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  • 謎の紅独楽

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謎の紅独楽

最終更新:2019年11月01日 04:19

harukaze_lab

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管理者のみ編集可
謎の紅独楽
山本周五郎

-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)波多野《はたの》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)布|狸穴《まみあな》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)※[#感嘆符疑問符、1-8-78]
-------------------------------------------------------

[#3字下げ]不思議な箱包[#「不思議な箱包」は中見出し]

「波多野《はたの》さんのお嬢さんではありませんか」
 桂子はそう呼ばれて振返《ふりかえ》った。
 女学校二年生にしては大柄な方で、顔だちも姿もずば抜けて美しく、――府立第X高女の豪華版――と、評判されていた。
 級会《クラスかい》の下相談で帰りが遅くなり、もう黄昏《たそがれ》の色の濃くなっている街を、麻布|狸穴《まみあな》にある広大な邸《やしき》の方へ足早に急いでいた時、蘇聯《それん》大使館の角のところで呼止《よびと》められたのである。振返ってみると学生服を着た眼つきの鋭い青年が近寄って来る。
「波多野桂子さんですね」
 繰返《くりかえ》して云《い》う言葉に妙な訛りがあった。
「そうです、何か御用ですの?」
「ぼく[#「ぼく」に傍点]貴女《あなた》のお邸に居る郭《かく》王子の友人です。済みませんが是《これ》を王子にお届けして下さいませんでしょうか」
 青年はそう云って五|吋《インチ》角ほどの箱包《はこづつみ》を渡した。
「郭王子って、そんな方|自家《うち》にいらっしゃいませんわ、何かお間違《まちがい》ではありませんの?」
「否え間違いではありません」
「でもあたくし存じませんけど」
 桂子は実際そんな人は知らなかった。――然《しか》し青年はにやっと薄笑《うすわら》をうかべながら、
「そうですか、それでは恐らく貴女《あなた》には内証《ないしょう》にしてあるのでしょう。確《たしか》に御厄介になっているのですから。では是を貴女《あなた》のお父様にお渡し下さい。ぼく[#「ぼく」に傍点]が自分で伺う筈《はず》なのですが、急いでいるので、失礼しますと仰有《おっしゃ》って下さい」
「でも困りますわ……」
 桂子が躊躇《ためら》っているあいだに、青年は箱包を無理に押《おし》つけると、そのまま走るように夕闇の中へ立去《たちさ》って了《しま》った。
 波多野家は有名な明治維新の元老格で、その邸には各国の政治家が絶えず出入りをしていたし、曾《かつ》ては中華民国の志士|鎮佩嵩《ちんはいこう》も、日本に亡命中、永いあいだ仮寓していた事がある。けれどこの四五年は、波多野子爵が政治運動から身を退いたので、そう云う客は殆《ほとん》ど出入しなくなり、今では反対に、子爵が贔屓《ひいき》にしている新派俳優の人たちが、頻繁《しげしげ》と出入するくらいのものであった。――尤《もっと》も是は、桂子の兄の乙彦《おとひこ》が大学の演劇研究会員で、「新演劇」という研究劇団を主宰しているため、その方の話をしに来るのが目的だったけれど。
 家へ帰ると直《す》ぐ、桂子は父の居間へ入って行った。
「お父様|唯今《ただいま》」
「おおお帰り」
「いま途中で変な人に会ったのよ」
 と手短かに話しながら、例の箱包を卓子《テーブル》の上へ差出《さしだ》した。――子爵は恟《ぎょっ》としたように思わず身を乗出して、
「一体それはどんな男だった?」
「まだ若い学生服の人よ、言葉つきに少し変な訛があったようだわ、でも郭王子なんて人が自家《うち》にいるの? お父さま」
「うむ、今日まで誰にも云わなかったし、乙彦にも云ってないのだが、郭王子なら家に来て居る。実は外蒙古のキュウナンという小王国の王子なのだ。何百年も前から日本を崇拝し、日本の力に依《よ》って文明の再建をしようとしていたのだが、今度郭王子が遥々《はるばる》やって来たのも実はその為なのだ。勿論これは絶対の秘密であったのだ。幸い各方面との連絡もうまくついて、殆ど目的を達成したので、愈《いよい》よ明日の晩は帰国する事になっているのだ」
「ではこの箱を届けて呉《く》れと云ったのは矢張《やは》り郭王子様のお友達なんですの」
「友達どころか、暗殺者だ」
 桂子は吃驚《びっく》して眼を瞠《みは》った。
「キュウナン王国と日本との提携を阻害しようとして、某某国は常に郭王子の命を狙っている。だからこそ今日まで王子の事は絶対秘密にしてあった訳なのだが、奴等は遂《つい》に嗅ぎつけたのだ」
「まあ怖い、それでは是は……?」
「暗殺者からの贈物《おくりもの》だ。王子にはお見せ出来ない、開けてみよう」
 子爵はそう云って、箱包を解《ほど》いた。――三重の包紙を除くと、赤いモロッコ皮の箱が現われた。そしてその蓋をはねると、中から出て来たのは拳大の珍しい型をした真紅《まっか》の独楽《こま》であった。
「まあ独楽《こま》だわ、綺麗ねえ」
「――何の意味だ」
 子爵もちょっと訳が分らず、思わず取り上げ様として手を差伸ばした時、
「危い、触ってはいけません」
 叫びながら蒙古服の青年が跳込《とびこ》んで来た。そして驚いている桂子の前へ進み寄ると、
「お嬢さんですね、ぼく[#「ぼく」に傍点]郭です」
 と拱手《きょうしゅ》の礼をして、「ぼくの事はいまお父様からお聞きの通りです。今日まで御厄介になっていながら挨拶もしないで御免下さい」

[#3字下げ]紅独楽の毒針[#「紅独楽の毒針」は中見出し]

「子爵!」郭王子は振返って云った。
「その独楽は暗殺の警告です。キュウナンでは人を暗殺する前日、それを贈って決意を促すので『悪魔の紅独楽《べにごま》』と云われて居るのです」
「では矢張り儂《わし》の思った通りか」
「間違いありません。――然《しか》も御覧下さい」
 郭王子は、箱の中にある独楽《こま》の芯棒《しんぼう》を、非常な注意を払いながら摘《つま》んで取出《とりだ》し、左手の食指で胴の一部を押した。するとガチャッという微《かす》かな音がして、真紅《まっか》の独楽《こま》は鳳仙花の実のようにはじけ[#「はじけ」に傍点]、中から鋭い針が飛出《とびだ》した。
「この通り、知らずに触ると、この針に刺されて死ぬのです」
「毒針だな」
「そうです。毒も毒、頗《すこぶ》る猛烈なもので、是に刺されたら十秒と経たぬ中《うち》に死んで了《しま》います」
「まあ怖い……」
 桂子は蒼白《まっさお》になった。――波多野子爵も遉《さすが》に眉を顰《ひそ》めなから
「是では明日の出発は止めなければならぬ。帰国の日取を変えましょう王子」
「いや帰ります」
 郭王子はきっぱりと云った。
「故郷キュウナンには祖国再建の同志たちが待兼《まちか》ねています。大事に当って一身の危険を顧《かえりみ》ぬのが日本の武士道でしたね。我々キュウナン民族は日本武士道に倣《なら》うのを誇《ほこり》りとします。出発させて下さい」
「宜《よろ》しい。貴下《あなた》の御決心がそうならそれもよいでしょう。此方《こっち》にも成算が無い訳ではない」
「いけません、お父さま!」
 桂子は我を忘れて云った。
「こんな恐ろしい暗殺団が待構えているのに、お帰し申すなんて乱暴ですわ」
「有難《ありがと》う、ぼく[#「ぼく」に傍点]の事を心配して下さるのですねお嬢さん」
 郭王子は白皙《はくせき》の顔に微笑を浮べて、
「御親切は忘れませんが、ぼく[#「ぼく」に傍点]は決心しているのです。ぼく[#「ぼく」に傍点]は正義のために死ぬならむしろ死を誇ります。然し、神は常に正義を守って下さるでしょう」
「ではお父さま、桂子にお願いがありますわ」
「何だ」
「明日桂子もお供に加えて下さい」
 少女ながらそう云う言葉、その表情には動かす事の出来ぬ決意が閃《ひら》めいていた。――子爵は暫《しばら》く何か考えていたが、
「そうか、――宜しい。おまえが希望するなら許して上げよう。然し、明日は乙彦が護衛役だから、乙彦の命令通りにするのだよ、それなら許そう」
「お兄さまの仰有《おっしゃ》る通りに致しますわ」
「ではお供をして行くが宜《よ》い」
 許しが出て桂子は心を躍らせながらその部屋を出た。
 差当って、何よりも兄の計画を聞かなければならぬ。暗殺者は無論明日の出発を知っている筈だから、必ずその裏を掻いて脱出する方法を樹《た》てるに違いない。兄はどうするか。――父の部屋を出て直ぐ二階の兄を訪ねたが乙彦はまだ帰って来ていなかった。夕食を終って寝る時間が来ても、兄は帰らなかった。仕方がないので桂子は寝台へ入った。寝台の中で暫くまじまじしている中に、いつかぐっすりと眠って了《しま》ったらしい。
 がらがらッ、がしゃん!
 突然激しく物の砕ける音を聞いてはっと眼を醒ました桂子が、直ぐ考えたのは郭王子の身上《みのうえ》だった。
 ――若《も》しや暗殺者でも侵入したのでは?
 と思うと夢中で寝台を跳出し、そのまま二階の兄の部屋へ駆けつけた。――乙彦はまだ寝てはいなかった。
「お兄さま、いま変な音がしましたわ。王子さまの処《ところ》へ暗殺者が侵入したのじゃないかしら見に行って……」
「大丈夫、郭王子じゃないよ」
 乙彦は笑いながら云った。
「暗殺者が狙ったのは僕だよ」
「えッお兄さまを?」
「それを御覧――」
 指さされて見ると、寝台の側の床の上に、あの真紅《まっか》の独楽《こま》がくるくると弱く揺れながら廻っていた。――窓硝子《まどガラス》が砕けている。
「その独楽《こま》の話は聞いたろう? 奴等は僕にも警告を発したのだ。――然しすばらしい技術じゃないか、どうして廻すのか知らんが、地上から二階の窓硝子《まどガラス》を破って投込《なげこ》んだのに、まだそのくらい正確に廻っているんだからな」
「そんな事に感心している時じゃないわ、明日お兄さんが護衛役だという事まで知られているとすると、どうなさるの?」
「どうもしないさ」
 乙彦はひょいと肩を竦《すく》めながら、
「万事は臨機応変さ、幾ら計画を樹《た》てても斯《こ》う片端から探り出されるのでは、寧《むし》ろ計画無きに如《し》かずだからな」
「だって……それ大丈夫?」
「郭王子も云ったよ、神は常に正義を守り給うと、心配せずにまあお寝《やす》み」
 乙彦は優しく妹の肩を叩いた。

[#3字下げ]闇を衝く急行列車[#「闇を衝く急行列車」は中見出し]

「さあ出発だ、支度は宜《い》いか」
 そう云って兄が知らせに来たのは、その翌《あく》る日の夕刻の事だった。桂子は校服に白いベレ帽を冠《かぶ》って、手革包《ハンド・バッグ》だけ持った。
「待ってたところよ」
「じゃア出掛けよう、車が待ってる」
 兄と一緒に玄関へ出ると、郭王子は相変らず蒙古服のままで父と別れの挨拶をしていた。桂子は兄に、
「まあ、王子さまはあんな姿で宜いの? あれじゃアまるで郭王子だって事を広告してるようなもんじゃありませんか」
「小智は大愚に如《し》かず、君は黙って見ていれば宜いんだよ」
 乙彦は静かに笑うだけだった。
 挨拶が済んで、三人は車へ乗込んだ。乙彦と桂子の他には別に護衛する者もない。是で恐るべき暗殺団の重囲を突破しようとするのであろうか。「悪魔の紅独楽《べにごま》」の兇悪な狙撃から果して逃れる事が出来るのか※[#感嘆符疑問符、1-8-78] 彼等はいま現に、この車を何処《どこ》からか狙っているに違いない。向うの街角に立っている男が其《それ》ではないだろうか。後から来る車は? ……そう思うと、覚悟はしていながらも、遉《さすが》に桂子は息詰るような恐怖を感じて身震いをした。
 然し車は無事に東京駅へ着いた。三人の乗る列車は七時三十分の下関行特急「富士」である。――王子は手飽《スーツケース》ひとつの身軽さで歩廊《プラットホーム》に立って居た。桂子が花売娘《はなうりむすめ》から紫はしどい[#「はしどい」に傍点]の花束を買っていると、
「やあ、波多野さん暫く」
 と声を掛けながら、向うから和服と背広姿の男が二人近寄って来た。
「よう、井伊君じゃないか」
 兄の声に桂子が振返って見ると、邸へ出入りしている新派俳優で、若手随一と評判の井伊英二郎と倉島市雄であった。
「お嬢さんも御一緒ですね、珍しくお揃いで何方《どちら》へいらっしゃる?」
「僕たちは、下関まで行く、君は?」
「それはお道伴《みちづ》れが出来ますね。わたし達は九州へ巡業に出掛けるところです。向うで秋頃まで演《う》って来る積《つもり》です」
「座員の諸君も一緒なの?」
「ええみんな三等にいます。あたし達は幹部ですから二等ですよ」
「今更《いまさら》らしく言訳《いいわけ》をするなよ」
 笑いながら、一緒にどやどやと、二等車へ入って行った。
 乙彦は郭王子を、友人の木村圭吾という名で紹介し、左右の並んだ席を取って寛《くつろ》いだ。桂子の心配は益々強くなる許《ばかり》だった。――井伊や倉島と云えば、顔を見ただけで直ぐ分るから、車中の客たちの視線が一斉に此方《こっち》へ集る。然も郭王子はその中に悠然と蒙古服のまま坐っているのだ。盲でない限りどんな馬鹿にでも発見されて了《しま》うではないか。
 発車間際になって、二十名近くの客が乗込んで来た。桂子はその人々の中に、昨日あの箱包を渡した青年がいるかどうかと注意して見廻したが、幸いそれらしい人は見当らなかった。然し疑いの眼を以《もっ》て見ればどの一人として怪しくない者は無く、隅にいる老紳士も赤ネクタイの青年も向うの老婦人も右手の夫婦連れも、すべての人が機会さえあれば拳銃《ピストル》をあげて狙撃しそうに思えるのだ。
「何をそんなに考込《かんがえこ》んでいるんだ」
 乙彦がふと桂子の方を見て声をかけた。
「別に心配しなくても宜いんだよ」
「だって是じゃア隙だらけですもの、そこの窓から射たれたってそれっ限《きり》だわ」
「そんな事をすれば自分が捕まるだけさ、幾ら暗殺団だって命は惜しいからね、へま[#「へま」に傍点]な真似はしないよ、宜いから桂坊は安心して見ていなさい」
 午後七時三十分、特急富士は号笛の音も高々と東京駅を出発した。
 乙彦は可の屈托も無さ相《そう》に、井伊や倉島と声高に演劇論を闘わしていたが、そのうちに三等車の方へ行ったと思うと、桂子も顔見知りの若い座員たちを四五名|伴《つ》れて戻って来た。そしてみんな揃って食堂車へ出掛けた。――実に堂々たるものである。
 ――さあ何処《どこ》からでも襲撃して来い。
 と言わん許《ばかり》の遣方《やりかた》だ。若し暗殺者が狙っているとしたら(それに相違ないのだが)恐らく歯噛みをしていたであろう。みんなは麦酒《ビール》を呷《あお》りながら、辺り構わず大声で芝居の話に熱をあげていた。
 列車は梅雨《つゆ》空の闇を衝《つ》いて驀進《ばくしん》して行く。夜は次第に更《ふ》けて午後十時になった。
「さあ、そろそろ、寝台車へ引揚げようか」
 乙彦が麦酒《ビール》に酔って赤くなった顔を振向けながら云った。そしてみんなはぞろぞろと立って食堂車を出た。――事件はそれから僅々《きんきん》二時間の後に突発したのである。

[#3字下げ]廻る廻る紅独楽[#「廻る廻る紅独楽」は中見出し]

 桂子の寝台は左側の下だった。直ぐ上に兄の乙彦、それと向合《むきあ》って右側の中に郭王子、その前と後が井伊に倉島の寝台である。つまりぐるっと四人で王子を囲ったかたちこなっていた。
 桂子は心配と車輪の響きで、いつまでも眠る事が出来ず、垂帷《カーテン》を透して来る薄暗い電灯の光を見ながら、うつうつと時を過していた。すると――午前零時頃である。三等車の方から忍びやかに誰か入って来る気配がした。
 ――車掌かしら、
 と思っていると、その跫音《あしおと》は十|呎《フィート》ほど先まで来てぴたりと止った。そしてそのまま、何の物音もなくなって了《しま》った。
 ――寝台車づきの給仕かしら。
 寝相の悪い客の具合を直してでもいるのであろうか? そう思っていたが、いつまで経っても歩きだす様子がない。……桂子は、直感的に、郭王子を狙っている暗殺者の姿を眼に描いて、思わず大声に、
「お兄さまッ、お兄さまッ」
 と呼んだ。殆ど同時に、
 がん! がん※[#感嘆符二つ、1-8-75]
 寝台車の窓|硝子《ガラス》も砕けたかと思われる銃声が起り、直ぐ向合った寝台から、
「あう、あ――ッ」
 と凄《すさま》じい悲鳴が聞えた。
 臥破《がばっ》とはね起る乙彦、桂子も咄嗟《とっさ》に垂帷《カーテン》を引いたが、二人の眼に先《ま》ず映ったのは、白い寝衣《ねまき》の胸を血まみれにして、仰反《あおむけ》ざまに半身外へ乗出している郭王子の姿だった。
「あッ、王子!」
「お兄さま、独楽《こま》が、独楽《こま》が……」
 震えながら桂子の指さすところを見ると、丁度《ちょうど》郭王子の頭の垂下《たれさ》がっている床の上にあの恐る可《べ》き真紅の独楽《こま》が、悪魔の嘲笑するように、ゆらゆらと左右に揺れながら廻っていた。
 乙彦は直ぐ郭王子を抱上《だきあ》げたが、――銃声に夢を破られた客たちは、この惨劇を見て顔色を変えながら集って来た。
「皆さん殺人事件です。動かないでいて下さい。井伊君車掌を呼んで来て呉れ」
「宜し、――」
「桂子、おまえ何か聞いたのか?」
「三等車の方から誰か此処《ここ》へ入って来たんです。そして其処《そこ》ら辺で立停まって……」
 と云っているところへ、矢張り銃声を聞きつけたのであろうか? 三等車の方から二三十人の客がどやどやと雪崩《なだ》れ込んで来た。然しこれは車掌が来て直ぐ追返《おいかえ》して了《しま》った。
 事件は直ぐ全列車の人々に伝わった。
 ――外蒙古の王子が暗殺された。
 ――キュウナン国の郭王子だそうだ。
 ――現場には真紅《まっか》の独楽《こま》が廻っていた。
 ――暗殺者は三等車から入ったのだそうだ。
 そんな噂が忽《たちま》ち喧《かまびす》しく広がった。
「駄目だ、もう息が絶えそうだ」
 血まみれの王子を抱えていた乙彦は、呻くように叫んだ。――車掌は列車中を捜し廻ったけれど医者は一人も乗っていなかった。乙彦は決然として、
「列車を停めて呉れ給え、このままでは十分と経たぬ間に死んで了《しま》う。郭王子はキュウナン国に取って掛換《かけが》えのない人物なんだ。助かるものなら助けたい、列車を停めて呉れ給え!」
「然しそれは規則に触れます」
「責任は僕が負うよ」
 乙彦は腕時計を見たが、つと立上りざま、車掌の止める暇も無く非常|呼鈴《ベル》の紐を力任せに引いた。――列車は凄じく車輪を軋ませながら停車した。
 井伊と倉島と、それから馳《か》けつけて来た座員たちの手で、既に断末魔と思われる郭王子の体は静かに列車の外へ運び出された。――乙彦は草の上へ横《よこた》えられた王子を力強く抱緊《だきし》めたが、
「いけない!」
 絶望的に大きく叫んだ。
「脈が切れてる、王子は死んでいる」
 声涙共に下る乙彦の様子に、居並ぶ人たちも暗然と面《おもて》を外向《そむ》けた。
「僕は何と云って父に詫びよう、キュウナン五十万の民族に何と云って謝罪しよう、暗殺者の力量を見縊《みくび》り過ぎていた。僕の迂闊《うかつ》さが遂に王子を殺して了《しま》ったのだ」
「――お兄さまッ」
 桂子も堪《たま》らず、泣きながら兄の体へ縋《すが》りついた。
 その時である。停車している列車の向う側の方で、突然だんだん[#「だんだん」に傍点]と銃声が起り、人の走る気配、罵り騒ぐ叫声《さけびごえ》が起った。――とそれを聞くより早く乙彦は臥破《がばっ》と身を起して
「暗殺者が逃げるッ、畜生! 仇《かたき》を討ってやるぞ、みんな此処《ここ》を離れるな!」
 そう叫びざま走去《はしりさ》った。
「井伊さん、大丈夫でしょうか」
 桂子の声は恐怖に顫《ふる》えていた。郭王子が暗殺されたうえ、若し兄の身にまで間違いがあったらどうしよう。――井伊英二郎は黙っていたが、側から倉島が、
「乙彦さんなら大丈夫ですよ、きっと郭王子の暗殺者を捕えて帰るでしょう。実は列車の後部に私服刑事が十人ほど張込んでいるんです。きっとその人たちが逐出《おいだ》したのでしょう」

[#3字下げ]奇妙な葬式[#「奇妙な葬式」は中見出し]

「十人も刑事さんが乗っていて王子さまを助ける事が出来なかったなんて、……日本の恥じゃありませんか」
「おや、――」
 倉島は返辞をせずに向うを見て云った。
「御覧なさい、お兄さんが帰っていらしった」
「――仇は取ったよ」
 そう叫びながら、乙彦が戻って来た。
「列車が停ったのを宜い機会に、奴等は向う側へ降りて逃げようとしたんだ。それを刑事諸君が追いつめて一網打尽さ、――僕は首領らしい奴と一騎打をしてのし[#「のし」に傍点]てやったよ」
「まあお兄さま、顎に血が出ているわ」
「こんな傷は蚊に※[#「鶩」の「鳥」に代えて「虫」、第4水準2-87-65]《さ》された程も感じやしないさ――だが」
 乙彦は顎の傷を拳で横撫でにしながら郭王子の死体を見て暗然と云った。
「お気毒《きのどく》な王子、こんな事に成ろうとは思わなかった」
「列車を出しますが――」
 車掌は焦っていた客たちに呼びかけた。
「貴方《あなた》がたもお乗り下さい」
「僕と妹は此処《ここ》で降ります」
 乙彦は悲しげに云った。「死んで了《しま》った王子を送る訳にも行かない。いま自動車を呼ぶように頼んで来たから、それで死体を東京へ運返《はこびかえ》します」
「あたし達もお伴しましょうか」
 倉島が云った。
「王子が亡くなった今となっては、君たちに来て貰う必要もない。それに大勢の座員を伴《つ》れているんだ。構わず行き給え」
「そうですか、それでは余り不人情のようですが」
「発車します、お急ぎ下さい」
 車掌の喚く声に促されて、井伊も倉島も名残《なご》り惜しげに、他の客たちと列車へ戻って行って了《しま》った。――思わぬ事件に時間を費した特急富士は、やがて汽笛を鳴らしつつ、闇の中を西へと走り去って行った。後には郭王子の死体と乙彦|兄妹《きょうだい》だけである。
「お兄さま、此処《ここ》は何処《どこ》ら辺ですの」
「静岡の少し先だよ。――ああ自動車が来たようだ」
 そう云っているところへ、前灯《ヘッドライト》を光らせながら二台の自動車がやって来た。
 時計は午前二時に近い。斯《か》くて郭王子の死体を乗せた車を前に、兄妹《きょうだい》は後の車へ乗って、静かに東京への帰途に就《つ》いた。――乙彦は蒼白い顔をして凝乎《じっ》と眼を閉じたまま、深い腕組をして黙っている。どんな気持だろう、桂子は慰める術《すべ》も知らず、唯そっと兄の方へ凭《もた》れながら片手で優しく兄の肩を抱いてやる許《ばかり》だった。
 東京の狸穴の邸へ着いたのは殆ど午《ひる》に近い時分だった。――報せを聞いて玄関まで出迎えた子爵は、車の中から運び出される白布に包まれた郭王子の死体を見ると眉を顰めながら、居堪《いたた》まれぬ様子で自分の居間へ去った。乙彦も無言のまま、二人の書生に手伝わせて、死体を二階の自分の寝室へ運ばせ、静かに寝台の上へ横にした。
「桂坊、おまえ眠いだろう」
「お兄さまこそ」
「僕も眠いさ、然し寝る前に新聞の朝刊が見たいんだ。――野口君持って来て呉れ」
「畏《かしこま》りました」
 書生の野口は直ぐに新聞を持って来た。――乙彦は椅子へ掛けてそれを殿いたが、二人きりになるのを待兼ねたように、
「桂坊、これを御覧」と三面の一部を指示《さししめ》した。――そこにはこんな記事が書いてあった。

[#ここから2字下げ]
新派劇団の雄「新人座」は、九州巡業のため特急富士にて下関へ直行すべく神戸へ着きたるが、予定を変更して神戸港より汽船にて門司《もじ》へ向いたり――因《ちなみ》に今回の巡業には井伊英二郎|丈《だけ》は加わって居らず、同丈は夏まで東京に出演の由。
[#ここで字下げ終わり]

「まあ変ねえ」桂子は不審そうに眼をあげた。
「井伊さんは昨夜《ゆうべ》一緒にいたじゃないの、静岡でだって慥《たしか》に乗って行ったのに」I
「ははははは……」
 不意に後で笑う者があった。愕然として振返る桂子の前で、寝台の上の死体がむくむくと起上《おきあが》った。
「あッ」桂子は夢中で、乙彦の体へとびついた。
「わたしですよお嬢さん、わたしです」
「ええ※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」
「井伊英二郎ですよ」
 そう云われて振返る眼前に《めのまえ》、被っていた白布を脱いで紛《まが》う方なき井伊英二郎がにこにこと笑顔を現わした。
「まあ井伊さん!」
「驚いたかい桂坊」
「でも、でも、それでは王子さまは」
「列車に乗って行った井伊さ、桂坊が井伊君だと思っていた、あれが郭王子だよ」
「まあ――」桂子は完全に反った。――乙彦は昨夜以来はじめての煙草へ火を点けながら仔細を説明した。
「奴等は寝台車の前と後に乗込んでいた。僕はそれと察したから、先手を打って井伊君と王子との身装《みなり》を変え、時間を計って井伊君は、自分で独楽《こま》を廻して置き、拳銃《ピストル》の空弾を射って死んだ真似をしたんだ」
「ではあの跫音《あしおと》は井伊さんだったの?」
「そうだとも。騒ぎを聞いて人が集る。無論その中には奴等がいたのだ。そして血まみれ(是は芝居で使う絵具さ)の死体と、廻っている紅独楽を見ては、奴等はてっきり自分たちの仲間がやったと思ったろう」
「あそこの処は乙彦さんの芝居ひとつで成功と不成功が岐《わか》れる所でした。わたしは死んだ真似をしながら実にはらはらしていましたよ」
「日頃演劇研究をやっていたお蔭だね。奴等は仕済《しすま》したりと見て、列車が停ると同時に逃亡を企てた。是も此方《こっち》の計画通りだ。頼んで置いた刑事の手で一網打尽、――郭王子は井伊君に成済《なりすま》して無事に門司へ脱出したという訳なんだよ。……だがこの事件はまだ暫く内証だぜ。王子を狙っている暗殺者は、他にもいると思わなければならんからな」
「そのために態々《わざわざ》東京まで死体を運ぶ振《ふり》をしたのね」
「未《ま》だ他に狙っている奴等の眼をくらます為さ。二三日うちに偽《いつわり》の死体で葬式を出そうよ。――それにしても、井伊君の死体振りはすばらしかった」
「ではそのうちに死骸の芝居でも出しますか」
 そう云って三人は明るく笑った。



底本:「山本周五郎探偵小説全集 第三巻 怪奇探偵小説」作品社
   2007(平成19)年12月15日第1刷発行
底本の親本:「少年少女譚海」
   1938(昭和13)年6月
初出:「少年少女譚海」
   1938(昭和13)年6月
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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