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harukaze_lab @ ウィキ

甦える死骸

最終更新:2019年11月01日 04:22

harukaze_lab

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管理者のみ編集可
甦える死骸
山本周五郎

-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)兼松春夫《かねまつはるお》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)五|呎《フィート》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)※[#感嘆符二つ、1-8-75]
-------------------------------------------------------

[#3字下げ]生命再造術[#「生命再造術」は中見出し]

 兼松春夫《かねまつはるお》は新科学画報社の若い記者である。社内では彼を「シェファード兼松」と呼んでいるが、それは彼が五|呎《フィート》七|吋《インチ》もある痩せた体でひどく伊達者《めかしや》でまた動作が敏捷だからというだけでなく科学界の記事《ニュース》取りにかけてすばらしい手腕を持ち、どんな秘密研究でも必ず嗅ぎつけて記事にするという、特異な才能に対する尊称なのであった。
 七月の末から降りだした雨が、返り梅雨《つゆ》のようにじめじめと続いて、八月に入った或日の午後のこと、シェファード兼松が編輯《へんしゅう》長の部屋へやって来て、
「編輯長、僕に一週間暇を下さい」と云った。
「休暇ならもう少し後にして呉れ給え」
「冗談じゃない、休暇なんか此方《こっち》から進呈しますよ。実は帝大の宮川研究所へ泊込《とまりこ》みの仕事が出来たんです」
 編輯長は急に身を乗出《のりだ》した。
「なにか新記事《ニュース》かい」
「自然科学の一部をひっくりかえす記事《ニュース》ですよ。簡単に話《はなし》ますと斯《こ》うです、――宮川|博士《はかせ》は長いあいだに極秘のうちに、死者を蘇らせる研究を続けて来ました」
「そいつはいかん、起死回生の術なんて科学者の夢だ、不可能だよ」
「そうかも知れません。然《しか》しそうでないかも知れない、科学界の新発見は毎《いつ》も夢から出発していますからね。兎《と》も角《かく》博士は或る程度まで研究の結果に自信を得て、愈《いよい》よ本格的に人体実験を始めることになったのです」
「然し秘密研究だと云うのに、どうしてそれが君に分ったんだ」
「僕は伊達《だて》にシェファードの綽名《あだな》を貰ってる訳じゃありませんからね。もう博士の許しを得て、今夜っから研究室へ詰切《つめき》りになる段取《だんどり》が出来ているんです」
 編輯長は大きく頷いて、
「宜《よ》かろう、実験の結果が失敗であったという事を慥《たしか》めるのも、科学雑誌としての正しい使命には違いない」
「では一週間頂けますね」
「うん、報告を楽《たのし》みに待っているぜ」
 兼松春夫は元気に社をとび出した。
「死者を活《い》かす」という起死回生術や、「永遠に死なぬ」という不老長生術は、東西ともに何千年も前から多くの科学者達によって描かれて来た夢であった。――その夢を現実にしようとして、我が宮川禎造博士もまた極秘のうちに、殆《ほとん》ど半生をその研究に捧げて来たのである。博士の研究が如何《いか》なる原理と方法の下に行われているかは、何人《なんぴと》にも窺い知る能《あた》わざるところであるが、この数年来着々として進行し、愈《いよい》よ最後的実験に掛ろうとしているのだった。
 さて、――その日の夕方、兼松春夫は実験の報道を受持《うけも》つために、泊込み用の手軽な荷物を持って研究室へやって来た。
 宮川研究室は白堊《はくあ》の堂々たる三階建で、三つの円形教室を持ち、有名な書庫、事務室、研究室、標本室等、大小合せて三十余室を含む建物であるが、今は秘密研究中のため、厳重な電気仕掛けの鎧扉《よろいど》で閉《とざ》されている。――そして兼松記者がやって来るのを待って、正面の扉《ドア》もかたく閉鎖された。これで一週間は全くこの建物の中に缶詰にされる訳なのだ。
 午後七時簡単な晩餐の食卓が開かれた時、兼松記者は井上、若林、太田、下村、という四名の助手に紹介された。――そして、晩餐が終ると、みんなは特殊ゴム製の仕事着を纏って、地下にある実験室へと下りて行った。
 実験室は、ラジウム光線や高圧電気を使うので、三|吋《インチ》の銅板と絶縁体の防壁で包まれた十|米《メートル》に二十|米《メートル》の広さで、その中央に円筒形の硝子蓋《がらすぶた》で蔽《おお》われた大手術台があり、それを巡って恐ろしく巨《おお》きな電圧器や、レントゲン装置や、ラジウム放射管や、また内臓反応計などが、まるで謎のように複雑な配置を見せていた。
 四人の助手と兼松記者が揃うと、博士はやおら大手術台の蔽《おお》いを脱《と》って、
「さあ見給え諸君」
 と台上に横わっている死体を示した。
「この男は五人の男女を惨殺し、銀行を襲って金庫を破り、放火をし、前後十五犯の罪を犯して、今朝八時XX刑務所に於《おい》て死刑を執行された兇悪なる犯罪者だ。生前何等の善事も為《な》さなかったが、死体となった今、彼は我々の実験台となって、一度だけ人類のために役立とうとしているのだ。――年齢は三十八歳、体格優良、内臓頑健、智能の発達劣等」
 死体の検証を始めるのを聞きながら、兼松記者は側へ寄ってずっと覗込《のぞきこ》んだ。

[#3字下げ]疵のある横顔[#「疵のある横顔」は中見出し]

 透明ゴムの寛衣《ガウン》を着た死体は、肩幅の広い逞しい骨格で、手足の関節はふしくれ[#「ふしくれ」に傍点]、額の狭い顎の張出《はりで》た、些《ちょ》っと猿を思わせる頭つきである。そして残忍な卑《いやし》い顔の右頬こま、ぞっとするような恐ろしい疵痕《きずあと》があった。
「物凄い顔ですね、博士」
「典型的な犯罪者の相だよ」
「どうせ蘇生させるなら、善人を試した方が宜いでしょう、若《も》し此奴《こいつ》が生返《いきかえ》ったらどんな事を仕出来《しでか》すか知れませんぜ」
「はっははは」博士は笑って、「例《たと》えどんな危険があるにしても、生返って呉れたら万歳さ、――兎に角こんな実験には注文通りの死体なんか容易《たやす》く手に入るもんじゃないよ。さて……丁度《ちょうど》八時だな」
 博士は時計を見て振返《ふりかえ》った。
「ではこれから実験を開始する」
「は、――」言下に四名の助手は持場《もちば》へ就《つ》いた。博士はゆっくりした調子で命令を伝えた。
「蓋《カバー》を閉めて。活栓を充分に、――酸素管を明《あ》けて、二分の一量。換気孔《ベンチレーター》を明けて絶縁板を立てて、――冷却器は良いか」
「好調です先生」
「宜しそのまま。みんな箱室《ブース》へ入ろう」
 そう云《い》って博士は台から下りた、そしてみんなは、実験室の北側にある防光線室へ入って、扉《ドア》を閉めた。それはラジウム線を防ぐために、十|吋《インチ》の銅板で包まれた二|米突《メートル》四方ほどの箱室《ブース》で、三方の壁は大掛りな無電技術室のように、無数のスイッチや調節機がぎっしり取附けてある、――博士は扉《ドア》にある覗穴《ファインダー》の前へ、兼松記者と並んで腰を掛けると、助手たちが位置に就くのを待って右手のスイッチを捻《ひね》った。実験室内の電灯が消えた、愈《いよい》よここに世界科学の驚異たる実験が開始されるのである。
「電撃――A・1、続けて五秒」
 博士の声と共に、凄《すさま》じい電光が闇を劈《つんざ》いて走った。二度、三度。
「二号放射、一度の弱、緩く」
 電光が消えて、夜明けのような薄白い光が、ぼーっと硝子《がらす》円筒を浮出《うきだ》させた。――死体の顔が悪夢のように見える。兼松春夫は思わず慄然《ぞっ》としながら筆記を続けた。
「心臓部へ三号放射、二分一秒、弱く。――二号続けて。待て――強く二度。止め、電撃三秒。宜し三号続けて」
 ジジジジ、と云う微《かす》かな響きが断続し始め、死体の周囲に紫色の糸のような光線が波を打って閃《ひら》めいた。――斯《かく》して一秒も休まぬ複雑な操作が約二時間も続いた、そして十時になった時ようやく第一段を終ったのである。
「第一実験終り」
 そう云って凡《すべ》てのスイッチが切られ、博士の手で電灯が点けられた時には、全員汗ぐっしょりの有様《ありさま》であった。――それから死体の内臓をレントゲンで写真に撮ったり、全体に現われた変化を仔細に点検した後、一同揃って熱い珈琲《コーヒー》を啜《すす》り、午後十一時を廻った頃、若林助手を一人だけ実験室の当直に残して、みんな夫々《それぞれ》の寝室へと引取《ひきと》った。
 第二日目も同じような実験が繰返《くりかえ》された。第三日目、第四日めと、――時は経って行くが死体には際立った変化がない、ただ五日めに、類リンゲル氏液の直腸注入の際、一度だけ死体に軽い痙攣が起って人々を恟《ぎょっ》とさせたが、調べた結果それは直流電気の筋肉反応に過ぎない事が分った。
 そして第六日めの夜が来た。――それは依然として、鬱陶《うっとう》しい淋雨《ながあめ》のじとじと降る晩だった。当直の井上助手を実験室へ残して、寝室へ別れたのが十一時半、兼松春夫は自分にあてがわれた二階の七号室へ入ったが、ひどく寝苦しいので、寝台《ベッド》へあがったまま暫《しばら》く雑誌を読んでいた。
 十二時を打つ時計の音を聞いてから間もなく、いっかうとうと眠って了《しま》ったらしい――なにか物音が耳についたとみえて、ひょいと眼が覚めたら、……点けたまま眠った筈《はず》の電灯が消えている。
「おや、知らずに消したのかな」
 そう思って、寝返りをうとうとした時、すうっと、誰か覗き込む者があった。
「――――」兼松春夫は異様な悪寒を感じながら、そっと薄目を明けて見た。窓|硝子《ガラス》から来る夜空の微かな仄明《ほのあか》りに、一人の男が昵《じっ》と兼松の寝息を窺っているのが見える、……黒い透明ゴムの寛衣《ガウン》を着ている、そして――驚く可《べ》し、その横顔には大きな、生々しい疵痕がある。
 ――殺人犯人だ、あの死体の男だ!
 兼松はそう直感すると共に、全身が恐怖のために震慄した。
 正に、正にそれは「あの死体」だ。殺人、強盗、放火と凡《あら》ゆる罪を犯して死刑になった、あの凶悪|無慙《むざん》な男なのだ、――そしてその死体がそこへ甦えって来た。
 ――己《おれ》は殺されるぞ。
 兼松春夫はそう思って、今にも兇手《きょうしゅ》が迫るかと、身動きも出来ず肩を殺していた。

[#3字下げ]生きた死骸[#「生きた死骸」は中見出し]

 死体の男は低く呻《うめ》いた。それから覗込んでいた身を退いた。――兼松は今にも相手が襲いかかかって来るかと、息詰るような気持で待っていた。五秒、十秒、……なんの事もない、建物の中は廃墟のように森閑《しん》としている。なんという静かさだろう。
「ひひひひひ」
 突然、ぞっとする笑い声が起って、ばたんと扉《ドア》が閉まった。兼松春夫は弾かれたように起上《おきあが》った。――見ると其処《そこ》には既に人影はなく、廊下を向うの方へ、無気味な笑い声が「ひひひひ、へへへへ」と遠退《とおの》いて行くのが聞える。
「助かった」そう思ったが恐怖のために全身びっしょり膏汗《あぶらあせ》で、暫くは身動きも出来なかった。――然し呆《ぼん》やりしている場合ではない。
「博士はどうしているか、四人の助手は無事だろうか? ――兎に角あの死人を外へ出さぬ工夫をしなければならん」
 兼松春夫は寝室《ベッド》を下りた。
「ちぇッこんな時|拳銃《ピストル》が有ったら」
 舌打をして、何か武器はないかと見廻したが、四辺《あたり》には手頃な物は何も無い、――ええままよ! と度胸をきめて、手早く着換えをすると、兼松春夫は静かに扉《ドア》を明けて廊下へ出た。……廊下は明るく電灯で照されている。若しみつかったら、兇漢は何をするか知れない。そう思うと恐ろしさに膝が震えた。
 階段へ来た。注意して四辺《あたり》を見廻したが、何処《どこ》にも死体の男の姿は見えない。
「今だ、走れッ」と意を決した兼松は、だだだと烈《はげ》しい勢《いきおい》で階段を駈け下り、直《す》ぐ左へ曲って博士の寝室の扉《ドア》へ体を叩きつけた。その刹那である、
「ひー、ひひひひッ」と虚《うつ》ろな高笑いの声がして、地下の実験室へ通ずる石段の口へ兇漢の顔が現われたと思うと、いきなり鋭い銃声が起った。
 がん! がんがん※[#感嘆符二つ、1-8-75]
 兼松春夫の耳をかすめて、三発の弾丸が壁を抉《えぐ》った。実に危い刹那! それと同時に、寝室の扉《ドア》が明いて、兼松記者の体は室内へだっと転げ込む、直ぐ跳起《はねお》きて扉《ドア》を閉《とざ》した。
「どうしたんだ、兼松君」
 博士は電灯を点けながら寝台の上へ起きあがった。兼松春夫は蒼白い顔を振向けて、
「は、博士、――生返ったのです」
「なに?」
「貴方《あなた》の実験は成功しました。あの殺人犯の死体が甦えったのです」
「――――」
「お聞きなさいあの声を」
 扉《ドア》の向うで例の、ぞっとするような高笑いが聞《きこ》えている。――博士は臥破《がば》とはね起きて兼松の側へ来た。
「あの声、あの声、あれが」
「あれが甦えった死骸の声です、――宮川博士、貴方《あなた》は自然科学の法則を破りました。実験は成功したのです」
「――――」博士は壁へとんで行って、電動機のスイッチを入れた。それは建物の凡《あら》ゆる窓や扉《ドア》を、絶対に開かぬようにする仕掛けである。
「是《これ》で奴は外へ出る事は出来ないだろう、――だが実験室に当直していた井上はどうしたろう。若林や太田や下村も心配だ」
「出ては危険です」
 兼松が博士を制止した。
「奴は拳銃《ピストル》を持っています」
「拳銃《ピストル》を? ――しまった」
 博士は呻いた、「それでは殊《こと》に依《よ》ると当直の井上はやら[#「やら」に傍点]れているぞ、万一の場合にと思って、当直の者には護身用の拳銃《ピストル》を預けてあるのだ、奴が其《それ》を持っているとすると……」
 云いかけた時、遠くでダーンという銃声が起って、一時に電灯が消えて了《しま》った。
「あっ、電灯のスイッチを壊したな」
「博士、――警察へ電話をかけなければいけません、でないと我々は」
「そうだ、斯うなれば研究の秘密を守っている訳にはいかん」
 博士は枕卓上《サイド・テーブル》の上にある電話器を取上げた、然し幾ら信号をしても何の答えもない
「――どうしたんです?」
「奴め、電話線を切って了《しま》った」
「では僕が窓から脱出して急援《きゅうえん》を頼みに行きましょう明けて下さい」
 頷いて博士は電動機のスイッチを捻った。然しそれさえ既に動かなかった。
「駄目だ、電動機も壊されている」
「――畜生!」
 今や絶体絶命、彼等はこの建物の中へ、生返った殺人鬼と共に完全に閉籠《とじこ》められたのである。
「おや、人声がします」
 兼松春夫がそう云って振返ったとたんに、ばたばたと人の走って来る跫音《あしおと》がして扉《ドア》を外から破れよと叩いた。

[#3字下げ]見えざる兇手[#「見えざる兇手」は中見出し]

 鍵を外して扉《ドア》を明けると、転げるように入って来たのは若林、太田、下村の三人の助手たちだった、みんな死人のような顔をしていた。
「おお無事だったのか」
「――先生、実験は成功しました」
 下村助手が博士の方へ走り寄って叫んだ。
「僕たちは見ました、あの死体の男は生きて歩いています、宮川法式に依る死者蘇生法は完成されました」
「まあ待ち給え」
 博士は下村の言葉を遮って云った。
「そのお祝いは後で聞くよ。まだ実験室にいる井上の安否が分らないのだ、君たちの方へは行かなかったろうね」
「来ませんでした」
「死体の男は井上の拳銃《ピストル》を持っている、奴は殺人鬼だ、金庫破りだ、放火犯だ、何をするかも知れない」
「そう云えば」と下村助手が口を挟んだ、「先生のお部屋の金庫は大丈夫でしょうか、二万円の白金線と現金が五千円入っていた筈ですね」
「そうだ研究費を貰った許《ばか》りだっけ」
「奴が犯罪者ならそれに眼をつけずにいないでしょう。先生、僕を窓から出して下さい、応援を頼みに行って来ます」
「駄目だ、電動機が壊れている」
「――えっ※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」
「我々は一歩も外へ出られないのだ」
 下村助手の顔が恐怖に歪み、がくがくと膝の震えるのが暗い中で見えるようだった。
「博士、僕が井上君を見て来ます!」
 兼松春夫が決然と云った、「若し傷でも受けているとすると、斯うして空しく待っている訳には行きません」
「宜し、僕も一緒に行こう」博士の言葉に助手達も、一緒に行こうと云ったが、それでは却《かえ》って死体の男にみつけられる怖れがあるので、三人は其処《そこ》へ残し、兼松と博士だけそっと寝台からぬけ出した。――鼻を摘《つま》まれても分らぬ闇だった。跫音《あしおと》を忍ばせて廊下を右へ行き、まるで蟻の這うようにそろそろと、石の階段を一段ずつ地下室へと下りて行った、そしてようやく実験室の中へ入ることが出来た。
 其所《そこ》も電灯は消えていたが、例の箱室《ブース》には乾電池の電灯が仄暗く点《とも》っている。
「あ、あれを見給え」
 博士が指さすのを見ると、大手術台の円筒形|硝子《がらす》がめちゃめちゃに壊れて、明《あきら》かに死体の脱出した様を物語っている。
「井上の姿が見えん」
「箱室《ブース》の中じゃありませんか」
 二人は其方《そっち》へ走って行った。乾電池ランプに照された箱室《ブース》の床の上に、井上助手の血まみれの死体が横《よこた》わっていた。
「――死んでます」
「なんという無惨なことを……」
 博士は暗然と声をのんだ。兼松はその死体を見た刹那、火のような復讐心をかき立てられた。――この近くに見えないとすると、殺人鬼は下村助手の云ったように、いま金庫を破壊しようとしているに違いない。
「博士、お部屋は何処《どこ》ですか」
「図書室の隣だが、どうするんだ」
「僕は奴と一騎討ちをやります」
「待て、君は殺されるぞ」
 博士が押止《おしとど》めようとした時、兼松春夫は箱室《ブース》の中から乾電池ランプを取外して来て、階段の方へと大股に進んだ、――とその刹那、上の方に当って、
 だん! だんだん※[#感嘆符二つ、1-8-75]
 と銃声が起り、
「きゃーッ」
 凄じい悲鳴が四辺《あたり》に反響して聞えた。
「あっ、又やった」
 兼松の走る後から、博士も続いて階段を駈けあがった。すると廊下へ出たところで、若林と下村の二人に会った。
「どうした」
「太田が殺《や》られました先生、早く図書室へ逃げましょう」
 下村助手がそう云って、みんなを引摺るように、図書室の中へ走り込み、扉《ドア》へぴんと鍵をおろした。――兼松はランプを点けて、
「奴は何処《どこ》から来たんですか」
「分りません」
 下村が唇を震わしながら答えた。
「僕たちは闇の中で話をしていたんです、そして誰かが椅子《いす》に躓《つまず》いて大きな音を立てましたそのとたんに誰か入って来たようなので――僕が逃げろって云ったんです」
「僕たちは夢中で廊下へ逃出《にげだ》しました、すると後から拳銃《ピストル》を射たれて、太田が倒されて了《しま》ったのです」
「奴の姿を見ましたか」
「否《いい》え。……なにしろ恐ろしいので――」

[#3字下げ]恐ろしき解決[#「恐ろしき解決」は中見出し]

 四人は石のように黙した。――この深夜の闇の何処《どこ》かを、死から甦えった恐るべき殺人鬼は、拳銃《ピストル》を手にしてうろつき廻っているのである。……廊下で午前二時を報ずる時計の音がした。――毎日聞き慣れた音なのに、今はまるで地獄の呼声《よびごえ》のように思われる。兼松は思出《おもいだ》したように、
「博士、金庫を検《しら》べてみましょう」
「そうだ、忘れていた。――下村君、その机の抽斗《ひきだし》から鍵束を取って呉れ給え」
「は、――」
 下村助手は、書棚の脇にある博士の書物|卓子《テーブル》から、小さな鍵束を取出して来たが、恐怖のために上ずっていたのか、ふとそれを床へ取落した。そのガチャンという微かな音にさえ、みんなは恟《ぎょっ》として振返った。下村助手は慌てて身を跼《かが》めながら拾いあげた、……とその瞬間、なにを見たか兼松春夫は眼を大きく瞠《みひら》きながら、
「あ、その――」
 と云いかけたが、鍵を受取った博士が扉《ドア》の方へ行くので、黙って跟《つ》いて行った。
 図書室との間の扉《ドア》を鍵で明けて、博士の部屋へ入ってみると、乾電池ランプこ照された室内は乱雑に掻廻《かきまわ》してあり、壁際に置かれた大型金庫の扉《ドア》は明いたままになっていた。
「矢張《やは》りやられた」
 博士は急いで中を検《あらた》めたが、絶望したように呻声《うめきごえ》をあげた。
「研究費五千円、実験用の白金線二万円、みんな盗まれている、なんと云う奴だ」
「博士、少し黙っていて下さい」
 兼松春夫が腕組をしながら云った。
「どうしたんだ」
「いま考えている事があるんです、――もう少し考えれば纏《まとま》りますから、暫くそっとしていて下さい」
「考えるって、何を考えるんだ?」
 博士は審《いぶか》しそうに見やった。然し兼松春夫は返事もせずに、深く腕組をして凝乎《じっ》と何か考込《かんがえこ》んでいた。――やがて彼の眼が段々に強く光り出して来たと思うと、
「そうか、そうだったのか」と底力のある声で呟《つぶや》いた。
「どうしたんだ兼松君」
「博士、――此方《こっち》へ来て下さい、そして僕がどんな事をしても驚かないと約束して下さい」
「何か訳があるんだな?」
「僕は殺された井上太田両君のために復讐するんです!」
 決然と云い切って、兼松春夫は図書室の方へ戻った。――そこには若林と下村が不安そうに立っている。兼松は大股に入って行きながら、快活な調子で、
「下村君、死体の男をみつけたよ」と云った。
「え※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」
 下村助手が驚いて振返った。
「ど、何処《どこ》に?」
「此処《ここ》にさ、この部屋にいるんだ!」
 兼松の言葉に博士をはじめ二人の助手が愕然と色を変えた。その刹那だった。兼松の体が礫《つぶて》のように跳躍したと思うと、だっ[#「だっ」に傍点]と下村助手へ烈しい体当りをくれた。
「あ、何をする!」
 叫びながら、下村助手は後にあった椅子もろとも仰《のけ》ざまに倒れた。跳込《とびこ》んだ兼松が、上からのしかかる、と下村は体を躱《かわ》して下からはね上げた。兼松は卓子《テーブル》を押倒して、壁際までだだっとよろめいたが、屈せず、猛然と襲いかかって行った。凄じい格闘が展開し、書棚の書物がだあっ[#「だあっ」に傍点]と二人の上へ崩落《くずれお》ちた。とたんに、がん[#「がん」に傍点]※[#感嘆符二つ、1-8-75] と耳を聾する銃声。
「あ、畜生!」
 兼松春夫の呻きにつれて、ごつん[#「ごつん」に傍点]と無気味な音がした。もう一度。――そして恐ろしい格闘は静まった。
「兼松君、――兼松君……」
 意外な出来事に、茫然としていた博士が、我にかえったように呼びたてると、崩落ちた書物をはねのけながら、ぬっと兼松春夫が起上がった。
「どうしたんだ、訳を話し給え」
「――是を御覧下さい」
 拳銃《ピストル》で射たれたのだろう、肩を血で染めた兼松は、そう云って気絶している下村助手の上衣《うわぎ》を引めくって見せた、――見よ、上衣《うわぎ》の下には、黒い透明ゴムの寛衣《ガウン》が覗いている、あの殺人鬼の死体に着せてあった寛衣《ガウン》が……。
「や、是は――?」
「あの死体から剥取《はぎと》って着たのですよ」
 博士の顔からさっと血気《ちのけ》が去った。――兼松春夫はにっこり笑いながら説明した。
「みんな下村の仕業《しわざ》です。此奴《こいつ》は金庫の中にある二万円の白金線と現金五千円が欲しかったのです。それで当直の井上君を殺し、手術台を破って死骸を取出したうえ、この寛衣《ガウン》を着て金庫の中の物を盗出《ぬすみだ》したんです。――そして如何《いか》にも死体が生返って犯罪を犯したように見せるため、態々《わざわざ》僕に姿を見せた訳です。そうして置いて上衣《うわぎ》を着込み、博士の寝室へやって来ました。あの時彼は――応援を頼みに行くから窓から出して呉れと云ったでしょう、彼は外へ出て盗んだ物を隠す積《つも》りだったのです。御覧なさい……|隠し《ポケット》の中に、ほら」
 兼松春夫がそう云ってズボンの|隠し《ポケット》を引出すと、中から羊皮紙に包んだ白金線と、五千円の札束が現われた。
「意外だ、実に意外だ」
「さっき彼が鍵束を出して来た時、若しあれを落さなかったら、僕にもまだ分らなかったでしょう、――彼が拾おうとして跼《かが》んだ時、矜首のところから下に着ている寛衣《ガウン》がちらと見えたのです。それで僕は凡べての事を推察したんですよ、……博士、お気毒《きのどく》ですが貴下《あなた》の実験は失敗でした。地下室を探して下さい、何処《どこ》かに殺人鬼の死体が隠してあるでしょう」
「恐ろしい、――恐ろしい事だ……」
 博士は絶望的に椅子へ身を投出《なげだ》して云った。
「生あるものは死す、是は神の掟だった。この神聖に反逆しようとした僕、神の冒涜《ぼうとく》者たる僕に……是が神の与え給うた罰かも知れぬ。死があるために生きることは尊く、輝かしいものなのだ。――兼松君、僕はこの研究を今日限り打切《うちき》ることこするよ」
 兼松春夫は、虔《つつま》しく一揖《いちゆう》した。――恐怖の夜は斯《か》くして終った。



底本:「山本周五郎探偵小説全集 第三巻 怪奇探偵小説」作品社
   2007(平成19)年12月15日第1刷発行
底本の親本:「新少年」
   1937(昭和12)年8月
初出:「新少年」
   1937(昭和12)年8月
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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