黎明の襲撃者(風雨 2:30~) ◆gry038wOvE
リボルギャリーは、警察署から遠ざかるようにして走っていた。
殆どギリギリのタイミングでの救出劇だ。警察署の影が完全に彼らを包み、視界が真っ暗になり始めた時に、炎の中を突っ切ってリボルギャリーが現れたのである。
警察署が自分たちの体を押しつぶす直前に、辛うじてリボルギャリーは現れていた。そして、直前にリボルギャリーに脱出していたのはスーパー1とシャンゼリオンとエターナルである。
この装甲車に乗って逃げる事ができたのは、たった三人だ。
「チッ……」
助かったはいいものの、この激しく車体を揺らしながら逃走していくリボルギャリーの中には、一概に喜べない空気が漂っていた。
直前に助けを拒んだ仮面ライダーダブルと冴島鋼牙、姿を消したレイジングハート、助かったのかどうかもわからない佐倉杏子、蒼乃美希、孤門一輝。
彼らが犠牲であるとするのならば、こうして逃走するまでの時間に失われた物が多すぎた。
とにかく、彼らは揃って変身を解除した。
「──あいつ、強くなってやがる」
「ああ、とてもじゃないが太刀打ちできなかった」
「折角脱出できる所まで来たってのに、ああいう頭おかしい奴に妨害されるなんてな……」
全くだ、と良牙と一也も言いたかった。
暁が言う事は全くの正当である。好き好んで殺し合いを楽しんでいるガドルのようなタイプの人間が、脱出計画を上手く企てていた彼らの邪魔をした。
──その事実が、全く如何ともしがたい腹立たしさを作り上げている。
もしも、仮に仕方なしに殺し合いに乗っている人間ばかりが多かったならば、ここで脱出は成功したのだろうが、ガドルは全く持ってそういうタイプではない。
「……あいつがやっているのは格闘でも何でもねぇ」
「ああ」
「第一に、楽しくねえ。──俺だって、あいつらとやってた時はまだ……」
乱馬たちの事を思い返しながら、良牙はただただ抑えられない苛立ちで拳を握りしめた。
本当なら、良牙も今、翔太郎たちとともに残って戦いたかったのだが、暁に続いてリボルギャリーに搭乗してしまった。
暁、良牙、一也と載った後で、ゴールドエクストリームになったダブルが搭乗を拒み、何故か鋼牙もあの場に残った。
ダブルはまだわかる。勝利への確信を持っていたのだろう。周囲から見れば、何故そこまで確かな勝利への確信を抱けたのかはわからないが。
ただ、鋼牙まで残った時は、他の全員が慌てた様子であった。何故彼まで残ろうとしたのか、誰もわからなかったのである。
それでも──
「……無事を祈るしか、ないな」
これに乗ってしまった以上、もうここにいる全員、鋼牙と同じ判断はできない。
真っ直ぐにしか進んでいかないリボルギャリーに揺られながら、それぞれが重たい表情で俯く。これから、後ろを振り向く事ができないのである。
忘れ物がたくさんあるとしても、リボルギャリーは無情に、警察署を離れて行った。
△
──一方、杏子たちはそれぞれ、海沿いの道を急いでいた。
彼女たちは、これといった移動手段も持たないが、ソルテッカマンとネクサスには飛行能力がある。ネクサスがキュアベリーを運んで低空飛行している最中、目の前に一人の女性の姿を見つけた。
彼女は遠く、海の向こうを見ていた。
女性──そう認識した後、それが誰なのかというのがわかった。
「──お前は、」
ガドルとともに現れた、例の妖艶な女性である。
孤門たちから見た特徴を簡略に教えるなら、「バラのタトゥの女」とでも呼ぶといいだろうか。彼女の本名は、ラ・バルバ・デというが、それは誰も知らなかった。
彼女の姿を見た瞬間、それぞれが背筋を凍らせながらも、立ち止まる。
──何せ、あのガドルの同行者である。それなりの力を持っていても全くおかしくはない。
警戒態勢を取りながら、バルバを睨んだ。
「……」
先回りしていたのだろうか。
ガドルの目を盗んで逃走しようとしていた彼らだが、まさかガドルにこのまま勘付かれてしまうのではないかと、恐怖を抱いた。
「……リントも変わったな」
しかし、バルバは、妙に冷淡に、こちらを見ようともせずに、そう呟いた。
まるで彼女は戦いにも興味がないようだった。いや、むしろ──彼女はガドルとは全く違い、戦いそのものではなく、戦いを傍観しているだけを楽しんでいるようにも見えた。
おそらく、彼らの中でも変わり者なのだろう。
「かつて、リントは我々に抗う事をしなかった。武器も使わず、蹂躙されても抗う事を徹底的に避けていた……ごく数名を除いては」
「──何を、言っている?」
突然語らいだしたバルバに、孤門は疑問の念を抱く。
本当に、全く攻撃の意思が感じられない。
「今や、リントたちも武器を手に取り、我々に刃向かっている。自分たちの力で我々を越える武器を生み出したリントもいる」
「……」
「リントは、いずれ我らと等しくなる」
バルバの、全く表情も変えない言葉に、何故だか孤門は背筋が凍った。
一番前で、ソルテッカマンのマスク越しにバルバの言葉を聞き続ける孤門も、バルバの言っている事の恐ろしさを何となく理解していた。
リント、という言葉が人間を表しているのも、その語調から掴みとる事ができた。
杏子と美希は、何も返す事ができない。
「……違う」
しかし、──孤門は、必死で彼女の言葉への反抗を示そうとしていた。
「僕たちが武器を取るのは、お前たちのような奴がいるからだ!」
言い訳でも何でもいい。ただ、孤門は言葉をバルバに突き付けようとしていた。
武器を握るのは躊躇った。いくら背中に女の子二人がいるからといって、ここで武器を使うのは正当ではない。──そんな気がした。
「ならば、我々がいなくなれば、お前たちは武器を捨てるのか?」
「──何?」
「我々が今に蘇る前から、リントは武器を手に取り、争い合ってきた。我々が眠っていたほんの僅かの間に、リントは勝手に殺し合いをする種族に変わったのだ。ならば、いずれ我々と等しくなる──そうだろう」
バルバが予見した未来。──それが、間違いなく、後の地球に起こる事ではないかと、孤門は何となく思ってしまった。
紛争はまだ世界中で起こっている。姫矢もそんな地に行き、大事な人を喪った。
ビーストがいなくても、世界中が平和に過ごす事はまだ成されていない。いや、人がある限り、こうして強力な武器が作られるのだろう。
それを考えると、孤門は急にこのソルテッカマンなる兵器の重たさを感じるようになった。
「コモンカズキ……。お前は、この戦いの中では珍しいただの一般人だ。クウガにも、カメンライダーにも、プリキュアにもならない。あの刑事、イチジョウカオルと同じだ」
「……だからどうだっていうんだ」
「私は今、お前にも興味がある」
バルバがニヤリと笑った時、孤門の額に汗が湧いた。
バルバが向かってくる。まずい。
──バルバは孤門に、どういう形でか攻撃しようとしてくるのだ。
彼女の右手が黒みがかった緑色に変身していき、ソルテッカマンに向けて駆けてくる。
彼女はグロンギとしての真の姿になろうとしている──。
そんな時だ。
「くっ……!」
孤門は咄嗟に、フェルミオン砲を彼女に向けた。
変身していくバルバの方に向けてフェルミオン砲の銃口を向ける。
「たとえ、敵だって……本当は引き金を引きたくはないんだよッ!!」
孤門一輝は、ナイトレイダーに入るまで、ずっとレスキュー隊員に過ぎなかった。
人を救う事が目的で、その為に誰かを傷つける事など全くなかった。
しかし、戦いの中でビーストを倒し、ある時、孤門が撃った弾丸が、ビーストの中にいた少女を傷つけた──。
だから、本当は武器を取りたくない気持ちが彼にはある。
だが、それでも──。
そして、フェルミオン粒子の結晶を放つ──。
「──ぐあああああああああああーーーーっ!!」
しかし、フェルミオン砲は突如、目の前で光を爆ぜて暴発した。それは、痛み分けとばかりにソルテッカマン、バルバ双方の体を吹き飛ばす。
孤門の意識を昏倒させるほどの負荷がかかった。本来、フェルミオン粒子というのは水の分子と反応して爆発を起こしてしまう物質であった。
それゆえ、雨の夜空に使える武器ではなかったのである。
「あっ……くっ……」
孤門は、このフェルミオン粒子の仕組みを完全には理解していなかったようだ。
地面に叩き込まれると、そのまま意識を失って、動かなくなってしまった。
もう一方のバルバは、今の爆発で右腕を根こそぎ吹き飛ばされ、体の前半分をフェルミオン粒子の暴発で爆破させていた。
「そう、だ……。いず……れ、リントは……自分の……力で身を亡ぼす……我々のように……」
しかし、ラ・バルバ・デはその顔を美しい女性のままに、あおむけに倒れて笑った。──彼女たちグロンギの体は異常なほどの頑丈さも持っている。面の皮も相応に厚かったのだろう。だが、その顔は血しぶきに満ちており、やはり死が目前にあるようだった。
孤門一輝とはいずれまた、会いたい気持ちがあったが、そんな気持ちも、この爆発の衝撃を人間の姿のまま受けた事で、どこかへ吹き飛んでしまったようである。
バルバは、そのまま、雨ざらしの遺体となって、すぐに動かなくなった。
「……」
ネクサスの姿のまま、杏子は黙ってバルバの遺体を見下ろした。
ソルテッカマンのハッチを開けて、意識を失った孤門を咄嗟に離脱させるキュアベリー。
敵の死を見ていながらも、何故か奇妙な後味の悪さが残る今の一戦に、ただただ彼女たちは何も言えなかった。
△
ガドルの目の前に残ったのは、ダブルと鋼牙のみである。
二人は、鋼牙を下す為に着地すると、鋼牙が残った理由を疑問視して言った。
「なんで残った?」
『こいつは、お前たちが逃げる時の手伝いがしたいのさ』
鋼牙に代わってザルバが言った。
「……移動手段は全て使ってしまった。轟天を除いてな」
そう、牙狼が召喚する轟天にダブルを乗せれば、鳴海探偵事務所に向かうまでの時間をかなり短縮できるのである。
ガドルを倒してここから脱出するには良い手段だ。
「なんだ、そんな事かよ。安心してくれ、俺たちはこの翼で飛べるんだ」
翔太郎が応えた。
どうやら、鋼牙とザルバがここに残った意味はなさそうだと思いながらも、──しかし、彼らは見届ける事にした。
折角残った以上、ここで逃げるなど忍びない。
「そうでしたか……」
隣で、舞っていた不自然な蝶が突然、一人の人間になる──高町なのはの姿だ。即ち、レイジングハートである。
彼女も、おそらく同様の理由で残ったのだろう。彼女ならば、バイクなどにも変身できるはずだ。規格外に大きい物でなければ問題ないだろう。
「おいおい、そのガイアメモリっていうのは使えば使うほど精神がおかしくなるっていう……まあとにかく危なっかしい物なんだぞ」
「……そうなんですか?」
「だけど、まあ仕方ねえか。これからはあんまり使うんじゃねえぞ」
翔太郎が諭すが、どうやらまだレイジングハートは汚染されていないようなので、甘く見ていた。──何せ、彼女のようなデバイスが果たして人間と同じようにガイアメモリによる精神汚染を受けるのか、翔太郎にはわからなかったのである。
そんな折、クリスタルサーバーからフィリップが口を挟んだ。
『でも、彼らの判断はありがたいよ。この姿には強い風がある時しかなれないんだから』
「ああ、そっか」
『ガドルを倒した後は、風とともに翼がなくなってしまう。彼らの思いやりはまさしく英断だ』
フィリップの言葉で、翔太郎は思い出す。
なるほど──ならば、彼らの支援を在り難がる気持ちも余計に湧いて来る。
すぐにダブルはガドルの方を向き直した。
戦いを望むガドルは、どうやら戦闘態勢が整うのを待ってくれていたらしいのだ。
それが明らかに好都合ではないのははっきりとわかる。
「一気にカタをつける」
『行くかい? 翔太郎』
「当たり前だ」
ガドルに向けて、キリッとした顔を見せる。──仮面越しに、ダブルはガドルを睨んだ。
彼があらゆる命を奪った。
フェイトを、ユーノを、霧彦を、一条を、いつきを、結城を……あらゆる仲間たちを殺しつくしてきたのが、このガドルという怪人だ。
その怒りと、燃え盛る炎を敵にぶつけるつもりで、ダブルは六の翼を広げ、飛び上がった。
「『ゴールデンエクストリーム!!』」
ガドルの眼前で、仮面ライダーダブル サイクロンジョーカーゴールドエクストリームは、その巨大な翼を広げて空を舞う。
そして、他のライダーキックと同様、彼の体が降下していった。
目の前にできたレンズのような物体に向けて、急速に降りていくダブルは、今まさしく風の支配者であるといえた。
ゴールデンエクストリームをガドルに向けて放つダブルは、まさしくロックオンが完了した状態である。
「『はあああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!』」
この姿でならガドルを潰せる──そんな確信があったからこそ、ダブルはこうしてここに残ったのだ。
あの時、仮面ライダーエターナルこと大道克己を倒す事ができたあの力だ。
全てのT2メモリをブレイクするあの圧倒的な威力──エクストリームの数倍の強さのこの一撃に、今まさしく全てを駆けようとしていた。
「『おりゃあああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!』」
ガドルが瞬間移動する間もなく、ガドルの胸部に向けてサイクロンジョーカーゴールドエクストリームの両足蹴りが接近していく。
この真っ暗な夜だというのに、その周囲は光り輝いていた。
自由に空を舞い、敵に突き刺すこの天の物なる一撃は、確かにガドルの胸部へと──到達した。
「グアッ…………グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
ガドルは既にその想定外の威力に踏ん張り切れなくなっていた。
本来なら胸板ひとつで弾き返すつもりだったが、そんな目論見はあえなく失敗する。
ダブルの両足はガドルの体を徐々に後退させていき、爪先でガドルの体を掴むと、そのまま勢いに乗せてガドルの体を空へと舞わせる。
ガドルの体の下で、頭を下にして跳ぶ仮面ライダーダブル。
ゴールデンエクストリームの威力は、真下から上昇する時にその真価を発揮する。
「『ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!』」
そして────
「俺たちの勝ちだっ!!」
『僕たちの勝ちだっ!!』
仮面ライダーが、その確かな手ごたえに叫んだ。
△
孤門一輝。蒼乃美希。佐倉杏子。
涼村暁。沖一也。響良牙。
石堀光彦。桃園ラブ。花咲つぼみ。
涼邑零。高町ヴィヴィオ。
この鳴海探偵事務所に、それだけの人数が押し込められていた。
辛うじて、生き延びる事に成功したそれぞれが、大雨で荒れる海を窓から見つめた。
おそらく、あの海の中に入れば荒波にのまれて死んでしまう。そういう意味では、やはり正真正銘、逃げ場がなかったのだろうと思う。
あとは、残りの四名を待つのみだった。
「……」
それぞれ、無事をお互いに確認しつつも、この部屋の空気は、決して明るくはなかった。
あとまだ帰ってきていない数名のために、この部屋でじっと待ち続けるしかない。
──そう、帰ってくるとすればの話だ。
一応、ここまで犠牲者は全く出ていない。
「……」
みんなが長い間、一緒に過ごしたあの警察署が倒壊し、もう無いという事実が、この中の数名を除いて、やはり寂しく感じられる事実だった。
あの警察署でも様々な事があった。
良い事、悪い事……全部ひっくるめて、まるで一つの家のような場所だったのだ。
あそこにいた時の平穏な時間は、全て今は消し炭へと変わっている事だろう。
仲間たちの遺体ももう形を留めていないだろう。
あれだけ安らかに眠っていたとしても、今はもう……。
「……」
できるのなら、別の場所に埋めたい遺体もあった。
だが、それも全て燃えてしまっているだろう。
悲しい時間がこの一室の中に漂っていた。
リーダーである孤門は、今も尚、意識を失ったまま目を覚まさない。
△
仮面ライダーダブル サイクロンジョーカーゴールドエクストリームが地面に降り立つ。
空中で最大出力の蹴りを叩き付けた相手──ガドルは、まだ生きていた。
生きていたが──。
「グ……ァ…………」
死んだも、同然であった。
仰向けに倒れ、叫ぶ事さえないまま地面を悶えている。ダブルの体が辿り着き、ゴールデンエクストリームが光った時、彼の体の前で何かが爆ぜ、彼らを包むほどの火炎と煙が空に広がった。
そして、ガドルの体はそのまま地面に叩き付けられた。てっきり、原型など留めていないと思ったが、一応彼はその頑丈な体をこの世に遺していた。
流石に死んだかと思っていたが、それでも尚、生きているのだから驚きだ。
彼の頑丈さには目を見張るが、それゆえにすぐには死ねずに苦しみを味わい続ける事になったようなのは、──今、このガドルの惨状を見て、はっきりとわかる。
ダブルは、彼の方を見やりながら、言った。
「……さあ、今からだ。──お前の罪を数えろ」
ガドルが罪と向き合う事ができるのは、今からしかない。
そう、自分の死の苦しみが眼前に迫ってきてからだ。
それ以外の時には、…………いつ言ったとしても、全くの無駄なのだ。
彼は強すぎたからこそ、命があっさり失われていく物だと気づけなかったのかもしれない。
命は弱い。
だからこそ、重い。──それを知らなかった悲しきモンスターは、残念ながら、救いようもなかった。彼は殺すしかない。
仮面ライダーはそんな非情な判断を下したのである。
この言葉は、いつもとは違い、ガドルが敗北してから突き付けられた。
「勝ったのか……」
「ああ」
降り立ったダブルに声をかける鋼牙。
こうして倒れて死んでいくガドルに、彼が声をかける事はない。
もはや朽ち果てるのみだ、と──はっきりわかったのだ。
ガドルは、ただただ虚ろな目で空を見上げている。
『まったく、俺様もヒヤヒヤしたぜ』
ザルバが悪態をつくようにして言った。
レイジングハートが、後ろで少し遠慮がちに言う。
「鋼牙。私はあなたを誤解していました。その件は謝ります。……しかし」
自分を守って死んだ駆音を裏切り切れない気持ちが、まだレイジグハートの中に在る。
しかし、この鋼牙なる男は、確実に誰かを守るためにそこにいた。
これは、疑いようのない事実だ。駆音が嘘を言ったとは思えないが、それでも──。
「──今は良い。すぐに仲間たちの所に向かうぞ」
鋼牙が、必死に何かを言おうとするレイジングハートを遮った。
もういいのだ。
レイジングハートをこれ以上責める気はない。今は、大事な仲間の一人だ。話したい事があるのならば、零もいる向こうで聞こう。
「よしっ、それじゃあ任せろっ! 俺が連れて行ってやる」
再び、ダブルの背中で六本の翼が展開する。
今度は、仲間たちの元へ向かう為だ。ガドルがまだ一応、息をしている以上は、しばらくこの大暴風雨も手を貸してくれるだろう。
だいたい、99.9秒しか使えない轟天よりかは、今使えるダブルのこの力を使った方がいい。
一件落着。全員の顔に、そんな余裕があった。
鋼牙の手を掴み、ダブルが飛翔する。
レイジングハートは、なのはの姿のまま、自力で空を飛んだ。万が一、このダブルの力がなくなった場合、サポートができるだろう。
そう考え、それぞれが高く空を飛び去った。
△
──ガドルは、空の上を飛んでいく影を見やった。
ダブルが翼を広げ、空を飛んでいる。
奴らを逃がすものか──勝ったままでは終わらせない。
「──」
体は痛む。回復も遅い。しかし、ガドルの誇りが傷つけられた以上、体が動く限りは、戦うしかない。
ガドルは、右手を辛うじて動かすと、すぐに自分の胸部の装飾品を毟り取った。
それは一瞬で、ガドルの手の中でガドルボウガンへと変質する。
そして、その銃口は、またもすぐに──ゴールドエクストリームの翼へと向けられた。
「死ね……ッ!!」
その空気弾に電撃を込めると、それは一直線には放たれた。
△
──殺気。
「……なっ!?」
突如として、真下から強い空気の弾丸がダブルの方へと接近してきた。
「ぐあああああああああッッッ!!!」
そして、命中したのである。
命中したのは、腹部──エクストリームメモリとダブルドライバーがそれぞれある場所であった。
それが第一の不幸である。
強い衝撃を受けたドライバーは、変身機能を維持できなくなり、翔太郎たちの変身を空中で解除した。
──そして、エクストリームメモリも自身が機能を維持できなくなるのを確認して、フィリップを解放する。
直後、エクストリームメモリが能力をなくし、地面に力なく落ちていき、爆散した。
「……エクストリームメモリがっ!!」
そう驚く翔太郎であったが、自分の体は、鋼牙、フィリップとともに落下しつつあった。
変身解除された以上、彼らに飛行する能力などない。十数メートルの高さから落ちれば、無論、彼らも助かりようがないはずだ。
肝を冷やしながらも、ガドルがまだ生きていた事に驚愕する。
「──ああッ!」
「ガドル、生きていたのかッ!!!!」
『しぶと過ぎるだろッ!! あいつ本当に殺せないのかッ!!!?』
それぞれが口ぐちに怒りを発する。
ガドルが地上で放った一撃は、それこそ力の限りを振り絞った物であった。
彼の状態も決して、全盛とは言えない。
ただ、だんだんと起き上がるだけの力を取り戻そうと神経が回復しようとしているのも、また一つの事実だった。
「──今、助けますッ!!」
レイジングハートが空中で、翔太郎とフィリップの体をキャッチする。
二人は何なく助けられた。
落ちていく鋼牙に向けて、翔太郎が手を伸ばすが──。
「──ッ!!」
その手が届かない。
鋼牙の体が地面に向けて落下していく。
「おらっ!!」
しかし、翔太郎の手にはスパイダーショックが残っていた。咄嗟にスパイダーショックからワイヤーを射出し、鋼牙の右腕に巻き付ける。
右腕だけ上げた状態で宙づりになる──何とも酷い体勢であったが、辛うじて鋼牙は生きていた。
『全く……間一髪だったな』
「……もうバンジージャンプだけは絶対にやらん」
『最初からやるタマじゃないだろう』
鋼牙が涼しい顔で言うのを、ザルバが突っ込んだ。
スパイダーショックのワイヤーが引かれていき、何とか鋼牙を自分の近くまで吊り上げる。
空を舞う歪な四人の男女。誰が見ても不思議な光景だろう。
だが──
「ああッ!!? クソッ!!」
スパイダーショックの釣糸に向けて、次の一撃が当たる。
またも空気弾だ。今度は威力が少し弱いが、スパイダーショックのワイヤーを断ち切るには充分だった。
丁度、警察署の三階ほどの高さだろうか。
──そこから、鋼牙の体が、そこから落下していく。
「オイッ!!」
翔太郎が慌てて鋼牙の姿を手繰り寄せるよりも前に、レイジングハートが即座に、翔太郎とフィリップの手を引きながら、降下していく。
鋼牙の体が落ちていった以上、どうにかして彼を助けなければならないと思ったのだ。
「あがっ……!」
『大丈夫か!? 鋼牙!』
だが、間に合わなかった。目の前で、鋼牙の体が地面に叩き付けられる。
しかし、まあ今回は辛うじて生きてはいられる高さであった。全身の骨に厭な響きが伝ったが、確かに今、鋼牙は生きている。
「──」
確かに、鋼牙は敵と教えられたが──それでも、レイジングハートはそこに向けて着地した。彼が何故、そう呼ばれたのかを確認する為には、鋼牙に直接話を聞かなければならないのだ。──だから、ここで死んでもらっては困る。
レイジングハートは、倒れる鋼牙の手に手を貸す。
「大丈夫ですか?」
「辛うじて、な……」
鋼牙は痛む体を何とか起こしながら、そう答えた。特に腰のあたりが大きなダメージを受けている。この高さでは当然、魔戒騎士であろうとも無事では済まなかった。
体を抱き起したレイジングハートにもたれかかりながら、鋼牙は目の前に立っている怪物に目を大きくする。
──翔太郎とフィリップは、一足先に彼の姿を見て、茫然としていた。
「……なんてしぶといんだ」
着地させられたフィリップもそう言う。
ガドルの方を見ると、彼は体を半分だけ傾かせて、何とか立つ体制を維持しようとしていた。
しかし、一歩歩くだけで右か左にふらふらとよろめく、歪な立ち方しかできていなかった。
グロンギの異常すぎる回復力──ただただ厄介だ。
そして、彼が使ったのはダグバが有していた瞬間移動能力である。──だからこそ、翔太郎たちのすぐ前に彼は姿を現す事ができたのだ。
「……貴様ら、全員……殺す……」
そう言って、ガドルが掌を翳す。──超自然発火能力である。
一瞬危険を感じた翔太郎の前だが、咄嗟に回避する事ができない。この距離にガドルが来てしまう事がまず想定外だったのだ。
翔太郎は、腹を括った。
自分がこのまま火だるまにされる未来を見つめ、──それを目にする前に、両腕で顔を咄嗟に防ぎ、目を瞑った。
「──ッ」
しかし。
「ぐッ……!」
超自然発火能力によって火だるまになったのは、目を開けてみると、翔太郎ではなかった。
翔太郎の前に、冴島鋼牙は立っていた。
白い魔法衣をはためかせ、その身を炎に焼いて──鋼牙が前に出たのだ。
「なっ……お前っ! どうして……」
「行け……ッ!!」
鋼牙が言った。
彼はいま、咄嗟に翔太郎の前に出て、彼を庇ったのだ。
そんな姿に呆然としつつも、翔太郎は何故そんな事をしたのか訊かずにはいられない。
「何かを守るのが、俺たち魔戒騎士だ……。後は、お前たちに任せる……」
そう言うと、左手の指からザルバを外し、鋼牙はそれを翔太郎に渡した。
「ザルバをよろしく頼む」
鋼牙の指から、炎の熱が伝わる。
これを鋼牙は生身で耐えているというのか──。
だからこそ、ザルバを託しているのだ。今の落下の威力に加え、こうして火に焼かれてしまえば、彼の体も限界だろう。
『おい、鋼牙!』
「大丈夫だ。死ぬつもりはない。──必ず戻る。信じて待ってろ」
不愛想に、鋼牙はそう言い、みたび、鎧を召喚した。──親から継いだ黄金騎士の輝きが、鋼牙の体を包む。
そして、その光のシャワーともに、鎧が鋼牙の体に装着され、全身の炎を消し去った。
「鋼牙! あなたへの誤解は……ッ!!」
「──何度も言わせるな! ……必ず戻る」
その言葉とともに、黄金騎士ガロはふらつく体でガドルの前に立ちふさがった。
黄金剣を横に構えて、ガドルを何歩も後ろに押しのけていく。
そんな姿を、翔太郎たちはただ茫然と見ていた。
「……行こう。翔太郎」
「でも……!」
「わかっているだろう!? ダブルドライバーもエクストリームメモリも、さっきの衝撃で壊れてしまった!! 僕たちにあるのは、このメモリたちだけだ。とてもじゃないが、僕たちは戦えない」
純正のガイアメモリは、ドライバーを介さなければ使えない。
ダブルドライバーが破壊されてしまった今、これらのメモリは役に立たない記念品になってしまったのである。唯一、手段があるとすれば、フィリップとともに逃げて修理する……という方法だ。
しかし、残念なのは、今使えないという事だ。このままガドルと戦う手段は──ない。
『こっちの兄ちゃんの言うとおりだ。……今は、俺の相棒を信じるしかない』
ザルバが、冷たくそう言った。
相棒がああして立ち向かっていった事の意味を、よく理解しているのはザルバ自身だろう。──かつて、大河も喪った彼だ。勿論、もうザルバにその記憶はないが、それでも相棒の死という物がつきつけられるのをザルバは何度となく経験している。
彼は今、己の使命を一心に果たそうとしている。
殉ずるべきが、魔戒騎士であり、魔戒騎士の相棒であった。
「──」
翔太郎は、黄金騎士ガロがガドルに立ち向かっている背中を黙って少し見つめた後、暗い表情で仲間とともに後ろを向いた。
それしか、できず、そのまま逃げる準備を整えるのが、唯一彼にできる事であった。
△
「──ぐぁッ!!」
叫んだのは、ガドルの方であった。胸部を斬ると、先ほどより幾ばくか防御力が弱まっているのが感じられた。血がガロの体を汚すが、鎧の穢れはすぐに浄化される。
ガドル──彼もまた、赤い血で生きている生物であった。
そう、一条薫に訊いた通り、未確認生命体たちは、元は人間だった可能性が考えられる相手だ。
「……貴様の陰我、」
復讐ではない。一条薫が彼に殺された事による復讐心というのは欠片もない。
今はただ、真っ直ぐに、翔太郎やフィリップたちを逃がすべく、鋼牙は剣を振るう。
わかっている。それが守りし者──魔戒騎士たちの使命であると。
「俺が、」
ガドルの腹部を黄金剣が突き刺し、血が噴き出した。
やはり、まるで人間や生物を斬っているような感覚であった。ホラーたちとは決定的に違う。
闇に堕ちたあの魔戒騎士──バラゴと同じく、彼もまた斬るべき相手なのだろう。
その根底にある悲しみさえ、今は感じなかった。
「──」
だが、次の瞬間、ガドルの右手が超自然発火能力でガロの鎧を燃やした。
魔導火ではなく、ただの火炎が鎧を穢し、同時に中にいる鋼牙の体さえも焼いたのだった。
──鋼牙の視界が霞む。
熱い。
──ただ、苦しく、ひたすらに鋼牙を苦しめる攻撃だ。
(カオル、ゴンザ、ザルバ、零……すまない……)
まだ生きている大事な仲間たちの顔が浮かぶ。
御月カオルや、ゴンザ、ザルバ、零、翼、邪美……。
炎の中でも真っ直ぐに、黄金騎士ガロ──冴島鋼牙は、己が磨いて来た剣を振るう。
(──少し、帰りが遅くなる)
父から、祖父から、これまで戦ってきた黄金騎士たちの想いがこの剣には込められている。
ホラーを狩るため、人々を守るために、陰我を断ち切るために振るわれてきたこの剣は、真っ直ぐにガドルの腕を狙っていく。
「断ち切る……ッッ!!」
そして、今、黄金剣がガドルの左腕を刈り取った。そこに映えていたはずの腕を斬り、吹き飛ばしたのであった。ガドルの腕は真っ赤な血を噴き出す。
厭な感触だが、確かにそれは邪を滅した瞬間であった。
だからこそ、鋼牙は眉ひとつ動かさずに、ガドルの断末魔を聞き届け、彼が苦しむのを見届けた。
「ウグアッ……!!!」
ガドルの左腕が遠くへと飛んでいくと、黄金騎士は鎧を解除した。
確かに、まだ敵は死んだわけではない。時間もまだ来ていない。
しかし、いま、冴島鋼牙は自分の死が来た事を直感していたのだ。
カオルが描いてくれた絵本の、最後の一ページを、その時、鋼牙はふと思い出した。
ああ、カオルが掴む未来がもっと見たかった。
彼女と結ばれ、次の黄金騎士を共に育みたかった。
しかし、今となっては、もうそれも叶わない──。
そんな理想の未来さえ捨てて、守るべき物が彼ら魔戒騎士にはあったのだから。
「──強くなったな、鋼牙」
鋼牙が地面に向けて倒れていく瞬間、父の優しい言葉が聞こえたような気がした。
彼は死ぬ最後の瞬間まで、父から受け継ぎ、共に戦ってきたあの魔戒剣を強く握りしめていた。
黒焦げの遺体となっても、まだ彼は精悍な瞳で、守りし者としての使命をその手に握っていたのである。
△
──ガドルは、よろめく体で鋼牙の指先から魔戒剣を奪おうとした。
乱雑に引っ張るが、片腕だけでは力が足りず、それを奪う事はできなかった。
しかし、すぐに諦めた。わざわざ奪う必要もない。ガドルは自ら剣を生み出す事ができるのだから。
「……次は──」
鋼牙が稼げた時間は、ざっと見積もって三十秒。
地面に叩き付けられたうえに超自然発火能力を受けた鋼牙は、既に限界に達していたのだ。それだけの時間を稼げただけ、随分と頑張った方である。
ガドルの目の前で、バイクが発進しようとしていた。──レイジングハートが変身したハードボイルダーだ。
そこに乗っているのが、左翔太郎とフィリップであるのは、この距離でも明らかだった。
「くそっ……鋼牙ッ!!」
いま鋼牙が死んだのを振り返って見て、彼は嘆いた。
彼の声は、ちゃんとガドルの耳に入っている。
しかし、即座に逃げようと、彼らは準備を進めていたが、鋼牙の時間稼ぎがあと十秒足りていれば、こうはならなかっただろうか──。
ガドルは、彼らの背中をめがけて、ガドルボウガンの弾丸を発射した。
一発、二発──。
しかし、その反動も今のガドルには相応に大きなもので、一発撃つごとにガドルの意識は遠ざかっていった。
「フンッ……!」
結局、二発の弾丸を発すると、ガドルは人の姿に戻り──倒れ、眠りについてしまった。
その心臓は既に、もう音を鳴らしていなかった。
いわば、その弾丸こそが彼の最後の悪あがきだったのである。
鋼牙の技は、彼に確かにトドメを刺していた。
△
──ガドルボウガンの発射した空気弾は、彼らの背中を狙っていた。
フィリップが咄嗟に振り向くと、空気弾が迫ってくる。
「あっ……!!」
フィリップの背中の前に突如現れたファングメモリが身を挺してフィリップの体を庇う──。
ファングメモリが大破しながらフィリップの方へと向かっていく。
確かにファングメモリの妨害によって、辛うじて威力は減じたものの、その空気弾はそのままフィリップに直撃し──彼の体を貫通した。
「あっ、フィリッ──!!」
そう叫んだ翔太郎の右腕が、次の瞬間、二発目の空気弾によって吹き飛んだ。
それはあまりにも鮮やかで、一瞬自分の腕が吹き飛んだと気づかないほどである。
一瞬で吹き飛んだ翔太郎の腕は、探すのも面倒なほど遠くへ消えてしまっていた。
「────ッ!!! ぐああああああああああああああああああッッッッ!!!!!」
突然の出来事に、翔太郎はわけがわからなくなった。
ガドルの最後の悪あがきが、まさに今、翔太郎とフィリップの身に降りかかったのである。
まさしく、突然の出来事に誰も何もできなかった。
咄嗟に、レイジングハートはまた姿を変えて、高町なのはの姿をコピーする。
「──」
振り返ると、今度こそガドルは既に事切れていた。
だが、それが喜ばしいはずがない。
彼の最後の一撃により、目の前で、今、鋼牙が死亡し、翔太郎とフィリップが瀕死の重体になったのだから。
「──大丈夫、かい……翔、太郎……」
フィリップは、ゆっくりと崩れ落ちながら、翔太郎の身を案じた。
その顔には、どこか微笑みにも似た物が残っている。
彼の笑みは、やせ我慢なのか、それとも何か意味のある物なのか──傍らのレイジングハートにはわからなかった。
それは、相棒である翔太郎にさえよくわからない。
「フィ……フィリップ! お前こそ大丈夫かよ……ッッ!! そんな……お前……おい……」
右腕を奪われ、そのあまりの痛みに気が動転していた翔太郎だが、すぐにフィリップの方が重症である事に気づき、彼はフィリップの方に意識を傾けた。
フィリップの腹のあたりから血が溢れ出し、彼の服を酷く汚している。
「──悪いけど、……僕はもう、……今度こそ、……脱落かな……ちょっと……油断しすぎたんだ……」
「オイッ!!」
「今回の反省にしよう……ガドルはもっとちゃんと、マークしておくべきだったかもしれない……」
フィリップは、死の瀬戸際ながら、かなり落ち着いてそう言った。
今回、何故自分が死ななければならなかったのかを思い返し、分析したのである。
彼らしいとも言えるが、同時に、こんな時くらい彼らしくない彼であってほしいとも思った。
「君は生き残ってくれ……利き腕がなくて、これからちょっと大変かもしれないけどね……頼りないけど……あの街には君が必要なんだ……」
冗談を言うように、フィリップは笑った。
彼の微笑みが翔太郎に突き刺さる。
「おい、フィリップ……」
「そうだ……後でちょっと、濡れ煎餅という奴について調べておいてくれ……」
「濡れ煎餅なんか今はどうだっていいだろッ!! 死ぬなよ、フィリップ!!」
残った最後の好奇心を翔太郎に託し、フィリップは、最後の言葉を告げる。
「じゃあ、これから長いお別れだ。……僕の好きだった街をよろしく……仮面ライダー、左翔太郎……」
かつて、本の中に残した言葉と全く同じ文句を翔太郎に託すと、フィリップは眠るように息を引き取った。
自分の左腕の中で、雨に打たれながら消えていくフィリップを前に、翔太郎は叫んだ。
「フィリップゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!」
相棒を失うのが二度目であった翔太郎は、その悲しみに、雨の中で慟哭した。
雷が鳴り、ここに相棒を失った三人が、悲しく雨に打たれ続けていた。
もう二度と目を覚まさない相棒の体を、雨が洗い続けていた。
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最終更新:2014年06月29日 15:17