の微笑を交していた――車は警視庁の前で停った。



底本:「山本周五郎探偵小説全集 第二巻 シャーロック・ホームズ異聞」作品社
   2007(平成19)年11月15日第1刷発行
底本の親本:「少年少女譚海」
   1938(昭和13)年5月
初出:「少年少女譚海」
   1938(昭和13)年5月
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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