黎明の襲撃者(雷雨 2:20~2:30) ◆gry038wOvE



 ──その遺体と出会うのは、時間にしておよそ二十四時間ぶりであった。
 暁の目の前にあるのは、亡きガールフレンド・暁美ほむらの遺体だ。
 川に流したその遺体が、こうして誰かに拾われて警察署で眠る事になったらしい。

 暁は、その安らかな寝顔を再度見て、何ともいえない気持ちになった。
 自分は、──どうして、あの時、ほむらの遺体を川に流したのだろう。それを考え直した。あの時考えたのは、それこそ、川というのが生と死の境界である事が、日本人の中で何となく当たり前になっていたから、そのまま流した……というつまらない理由かもしれない。
 別に暁に深い意図はなかったのだろう。そういう「何となく」が彼を動かしたに過ぎない。
 ただ、ああして川に流した以上は、もうこの暁美ほむらと出会う事はないだろうと思っていた。

 今ならわかる。あれは、そういうけじめだったのだ。もう二度と、ほむらと会わないだろうという。

「──また会っちまったか」

 と、暁は溜息半分に、その遺体に話しかけるように呟いた。
 後ろでは、杏子、つぼみ、ラブ、美希が、気まずそうな雰囲気でそれを見守った。
 案内人の杏子と、マミの知り合いであるほむらに会いたがったラブ、そして、それに追従するようにしてやって来たつぼみと美希……という構成である。彼女たちは、まだ子供で、このけじめというのをよく知らない。
 唯一、両親や妹の死を経験した杏子は知っているかもしれない。ラブも祖父が亡くなった時はまだ幼く、周囲の大人の反応など理解できなかっただろう。

 暁の中にあるのは重苦しいようで、どこか明るい気持ちだった。
 暁は、決して、さほど重苦しい空気を作ろうとしているわけではなかったのだ。生きている人間に話しかけるように、フレンドリーに言っているような、そんな笑顔を見せていた。
 実際、死んだ人間を前にするというのはそういう物で、案外、その死に顔に対して、悲しみ以外の形で見送ってやりたいという気持ちも湧いてくるものだ。まして、それが二回目ならば。
 そして、そこにいるのが一応は一人前に世の中を見て来た成人男性ならば──。

「──」

 さて。
 杏子に連れてきてもらったはいいが、案外やる事なんてない。
 暁としては、ただそこにほむらの遺体があるならば──その確認としてここに来たまでだ。別に改めて宣言する事もなく、特別ここでしたい事があるわけではない。

「……もういいよ、行こう」
「え?」
「もう……いいんだよ。なんていうかさ、これ以上やる事はないんだ」

 本音だ。
 こんな過去に縛られていても、暁の人生の楽しみなんて減っていくばかりである。
 生きた人間が死んだ人間にできる事が何かしらあるとしても、暁は多分、それを何度も繰り返して自分の時間を潰そうとは思わない。
 暁がすべき事は、あくまで、自分の人生をどうするか──という一点だ。
 何度も何度もほむらの遺体と対面して、それで、また何か語り掛けて……というのは性に合わないのだとよくわかっている。

「そうか……」

 杏子も、まあ言ってみれば、彼と同じだった。むしろ、いや、暁の利己主義は杏子以上に徹底しており、そして、それが杏子以上に正しく、迷いがない利己主義である事もまた事実であった。

「──」

 まあ、それはそれとして、だ。暁に対する共感が芽生えたのが一つここでの収穫として、その他にも杏子にはやる事があった。
 一つ、やる事を終えたところで、ここにいるとある少女に、杏子は念話で交信する事にした。今日は一段とやる事が多くて困る。次から次へと問題が起こり、すべき事も少なくない。

『──おい、ラブ。桃園ラブ
「え? 今、誰か何か言った?」

 杏子の方をラブが見るが、首を振った。──それは妙にわざとらしかった。
 それは勿論、美希、つぼみ、暁も同じ反応だ。彼女たちは話しかけようともしていない。

「おっかしいな~。何だろ?」
『マミから聞いてないのか? 念話だよ、念話。私だ、佐倉杏子だ。でも他の奴に訊かれたくないから絶対にしゃべるなよ』
「!!!!!?」

 ラブは、自分の頭の中に響いてくるテレパシーに驚いた。
 杏子から発信された言葉が、ラブに伝わる。

「どうしたんですか?」
「い、いや……何でもないよ。あはは……ごめんねー、つぼみちゃん」

 ラブは杏子の言葉を守って、慌てて取り繕った。そして、杏子の方へと目配せした。アインコンタクトを受けて、杏子が他の誰にも気づかれないように、黙ってうなずく。
 杏子がこうして念話を使っているのは、偏にグリーフシードが手に入ったからだ。つぼみの時もそうしたかったのだが、グリーフシードを得る見込みがない以上、こうして魔法を使うのは避けておいた方がいいと思ったのだ。
 できるなら、この方が手っ取り早い。

 そして──杏子はそのまま、念話でつぼみと同じく、ラブに要件を伝えた。

「……なんだか、外の様子が騒がしくない?」

 しかし、そんな会話の最中、美希が口を開いた。
 実際、何故だか急に外が騒がしくなったような気がした。──耳を澄ますと、会議室から、何か怒号のような声が聞こえた。






「おい、これはどういう事だよッッ!!!」

 ────美希が言った通り、外は騒がしい状態になっていた。今まさに数十メートル先に、そこにいるはずのない怪人と燃え盛る街を見てしまった人間が、動揺を隠しきれるわけもない。
 不死身のターミネーターに追い回されているような気分だった。
 前方から向かってくるその怪人は、──頭のツノの数こそ前より格段に増えているが、まごう事なきガドルであった。

「ガドルは……あいつは死んだんじゃ……!!」

 そのうえ、そのガドルが今、バイクに乗って猛スピードで向かってくる。バイクのライトは上向きで、それはまるで自分の存在をアピールしているかのようだった。
 警察署の外側で、鋼牙と零と一也が、警察署の内側で、翔太郎とフィリップと良牙と石堀が、それぞれ戦闘の準備をしている。

 孤門に関しては、既にディバイトランチャーによる援護射撃を行っていた。
 弾丸がガドルの周囲のアスファルトを弾いていく。何発かはガドルに命中しているはずなのに、全く手ごたえがない。──孤門の位置からは、辛うじてガドルの後ろにもう一人何者かが載っている事だけには気づく事ができた。

「孤門、無駄だ。あいつに弾丸は効かないッ!!」
「じゃあどうすれば……」
「とにかく、俺たちに任せてもらえればいい!! ……奴を倒すには、ただの人間の力じゃ駄目だ!!」

 神経断裂弾をこれ以上発射しても、ただ貴重な一発を秒速400メートルのスピードで放り棄てるだけにしかならない。
 それは、二度もガドルに神経断裂弾を発射しながら、仕留めきる事ができずに今に至る石堀には尚更よくわかる話であった。
 奴は一度あの弾丸を喰らう事に進化しているのだ。

「チィッッ!! なんで生きてるんだよォッ!!!」
「ガドルは死んだんじゃなかったのか!!?」
「ありえない……首輪じゃ殺せなかったのか!!!!!?」

 それぞれが口ぐちに、ガドルへの恐怖の入り混じったような声で、何処かに漠然とした怒りをぶつけた。誰にぶつければいいのかさえもよくわからなかったが、ただただガドルを野に放った何かが憎いほどだった。

 彼の死を知った時には晴れやかだった心が、この時とは一瞬で曇り、今の天気と同じく、絶え間なく音を立てて降り注ぐ大雨のような気分に成り果てていった。
 絶望。
 そう呼ぶべき物は、ここまで何度来たかわからないが、こうして目の前に真っ直ぐ向かってくる影こそ、これまでのこのゲームにおいて、最も確かな絶望を形にしていたのではないかと思われた。

「殺戮のショーの始まりだ──」

 ン・ガドル・ゼバは流暢な日本語でそう言ったのを聞き取った物はいないだろう。
 ガドルが接近する。
 三十メートル……。
 二十、十……。

「くそっ」

 そこでマシンにブレーキがかかる。
 いやに冷静に彼は座席から、後ろの女性を下した。躊躇なく頭から雨を浴びる妖艶な美女の姿に、見惚れる隙はなかった。女性は、こちらの攻撃を仕掛けるのかと思いきや、バイクより後ろに回り、にやりと頬を釣り上げた。まるで戦闘の意思がないようにも見えた。
 その人物が何者なのか……というのは気になったが、──それよりも問題はガドルである。
 彼は片足を上げ、ゆっくりと彼らの前に立った。

「……リントは皆殺しだ」

 そう、乾いた声で呟いた。
 そこには別に、恨みがこもっているわけでもない。ただ、目の前にある障害を殺しつくそうという気概だけが確かに存在した。いわば、殺人マシンだ。そこにあるのはもはや、武人でも何でもない。
 冷淡に、ただあるべき物を全て敵ととらえ、己の強さを以て全ての排除の為に行動する。
 それがガドルの目的であり、ガドルの全てであった。究極体となった今、尚更強い戦闘の本能がガドルを支配している。

「──死ね」

 ガドルが鋼牙たちの前に歩み寄り、右手を翳す。
 ──ボゥッ。
 鋼牙の魔法衣を包むように、炎が燃え上がる。この雨の中でも、その火力は強かった。
 彼らが使う炎は並の炎ではない。物質を分子レベルで分解して燃焼させる技である。
 たとえ、この大雨の中でも、その能力は変わらない。暫く雨に晒さなければ消えない炎えあった。──だが、そうして時間を待つのも面倒だ。
 鋼牙は頭上に円を描いた。──99.9秒。
 黄金騎士の鎧が鋼牙の全身を包むと同時に、残る時間を報せる砂時計が下りる。

「──ハァッ!!」

 鎧を装着した事で魔法衣の炎は鎮火し、黄金剣が鞘から顔を出す。即座に飛び上がり、ガドルの肩に向けてその切っ先を叩き付けた。しかし、ガドルの体表を抉る事はなかった。
 ガドルは、能面のような顔のまま、刃を素手で掴み、乱暴に押しのけた。
 仮に低級のホラーならば、この瞬間には封印が完了していただろうが、そう上手く行かない──。一時のショックがガロを甘んじて数歩後退させた。

「鋼牙、こいつは並のホラーより強い! 油断するな!」

 再び鎧を装着し、ガドルの前へと突き進んだゼロが隣で叫んだ。
 彼は双剣を構えるなり、ガドルの脇腹を狙い、その滑らかな刃で斬りかかろうとするが、正真正銘、ガドルの体は、鋼鉄はおろか、ソウルメタルよりも硬い力になっていた。
 鎧の中で、零も眉を顰める。

「──くっ。さっきより、強くなってる……だと!?」

 これは、まさしく、あの暗黒騎士キバに匹敵する可能性も考慮しておいた方が良い相手かもしれないと、今の一撃で直感した。
 この敵は不味い。
 ──これこそ、まさしく正真正銘の悪の波動であった。闇の現象に精通している彼だからこそ、それを本能的に探り出す嗅覚は確かであった。

『鋼牙……! あれを使うぞ!』
「ああ、わかってる」

 ザルバの指示を待つまでもなく、黄金騎士ガロは次に己がすべき行動を一つ計画した。
 ある武器を使う。──いや、武器とは言わないか、”コイツ”も立派な相棒だ。

「──零、少し下がれ。轟天を召喚する」
「わかった!」

 ゼロが数メートル退く。
 ガロが飛び上がると、魔戒から蹄のある巨大な黄金の騎馬が召喚された。
 まさしく、これこそ敵から譲り受けた力といっても過言ではないが──もとはと言えば、鋼牙が試練に打ち勝ったからこそ得た騎馬だ。
 その魔導馬も、制限が溶けたというのなら、使わない手はない。制限については、先ほど警察署内で一応鋼牙から訊いて、零も耳に通している。──こんな事ならば、もっと早めに単独行動をしておくべきだったと思いながら、ゼロは魔導馬の召喚を見届けた。



 轟 天



 ──ガロは魔導馬・轟天に跨ると、黄金剣を一回り大きな牙狼斬馬剣へと変じる。
 この敵を葬るには数倍のパワーアップが必要であるのは一目瞭然だ。
 轟天が心地よい蹄の音を鳴らして、ガドルへの距離を縮めた。

「フンッ」

 ガドルがガドルソードを二本生成する。究極体になった彼は、これまでのあらゆる武器を全て操る事ができるのである。物質変換能力で出現する、ガドルロッド、ガドルボウガン、ガドルソードは全て同時に出現させる事ができるのだ。
 牙狼斬馬剣は正常にガドルの真ん中の角を狙うように──ひいては頭蓋骨を破壊する事を目的としたように──振り降ろされるが、それは一対のガドルソードの交差に阻まれた。
 今しがた、火花のような物が散ったものの、それは今となっては矮小な物に見えた。──より一層強力な炎を見た後では、大した事はない。

「変身ッ!!」

 隣で、一也が構え、仮面ライダースーパー1へと身を変じた。
 増援の必要を感じたのだろう。今、自分にできる事はこうして傍観する事だけではない。
 魔戒騎士の力がいかなる物か、というのに見惚れている場合ではない。

「セイクリッドハート・セーーーットアーーーップ!!」

 釣られるようにして、ヴィヴィオが大人モードへと変身する。
 後衛のような形で、スーパー1ヴィヴィオがその場についた。
 レイジングハートは、ダミーメモリを握りしめ、意を決したようにそのメモリを再び自分の腕に押し付けた。

──DUMMY──

 レイジングハートはダミードーパントへ、ダミードーパントは高町なのはへ、一瞬で姿を変えた。その様子に目をぱちくりさせる様子はなかった。
 とにかく、ヴィヴィオたちもガドル戦をしなければならない。
 おそらく──ガロだけでは、戦いきれないだろう。

「──チェンジ、冷熱ハンド!!」

 ファイブハンドを冷熱ハンドへと切り替えたスーパー1は、ガドルに向けてその指先を向ける。
 真っ直ぐ前には、振り下ろされるガロの牙狼斬馬剣をガドルソードで防ぐガドルの姿がある。今はガロの攻撃に気を取られている最中だ。──タイミングは良い。

「冷凍ガス、噴射!!」

 そこから大量の冷凍ガスが噴射され、ガドルの足を凍らせる。──が。
 それはまるで、高温の鉄板に氷を押しあてたような物だった。
 今のガドルは周囲に炎を出現させる事もできる。自分の周りの体温・気温の調整くらいは容易であった。仮に彼が南極に行けば、それこそ一瞬で地球を大洪水が襲うだろう。

「無駄だ」

 それは無情な一言だ。冷熱ハンド、電撃ハンドはこれでは使えないと来ている。

 ダグバ以上に厄介な相手だ。──どういうわけか、翔太郎の話ではダグバ以下だったはずのガドルが、いつの間にかダグバ以上になっているという、恐ろしい事態であった。

「──お前たちは逃げろッ!!」

 スーパー1たちの援護に気づいたガロが、咄嗟にそう叫んだ。
 それと同時に、轟天の鼻先に、ガドルソードの柄が叩き付けられる。鎧が内側から割れるような音が鳴るとともに、轟天が哭いた。
 更に、また一撃。
 轟天の首を狩ろうとしたのか、ガドルソードは首元に向けて叩き付けられた。

「零、 奴らを安全な所へ連れて行けッッッ!!」
「駄目だ、俺も戦う!!!」

 ゼロがガドルに向かっていくが、ガドルはゼロに視線を向けなかった。
 一つの攻撃の機会が訪れたと思い、ゼロはそのままガドルの元に疾走していく。
 一瞬。
 まさしく、一瞬で、ゼロの体は数メートル吹き飛ばされた。──ガドルは、ゼロの方に目をやらなかったはずだが、それでもゼロの気配は感じ取っていた。脇目もふらずにカウンター攻撃を仕掛けたガドルに、誰もがその異様さを感じ取っただろう。
 吹き飛ばされる瞬間、ゼロの目の前を何かが掠めた。
 それが、ガドルソードの、目視不可能なレベルの剣舞であった事を彼は知らぬまま、地面に後頭部を強打して転がっていく。

「──くっ……!!」

 ゼロがその怪物を前に圧倒的な実力差があると確信したのは、まさしくこの時だった。
 いや、確かにガドルが自分より強いというのは既に判然としていたが、それだけではなく、姑息な手段や弱点を突くような真似が通じるような相手ではなくなってしまったという事だ。まさに、「死角がない」相手であった。

「零さんっ!!」

 慌てて、ゼロの元にヴィヴィオが駆け寄る。

「ヤバいな。思った以上だ」
「大丈夫です。私たちが力を合わせれば──」
「全員でかかっても……どうだか」

 戦闘と鍛練を生業とするプロフェッショナルがこう言うのである。
 ヴィヴィオはその一言に愕然とする。
 仮に逃げたとして、すぐにガドルが追い付いてくる可能性だってある。その場しのぎの戦いができないならば、このまま放っておくのも難しいのではないだろうか。

「残念だが逃げ場はないぞ。全て潰しておいた」

 ──横からそう言ったのは妖艶な女性、バルバであった。
 薄く笑みを浮かべながら、腕を組んでこちらを見ている。──まるで、足掻いているリントたちの姿を見て、楽しむように。
 しかし、それは決して敗北するリントを見て楽しむのではなく、場合によっては乗り越えてしまうかもしれないリントの姿を観戦しているようであった。

「……逃げ場がない、か」

 見れば、煙はどこからも湧いて出ている。
 このもくもくと上がる灰色の濡れた煙は、全て彼らがやった事だろう。
 念入りに逃げ場を潰してくれたらしい。このまま森の方や中学校の方に行く道は閉ざされている。
 海側に逃げる事もできなくはないが、それこそ生存率の低いゲームになるだろう。
 この人数で海を渡ろうとすれば、確実に渡り切る前にガドルたちに捕まってしまう。
 可能性があるのは、それこそこの炎の壁を正面突破し、焼けこげるか辛うじて生きるかの瀬戸際を彷徨うか、ヴィヴィオたちのように空を飛ぶ事だろう。
 しかし、空を飛ぶという選択肢は零にはない。

「──くっ、もう時間だッッ!!」

 99.9秒という時間はかなり短い。
 轟天がガドルによる度重なる攻撃で弱り切り、召喚時間も僅か。
 これはバトンタッチをする他ないようであった。鎧の中で、鋼牙と零は、99.9秒もの間全く敵にダメージを与えられていない焦燥感に苛まれていた。せめて、三途の池や魔女の結界内に現れてくれたなら、どれだけ都合が良かった事か。

 残り、4秒しかない──。
 3、2、──


 そこで、──ギリギリになってから、ようやくもう一人、助け船が来た。
 ガドルの方に真横から蹴りを叩き込もうと落下してくる、この場にいたもう一人の仮面ライダーである。

「くッッッ……!」

 突然の不意打ちに気づいたガドルは、敵の足元に向けて咄嗟にガドルボウガンを生成して空気弾を発射していたのだった。
 助けに現れた仮面ライダー──その体色は、

「緑の、ライダー!」
「黒の、ライダー!」
「いいえ、三色の────」

 目撃者によってバラバラであった。






 時間は少し遡る。
 ガドルが現れたのを確認した翔太郎たちは、しばし愕然としたが、すぐに自衛の行動に出なければならないのを理解していた。

「おい、なんで止めるんだよ、フィリップ……!」

 今は、すぐにでも鋼牙たちを助けようと窓枠に手をかけて飛び出していこうとした翔太郎を、フィリップが止めていた真っ最中であった。
 勿論、翔太郎がここから降りてゆこうとしてもただ転落死──運が良くてどこかを骨折する──だけでしかない。しかし、それを実行しかねないほど慌てていた状況である。
 ただ、慌てるのも良いが、まずは今、この警察署まで三十メートルの距離にいる怪人に、果たしてどうやって全員が生き残る作戦を練るべきかを考えてから出て行くしかないと思ったのだ。

「……まずは杏子ちゃん達をどうにかしないと。ここで僕らが出て行ったら、彼女たちは何も知らないまま孤立してしまう」

 そう言ったのは、孤門だった。
 それを聞いて、翔太郎がはっとする。女性陣は暁を連れては霊安室に向かったのだ。
 そこでは、外の様子など見えているはずもない。現在の異常事態をまず彼女たちは知らないはずだ。

「でも……!」
「──だが、安心してくれ、みんな。今、スタッグフォンを使ってリボルギャリーを呼んだ。リボルギャリーがここに到着するまでの間に、まずこの荷物を纏め、出て行く準備をしよう」

 フィリップが先んじて、孤門のフォローをするかのように、彼が行っていなかった支度を済ませていた。アイテムの類はなるたけ持っていくべきである。
 スタッグフォンを使ったリボルギャリーへの連絡、手に持てる限りの荷物集め。
 そんな様子を見て、良牙が訝しげに訊いた。

「……おい、じゃあここから逃げるのか?」
「それしかない。ただ、彼らは周囲の建物を燃やしてしまって森の方には逃げ場がなさそうだ。──ただ、僕たちには時空魔法陣がある。結城丈二が死んだ今、管理権限者は涼邑零だ。当然、彼を含めた全員を連れて、村エリアまで行く」

 結城や零が時空魔法陣を使って設定してくれたのは大助かりだ。今は鳴海探偵事務所と翠屋が時空魔法陣を発している地点になっている。それならば、そこをどうにか通って、ガドルが来る前に封鎖するのが最良の手だ。
 翔太郎同様に全員が飛び出してしまった場合、そうした手段は出てこない。

「俺が持っているアクセルのバイクフォームを使えば、……まあ、先に脱出してしまうのも悪いが、二名分の安全は確保できる。それから、外にあるハードボイルダーで二人。一足先に五人は脱出できる」

 石堀も隣で冷静に言った。

 そういえば、アクセルドライバーは石堀が持っていたのだった。
 照井竜の忘れ形見が、こうして思わぬところで拾われ、ダグバの打倒などに利用されていたのは全く、死して尚他人の役に立つ仮面ライダーの生き様らしいと思ったが、同時に照井竜が誇った仮面ライダーアクセルの力が彼以外に使われる事に対しての複雑な心境も翔太郎たちの中にはあった。
 しかし、こんな状況だ。使わせない手はない。

「……使うに越した事はない。とにかく、何も考えずに海沿いに逃げるんだ。そうすれば、鳴海探偵事務所への道がある。先に、残っている女の子たちの脱出を頼みたい」

 フィリップが石堀の案に概ね賛成した。
 逃げているうちは、相手も逃げ場がないと思って無視するだろう。その為に周囲を炎で囲んでいる。ただ、それはあくまで森側へのルートと、中学校側へのルートだ。行き止まりだと思われている海側には追ってこないだろう。
 先に脱出するのが良策だと言える。

「待てよ、これだけ人数がいれば……俺たちだって、あいつを倒せるんじゃないのか?」

 そう言う良牙の口調はどこか自信なさげでもあった。
 確かに、良牙や鋼牙レベルの人間が14人ならば──そして、その内数名を犠牲にしながら戦うのならば──勝つ見込みもあっただろうが、決してそうではない。
 良牙としては、一条薫のように、ガドルによって喪われた物を思い返すと、必ず勝たなければならない気持ちなのだろう。翔太郎も同じく、ガドルを前に奮い立つ何かを必死に抑えていた。
 そこが、子供か大人かの辛うじての違いであった。

「……あー、とにかくまず杏子たちを呼びに行くぞ。そしたら全員でリボルギャリーが来るまで時間を稼ぐ! 悪いな、マジックナイト……ヴィヴィオ、沖さん……ちょっとだけ待ってろ!」

 翔太郎が慌ててそう言う。
 行動方針を誤魔化そうとしているのだろう。とにかく、杏子たちを集め、戦う所までを教えておけば、それから先に逃げるという部分を誤魔化せるからだ。
 良牙は後ろで拳を握ったが、すぐに目の前を走っていった翔太郎たちの後を追った。
 また、ガドルから逃げなければならない──そんな心の痛みを連れて。






 霊安室前──。
 ありったけの荷物を抱えて前方から駆けてくる仲間たちの姿に、杏子たちは足を止めた。
 勿論、それがただならぬ事態である事だけは容易に想像がつく。
 しかし、その内容については全く思い浮かばなかった。
 レイジングハートなる敵が想像以上に強敵だったのだろうか──。

「どうしたんだよ、一体」

 慌てる翔太郎たちに対して、事態を知らない杏子たちは能天気に訊いた。
 しかし、翔太郎は、まるで怒ったような険しい口調で返す。

「ガドルだ。ガドルが攻めてきた」
「ええっ!? 死んだんじゃねえのかよっ!!」

 その一帯に、ざわめきが起こり始めた。
 この段階でガドルが生きている──ともなれば、まさしく不死身の生物との追いかけっこのような戦いだ。
 ただ、警察署の近くまでガドルが来ているという事は、こちら全員で迎撃態勢を取れば間違いないという事である。

「生きていたらしい。……それも、残念だが、以前より強くなっている。今はダグバ以上だ」

 そんなフィリップの言葉を聞いた時、杏子のソウルジェムが微かに濁った。
 まさしく、絶望を喚起する一言であった。多対一が無駄な相手であるのもこれまでの経験上、よくわかっているが、まさかガドルが強化されて戻ってくるなど思わなかったのだ。
 ラブ、美希、つぼみの絶句。暁はわりと能天気そうだが、事態の重みをそこまではっきり理解していないらしい。彼はガドルが敗北する瞬間しか見ていないからだ。

「ここは一旦逃げる。海上に出現した鳴海探偵事務所に向かう方針だ」

 石堀たちが、それから簡単にリボルギャリーやハードボイルダーを使った逃走経路について語り、それぞれが納得した。

「それから、ソルテッカマンも機動して使用します。リボルギャリーの重量を一人分でも減らして、早々に向かいたいんです。装着に補助が必要なので、誰か一人、僕についてきて……」

 使える物ならば何でも使う。その為には、この警察署内にあるソルテッカマンの存在も忘れてはならない。
 あれは、説明書によれば飛行能力も備えており、しばらくは有効に使える武器となる。
 今後使われる可能性も否めず、また、逃走手段としても利用できる事になるはずだ。

「わかりました。私が行きます」
「……美希ちゃん? 君は先に脱出した方が──」
「そんなに時間はかからないでしょ!? ラブたちは先に脱出してて。私は孤門さんと一緒に……」

 何か考えがあるようでもあった。
 全員が、そんな様子を不安そうに思いながらも、頷くしかなかった。
 時間はない。

「……じゃあ、無事でね、美希たん」
「うん。すぐに行くから……!」

 そして、翔太郎たちは警察署の外へ行くためにそれぞれ、戦闘準備を整える。
 この全員揃った場でこそ、丁度良い頃合いであった。

「「「変身!!!」」」

──CYCLONE!!──
──JOKER!!──
──ACCEL!!──
──ETERNAL!!──

 左翔太郎とフィリップが仮面ライダーダブル、石堀光彦が仮面ライダーアクセル、響良牙が仮面ライダーエターナルに変身する。
 この三人の仮面ライダーが組む事になるとは、翔太郎たちは思いもしなかっただろう。

──EXTREME!!──

 そして、この状況で最も脱出に即した姿になるためにエクストリームメモリを呼び、フィリップをガイアスペースへと収納する。エクストリームメモリがドライバーに装填されると、ダブルはその両半身を真ん中から引っ張り、仮面ライダーダブル サイクロンジョーカーエクストリームへと強化変身した。
 フィリップの体を抱えて逃げる事になるのは不便であるゆえの措置だ。

「「チェインジ!! プリキュア・ビィィーーートアーーーップ!!」」
「プリキュア!! オープンマイハート!!」

 桃園ラブがキュアピーチ、蒼乃美希がキュアベリー、花咲つぼみがキュアブロッサムへと変身する。

「ピンクのハートは愛あるしるし! もぎたてフレッシュ! キュアピーチ!」
「ブルーのハートは希望のしるし! つみたてフレッシュ! キュアベリー!」
「大地に咲く一輪の花! キュアブロッサム!」

 三人のプリキュアがこの場に並ぶ。
 これが、生き残る唯一のプリキュアたちであった。

「はぁっ!!」

 佐倉杏子がウルトラマンネクサスへと変身する。
 その姿を初めて見る事になった孤門と石堀の内心は、それぞれ別の驚きに満ちていただろう。

「燦然ッ!!」

 暁がシャンバイザーを装着してシャンゼリオンへと変身した。

「行くよ、みんな!」

 ただ一人、生身のままの孤門が合図した。






「はああああああああああああああっっ!!!」

 ──そして、時間は戻る。

 黒、緑、クリスタル──ガロとゼロとヴィヴィオが見た、その三色の体色の戦士こそが、この警察署内からの増援・仮面ライダーダブル サイクロンジョーカーエクストリームであった。今放たれているのは、プリズムメモリを装填したマキシマムドライブ、ダブルプリズムエクストリームである。
 周囲はもはや、大暴風雨といっていい状態だ。
 その中で、追い風が力を貸し、一層マキシマムドライブのエネルギーは強化されて放たれたはずだった。

「ぐあああっっ!!」

 だが、──ダブルの体が、ガドルに辿り着く前に後方へと吹き飛ぶ。
 今、何故か追い風ではなく、確かな向かい風がダブルに直撃したのである。
 それが何か──と考えた所で、ダブルはガドルの手に握られたガドルボウガンを目にした。そこから今、吸収された空気が押し出されたのだ。
 大雑把な追い風よりも、限定してダブルを狙った弾丸の速度の風がダブルを撃ち落した。
 地面で転がっている真っ最中に、クリスタルサーバーからフィリップの声が聞こえる。

「翔太郎、奴は物質変換能力で周囲の物を別の物質に変える事ができる。棒、銃、剣……そうした武器を作り出せるのが彼らグロンギだ」
「マジかよ……」
「こっちも強力なシールドを持って戦おう」

 そう言われるなり、ダブルはプリズムビッカーを出現させた。
 それにプリズムメモリを挿し、プリズムソードとプリズムシールドに分離させる。
 しかし、ガドルに挑むには少し頼りない武器であるようにも思えた……。

「ハァァッ!!」

 そんな最中、ガドルに向けて放たれた光弾──それは、ガドルがかつても見た事のある戦士の手から放たれた物だと気づいた。
 ウルトラマンネクサス。
 かつてガドルが戦ったそれは、姫矢准が変身したものだったが、今は違う。

──Puppeteer Maximum Drive!!──

 そして、ガドルに向かって飛んでくる何本かの糸。
 ガドルは即座にそれを超自然発火能力で焼却する。

「ちっ。やっぱり無駄か……」

 かつて、ここにいない人間に指示された通り、パペティアーメモリを使ったマキシマムドライブを企てたが、どうやら失敗だったらしい。
 ガドルを真剣に撃退するには、方法は一つ。

「力ずくしかないってわけか。その方が俺には似合ってるぜ!」

 仮面ライダーエターナル──響良牙は、そう呟いた。
 その姿を見て、ガドルはかつて自分に挑んだ「究極」を思い出す。まさしく、今のは彼の力であった。

 更なる増援がやって来たのだ。
 ほんの数秒遅いが、それは翔太郎が予想以上に先走った結果そのものである。
 良牙や杏子は少し彼に大人げなさを感じつつも、その判断は間違いではないと思った。
 更に遅れてやって来たシャンゼリオンは、どうやらあまり戦いに乗り気ではないらしい。──周囲の惨状がよく見えているのは彼だけだ。

「──俺に挑んできた奴らの集大成だな。面白い」

 ネクサス、ダブル、エターナル、ガドル。全員がそろい踏みして、対峙し合っている。
 ついでにガドルはシャンゼリオンも見やった。なるほど、これまでの客人たちが勢ぞろいしているわけだ、とガドルは昨日と今日の一日を懐かしんだ。

 唯一、決定的に違うのは、死者の不在、そして全員があの時よりもパワーアップしているという点だった。
 ガドルは、その時、あの無骨な軍人堅気の男とは思えないほど鮮やかに──笑った。






「零、 こっちだ!」

 そんな戦いの影で、仮面ライダーアクセルが強い口調で合図した。
 零は、咄嗟に聞こえた呼びかける声に反応する。

「何だ、一体!」

 暴風雨に体を濡らしている零は、そちらに目をやって、これまた強い口調でそう答えた。
 切羽詰まった状況のため、双方ともこんな状態なのである。

「ハードボイルダーを使って逃げろ、ここを離脱する!!」
「何だと……?」
「魔法陣だ! あれを使って全員を送り届ける!! リボルギャリーは呼んだ!! 俺たちで先に離脱するんだ!!」

 その言葉を聞いて、零がはっとした。
 そうだ。逃げ場はないように見えるが、鳴海探偵事務所に行けば時空魔法陣があるではないか。──しかし、ガドルが来ないようにその出入口を封鎖するには、確実に零の力が必要になる。
 「対象者」であった結城丈二が死んだ以上、「準対象者」である零があのゲートを繋ぐ役割を持つ事になっているのだ。

「だが……!」

 咄嗟に頼るように鋼牙を見つめてしまった事を、零は後悔した。
 仮にも、零と鋼牙はライバルだ。まるで上下関係のような物が芽生えてしまっているのは心苦しいところがある。──まあ、未来の存在である鋼牙の方が経験値が高いのは仕方がないところもあるが。

「──行け、零! お前にしか果たせない使命だ!!」

 その関係を理解したうえで、鋼牙は迷える零を一喝した。あくまで、彼は零に対して経験を踏まえた指示を出さずにはいられなかった。
 戦う為に鍛えて来たというのに、できるのが逃走の手助け──というのがどうにも心苦しく、零を悩ませる。

「いや、俺は魔戒騎士だ、最後まで戦う!!」

 そんな苦悩の中で、零が下した判断は、そうだった。──合理的というよりも、むしろ自分が望む判断である。
 しかし、鋼牙はそんな零に対して、より一層険しい目つきで叱咤する。

「そうだ、お前は魔戒騎士だ! だが、魔戒騎士は戦うだけの物じゃない。お前が行かなければ、仲間は誰が助けるッ!?」

 喉の奥から、そんな声が発された。
 この全てを濡らす大暴風雨の中で、鋼牙の声が零の体の奥に響いていく。
 そして、……。

「……」
「行け、零! お前は守りし者、魔戒騎士だろッ!」

 やはり、ここを任せる事ができる相手が自分しかいないというのなら、逃げるしかない。
 使命に目覚めたというよりかは、あくまでその論調に逆らえなかったのである。
 何せ、自分の我が儘な部分にも向き合わざるをえなかった。合理的な判断がどちらかというのは片が付いている。
 どうやら、今の自分では鋼牙に勝てない──という、そんな劣等感を抱きながらも、従うような判断を下す意味に気づいてしまった。

「…………わかった」

 腑に落ちないような気分もあるが、それが零にしかできない事ならば、そうするしかない。

 すぐさま、零はハードボイルダーの元まで走っていく。後ろ髪をひかれるようなところがあったが、彼は振り向かなあった。
 彼は機体を前にすると、そこにいる女性陣の誰を乗せるかを考えた。
 目の前のアクセルは、ラブとつぼみを先に乗せている。全自動で進んでくれるバイクとは随分つまらない物だと思いながらも──三人も纏めて脱出できる彼の構造に安心した。

「おい、乗れ!!」

 ざっと見て、一番乗せるべきと判断した相手は、ヴィヴィオとレイジングハートしかいない。そちらに顔を向けて叫んだ。
 そこで零にこれからの行動について訊いたのは、レイジングハートであった。

「ここから逃げるんですか?」
「そうだ!」
「……わかりました。ヴィヴィオを乗せて先に。後は任せてください」

 レイジングハートは言う。
 まだ零に対する不信は完全に拭われたわけではないが、この状況下、ここに残らせるより遥かに安全なルートであるのは確かだ。
 第一、鋼牙と零の会話を見た限りでは、──それが演技とは到底思えなかった。

「あんたは? どうするんだ?」
「ダミーメモリの力で何らかの移動手段に擬態し、ここに残っている人たちを救助します」

 レイジングハートは現状、高町なのはの姿をしている。てっきり人型にしか擬態できないように思われたが、実はやろうと思えばバイクや車に擬態する事だってできるのである。
 ヴィヴィオも勿論、空を使って移動する事はできるが、空に行くと目立ちすぎる欠点がある。ガドルはガドルボウガンを持っており、相手が空にいようが撃ち落す絶対の能力があったのだ。ビルの影に隠れなければ勝機はない。

「……レイジングハート」
「あなたがマスター──なのはたちの娘であるならば、私の中にもまだ希望はあります。──あなたが生きている限り、私はこれから先、絶望する事はないでしょう」
「……」
「だから、行ってください」

 そんなレイジングハートの言葉を聞いて、「無事でね」と険しい顔で返すと、ヴィヴィオはハードボイルダーのエンジンをふかした零の後ろに乗り、ヘルメットを被り、零の腰に腕を回した。
 零が発進すると、レイジングハートの姿はだんだん遠くなっていった。
 続いて、つぼみとラブを載せた石堀の機体が発進した。






「フンッ!!!」

 ガドルの一撃で、周囲一帯が火の海になっていく。何もなかった場所に、瞬きする一瞬の間に灯される業火は、まさしく怪奇現象である。こうして、土砂降りの雨の中でも無関係に発される掌からのそれに、誰もがたじろいだ。
 回避しきれず、ダブル、エターナル、シャンゼリオンの体に火がともされる。咄嗟に、彼らはそれを必死で振り払おうとした。
 数歩下がって辛うじて避けた鋼牙やスーパー1の前で、アスファルトの地面が燃える。

「くそっ! なんだこりゃ!」
「迂闊に近寄れない……!」

 それぞれが必死に火を払おうとする。
 辛うじて、直前でバリアを張る事ができたネクサスだけがその防御に成功した。
 他が炎に苦しんでいる最中に、ネクサスが単身、ガドルの方に突っ込んでいく。

「デュア!!」

 アンファンスパンチがガドルの胸板に届く。──が、全く効かない。想像以上の手ごたえのなさだ。逆に腕の方が痛むくらいだ。
 ガドルの口から換言してみれば──

「弱いな」

 ──そんな一言であった。
 すると、ガドルがネクサスの腕を捻り、地面に向けて突き放した。
 ネクサスの体は苦痛の雄叫びとともに地面を跳ね、そのままダブルの元に跳ね転がっていく。

「ハァッ!!」

 だが、ダブルの前でネクサスは立ち上がると、その体をパッションレッドへと変える。
 ジュネッスの力を解放したのである。
 こうなるとより一層彼女の力は強くなる。──眼前で姿を変えたネクサスに、ダブルは彼女が初めてこの姿になった時の事を思い出し、感慨深い気持ちになった。
 攻撃力、防御力、スピード、あらゆる面でこのネクサスのジュネッスがアンファンスよりも優位なのは確かな事実である。そのうえ、相乗してアカルンによる移動効果も期待できるはずだ。

「ハァ……」

 ネクサスの構え。
 それは、かつて血祭ドウコクさえも飲み込み吹き飛ばした──オーバレイシュトロームであった。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

両腕から放たれる青白い光──それがガドルの元へと向かっていくと、時を止めるかのように、雷が鳴った。
 雷鳴と稲妻の光が、そこにある全てを真っ白に照らし、無音まで作った。
 どうやら、雷が警察署の避雷針に直撃したらしい。この至近距離で雷が落ちた事で、誰しもが心臓を高鳴らせ、死さえも確信したほどだ。
 なんとタイミングが悪い。

 ゆえに──光線が命中したかどうか、即座には判断できなかった。

 いや、もはや直前に光線を放った事さえも一瞬忘れかけてしまうほどである。
 この雷雨と大風の中で、オーバレイシュトロームの成功を祈った時には、既にそこにガドルの姿はない。

「──フンッ」

 回避、していた。
 今のガドルには瞬間移動能力がある。オーバレイシュトロームの威力を眼前で推し量り、あえてその瞬間移動を使って回避行動を行ったに違いない。
 ガドルが移動した先は、オーバレイシュトロームが目の前の火の海の中に一筋の真っ直ぐな逃げ道を作った真横であった。

「炎を掻き消す力か、面白い」

 しかし、命中しなければどんな強力な攻撃も意味は成さない。
 突然発動したその攻撃に、ネクサスはまたも愕然とする。

「チェンジ!! レーダーハンド!!」

 スーパー1はレーダーハンドに切り変え、レーダーミサイルを使う。
 レーダーとしてではなく、爆弾としての機能を使い、向かってくるガドルの体を爆破させた。その一つがベルトを狙ったが──あいにく、それを察知したガドルは、ベルトを手で隠した。ガドルの腕でミサイルが爆ぜる。
 あれが唯一の弱点である。あそこを狙わなければ勝機はない。

──Heat Maximum Drive!!──

 電子音とともに、エターナルの手から──

「灼熱獅子咆哮弾!!」

 ──が放たれる。
 ガドルの体に直撃し、爆発。ガドルの体を灼熱の獅子咆哮弾が飲み込む。
 が、ガドルはその中でニタリと笑い、悠然と立ち構えていた。
 まるで、ダグバのベルトの中にあった乱馬の記憶を思い出しているようだった。

「だが弱い」

 仮面ライダーエターナルに灼熱獅子咆哮弾を受けるのは二度目だ。
 この能力に感じた究極の力、──今となってはよくわかる。

 それは、全くの勘違いであったと。
 ガドルに直撃した灼熱獅子咆哮弾は、さしてダメージを与えなかったのだ。

「クソッ」

 大嵐の中で、ガドルは不意に警察署の方を見上げた。
 この塔を崩せば、もしや、ここにいるリントどもは全員潰れるのはないか、と咄嗟に思ったのだ。その為に充分な高さが警察署には備わっていた。
 なるほど。──そこで勝ち残った相手と戦うのも一つの興だ。
 これだけの相手と戦うのは楽しいが、同時にただただ徒労感もある。
 弱い相手に限っては、今のうちにこのまま潰してしまうのも一つの手ではないかと──ガドルは思案した。

「──」

 ガドルが、目の前に向けて掌を向けた。
 それが、攻撃の動作であるのはこれまでの戦いから一目瞭然である。
 ゆえに、全員が咄嗟に回避運動を取った。
 ──が、誰の眼前でも炎は上がらなかった。

「──!?」

 めらめらと燃え上がる音が聞こえるのは、彼らの後方。
 即座にそちらを振り向くと、警察署の入り口──いや、一階のほぼ全体に向けて、炎が上がっていた。中でスプリンクラーが作動する音がするが、全くそれが意味をなさないのははっきりとわかっている。
 炎は次の瞬間、よりいっそう勢いを増した。

「──孤門!」
「美希ちゃん!」

 そうだ、中にはまだ二人が残っている。
 その二人がいる以上、これは危険な事態だとすぐに順応できた。

「ハァァァァッ!!」

 さらに次の瞬間、まだ倒壊しない警察署に向けて、ガドルは無差別に空気弾を発射する。
 支えになる物が次々と破壊されたらしく、中で轟音がした。誰もガドルの攻撃を止める事はできなかった。

「──くっ!!」

 瞬間、ネクサスの体がその場から消えた。
 アカルンを使ったのである。
 中に残っている美希と孤門を助けるべく、──杏子が咄嗟に行った行動であった。


 それを見て、何となくほっとしたのも束の間、警察署はそのまま燃え盛る炎とともに、自分たちの方に向けて倒壊を始めていた。
 自分たちの真上に作られている大きな影の正体が、それであると気づいた時、全員の感情は一つになった。
 ──まずい。
 ただの人間ならば確実な死。そして、仮に変身して強力になったとしても、彼らには深刻なダメージを与えるであろう攻撃だ。場合によっては、強化された体であっても死んでしまうかもしれない。

「──くそっ!」

 ダブルは自らに影を作っていくその警察署の倒壊に舌打ちした。
 そこにいる全員が、慌てて警察署の真下から避難しようとする。
 だが、驚くべき事に、今見てみれば彼の周囲は全面、炎によって囲まれていたではないか。
 逃げ場が作られていない。
 炎に突っ込んでいくか、あるいはビルの倒壊に巻き込まれるかの二択だ──。

(どうすりゃいいんだよ……っ!! クソッ……! これじゃあ……)

 ダブル、エターナル、スーパー1、シャンゼリオン、鋼牙、レイジングハート──全員がその場で身を寄せ合った。
 周囲は須らく炎に包まれ、真上からは建物が倒壊してくる。
 ガドルがこうして纏めて参加者を消す手段を選び始めた事で、以前にも増して知的な戦闘方法が使われた現状を、彼らは呪った。

(このままじゃ……)

 嵐が彼らの周囲から吹き荒れていた。






 キュアベリーと孤門は、トレーニングルームでソルテッカマンの装着を完了させていた。
 一応、最後の武器がこれで脱出という事になったはずだ。
 辛うじて、それに対する安心感でほっと胸をなでおろした孤門たち。

「──これで終了ねっ!」
「うん、早く行こうっ!」

 ソルテッカマンの装着には単独作業は難しい。こうしてキュアベリーに手伝ってもらう必要があった。あとは脱出するだけだ。
 脱出経路はよくわかっている。ただ、その脱出経路に向かおうとした瞬間、──

「な、なんだっ!!」

 突如として雷が周囲の窓を真っ白にして、鼓膜に轟音を鳴らした。
 雷である。
 まさしく、この警察署の真上に落ちたらしく、避雷針に落ちた雷が巨大な音を立てた。
 キュアベリーは思わず、耳を塞いでしゃがんで驚いてしまうほどであった。

「びっくりしたね……」
「あわわわわわわわわかかかかかか雷がががががががががが」
「まあ、そうなるよね……」

 流石の孤門も驚いたほどである。
 ソルテッカマン越しに、キュアベリーの慌てようを見つめた。
 とにかく、何があっても今はすぐに脱出しなければならない。
 ソルテッカマンはキュアベリーを抱き起すようにして、手を退くと、すぐに脱出の準備をした。

「──孤門、さん。待って」

 突然、キュアベリーが声をかけ、少し乗り気でない様子で立ち止まった。
 それを、孤門は黙って見つめた。
 もし孤門がソルテッカマンを装着していなければ、袖を引っ張っていただろう。

「……アインハルトたちは?」

 上目遣いで、美希はそう訊いた。

「──」

 孤門も、気づいていた。
 そう、この警察署にはアインハルトたちの遺体も綺麗なまま残っている。
 しかし、誰もその事について触れようとはしなかった。──勿論、孤門と美希に限らず、誰もが気づいてはいる。
 この警察署にアインハルト、月影なのは、暁美ほむらの遺体があるという事だ。
 勿論、遺体というのは生者にとって、何にもならない物ばかりである。持っていくわけにはいかない。、だからこういう場所以外でも焼かれて、埋葬されていくのが自然であった。
 そんな物を持ち歩いて、果たして何になるというのだろう。──しかし、こうして一緒に逃げさせてやる事ができないのは、至極残念な話で、蒼乃美希はそれに苦悩しているのだろう。

「……置いていく……」

 孤門は、何かを飲み込みながら答えた。
 そう返すのは辛かった。できれば、聞かないでほしいところである。
 誰も触れない事で、忘れておきたい現実であった。

「……」

 勿論、わかっている。それが何の意味もない事に。
 ──だが、一緒にいた仲間がそこにいる以上、キュアベリーは置いていくような冷徹な判断がしづらかった。

 意味がない事なのに。
 右脳でわかっていても、左脳がそれをさせない。

「……やっぱり、私、みんなも連れていきますッ! いくら何でも置いていけません!」

 思わず、キュアベリーはそんな判断を下してしまった。
 そして、次の瞬間には、霊安室の方へと走り出してしまっていた。

「ちょっと……美希ちゃん!」

 ソルテッカマンが追いかけようとするが、この警察署内ではこの姿が結構いっぱいいっぱいで、身動きがとりづらい部分がある。
 元々、巨大なパワードスーツに順応した作りではないのだ。
 辛うじて、廊下は広く、天井がある程度高いので何とか歩いて行けるが、霊安室がパワードスーツの出入りを許容できるような作りになっているはずがない。
 先にそそくさと霊安室に向かっていくキュアベリーの背中を追おうとするが、──

「すぐ戻りますッ!! 先に──」

 返って来たのは、そんな無茶な指示であった。
 そして、その時、警察署で突如として警音器が鳴り響いた。
 同時に、孤門のたちの下の階でスプリンクラーが作動した。五月蠅い音が周囲を囲む。
 どうやら、火災が発生したらしいというのは、孤門の経験上、すぐにわかる話だった。

「美──」

 それに気を取られている隙に、キュアベリーの体は遠くへ見えなくなっていってしまった。更に直後には、轟音とともに、警察署が一気に傾いた。
 突然次々と起こる現象に、孤門は恐ろしささえ覚える。
 これは──まさか。
 本当に、正真正銘、死んでしまう場面なのではないかと。

「……ッ!!」

 だが、孤門の中にあるレスキュー隊の魂は、ここで諦めるという事をしなかった。
 ──諦めるな。
 その言葉が孤門の胸にある。そして、それを心の中で唱えた。
 すぐに美希を救出する。その為に、霊安室に向かわなければならない。

「必ず助ける……ッ!!」

 ソルテッカマンが、すぐに霊安室に向かって走り出した。






「……まったく、何なのよっ!」

 霊安室の前で、突然傾きだした自分のいる建物で、キュアベリーは壁に頭をぶつけていた。
 震度でいえばどれくらいだろうか。──巨大自身に巻き込まれたような感覚であった。
 ただ、とにかく霊安室の中の遺体を回収して、一緒に逃げ出したかった。
 少なくとも、ここにいるうちの二人は一緒に時間を過ごした仲間なのだ。

(ここに来ると、やっぱりあの時の記憶が蘇るわね……)

 そう、ダークプリキュアによる殺害の記憶だった。忘れもしない。しかし、今は彼女自身が生まれ変わり、ここに眠っている。
 ベリーは必死に霊安室のドアを開けようとするが、今こうして建物がズレたせいか、すぐには開かなかった。
 立てつけが悪いのだろうか──手間取っている時間はなさそうなので、仕方がなく、キュアベリーはそのドアを蹴破った。
 鉄製のドアが前に向けて吹き飛ぶ。──今のが遺体に当たらなければ良いな、とキュアベリーは思う。
 とにかく、それで開いた霊安室の中に入ってみると、ドアは三人の遺体を傷つけていないようである事がはっきりとわかった。

 ──が。

「きゃあっ!!」

 警察署が更に傾いたらしく、丁寧に置かれていた遺体は、地面に向けて落ちていってしまった。例外なく、三つとも。
 既に地面が四十五度近く傾いており、このまま行けばかなり危険というラインまで来ていた。

『おい、何してんだよッッッ!!!』

 突如、謎の声がキュアベリーの後ろで響いた。
 それと同時に、ソルテッカマンがこの場に辿り着く。
 孤門の声かと思ったが、どうやら違うらしい──すぐ近くを見ると、杏子が変身したウルトラマンネクサスが前にいた。
 その体は、どこか見覚えのある体色であった。

「キュアパッション、いえ……」
『私だ、杏子だ!! なんでこんな所にいるんだよっ!! 探したぞ、二人とも!!』
「杏子! どうしてここに……!?」
『アカルンの力を使わせてもらった。すぐに逃げねえと、この警察署も倒壊する──っていうか、今も倒壊してるんだよッ!! 逃げるぞ!!』

 杏子が叫ぶようにして言った。
 それは間違いなく、怒号というやつだった。
 既に四十五度傾いているという事は、このまま一気に九十度まで傾き、完全に倒れてしまうという事だった。時間が全くないのである。

「待って、杏子。みんなの遺体を……!」
『馬鹿な事言ってるんじゃねえッ!! こいつらはもう死んだんだッ!! 持ってきても何にもならねえッ!! このままだと、お前も死んじまうぞッ!!』

 警察署は一層、地面との角度を鋭くした。既に鋭角になっており、キュアベリーとソルテッカマンも地面に立つ事ができなくなる。

『──なあ、こいつらだってさ、美希に死んで欲しくねえって言ってるよ……お前だって、同じ状況ならそう思うだろ?』

 だんだんと焦りが見えているはずなのに、杏子はかえって優しい口調で、そう返した。
 警察署がだんだんと散らばっていき、地面に向けて倒れかけようとしていた。
 中に在る色んな物がキュアベリーに降りかかってくる。──そんな最中、キュアベリーは涙も流した。
 しかし、反論はなく、それは肯定している証であった。

『二人が限界だ。これ以上は連れて行けない……だから、行くぞ……!!』

 ネクサスは、そう言ってキュアベリーとソルテッカマンの手を繋いだ。
 キュアベリーは、ここに仲間たちを置いて逃げてしまう事が心苦しく感じられたが、半泣きの表情で、──それでも、決断を下すしかなかった。
 できれば、こうはしたくなかった。

「……」

 もし、できるのなら、一緒に連れて帰りたかった。
 遺体くらい、こんな所で形をなくしていかせるよりも、元の世界に返してあげたかった。
 だが──

「…………うん」

 それはできなかった。

 アインハルトという少女がここにいた事も、だんだんと忘れられていってしまうのだろうか。
 折角、ダークプリキュアが得た人間の体も、こうして朽ち果て消えていってしまうのだろうか。
 ネクサスは、その手を強く握るなり、すぐさま、二人とともに姿を消した。

「あっ……!!」

 ──だが、キュアベリーがそこから消える前、彼女は一瞬、不思議な物を見た気がした。

(──)

 いやはや、そんな事はありえない。
 もう身体機能が止まった彼女たちの遺体が、表情を作る事など、全く非科学的でありえない事象である。

 ──仮に、そんな事象が起こったと誰かに言っても、おそらくは信じないだろう。
 いや、言う気もない。これから美希たちの旅路で、そんな事を再確認する必要はない。

 だが、ただこの瞬間の不思議な体験は、キュアベリーの目に涙を流させるというよりかは、ただ茫然とそれを見送らせた。
 彼女の友人に送りたい姿であった。……ただ、もしかしたら、彼女にそんな顔を見せないのは、一枚の写真の中にそれが残されてしまうのを躊躇したからかもしれない。
 何せ、死者は笑う事はない。それを、今回、特別に一度笑わせてくれたのだろう。──だから、その瞬間を写真に撮られてはまずかったのだ。

 これからこの倒壊に巻き込まれ、消えていく三つの遺体がある。
 そのうち一つの遺体は、生前、彼女たちの前で笑うことがなかった。細やかな笑顔さえ見せる事はなかった。それは、彼女の真面目な気質が由縁とする物だったかもしれないが、実際はある悲しい事情もあったのだ。
 アインハルト・ストラトスであった。
 そんな彼女が、薄らと──

 ──これから生きていく人々を激励するかのように、キュアベリーの優しき迷いを喜ぶかのように、杏子の賢明な判断を祝すかのように、あるいは、逃げて行った仲間たちの祝福を祈るかのように、──

 ──笑ったのが、見えた気がしたのである。






「──消え去ったか」

 安全な場所に立ち尽くすガドルの後ろで、警察署は完全に、その横腹を地面に叩き付けていた。今、目の前にあったはずの炎のサークルは巨大な衝撃に吹き飛ばされたが、まだまだ警察署の一階に灯した炎は、まだまだ確かにその勢いを増していた。
 ガドルは、笑った。

「フハハハハハハ」

 ここから誰が生き残ったのか、それを、いま振り返って見極め、その者と戦うのが最もやりやすいと思ったのだ。あの火の手を突っ切り逃げ切った者、崩れ去った警察署の下敷きになりながらも辛うじて生き延びた者──それと戦いたかった。
 これまでのように集団を相手にしても、姑息的な戦法を取ってくるのみで、全く面白くが無い。
 彼らは隣にいる仲間を信頼しすぎている。ゆえに、手を抜く。
 死の瀬戸際である事を感じてガドルに向かっては来ないのだ。だからこそ、そんな考えを潰す為に、一度、全て破壊させてもらった。

「……誰が生き残った?」

 ガドルは、ようやく振り返った。
 振り返る事で、そこに誰がいるのかを確かめる事にしたのだ。
 その瞬間までのお楽しみという奴であった。
 ガドルは、タロットカードをランダムに手に取り、死んだ者に向けて放とうとしていた──が。

「──」

 ガドルの目の前には、黄金の羽の戦士と、その腕が抱える一人の白い魔法衣の騎士だけがいた。

『そう言えば言ってたな。黄金の風がかつて、お前たちに奇跡を呼んだ……って』

 空から地を見下ろす鋼牙の腕の中で、ザルバが呟く。
 かつて、杏子を激励した言葉通り──今、仮面ライダーダブル サイクロンジョーカーエクストリームは、その中央のクリスタルサーバーを金色に変えていた。
 ガドルが起こした大暴風雨の風が、エクスタイフーンが吸収し、かつて風都の人々の祈りの風が叶えた奇跡を再び巻き起こしたのである。
 皮肉にも、ガドルが起こした異常気象が、ダブルをこの姿に進化させていた。

「──残ったのはお前たちだけか」

 ガドルがつまらなそうに言った。

「まあな」

 ダブルは、それにしては妙な余裕でそう言った。
 ガドルが訝し気に彼の姿を見つめた。




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最終更新:2015年12月26日 02:56