テーブルの上に広げられたアルミニウム製のシートの上に、
広瀬康一の頭部が横たえられている。髪の毛を剃り落とされた頭蓋骨は、真ん中で縦半分に切断され、外された頭蓋の内部は空洞になっていた。すぐそばに、四等分された脳が置かれている。
密室内で執り行われる
パチュリー・ノーレッジの主導による解剖実験は、滞りなく進んでいた。
「どう、パチェ。なにか分かったことはある?」
夢美の能力で精製された顕微鏡を覗き込み、脳の断片をしげしげと観察していたパチュリーは、溜息混じりに吐息を零しながら顔を上げた。
「分かったこともある、といったところかしらね」
「爆弾の解除方法は?」
「残念ながら」
「そっかぁ」
夢美はうなだれ、落胆を分かりやすく仕草で現した。顕微鏡が元のスタンド像へと変化し、そのまま夢美の懐へと向かって消えていく。パチュリーは四つに切り分けられた脳を再び康一の頭部の空洞へと戻しながら、淡々と語った。
「今回の実験結果を報告するわ。
広瀬康一の頭を解剖しても、魔力・霊力の類はいっさい感知されなかった。顕微鏡で拡大して観ても、魔法・霊的な観点から見て不自然と思しき箇所は見受けられなかったわ。
広瀬康一の脳は、ごく一般的な、いたって健康体と呼ぶにふさわしい人間の脳だった……これが結論よ」
はじめパチュリーは、頭蓋骨を開いて脳を露出させた時点で、脳に魔力や霊力による呪いや封印の類が課せられていないかを確認したが、その時点でなにも得られたものはなかった。魔力による爆弾であれば、パチュリーによって固形化し、
吉良吉影の能力で爆破消滅させることも考えられたが、少なくとも康一の頭脳から得られた情報を鑑みるに、それは不可能であることだけは結論付けられた。
「うーん、なるほど。少なくとも、康一くんの脳内には爆弾はなかったと……でも、これは興味深い結果よね、パチェ」
「そうね。少なくとも、物理的な爆弾が埋め込まれている可能性はゼロになった。かといって、魔力も感知されたというわけではない……ということは、また新たな仮説がいくつかたてられるわ。ふりだしに戻ったわけじゃあない」
脳をすべて元あった頭蓋の中に戻したパチュリーは、取り外した頭蓋をそっと康一の頭に被せた。外見上元通りになったところで、短い詠唱ののち、康一の頭部の表面を凍らせた。これ以上の状態の悪化を防ぐためだ。
夢美がパチュリーの言葉を引き継ぎ、語り出す。
「仮説その一は、簡単ね。そもそも脳内爆弾なんてものは存在しない説。外部からの干渉を受けて、それぞれの参加者を起爆させる……でもこれはあまり現実的じゃないわよね」
「そうね、ここには蓬莱人や吸血鬼もいる。それを外的要因だけで殺し切るのは、無理があるわ。だとすれば、考えられるのはやっぱり、呪いや封印の類よね」
「だけど、解剖をしても肝心の魔力は感知されなかったのよね。ということは、考えられる可能性はかなり絞られる……」
パチュリーは外面は無表情ながらも、感心した様子で聞き入っていた。おそらく、レミリアが相手であれば、こうもスムーズに話は進まない。
「って、どうしたのパチェ。そんなにまじまじと私の顔を見つめて……まさか!?」
「ああ、いや、あんた、こういう話となると案外まともなのね。安心したわ、ただの気の触れた女じゃなくて」
「ひっどーい! 私、これでも物理学者だって言ってなかったっけ」
「いえ、聞いていたわ。話の腰を折ってごめん、続けて」
あからさまに眉根を寄せながらも、夢美は咳払いをして、再び語り出した。
「以上の観点から、考えられる可能性としては、生きている間は作用しているけれど、死ぬと無効化される魔力爆弾、という可能性が考えられる。どう、パチェ」
「おみそれしたわ。その通りよ、話が早くて助かる」
安堵したようにふっと笑みを零すと、夢美は胸を張って威張った。あまり調子に乗せると面倒なので、褒めるのはこの辺りにしておいた方がいいとパチュリーは思った。
「それが、さっき言った呪いや封印の可能性ね。例えば、宿主の生命力をリソースにして呪術が成り立っていた場合、その生命力が途切れた時点で術も解呪されるわ。だから、
広瀬康一の脳内からはなにも検出されなかった。これが一番可能性としては高いように思えるわね」
「その術は……例えば、吸血鬼や幽霊のような種族に対しても、その生命力や能力を制限するかたちで作用しているのかしら」
「むしろ、幻想郷由来の参加者全般にそう作用しているんじゃないかしら。そもそも妖怪なんて、頭や心臓を潰されたって関係ないようなやつらがほとんど。現に私だって、外傷だけで死ぬことは逆に難しいってくらいだしね……この場でさえなければ、の話だけど」
魔法使いだって生命力に関しては吸血鬼に負けていないとパチュリーは自負している。例え体に深い傷を負おうとも、欠損箇所を魔法で錬成するか、或いは、丸ごと新しい体を作って、そちらに魂を移し替えればいいだけだ。百年単位で遡れば、パチュリーは過去に幾度となくそういった修羅場を潜り抜けている。
幻想郷に来てからは久しくそういった危機的状況に陥っていないため、パチュリーの体はすっかり埃とカビを含んだ図書館の空気に慣れ、弱体化の一途を辿ってはいるものの、本来であれば、例えあの
カーズが相手であろうとも、ああも一方的に無様を晒すような真似はしなかった筈だ。その事実に思い至り、拳に自然と力が入ったところで、パチュリーは再度嘆息し、己を落ち着かせる。
「――話が逸れたわね。ともかく、おそらくこの会場で生きている限り、脳内爆弾から逃れることはできない。でも、この発見は大きな進歩でもあるわ」
パチュリーは、アルミニウム製のシートを丸めて捨てると、デイバッグから取り出した考察メモの用紙をテーブルに起き、次いで鉛筆に短い呪文をかけた。続くパチュリーの言葉に従って、鉛筆が自動筆記で文字を記してゆく。
「仮に、この呪術が、参加者の一挙手一投足を見張って爆破するものではなく。
ひとつ、参加者ごとの『強すぎる生命力を制限』すること……
ふたつ、禁止エリアに入るなどといった『一定条件下で起爆』すること……
みっつ、参加者が死亡し、その『生命力が途絶えたら解呪される』こと……
こういった単純命令だけで機能している術式だとしたら、どうかしら」
眼下のメモ帳には、パチュリーの思惑通り、余計な口語は記録せず、脳内爆弾の仕組みだけが三つ、箇条書きで記されている。夢美はその筆記魔法そのものに瞳を輝かせながらも、活き活きとした様子で手を上げた。
「だから康一くんは既にその呪いが解けていたのね。逆に言うと、この呪術を解呪するような……例えば、死を偽装するようなことができれば、爆弾は解除されるかもしれない!?」
「ええ。可能性としては、それが最も爆弾解除に近い方法じゃないかしら。尤も、蓬莱人や吸血鬼ですら一度で確実に死ぬように設定されているこの場所で、どうやってそんな真似をするのか……というのは大きな問題になってしまうのだけれど……」
言いかけたところで、パチュリーは思い出したように呟いた。
「そういえば、私はここに来る途中、
火焔猫燐と
射命丸文の死亡をこの目で確認したわ。だけど、さっきの放送では呼ばれてなかったわよね」
「うん、その名前は聞き覚えないけど……っていうかそれ、パチェの見間違いってだけじゃなくて?」
「馬鹿にしないで。見間違えないわよ、あれは確実に死んでいた」
茶化すような夢美の視線に対して、パチュリーは双眸を尖らせて断言した。
柱の男が潜む館に乗り込み、無残にも命を奪われた参加者の死体を、パチュリーはこの目で見せ付けられている。
柱の男たちがパチュリーを怯えさせる為になんらかの幻を演出したのか、或いは射命丸たちが柱の男たちに対し死んだように偽装したのか、そういう可能性も考えられるが、この件についてはどこまで考えても推測の域を出ない。現時点でのこれ以上の考察は無意味であるように思われた。
「まあ、いいわ。
射命丸文と
火焔猫燐にもし出会ったら、その真相についても尋ねてみましょう」
「そうね、それがいいわ。けどまあ、なんにせよ、爆弾の仕組みをここまで絞り込めたのは大きいわね、パチェ!」
考察で表情を固くしていたパチュリーとは真逆、いつも通りの知性を感じぬ薄ら笑みを浮かべた夢美は、すかさずパチュリーに飛び付いた。両腕を首に回し、まるで爆弾が既に解除されたかのようなしゃぎようで飛び跳ねている。パチュリーは夢美を適当にあしらいつつも、今度はその体を引き剥がすことに労力を割くこととなった。
◆
ジョースター邸の食堂の窓から、見知らぬ参加者を引き連れて戻ってきた仗助を眺めていた吉影は、ふとした物音に振り返った。どこか顔色悪そうにテーブルに両肘をついていたぬえも、物音の方向に目線を向ける。
テーブルの上で眠るように縮こまっていた亀の甲羅から、夢美とパチュリーが続けて飛び出してきた。夢美は、自分がテーブルの上に着地してしまったことに気付くと、勢いよく飛び降り、着地する。パチュリーもそれに続いて、テーブルの縁に座るようにしてゆっくりと地面に足を降ろした。
「おまたせ。なにか変わったことはなかったかしら」
「ついさっき仗助たちが帰ってきたところさ。外ではなにか揉め事が起こっているようだがね」
「またなの」
パチュリーはあからさまに嫌な顔をした。しかし、それも一瞬だ。すぐになにかを思い出したように嘆息した。
「いえ、私が言える立場じゃないわね。さっきはごめん、露伴先生に対する振る舞いに関して、言い訳をするつもりはないわ……少し、冷静さを欠いていたみたい」
「パチェ、さっきは焦ってたのよね。これから康一くんの遺体を解剖しなくちゃいけないってプレッシャーかかってる時に、康一くんの親友だなんて言われたから」
夢美が、とんとん、と優しくパチュリーの背中を叩いた。パチュリーはなにも答えようとはせず、夢美から顔を背けた。吉影の角度から見えるパチュリーの表情は、それ程夢美を拒絶しているようには見えなかった。
「そうか……それはパチュリーさん、無理もない話だと思うよ。これから心を痛めて仲間の遺体を解剖しようって時に、得体の知れない男に『自分はそいつの親友だ』なんて言われたら……わたしなら胃が痛くなる思いになるだろうからね。苛立ったり焦ったりする気持ちもわかる」
「だから、言い訳をするつもりはないってば。その話は、もういいの」
「で、爆弾のことはなにかわかったの」
ぬえはパチュリーを刺すように見た。パチュリーの心情など心底どうでもいいと思っているのであろうことは、その表情から容易く読み取れる。というよりも、人の感情の機微にまで意識を回している余裕すらなさそうだった。額には脂汗が浮かんでいる。
「ぬえちゃん、体調大丈夫? この人になにか変なことされたの?」
「わたしはなにもしていない。物議を醸すぞ……そういう物言いは」
「あはは、ごめんなさーい」
あまり悪びれる様子もなく夢美は笑って謝罪する。夢美がそういう人間であることは分かっていたし、そんなくだらない軽口にいちいち反応していては本当に胃がもたなくなるので、夢美の冗談は無表情のまま聞き流すことにした。
当のぬえ本人もいたってどうでもいいという風に夢美の言を流した。
「で、解剖結果はどうだったの。爆弾の解除方法は分かったの?」
「ンン〜〜、それはおれも気になるなあ〜〜」
部屋の入口から、聞き慣れない男の声が聞こえた。
瞬間、食堂内にいた全員の顔色が変わる。警戒を強く顔色に出しながら、全員が部屋の入口を見た。
古代ローマの彫刻もかくやというほどに鍛え上げられた、筋骨隆々とした肉体美を惜しげもなく晒す褐色肌の男が、入口に肩をもたれさせて、腕を組んでいる。男は口角を不敵に吊り上げて、その場の全員を睥睨した。
「おっと、おれは荒々しいことをするつもりでここに来たわけじゃあない。勘違いしておれに挑むのはやめておけよ……無駄に寿命を縮めたくないならなァ」
「あなたは……
エシディシ、といったかしら。なにをしに来たの」
今度はパチュリーの額に脂汗が浮かび上がっている。少なくともパチュリーにとって味方と呼べる相手でないことだけは、その顔色から吉影にも理解できた。
エシディシと呼ばれた男は、フンと鼻を鳴らし、笑った。
「本当なら地下通路を通って一気に紅魔館に行くつもりだったんだがなァ……おれの進行方向上にこの館があったんで、ちょいと顔を出しに来たのさ。どうやら外ではスデに別の揉め事が起こっているようだが、おれはまったくの無関係だぜ……爆弾解除の術を探ってくれているパチュリーのチームを襲うのは、賢い判断じゃあないからな」
「待て……おまえは、パチュリーさんとはどういう関係なんだ」
「ンン? なんだパチュリー、おまえ……おれたちのこと、お仲間には話しちゃいなかったのか」
極めてわざとらしく、
エシディシは目を丸くして見せた。同時にこの場の全員の視線が、今度はパチュリーへと注がれる。対するパチュリーは、物言わず目線を伏せるだけだった。けれども、その視線の中には、
エシディシに対する明らかな敵意が見て取れる。
物言わず憎々しげに
エシディシを睨め付けるだけしかできないパチュリーの視線に気付いた
エシディシは、これは傑作とばかりに失笑した。
「ハッ、なるほどなあ。おまえ、そのプライドの高さゆえに、お仲間には知られたくなかったというワケか……自分の『敗北』と『隷属』を」
「隷属、って……パチェ、どういうこと」
「そこの小娘が答えぬならば、おれが代わりに説明してやろう。そこにいるパチュリーはなァ、廃洋館で我ら一族に完膚なきまでに叩きのめされ、体内に毒入りのリングを埋め込まれちまったのさ」
「ど、毒入りの、リング……だと」
「リングは第四回放送後に溶け出し、パチュリーの命を奪うッ! 外科手術でリングを取り出そうとしたり、スタンドで触れようとした場合も同様! 解除方法はただひとつだ……第四回放送までに爆弾を解除する方法を見付け出し、それを
カーズに伝えることッ!」
エシディシが言葉を言い終える頃には、既にパチュリーは完全にうなだれていた。屈辱からか、握り締められた拳が震えている。
夢美は静かに、パチュリーの肩を抱き寄せた。平時のパチュリーならば夢美に抵抗しそうなものだが、この瞬間ばかりは、ただ静かに体を預けるパチュリーが、吉影には嫌に痛ましく感じられた。
自分の居場所をつくるために行動してくれていた女性が、吉影の居場所を脅かそうとする外的に傷付けられる様を見せ付けられることに、吉影は理屈ではない憤りを覚えた。
「さてパチュリーよ、ここで有益な情報をおれたちに寄越すっていうのなら、おれから
カーズにとりなしてやろう。脳内爆弾の構造について、なにかわかったことがあるのだろう?」
「ば、爆弾の……解除方法、は……」
「答える必要はないよ、パチュリーさん」
軽く片手を掲げ、吉影はパチュリーの言葉を遮った。
パチュリーの足元に置かれていたデイバッグを、
エシディシの足元へと投げて寄越す。元々
河城にとりが持っていたものだ。軽く視線だけを下方に送り、足元にどさりと落ちたデイバッグを見た
エシディシは、再び不敵に口角を吊り上げて笑った。
「うーむ、これはどういうつもりなのだろうなァ。まさか、このおれに貢ぎ物をする代わりに、この場は見逃してくれという懇願のサインか、なァ?」
「自由にとってくれて構わない……今ここできみに与える情報は……なにもないということだよ」
「ちょ、ちょっと吉影……なに勝手に」
「いいから、ここはわたしに任せて欲しい」
吉影はパチュリーを庇うように一歩前に踏み出した。
「ほほう、なるほどお……するってェと、おまえはおれがここでアイテム欲しさに身を引くと、そう考えているワケだな。うーむ、実に浅はかな考えだ……放っておいたところでパチュリーは死ぬのになァ」
「浅はかかどうかは、そのデイバッグを確認してから判断してはどうかね」
「ふむ」
指で顎先をしごいていた
エシディシが、左腕をデイバッグへと伸ばし、掴んだ。刹那、キラークイーンの親指が、点火のボタンを押し込んだ。
同時に、表情ひとつ変えずに吉影が仕組んだ爆弾が軌道した。強烈な爆破音に次いで、食堂内の窓ガラスがびりびりと振動し、爆破の衝撃が風となって一同に吹き付ける。全員が耳を塞ぐ中、吉影だけがスーツのポケットに手を入れたまま、標的となった男が爆煙に包まれる様を見つめていた。
「よ、吉影……あなたッ」
「あの敵は、ここで『排除』する……パチュリーさんの体内にくだらない『爆弾』を埋め込んだ輩もだ。要は『解毒剤』を奪えばいいのだろう? 素直に従う必要はどこにもない。そしてわたしのキラークイーンは……戦おうと思えば、いつでも敵を『始末』することができる」
「なっ……な……っ」
決然と宣言した吉影を、パチュリーが絶句して見上げている。夢美も、ぬえも、信じ難いものを見るような目で吉影を見つめていた。こういう目で見られることを避けるため、吉影は人前で能力を使うことを避けて来た。
けれども、今回は例外だ。吉影の居場所をつくろうと働いてくれる『仲間』の命を脅かす者、それはつまるところ、吉影の居場所をも脅かす明確な『敵』であるということだ。排除することに理由は必要ない。
「で、でもあなた……戦うのは嫌いだって」
「ああ、嫌いだとも。しかしこちらが避けて通ろうとしても、向こうは既にパチュリーさんを『標的』としていて……このままでは、およそ十二時間後にきみは殺されてしまうんだろう? ならば……わたしはこれを乗り越えるべき『トラブル』と判断する。違うかね、パチュリーさん」
こと集団を守ることに関して、吉影は必死だった。
ともに過ごした隣人さえも信用できないこの殺し合いの場において、打算ありきとはいえ、吉影の素顔を知った上で、なお吉影の居場所を守るために行動してくれる人間のいる集団など、このチーム以外には想像できない。そういう人間がいるだけで、吉影の心の平穏は守られるのだ。それをみすみす利用されて殺されることなど、絶対にあってはならない。
必ず守り抜いてやる、そういう決意が吉影にはあった。
「安心したまえ……このわたしが乗り越えられなかった『トラブル』なんて一度だってないんだ。きみの命を脅かす『外敵』は必ず『始末』し……夜も眠れないといったような『トラブル』は必ず解決する」
もうもうと立ち込める爆煙の中で、人影が揺らめいた。特にもがき苦しむ様子でもなく、黒々とした爆煙を掻き分けて、
エシディシが一歩を踏み出す。デイバッグを持ち上げた
エシディシの左腕の肘から先は、既になくなっていた。
全員が瞠目する中、吉影だけが、その黒曜石のような瞳に殺意の炎を滾らせて、真正面から
エシディシを睨め付けていた。
「うぬぬう……き、きさまあ〜〜……」
「なんだ……ブッ飛んだのは腕だけか。デイバッグに触れたものを、その細胞の隅々まで火薬に変えて爆破してやったつもりだったんだが……運がいいな。もっとも……その運も長くは続かんだろうがね」
「う……うう……」
「なんだ、怒るのか? 自慢の腕をブッ飛ばされて……見下していた相手に一矢報いられたことがそんなに気に食わないかね」
「う〜〜……ううう……」
「怒るなら怒るといい……こう見えて、わたしも怒っているんだよ……大切な仲間が利用されたことに……下手をすれば使い捨てられるかも知れないという事実に。わたしは、わたしの『居場所』を奪おうとする者には……いっさい『容赦』できないタチでね」
エシディシの表情は、歯を食いしばるように歪められていた。
やがてその瞳から、ぽろりと、ひとしずくの涙が零れ落ちた。
「あんまりだ……」
「なに?」
「HEEEEEEEEEEEEEEYYYYYYYYYYYYYYY――ッ」
またたく間に涙腺は決壊し、
エシディシの頬を滝のような涙が滂沱と流れはじめた。
エシディシは、なくなった腕を庇うようにして身をくねらせ、うずくまり、まるで駄々をこねる子供のように叫んだ。
「あァァァんまりだァァァッ!!」
「な、なんだ……いったい……、泣いているのか? 血管を浮かび上がらせて怒ってくるのかと思いきや……この
エシディシという男……ダダッ子のように泣きわめいている!」
「AHYYYYYYY! AHYYYYYッ、AHYWHOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHHHッ!!」
「ね、ねえ、泣いている今のうちにトドメ刺しちゃった方がいいんじゃないの……なんか不気味だよ、アイツ!」
ぬえが、吉影の裾を指先で引っ張って進言する。一理ある。激怒し襲い掛かってくるのであれば、キラークイーンで始末するつもりでいたが、こうも無防備に泣きわめくのでは、吉影としても気味の悪さを感じずにはいられない。今度は吉影の額を緊迫から生じた嫌な汗が伝っていく。
「おおおおおおれェェェェェのォォォォォうでェェェェェがァァァァァ〜〜〜〜〜!!」
吉影がもう一度キラークイーンを具現化させたとき、ふいに、
エシディシの泣き声がピタリと止んだ。同様に、吉影をはじめとする全員の動きも止まる。
エシディシの次の行動に、否応なしに視線は集中する。
当の
エシディシは、なんでもないように立ち上がった。既にその瞳から流れる涙も止まっている。怒りも悲しみも感じさせない瞳で、
エシディシは肺に溜まった息を吐き出した。
「フーーー、スッとしたぜ。おれは
カーズや
ワムウと比べるとチと荒っぽい性格でな〜〜〜……激昂してトチ狂いそうになると、泣きわめいて頭を冷静にすることにしているのだ」
左腕が欠損しているというのに、痛みもなにもないかのように、
エシディシは歩を進める。今はもう、左腕の切断面からは、一滴の血も流れてはいない。
吉影の前面に出たキラークイーンは、拳を握り締め、身構えた。
エシディシはその構えをどこまでも冷淡な視線を見下ろすと、淡々と語りはじめた。
「で、おまえ……おれの体を爆弾に変えてブッ飛ばしたといったな……それならおれも気付いたよ。これがただの爆弾だったらちっとも怖くはなかったんだがなァ……デイバッグを掴んだ瞬間、おれの体細胞が別のものに変わっていくんで、流石のおれもゾッとしたよ……やばいと思ったんで、即座に腕を切り離したことは正解だったらしいなあ。残念ながらおれの左腕は跡形もなく爆破消滅しちまったが」
「……バケモノめ」
「ククク、体細胞の組み換えはおれたちの十八番でなァ……腕がなくなっちまったのはちィと惜しいが、まあいい……おまえを殺して代わりの腕をいただくとしよう」
「ッ、キラークイーン!!」
吉影の叫びに応えて、キラークイーンが拳を突き出し前進する。同時にキラークイーンの懐に飛び込んできた
エシディシの、残った右の拳と打ち合った。互いの拳の衝突ののち、弾かれたのは
エシディシの方だった。そこにすかさず、キラークイーンの拳のラッシュが直撃する。
エシディシはかわすことも応戦することもせず、拳をすべて体で受け止めた。
後方へと吹っ飛び、並べられた椅子を弾き飛ばして床に突っ伏した
エシディシは、やはりなにごともなかったかのように立ち上がると、キラークイーンに殴られてひしゃげた箇所をべこぼこと音を立てて自己矯正し、元通りの体躯を形成した。
「ンン〜〜〜、試しに食らってみたが、なるほどお。
カーズたちの情報は事実らしいなあ……スタンドはスタンドでなければ攻撃することはできず、また、捕食することもできない……だったか」
「なに……試しに食らってみた……だとッ」
「そういうワケだ、勘違いするなよ人間……今のはあえて『殴られた』んだ。決して『おまえがおれに攻撃した』んじゃあない」
吉影は、両の拳にヒリついた熱を感じた。拳を見ると、
エシディシの体をラッシュで殴りつけた拳頭の部分が、擦り切れたように皮が剥けていた。赤く腫れて、じわりと熱も感じる。ちょうど、拳が軽い火傷を起こしたような状態になっていた。
「なんだ……まるで炎そのものを殴りつけたように……拳が熱いぞ」
「フン、ようやく気付いたか……おれは体内の熱を五百度まで上昇させ、相手に送り込むことができるッ! おまえは攻撃しているように見えて、五百度の高熱を殴りつけていたということよ」
突き出された
エシディシの右の五指の爪が剥がれ、そこから血管が這い出てきた。血管のひとつひとつがまるで意思をもっているかのように鎌首をもたげ、その異様な攻撃の穂先を吉影に向けている。
エシディシの言葉が事実なら、あの血管すべてが五百度の熱をもった武器ということになる。それを安易にスタンドで迎撃するのは、まずい。
脂汗を浮かべる吉影の思考を読んだのか、
エシディシが不敵な笑みとともに床を蹴り、駆け出した。思考の暇はない。
「やむを得んッ、キラークイーン、迎撃しろッ!」
「くらってくたばれッ『怪焔王』の流法!!」
五指から飛び出た五本の血管針が、射るように吉影へと殺到する。命令通りに突出したキラークイーンの拳が高速で打ち出され、血管の方向をそれぞれ逸らすが、同時に血管の先から煮えたぎった血液が噴出した。咄嗟に両腕で頭部はかばったが、それでも吉影のスーツに触れた血液は発火する。
「吉影ッ!」
頭上から多量の水が降り注いだ。パチュリーの水の魔法だ。火はすぐに消えたが、吉影のスーツの両腕部は既に焼けて擦り切れている。吉影は思わず舌を打った。
パチュリーに礼を言う間もなく、
エシディシが飛び込んでくる。本体に触れてもダメージを与えることはできず、下手に近付けば火傷を負わされる。吉影がとれる選択肢はそう多くないが、それでもここで後退するわけにはいかない。もう一度キラークイーンを前に出し、戦闘態勢をとらせる。
その時、
エシディシが瞠目し、大きく飛び退いた。
「私の正体不明の種を使ったのよ。アイツは今、キラークイーンに対して、なにか『恐怖』する幻影を見てるはず……なに見てあんなに警戒してるのかは知らないけどね」
ぬえは不敵に笑った。当の
エシディシは、恐怖するとまでは行かないまでも、その表情に驚愕と警戒の色を強め、キラークイーンを凝視していた。
「けど、あいつはもう『キラークイーン』の姿を知ってる。かろうじて、まだ完全にはこっちを『知らない』って点を突いたつもりだけど……多分、あいつならすぐにカラクリに気付いて突破してくるよ。今のうちにどうするのか決めるんだね、吉良」
「ありがとう、ぬえ……感謝する。だが……どうするのか決める、というのは……どういうことかな」
「戦うのか、逃げるのか……ってことだよ。やれないなら、とっとと逃げた方が賢いと私は思うけど」
「ごもっともだ……だが、やつはここで『始末』する。これは『絶対』だ」
ぬえが僅かに目を見開いた。それも、すぐに真剣な眼差しへと変わる。
「あんた、やれるの?」
「やつは我が『キラークイーン』の能力を知った。逃げれば今はいいかもしれないが、その次、またその次と狙われる羽目になる。いつ来るか分からない攻撃に怯えて過ごすことは……やはり、わたしの望む『平穏』からは程遠い行為だ」
「そりゃ、そうかもしれないけどさ」
「仕留めるなら、片腕を失った今をおいて他にはない。ここで見逃せば……次は万全の状態で、我々の情報を握った状態のやつが挑んでくる」
ふいに、パチュリーが顔を上げた。
「待って……ある、かもしれないわ。あのバケモノを仕留める方法」
全員の瞠目の視線がパチュリーへと集中する。
「私の魔法、なら……あいつを、仕留められるかも」
言葉の通り、パチュリーの中には、既に
エシディシを攻略できる可能性が構築されていた。けれども、それを実行に移すことには、確かなためらいがあった。
そもそも、勝手に
エシディシに啖呵を切って戦闘行為をはじめたのは、
吉良吉影個人だ。
吉良吉影を切り捨てて上手く立ち回れば、パチュリーをはじめとする他の人員は見逃して貰えるのではないか、パチュリーの中にそういう思考が共存しているのもまた確かだった。
解剖の結果、爆弾解除の方法に必ずしも
吉良吉影が必要でないと分かった以上、この場でどうしても
吉良吉影を優先しなければならない理由もないのだから。
けれども、そういった選択肢を考えるたび、パチュリーは自ずと拳に力が入るのを抑えられなかった。
また、自分は逃げるのか。
理不尽な暴力に恐怖して、己の尊厳を踏みにじる選択をするのか。
屈辱に擦り合わされた奥歯が、軋みを上げるのを自覚せずにはいられない。
思い悩むパチュリーの肩に、細く白い指が置かれた。赤い髪の少女が、いつもと変わらぬ、なんのてらいもない微笑みを浮かべて、パチュリーを見つめていた。
「流石ね、パチェ。なにか考えがあるんでしょう。だったら、それ、私にも一枚噛ませてよ」
「……夢美、あんたわかってるの。あいつらはバケモノよ……私ひとりならともかく、あんたまであいつらを敵に回す必要は、どこにもない」
「パチェは、自分ひとりの問題だから、自分が犠牲になったって私たちには関係ないって……もしかして、そう思ってるの?」
夢美の表情から、あの不敵な微笑みが消えた。なんの感情も感じさせない、失望したような目で、パチュリーを見る。
意外だった。他ならぬ夢美に、そんな目で見られることは、パチュリー自身も堪えるものがあった。無意識のうちに、パチュリーは夢美から視線を逸らす。
努めて冷たい口調で、パチュリーは吐き捨てるように言った。
「ええ、そうよ。実際、私はあんたが窮地に陥っていたとしても見捨てるでしょうしね。だから、ここで私があいつに挑んだとしても、あんたは無関係を装うべきよ。まあ、あいつらが相手じゃどこまで意味があるかは分からないけど……不要な巻き添え食ってやっかいな相手を敵に回すことはないんじゃないの」
夢美はふるふると首を横に振った。それから、どこか嬉しそうに笑った。
「もう、パチェったらまたそんな風に悪びれちゃって〜」
「あのね夢美、悪びれるとかそういうのじゃなくて」
夢美は、人差し指の腹でパチュリーの唇を押さえ、続く言葉を遮った。
「パチェが本当はそんなひとじゃないって、私もう知ってるわ。悪ぶってるように見えるけど、ほんとうは面倒見がよくて、優しい魔法使いだってことも」
「なっ」
「だから、私は、パチェを利用して殺すかもしれない敵がいるっていうのなら……うん、やっぱり許せない」
「はあ、あのね。許せるとか許せないとかそういう話じゃなくて――」
「あのねパチェ……大切な親友を、見捨てられるわけ、ないでしょう。そんなの絶対、認められない! パチェがひとりで背負い込むことを、私はこれ以上、許可しない!」
パチュリーの言葉を遮った夢美は、一言一言を区切るように、強い口調で宣言した。
咄嗟に返す言葉を失った。目を見開くパチュリーに対し、夢美はなおも不敵に微笑んでみせる。
「きっと、ここにいる吉良さんも同じ。みんな怒ってるのよ、パチェをこんな風に利用されたことも……それを、パチェがひとりで抱え込んで、誰にも言おうとしなかったことも」
「馬鹿、じゃないの……そういう感情的な判断で動いてどうするの。あなた物理学者なんでしょ、だったらもうちょっと合理的に物事を考えなさいよ」
半ば諦念混じりの吐息を零し、パチュリーは伏し目がちに言った。
夢美はふう、と深く息を吐いたかと思うと、次の瞬間、声を張り上げた。
「この、わからず屋! パチェの方こそ、魔法使いなら、もっと夢を見なさいよ!」
夢美はパチュリーの両肩を掴み、叫んだ。興奮のあまり、声が節々で裏返っている。
「仲間を信じなさいよ! 私を……、信じてよ、パチェ!」
顔を赤くして怒鳴る夢美に気圧されて、パチュリーは押し黙った。
まったくもって不条理な言葉ではあるが、それに対して、返す言葉を失ってしまったのだ。パチュリーの中の、合理的な部分ではなく、感情的な部分が、これ以上の押し問答を拒否していることを、認めなければならない。
パチュリーは何度目になるか分からない嘆息を零したのち、顔を上げて、くすりと微笑んだ。夢美の肩からすっと力が抜けるのが、肩に置かれた手の感触から伝わった。
「ああ、もう……負けたわ、夢美。あんたって本気で怒鳴ると、けっこう迫力あるのね」
夢美の手に自分の掌をそっと重ねたパチュリーは、そのまま手を降ろさせるように立ち上がった。
一方の
エシディシも、既に幻影を振り払ったらしく、真正面からこちらを睨みつけている。己の胆力ひとつで大妖怪の幻術を打ち破ったあたりは、敵ながら流石と言わざるを得ない。
「さあ、行くわよ夢美」
「えっ、行くって、なにするつもりなの、パチェ!」
「私がこれからあいつの懐に飛び込むわ。あなたは、それを全力でサポートしてちょうだい」
ここへ来てはじめて、夢美を頼りにした戦略を脳内で組み立てる。
立ち上がったパチュリーを追い立てるように、後方から風が吹き始めた。木属性の魔法による追い風だ。この場で飛ぶことができないなら、せめて擬似的にでも飛行に近い速度が出せればそれでいい。やがて、風の中に雪が混じりはじめた。水属性の魔法だ。風が吹雪へと変わって、室内を吹き荒れるのに、さほど時間はかからなかった。
「ぬうう、小癪な手品を使ってまた目くらましをしやがるか」
「悪いわね、それが私の魔法なの」
「ふうむ、おまえにはさんざっぱら力の差を見せ付けたハズだが」
「ああ、それね、私もどうかしてたみたい。この紅魔の魔女が、あんなことで戦意を折られるなんて」
自嘲気味にパチュリーは笑った。
思えば、あの廃洋館でやつらと出会ってからというもの、自分自身どうかしていたように思う。西洋魔術から、東洋は陰陽術まであますことなく網羅した天下の大魔女であるこの
パチュリー・ノーレッジが、一方的に脅迫され、為す術もなく逃げるなど、プライドが許せない。
あの廃洋館での邂逅は、あまりにも状況が悪かった。ただの、それだけだ。
この
パチュリー・ノーレッジにたったひとりで喧嘩を売りにくることがなにを意味するのか、あの野蛮民族の男に徹底的に刻み付けてやる必要がある。
これは、失われたものを取り戻すための戦いだ。
水符「プリンセスウンディネ」
吹雪に押し出される形で駆け出したパチュリーの足元に、水色の魔法陣が描かれる。走りながら手をかざすと、大気中の水分を固めた泡が無数に散らばった。パチュリーは水属性のレーザーを放ちながら、長年の引きこもり生活によって衰えた体に鞭打ち、ひた走る。
「こんなもんでおれの炎の流法を打ち消せるとちィとでも思ったかッ!」
エシディシは殺到する水弾幕を回避し、時には血管針で叩き落として蒸発させながら、パチュリーとの距離を詰める。腕だけでなく、両足からも血管針が飛び出てきた。左腕の切断面からもだ。その数、合計二十に及ぶ。触れるだけで容易く水泡を蒸発させる超高熱の鞭が、灼熱の血液を噴き上げながら暴れ狂う。
水符「ジェリーフィッシュプリンセス」
エシディシの血液が命中する瞬間、パチュリーは己の体を巨大な水の珠で覆った。浮遊しはじめる前に、パチュリーは己の魔法を解除し、ずぶ濡れの体で再び駆け出す。
血管針が多少体を掠めても、吹雪を身に纏って、熱を打ち消して進む。
「ハッ、なるほどなあ。火に対して水というのが安直な考えよなァーッ、パチュリィーッ!」
「うっさいわね、これが私の魔法だっつってんでしょ、黙ってなさい」
刻一刻と
エシディシとの距離は狭まる。対峙する
エシディシも、逃げも隠れもしないとばかりにその場から動こうとはしなかった。
その代わりに、大量の血管針が、
エシディシを中心に扇を開くように展開された。灼熱の血液が弾幕のようにパチュリーへと降り掛かる。パチュリーも負けじとプリンセスウンディネの弾幕を展開するが、絶え間なく射出される血液を前に、水泡はまたたく間に蒸発させられた。
夢符「苺クロス」
エシディシの血管針の周囲に、薄紅色に光り輝く十字架が展開された。敵の攻撃を食い止めるような配置で展開された十字架が、血管針の角度を制限し、射出された血液を受け止めて、燃え落ちてゆく。
パチュリーとの出会いから着想を得て、スペルカード風にアレンジしたのだろう。夢美が展開した科学力による弾幕に、パチュリーは内心で感謝の言葉を送った。
後方から吹き付ける吹雪の助力を得て、パチュリーはいよいよ
エシディシの目前へと迫った。
「ンン? それでなにをするというのだ? おれはいつまで子供だましの水遊びに付き合えばいいのだパチュリーッ!」
「何度もしッつこいわね……これが私のやり方なのッ、いいから黙ってろ!」
頭上から血液が降り注ぐ。夢美の十字架が、それを受け止めた。それでも防ぎきれず落ちてくる血液もあったが、その程度ならば火がつく前にパチュリーの吹雪が熱を冷ますことは難しいことではなかった。
火符「サマーレッド」
かざした手から打ち出された炎弾が、
エシディシに直撃した。パチュリーの火の魔力は、
エシディシの体表面で弾けたが、それだけではダメージを与えるには及ばない。
エシディシが笑った。
「近付いてなにをするのかと思ったらパチュリー、それがお前の攻撃か?」
「ええ、準備は出来たわ……さあ、一緒に物理の実験をはじめましょうか」
「ほおう、面白い。それは是非とも結果をご教示願いたいものだ、なァーーッ!」
エシディシがぶんと音を立ててその豪腕を振り上げるが、同時にそれを食い止めるように懐の内側に夢美の十字架が展開された。十字架を掻い潜って展開された血管針も、頭上に展開された十字架と、パチュリーの吹雪が無力化する。
この膠着状態が保てるのは、もってあと十数秒だ。速攻で決着をつける必要があるが、ここから先は賭けだ。パチュリーは両手をかざし、
エシディシへと火の魔力を注ぎ込んだ。
残りの全魔力を注ぎ込むくらいの気持ちで、いっさいの加減なしに、高熱の魔力を
エシディシに注入する。またたく間に
エシディシの体温は上昇し、目前にいるパチュリーも肌でその高熱を感じ取れるほどになった。
「貴様……いったいなんのつもりだ」
「あなた、さっき自分の能力をべらべらと得意げに語っていたけれど。たしか……五百度まで、熱を操れるんだったかしら」
頭上から降り掛かる十字架だったものの断片の火の粉の中で、パチュリーは
エシディシに魔力を注ぎながら応えた。
元々五百度に設定されていた
エシディシの体内温度が、ぐんぐんと上昇してゆく。膨大なパチュリーの魔力が、今この瞬間、すべて火属性へと変換され、
エシディシの体内へと注ぎ込まれているのだ。体感だけでも六百、七百はすぐに越えたことがわかった。
「ま、まさか……おまえッ!」
「五百度……それは木や紙が燃える温度ね。じゃあ、それ以上はどうかしら。例えば、千度。あなたの自慢の体は、いったいどこまで原型を保っていられるのかしら?」
「き、貴様ッ……この『炎の
エシディシ』を……よりにもよって『炎』で倒そうというのかッ! ナ……ナメた真似をしやがるッ!!」
「おあいにくさま、ナメられっぱなしが性に合わないのは、私の方なのよ」
「RRRRRRRRRRRRUUUUUUOOOOOHHHHHHHHHHHHH!!」
エシディシは裂帛の絶叫を響かせた。呼応するように、室内の温度が上昇してゆく。もはや吹雪にリソースを割く余裕はなかった。守りは完全に夢美の十字架に任せきって、パチュリーは至近距離で
エシディシに火の魔力を注ぎ続ける。
慣れない運動で息が上がったパチュリーの体表から、汗が吹き出ては流れ落ちてゆく。最前、自らの魔法で纏った水分は、とうに
エシディシから発せられる熱で暖められ、体感としては汗と変わらない。
左腕の切断面から、更に倍の数の血管針が飛び出した。
「貴様のなまっちょろい火がおれを溶かすより先に、おれの血管針をブチ込んでくれるわ!」
叫びとは裏腹に、血管針がパチュリーへと降り掛かることはなかった。切断面から飛び出した血管針は、もはやまともな指向性は持たず、四方八方でたらめな方向に血液を噴出するだけだ。パチュリーの身に降りかかりそうなものだけ、夢美の十字架が受け止める。
床板へと落ちた血液が火を吹き上げるさなか、パチュリーはようやく笑った。
「あなた、もう自分の能力を制御できないんじゃない? 言ってたものね、『五百度まで』って」
「ば、馬鹿なッ……こんな! こんな馬鹿なことがぁああーーーッ!!」
血管針が、崩壊をはじめた。同様に、筋骨隆々としていた
エシディシの体が、徐々に輪郭を失いはじめているのをパチュリーは目視した。肩が不定形に崩れ、腕が垂れ下がった。関節が溶け始めて、
エシディシの膝が折れた。肩や膝といった各部が落ち窪んでいる。
エシディシの体温はとうに千度を越えている。その体が、あまりの高熱に耐えきれず溶け始めているのだ。
「おおおおれが! おれが! おれがこんな小娘にィィ!!」
「はぁ、……はぁっ……ハァ……ッ」
眼前の敵にのみ集中するパチュリーの視界の隅で、ちかちかと光が散りはじめた。疲労の証だ。
エシディシすら焼き溶かす程の高熱を間近で受けて、明らかにパチュリーの体力が底を突き始めている。このまま高温に晒され続ければ、じきにパチュリーは意識を失い、一命をとりとめた
エシディシに命を刈り取られるだろう。それだけは、許されない。ここまでやって負けることなど、絶対に許されない。此処から先は、どちらが先に力尽きるかの根比べだ。
「RRRRRRRRRUUUUUUUUUUUOOOOOHHHHHHHH――ッ」
やがて、
エシディシの体表面が溶け落ち、溶岩のようなどろどろの液状と化して床へ滴りはじめた。物質が形を保てる臨界点を越えたのだ。
マグマと化して溶け始めた
エシディシの体内で、ぼん、となにかが弾けるような音が鳴った。あまりにも高温に達しすぎた熱が、体内でなんらかのエネルギーに誘爆したのだ。パチュリーの体はその衝撃に吹き飛ばされた。
「パチェ!」
「パチュリーさん!」
既に燃え始めている床を転がって、衣服に火を纏いながら戻ってきたパチュリーに、夢美と吉影が駆け寄る。パチュリーは残った魔力で水を纏い、衣服に火が広がるのを防いだが、既にところどころが焼けて、腕や脚など、白く細い肌が露出している。腰まで届く髪の毛はあちこちが焼けて、縮れてしまっていた。それでも、自分の姿など今はどうでもいいとばかりに、パチュリーは
エシディシに視線を集中させる。
「おれは! おれは! おれは偉大な生き物だ……や、やられるなんて!」
既に
エシディシは人の体を保っているとは言い難く、炎を吹き上げるマグマと化していると表現した方が的確だった。
かろうじて原型を保っていた頭部から、巨大な一本角が競り上がった。獣のように牙を剥いて、
エシディシが跳び上がる。
「よくもッ! おおおおのれェェェェッ、よくもォォォォォこんなァァアアアーーーッ!!」
全身から炎を振り撒いて、獅子奮迅たる勢いで急迫した
エシディシの体を、キラークイーンの拳が打った。火が吉影の手へと燃え移るよりも早く、次の拳を放つ。凄絶な拳のラッシュが、
エシディシの体を打ち返した。
パチュリーの背中を抱き起こしながら、吉影はどこまでも冷徹な瞳で転がってゆく
エシディシの姿を眺めていた。
「
エシディシ……とかいったか。余裕ある態度だったのは最初だけで……どうやら、ずいぶんと……生き汚い生物だったようだな」
倒れ伏した
エシディシの全身から、黄金に光り輝くエネルギーが放出されはじめた。何万年もの長い時を生き抜いてきた生命力が、光の奔流となって、崩壊をはじめた
エシディシの体から溢れ出ているのだ。神々しいばかりに溢れ出る生命力の輝きは、見る者の心を奪った。
断末魔の絶叫をあげながら、
エシディシの体が熱とエネルギーの奔流に呑まれ完全消滅する様を見届けたパチュリーは、力尽きたようにどさりと背を床に預けた。
室内に、冷気を帯びた吹雪が吹き荒れる。
エシディシによって焼かれた室内は、すぐに雪によって消化された。あとに残されたのは、一面焼け焦げた床板と、脚が焼けて燃え落ちたテーブルと椅子の数々だった。
「むきゅー」
「なんだ、なにか言ったか、パチュリーさん」
「……無休、で、働きすぎたわ。ちょっと休ませて」
あの偉大なる生物の一柱を撃破せしめたという事実による達成感と疲労感の中で、パチュリーは既に指一本動かすことすらも億劫なほどに消耗していた。
これから、残りの柱も処理する為に、パチュリーは策を練って戦わなければならない。理解はしているが、今この瞬間だけはそれについて思考する余裕はなかった。ここまで働いたのだから、少しくらい休ませて欲しいというのは心からの本音だった。
「ああ……でも」
ぽつりと独りごちる。続きを言おうかとも思ったが、やめた。
夢美に感謝の言葉を贈ろうかとも思ったが、それはそれで、精神的な労力と準備が必要だった。別に今でなくとも、起きてからでも遅くはないはずだ。
認めたくはないことだが、夢美の言葉が、パチュリーの肩にかかる重圧をやわらげてくれたのだ。あの瞬間、
エシディシに挑むかどうかという不安からはじまった“蛮勇”は、
エシディシに必ず勝利してみせるという“勇気”へと変わった。だからパチュリーは立ち上がることができた。戦うことができた。
今やパチュリーの中での
岡崎夢美という存在は、ほんの少しは役に立つと認めてやる必要があるのではないか、そう思える程度には大きくなりはじめていた。
だから、起きたら、夢美と一緒にこれからのことを考えよう。夢美がいれば、爆弾解除の方法に辿り着くことも、そう難しいことではないとすら思える。それ自体、パチュリーにとっては本来悔しいことである筈だが、不思議と不快ではなかった。
今はあまりにもまぶたが重い。体力、魔力、ともに底を突きかけている。起きて、回復したら、色々なことを考えよう。そう思い、間もなく、パチュリーは深い眠りの沼に落ちた。
◆
パチュリーが
エシディシを撃破してからほどなくして、異変は起こった。
それが起こった瞬間を、ぬえは目視することができなかった。気配を感じ取ることもできなかった。どす、という鈍い音が響いたと思ったその瞬間には、犯行が行われた後だったのだから。
「な……、えっ」
無意識のうちに、ぬえは間抜けな声を上げていた。
夢美の心臓に、なにかが突き刺さっている。見覚えのある、なにかだ。けれども、どこで見たものだったか、ぬえはすぐには思い出せなかった。
「えっ……なんで、私……」
恐怖でも悲しみでもなく、なにが起こったのか理解が及んでいない様子で、夢美はぽつりと言葉を漏らした。
吉影とぬえの目の前で、夢美の胸に突き刺さっていた“なにか”が、ごとりと音を立てて落ちる。次いで、夢美の体は後方へと引っ張られるように倒れ込んだ。背中からどさりと仰臥する。
穴が空いた箇所から溢れ出した赤黒い血液が、夢美の衣服をなお赤く染め上げてゆく。食堂の一角に、またたく間に赤の水たまりが出来上がった。
「なんだ……なにが起こったんだ」
顔中に冷や汗を浮かべて周囲を見渡す吉影に対し、ぬえは気の利いた返事も思い浮かばず、ただ首を横に振ることしかできなかった。この場にいる誰もが状況を飲み込めていない。
勝利したのは、自分たちの筈だ。それなのに、いったいなぜ、どうして夢美が殺されるという『結果』に至ったのか、この場の誰も理解できなかった。
「この館の……女神像だ」
「えっ」
「
岡崎夢美の心臓に突き刺さっていたアレは……女神像が持っていた、水差しだ……! 今、我々は『攻撃』を受けているッ!
エシディシではない、新手の攻撃を……!」
夢美の心臓に突き刺さっていたのは、吉影の言葉の通り、ジョースター家の慈愛の女神像が手にしていた水差しだった。その先端は鋭利に尖っており、それを、恐らく遠距離から投げつけられたのだろう。
この場の誰にも気取れられることなく、正体を隠したまま。
「クソッ!」
ぬえはすぐさまこの場の全員に正体不明の種を振り撒いた。
正体不明の影に恐怖させるのは、必ずこちらでなくてはならない。他ならぬ大妖怪のぬえが、正体不明の敵に脅かされるなど、絶対にあってはならないことだ。
仮に敵が自分たちの情報を知らない相手だとすれば、今振り撒いた正体不明の種である程度は認識を撹乱させられるはずだ。その正体不明に対する恐怖を糧にして力を取り戻し、迎撃する必要がある。
ぬえはひとまず、夢美のそばに駆け寄った。
「おい、夢美、夢美、大丈夫か」
大丈夫でないことは明白だった。質問のていを取ってはいるが、それは最早質問ですらないことをぬえ自身自覚している。
心臓から夥しい量の血液を流しながら、夢美は光を失いつつある瞳で、ぬえを見た。瞳から、つう、と涙が零れ落ちてゆく。
敵は何処から攻撃してきたか、とか、なんで狙われたのか、とか、そういうことを尋ねようかとも思ったが、今にも死にゆこうとしている夢美の顔を見た時、その質問は無意味であることをぬえは悟った。今の夢美から情報を引き出すことは、きっと難しい。
ぬえは罰が悪そうに目線を伏せた。
「……なにか、言い残したこととかあったら、きくよ」
夢美の瞳が、徐々に薄く閉じられてゆく。
それでも、唇は動いた。
「パチェ……、あり……が、とう……って」
震える唇が紡いだのは、今までともに過ごしてきた仲間に対する感謝の言葉だった。けれども、それがなにに対する礼なのか、その礼に付随する言葉があるのか、夢美が最期になにを思ったのかは、ぬえにはわからない。
わからないが、死にゆく人間に最期に伝える言葉として、なにがふさわしいかくらいはわかった。
「わかった、伝えとくよ。もう休みな」
ぬえには、夢美の頬が、僅かに緩んだような気がした。
それきり夢美は、一言も喋らなくなった。
◆
「フン……、まずはひとりか」
ジョースター邸の食堂の隣室に設えられたベッドに少女としての体で浅く腰かけながら、
ディアボロはぽつりと呟いた。
迷宮のような地下通路を彷徨い歩くうちに、
ディアボロはちょうど
エシディシが梯子を登って地上に出ていく瞬間を見かけた。それは
ディアボロにとって、新たな標的だった。
エシディシに追随するかたちで地下からジョースター邸へと乗り込んだディアボロは、魔法使いと
エシディシによる凄絶な戦いの顛末を、この部屋から壁抜けののみで見届けた。尤も、ずっと覗いているとこちらの存在に気取られる可能性があったので、部分的に覗き見ただけに過ぎない。
わかったのは、
エシディシが魔法使いの女に仕留められたこと。それから、仲間にはなんらかのスタンドを使う男がひとりと、十字架の弾幕を展開する女がひとり、それから能力不明の女がひとり。魔法使い含めて、計四人ということだ。
ひとまず、気絶している魔法使いの女は後回しにして、
ディアボロは殺せるやつから殺すことにした。
エシディシに勝利し気が緩みきっている瞬間を狙って、壁抜けののみで壁に穴を開けた
ディアボロは、ホールにあった女神像から拝借した水差しをキングクリムゾンに構えさせ、そして、――時を吹き飛ばした。
あまりにも容易い殺人だった。
標的となったのは、一番無防備に心臓部をこちらに向けていた十字架の女だ。
如何な弾幕を繰り出せる女とはいえ、時の飛んでいる間に急迫した凶器を食い止める術はない。キングクリムゾンの能力が解除され、水差しが女の胸に突き刺さるのを見届けると同時、壁に空いた穴は渦を描きながら閉じられていった。
「残りふたりも確実に『始末』したいところだが……、やつらはいったいどんな能力を使うのだ」
それ次第では、挑み方を変える必要がある。
もう一度、
ディアボロは壁抜けののみで部屋の壁をつついた。小さく穿たれた穴は、そこから螺旋を描きながら巨大化してゆく。
ディアボロの視界を確保するに足る大きさまで拡大したところで、
ディアボロの意思に従い、穴の拡大は止まった。
そっとのぞき穴に視線をやる。
「――なッ……なにィィ!?」
思わず
ディアボロは声を上げ、壁抜けののみを取り落とした。空いていた穴も、開いた時とは逆方向に渦を巻きながら閉じられてゆく。
見間違いでなければ、
ディアボロが穴の向こうに見咎めたのは、特徴的な黄金の頭髪の男と、
ディアボロに恐怖を刻み込んだ黄金のスタンドだった。
見間違いでなければ、魔法使いを抱き抱える男のそばに、
ジョルノ・ジョバァーナと、ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムの姿が確認できた。思えば最後にジョルノの姿を見てからそれなりに時間も経過しているが、やつはこのジョースター邸に移動していたのだろうか。
もしもジョルノがレクイエムを使用できる状態で隣室にいるとするなら、
ディアボロにとってこれは非常にまずい事態といえる。
「いや……違うッ! あれがオレの『恐怖』というのならば……乗り越える必要がある! これは『試練』だ……!」
そこで思いとどまった
ディアボロは、眦を決し、独りごちた。
ここで再びレクイエムに背を向け逃げ出すことは、帝王としてのプライドに反することだ。許されない。絶対にあってはならない。今度出くわすことがあったとしたなら、それは確実に息の根を止める時だ。逃げる時ではない。
殺意に満ちた瞳に決意の炎を再燃させて、
ディアボロは再度闘志を燃やす。
「そうだ……どうせ全員殺すことには変わらないのだ」
己自身に言い聞かせる。
隣室にいるのがジョルノであろうとそうでなかろうと、ここで絶対に始末する。おそらく、不意打ちで仕留められるのはひとりが限度だろう。残りのふたりは、不意打ちが難しいなら正面から叩き潰す必要がある。
キングクリムゾンならば、勝てる。そういう確信があった。
「だが……勝負は外のやつらがこの館に入館するまでだ。流石に多勢に無勢では分が悪いからな……それまでに必ず『始末』してやるぞ」
肌にじわりと汗がにじむ。熱い思いが、胸の中で滾っている。
この思いと願いを実現させるための力は、この手の中にある。
壁抜けののみを拾い上げた
ディアボロは、殺意の衝動に突き動かされるまま、決然と立ち上がった。
【C-3 ジョースター邸 食堂の隣室/午後】
【
ディアボロ@ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風】
[状態]:爆弾解除成功、トリッシュの肉体、体力消費(中)、精神消費(中)、腹部貫通(治療済み)、酷い頭痛と平衡感覚の不調、スズラン毒を無毒化
[装備]:壁抜けののみ
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1(現実出典、本人確認済み、トリッシュの物で、武器ではない模様)
[思考・状況]
基本行動方針:参加者を皆殺しにして優勝し、帝王の座に返り咲く。
1:隣室にいるのが誰であろうと関係ない。全員殺す。
2:爆弾解除成功。新たな『自分』として、ゲーム優勝を狙う。
3:ドッピオを除く、全ての参加者を殺す。
[備考]
※第5部終了時点からの参加。ただし、ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムの能力の影響は取り除かれています。
※能力制限:『キング・クリムゾン』で時間を吹き飛ばす時、原作より多く体力を消耗します。
また、未来を視る『エピタフ』の能力はドッピオに渡されました。
※トリッシュの肉体を手に入れました。その影響は後の書き手さんにお任せしますが、スパイス・ガールは使えません。
※要所要所で
エシディシとパチュリーの戦いを見て状況の確認だけしていましたが、
エシディシの腕が吹き飛ばされる瞬間は見逃したため、
吉良吉影のスタンド能力については確認していません。
※一度壁を閉じて視界から外した状態から隣室を確認したため、ぬえの能力によって
ジョルノ・ジョバァーナとゴールド・エクスペリエンス・レクイエムに誤認しています。近寄ったり直接戦ったりすると、すぐに正体不明の種は効果を失うものと思われます。
【C-3 ジョースター邸 食堂/午後】
【
封獣ぬえ@東方星蓮船】
[状態]:環境によって妖力低下中、精神疲労(小)、喉に裂傷、濡れている
[装備]:スタンドDISC「メタリカ」@ジョジョ第5部
[道具]:ハスの葉、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖を守りたいけど、自分も死にたくない。
1:正体不明の敵を見付け出して叩く。正体不明でビビらせるのはこっちだ!
2:そもそも吉良は本当に殺す必要があるのか疑問。集団を守るためなら戦ってくれるし、当面放置でいいのでは……
3:むしろ今最優先で始末すべきは『岸辺露伴』。記憶を読まれるわけにはいかない。
4:皆を裏切って自分だけ生き残る?
[備考]
※「メタリカ」の砂鉄による迷彩を使えるようになりましたが、やたら疲れます。
※妖怪という存在の特性上、この殺し合い自体がそもそも妖怪にとって不利な条件下である可能性に思い至りました。
※現状、妖怪『鵺』としての特性を潰されたも同然であるという事実に気付き、己の妖力の低下に気付きました。しかし、
エシディシと
ディアボロに対する能力行使により、低下はいったん止まっています。
【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:喉に裂傷、鉄分不足、濡れている
[装備]:スタンガン
[道具]:ココジャンボ@ジョジョ第5部、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:平穏に生き延びてみせる。
1:我々は攻撃を受けているッ! いったいどこからだ!?
2:パチュリーは守る。絶対にだ。死なれると後々困るからな……
3:自分の『居場所』を守るため、
エシディシの仲間は『始末』する必要がある。
4:
封獣ぬえは『味方』たりえるのか? 今は保留。
5:この
吉良吉影が思うに「鍵」は一つあれば十分ではないだろうか。
6:
東方仗助とはとりあえず休戦? だが岸辺露伴はムカっぱらが立つ。始末したい。
7:
空条承太郎らとの接触は避ける。どこかで勝手に死んでくれれば嬉しいんだが……
8:慧音さんの手が美しい。いつか必ず手に入れたい。抑え切れなくなるかもしれない。
[備考]
※参戦時期は「猫は
吉良吉影が好き」終了後、川尻浩作の姿です。
※慧音が掲げる対主催の方針に建前では同調していますが、主催者に歯向かえるかどうかも解らないので内心全く期待していません。
ですが、主催を倒せる見込みがあれば本格的に対主催に回ってもいいかもしれないとは一応思っています。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。
※パチュリーにはストレスを感じていません。むしろ、パチュリーを傷付けられることに『嫌悪感』を覚えている自分がいることに気付きました。
※
藤原妹紅が「メタリカ」のDISCで能力を得たと思っています。
【
パチュリー・ノーレッジ@東方紅魔郷】
[状態]:睡眠中、疲労(大)、魔力消費(大)、
カーズの『死の結婚指輪』を心臓付近に埋め込まれる(2日目の深夜後に毒で死ぬ)、服の胸部分に穴、服があちこち焼けている
[装備]:
霧雨魔理沙の箒
[道具]:ティーセット、基本支給品、考察メモ、
広瀬康一の生首(冷凍処理済み)
[思考・状況]
基本行動方針:紅魔館のみんなとバトルロワイヤルからの脱出、打破を目指す。
0:
エシディシを撃破したことによる達成感。
1:起きたら夢美に礼を言う。それから
カーズ打倒について話し合う。
2:レミィの為に温かい紅茶を淹れる。
3:
射命丸文と
火焔猫燐に出会ったら、あの死の真相を確かめる。
4:魔力が高い場所の中心地に行き、会場にある魔力の濃度を下げてみる。
5:ぬえに対しちょっとした不信感。
6:紅魔館のみんなとの再会を目指す。
7:妹紅への警戒。彼女については報告する。
[備考]
※喘息の状態はいつもどおりです。
※他人の嘘を見抜けますが、ぬえに対しては効きません。
※「東方心綺楼」は
八雲紫が作ったと考えています。
※以下の仮説を立てました。
荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」を販売するに当たって
八雲紫が用意したダミーである。
荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」の信者達の信仰によって生まれた神である。
荒木と太田、もしくはそのどちらかは幻想郷の全知全能の神として信仰を受けている。
荒木と太田、もしくはそのどちらかの能力は「幻想郷の住人を争わせる程度の能力」である。
荒木と太田、もしくはそのどちらかは「幻想郷の住人全ての能力」を使うことができる。
荒木と太田、もしくはそのどちらかの本当の名前はZUNである。
「東方心綺楼」の他にスタンド使いの闘いを描いた作品がある。
ラスボスは可能性世界の
岡崎夢美である。
※
藤原妹紅が「メタリカ」のDISCで能力を得たと思っています。
※考察メモに爆弾に関する以下の考察が追加されました。
死亡後の参加者の脳内からは、一切の爆発物・魔力の類は検出されなかった。
よって、爆弾は参加者の生命力が途切れた時点で解呪される術式である可能性が高い。
単純な術式で管理されたものであるなら、死を偽装できれば爆弾解除できる可能性アリ。
◆
パチュリー・ノーレッジの意識は混濁していた。
自分が今どこにいるのか、今までなにをしていたのか、頭が上手く回らず思い出せない。けれども、無理をして考える必要もない気がしたので、パチュリーはそれ以上考えることはしなかった。ただ、ひどく疲れていることだけは、確かだった。
淡い光が降り注ぐ中、あたたかいぬるま湯の中を漂っているような感覚の中、パチュリーはぼんやりと空を見上げていた。
――ごきげんよう、ひょっとして起こしてしまったかしら?
よく聞き慣れた女の声が聞こえたような気がした。それがひどく煩わしく思えたので、パチュリーはあからさまに眉根を寄せて不快感を現しつつ、応えた。
「見てわからない。寝てるのよ、起こさないでくれる、夢美」
パチュリーは今、
エシディシとの戦いを終えて、ひどく疲れているのだ。もうしばらくそっとしておいて欲しい。くだらない理由で起こされたくはなかった。
意識が、混濁している。ここまで起こった事実を断片的に思い出したり、遥か昔の出来事を昨日のことのように思い出したり、記憶が安定しない。
――ごめんね、ありがとう、パチェ。私、もう行かなきゃ。
この場所で既に嫌というほど聞き慣れた女の声が、空から降り注ぐ。あの女にしては、優しく、どこか儚さを感じさせる音色だった。
薄目のまま空を見上げていたパチュリーは、なんとなく、声の聞こえた方向へ向かって手を伸ばした。けれども、その手がなにかを掴むことはない。再び脱力し、腕をおろす。今は難しいことは考えなくても構わないと、そう思えた。
起きたら、どうせ忘れている。
だから、目が覚めたら、また夢美と色々な話をしよう。
パチュリーは穏やかな感情のまま、今と昔が混濁する記憶の海の中へと、その意識を深く沈めていった。
【エシディシ@第2部 戦闘潮流】死亡
【岡崎夢美@東方夢時空】死亡
【残り 45/90】
最終更新:2020年07月22日 00:46