atwiki-logo
  • 新規作成
    • 新規ページ作成
    • 新規ページ作成(その他)
      • このページをコピーして新規ページ作成
      • このウィキ内の別ページをコピーして新規ページ作成
      • このページの子ページを作成
    • 新規ウィキ作成
  • 編集
    • ページ編集
    • ページ編集(簡易版)
    • ページ名変更
    • メニュー非表示でページ編集
    • ページの閲覧/編集権限変更
    • ページの編集モード変更
    • このページにファイルをアップロード
    • メニューを編集
    • 右メニューを編集
  • バージョン管理
    • 最新版変更点(差分)
    • 編集履歴(バックアップ)
    • アップロードファイル履歴
    • ページ操作履歴
  • ページ一覧
    • ページ一覧
    • このウィキのタグ一覧
    • このウィキのタグ(更新順)
    • このページの全コメント一覧
    • このウィキの全コメント一覧
    • おまかせページ移動
  • RSS
    • このウィキの更新情報RSS
    • このウィキ新着ページRSS
  • ヘルプ
    • ご利用ガイド
    • Wiki初心者向けガイド(基本操作)
    • このウィキの管理者に連絡
    • 運営会社に連絡(不具合、障害など)
ページ検索 メニュー
harukaze_lab @ ウィキ
  • ウィキ募集バナー
  • 目安箱バナー
  • 操作ガイド
  • 新規作成
  • 編集する
  • 全ページ一覧
  • 登録/ログイン
ページ一覧
harukaze_lab @ ウィキ
  • ウィキ募集バナー
  • 目安箱バナー
  • 操作ガイド
  • 新規作成
  • 編集する
  • 全ページ一覧
  • 登録/ログイン
ページ一覧
harukaze_lab @ ウィキ
ページ検索 メニュー
  • 新規作成
  • 編集する
  • 登録/ログイン
  • 管理メニュー
管理メニュー
  • 新規作成
    • 新規ページ作成
    • 新規ページ作成(その他)
      • このページをコピーして新規ページ作成
      • このウィキ内の別ページをコピーして新規ページ作成
      • このページの子ページを作成
    • 新規ウィキ作成
  • 編集
    • ページ編集
    • ページ編集(簡易版)
    • ページ名変更
    • メニュー非表示でページ編集
    • ページの閲覧/編集権限変更
    • ページの編集モード変更
    • このページにファイルをアップロード
    • メニューを編集
    • 右メニューを編集
  • バージョン管理
    • 最新版変更点(差分)
    • 編集履歴(バックアップ)
    • アップロードファイル履歴
    • ページ操作履歴
  • ページ一覧
    • このウィキの全ページ一覧
    • このウィキのタグ一覧
    • このウィキのタグ一覧(更新順)
    • このページの全コメント一覧
    • このウィキの全コメント一覧
    • おまかせページ移動
  • RSS
    • このwikiの更新情報RSS
    • このwikiの新着ページRSS
  • ヘルプ
    • ご利用ガイド
    • Wiki初心者向けガイド(基本操作)
    • このウィキの管理者に連絡
    • 運営会社に連絡する(不具合、障害など)
  • atwiki
  • harukaze_lab @ ウィキ
  • 途中(55341)

harukaze_lab @ ウィキ

途中(55341)

最終更新:2020年01月09日 20:10

Bot(ページ名リンク)

- view
管理者のみ編集可
途中
徳田秋声


【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)著《つ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)等|都《すべ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+劣」、第3水準1-84-77]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)つか/\

濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」



[#5字下げ]一[#「一」は中見出し]
 K駅に著《つ》いて、初めて彼を見たときから、山村は芳雄の気分が何処か荒い興奮状態にあることを感じてゐた。
 四辺《あたり》はもう薄暗《うすぐら》かつた。広漠《くわうばく》とした高原地の畑や森に、水蒸汽が蒼く這ひまつはつて、地平線上に遠く薫《かを》り合《あ》つた、荒い山の姿や、落日に照映《てりは》えた不思議な雲の形や色や、暮色のなかにちらほら見《み》える村落の火影《ひかげ》や、それ等|都《すべ》てのものか、彼に深い寂寥の感じを与へた。
 それに××線の分岐点として、不断は可也な雑踏を見せてゐた其の停車場も、旅客の乗降か数《かぞ》へるほどもなかつた。
 山村は一週間も前《まへ》に、彼の叔父に連《つ》れられて、こゝへ来《き》てゐる芳雄《よしを》が、きつと寺の小僧《こぞう》たちや何かと、迎《むか》へに来《き》てゐることだと思《おも》つて、汽車がプラツトホームへ著《つ》くと同時に、窓から首を出して四辺を見《み》まはしたのであつたが、誰も来てゐないのが何《なん》だか物足《ものた》りなかつた。勿論芳雄からは、『お寺は寂しくて、憂鬱であるうへに、附近の温泉や山や湖水に遊ぶにしても、酒《さけ》などを飲む叔父さんと一緒ではつまらないから、誰か来ないのなら、早く帰りたい』と言つて来たので、彼が弟をつれて来る筈の、父を待つてゐる気持は解つてゐたのであつた。汽車に弱い弟の正二は、東京を離れる頃から、顔の色が変《かは》つて、汽車がKとSの国境の、高い絶頂からいくらか降り気味になつた頃、二度ばかり吐いたりなどして、K駅へついた時分には全くぐつたりしてゐた。
 所で、生憎赤帽もゐなかつたところで、山村が著替などの入つた鞄や何かを子供と二人して提げて、プラツトホームを出ようとしてゐると、そこへ芳雄がひよつこり姿を現はして来たのであつた。そして其の時初めて顔を合はした時からさう感じたとほりに、寺へ帰つてからも、彼は何となく不断の落著を失つてゐた。
 停車場では、彼は発車の時間の案外早かつたことや、昨日まで叔父と一緒にゐた、こゝから三つ四つの駅を隔てた湖水のほとりの温泉場から、叔父に先立つて帰つて来たことなどを、わざとらしい無造作《むざうさ》で語《かた》つた。
『ぢや和尚さんはゐないのか。』
『叔父さんは今日帰つたんです。お父さんの電報を見て…………。』
 山村は芳雄と一緒に来てゐた、一人の小僧を先に立てゝ、疲れきつてゐた正二を荷物と一つに俥《くるま》に載せて、薄暗い町筋《まちすぢ》から、寂しい野道を話しながらお寺へと著いたのであつたか、芳雄が何かひどく此処へ来たことに不満を感じてゐるらしいのが、不思議に思へた、それは単に二年つゞいて行つた海の方が好いとか、山は嫌ひだとか、お寺が寂しいとか云ふ問題ではないらしくも思へた。
『然《さ》うでもないんだよ。勉強する気になれば、何処だつて出来るよ。偶《たま》にはお寺にゐて見《み》るのも可《い》いぢやないか。』山村は幾分彼を窘《いま》しめるやうな心持で言《い》ふのであつたが、普通の人間《にんげん》生活には、余りに不自然すぎる寺院といふものには、彼自身も決《けつ》して好感をもつてゐるのではなかつた。そこには糠味噌へ手を入れる女片もなかつた。煮物の加減を見てくれる女中もゐなかつた。いづれは不運に産れついて、家庭的な人情の温味を知らない不幸な若僧たちや、薪《まき》を割つたり草を苅つたりする爺《ぢい》やゝ、意地《いぢ》くねの悪い尼僧たちがゐるだけであつた。まだしも其寺には、寺領の山林や田畑があつたので、寺の尊厳や方丈の権威は相当に保たれてゐて、檀家からの哀れみを乞ふやうなことはなかつたにしても、それだけに又《また》、周囲の農民たちは、まるで没交渉の、不思議《ふしぎ》な怪物じみた前時代の遺物であつた。その上何かに敏感な少年を托するにしては、方丈の感情にはむら[#「むら」に傍点]が多過ぎた。学校を出て幾許にもならない器量人《きりやうじん》□彼□何といつてもまだ年が若《わか》かつた。
 勿論山村は、芳雄を見ると斉《ひと》しく、直《す》ぐそれらの総《すべ》てを感得《かんとく》した訳ではなかつた。それから滞在してゐた、二週間ばかりの生活経験が、彼にそれを明かにしてくれたのであつた。
 だゝツ広《ぴろ》い庫裡の方へ入《はい》つて行くと、囲炉裏《いろり》の縁に火に照らされて赤《あか》く耀いてゐる見知《みしり》の小僧《こざう》たちの顔や、つるつるした黝黒の大きい柱などが目《め》についた。後で庭師だと知つたのであつたが、三四人の赭《あか》い顔の男が黒い板戸の前に胡座をくんで、酒を飲んでゐた。そして山村が上つて行くと、その次の広《ひろ》い部屋《へや》の、古《ふる》めかしい仏壇の一つに燈明をあげて来た方丈と、ひよつこり顔を合したが、彼はいくらか俗縁と隔てをおくやうに、そこでは何とも言はなかつた。山村はつか/\と長い暗い部屋を通つて、方丈の方へ入つて行つた。
 すると其処《そこ》へ、今日の午後尾張の方から著《つ》いたと云ふ、それも後で分かつたのであつたか、南画家の某氏が出て来て此の一両年こゝへ来て毎年世話になる方丈の兄に対するらしい、謙遜な態度で彼に挨拶した。
 芳雄はわざと父の傍へ寄ることを避けるやうに、庫裡つゞきの小僧たちの部屋や、炉端の方にゐたらしかつたが、するうち山村は彼と正二と三人で、頸や頭髪《あたま》の煤煙を洗ふべく風呂へ入つた。釜の前には雪袴をつけた爺やが、湯の加減を気にしながら、薪をくべてゐた。芳雄はどこか空虚な元気を出して、沸きすぎた荒い湯に、手桶の水をあけたりなどした。
 風呂の上り場の板敷で、山村は二人と話《はな》しながら、しばらく疲れを休めてゐた。広い山門内のすぐ右手に建つた杉や檜の蓊鬱した山から、冷めたい風が、風呂場の格子窓を通して、弱い彼の皮膚にいら/\した。
 星明りのする空を仕切つて、山のそゝり立つた暗い庭を眺めながら、大きな食卓を取囲んで、山村や南画家や方丈、子供だちなどが、禅門の作法を心得てゐるらしい子供たちのお給仕で、晩飯に坐つたのは、それから間もなくであつた。芳雄が湖水のほとりから持つて帰つたと云ふ、蜆の味噌汁などが、山村の食欲《しょくよく》を唆《そゝ》つた。

[#5字下げ]二[#「二」は中見出し]
 食後紅茶を啜りながら、遅くまで話に耽つてゐたので、翌朝目がさめてみると、日がもう高く昇つてゐた。
 山村は縁づたひに、地下から取つてある山水の湛へられた水槽の横に取りつけられた洗面所で、清冽なその水を掬みながら、口を漱いだり顔《かほ》を洗つたりした。木立や石の多い庭には、まるで初秋のやうな寂《さび》しさで、日が照つてゐた。庭師たちは、もう山裾の深い木立のなかで、石を単純な機械にかけて、平地へ運びおろした。先住が作つた滝が涸れて、岩組が崩れたので、其等石塊を、池のまはりへ取卸すべく彼等は働いてゐた。
『ほら、よいと捲け、ほらよいと捲け』などと、彼等は其の機械の針金を捲きたぐるのであつた。小僧が二人ばかり、石《いし》の多い芝生にしやがんで、朝の涼しい間を、丹念に草を※[#「てへん+劣」、第3水準1-84-77]《むし》つてゐた。
 山村は山を二方に控へたこの宏壮な建物が、彼の弱い体に余り好い影響を与へないであらうといふことを、去年の六月来たときの経験で、ほゞ想像《さうざう》してはゐたものゝ実際来てみると、それは想像《さうざう》以上であつた。荒い山気や湿潤《しつじゆん》の気が、少しでも外気と体温との均衡が破れると、とかく体に徹《こた》へがちな彼に取つては、ひどく不快に感ぜられた。しかし幽寂な森のなかに啼いてゐる鶯の朗らかな声《こえ》などを耳にすると、さすがに気持が爽ぐのであつた。
 正二は夙《はや》くから起きて、物めづらしさうに、がらんとした本堂や、小僧たちの部屋などを見まはつてゐた。
『おい/\』と、山村は二声三声まだ眠を貪つてゐる芳雄に、蚊帳の外から声をかけた。芳雄は漸《やつ》と目がさめた。
『さう堕眠《だみん》を貪つちや可けないよ』山村は窘めるやうに言ふのであつた。
 芳雄は急いで、方丈の方《はう》へ出て行つたが、余り快《こゝろよ》い熟睡は取れなかつたらしいのであつた。
『それから、蚊帳や床ぐらゐは自分で始末しないと可けないよ。お客が多くなつて小僧たちが可哀さうだからね。』
『え』と、芳雄は応へたが、何だか気分の緊張を欠いてゐるのが、山村には飽足りなかつた。勿論昨夜などは、彼は晩飯の食器を運ぶことぐらゐは元気よく為《し》てゐた。
『よう、芳雄よく働くな』などと、方丈に言はれてゐたのであつた。
『勉強に来たんだから、もつとしやつきりして、毎日規則正しくみつちり遣《や》らなくちや駄目だよ。』山村はさう言つた。
『え』と芳雄は応へてゐたが、かう取留《とりとめ》もなくだゝつ広《ぴろ》い部屋ばかりでは、何処に机をすゑていゝか判らないと云ふ風であつた。
 直に朝飯になつた。小僧たちは、食器を運んだり、お汁を盛つたりした。あだ塩辛い漬ものが、丼に盛られてあつた。方丈は海苔の鑵を芳雄に持たして来させて、それを焼いたりした。それらの食料品が、隣の籌室《ちうしつ》の押入の棚に一|杯《ぱい》こて/\と並んでゐるのであつた。東京の佃煮だの、おいしい味噌漬だの、雲丹だの、肉類の鑵詰だの。そして何もないときに、取出されるのであつた。
『先生を呼んでおいで。』方丈は小僧に命じた。
 籌室で、方丈と一つ蚊帳に寝てゐた老南画家は、端の方の部屋で、もう朝はやく仕事の準備に取りかゝつてゐた。枠に絹地を張つたり、礬水《どうさ》を引いたり。
『あの人も、細君に別れて、去年また十八になる子供を褫《と》られたりして、気の毒なんだで。』方丈は言つた。
『でも筆法は厳正なやうです。それに何を食べさせておいても平気だから、世話がなくて好いです。』
 潔癖な若い方丈は、そんな話をしながらも、槻の一枚板の大食卓《おほていぶる》を拭巾でふくとか、皿や箸の位置をきちんと直すとかしなければ、気がすまなかつた。山村の突刺す紙捲の吸殻を、すぐ火箸で挟んで、こぼして棄てたりした。
『好い心持でござんすの。』画家は食卓の前に座を占めながら言つた。
『もう仕事をお始めですか。』山村は訊《き》いた。
『は、ぽつ/\』と、彼は一服ふかしながら、『私はこの禅寺が好きでしての。殊にこちらは伽藍《がらん》が大きうござんすで※[#「宀/是」、336-下-8]に気持が可うございます。』
 それから食後、この山国の自然や食物の話などが、三人のあひだに交《かは》されてゐたが、間もなく揃《そろ》つて裏から庭へまはつて、山へ登つた。山は嶮しかつた。中途に茶室めいた茅舎があつたが、それから上へ登ると、縹渺《へうべう》とした高原が、遥《はる》かに一目に見わたされた。雪が筋を引いたやうに白く残つてゐる山などが、凄い蒼《あを》さで空にそゝり立つてゐた芳雄が、松の根方の深い草のなかに立つてゐる、人々の姿をレンズに入れたりした。
『この山林を伐るわけにいかんのかね。さうすると此のお寺も瘴気《しやうき》がなくなつてずつとせい/\して来るよ。』山村は言ふのであつた。
『いや、さういふ訳にいかんですね。風致|林《りん》だで。』方丈は応へて、『尤も理由を附して届《とゞ》ければいゝんだけれどこの山があるで可《い》いですよ。」
『けどこれでは風致林《ふうちりん》にも何にもならないぢやないか。何故線路をもつと遠いところへ附《つ》けるやうに運動しなかつたんだらうか。』
 今朝も山村たちが食卓に向つてゐると、喘ぎ/\勾配を上つて行く汽車から吐出す黒い煙が、渦をまいて山から這ひのぼつて来るのが目についた。そして奥深く檜や杉の枝葉に絡はりついて容易に釈《ほぐ》れないのであつた。山門の周囲では、矗々《すく/\》と空に
そゝり立つた其等の古木が、枝葉を侵融されて、枯《か》れ/″\になつてゐるのであつた。
『どうも美事《みごと》なもんですの。』南画家がそこから建物《たてもの》の全体を見下しながら言ふのであつた。高い棟を、なだらかな傾斜をもつた屋根や檐《のき》が、蒼空を仕切つて儼然として聳《そび》え立つてゐた。彼は少しでも人の感触《かんしよく》を害するやうなことを、けつして口にしないと云《い》ふ風《ふう》であつた。それにまだ三十に少し間のある方丈《はうぢよう》の張詰めたやうな気質をよく呑込んでもゐた。それからこの寺に限らず、寺院建築の様式だとか、又は先々住のをり一寸した小僧の過失から起つた、この伽藍の炎上当時の事情《じじやう》などについて、談好きな、何かにつけて意見や計画の多い方丈は木の根にしやがみながら、話《はな》し出《だ》すのであつた。
『その時の和尚は…………ちやうど二十五世になるんですが、学問はできないが、ちよつと解脱した所があつたとみえて逸事がなか/\多いんです。』若い方丈は笑ひながら興味ありげに言ふのであつた。『その和尚、酒と女が好きで、そのうへ賭奕も好きだつたもんだから、よく近在の賭場へ顔を出したり何かして、年中素寒貧でゐたもんです、勿論寺はがらんだうで、衣も年中一張羅で通すといふくらゐ無頓著《むとんちやく》だつたさうだ。よく夜中にお寺を飛出して、こゝから四里もあるM市の遊廓へ乗出していつたり、酔《よつ》ぱらつて野中に倒れて、ぐう/\鼾をかいてゐたり、さうかと思ふと至つて小心なところもあつて、檀家総代が押しよせて来て、寺を退くか改悛の実を挙げるか、孰か処決してくれなくちや困ると言つて喧ましく責立てたところ、和尚ぢつと俯《うつむ》いて手炙に縮《ちぶ》こまつたまゝ一言半句も返事が出ない。その揚句に、(馬鹿言へ、坊主も人間だぞ)と喝《かつ》したさうだが、それも偉《えら》さうなところは少しもないんで、ほんの苦しまぎれに出たものらしいんですね。』
『その和尚は』と方丈は続けながら『寺の経済を一切委せてあつた、ちよつと才人の納所坊主と共謀《ぐる》になつて山林盗伐をやつたと云ふ罪状で、監獄へ入れられたが、そこが一寸弱味で、陳述も余り正直ではなかつたし、態度も立派ぢやなかつたさうです。』
『僧徒の生活は勿論、寺の維持は、しかし今後盆※[#二の字点、1-2-22]困難になるね。この寺なんか、今度焼けたら迚もこんな大きなものは立たないだらうが、また其の必要もないんだからな。』山村は言ふのであつたが、方丈もそれらの事については、比較的文明的な見解をもつてゐた。彼は俗人の目から見るよりも、一層事務的で経済的な見方をしてゐることも明《あきら》かであつた。
『そら、草を※[#「てへん+劣」、第3水準1-84-77]《むし》るたつて、一年二人ぐらゐかゝり通しでなくちや、迚もこんな風に綺麗にはなつてゐないんです。屋根の葺替、畳の表替だけでも大変《たいへん》です。今言つた和尚なざ、余り草が生えるので、薬鑵の熱湯をそゝいで歩いたさうですがそれだつて迚も追つくもんぢやありません。で、先住はよくそんな事に働いたんです。その結果《けつくわ》、寺の犠牲になつてしまつて、僧侶としては世間へ多く聞えなかつた。それで私なんかも、かうやつてゐれば此処の住職で終るんですが、何しろ小僧だつて、現代ではそれ/″\学校へも入れ、学校を出れば一つの寺も持たさなけやあならないんですから、寺の経営《けいえい》も容易ぢやありません。まあ寺を一個の財団として、住職も役僧も、月給か何かで事務を執りに出勤するといふことにでもしなければ…………又それが合理的でもあるんです。』方丈は説くのであつた。
 そして彼は、若し東京に収入の多い寺があつて、そこへ代ることができれば、いくらか人間らしい仕事ができるだらうと、そんな欲望を洩《もら》してゐた。長いあひだ東京に学生生活をしてゐた彼は、まだ此の山に一生埋れて暮す気には迚も成り得ないのであつた。
 一同は軈《やが》て山からおりて来た。そして山村は自分の仕事に坐るべき部屋の選定にかゝつたり、子供の机をおくべき場所を指
定したりした。
『M市から今晩の御馳走に、鰻でも取寄せますかね。』方丈はさう言つて呼鈴を鳴して少年僧を一人呼んだ。
 さうかうしてゐるうちに、其日も直に昼になつた。そして其の使の帰つて来たとき、鰻の買方を頼みに行つた、M市に於ける親類の妾宅から、連中見物の切符を持《も》たせてよこした。

[#5字下げ]三[#「三」は中見出し]
 憂鬱な日が四五日山村につゞいた。
 その間には、山村が断つたところ方丈が南画家を同伴して、M市へ市村座連の芝居を見に行つて、一晩泊つて来たり、講演に来た若い哲学者が、二晩ばかり本堂に近い一室に宿泊したりした。それと同時に、芳雄の気分もやゝ落著いたらしく、大抵机に坐つて、代数や幾何のプロブレムに没頭してゐた。
 或時は月の庭に、提燈をともして、一同田園道を散歩することもあつた。山国の夜の村落は、何となく粗剛で、そして憂鬱であつた。山の端にかゝつた断《ちぎ》れ雲の絶え間から、月が凄蒼な光をそれらの森や、森蔭の人家や、稲田や、流れのうへに投げてゐた。何処もかしこも、蒼《あを》い烟が立罩《たてこ》めてゐた。稲田や桑田の上に、荒い山颪《やまおろし》が寂《さび》しい音をたてて吹渡《ふきわた》つた。
 食料の不定と、山の冷気とで、山村は健康が余り優れなかつた。雨もよく降つたし、空も曇りがちであつた。で、談話や何かに夜を更したりして、仕事も捗取らぬがちであつた。周囲の荒い自然は、彼に取つては、とにかく余り幸福ではなかつた。
 或る仕事が一段落を告げたところで、彼は去年の六月にも、そんな意図《いと》を抱きながら、何うしても除《と》りきれない感冒のために其まゝになつた、附近への探勝を思ひ立つて、或朝二人の子供と、東京の中学へ入れてある弟子僧の一人の心円をつれて、十時頃山門を出た。勿論汽車に弱い正二をつれてゐるので、さう遠くへ行くことは、迚も望めなかつた。
『僕は止します』などと彼は言ふのであつた。
 しかし其《それ》は芳雄に取つても、不本意であつた。
『せつかく来て、お寺にばかりゐたんぢや、正二もつまらんぢやないか。』彼は言ふのであつた。
 で、つまり同行することになつた。心円の同伴は、半ば以上は方丈の心持であつた。
 汽車が動きだすと、もう正二は少し蒼くなつて来た。そして目をつぶつて、ぢつと俯《うつむ》いてゐた。
 汽車は登山客や何かで、可也込んでゐた。白衣をつけて、金剛杖をもつた団体もあれば、写真機械や雨具や、食料や飲料や、そんなものを体中につけた洋服の若い紳士や学生などもあつた。日が照つてゐたが、影はやつぱり寂しかつた。で、温度は山村に適当であつた。その上|蔽被《おつかぶ》さつたやうな寺で、可也苦しくなつてゐたところなので、水の流れなどを眺めながら、存外明い山間の高原地を、汽車に揺られるのは、気持が好かつた。そのあたりは、山が一体になだらかで浅かつた。石や砂の白い流域を、清い水がさら/\と流れてゐた。
『S――と云ふところは、憂鬱なところだね。殊にあのお寺の辺がね。』山村はそれらの美しい山や水の流れを、飽かず眺めながら、芳雄に話しかけた。
『K――つて、案外開けたところらしいね。』芳雄も先刻から通つて来た、川ぞひの村落や、レールの上にみえる人家などの印象について話した。
 正二は蒼白《あをざ》めながら、比較的気分の安定を得てゐるらしかつた。
 流れを溯るに従つて、景色は幾度か変つた。山も嶮しさと深さを増して来たが、K――の特色だと思はれるやうな目ざましい景勝は、其辺ではまだ見ることか出来なかつた。
 見ると朝の早い心円は、いつの間にかこくり/\と眠つてゐた。彼はつや/\した滑かな白い皮膚と、若僧らしい濃い眉と、ちんまりした愛らしい口とをもつてゐた。学問の成績はさう優れてゐるとは言へなかつたが、素直でそして口数を利かなかつた。そして産れや品位の点では、他の小僧たちよりも遥かに幸福であつた。多分彼が今の方丈の後を継ぐであらうと、期待されてゐた。
『あいつも東京へ出てから可けなくなつたです。どうも反抗的気分が出て来たやうで。』方丈はそんな事を蔭で洩してゐたが、愛してゐるには愛してゐた。
 彼の仲間には、するどい目《め》をした妙心や、何事にも小まめに役立つ、哀れつぽい目《め》をした年上の智洞や、剽軽でぼんやりした善童などがゐた。近所に堂守《どうもり》をしてゐる尼僧が二人ばかり、時々来ては縫ひものや洗濯や、食べものゝ世話などをしてゐたが、客をもてなすやうな物は、方丈自身がよく台所へ出て指図をしたり、加減を見たりしてゐた。
『ね、お父さん。』
 少し景色に見飽いたところで、芳雄は微声《こごゑ》で山村に話《はな》しかけた。
『僕困つちやつたんだよ。』そして彼はやゝ躊躇気味《ためらひぎみ》で口を噤んだ。
『何が。』山村は訊《き》いた。
『そのね』と、芳雄は暗い目をして、『叔父さんはA―温泉で、芸者を呼んだんだよ。』
『芸者を…………お前と一緒に行つたとき?』
『さうなんだよ。』
『芸者つて何んな?』
『そのね、その女はね、この間から東京へ行つてゐたんだよ。そして叔父さんが、御母さんと僕に鳥屋をおごつたとき、御母さんに紹介したんだよ。』
『ぢや、お前たちは其の女と一緒に帰つて来たの。』
『いや、女は先《さき》に帰つたんだけれどもね、M―市の八重子さんの家で、叔父さんが始終その女を呼んでゐたらしいのさ。』
 八重子の家といふのは、山村たちの親類の男の妾宅であつた。
『ところが、その女のことについて、叔父さんと八重子さんと感情の衝突があるもんだから、外で呼ぶことにしてゐるらしいんだよ。叔父さんは其の女を引かさうとして、夢中になつてゐるんだよ。その事でM市―の伯父さんと衝突してゐるもんだから、A―温泉へ呼ぶときも、学生――それあ僕のことだけれど――学生さんと一緒だから、行つちや御父さんに、八重子さんが済《す》まないからと言《い》つて止めたのを、到頭来てしまつたの。』
『ぢや、その女を御母さんも知つてるんだな。』
『知つてゐるのさ。』
『いけないな。』山村は首をひねつてゐた。
『それからS―湖水の温泉宿へ行つたときも、一緒だつたのさ。それで御父さんから電報が来たもんだから、僕だけ先へ帰して、叔父さんは晩方に帰つて来たんだけれど、それあ可笑しいのさ。叔父さんは、その女に真面目になつて、熱心に恋愛か何うだとか何とかお説法してゐるのさ。その女に御母さんがゐるらしいもんだから、芸者に出すやうな親なんか見るのは、旧道徳に囚はれた女のすることだなんて…………それあ面白いのさ。思想だの、芸術だの、そんなことを言つたつて、女には解りつこないんだもの。だけど、そいつ一寸悧巧な奴らしいの。それで性質も素直で芸者らしくないんだよ。まあ、ちよつとあの町ではシヤンらしいんだね。』
 心円は腕組をしながら、窓枠に硬い頭をもたせて、やつぱり快げに眠りつゞけてゐた。正二もそこに突伏《つゝぷ》してゐたのであつた。
『だから、僕困つちまつたんだよ。今の学生は、こんな事ぐらゐ何でもありやしない。二人で散歩《さんぽ》してこいなんて、僕にその女を姉さんつて言へて、さう言ふんだよ。』
 そして彼は、その事件に彼相当の感想や批判を加へながら、少しく詳細にわたつた一つ二つの話をしてから。
『だけれど、叔父さんは御父さんに知られるのを、大変厭がつてゐるのさ。発表する時が来るまではね。』
『あゝ、それで…………。』山村は苦笑をもらしてゐたが、世間では、何によらず一切の事が許されてゐるとしか考へてゐない若い寺院生活者に取つては、それも当然のことかも知れないが、物に感じ易い十七八の少年に取つては、余りに残酷な光景であつたであろう…………などと想像した。
 四辺の自然が、いつか一変してゐるのに気がついた。K―川の流れに沿つて、汽車は今とつ/\と急勾配を上りつつあるのであつた。[#地付き](大正10[#「10」は縦中横]年1月「太陽」)



底本:「徳田秋聲全集第13巻」八木書店
   1998(平成10)年11月18日初版発行
底本の親本:「太陽」
   1921(大正10)年1月
初出:「太陽」
   1921(大正10)年1月
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

タグ:

徳田秋声
「途中(55341)」をウィキ内検索
LINE
シェア
Tweet
harukaze_lab @ ウィキ
記事メニュー

メニュー

  • トップページ
  • プラグイン紹介
  • メニュー
  • 右メニュー
  • 徳田秋声
  • 山本周五郎



リンク

  • @wiki
  • @wikiご利用ガイド




ここを編集
記事メニュー2

更新履歴

取得中です。


ここを編集
人気記事ランキング
  1. 骨牌会の惨劇
  2. 人情裏長屋
  3. 寝ぼけ署長06夜毎十二時
  4. 無智の愛
もっと見る
最近更新されたページ
  • 2009日前

    白魚橋の仇討(工事中)
  • 2009日前

    新三郎母子(工事中)
  • 2009日前

    湖畔の人々(工事中)
  • 2009日前

    鏡(工事中)
  • 2009日前

    間諜Q一号(工事中)
  • 2009日前

    臆病一番首(工事中)
  • 2009日前

    決死仏艦乗込み(工事中)
  • 2009日前

    鹿島灘乗切り(工事中)
  • 2009日前

    怪少年鵯十郎(工事中)
  • 2009日前

    輝く武士道(工事中)
もっと見る
「徳田秋声」関連ページ
  • No Image 徳田秋声
  • No Image 女流作家
  • No Image 二つの失敗
  • No Image 贅沢
  • No Image 乾いた唇
  • No Image 破談(55310)
  • No Image 草いきれ
  • No Image 妬心
  • No Image ふる年
  • No Image 水ぎわの家
人気記事ランキング
  1. 骨牌会の惨劇
  2. 人情裏長屋
  3. 寝ぼけ署長06夜毎十二時
  4. 無智の愛
もっと見る
最近更新されたページ
  • 2009日前

    白魚橋の仇討(工事中)
  • 2009日前

    新三郎母子(工事中)
  • 2009日前

    湖畔の人々(工事中)
  • 2009日前

    鏡(工事中)
  • 2009日前

    間諜Q一号(工事中)
  • 2009日前

    臆病一番首(工事中)
  • 2009日前

    決死仏艦乗込み(工事中)
  • 2009日前

    鹿島灘乗切り(工事中)
  • 2009日前

    怪少年鵯十郎(工事中)
  • 2009日前

    輝く武士道(工事中)
もっと見る
ウィキ募集バナー
新規Wikiランキング

最近作成されたWikiのアクセスランキングです。見るだけでなく加筆してみよう!

  1. 鹿乃つの氏 周辺注意喚起@ウィキ
  2. 機動戦士ガンダム EXTREME VS.2 INFINITEBOOST wiki
  3. MadTown GTA (Beta) まとめウィキ
  4. R.E.P.O. 日本語解説Wiki
  5. シュガードール情報まとめウィキ
  6. ソードランページ @ 非公式wiki
  7. AviUtl2のWiki
  8. Dark War Survival攻略
  9. シミュグラ2Wiki(Simulation Of Grand2)GTARP
  10. 星飼いの詩@ ウィキ
もっと見る
人気Wikiランキング

atwikiでよく見られているWikiのランキングです。新しい情報を発見してみよう!

  1. アニヲタWiki(仮)
  2. ストグラ まとめ @ウィキ
  3. ゲームカタログ@Wiki ~名作からクソゲーまで~
  4. 初音ミク Wiki
  5. 発車メロディーwiki
  6. 検索してはいけない言葉 @ ウィキ
  7. Grand Theft Auto V(グランドセフトオート5)GTA5 & GTAオンライン 情報・攻略wiki
  8. 機動戦士ガンダム バトルオペレーション2攻略Wiki 3rd Season
  9. パタポン2 ドンチャカ♪@うぃき
  10. オレカバトル アプリ版 @ ウィキ
もっと見る
全体ページランキング

最近アクセスの多かったページランキングです。話題のページを見に行こう!

  1. 参加者一覧 - ストグラ まとめ @ウィキ
  2. Trickster - ストグラ まとめ @ウィキ
  3. ガヴァイ アッカンマン - ストグラ まとめ @ウィキ
  4. 過去の行動&発言まとめ - 鹿乃つの氏 周辺注意喚起@ウィキ
  5. 魔獣トゲイラ - バトルロイヤルR+α ファンフィクション(二次創作など)総合wiki
  6. マイティーストライクフリーダムガンダム - 機動戦士ガンダム EXTREME VS.2 INFINITEBOOST wiki
  7. コメント/雑談・質問 - マージマンション@wiki
  8. 機体一覧 - 機動戦士ガンダム EXTREME VS.2 INFINITEBOOST wiki
  9. 猗窩座(鬼滅の刃) - アニヲタWiki(仮)
  10. MOZU - ストグラ まとめ @ウィキ
もっと見る

  • このWikiのTOPへ
  • 全ページ一覧
  • アットウィキTOP
  • 利用規約
  • プライバシーポリシー

2019 AtWiki, Inc.