冒険者の物語 ◆gry038wOvE




 ダークプリキュアは、鋼牙とのわずかばかりの交戦の後、森の中を彷徨い、一つの戦いの終わりを見つけた。
 キュアブロッサム、仮面ライダーエターナル、それから見た事もない戦士が共闘し、ある怪物──警察署で聞いた特徴から考えれば、おそらく血祭ドウコク──を吹き飛ばす瞬間だ。
 ダークプリキュアは、驚くほどに冷静にその終わりを見つめていた。

(キュアブロッサム、それに仮面ライダーエターナル……なぜ共闘している……?)

 エターナルとクウガの二人によるキックはあまりに強力であった。だが、どうしても疑問は沸いてしまう。
 キュアブロッサムはともかく、仮面ライダーエターナルは本来殺し合いに乗る者のはず──いや。
 仮面ライダーエターナルには、ダークプリキュア自身も変身したではないか。
 となると、このエターナルは、かつてダークプリキュアが会ったエターナルとは全くの別人という事もありえる。

(なるほど……)

 ダークプリキュアは、あの進化を見届けた。
 いずれ、パペティアーメモリを使う事になるかもしれない相手だ。強力な戦士を手ごまにして利用し、その力を利用して殺し合いの覇者となる。あの進化を引き出さなければならない。
 ダークプリキュアは、跳躍する。
 殺し合いの覇者となるために相応しい力を見せてやろうと、ダークプリキュアは、三人の前に姿を現した。

「ダークプリキュア……!」

 キュアブロッサムが、いきなり驚いたようにこちらを見つめる。
 クウガのビートチェイサーは動きを止め、エターナルもまた動きを止めた。

「久しぶりだな、キュアブロッサム」

 今、用があるのはキュアブロッサムではない。プリキュアは意図的に避けているが、利用する相手としてはこの上ないと知っている。
 エターナルでもない。エターナルの強さは知ったうえで、自分より格下の相手だと理解している。
 ダークプリキュアが問題としているのは、仮面ライダークウガ。
 クウガを操り、その力を引き出すのである。

「……あなたは」

 ブロッサムが、前に出る。エターナルが警戒する。クウガがマシンから降りる。
 相手は警戒した様子を見せているが、ダークプリキュアは決して、すぐには殺しに来る気はない。
 クウガの情報は、ダークプリキュアは警察署で得ていなかったのである。
 またプリキュアを利用してそこに溶け込み、パペティアーメモリでチームを崩壊させようとしていた。

「今は戦うつもりはない。少し話を聞かせてくれ」

 ダークプリキュアは、できる限り穏やかにそう言う。
 言葉の端々に刺々しさは隠せない。利用する相手なのだから、精一杯穏やかにやろうとしていたが、ダークプリキュア本来の性格は消し去れなかった。

「……つぼみ、こいつ一応敵なんだろ? 何か隠している装備があるかもしれねえ。ガイアメモリとか……」

 エターナルに図星をつかれる。
 エターナルはガイアメモリを使う戦士だ。良牙はそれに変身したばかりである。だから、ガイアメモリに反応したのか。まあ良いだろう。
 相手は所詮この人数。すぐに解散させればいいのだから、迂闊に嘘をつくよりは、ガイアメモリを見せた方がいい。

「……私が持っているのはこの二本のメモリだけだ。ただ、これをお前たちに預ける気はない。私にもこのメモリは必要なものだ……」

 ヒートメモリとパペティアーメモリ。二つのメモリを翳す。
 身体検査などをされたらそれこそ没収されてしまう。あらかじめメモリの存在を語っておいても問題ないだろう。キュアブロッサムは殺害対象ではないし、残る仮面ライダークウガとエターナルで潰し合わせるくらいならば、隙はできるだろう。
 警察署ではそんな事をする暇はなかったが、ここでは問題ないと判断した。頑として渡さない事だってできる。

「……だが、それを君のもとに置いておくことは……」

 しかし。
 クウガがそう言いかけた途端、ダークプリキュアと三人の間に、突如として爆発が起こった。
 来客。何者かが、ここに現れ、彼らに挑戦状を叩き付けたのである。






 サイクロン号は走る。カブトムシの怪人を乗せてただ走る。
 ガドルは山を、下る。己の騎馬に手さえ添えず、両手で銃を構える。
 鋭敏な感覚は、眼前の敵を狙う。新たなるクウガへの挑戦状を送り付ける為に。
 敵の数メートル前。そこにこのガドルボウガンを当て、相手の動きを封じ、挑戦する。

「フンッ!!」

 ガドルボウガンの先から空気弾が放たれる。
 流鏑馬の如く、騎馬の上から放たれた射撃体の一撃は、彼らとダークプリキュアの間の地面へと落ちる。眼前で強烈な空気圧による地面の爆発が起こる。
 風向きにかかわらず正面に進む、超感覚で放たれた射撃。もはや百発百中のレベルだった。
 不意打ちする事もできるが、それは面白くない。あくまでこれは威嚇の射撃だ。相手の動きを封じ、こちらに注目させるための壁である。
 無論、そこにいる誰もが、動きを止めた。

「今度はなんだ、いったい……」

 エターナルが言う。
 その間にも、サイクロン号は山を走り、斜面を下る。ガドルは、そのサイクロン号のグリップを握って加速する。
 加速していくサイクロン号から、ガドルは飛び上がる。走行するサイクロン号は真っ直ぐに走っていき、急な斜面に耐え切れず、クラッシュする。側面を山の斜面に削らせながら、山を下り、荒地にサイクロン号が空しい音を立てて崩れていった。
 キュアブロッサムと仮面ライダーエターナル、仮面ライダークウガは、突如として後方から聞こえた音に振り向いた。ダークプリキュアには、突然入った邪魔者の姿が見えていた。
 そこには、月光の下、山の真上から一体の怪物がムササビのように手を広げて落ちてくる姿があった。

 ドシン。

 重い音が鳴り、人は言葉を無くした。彼らの目の前、十メートルの距離。
 禿げた大地に現れた新たなる刺客──ゴ・ガドル・バ。
 その邪悪な瞳に、そこにいる全員は、圧された。
 今の着地で感じた敵の重量感、そして力強さ。登場だけで場を凍らせるほどの強敵。

「46号……だと!!」

 カブトムシの異形に、仮面ライダークウガは反応する。
 彼は見た事がある。未確認生命体第46号。五代が変身した仮面ライダークウガを、一度打ち負かした怪人だ。西多摩警察署で男性職員108名を惨殺した、堂々の悪魔である。一条もかつて、生身でこの怪物と戦った。
 神経断裂弾を何発も放ち、一度は息の根を止めたと思った。だが、それさえ、このグロンギの怪人には無意味であった。数分の昏睡に終わり、この怪物は生存した。別種のグロンギを何人も葬ったあの弾丸を、だ。
 おそらく、究極の闇を齎す者──ン・ダグバ・ゼバの次に強いグロンギである。

「……ゴレ ゾ ゾン バ デ ヨブ ザ キガラ!(俺をその名で呼ぶ貴様は!)」

 ガドルも、確信した。
 グロンギをこのように呼ぶのは、リントの戦士(警察)のみだ。
 ロンギ族は未確認生命体としてその通し番号をつけられている。
 しかし、一般人で有名なのはせいぜい2号と4号くらいのもので、46号まで殆ど暗記し、一目見てその名前で呼ぶ事ができるのは、クウガである五代雄介か、リントの戦士たちくらいのものだろう。
 正確にそのナンバーを記憶し、一目見ただけでそれを認識できる相手。ガドルの知る限りでは一人。そして、この男はおそらく、その一人──

「イチジョウ──」

 リントの戦士、一条薫だと、確信した。
 しかし、その名で呼ぶのはたった一度だった。一条ではない、目の前の敵は、クウガだ。
 古代にガドルを封印し、現代でガドルを一度屠ったゲゲルの邪魔者──しかし、ガドルがその殺し合いを楽しめる稀有な相手。
 クウガ。

「タタバエ クウガ!(戦え、クウガ)」

 クウガの眼前に、ガドルボウガンが突き付けられる。
 ガドルボウガンは、鋭い矢を向けながら、いつでも発射できる準備に取り掛かっているようだった。
 しかし、すぐに打とうとはしない。

「……おい、二人とも! こいつ……!」

 エターナルが、ガドルの様子に何か気づいたのか、戦慄した様子であった。
 そこまで言ったところで、唾液をごくりと一飲みした。

「何を言ってるのか、……全然わからねえ」
「もう、そんな事言ってボケてる場合ですか! この人、敵なんですよ!?」

 キュアブロッサムはずっこけそうになったが、エターナルのボケに真摯な顔で突っ込んだ。

「わかってるよ! ……コイツの闘気、ケタ違いだ。ありえねえほど強い……」

 エターナルも、ガドルが持つ闘気が今までの敵と桁違いである事を察知している。ただ、言語がわからないのがちょっと辛かっただけだ。
 今眼前にいるガドルが放っているのは、ドウコクさえも超える圧倒的なまでの闘気だ。コイツは、戦いだけに生きて、容赦なく敵の首をかく戦鬼なのである。
 乱馬や良牙の持つ闘気の数倍。そこには殺気も交じって、更に強い力を感じさせる。
 日本語さえ喋れれば、その闘気の源を聞きたいところだが、残念だ。彼は外人らしい。

「わかるか。……貴様には」
「……って日本語喋れるのかよ!!!!」

 思わず、今度はエターナルがずっこけそうになった。

「フン」

 ガドルは、悠然としていた。まあ、せめて一言、良牙の言葉に感嘆して、リントの言葉で返したのみだ。
 ガドルが持つ“闘気”に気が付いた相手は珍しい。
 そして、良牙の持つ闘気の強さにも、ガドルは気づいていた。いずれ戦ってみたい相手だ。生身で戦っても相当強いに違いない。
 しかし、今のガドルの目的はあくまでクウガだ。彼は後でいいだろう。
 ガドルボウガンは、一瞬だけエターナルの方に向けられたが、再びクウガの前に向けられた。

「今は貴様らに用はない。用があるのはクウガだ」

 ガドルの眼中には、既にエターナルやキュアブロッサム、ダークプリキュアはない。

「そうは行くかよ。……お前が俺の敵なら、俺自身の手で自分を守る。……仮面ライダーとして」
「おい……!」

 エターナルは、己の持つT2ゾーンメモリをその手に持った。
 良牙は、この敵と戦うのに、相応の力が必要であるのを確信している。この身ひとつで戦うのも良いが、それでは到底敵わない相手なのではないだろうか。
 乱馬──あいつなら、あるいは──そう思ったところで、やはりやめる。
 戦いを楽しむのも良いが、コイツに負けてしまったら、仲間の命だって危ない。そんな時に楽しい戦いなんかできるはずはない。
 今は、格闘じゃない。殺し合いなのだ。

 ──Zone!!──

 エターナルの腰にあるマキシマムスロットにゾーンメモリが装填された。

「おい、折角だからメモリ借りるぜ」

 ──Zone Maximum Drive!!──

 電子音とともに、その場にあるガイアメモリがゾーンメモリの力で全て良牙の元に集結する。マキシマムドライブは使用者の体力を大きく消費するが、良牙の並外れた体力を前には、さほど大きなものではない。
 連続使用をすればかなり大きな負担はかかるだろうが、NEVERを以て、「タフ」と言わしめたほどである。
 それに、ゾーンメモリの力は肉体的な動作を伴わず、肉体の負担は他のマキシマムドライブよりも小さい。
 ゾーンの力によって、クウガやキュアブロッサムの持つ、いくつもT2ガイアメモリがエターナルの元へと転送される。






「なっ……!?」

 ダークプリキュアの手にあったT2ガイアメモリの一つ、パペティアーメモリや、デイパックの中に入れられていたはずのヒートメモリも──ゾーンメモリの力では集められる例外ではなかった。
 AtoZのT2ガイアメモリを全て集める事もできるのが本来のゾーンメモリのマキシマムドライブの力だが、制限によって、せいぜいその範囲は1エリア。敵の手からT2ガイアメモリを奪う事もできるが、知覚していないメモリは奪えない。
 怪しまれないために魅せたとはいえ、「知覚」はされてしまった。
 場合によっては、ここで勝者を見極め、勝者を操り、そのまま優勝に近づく気だっただろう。
 しかし、その野望は、思わぬ形で絶たれるのである。
 完全に隠しておけば、こうして敵の手に渡る事はなかったに違いない。

「くっ……! 何だと……!?」

 ダークプリキュアは、宙を飛んで自らの手から勝手に放たれていくガイアメモリを必死に両手で押さえつけようとしていた。これはパペティアーメモリだ。
 ヒートメモリは既にエターナルの元へと転送されている。
 しかし、このパペティアーメモリは渡すわけにはいかない。このメモリが勝利の鍵となるはずなのだ。ゆりの為、月影家の為の希望──ダークプリキュアにとって、パペティアーメモリはそれだけの価値のある物だった。

 だが──

「ぐあっ……!」

 メモリによる拒絶。ダークプリキュアの両手を、静電気のように弾くメモリ。
 パペティアーメモリは、エターナルの元へと転送されていく。
 目の前で、エターナルの手元にヒートメモリが、そしてパペティアーメモリが飛んでいく。

「くっ……何という事だ……!」

 希望が崩れ去り、これから己の身を使って、非効率な戦いを強いられる事を、ダークプリキュアは嘆いた。
 この戦いへの希望が絶たれるという事は、すなわち、月影一家もダークプリキュアも救いから遠ざかるという事であった。






 ゾーンのマキシマムドライブの力で、ウェザー、ルナ、メタル、ヒート、パペティアーの五つのメモリがエターナルの元に転送される。エターナルは、それを体中のマキシマムスロットではなく、手元に集めた。
 二十六本ものメモリのうち、良牙の手元に来たのは、この五本のみ。しかし、それで充分足りるほどであった。

「じゃあ、ちょっと貸してもらうぜ」

 五つ。ダークプリキュアのメモリもある。とにかく、その中から使えそうなメモリをエターナルは手に持った。
 真っ赤なメモリを握りしめる。

 ──Heat!!──
 ──Heat Maximum Drive!!──

 ヒートメモリをベルト脇のマキシマムスロットに装填し、エターナルの両腕の青い炎が紅蓮に燃える。
 ヒートメモリは熱き記憶を有するガイアメモリである。エターナルの攻撃に「熱」の力を付与する事ができるのだ。
 そして、両腕の青い炎が本当の炎に燃え盛る事になるのであった。このエネルギーを敵に叩き付ければ途方もないダメージを与える事ができるだろう。

「獅子灼熱咆哮弾!!」

 エターナルは、ヒートメモリのエネルギーをそのまま、獅子咆哮弾のエネルギーに組み合わせ、敵に向けて放つ。灼熱の獅子は、鬣を燃やしながら、ガドルの全身を噛み千切ろうと駆けだす。
 ガイアメモリの能力は伊達ではない。そのまま、ガドルの全身を焼き尽くす。

「グァッ……」

 ガドルは小さく呻きながらも、己の身を剛力体へと変化させる事で、その場で耐え抜く。膨大なエネルギーがガドルの元に流れ込んだが、全て剛力体の強固な肉体が弾き、ガドルのダメージは最低限に抑えられた。

「見ろよ、効いてるじゃねえか!」

 良牙の中に、少しの慢心が生まれる。
 つぼみや一条もまた、エターナルの力を知っていたから、ガドルに打ち勝つだけの力があるのではないかと期待していた。
 楽観視には違いないが、それも納得するだけの強さがある。エターナルレクイエム以外の技が使えるうえに、それが五種類。心強いというほかない。

「次はコイツだ!」

 続けて、エターナルはウェザーメモリを取り出した。
 ガドルが自分の想像以上にタフである事を理解し、連撃を試みたのだ。大丈夫、マキシマムドライブの負担などさほど大きなものではない。
 ガドルが反撃する間は与えない。銀のメモリを手にする。

 ──Weather!!──
 ──Weather Maximum Drive!!──

 ウェザーメモリをスロットに挿し込むと、音声とともにガドルの頭上に暗雲が立ちこみ、豪雨が降り注ぐ。
 ウェザーメモリは天気を操る。そのために生まれた暗雲だ。
 山の天気は変わりやすいとはよく言ったものだが、ガドルの頭上にだけに生まれた雲は、風と雨を巻き起こす。一人の人間の上に、大豪雨が生まれた。

「キュグキョブ ン ジャリ……!(究極の闇……!)」

 何かを思い出したのか、ガドルは頭上のどす黒い雲を見上げた。
 それは、そう──究極の闇が生み出す力にそっくりだ。
 プラズマを操り、炎や黒雲、豪雨を自在に生み出す。その異常ともいえるパワーは、ガドルも旧知である。
 敵がそれに値する力を持っている事に、驚かざるを得ない。
 もしや、究極を継ぐ者ではないかと、ガドルは一瞬、思った。

「だから、日本語話せるなら日本語話せよおおおおおおりゃあああああああ!!!」

 エターナルは、そんなガドルに飛びかかり、雷を帯びた右の拳で叩き付ける。
 電撃の右腕は、ガドルの胸部に到達し、更に強い雷のエネルギーでショートする。
 ガドルの全身を濡らしている雨水から、その雷のパワーは両足両手の先まで伝っていった。それはガドルの全身を発光させ、全身からピリピリと音を立たせる。
 夜だというのに、彼の周囲数メートルはまるで快晴の昼間のように明るかった。

「ウグゥゥゥゥッ!!」

 その一撃を胸で受け止めながら、ガドルは獣のように慟哭する。
 しかし、両手を広げ、宙を掬うように拳を握って大の字になったガドルは、まるで眼前のエネルギーをその全身で受けんばかりであった。
 エターナルの攻撃を好機と思ってか、ガドルは内心で笑った。

「フハハ……」

 笑いは、その瞬間、声となって外に出た。
 笑み──?
 なぜ、この瞬間、敵は笑ったのだろう。良牙も、つぼみも、疑問に思ったに違いない。
 そして、その疑問を一瞬だけ頭に浮かべた後、一条は答えを出してしまった──。
 己が忘れていた事。

「……そうか! 駄目だ! 響君……!」

 そう、グロンギの敵に雷の技は禁じ手だ。
 エターナルの強さを前に、勝利をおおよそ確信してしまっていたのが敗因だ。
 電撃。雷。電気。──それは、彼らにとって、一瞬のダメージに過ぎない。
 五代が何度も受けた電気ショック、そしてガドルがそれに対抗するべく体に備えた武器。

「そいつは、クウガと同じ霊石を体に秘めている……電気の力を吸収して強くなるんだ!!」

 そう、グロンギの持つ霊石はクウガの持つ者と酷似しているというデータが既に椿の手によって明かされている。
 クウガの力は、霊石が電気ショックを受けた事によって強化されたのである。
 それならば──まさか、敵も同じではないのか。
 46号は、ライジングフォームのように電撃を使って戦う事ができた。……まさか、敵はそれを知っていたのではないだろうか。

「何……!?」

 エターナルは、その事について知らなかった。
 ゆえに、雷を使って、敵に強化のための架け橋を作り出してしまった。

「ウグルァァァァァァァッ!!!」

 しかし、それを知ったところでもう遅い。ガドルは、己の力が更に強い物となる喜びに身をゆだね、その力のごく一部を使って、エターナルを弾き返した。
 咆哮をとともに、膨大なエネルギーが周囲を吹き飛ばす。

「ウグルアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァッ!!!!」

 エターナルの姿が数メートル遠くへと弾かれ、木に背をぶつけて、落ちた。
 そして、ガドルの持つその余りのエネルギーに耐えられなくなったのか、エターナルの変身が解かれた。
 地面に落ちた良牙のもとにキュアブロッサムが駆けよる。
 咆哮が鳴りやむ。

「……手遅れか!」
「くそ……!」

 良牙は、起き上がれなくなった。体に残留していたダメージ、マキシマムドライブの負担、今の攻撃による衝撃、──そして何より、この圧倒的な威圧感と、己の失態。それが、良牙の体を起こす力を打ち消すようだった。
 ……自分の攻撃が、敵にダメージを与えるどころか強化してしまったというのか。
 何度とないフォトンランサーファランクスシフトによって強化された体が、更にウェザーのマキシマムドライブの力でガドルのベルトに力を注いだ。その結果が、ガドルの更なるパワーアップ。
 一条自身が禁忌の技を止めなかった責任であり、これまでフェイトや良牙が安易に電撃技をガドルに飲み込ませてしまった応酬でもある。
 ライジングフォームを超えた電撃体。それを超える力があるとすれば──

「くっ……!」

 良牙の顔が曇る。
 キュアブロッサムが固唾を飲む。
 仮面ライダークウガが、顔を顰める。
 ダークプリキュアさえ、その波動に絶望する。



「……ラタ チバヅギタ ビ キュグキョグ(また究極に近づいた)」



 ゴ・ガドル・バの胸部は発光し、瞳の色が黒く変色する。
 赤い瞳は、クウガのマイティフォームに対応する格闘体。
 青い瞳は、クウガのドラゴンフォームに対応する俊敏体。
 碧の瞳は、クウガのペガサスフォームに対応する射撃体。
 紫の瞳は、クウガのタイタンフォームに対応する剛力体。
 金の瞳は、クウガのライジングフォームに対応する電撃体。
 ならば、黒の瞳は──



「ゴゼパ! ザバギ ン バシグラ! ゴ・ガドル・バ────キョグデンタギ ザ!」
(俺は! 破壊のカリスマ! ゴ・ガドル・バ────驚天体だ!)



 驚天動地──まさしくその言葉に相応しかった。
 アメイジングマイティフォームに相当する新たなる力──ガドル・驚天体の全身から雷が鳴り響いた。






 ダークプリキュアの眼前で、進化しているガドルの姿。
 その覇気を、ダークプリキュアは全身で感じていた。
 足が震える。心臓が高鳴る。唾を飲む。
 強者──いや、王者。
 現れただけで風が舞い、砂埃が波打つほどの圧倒的なエネルギーがダークプリキュアを襲う。

(くっ……勝てるはずがない……!)

 あれは強敵という次元ではない。
 いや、あれはもう、これまでダークプリキュアがこれまで使ってきたような意味の「敵」じゃない。
 対等に戦えるような相手ではないのだ。あれは、いわば「狩人」。戦いという土俵にさえ立てないような相手である。

(最後の希望は、絶たれた……! 奴の勝利だ……!)

 パペティアーメモリも奪われた今、ダークプリキュアは戦略的撤退を試みるしかなかったのである。
 ダークプリキュアはもう、撤退するしかない。クウガにしか興味のないガドルは、ダークプリキュアが背を向けて逃げている事に気づいても、追う様子はなかった。
 ……そして、気づけば──ダークプリキュアは、元いた場所へと帰るべく、慌てて森を駆けていた。キュアブロッサムたちを監視している場合ではない。
 更なる闇。これまでの比ではない、最低最悪の闇。
 ダークプリキュアもその誕生の恐怖を全身で感じていた。

(エターナルめ、余計な事をしてくれた……!)

 パペティアーメモリの効力さえ知っていれば、エターナルがそれを使って敵を操り戦う事だってできたかもしれない。そもそも、ゾーンのマキシマムドライブを使いさえしなければ、ダークプリキュア自身が戦っていただろう。

(また奴のせいで、クソ……! どうやって奴を倒せばいい……! 今の私に……!)

 あのガドルの強化は、ダークプリキュアの誇りや自信さえも打ち破るほどだ。
 事実、今のダークプリキュアはどんな手を使ってでも、優勝し、この殺し合いの頂点に立つために奮闘しようとしていたから、正攻法で勝てない相手を操り殺すという手段も使おうとしていた。
 ただ、その正攻法で勝てない相手が存在しているのは、あくまで自分の体が弱っているからだ。万全ならば、キュアームーンライトがいない今、正攻法で勝ち進められるとダークプリキュア自身も思っていた。

 だが。

 ガドルのオーラを見ればわかる。あんな圧倒的なパワーを有した相手は、少なくともダークプリキュアの中では、初めてだ。
 彼が倒せるか? ──ダークプリキュアが、万全だったとして。
 否。それは、おそらく確実。そして、倒す手段──いや、屈服させる手段だったのが、パペティアーメモリだ。確かに強い相手だが、パペティアーの力でガドルを使えば殺し合いに優勝する事も難しくなかっただろう。

 その希望も打ち砕かれた。

「ダークプリキュア!」

 その逃亡が始まってすぐの段階で、ダークプリキュアの名前が呼ばれた。
 何? ダークプリキュアは、顔を上げた。顔を上げた……という事は、自分自身が今、全く俯いた状態だった事を現している。まさか、自分が俯いているとは思わなかった。
 目の前に、知っている顔があった。それから、知らない顔も一つ。
 後方にも敵。前方にも敵。どうやら、別々の敵に挟み込まれたらしい。

「……キュアサンシャイン……!」

 ダークプリキュアの目の前に、現れたのは、キュアサンシャインだ。
 警察署で分かれたはずだったが、ここで再び追ってきたらしい。
 キュアサンシャインが追ってくるのは当然として、もう一人の戦士が何者なのか、ダークプリキュアにはわからなかったが、おそらくその「半分半分に分かれた戦士」というデータから、それが仮面ライダーダブル──左翔太郎だろうと察した。
 警察署で得たデータもところどころ、役には立つようだ。

「見つけたよ、ダークプリキュア」
「……その瞳、私に挑もうという目だな」
「そうだね。当たりだよ。僕は君に挑ませてもらう」

 キュアサンシャインは、強がるように笑った。
 しかしながら、ダークプリキュアの目は、そんなキュアサンシャインに応えようとはしなかった。脱力したように、その体を動かしている。

「……キュアサンシャイン。無駄だ。私たちはもう、この殺し合いを勝つ事はできない」

 ダークプリキュアは、辛い表情で言った。見たところ、死への絶望という感じではなかった。ダークプリキュアの体そのものが度重なる戦闘でかなり弱っている事も確かだが、あの自信に満ちたダークプリキュアが、しょげている。
 確かに、向こうから、先ほど光が挙がり、なんだかわからない奇妙な恐ろしさがキュアサンシャインたちを襲った一瞬があった。

「……何だって?」

 仮面ライダーダブルが言った。ダークプリキュアは、かなり弱気だ。
 敵ながら、もう戦意を喪失しているように見える。ダブルには、ダークプリキュアが希望をなくし、怯えているように見えた。

「お前たちも知っているだろう? 奴はカブトムシの怪人、ゴ・ガドル・バだ……。奴が、新たなる力を得た。もう希望も何もない……! 終わりだ……! ゆりも、もう……!」

 敵に情報をばらまくのも、もう構わない。今は、とにかく一刻も早くガドルから逃げたい気持ちでいっぱいだ。ダークプリキュアに勝機などない。
 ゆりももう、蘇らないと考えて良い。……いや、それどころか、ダークプリキュアの命ももう、危ういといったところか。
 ガドルは強すぎる。それがよくわかった。奴は、キュアムーンライトよりもはるかに強い力を持っている。あそこにいるキュアブロッサムや仮面ライダーエターナルももう、死んでいるかもしれない。

「ゆりさん……?」

 ふと、キュアサンシャインは、そうオウム返しした後に、疑問に思った。
 ダークプリキュアは、月影ゆりを、「ゆり」と呼んだ。しかし、彼女は、月影ゆりを「キュアムーンライト」として見ている。彼女が、そんな事を言うはずがない。
 彼女がそう呼んだからには、わけがある。

「ガドル……!? 最悪じゃねえか!」

 ダブルが言った。ガドルとは面識がある。フェイトやユーノ、霧彦を葬ったカブトムシの怪人だ。ダグバに並ぶ最低最悪の敵だと、翔太郎は言える。そして、そいつが更にパワーアップしたと……そんな最悪の情報が、翔太郎の耳に入ってきた。

『彼女の言う通り、無理だ、翔太郎……。出直そう……。きっと、今の僕たちでは彼には勝てない』

 フィリップも、ダブルドライバーの向こうで、絶望を感じている事だろう。ガドルの強さは、フィリップもよく知っている。
 それが更なる力を得た。この距離で悪寒を感じるほどだ。
 だが、しかし。翔太郎は、訊く。

「おい、ダークプリキュア。ガドルの他には、誰か向こうにいるのか?」
「……三人いる。キュアブロッサムと、仮面ライダーエターナルと、それからもう一人だ。……全員、ガドルと戦っている」

 自暴自棄に近いが、持っている情報は明かしても不都合がないので、正直にダブルに明かした。ダブルもおそらく、エターナルを知っている事だろうし、ブロッサムとサンシャインは知り合いだ。

「エターナル……?」

 エターナルというと、大道克己だろうか──翔太郎とフィリップは思う。しかし、彼は死んでいる。
 ロストドライバーを使って、別の変身者がエターナルに変身しているのだろうか。

「ブロッサムが、いるの……?」
「ああ。……だが、もうやられているかもしれないな……」

 花咲つぼみは、月影ゆりの友人だ。ダークプリキュアとしても、生きていて欲しい。だから、プリキュアを殺すのは意図的に避けたのである。
 プリキュアの奇跡が、ゆりを蘇らせる事ができるのなら、それをゆりに分けてほしい。
 しかしながら、ガドルに敗北すれば、そこにあるのは死だ。奇跡など起こす暇もない。

「……チッ、何だか知らねえが、行くぞフィリップ。あのマッチョメンをぶっ倒す」

 この翔太郎の言葉には、流石にフィリップも絶句する。
 ダークプリキュアもまた、同じだった。だが、ダークプリキュアは、絶句しても尚、ダブルに悪態をついた。

「……やめておけ。奴には勝てん。知り合いがいるのかもしれないが、諦めるのが得策だ」

 ガドルを前にしたダークプリキュアの恐怖たるや、生半可なものではなかった。
 しかし、そんな言葉がダブルの、いや、翔太郎の耳を通る事はなかった。

「……おい、ダークプリキュア。一つ言っておく。俺は知り合いがいるから行くんじゃない。俺たちは仮面ライダーだ! 泣いている人がいるなら、絶対に助ける。困ってる人がいるなら、手を差し伸べる。危機が迫るのならこの身でその危機を振り払う……それが、俺たちだ。たとえ負けるとしても、俺はそこにいる誰かを救うための努力をする!」

 フェイトやユーノのような犠牲をこれ以上出すわけにはいかない。
 キュアブロッサムや、新しい仮面ライダーエターナルの変身者も助けるべきだと、翔太郎も思っているところだった。

「……何だと?」

 ダークプリキュアは、ダブルの一言に、苛立ちさえ覚えた。
 ダブルが、こうして正義の味方のような事を解いた時、それがダークプリキュアの沸点となった。……エターナルやスーパー1のような仮面ライダーと出会い、その度に感じていたストレスが、どこかにあった。
 この時は、自暴自棄で何を言うのも嫌だった心が、解き放たれた。

「ゆりを殺したのも、私から希望を奪ったのも、貴様ら仮面ライダーだ!! 仮面ライダーのために、私の……私の、ゆりはっ!!」

 ゆりを殺し、ダークプリキュアを一度でも悲しませ、そして──その望みがあるうちならまだしも、ゆりの命を諦めた今──仮面ライダーにしか、その怒りをぶつける矛先はなかった。それはいわゆる、八つ当たりに違いなかった。
 キュアサンシャインが黙って、ダークプリキュアの言葉を飲み込んだ。

「…………お前が何を言おうが、俺は行く。そして、そいつがどんな奴だろうが、俺は俺の仮面ライダーを貫く。ただ……ダークプリキュア、そいつはきっと……仮面ライダーじゃないし、今のお前にもプリキュアの名前を冠する資格はねえ」
『ぼくからも一つ。君が殺した人間の家族もまた、君と同じ苦しみを抱えた事──君の罪は重いという事を伝えておこう。そこで絶望して立ち止まるのなら、俯いて自分の罪を数えているといい』

 仮面ライダーダブルにとって、ダークプリキュアはただここで出会った『明日を諦めた』そんな、死人のような悪人にすぎない。
 その言葉は耳を通さなかった。

「じゃ、俺は行くぜ。サンシャイン。……お前は、お前のやる事を果たしていいぜ。コイツは任せた。その代わり、ブロッサムの事は俺に任せろ」
『結局行く事になるのか……、まあ、仕方ないか。どうせ行くと思っていたよ。僕も仮面ライダーだ。最後まで付き合うよ、翔太郎』

 仮面ライダーダブルは、それだけ言うと背を向けて、山の真上に向かって駆け出した。
 厳しい一言だったが、アインハルトや源太を殺したのがダークプリキュアだと、確信しているダブル──特に翔太郎にとっては、切実な怒りが込められた一言だった。
 それでも尚、ダークプリキュアの罪を洗い流すか、それとも裁くのかは──その場に残したキュアサンシャイン──明堂院いつきに任せる事にした。

「くっ……」

 ダークプリキュアに、ダブルの背に向けた反論はない。
 だが、それでも胸の内にわだかまりはあった。
 ダークプリキュアは、砂漠の使徒だ。「他者を尊重する」という事を習っていない。自分勝手に他人を巻き込み、自分の好きなようにする。多少、相手の感情を理解できても、それはそれ。自分が全てである。
 ゆえに、アインハルトや源太の肉親などの話に共感する事もない。最初から、他者に感情移入する事などプログラムされずに生まれた生命なのだ。
 むしろ、アインハルトや源太は羨ましい。おそらく、二人には、生まれた時から家族がいるのだから。ダークプリキュアには、そんな物はなかった。普通の暮らしなどなかった。サバーク博士の命令で、キュアムーンライトを倒すために戦う。それだけが目的だった。

 しかし。

 今は時折、バグのように生まれる、命がなくなる事への不快感を払拭できなかった。
 ゆりが死んだ。でも、ゆりは、生き返らせる事ができる。だから、その生命の停止を一時は悲しんだが、やがて、その蘇生を夢見るようになってからは、割り切れた。一時的な生命の中断だと。
 えりかも死んだ。ゆりの友達らしい。もしかしたら、生き返らせる事ができるかもしれない。できなければ、それはそれでいい。ゆりが生き返れば、ダークプリキュアは「家族」を得られる。
 源太が死んだ。これは殺した。テンションが高く、妙に張りきった声の男が、もう喋らなくなり、海に消えていくのを見た。死ぬかもしれない体で立ち向かおうとする源太の姿に、罪悪感さえ、感じた。

「……ダークプリキュア。君はもしかして、ゆりさんを生き返らせるために……?」

 キュアサンシャインが、少しばかり感情を緩めた声で囁いた。優しいような、しかし怒っているような。感情が読み取れないからこそ、内面で何を思っているかがわかりにくい。
 ダークプリキュアは、答えなかった。
 答えなかったが、すぐに口を開いて、実質的な回答とも取れる言葉を、口に出した。

「……それももう終わりだ。何もかも。……私には、できなかった」
「……」
「戦わなくてもわかる。奴には勝てない。……もう私はボロボロだ。ただでさえ勝てそうにない相手に、立ち向かう事なんてできるはずがない。私にとって、希望だったガイアメモリも奪われた……」

 ダークプリキュアの立てた計画は狂った。
 キュアサンシャインは、ガイアメモリという単語を聞いて、フィリップの推理を思い出した。
 あの推理は正しかったのだ。ダークプリキュアは、ガイアメモリを使って、この殺し合いを勝ち残ろうとしていた。

「警察署でみんなを襲ったのも、君なの……?」
「……」

 ダークプリキュアは、もはやどうにでもなれという気分であった。答える気はなかったが、きっとキュアサンシャインはその態度で察したに違いない。

「……あなたは私の友達の命を、奪ったんだ。……私は……とても悲しかったよ。許せない」

 ダークプリキュアにとって、それは知った事ではないが、改めてその知り合いから言われると、何も言えなかった。
 ダークプリキュアが殺した人間にも、友はいた。目の前のプリキュアは、その死に悲しんでいるらしい。……ダークプリキュアが、ゆりの死に際に抱いたような感情だろうか。
 全く見知らぬ人間が抱く分には、ダークプリキュアも不快感は抱かなかったかもしれない。しかしながら、こうしてゆりの仲間が同じ感情を抱いているのは、不快感があった。

「……だけど」

 キュアサンシャインは拳を握った。

「私の友達の命を奪ってまで、あなたはゆりさんの命を蘇らせようとした。……それなのに、こんな形で諦めてしまう事が……、それが、私にはもっと許せない! それじゃあ、死んだ二人は何のために死んだの!? あなたのやっている事は間違っているけど、それさえ諦めるのなら……あなたは二人の死さえ、こんな形で無駄にする気だったの……!? それが、……許せないよ!!」

 二人。三人殺したはずのダークプリキュアは、その言葉に少しばかり違和感を感じたが、それどころではなかった。

「あなたは、誰かのために殺し合いに乗った。それは許されない事だよ。でも……勝てない相手がいるからって、人を殺してまでやろうとした事を放棄していいの!? これまでのあなたの行いだって、正しくはない。絶対に間違ってる! ……それでも、あなたがした事は……」

 感情的になったキュアサンシャインの言葉が、一度途切れる。
 キュアサンシャインは、怒気の混じった声を、一度後ろに下げた。

 そして、深く呼吸する。
 一度、心臓を落ちつけた後、あふれ出る感情を、別の形でダークプリキュアにぶつける事にした。

「……いや、言葉で教える事はできないかもしれない。戦おう、ダークプリキュア。
 私はあなたを止める。あなたが勝手に諦めて止まるんじゃない。
 ……僕は君を倒す。既に倒れている君じゃない。
 私はあなたを救う。でもそれは、救いようがないあなたじゃない。
 ……僕は希望を失った君を止めるんじゃない。君の持つ、間違った希望を止めるんだ!!」

 キュアサンシャインは、ダークプリキュアのしょげた瞳を睨んだ。
 その生気のない瞳に、常に自信と余裕を持って戦うダークプリキュアの力の片鱗はない。普段はあの姿が恐ろしく、人々を脅かしていた。それが今、こんな形で奪われていた。
 しかし、それが今、キュアサンシャインには許せないのはなぜだろう。
 アインハルトの命や源太の命を犠牲にするほど、ゆりの命を大事に思っていたなら、なぜこんな所で諦める?
 ここにあるのは、ダークプリキュアの本当の心じゃない。偽りの心をぶつけ合ったところで、本当に他人の心を救う事なんてできるはずがない。

「ダークプリキュア、……このキュアサンシャインが照らすのは、敵に怯えて、自分の信念を曲げるような心じゃない!!」

 ダークプリキュアは、屍のようになっていた瞳を、キュアサンシャインに向けた。
 その瞳は、キュアサンシャインを睨んでいた。
 確かに、キュアサンシャインを睨んでいた。

「……面白い」

 「面白い」──まだ、そんな言葉が出る余地が己の中にあった事に、ダークプリキュアは驚いたが、すぐに納得した。
 いつもの癖で言葉が出たのかと思ったが、どうやら違うらしい。
 何だか、目の前の相手に無性に腹が立った。
 それだけだ。
 それだけだが、ガドルに怯える心よりも強い感情が、今ダークプリキュアの中に上書きされたようだった。

「今更私を救うなどと……!」

 ダークプリキュアはここまで、三人の命を殺めている。
 高町ヴィヴィオ、アインハルト・ストラトス、梅盛源太──この人数の殺害を行ったダークプリキュアだ。よもや救いようがないと、ダークプリキュア自身も思っていた。
 しかしながら、そんなダークプリキュアに対して、今もなお──その罪を知りながら、救おうとする人間がいる。

 自分が犯した罪を理解し始めているからこそ、自分が許せず、ダークプリキュアを許そうとする敵が許せず。感情は複雑になっていく。
 「父性の獲得」、「プリキュアの打倒」、「アイデンティティの確保」──それしかない単調だった脳に、次々と書き込まれていった感情が、キュアサンシャインを前に、自分でも理解できないほどに湧き上がる。
 殺し合いに乗る。それでいい。それがダークプリキュアが望んだ生き方だ。

 ──プリキュアを倒す事こそ、元はといえばダークプリキュアの原点だ。かつて、確かこの辺りのエリアでキュアブロッサムと戦った時も、それを求めたのかもしれない。

 キュアサンシャインを倒す──そのための本能が疼いているのである。これが彼女の持つ確かな本能。

「貴様に私を倒す事ができるか? キュアサンシャイン……」
「……私は勝つ! 勝って、君の名前を呼ぶよ、ダークプリキュア」
「名前とは、正しくこの世に生まれた者にだけ与えられる。貴様らを倒すための人造生命として生まれた私は……言わば、花を枯らす雑草のようなモノ……。私に名前などない! ダークプリキュアで充分だ!」

 名前──それが当然のようにそこに在る自分。それを誇りに思うのなら、ダークプリキュアにも、分け与えなければならない。
 本当の名前は、ダークプリキュアにも必要なのだ。
 きっと、彼女だってそれを欲しがっている。だから、──だから、こんなに今の彼女は、声を震わせて反論しているのだ。



『それに……闇のプリキュアなんていう哀しい呼び名で呼ばないでちゃんと名前で呼んでください』

 高町なのはの──いつきより、遥か年下の少女の言葉を、キュアサンシャインはよく覚えている。彼女は死んでしまったが、彼女が求めた解答。それは、ダークプリキュアの救済だ。
 源太も、アインハルトもまた、生きていたなら……己の命を賭けて、ダークプリキュアを救おうとしただろう。源太は誰とでも仲良くなろうとする優しい人だ。アインハルトはあのなのはの友達なのだ。
 むしろ、彼女を許さずに救う事こそ、死んだ二人への侮辱。──そうなのだと、感じる。
 ダークプリキュアを生かし、この広い世界で──あるいは、光のプリキュアとして罪を償わせる事こそ、ダークプリキュアに必要な罰なのだ。
 罪は償える。キュアパッションだって、かつては敵だったのだ。

 名前がない孤独から、ダークプリキュアを解放しよう。
 なのはが教えてくれた事を、いつきが果たそう。

「さあ、始めよう……ダークプリキュア」

 キュアサンシャインが、ダークプリキュアを見て構えた。今すぐにでも目の前の敵に向けて駆けだす準備ができているようだった。
 ……しかし、ダークプリキュアはそんなキュアサンシャインの姿に物足りなささえ感じた。これではダメだ。これでは、戦いは始まらない。
 仕方がないので、一言言ってやる事にした。

「まだだ。……開始の合図がない。お前たちプリキュアは、己の名前を名乗ってから戦うんだろう?」

 それが開始の合図とは考えなかったが、いや、考えてみれば確かにそうだ。
 ダークプリキュアも面白い事を言う。

「おかしい事言うね、ダークプリキュア……。でも、確かに、必要だよね」

 キュアサンシャインは、初めて変身した時のポーズを思い出す。

「……陽の光浴びる一輪の花! キュアサンシャイン! またの名を、私立明堂学園生徒会長! 明堂院いつき! ダークプリキュア……あなたの心の闇、私の光で照らしてみせる!」

 キュアサンシャインの心も、明堂院いつきの心もひとつ。
 ダークプリキュアを救い────名前を、呼ぶ。そのために。






 良牙とつぼみと一条の目の前には、驚天体となったガドルがいる。尚、体に火花を散らして、しかしそれに動じないガドルの姿と、恐怖さえ感じるほどの怪物的なオーラに、そこにいる三人は息を飲んだ。
 最初に口を開いたのは、仮面ライダークウガ──一条薫だった。

「行け、二人とも」

 彼は、ゴ・ガドル・バを前に、どことなく冷淡な声でそう呟いた。
 否、冷淡というより、これからの戦いがどんなに過酷なものかを理解し、その恐怖をかみ殺しているような声だったのだろう。
 それが乾いて聞こえるのは仕方がない。

「ダークプリキュアはもう逃げた。彼女の判断は賢明だ。君たちも逃げた方がいい」

 彼の口からそんな言葉が出てくると思わなかった良牙とキュアブロッサムは、少し言葉を失ったが、言葉の意味を理解したところで、クウガに言い返した。

「行けって……オイ、そんなわけにもいくかよ」
「そうですよ! だって、今目の前にいる敵は……」

 良牙とキュアブロッサムは、自分も戦おうと構えている。
 しかし、クウガはそれぞれ二人の様子をちゃんと見ていた。キュアブロッサムはまだしも、変身が解除されるほどのダメージを負った良牙が戦えるだろうか。そんなはずはない。
 良牙は今、戦えるような状態ではないはずだ。

「この怪物は俺が倒す。……この怪物の目的はこの俺、そして五代が宿したこの力だ」

 良牙に戦わせるわけにはいかない。先ほどもそうだが、良牙がいくらタフネスとはいえ、一日に何戦もすれば当然だが疲労するし、ここしばらくで彼にかかった負担は小さなものではないだろう。
 それでも、良牙にも意地はある。いや、彼も早乙女乱馬と同じか。──意地だけで生きているような男だった。

「待てよ……。もしかして、俺がもう戦えないと思っていやがるのか……? 俺はまだ、コイツとろくに戦ってすらいないんだぜ……」

 良牙は、屍のように立ち上がり、エターナルメモリを取り出した。
 変身をしていないから戦えないのだと思ったのだろう。──良牙は、そう思って、それを鳴らす。姿を変え、装甲に身を包めば、きっと一条も認めてくれる。
 より強い力を。
 より強いエターナルを。望んで、彼は電子音を鳴らす。

──Eternal!!──

「変身!」

──Eternal!!──

 再び、良牙は仮面ライダーエターナルに変身するが、その息は切れ切れだった。

「見ろよ……変身してやったぜ」

 前のめりに立ちながら、ほとんど辛い全身を起こすようなものだった。その姿は、哀れとでも言うべきか。
 意地に対して、体の力が伴っていないようである。

「……駄目だ。今の君では、コイツには勝てない」
「こんな痛み……少し待てば消えるさ」
「……その少しの暇をくれる相手じゃない」

 こう言っている間にも、クウガは相手の瞳を睨んでいた。敵は、今は一応、待っている。
 ガドルの目的はあくまで、クウガ。他はオマケだが、あまり待たせれば、良牙も邪魔者の一人として殺すだろう。おそらくは、あくまでクウガのみを敵とするガドルならば、
 今の目的がクウガだからといって、それを倒したらどうなる……?
 勿論、死ぬつもりはないが、良牙は休ませるべきだし、この怪物との戦いには極力、他の人間を巻き込みたくなかった。

「……こんな奴を生み出したのは我々の世界の責任だ。同じ世界の人間として、決着をつける時が来たらしい」

 グロンギは、おそらく──遥か昔の人間たちだ。
 その人体構造が人間と全く同じという事は、一条自身もよく知っている。
 他の世界にグロンギがいるか否かは知らない。が、一条の世界には生まれてしまった。
 霊石が人の心を惑わせ、グロンギと呼ばれる怪物が野に放たれてしまったのだ。

 霊石の事を知っていた一条が、他所の世界の良牙に対して説明を怠ったがゆえに、ガドルは更なる力を得た。良牙の責任ではない。
 責任を果たすべきは、その世界の住人なのである。

「躊躇う必要はない。過ちを犯した者を見つけ出し、人を守るのが俺たち警察の仕事だ。これは我々の世界のが生み出した敵と、その世界の警察と仮面ライダーとの戦いだ。部外者の君たちを関わらせるわけにはいかない。……それに、仮面ライダークウガは必ず勝つ!」

 響良牙、花咲つぼみ。この二人には、逃げてもらう。その意思は、頑なだ。
 一条薫にもまた、強い意地と、意思がある。たとえ勝てないとしても、勝てるように見せる程度の迫力で、良牙たちを納得させるばかりの意地は、その胸にある。
 そして──

「五代も、俺も、こんな奴のために、これ以上誰かの笑顔が奪われるのを見たくない! この気持ちは同じだ! だから、あいつは……あいつは一人で戦い続けた。だが、今は一人じゃない……!」

 ガドルに殺害された西多摩警察署の108人も、ここでガドルと戦った戦士たちも、きっと辛かっただろう、痛かっただろう、怖かっただろう。彼らは笑顔を奪われたに違いない。家族がある者もいた。その家族も泣いている。
 だが、その苦しみをこれ以上、誰かに味あわせるわけにはいかない。味あわせたくない。
 突如として世界に現れた理不尽──そんなグロンギたちのために、これ以上誰かの笑顔を奪わせるわけにはいかないのだ。
 そして、警察の人間として、一条薫はこのガドルを仕留めなければならない。
 たとえ、それが暴力であったとしても。
 この拳が、人を殴り、人の命を殺めるとしても──。

 クウガは、ガドルの目を強く睨んだ。

「超変身!」

 クウガは黒の金のクウガ──アメイジングマイティフォームへと再び姿を変えた。今できる最高の姿だ。
 五代によると、確か強化されたアマダムは、「ずっと金でいける」という事だった。
 ならば、この形態にも、まだしばらく変身できてもおかしくはないはずだ。全て五代が受けた電気のお蔭である。一条自身は、まだ何もしていない。

「……アンオキ ン グガタ バ(あの時の姿か)」

 ガドルがかつて、戦い、朽ち果てた時の姿。
 黒の金。このクウガには、ガドルも借りがあった。
 命を奪われ、敗北という屈辱を感じたあの時の記憶。それを思えば、ガドルが最も戦いたい形態はこの姿なのだと言える。

「二人とも……さっきも言ったように、俺、いや……俺とクウガは勝つさ。また会おう、二人とも」

 クウガこと一条薫がサムズアップを送る姿が、エターナルとキュアブロッサムには見えた。
 そうだ、確かに、彼は今、仮面の下で笑っている。──二人を安心させるために。そして、必ず勝つから心配がいらないという事をアピールするために。
 その笑顔を信じていいのだろうか。虚勢という事は、ないのだろうか。

「……仕方ねえな。信じるぜ、一条刑事」

 ……少なくとも、良牙は、この男の意地を信じた。
 一条が勝てるか否かはわからない。しかし、これだけ説得力のある“意地”を見せてもらっては、良牙は一条を信じさせないわけはない。

「……だけど、その前にこれだけ受け取れ!」

 ──Weather!!──
 ──Weather Maximum Drive!!──

 ウェザーの力で、クウガの頭上に暗雲が立ちこみ、雨を降らせる。
 エターナルは、そのクウガの懐に駆け寄ると、親指だけを立てた右腕で、クウガの胸元を叩いた。
 クウガの全身に、先ほどのガドルと同じように電撃のエネルギーが走る。

「ううっ……!!」

 雷の一撃は、先ほどと違い、殺気を持ったものではない。力を分け与えるような、どこかやさしさのこもった拳だった。
 人体には、ほんの少しばかり辛い一撃だが、それでも五代はきっと、こんな痛みにも耐えて、グロンギを倒そうとしたのだ。
 それを思えば耐えられる。
 良牙の想いが乗った電撃を無駄にするわけにはいかない。
 電流は全身に流れた。腕にも、胸にも、足にも、頭にも、アマダムにも……心にも。
 つぼみが持っていたウェザーメモリの力が、良牙の手で一条の体へと送られる。これは二人が与えれくれた力でもあるのだ。

「あぁっ……!!」

 エターナルは、その手を離した。マキシマムドライブの連発で、流石に彼も相当疲労しているのだろう。

「……わかった。俺、尊敬してるよ。あんたを。それから、五代も。俺にはとてもなれねえと思う……だけど、なれるとしたら、あんたらみたいな大人になるぜ」

 良牙は、ずっと思っていた事を一条に伝えた。
 成り行きで一緒にいた相手だったが、やっぱり、五代や一条と一緒にいられて、良牙は楽しかったし、ためになったと思う。とても一日に起きた出来事とは思えなかった。
 彼らの住む世界の人たちは、凄く良い人ばっかりだ。

「ははっ……彼に聞かせてやりたいな……。五代なら、君と冒険したみたいと思うだろう……」
「五代だって、聞いてるさ。……今は、……一緒なんだろ?」

 一条の腹部には、五代が戦った証──アマダムが埋め込まれている。それを、エターナルは指差した。

「……そうだったな」

 エターナルは距離を取って、キュアブロッサムとともに、右手の拳を握り、親指だけを立てた。五代雄介の癖だった。この親指を立てるしぐさで、笑いかけるのが。

「一条さん。また会えますよね?」

 不安そうな瞳で訊くキュアブロッサム。

「未確認生命体を殲滅するまで、俺は死なない」
「……わかりました。信じます」

 しかし、一条が放つそのパワーを、意思を、優しさを、つぼみは信じた。
 一条薫は、警視庁不死身の男だ。果たして、彼が負ける事があるだろうか。
 そして、彼はおそらく、嘘などついた事のない人だ。彼が勝つというのなら、クウガは勝つ。どこまでも律儀な人だ。

「一条さん、また……」

 彼は良い人だ。死んでほしくない。
 これまでも、どんな困難もともに乗り越えてきた仲間だ。

『Wish you good luck.(健闘を祈ります)』

 エターナルは、ビートチェイサーに積まれていた荷物を全て抱えていた。
 ビートチェイサーに乗る事はない。これは、一条が自分たちの元へとやってくるための手段になるだろうし、そもそもバイクに乗れるとしたら良牙だが、良牙では道に迷ってしまう。
 だから、ビートチェイサーに乗っていく事はできない。

「行くぞ……」
「はい!」
『OK.』

 エターナルとキュアブロッサムは山のふもとに向けて駆けていった。
 クウガは、少しだけ不安そうにその背中を見つめていたが、それでも、すぐにガドルの方を向き直した。

「ジャラモン パ キエタ(邪魔者は消えた)」

 ガドルはずっと、つぼみと良牙がいなくなるのを待っていたらしい。
 彼にとって、二人は邪魔者だ。かつて、クウガに敗れた時、ガドルはクウガと一対一で敗北した。その雪辱を果たすならば、もう一度あの時と同じ戦いを再現しなければならない。
 一刻も早く戦うために、あの二人を殺すのも一向だが、それをせずともクウガが二人を逃がすであろう事は、彼らの言葉から察する事ができた。だから、ガドルは待ったのだ。

「ベッチャグ ン オキ ザ!(決着の時だ!)」
「争いを……なくす時だ!」

 そう、かつても、とある森の中で、黒の金のクウガと未確認生命体46号は対峙した。
 しかし、かつてと違うのは、黒の金のクウガに変身するのが五代雄介ではなく、一条薫であるという事。
 そして、ゴ・ガドル・バが更なる力を得ている事だ。






「うおりゃああああああああっ!!」

 仮面ライダークウガ アメイジングマイティフォームの拳はガドルの胸部を殴る。
 壁を殴ったように硬い皮膚だ。しかし、目の前の相手は生物だ。どんなに誤魔化しても、これは暴力に違いない。
 殺意を乗せた拳で、相手の皮膚を貫こうとしたのだから。

「フンッ!」

 クウガの視界の外れから、ガドルの拳が顔の真横を殴る。突如として受けた一撃に、クウガは殴られたとさえ認識しなかった。真横から球速180キロのボールが飛んできたのかというほどである。
 常人ならば即死。しかし、クウガの顔はその暴力にも屈しない。
 大きく右手によろめいた体を起こし、左足を上げる。力を込めて、足を延ばす。屈から、伸へと変わるエネルギーに、アマダムから送られるエネルギーを乗せて、マイティキック並の一撃がガドルの腹部を蹴り飛ばす。
 ガドルもまた、左足を後ろにつくほど、よろめいた。

「はぁっ!!」

 クウガは右腕を大きく引く。そのまま、息を吐き、声を漏らし、右手の拳でガドルの顔面に一撃お見舞いする。
 パンチはしっかりと、ガドルの鼻先を捉えた。
 仮面の中に在る一条薫の顔は、決して笑顔ではなかった。
 犯人を捕らえる時の一条の顔など、まだ聖人に見えるだろう。今は、般若だ。一条の笑顔を見た事がある者ならば、決して想像する事はできまい。

「くっ!?」

 しかし、そんなクウガの右腕を、ガドルは両手でがっしりと掴んだ。
 顔面の痛みなど、微々たる物とでも言うのか。──ガドルは、そのままクウガの右腕を真上に向けて放り投げる。それに追従する形で、全身が持ち上げられる。
 ガドルの真後ろで宙を泳ぐ事になったクウガは、そのまま木に叩き付けられた。

「ぐあっ!!」

 クウガは、うめき声を漏らした。
 アメイジングマイティとなったクウガでさえ、今のガドルには敵わないというのか。
 そうだ、────金になったクウガは、金と同じ力を得たガドルに手も足も出なかった。
 それならば、黒の金になったクウガが、黒の金の力を得たガドルに勝つ事が出来るだろうか……?
 確かに、変身者である一条薫は、五代雄介よりもはるかに戦闘経験がある。武術も心得ており、射撃能力も精密、そして、普段は暴力も止む無しの仕事に就いている。そこを割り切るだけの力がある。警察であれ、犯人を射殺した警官は辞職する事が多いし、人を殺す事には慣れないが、一条も、割り切って、未確認を何度も葬った。甘い事は言っていられない。
 はっきり言えば、五代が変身したクウガよりは強い。

 しかし──

 ガドルは、強い。ガドルは、クウガの一撃を通さない。
 純粋な力の差で、クウガは同じ形態ではガドルに及ばないのだ。

(負けるわけにはいかない……こんな奴に……!)

 それでも、クウガには、そんな力の差を埋めるだけの『想い』があった。
 クウガの足は自然と前に出た。両目が、振り返るガドルの顎を捉える。右拳がそこを狙いに行く。

「うおりゃあああああああああッッ!!」






 少し前──

『おまもり』

 ──そう書かれた、あのイラスト付きの紙を、一条薫は支給品の中に見つけた。
 お守りとは言っても、そこに神の力や祈りは宿っていない。何のお守りというわけでもない。しかし、2000の技を持つ冒険家の子供たちへの想いが込められた優しいおまもりが、参加者の誰かのもとに支給されていた。
 一条は、つい先ほど、荷物の整理をする時にそれを目にしてしまった。彼がわかば保育園の子供たち一人一人に送った、何十枚ものお守り──それを、こんな殺し合いの場に送り込んだ主催者が許せなかったが、一条薫は、それを自分自身のお守りとして、コートの中にしまい込んだ。

(やるぞ……)

 未確認生命体の犠牲者には、当然の事ながら、幼い命もあった。いくつもの夢や希望も奪い、未確認生命体は人殺しをゲームとして楽しんでいた。
 遺留品として警察に預けられるランドセルや子供向けのバッグ。一条はそれを何度も見てきたし、椿のもとには子供の遺体も預けられた。
 だから、彼はきっと、世界中の子供たちにも、このおまもりを届けたかったに違いない。
 でも、彼は己ができるだけ──悩みながらも、己が描けるだけの子供たちの絵をおまもりにした。そんな彼の作ったお守りだ。

(五代……!)

 誰かを守りたい男の想い。
 誰かを傷つけたくなかった男の想いが、今の一条の胸にある。

 今、戦っているのは一条だけではない。
 その男の強さが、力が──一条の体を強くする。



『こんな奴らのために、これ以上誰かの涙は見たくない! みんなに笑顔でいてほしいんです!! だから……見ててください、俺の、変身!!』



『一条さん。俺、なります』



『……そんな顔、しないでください、俺は後悔、してないんです……』





『……だって、一条さんに会えたから!』





 彼が一条の胸に響かせた数々の言葉。彼の言葉は、いつも真っ直ぐだ。
 何より、一条にとってうれしかったのは、最後まで一条に声をかけてくれたことだ。
 友情は、ホンモノだ。
 彼と一条の胸に輝き続ける友情は消えない。
 いつまでも、そう、輝き続ける。






 アメイジングマイティの右アッパーが、ガドルの顎に到達する。顎を砕き、首を持ち上げるようにしてガドルの体重を浮かせる。
 ガドルはつま先を立てて、己の体重がクウガの右手に持ち上げられている事を認識した。
 浮き上がり、そのまま、空中を泳ぐ。
 顎には、封印エネルギーの残滓が残ったまま、ガドルの体は数メートル吹っ飛び、地面に頭を打ち付けた。土がガドルの頭にこびりつく。頭は特に痛みを感じなかった。
 だが、己がこうしてアメイジングマイティの一撃に身を倒している事にショックを隠せなかった。

 今の己とアメイジングマイティクウガならば、おそらく己が上だと、確信していた。
 しかし、今、自分は倒れている──夜空を見ている。

「グォッ──!」

 ガドルが起き上がる。
 吠えるように声をあげながら、その手を地面について、立ち上がる。
 クウガが追い打ちをかける事はない。むしろ、何歩か退いている。
 ──いや、退いているのではない。

 あれは──

「……ゾグバッ!!」

 あれは、そう──かつてゴ・ガドル・バを打倒した技の再現。その構え。
 クウガは、片足を前に出して屈み、両腕を少し広げている。あそこから駆け出し、ガドルに向かって駆け出し、そこからキックを放つに違いない。
 そうか、ならばガドルも、己がクウガを超える力の持ち主だと証明せねばならない。
 今のガドルはあの時のガドルよりも数段強くなった。電気のエネルギーがガドルの肉体を強化している。
 勝てる。
 それを確信しながら、ガドルもまた、よろけたまま数歩退いた。

「──いくぞ、五代」

 クウガが呟くのを、ガドルは耳にした。

「ゼンゲビ……ビブブ!!」

 クウガは真っ直ぐ前に駆け出す。
 ガドルもまた、前傾しながら駆け出す。
 二人は同時に飛び上がる。


「うおりゃああああああああああああああッッッ!!!!」
「ハァァァァァァァァァァァァッァァァァッッッ!!!!」


 クウガの両足蹴りが。ガドルの回転蹴りが。
 二人のエネルギーが込められたキックが空中でぶつかり、炸裂する。
 空が晴れる。いや、これは晴れではない。──太陽光にも匹敵する一瞬の光。一瞬だけの朝。それが、二人のもとに降り注いだ。






 ──二つの影がいま、地面に降りた。
 空中で激突し、己の力を互いにぶつけ合ったクウガとガドル。
 勝つのは、クワガタか、カブトムシか。地上に落ちた影は動かない。
 膝をついたまま、二つの影は殆ど意識を失ったような衝撃を喫していた。
 微かな気の迷いさえも勝敗を左右するほどの互角。
 しかし──

「……やった」

 先に、クウガが膝を上げ、立ち上がった。
 クウガは勝利を確信している。
 黒の金のクウガが、辛うじて立ち上がった。
 そして、振り返る。
 振り返った先には、ゴ・ガドル・バが動かずに固まっている。

「勝った……倒したぞ、五代……」

 いま、クウガはガドルの元へと、よろよろと歩き出そうとしていた。
 奴はもう動けない。
 未確認生命体は殲滅された。
 あとは、この暴力を使うのは、残る主催者を打倒するためだけで良い。
 五代、やったぞ。
 ゴオマ、ダグバ、そしてガドル──全てのグロンギが倒された。
 倒された──はずだった。

「なっ……」

 クウガは、ガドルの元へと歩いて行こうとした時、地面に倒れた。
 彼自身も気づかないほど、体内に受けていたダメージは大きかった。
 今、クウガがガドルから受けた攻撃の強さは、半端な物ではない。

「……残念、だな……」

 俺は、負けたのか──。

 クウガの目の前で、ゴ・ガドル・バは立ち上がった。
 クウガの一撃は確かに胸部に叩き付けられた。大量の封印エネルギーがその胸、二か所に叩き込まれたほどである。
 しかし、その封印エネルギーの痕はベルトのバックルに到達する事はなかった。到達する前に、ガドルは封印エネルギーを弾き返したのだ。

(すまない、五代……)

 ガドルは、形態を剛力体へと変え、胸の装飾品をもぎ取る。装飾品はガドルソードへと変質した。彼は、クウガの方へと歩み寄る。

 ゲゲルの敗者はベルトを砕かれる。
 ガドルは、クウガのアマダムを完全に粉砕すべく、この剣でクウガの腹部を突き刺そうとしていたのだ。






(五代……)

 勝利を確信していた一条だったが、どうやら敗北したらしい。
 そして、敗北は死。いまこの瞬間もまた、一条は死に近づいているのを感じていた。

 全身は痛み、廃れ、アマダムなしには生命の維持さえできないほどである。
 全身に供給される力は、クウガとして戦うためではなく、生命の維持のために使われているような気がする。

『あきらめないで、一条さん』

 五代の声が聞こえる。
 遂に幻聴が聞こえるほどに──なってしまったのか。
 大丈夫だ、すぐお前のもとへ行く。だから待っていてくれ。

『確かに一条さんは頑張った。でも、まだやれる事、あるよ、絶対。……俺は信じてる、一条さんの事。だから……一条さんも俺を信じて!』

 五代は、言った。
 まだやれる事がある……?
 五代のもとへ行く前に、まだやり残した事があるのか……?

(そうだ……俺はまだ、倒すどころか……一矢報いる事さえできていない……! このまま倒れるわけにはいかない……!)

 そう、この戦いは決して死んだ五代のための戦いじゃない。
 生きている良牙やつぼみ──たくさんの人たちの笑顔を守るための戦いなのだ。
 ただ、五代は一条とともにある。
 五代はもうアマダムも関係ない人間として青空になった。しかし、一条は警察の道を選び、自ら戦う道を選んだ。それなら、俺は五代と一緒にいたアマダムと運命をともにしてもいい。

『俺たちで、一緒にやろう、最後の冒険……!』

 ここで満足してしまっては、何も果たしていないのと同じ事だ。
 死ぬのは良い。しかし、せめて最後の瞬間まで、ガドルを倒すための活路を開く。

(────!)

 一条の脳裏で、一瞬だけ“凄まじき戦士”のイメージが掠められる。
 これが、凄まじき戦士か。──一条はそう思った。これは、アマダムが、憎しみだけで戦わぬように「警告」として送るアルティメットフォームのイメージである。
 これに変身した時、もしかしたら理性を失い、グロンギと等しくなるかもしれないというクウガの究極の姿だという。これが現れるという事は、一条が危険な状態であるという事だろう。
 ……しかし、それが脳裏に現れた瞬間、一条は笑った。

(──大丈夫だ、俺は。なあ、五代……)

 ポケットには、五代のおまもりがある。君がくれた笑顔がポケットにしまわれている。
 これがあれば──これだけあれば、一条薫は、どんな憎しみに圧されたとしても、理性を保てる。
 一条は、心優しき警察官の一人でい続けられる。

「そうだな……俺もお前と行こう! これが俺の冒険だ!!」

 憎しみになど飲まれない。
 五代は、一条に笑顔を見せて、消えた。






 突如、ガドルの体表が燃える。
 ガドルは、己の体に突然発現した炎の正体がわからなかった。わからなかったが、クウガの手がこちらを向いている事に気づいた。
 熱い炎がガドルの体表を焼き、ガドルを苦しめる。
 ガドルが数歩下がる。

「ガギゴ ン ギジ バ!(最後の意地か!)」

 見れば、クウガの姿がまた変わっていた。
 全身が鋭利になり、黒が全身を支配し、金の意匠はより細かく全身に行き渡っている。
 四本角。そう、これは凄まじき戦士──仮面ライダークウガ アルティメットフォームに変身しているという事ではないか。

「ゴミギソギ……(面白い)」

 強化したガドルの力が究極の闇に匹敵する者なのか、この場で試せる。
 ガドルは、数歩後退した体を再び、ゆっくりとだが前に出した。
 炎に包まれる上半身の痛みを掻き消しながら、足を前に出す。

 アルティメットフォームになったクウガが地面に手をつき、体を起き上がらせる。
 その目は赤い。心が黒く染めあがる前の──わずかな理性が顔に見て取れた。
 そして、クウガはガドル以上に深刻なダメージを受けているらしい事もよくわかった。

「……くっ」

 クウガは、立ち上がりこそしたものの、それだけで全身の力を振り絞ってしまったような気さえする。しかし、敵の前に必死で手をかざし、プラズマ操作で敵の体を焼こうとしていた。
 仮面の下は泣いている。
 こうして、また人を苦しめ、暴力を振るう結果になる事を。それでも、五代とともに最後に果たさねばならない使命を果たすべく、右腕に力を込めた。

「うお……」

 クウガの全身を駆け巡る痺れ。体を支配する金縛り。
 全てを解き放つため、クウガは吠える。

「うおりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ…………!!!!」

 クウガの手は伸ばされ、ガドルの体めがけて駆ける。その拳が到達するのは、その直後だった。もともと、そう距離を置いていたわけでもない。結果的に、クウガの拳はガドルの腹のバックルの真上を叩いた。

 そこに封印エネルギーが込められた一撃。一条薫と仮面ライダークウガの最後の“暴力”が突き出される。アルティメットフォームの命をかけた一撃であった。全身を焼く炎よりも強い、封印の一撃ガドルの腹を再び襲う。
 本来ならバックルを狙うはずだったが、微かに位置がずれた。朦朧とした意識は、決してクウガには、優しくなかった。
 しかしながら、その一撃は、ガドルに物理的にも大きなダメージを与えたし、ベルトのバックルに近い箇所に封印エネルギーを込めた。

(……五代……)

 遂にアマダムが破損し、一条薫の変身が解かれる。眼前で、ガドルは腹を抱え、もがく。

(お前が声をかけてくれたおかげで……)

 これが決め手となるかはわからない。決め手となるかはわからないが、ガドルに一矢報いた事だけははっきりとわかった。

(この冒険は……成功した……よ……)

 いくらガドルが究極に近づいたとはいえ、本当の究極には勝てないだろうと──楽観視しすぎかもしれないが、そう思った。

(一緒に行こう、悲しみと争いのない未来まで……)

 このまま夜が青空になり、そこで誰かの笑顔を見届ける事はできなかったが、残念ながら一条薫の意識は薄れ、視界から全てが消えていく。

(俺も、お前と会えて、……良かった!)

 バトルロワイアル開始一日目、19時32分。──一人の戦士が、散った。


【一条薫@仮面ライダークウガ 死亡】
【残り20人】





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最終更新:2015年12月27日 23:03