atwiki-logo
  • 新規作成
    • 新規ページ作成
    • 新規ページ作成(その他)
      • このページをコピーして新規ページ作成
      • このウィキ内の別ページをコピーして新規ページ作成
      • このページの子ページを作成
    • 新規ウィキ作成
  • 編集
    • ページ編集
    • ページ編集(簡易版)
    • ページ名変更
    • メニュー非表示でページ編集
    • ページの閲覧/編集権限変更
    • ページの編集モード変更
    • このページにファイルをアップロード
    • メニューを編集
    • 右メニューを編集
  • バージョン管理
    • 最新版変更点(差分)
    • 編集履歴(バックアップ)
    • アップロードファイル履歴
    • ページ操作履歴
  • ページ一覧
    • ページ一覧
    • このウィキのタグ一覧
    • このウィキのタグ(更新順)
    • このページの全コメント一覧
    • このウィキの全コメント一覧
    • おまかせページ移動
  • RSS
    • このウィキの更新情報RSS
    • このウィキ新着ページRSS
  • ヘルプ
    • ご利用ガイド
    • Wiki初心者向けガイド(基本操作)
    • このウィキの管理者に連絡
    • 運営会社に連絡(不具合、障害など)
ページ検索 メニュー
harukaze_lab @ ウィキ
  • ウィキ募集バナー
  • 目安箱バナー
  • 操作ガイド
  • 新規作成
  • 編集する
  • 全ページ一覧
  • 登録/ログイン
ページ一覧
harukaze_lab @ ウィキ
  • ウィキ募集バナー
  • 目安箱バナー
  • 操作ガイド
  • 新規作成
  • 編集する
  • 全ページ一覧
  • 登録/ログイン
ページ一覧
harukaze_lab @ ウィキ
ページ検索 メニュー
  • 新規作成
  • 編集する
  • 登録/ログイン
  • 管理メニュー
管理メニュー
  • 新規作成
    • 新規ページ作成
    • 新規ページ作成(その他)
      • このページをコピーして新規ページ作成
      • このウィキ内の別ページをコピーして新規ページ作成
      • このページの子ページを作成
    • 新規ウィキ作成
  • 編集
    • ページ編集
    • ページ編集(簡易版)
    • ページ名変更
    • メニュー非表示でページ編集
    • ページの閲覧/編集権限変更
    • ページの編集モード変更
    • このページにファイルをアップロード
    • メニューを編集
    • 右メニューを編集
  • バージョン管理
    • 最新版変更点(差分)
    • 編集履歴(バックアップ)
    • アップロードファイル履歴
    • ページ操作履歴
  • ページ一覧
    • このウィキの全ページ一覧
    • このウィキのタグ一覧
    • このウィキのタグ一覧(更新順)
    • このページの全コメント一覧
    • このウィキの全コメント一覧
    • おまかせページ移動
  • RSS
    • このwikiの更新情報RSS
    • このwikiの新着ページRSS
  • ヘルプ
    • ご利用ガイド
    • Wiki初心者向けガイド(基本操作)
    • このウィキの管理者に連絡
    • 運営会社に連絡する(不具合、障害など)
  • atwiki
  • harukaze_lab @ ウィキ
  • 墓

harukaze_lab @ ウィキ

墓

最終更新:2020年01月09日 11:27

Bot(ページ名リンク)

- view
管理者のみ編集可
墓
徳田秋声


【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)覚《さ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|本《ぽん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)だぶ/\

濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」



 融は目が覚《さ》めると、床のなかで煙草を一|本《ぽん》か二本ふかしてそれからがばと跳ね起《お》きて床の傍《そば》にある卓の前《まへ》にすわつて見るのであつた。彼女が起き出さうとする彼に無意識に繊細な白い其手を何か探るやうに伸すこともあるし、まるで知らないで眠つてゐることもあつた。さうかと思ふと、腹這ひになつて、一生懸命書いてゐることもあるのであつた。昨夜食べたものゝ残骸がそこに散らばつてゐる。ガラスの丼に柿や林檎が皮と一|緒《しよ》になつてゐたり、栗の食べ散《ちら》しが、汚らしく灰皿やコーヒ茶碗に盛られてあつたり、夜中に彼女が食べたおかめ饂飩《うどん》の丼があつたりした。彼女は痔疾の痛むのを恐《おそ》れて固形物は出来るだけ胃袋へ送らないことにしてゐた。果物を貪《むさぼ》るにしても、水気《みづけ》だけ吸つて、滓《かす》はみな吐《は》き出してしまふのであつた。長いあひだ床が延《の》べ放《はな》しになつてゐた。その傍《そば》で彼は書いたり、客に接見したりした。長いあひだの病人との同棲が、時には彼を憂鬱にした。
 何か書いてゐるとき、
「ほう、えらいな」と融は勉強家の子供をでも讚めるやうに言つて、一生懸命になつてペンを動かしてゐる彼女の病気|窶《やつ》れのした横顔を覗きこむのであつた。
 彼女は彼と反対に、朝書く方であつた。床にゐても本を手から放したことはなかつた。でなければ仰向いて、しなやかな指先きに編棒を動かしてゐた。この頃彼女は錦紗の中古の長襦袢のうへに、病院へ入るときの用意に作つた、荒い濃赤色《のうせきしよく》に黒《くろ》の矢絣《やがすり》のある、だぶ/\の褞袍《どてら》を着てゐた。手術のため今にも入院するやうな身構へで、結婚時代の遺物で、今はもう迚も着られさうもない、目の飛出るやうな派手な着物を一枚|褞袍《どてら》に直したのであつたが、融が知《し》つた医者のゐる病院へ診察につれて行つて、愈よ手術を受けることに取決《とりき》めてから神経質の彼女は、何んだ彼《か》だと言つて、一寸のがれに逃《のが》れていつか一|月《つき》ばかりの日《ひ》が、寝床で過《す》ぎてしまつた。入院中の留守に二人の幼児の面倒を見てもらふつもりで、田舎で大きな屋台骨を張つてゐて、用事の多い体《からだ》をわざ/\母親に来てもらつてからも、二週間余りのあわたゞしい時日《じじつ》が、過《す》ぎてしまつた。大小三度あの手術に懲《こ》りてゐる彼女は、此夏受けた田舎での手術の遣《や》り直しをしなければならないのだと聞《き》いて、ふる/\厭になつた。手術の台に載《の》せられて、メスやピンセンのぴか/\する光や、かちや/\触れあふ音を聞かされるときのことを想像するやうであつた。
「もつと能《よ》く見《み》ないと判《わか》りませんが、探りを入れてみるとたしか溝ができてゐますからな。それはそれで投《ほう》つておいても介意《かま》はないやうなものですが、悪くすると痔瘻《じろう》にならないとも限りません。大概そんな事はないでせうけれど。」
 当番の医師の外に、融が特《とく》に診察してもらつたN―氏は、彼女の神経が酷《ひど》くおびえてゐるのを見《み》て、思ふ存分探りを入れることも出来ず、出来るだけ臆病な患者の気分を劬《いた》はるやうにと、優《やさ》しい言葉をかけてくれるのであつた。幸ひなことには、そこに又た若《わか》い助手の一人に思ひがけなく、融の知つた顔が見出された。そして出来るだけの便宜を謀《はか》るやうに言つてくれた。彼女の気分は、それでいくらか慰まつた。
「痛いでせうね。」
「いゝえ、切るのはちつとも痛かありません。」
「あのガーゼの詰換へがね。」
「それも初め一|回《くわい》ぐらゐです。あとは些《ちつ》とも痛くありません。」
 病院を出てくると、だら/″\した坂のところを、彼女は融の肩につかまつて、そろ/\歩《ある》いた。
「痛かないわね。」
「私も痛いときいてゐたけれど、痔瘻を切つたときの経験《けいけん》では、ちつとも痛いもんぢやありません。ガーゼの詰替《つめかへ》なんて何時の間にすんだのか、ちつとも感《かん》じないくらゐだつたからね。」
 彼はいつも繰返すことを又繰返した。しかし彼女の顔は極度《きよくど》に曇《くも》つてゐた。
「私は何うしてこんな病気なんかに取附《とりつ》かれるんでせうね。」
「あすこの病院に入つてゐてごらん、痔の手術を受ける入がどんなに多《おほ》いことか。みんな平気な顔をしてゐるけれど、多少痔
で悩《なや》まない人《ひと》はないくらゐだからね。」
「さう。手術してしまひませうね。」
「早く見てもらへばよかつたのさ。」
「でも切れと言はれるかと思つて。でも決心したわ。早く癒つて丈夫になりたい。そして明《あか》るい気分で勉強したい。」
「切つてしまへば、けろりとしてしまふよ。」
「さう。でも私幸福よ。去年の今時分は、体は丈夫だつたけれど、づゐぶん悩《なや》んだものよ。」
 さうは言つても、手術台に上るのは矢張りこわかつた。寒さに向ふので、病気にかゝらないやうに子供たちの冬のスヱターの二三|枚《まい》も編んでおいたり、暖《あたゝ》かい下穿も作つておきたいと思つた。買つてやりたい洋服《やうふく》もあつた。無論《むろん》金の問題もあつた。
「入院費はおれに持たせろ。」
「気の毒だわ。そんなことしなくても可いのよ。たゞちよい/\した毎日の事に、先生が少し心をつかつて下されば。」
「私がぼんやりしてゐると言ふの。」
「いや、さう云ふわけぢやないけれど、私これであなたに隠して、質なんておいてることもあるのよ。」
「だから、さういふ時はさう言へばいゝぢやないか。」
「言ふことが厭《いや》なの。二人の気分を壊《こは》すかと思つて。だから入院費として先生から更まつてお金をいたゞくなんてことが何だか厭なのね。」
 融にも彼女の気分は能く解《わか》つてゐた。
 彼女はまた芸術的な戯曲の上場があると聞くと、それを見てから入院したいと思つた。デニシヨンの舞踊があれば、其れも手術する前に見ておきたいと思つた。
「もう退院したんですか。」
 暫らくぶりで訪ねて来た人は、彼女が寝床に横たはつてゐるのを見て、一応は皮肉に聞えるやうに言葉をかけるのであつた。
「いや、まだ。」
 彼女は持前の、ちよつと喉《のど》をこすつて出るやうな笑声を立てた。融にはその笑声が、彼女を好きだとおもふ一つの要素であつた。それは彼女のふわつとした柔かみと、甲高《かんだか》さのある声《こえ》の裏づけになるやうなものであつた。それには不思議な朗らかさと快活さとがあつた。
「一体いつ入院するんです。」
「するにはするけれど、痛いかと思つて。」彼女はニヤ/\笑つてゐた。
「しず仕舞《じまひ》ぢやないですか。」
「いや、します。急度《きつと》します。」
「いくら無頓着のやうでも、一と世帯もつてゐるとね。」
 融が傍《そば》で弁解した。
 融も兎角病人気分に捲きこまれがちであつた。いつになつたら膝に載せないで、自動車に乗れる時が来るかと思はれた。
「何んにもしてあげないで、御免なさいね。」
「いや。そんな事を要求してゐるんぢやない。」
 そんな会話が時々取交はされるのであつたが、患部がいたんで来ると、融がひどく薄情な人間のやうに思へることがあつた。そして「丈夫になつたら。ちやき/\やりますからね」と言つてゐる其時が、いつ来ることかと待遠しかつた。
 その間にも、融が秋の初めからかゝつてゐた家《いへ》の改築工事がどし/\進んでゐた。そして其《それ》がまた中途から彼の生活気分の一つの煩ひになり出してゐた。
 最初彼は建築などに、少しの興味をも持つことが出来なかつた。たゞ今までの状態《じやうたい》では、いつまでたつても震災気分のやうな不規律と混雑のなかに住《す》んでゐなければならなかつた。家庭の単位であるところの夫婦と一人くらゐの子供と、さうして女中とだけの時代でさへ、余りゆとりのある家《うち》ではなかつたのが、二十幾年かの間に、家族《かぞく》は三倍以上にも発展してゐた。無精《ぶしやう》で無頓着《むとんちやく》な彼も、よく/\必要に迫られたとみえて、三四年前から貧弱な建築の設計に、まるで建築狂にでも罹つたやうに、時には没頭《ぼつとう》してゐた。今の彼はそんな興味は少しもなかつた。間取りなんかにこせ/\頭脳をつかふことが、如何にもぢゞむさい趣味の囚はれのやうに思はれてならなかつた。若し住宅設計図の見本か、レデーメードのやうなものの陳列があるなら、そんなところで小さな箇性を発揮する厄介を脱れることもできて、どんなに便利なものだらうと思つた。
「いや、ありますよ。」
 建築請負ひのI―氏は言ふのであつた。
「ほう。」
「アメリカにありますよ。」
「成程ね。いつか組立住宅が輸入されたことがあつたやうですが……。」
「いや、あれとは違ひます。もつとちやんとしたものがあるんです。日本でもそんな会社を創立したら可《よ》からうといふ話もありましたが、やはり住宅は箇人々々の趣味ですから。それに資本が大変です。外の物品とちがつて、倉庫に仕舞つておく訳にも行かないからね。」
「やつぱりね。」
 融はいくらか家が広《ひろ》くなりさへすれば、それで十分だと思つてゐた。この夏彼は友人のT―氏と、或る富豪の未亡人で今は若い燕と同棲してゐる婦人の家を見せてもらひに行つたことがあつた。それは素破らしいものであつた。地上に曝らしておくのは勿体ないやうな手のかゝつたものであつた。玄関わきの茶室の床柱一本、捜しあてるのに三年もの月日がかゝつたといふのであつた。勿論幾んど全部か北山丸太で、坪千五百円くらゐの普請であつた。折衷もこゝまで来ると垢ぬけがして寸分の隙がないと思はれるほど調和の取れた洋室は、それの三倍をかけた。
「職人のお八つとか、監督してくれた人への贈りものとか、何から何までこめて、三十万円がいくらも切れませんでした。」
 その夫人は融たちが聞いたこともないやうな建築の智識を実験的に話しながら、そんなことを言つた。
「こゝへ来てお書きになつたら何うです。」
 婦人は融に言ふのであつた。
「いや、こんな家へ入つてゐたんぢや、私なんか何んにも書けやしません。」
 融は笑つてゐた。
 で又た其婦人が、精巧をきはめた指物細工のやうな広《ひろ》い家のなかに住つて、それの拭掃除にも相当の頭脳をつかふことは勿論だとして、そんな建築に凝るやうになつた彼女の生活その物の怠窟《たいくつ》さは、自身は意識しないまでも、想像に余りあるものであつた。棺桶に贅沢を尽くすと、さう大した変《かは》りはなかつた。
「何でもいゝから、一つざつとやつて下さい。いくらか丈夫で広くなりさへすれば、それで可いんだから。」
 彼は大雑把に極めこんでゐた。設計図や仕様書なんかも、目を通すのが小面倒であつた。
 ところが形ができかゝつてくると、出来あかりが一寸不安になるくらい、気分だけでぼんやり見当をつけてゐたものと大分距離のあるものになりさうに思はれた。しかし其の時分には、もう何うすることも出来ないのであつた。彼は日に日に形のついてゆく普請を、行つてみるのも厭だつたが、焚火にあたりながら、現場監督のやうな態度で、職人達と笑談を言つてゐるのが、二三日彼の仕事になつてゐた。
「こいつあ困つたな。こんなところへ、三尺の床なんかつけて何うするんだらう。」
 彼は駄目を出した。
「だがね、雨戸をおくるところがないからね、こゝへ戸袋をつけますで……尤も二尺にしようと思へば出来んこともないが惜しいですね。いけなかつたですかね。」
「こんな部屋は三尺は深かすぎる。半分で沢山ぢやないか。」
「だがね、床はやつぱり大きい方が落付きがいゝでね。」
「それにこつちを塞いだんぢや、陰気で仕様がないだらう。」
「なあに陰気ぢやありませんよ。こつちが濡縁だからね、床はやつぱり此方《こちら》さね。」
「僕はこゝは押開いておくつもりだつた。」
「さうやつて遣れんことはないですがね、床を東へつけるとあのもう三尺|前《まへ》へ出るから、あの部屋が暗くなりますでね。」
「それでも困るけれど、こいつあ困つたな。」
「私《わし》たちは設計図の通りやりますでね。」
「それはそうだけれど……。」
「やつぱり取りかゝる前に、よく決めておかないとね、大骨ができてからあつちこちに気に喰はんとこができて困るだね。」
「I―さんなら巧《うま》くやりさうだつたから、全部任した訳さ。」
 その外にも困つたと思ふところが、幾箇も発見された。しかし又た自分が設計したところで、出来あがりが実際のうへに便利であるか否かについては、彼にも自信がなかつた。でも割合に堅実《けんじつ》で、さう厭味なものでないことは確かだつたし、これはと思ふ胡麻化しのないことも認めなければならなかつた。

 机の前に坐つて、融は現場へ行つてみたいやうな、見たくないやうな中途半端な気分になるのを感じた。彼は家ができあがるまで、彼女と同棲することにしてゐた。家庭から離れて、さうやつてゐることが、彼女の謂《い》ふところの二人の気分に浸《ひた》るには、尤《もつと》も適当であつたが、何うかすると彼女は彼女自身の生活のために、傷の痛まない、気分の好いときに、子供たちをつれて買ひものや髪洗ひに出かけたりした誠、融も現場へ出張つて、縁先きの焚火の前にしやがんで、そこでパンを食べたり、牛乳を呑んだりした。訪問客にも、彼がそこにゐるときは、そこで紅茶なんかを出すのが、この頃の習慣であつた。そこで芸術談が初まつたりした。
「来て見ない。もう建具が入《はい》つたよ。」
「行つてもいゝわ。」
 彼女も何うかすると、不断著のまゝ融について、勝手口の木戸をくゞつて、木屑や瓦や石や鋸屑の散らばつた庭先へまはることがあつた。
「おゝ、大分できた。」
 彼女は部屋のなかを覗きこみな鋼ら言つた。
「こゝがちよつと面白いぢやありませんか。」
 彼女は日本室をそのまゝ、洋風に化粧した一室を眺めてゐた。
「それは畳では、出入《でいり》があるので、さういふ風に胡麻化したんさ。僕の思つきだ。」
「好いぢやありませんか。形がかはつてゐて。」
「変なものさ。」
「私なら好い。」
「ちよつと好いかも知れないな。悪くちやんとしないだけに。」
「かういふ部屋が、建具や壁紙の配合で面白くなるんですよ。私好きよ。」
 彼女はさう言つて、上へあがつて行つた。そして融が大工と話してゐるうちに、子供と一緒に、茶の間と湯殿の霧よけに差架けた板へ攀ぢのぼつて、湯殿の屋根を足場にして、二階へとあがつて行つた。
「先生上つてごらんなさい。」
 彼女は枠のできない窓から半身を現はした。
「上れやしない、梯子がなくて。どこから上つたんだ。お転婆だね。」
「あつちから上れますよ。」
 二階では和洋折衷の窓について、彼女と子供とで議論がはじまつてゐた。
 融は茶の間の窓から飛出して、上を見上げたが危険で上《のぼ》れさうもなかつた。そこへ彼女が、屋根の上へ姿を現した。
「辷つたら何うするんだ。」
「大丈夫よ。」
 笑ひながら彼女は霧よけと霧よけの端へわたした板につかまつて、材木屑のつまれた上へと、する/\降りてきた。
「あの窓なら駄目。」
「さう?。」
「やつぱり西洋窓にしなくちや駄目よ先生。あれは矢張り枠をつけてゞすね……。」
 彼女はさう言つて、例の流暢な弁説で、滔々と弁じはじめた。
「それが問題になつてゐるんだがね。」
「今のうちなら直すに好いと思ふわ。」
「いや、もう直らないんだ。」
「先生は駄目よ。」
「ぢや一緒に技師んとこへ行つてみようか。」
「行つてもいゝ。」
「しかし好子は来ないだらうな。」
「いや来る。先生んとこで勉強したい。」
 その日は彼女も上機嫌であつた。そして夕方二人で技師を訪問したりした。
 けれど家の出来るのが、融にも彼女にも、何となく不安であつた。

 壁の上塗りがすんで、ドアや何かにガラスが入れられる頃には、彼女は病院でベツトに横はつてゐた。
 融は独りで手術に立ち合つた。そして戦《わなゝ》く彼女を慰めてゐた。彼女の載せられた担荷が、一時間半の余も、別室に待たされた。寸刻を争ふ捻腸の手術が、不意に一つ、間《あひだ》に挟《はさ》まつたからであつた。
「痛くないわね。」彼女は融の羽織の胸紐をいぢりながら、気分を紛らせようとしてゐた。
「痛かないよ。」
「早く幸福になりたい。」

 ドアを開けて、看護婦が時々洗ひものや何かに入つて来た。
 或る日も融はほゞ完成に近い家のなかを、あつちこつち見てあるいた。彼は小さい子供たち四人の部屋にあてた十畳処の入口に立つて、ニスの塗られるのを眺めてゐた。
 彼の葬式の出るときの光景が、まざ/\と目に浮んでゐた。前の古屋が、この春の亡妻の葬式に、どんなに不都合であつたかが、彼には痛い経験であつた。勿論さうでなくても、先きへ逝くはづの彼は棺桶をすえる場所もない手狭さを、何うかしなければならないことだとは思つてゐた。死んだ自分は何うでも好かつた。残るものは、それは余りに惨《みぢ》めな祭場であつた。
「こゝなら棺をおくのに十分だ。」
 融は広すぎて困ると思つた十畳|敷《じき》が、そのために偶然準備されたものゝやうに思へた。[#地付き](昭和2年1月「文芸春秋」)



底本:「徳田秋聲全集第16巻」八木書店
   1999(平成11)年5月18日初版発行
底本の親本:「文芸春秋」
   1927(昭和2)年1月
初出:「文芸春秋」
   1927(昭和2)年1月
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

タグ:

徳田秋声
「墓」をウィキ内検索
LINE
シェア
Tweet
harukaze_lab @ ウィキ
記事メニュー

メニュー

  • トップページ
  • プラグイン紹介
  • メニュー
  • 右メニュー
  • 徳田秋声
  • 山本周五郎



リンク

  • @wiki
  • @wikiご利用ガイド




ここを編集
記事メニュー2

更新履歴

取得中です。


ここを編集
人気記事ランキング
  1. 熊谷十郎左
  2. 浪人天下酒
  3. 恥を知る者
もっと見る
最近更新されたページ
  • 2000日前

    白魚橋の仇討(工事中)
  • 2000日前

    新三郎母子(工事中)
  • 2000日前

    湖畔の人々(工事中)
  • 2000日前

    鏡(工事中)
  • 2000日前

    間諜Q一号(工事中)
  • 2000日前

    臆病一番首(工事中)
  • 2000日前

    決死仏艦乗込み(工事中)
  • 2000日前

    鹿島灘乗切り(工事中)
  • 2000日前

    怪少年鵯十郎(工事中)
  • 2000日前

    輝く武士道(工事中)
もっと見る
「徳田秋声」関連ページ
  • No Image ふる年
  • No Image 女流作家
  • No Image 破談(55310)
  • No Image 低気圧
  • No Image 会食
  • No Image 芭蕉と歯朶
  • No Image 病室
  • No Image 無智の愛
  • No Image 背負揚
  • No Image 贅沢
人気記事ランキング
  1. 熊谷十郎左
  2. 浪人天下酒
  3. 恥を知る者
もっと見る
最近更新されたページ
  • 2000日前

    白魚橋の仇討(工事中)
  • 2000日前

    新三郎母子(工事中)
  • 2000日前

    湖畔の人々(工事中)
  • 2000日前

    鏡(工事中)
  • 2000日前

    間諜Q一号(工事中)
  • 2000日前

    臆病一番首(工事中)
  • 2000日前

    決死仏艦乗込み(工事中)
  • 2000日前

    鹿島灘乗切り(工事中)
  • 2000日前

    怪少年鵯十郎(工事中)
  • 2000日前

    輝く武士道(工事中)
もっと見る
ウィキ募集バナー
新規Wikiランキング

最近作成されたWikiのアクセスランキングです。見るだけでなく加筆してみよう!

  1. MadTown GTA (Beta) まとめウィキ
  2. AviUtl2のWiki
  3. R.E.P.O. 日本語解説Wiki
  4. しかのつのまとめ
  5. シュガードール情報まとめウィキ
  6. 機動戦士ガンダム EXTREME VS.2 INFINITEBOOST wiki
  7. ソードランページ @ 非公式wiki
  8. SYNDUALITY Echo of Ada 攻略 ウィキ
  9. シミュグラ2Wiki(Simulation Of Grand2)GTARP
  10. ドラゴンボール Sparking! ZERO 攻略Wiki
もっと見る
人気Wikiランキング

atwikiでよく見られているWikiのランキングです。新しい情報を発見してみよう!

  1. アニヲタWiki(仮)
  2. ストグラ まとめ @ウィキ
  3. ゲームカタログ@Wiki ~名作からクソゲーまで~
  4. 初音ミク Wiki
  5. 発車メロディーwiki
  6. 検索してはいけない言葉 @ ウィキ
  7. 機動戦士ガンダム バトルオペレーション2攻略Wiki 3rd Season
  8. Grand Theft Auto V(グランドセフトオート5)GTA5 & GTAオンライン 情報・攻略wiki
  9. オレカバトル アプリ版 @ ウィキ
  10. モンスター烈伝オレカバトル2@wiki
もっと見る
全体ページランキング

最近アクセスの多かったページランキングです。話題のページを見に行こう!

  1. 参加者一覧 - ストグラ まとめ @ウィキ
  2. 召喚 - PATAPON(パタポン) wiki
  3. 魔獣トゲイラ - バトルロイヤルR+α ファンフィクション(二次創作など)総合wiki
  4. ステージ - PATAPON(パタポン) wiki
  5. ロスサントス警察 - ストグラ まとめ @ウィキ
  6. LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族 - アニヲタWiki(仮)
  7. アイテム - PATAPON(パタポン) wiki
  8. ステージ攻略 - パタポン2 ドンチャカ♪@うぃき
  9. モンスター一覧_第2章 - モンスター烈伝オレカバトル2@wiki
  10. 可愛い逃亡者(トムとジェリー) - アニヲタWiki(仮)
もっと見る

  • このWikiのTOPへ
  • 全ページ一覧
  • アットウィキTOP
  • 利用規約
  • プライバシーポリシー

2019 AtWiki, Inc.