解─unlock─ ◆LuuKRM2PEg
『ワーッハッハッハッハッハッハ!! ワーッハッハッハッハハハハ…………フハハハハハハハハ……』
異様なまでに甲高い笑い声を響かせながら空中のホログラムは消失して、三度目の放送が終わった。
第三回放送が終わった直後、
結城丈二は表情を顰めている。普段は冷静沈着な結城と言えど、義憤が湧きあがっていた。
今回の放送を務めたのは、闇生物
ゴハットと名乗った男。ダークザイドを自称しながら変身したのだから、
黒岩省吾と同じように人間の生命エネルギー・ラームを狙う怪物だろう。シャンゼリオンに変身する
涼村暁の宿敵ということになる。
ゴハットは
サラマンダー男爵や
ニードルの時とは違って、まるでTV番組の司会を務めるような態度で放送を行い、犠牲者達の名前を呼んだ。その中には、信頼している仲間達や
涼邑零にとっての仇も含まれている。
一文字隼人。村雨良。
相羽タカヤ。西条凪。泉京水。
大道克己。
モロトフ。
バラゴ。彼ら以外の知らない参加者の名前だって、ゴハットはふざけた態度で読み上げた。そんなことをされて許せるわけがない。
『あのゴハットって野郎……俺達を舐めているのか!?』
そして、ソルテッカマン1号機改を操縦している零も同じのようだった。ロボットの中から、怒号と共に鉄を殴りつけるような鈍い音が響く。
怒りを燃やしても無理はなかった。彼は家族同然だったシルヴァをこの殺し合いで失ってしまい、その元凶である主催者は他者の死を冒涜するような態度を取っている。ゴハットも厳密には参加者の一人かもしれないが、今の零には関係ない。
きっと、バラゴと戦っている時のように激情で表情を歪ませているかもしれなかった。
「涼邑……」
『……悪い、結城さん。カッとなって』
結城が呼びかけた瞬間、ソルテッカマンの向こう側からは震えるような声が聞こえている。
己が感情的になってしまったことを、零も自覚しているようだ。やはり、若くして魔戒騎士となって多くのホラーを倒してきたのだから、かなり強靭な精神力を誇っているのだろう。瞬時に怒りを抑えるのは造作もないのかもしれない。
だけど、結城は零の感情を咎めるつもりはなかった。
「いや、あんな態度で死人の名前を呼ばれてしまっては、怒るのは当然だ。俺自身、ゴハットに怒りを覚えている……一文字と村雨の死を笑われているのだから」
『結城さん……』
「サラマンダーやニードルの時も、俺は憤りを覚えていた。殺し合いを開いた主催者に……そして、人々を守れなかった俺自身に」
『それは、俺だって同じだ。俺も、シルヴァを守ることができなかった……今まで、多くのホラーを倒してきたのにさ。あのゴハットって奴を見ていたら、そんな俺達を笑われているような気がするよ』
「奴が何を考えて、あの放送を行ったのかはわからない。今はまだ怒る時ではないだろう」
『ああ。わかっているよ』
やはり、今更説明するまでもなかった。零は歴戦の勇士なのだから、この程度のことはわかりきっていたのだろう。
冴島鋼牙と出会えてよかった。彼が零を縛りつけている復讐という名前の鎖を切り裂いてくれたのだ。幸いにも、そんな彼はまだ生きていることが証明されている。鋼牙や後輩の
沖一也と再び巡り会える可能性が残っているのだから、希望は残っていた。
(村雨……君は何を考えて、最期を迎えた? 君は、誰かを守って死んだのか?)
不意に、結城の脳裏に村雨良の姿が浮かび上がる。
主催者達は彼が心を失った時期から連れて来ていた。しかし、それでも村雨からは無意味に殺戮を行う雰囲気は感じられない。仮面ライダーになることを拒んでいただけで、本質的には何も変わらないかもしれなかった。
だからきっと、最期は誰かのことを救えたのだと信じたかった。
村雨だけではない。一文字だって、あの
本郷猛と共に多くの怪人から人間を救った仮面ライダーだ。どんなに強大な相手だろうとも、決して諦めずに戦い抜いてきた。他の誰かの為に、命を燃やし尽くしたのかもしれない。
その場に居合わせていないので、彼らは最期に何を想ったのかは知らない。だが、彼らが自分達に望んでいることは、全ての人間を守ること……それだけは確信できた。
散っていった仲間達を想いながら夜空を見上げる。漆黒の夜空に輝く綺麗な星達は、まるで魂のように思えてしまった。
そんなことを考えていると、突然ソルテッカマンのハッチが開いて、中から零が姿を現す。彼の表情は、やけに真剣味を帯びていた。
「涼邑、どうかしたのか? 急に飛び出してきて」
「結城さん。ちょっと話があるけど、いいか? 凄く、大事な話だと思っている」
「大事な話?」
「ああ……バラゴの名前が呼ばれたってことは、きっと鋼牙が倒したはずだ。そうでないと、鋼牙の名前が呼ばれないなんてあり得ないからな」
「……その可能性は確かにあるだろう。私としても、彼が倒したと信じたい。それが、大事な話なのか?」
「いいや、違う」
零は首を横に振る。
そんな態度に、結城は怪訝な表情を浮かべた。
「鋼牙は人間を守るという魔戒騎士の使命を果たす為に、命を賭けて戦って勝った……本当なら、俺も命を賭けなければいけなかった」
「それはそうだが、君はその場に居合わせていなかったのだから仕方ないのではないか? 自分を責めたって意味はないぞ」
「わかっている……でも、あいつが命を賭けたのに俺は何もしないのはおかしいだろ? だから、俺も命を賭けなければいけないと思う」
「命を賭ける……?」
「そうだ……だから、結城さんに頼みがある。俺の首輪を解体してくれ」
そして、零は強く宣言する。その言葉を聞いた瞬間、結城は驚愕の余りに目を見開いてしまう。
彼の口からこんな言葉が出てくるとは、頭脳明晰な結城だって予想していなかったからだ。
「涼邑の首輪を、解体するだと?」
「ああ。結城さんは放送前に言っていたよな。この殺し合いで使われている首輪は、例え解体されようとしても、五分以内ならば爆発はしないって……それはつまり、首輪解体もゲームの一環として想定されているってことだよな?」
「可能性があるだけで、絶対とは言い切れない……だが、ゴハットは俺達の行動について何の警告もしてこなかった。本当に止めるべきならば、放送で俺達のことを話したりするだろう」
尤も、警告だけならばまだ生易しい部類だ。最悪のケースとして、見せしめとして自分達二人を爆死させて、その光景を全参加者に映し出すことだってあり得る。そうすることで、殺し合いの打倒を絶対に不可能だと確定させる為に。
しかし、先程の放送ではそんな素振りは微塵も見られなかった。これでは、二度目の放送で行われたニードルの発言と矛盾してしまう。もしや、それすらも真の主催者に見せつける為のパフォーマンスなのではないか? どれだけ考えても、答えは出てこない。
だが、今はそれを解き明かす手掛かりがない為、保留にするしかなかった。
「……しかし、だからといっていきなり首輪を解体するなど危険すぎる。五分というタイムリミットであの首輪を解体できるかはわからないし、それに解体自体はまだ一度しか行っていないぞ。そんな条件で本番など、無謀にも程がある」
「それはわかっている。でも、こうしている間にも加頭やゴハット達が笑っている……そんなの、許せないだろ!」
「その気持ちは俺だって同じだ。本当なら、今すぐにでも取りかかりたい」
「なら、早く……!」
「駄目だ。君の命を賭けに使える程、俺は愚かではない……どうか、わかってくれ」
「だけど……!」
静かに告げるが、零は引き下がってくれない。
零の気持ちは痛いほど理解できた。こんな人の尊厳を踏み躙るような首輪がなければ、どれだけの命が失わずに済んだのかわからない。実際に首輪の爆発で死んでしまった参加者がいるとは限らないが、命を握られているという恐怖で冷静さを失った者はいるはず。
あの
東せつなと言う少女だってそうだ。タカヤや京水がいたおかげで平常だったが、心の中には恐怖が住み着いていたかもしれない。いくらプリキュアとはいえ元は女子中学生なのだから、こんな過酷な環境に適応できるとも思えなかった。
仮面ライダーとして人間の自由を守りたいと思うなら、そんな恐怖から解放させなければならない。どこかで誰かが、生きた人間の首輪を解体しなければならなかった。
しかし、今はまだ首輪の内部構造とタイムリミットを把握しただけに過ぎない。数えきれないほどのパーツを、どの順番で外せばゴールに辿り着けるのかが全くわからなかった。
これでは、経験が不足しているのに手術を行うようなものだ。やるのであれば、他の首輪を五分以内に解体できるようになるべきだが、手元には一つしかない。それを時間以内に解体できなければ、零の首輪に手を付けるべきではなかった。
(他の首輪……?)
そこまで考えて、結城は思いつく。
これまで、解体する為の首輪はどうやって入手したか。死体となった他の参加者を見つけたからだ。
森の中で出会った
石堀光彦は、この村では一文字が
三影英介を倒したと言っている。先程は首輪の解体と主催陣営の考案ばかりに意識を集中させていたが、考えてみたらここには三影の遺体があった。それを見つければ、首輪がもう一つ入手できるのではないか。
「結城さん?」
零の言葉が耳に届いて、結城はハッと意識を覚醒させる。
どうやら、いつの間にか思案に耽ってしまったようだ。会話の最中にこうなっては、零に失礼だ。
「すまない、涼邑。少し、考え事をしていた」
「いや、大丈夫だけど……やっぱり、無理なのか?」
「無理ではない。今の段階では難しいだけ……と思ったが、可能性はまだあるだろう」
「可能性?」
「ああ。ちょっと、ついて来てくれないか? 気になることがあるからな」
「別にいいけど、あのパワードスーツは必要か?」
「それは君に任せる。尤も、今回はそこまで時間をかけるつもりはないが」
「なら、ここに置いておくか……見た所、村には俺達の他には誰もいないし」
ソルテッカマン1号機を放置することを選んで、零は頷く。
そんな彼を先導するように結城は村の中を歩む。この辺りは広い範囲で焼け焦げていて、大火事でもあったのだと錯覚してしまう。
そんなことを考えながら足を進めていると、この惨劇を起こした張本人と思われる男の遺体を見つけた。BADANの怪人・タイガーロイドに変身する元FBI捜査官……三影英介を。
「ここにいたか、三影……」
結城は呼びかけるが、当然ながら三影は何も答えない。
その肉体には見るも無残な傷が多く刻まれていて、そこから多数の機械や電子コードがむき出しになっている。こうなっては、いくら結城といえども処置の施しようがなかった。
だが、結城は三影を助ける気など始めからない。これまで多くの人間を殺めた男を救う為に力と知識を得た訳ではないからだ。
「結城さん。こっちにも、死体があるぞ……」
零の呼びかけに結城は振り向く。
見ると、零は体制を低くしながら黒い塊を凝視している。その物体が何であるのかを判別することはできなかったが、銀色の輪が付けられているのを見て、人の焼死体だと気付いた。
結城は反射的に表情を顰めてしまう。やはり、この世界でもタイガーロイドは人を殺していたのだ。
「なあ、結城さん。もしかして、三影って男の仕業なのか? こいつも、さっきの男を殺したのも」
「その可能性は高い。奴だったら、これくらいのことは造作もなくできるだろう……」
結城はそう口にしている一方で、腑に落ちない点もある。
何故、男の時だけはわざわざ頭だけを吹き飛ばしたのか? 首輪を目当てに殺害したのだとしても、三影は回収していない。犯人を自分だと特定させない為に、わざと首だけを焼失させた……この説も考えたが、そんな回りくどい方法を取る男ではないだろう。
もしかしたら、男を殺害した犯人は別にいるのではないか? 何者かが男を殺した後、三影によって吹き飛ばされてしまった。あるいは、三影と手を組んで男の殺害に成功したが、その後に裏切られてしまったのか。
真実はわからない。そもそも、ここにいる黒焦げになった死体だって男の命を奪った犯人とも限らない。殺人犯は村から逃亡して、今もどこかで暗躍している可能性だってある。無論、これまでの放送で呼ばれてしまった可能性もあるが。
だが、答えは何であろうとも、今はこの死体を埋葬しなければならない。こんな殺し合いの不条理な犠牲者なのだから、せめて弔うのが生き残った者達の義務だ。
結城はライダーマンのヘルメットを取り出して、大きく叫んだ。
「ヤアッ!」
その言葉に反応して、変身が始まる。結城丈二の姿は、数秒もかからずに仮面ライダー4号・ライダーマンへと変わっていた。
すぐにアタッチメントをパワーアームに付け変えて、死体の首を一閃して頭部を落とす。前は零の手を汚させてしまったのだから、今度は自分がやるのが筋だ。彼の剣は、本当なら人の血を吸う為にあるのではないのだから。
首輪は二つも手に入ったが、喜べる訳がない。いくら脱出の道に繋がったとしても、その為に尊厳を踏み躙ってしまったのだから。
これ以上、この死体を晒す訳にはいかない。そう思った結城は、瞬時にアタッチメントを付け変える。
「ドリルアーム!」
その掛け声と共に、ドリルアームは勢いよく唸りをあげた。高速回転する腕を地面に突き刺すと、ガリガリと轟音を鳴らしながら穴を開ける。
それから腕を器用に動かすことで、大人が入れるくらいのサイズになった。そこまでの時間は一分もない。
全てが終わった後、ライダーマンは焼死体となった
園咲冴子をゆっくりと穴の中に入れる。頭部も、少しでも元の形になるように添えながら。
それを終えてから、零と共に土をかける。量は多いが、大の男が二人もいれば時間はかからなかった。
大地に眠った死体に、二人は黙祷を捧げる。どうか、争いのない世界で生まれ変われると信じながら。
それを終えてから、二人はソルテッカマンの元に戻る。ここで出来ることは何もなかった。
三影の遺体を埋葬することはできない。彼の身体を構成している機械は、土の力で分解されることはなかった。機械を眠らせるには溶鉱炉で溶かすしかないが、そんな物が殺し合いの会場にあるとは思えない。故に、残念ながら放置するしかなかった。
◆
涼邑零は翠屋のホールに備え付けられた椅子に座りながら、時計を眺めている。あの放送が行われてから、まだそこまで時間は経過していない。
あのゴハットと名乗ったダークザイドの放送は、思い返すだけでも腸が煮えくりかえる。シルヴァが砕かれる場面もふざけた態度で見ていたかもしれないということを考えると、気分が悪くなった。
あんな奴を喜ばせる為に戦った訳ではない。ふざけた奴の見世物になりたくて、これまで鍛えた訳ではなかった。
何も知らないくせに笑うなと、ゴハットに怒鳴りたくなる。
「シルヴァ、あんな奴に笑われてムカつくよな。でも、お前の仇は俺が必ず取る……そして、お前のことも元に戻してやるからな」
しかし零はその感情を表に出さないで、掌にあるシルヴァの破片に告げた。
憎しみに囚われないで戦って欲しい。シルヴァと鋼牙はそう言ったのだから、零はそれを守るつもりだ。思えば、バラゴとの戦いだって、憎しみに任せたせいでシルヴァを失ったのかもしれない。
家族を奪ったバラゴはもういない。それを知った時、零の中で芽生えたのは虚脱感でも怒りでもなく……憎しみから解放してくれた鋼牙の姿だった。
きっと、あれから鋼牙はバラゴを見つけて倒したのだろう。本当なら鋼牙と一緒に戦いたかったが、こればかりは仕方がない。また、鋼牙と再会した時に話せばいいだけだ。
(結城さん……どうか、頑張ってくれ)
そして零はここにいない結城丈二の身を案じる。
彼は今、首輪の解体作業をしている最中だ。実際に参加者の首輪を外せるよう、五分以内に全ての手順を把握しなければならないと言う条件が付いている。それをクリアしない限り、零の首輪も解体しないと言っていた。
それは当然だろう。彼だったら、何の準備もなしに危険な橋を渡るようなことをしない。ましてや、自分だけではなく他人の命もかかっているのだから、念入りな準備が必要だった。
彼が別室に入ってから、既に三分が経過している。いつもはあっという間に過ぎてしまう時間だが、今回ばかりは止まって欲しかった。一分過ぎてしまう度に、成功の可能性が低くなってしまうと感じてしまう。
零だって結城の手助けをしたいが、機械工学に関する知識は全くない。だから、結城の力を信じて待つしかできなかった。
期待と不安が入り乱れる中、近くの扉が開いてライダーマンが姿を現す。その手には、複数の鉄屑やコードが握られていた。
「結城さん! 成功したのか!?」
「ああ……時間はかかったが、どうにか成功した」
マスクから露出している口元からは笑みが見える。それを見て、零もまた表情を明るくした。
結城が首輪の解除に成功した。それだけでも、殺し合いを打倒して他の参加者を救う一歩になるからだ。
功労者であるライダーマンの手には、小さな器具が握られている。それは放送前、彼が制限の要になっていると語った装置だった。
「この装置が気になって重点的に調べてみると、道具さえあれば割と容易に外すことができた。だが、その前に爆弾へと繋がっている二つの線を切断する必要があるが」
そう語るライダーマンは、長方形の器具と切られたコードをテーブルに置く。その次に、注射器のような小さな機械が備えられた。
「それは?」
「先程の解体の時には爆発で見つけられなかったが、奇妙な薬が入っている注射器を見つけた。恐らく、これはある特定の参加者に向けて用意されたのかもしれない」
「スプーン一杯の量もなさそうなのに、そんな効き目があるの?」
「毒を甘く見ない方がいいぞ。例え僅かな接種量でも、生命の危険に冒されてしまうケースは数えきれない。それにデストロンやBADANだって、そんな毒は簡単に作れるはずだ」
「なるほど。で、これは誰に向けた猛毒なのかな?」
「恐らく、泉京水や大道克己のような死者蘇生の技術を用いられた者達だろう……彼らのような存在なら、例え首を吹き飛ばされても身体が動くかもしれない。だが、そうさせない為に、首輪が起動すると同時に繋ぎ目から液体が噴き出して、肉体を強制的に破壊するのだろう。尤も、これが正しいという保証はどこにもないが」
「でも、その真相は闇の中か……」
零はライダーマンの仮説に、そう返答する。
薬の効果を確かめるとしても、既に大道克己と泉京水は死んでいるので不可能だ。また、仮に生きていたとしても実際に試すことなどできない。克己はともかく、京水に対してやろうとしたら確実に止められるはずだった。
だけど、この仮説も頭に入れておくべきだろう。知識とはいくらあっても困るものではないし、もしかしたら後で役に立つかもしれないからだ。
「それで、結城さん……これなら、俺の首輪に取りかかっても大丈夫じゃないのか?」
「ああ。だが、本当ならもっと回数を重ねてからの方が望ましい。たった二回の練習だけでは、俺も成功できるかはわからない」
「大丈夫だ。俺は結城さんを信じているぜ……それに、いつかは誰かがやらないといけないなら、早い方がいい。だから、俺の命はあんたに預けるよ」
「そうか……なら、俺も覚悟を決めなければならないな」
ライダーマンはフッと笑う。
だが、すぐに笑みは消える。口以外は見えないが、真摯な表情になったということだろう。
「わかっていると思うが、途中で暴れたりするなよ……」
「そんなの当たり前だって。俺をガキ扱いしないでくれよ」
「それもそうだな……では、始めるとしよう」
そして、ライダーマンはオペレーションアームを首輪に添えて解体を始めた。
この時ばかりは零も緊張が走る。ホラーとは違って、今回は得体の知れない機械なのだから自分の力でどうにもならない。重い病気を治す為に、病院で手術を受けるようなものだ。
あまり意味はないかもしれないが、少しでも作業をしやすくなるように顎を上げる。すると、首と首輪の間にオペレーションアームを挿しこんだ。息苦しいが、首輪の裏を解体する為だから我慢をする。
不意に、壁に掛けられた時計に目を向ける。これから五分間、自分の手には及ばない所で生死を賭けた戦いが始まる。全てはライダーマンにかかっていた。
カチャリ、カチャリ、という機械をいじくり回す音が耳に響く。それを聞く度に、ライダーマンが命を守る為に戦ってきたのだと改めて実感した。生きる世界が違うだけで、仮面ライダーも魔戒騎士もテッカマンもシャンゼリオンもプリキュアも、みんな人々の為に命を捧げている。涼村暁の場合はそんな信念があるとは限らないけど、誰かの命を守ってきたのは確かだろう。
相羽タカヤも誰かを守る為に戦い、戦場で散ったのか? あの胡散臭い泉京水というオッサンも、そんなタカヤの力になる為に戦って最期を迎えたのか? この目で見られなかっただけに、余計に気になってしまう。
(相羽タカヤ、それに変なオッサン……いや、泉京水。俺はあんた達の分まで戦う。俺は銀牙騎士絶狼……牙狼と同じように陰我を断ち切る者だからな)
この地で出会った男達に向けて、零はそう心の中で告げた。
闇あるところに光はある。長きに渡って文明を発達させてきた人間達は、歴史の裏でホラーの脅威に怯えていた。その脅威を打ち砕く為に、魔戒騎士や魔戒法師達がいる。騎士達が剣を向ける相手は、この殺し合いで死と絶望を齎す者達だ。
もしも、初めて出会った時に剣を向けなければ、彼らは死なずに済んだのだろうか? 京水は元の世界では人々を襲っていたとはいえ、この場では殺し合いを打ち破ろうとしていたし、結城だって歩み寄ろうとしていた。仮定の話をいくら考えても意味はないし、後悔するのは性に合わない。あの二人だって、そんなことは望んでいないはずだ。
亡くなった者達の想いを受け継いで、零は主催者への戦意を更に燃やす。その時だった。パカリ、という気の抜けるような音が響くと同時に、首の圧迫感から解放されたのは。
それに気が付いた零は、ライダーマンが首輪の残骸と思われる機械をその手に持っているのを見た。
「……成功したぞ、涼邑」
「結城さん……やったんだな!」
「ああ。これも全て、お前の決意のおかげだ……ありがとう」
「礼を言うのは俺の方だ。こんな息苦しい物からやっと解放されたからな」
零とライダーマンは互いに称え合う。二人の内、どちらかでもいなかったら首輪解除は不可能だった。
もう一度、時計を見てみると時間はまだそんなに経っていない。ほんの数分という短さだったが、今回ばかりは異様なまでに長く感じられた。
こうして見ると余りにも呆気ない。これでは、見せしめにされた男達や首輪をさせられたまま死んだ参加者達は、何の為に犠牲になったのかと思ってしまう。彼らの無念を忘れてはならなかった。
「じゃあ、後は結城さんだな」
「そうだな。だが、私の場合は自分で自分の首輪を解体するのだから、これまでより難易度は遥かに上がる……だから、少し時間が必要だ」
「時間? タイムリミットは五分じゃないのか?」
「そうだ。ただ、本番の前にもう一度だけ練習をさせて欲しい。首輪はまだ一つだけあるのだから」
「了解。結城さんが必要と思うのなら、そうすればいい」
「それともう一つ言っておく……もしも失敗してしまったら後を頼む。首輪の構造や俺の考案を、沖一也に教えてやってくれ」
いつの間にかライダーマンの口元から笑みが消えている。
彼はこれから、己の命を賭けようとしているのだ。失敗は許されず、一度進んだらもう後戻りはできない。医者が自分で自分の身体を手術するようなものだ。
だから、あらゆる可能性を想定して対策を立てなければならない。万が一、失敗をしてしまっては水の泡になってしまう。それを考えた上で、ライダーマンは頼んでいるのだろう。
その気持ちは零にだってわかる。ライダーマンは首輪を解除してくれた恩人だし、零もそれを感謝している。
「……悪いけどお断りだ。結城さんはまだまだやるべきことがあるはずだから、勝手に死ぬのは許さない。結城さんは命の恩人だけど、流石にこればっかりは聞けないな」
だからこそ、ライダーマンの提案を受け入れることはできなかった。
「絶対に成功させてくれ。それを約束しないなら、俺はあんたの頼みを聞かないぜ?」
「……そうか。考えてたら、君がこんな頼みを素直に聞く訳がないな。だったら尚更、俺は死ぬ訳にはいかない……俺がいなかったら、みんなを救えないからな」
「当たり前じゃないか。あんたがいなかったら、沖って奴が一人で頑張らないといけなくなるぜ?」
「君の言う通りだ……でも、俺だって簡単に死ぬつもりはない。それだけはわかってくれ」
「当然だよ。結城さん……いや、ライダーマン」
「ああ。では、また会おう……涼邑」
そう言い残して、ライダーマンは奥の部屋に向かった。このホールには鏡がないから、ある場所で行うのだろう。ここには、他に機械工学の技術を持つ人間などいないのだから仕方がない。
彼の為にできるのは、邪魔をしないように見張りをすることだ。もしも、危険人物がどこかに潜んでいたら全てが台無しにされてしまう。この殺し合いを打ち破る希望の一人である結城は絶対に死なせる訳にはいかなかった。
(結城さん……絶対に、勝ってくれ。あんたならできるはずだから)
ここにはいないライダーマン……結城丈二の無事を祈りながら、涼邑零は待ち続けた。
◆
「いよいよ、この時が来たようだな」
ふう、と呼吸を整えながら、ライダーマンはある部屋に備え付けられた鏡の前に座っている。
すぐ近くにある小さなテーブルの上には、三影英介から確保した首輪の残骸が散らばっていた。数を重ねたおかげなのか、分解をするのに二分もかかっていない。また、連続で首輪を解体したにも関わらずしてペナルティもない。やはり、この首輪は解体されることを前提として殺し合いに組み込まれた可能性が高かった。
涼邑零の首輪を解体しても、何の問題も起こっていない。やはり、五分というタイムリミットさえクリアすれば殺されることはないのだろう。それがわかっただけでも心強い。
(失敗は絶対に許されない……ここで私が倒れたりしたら全ては台無しだ。鏡で左右が反転するのだから、意識を集中させなければならないな……)
ライダーマンは、これから自分で自分の首輪を解除する。それは、他人の首輪を解体するよりも難しかった。
自分の首元を確認するには鏡を使うしかない。鏡を見ながらの作業だと、両手を直接の目で見ることができないので、いつも以上に慎重な動きが必要だ。それに裏側だって、零の時以上に解体が困難だろう。たった一つのミスが崩壊に繋がってしまうのだ。
いくらオペレーションアームがあるとはいえ、それは解除の難易度が下がることに繋がらない。首の裏も把握できるように他の部屋から持ってきた鏡を設置しているが、それでも油断はできなかった。
本当なら、他の技術者と再会した時にやるのが望ましい。だが、一文字の提案が予想以上に広まっていたら、沖一也を含めた参加者の大半は市街地に向かうだろう。もしも、そこで技術者たちが何らかのトラブルに巻き込まれていたら、首輪の解体どころではない。それだけなまだいいが、死亡という最悪のケースだって充分にあり得た。
そうなったら、自分が最後の技術者という可能性だってあるだろう。考えたくはないが、自分で自分の首輪を外すことだって避けられない。ならば、早い内から取りかかるべきだ。
市街地に向かうとしても、今からでは時間がかかりすぎる。時空魔法陣だって、使えるまでまだ数時間も必要だった。
(涼邑、私は絶対に成功させてみせる……だから、君も頼んだぞ)
涼邑零の言葉を思い返す。
絶対に死ぬのは許さないと彼は言った。命を救った相手だからこそ、死んで欲しくないと願ったのだろう。自分だって、逆の立場だったら絶対にそう思うのだから。
無論、ライダーマンとて死ぬつもりはない。どれだけ強大な敵が待ち構えていようとも、それを倒すのが仮面ライダーの使命だからだ。
オペレーションアームを首輪の裏側に添えてみる。数ミリ程度の隙間だが、アームの先端はギリギリ入った。
「よし……行くか!」
自らにそう言い聞かせながら、ライダーマンは首輪の解除を行った……
◆
「結城さん……無事だったんだな!」
「ああ。自分で自分の首輪を解除するのは難しいと思っていたが、やはり経験を重ねたおかげで成功できた。心配させてしまったな」
「成功したなら、それで充分だろ?」
涼邑零の前には、結城丈二が立っている。その首には、既に忌々しい首輪は存在しない。これは彼が首輪解除に成功したことを証明していた。
とにかく、これで少なくとも首輪による爆死はさけられた。それに首輪を解除しても、まだ首輪がもう一つだけ残っているので放送を聞くことができる。
「さて、結城さん。これからどうする? あの時空魔法陣って奴が使えるようになるまで、まだ大分時間がありそうだけど」
「そうだな……私としては他の参加者を捜したいが、この周辺にはいないだろう。ならば、村を調べるしかないだろうな。もしかしたら、まだどこかに隠された設備があるかもしれない」
「了解……時間は結構あるし、そっちを優先させるか」
時計の針はようやく7時を過ぎたばかりだ。時空魔法陣が使えるようになるまで、まだ時間はたっぷりある。あれだけ長く感じられた首輪の解体だって、客観的には短時間なのだ。
首輪を解体した二人には何の罰則もない。普通なら対策をしてきてもおかしくないが、こうして命を繋げたことすらも真の主催者はゲームとして眺めている。そんな傲慢な奴は絶対に後悔させなければ気が済まない。
「そうだ。結城さん、ソウルメタルを使ってみるか?」
零は魔戒剣を結城に差し出す。
「ソウルメタル自体に何らかの細工がされたか、それとも首輪がソウルメタルを使えるようにしたか……これで、ハッキリするはずだ」
「ああ、やってみよう」
そうして頷いた結城は魔戒剣を手に取り、軽々と引き抜いた。
魔戒騎士ではない者が二度も引き抜いたことに驚愕したが、予想はできなくもなかった。既にこの島では奇天烈な出来事が何度も起こっているのだから、結城がまた扱えたとしてもおかしくない。
「……なるほど。やはり、この首輪ではなくソウルメタルそのものに制限がかけられているようだな。あるいは、この世界全体に結界があるか……」
「要するに、首輪とソウルメタルには関係ないってことでいいのかな?」
「その可能性は高い。涼邑、長い修練を積んだからこそソウルメタルが扱えると言ったな……なら、やはり主催者は特殊な道具だろうと自在に細工ができるのだろう。だとしたら、これは少しばかり厄介だな」
「厄介って、何が?」
「奴らが特別な力で守られている道具の性質を変えられるとするなら、俺達が変身に使う装備や力にも何らかの改竄を施しているかもしれない……もしそうだとするのなら、俺達が変身して戦っていたとしても、奴らは自分の意思でいつでもそれを無効化できるはずだ」
「何!? じゃあ、仮に俺達があいつらの本拠地に乗り込んだとしても……」
「生身での戦いを強いられる可能性だって、あるだろう」
表情を曇らせている結城の口から出てきた言葉に、零もまた表情を顰めてしまう。
これは仮説にすぎないだろう。だが、もしもそれが本当だったら、真の主催者との戦いで力が使えない危険があった。
希望を掴めると思って最後の戦いに赴こうとしたら、その途端に待っているのは一方的に嬲り殺しにされる絶望……考えれば考えるほど、反吐が出てしまう。
「……この会場のどこかに制限を司る装置があればいいが、都合良くはいかないだろうな。いくらゲームとはいえ、奴らがそんな隙を見せるとも限らない」
「確かに……でも今は、時間が来るまでこの辺りを探してみようぜ」
「そうだな」
そう語り合いながら、今後の行動方針を決めた涼邑零と結城丈二は翠屋の外に向かった。
【一日目/夜】
【C-1/翠屋付近】
【備考】
※ソルテッカマン1号機改(+ニードルガン)@宇宙の騎士テッカマンブレード(ザボーガーと名付けています) は翠屋前に置かれています。
※園咲冴子の遺体は埋葬されました。
※首輪の中には細胞分解に使われると思われる液体が含まれています。
【結城丈二@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:ライダーマンヘルメット、カセットアーム
[道具]:支給品一式、カセットアーム用アタッチメント六本(パワーアーム、マシンガンアーム、ロープアーム、オペレーションアーム、ドリルアーム、ネットアーム) 、首輪のパーツ(カバーや制限装置、各コードなど(
パンスト太郎、三影英介、園咲冴子、結城丈二、涼邑零))、首輪の構造を描いたA4用紙数枚(一部の結城の考察が書いてあるかもしれません)
[零の道具](ソルテッカマン装着中の零が持てないために持ってあげてます):支給品一式、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー、速水の首輪、調達した工具(解除には使えそうもありません)
[思考]
基本:この殺し合いを止め、加頭を倒す。
0:時空魔法陣が使える時間まで、零と共に村の捜索を続ける。
1:殺し合いに乗っていない者を保護する
2:沖と合流する。ただし18時までに市街地へ戻るのは厳しいと考えている。
3:加頭についての情報を集める
4:異世界の技術を持つ技術者と時間操作の術を持つ人物に接触したい。
5:石堀たちとはまた合流したい。
6:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
7:時間操作の術を持つ参加者からタイムパラドックスについて話を聞きたい
8:ダブルドライバーの持ち主と接触し、地球の本棚について伝える。
[備考]
※参戦時期は12巻~13巻の間、風見の救援に高地へ向かっている最中になります。
※この殺し合いには、バダンが絡んでいる可能性もあると見ています。
※加頭の発言から、この会場には「時間を止める能力者」をはじめとする、人知を超えた能力の持ち主が複数人いると考えています。
※NEVER、砂漠の使徒、テッカマン、外道衆は、何らかの称号・部隊名だと推測しています。
※ソウルジェムは、ライダーでいうベルトの様なものではないかと推測しています。
※首輪を解除するには、オペレーションアームだけでは不十分と判断しています。
何か他の道具か、または条件かを揃える事で、解体が可能になると考えています。
※NEVERやテッカマンの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
※首輪には確実に良世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※零から魔戒騎士についての説明を詳しく受けました。
※首輪を解除した場合、ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。 →だんだん真偽が曖昧に。
※彼にとっての現在のソウルメタルの重さは、「普通の剣よりやや重い」です。感情の一時的な高ぶりなどでは、もっと軽く扱えるかもしれません。
※村雨良の参戦時期を知りました。ただし、現在彼を仮面ライダーにすることに対して強い執着はありません(仮面ライダー以外の戦士の存在を知ったため)。
※時空魔法陣の管理権限の対象者となりました。
※首輪は解除されました。
※変身に使うアイテムや能力に何らかの細工がされていて、主催者は自分の意思で変身者の変身を解除できるのではないかと考えています。
【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:健康、首輪解除
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:シルヴァの残骸
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止め、元の世界に戻りシルヴァを復元する。
0:時空魔法陣が使える時間まで、結城と共に村の捜索を続ける。
1:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
2:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
3:結城に対する更なる信頼感。
4:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
5:涼村暁とはまた会ってみたい。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。→だんだん真偽が曖昧に。
また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。
※時空魔法陣の管理権限の準対象者となりました。
※首輪は解除されました。
※バラゴは鋼牙が倒したのだと考えています。
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最終更新:2014年04月09日 16:16