ある日の授業中のこと。
ゆたかの様子がおかしい。
すごく顔色が悪い。全身ががたがた震えてる。
すごく顔色が悪い。全身ががたがた震えてる。
具合が悪いなら保健室に行かなきゃ。
どうして黙って苦しんでるの、ゆたか…。
どうして黙って苦しんでるの、ゆたか…。
もしかして…具合が悪すぎて、人に知らせることさえできないの?
だとしたら、猶予はできない。
私は立ち上がった。
私は立ち上がった。
「先生…小早川さんの具合が悪そうです。保健室に連れて行きます」
先生はゆたかの様子を見てすぐに了承してくれた。
私はゆたかの所に行った。
私はゆたかの所に行った。
「行こう。ゆたか」
ゆたかは首を振った。
「だめ…行けない…」
「無理しちゃだめ」
「だめなの…動けないの…」
「歩けないほど辛いの?だったら抱っこしてあげる…だからとにかく…」
私はゆたかを抱き抱えようとした。
「だめ…触らないで…」
私は構わずに動作を続けた。
「やめて!動いたら…!」
ゆたかの声に構わず、私の手がゆたかに触れた瞬間…。
「おしっこがぁ!」
「…!?」
私はすぐ手を離した。
…でも、遅かった。
…でも、遅かった。
ぽたっ。ぽたっ。
ゆたかが座っている椅子の下に、大きな雫が落ちた。
ゆたかが座っている椅子の下に、大きな雫が落ちた。
ちょろろろ……。
雫が、流れになった。
雫が、流れになった。
しゃあああああぁぁ…。
流れが、強くなった。
あったかそうな液体が床で弾けながら、水たまりになっていく…。
流れが、強くなった。
あったかそうな液体が床で弾けながら、水たまりになっていく…。
教室がパニックになる。
「……うわあああんっ!」
ゆたかは机に泣き伏してしまった…。
ゆたかの言葉がフラッシュバックする。
『動いたら…おしっこが…』
ゆたかは、動いたらおしっこがもれちゃう状態で、
尿意が落ち着くのを待ってトイレに行くつもりだった…。
それを…私が無理に動かそうとしたから…こうなった。
尿意が落ち着くのを待ってトイレに行くつもりだった…。
それを…私が無理に動かそうとしたから…こうなった。
私がゆたかに、おもらしさせてしまった…。
私は呆然として、その場に立ち尽くした。
どうしたらいいか分からなくて…頭の中に、真っ白な部分ができていた。
どうしたらいいか分からなくて…頭の中に、真っ白な部分ができていた。
「ぐすっ…えぐっ…みない…で…」
ゆたかが顔を伏せたまま言った。
私は慌てて目をそらし、自分の席に戻った。
私は慌てて目をそらし、自分の席に戻った。
………
ゆたかは濡れた椅子に座ったまま、いつまでも泣き続けた…。
おしっこの温もりなんて、とっくに冷えているはず。
このままでいたら、風邪をひいてしまう。
それに、このままじゃまるで晒し者だ。今はこの場所から離れた方がいい。
私はもう一度立ち上がって、ゆたかのそばに行った。
おしっこの温もりなんて、とっくに冷えているはず。
このままでいたら、風邪をひいてしまう。
それに、このままじゃまるで晒し者だ。今はこの場所から離れた方がいい。
私はもう一度立ち上がって、ゆたかのそばに行った。
「保健室…行こう。着替えなきゃ、風邪ひいちゃう…」
「……ぐすっ…」
ゆたかはゆっくり立ち上がった。
ゆたかがよろめいたように見えて、私は支えようと手を伸ばした。
ゆたかがよろめいたように見えて、私は支えようと手を伸ばした。
ぱしっ!
「!」
ゆたかは支えようとした私の手を払いのけて、一人で走って教室を出て行った。
「ゆ……」
追いかけようとする自分を押し留めた。
ゆたかの足取りはしっかりしていた。途中で倒れたりはしないと思う。
それよりも、この教室ですぐにやるべきことがある。
ゆたかの足取りはしっかりしていた。途中で倒れたりはしないと思う。
それよりも、この教室ですぐにやるべきことがある。
私はバケツと雑巾を取ってきて、ゆたかの席に残ったおしっこの後始末を始めた。
雑巾におしっこを吸わせて、バケツに絞る。
一回では吸い取り切れない。何度も繰り返す。
ゆたかの小さな体で、こんなに我慢するのは本当に辛かっただろう…。
…淡々と作業をしていると、たくさんの視線を感じた。
手を止めて辺りを見回すと、教室中の人がこちらを見ていた。
今の私を見ていたら、ゆたかのおしっこも見ることになる。
一回では吸い取り切れない。何度も繰り返す。
ゆたかの小さな体で、こんなに我慢するのは本当に辛かっただろう…。
…淡々と作業をしていると、たくさんの視線を感じた。
手を止めて辺りを見回すと、教室中の人がこちらを見ていた。
今の私を見ていたら、ゆたかのおしっこも見ることになる。
「…見てる必要は、ないと思う」
私は静かに言った。
自分でもぞっとしたほど冷たい声だった。
教室中に吹雪のエフェクトがかかったような気がした。
みんなの視線がそれたのを感じ、私は作業を再開した。
自分でもぞっとしたほど冷たい声だった。
教室中に吹雪のエフェクトがかかったような気がした。
みんなの視線がそれたのを感じ、私は作業を再開した。
おしっこを吸い取り終わって、バケツに水を汲んできて、
床と椅子の上を別の雑巾で丁寧に水拭きした。
その後、自分でゆたかの席に座ってみた。
なぜそうしたか、自分でもよく分からない。
たぶん、おしっこの痕跡はもうないことをみんなにアピールしたかったんだと思う。
床と椅子の上を別の雑巾で丁寧に水拭きした。
その後、自分でゆたかの席に座ってみた。
なぜそうしたか、自分でもよく分からない。
たぶん、おしっこの痕跡はもうないことをみんなにアピールしたかったんだと思う。
ゆたかの席に座ると、机の上の涙の跡に気付いて、ハンカチで拭いた。
ハンカチを使ったのは、おしっこの後始末に使った雑巾では気の毒だと思ったから。
ハンカチを使ったのは、おしっこの後始末に使った雑巾では気の毒だと思ったから。
後始末を終えた私は、何事もなかったように自分の席に戻った。
平然とすることで、大したことは起きてないって雰囲気を作ろうとした。
でも、おもらしで起きたパニックの余韻はいつまでも消えなかった。
結局授業は再開されないまま、終了のチャイムが鳴った。
平然とすることで、大したことは起きてないって雰囲気を作ろうとした。
でも、おもらしで起きたパニックの余韻はいつまでも消えなかった。
結局授業は再開されないまま、終了のチャイムが鳴った。
今のが6時間目だったから、もうゆたかが教室に戻る必要はない。
保健室から直接帰れるように、ゆたかの鞄を届けた方がいい。
そして…ゆたかに謝りたい。
それすらも拒絶されるかもしれないけど…。
私はゆたかの鞄を持って教室を出た。
保健室から直接帰れるように、ゆたかの鞄を届けた方がいい。
そして…ゆたかに謝りたい。
それすらも拒絶されるかもしれないけど…。
私はゆたかの鞄を持って教室を出た。
途中の廊下に、点々と何かの雫が落ちていた。
ゆたかが走りながらこぼした涙か、
スカートに染みていた分のおしっこが途中で落ちたものか…。
あるいは、ゆたかとまったく関係ない別の液体なのかもしれないけど、
とにかく、この跡は消しておくに越したことはない。
雫を一つ一つ靴で消しながら、保健室に向かった。
雫は保健室の前で終わっていた。
ゆたかが走りながらこぼした涙か、
スカートに染みていた分のおしっこが途中で落ちたものか…。
あるいは、ゆたかとまったく関係ない別の液体なのかもしれないけど、
とにかく、この跡は消しておくに越したことはない。
雫を一つ一つ靴で消しながら、保健室に向かった。
雫は保健室の前で終わっていた。
保健室には、ふゆき先生と一緒に泉先輩がいた。
ふゆき先生が泉先輩に事態を伝えたのだろう。
ふゆき先生が泉先輩に事態を伝えたのだろう。
「ゆたかの鞄…持ってきました」
「おー、ありがと。ちょうど取りに行こうと思ってたとこだよ」
泉先輩は鞄を受け取ってくれた。
「ん?くんくん…」
泉先輩が、私のにおいをかいだ。
「みなみちゃん、後始末もしてくれたんだ…ほんとありがとね」
もしかして…おしっこのにおいが付いてたのかな。
「小早川さんはとりあえず着替えて、ベッドで休んでます」
ふゆき先生が教えてくれた。
「会っても…いいでしょうか」
「そうですね。岩崎さんなら…」
その言葉で少し勇気付けられて、私はベッドのところに行こうとした。
「来ないで!」
カーテンの向こうから響いたゆたかの声。
「会いたくない!帰って!」
覚悟はしていたはずの言葉が、防御の薄い胸に突き刺さった。
…ぽん。
泉先輩が、立ち尽くす私の肩を優しく叩いた。
「ごめんね。わざわざ来てくれたのに。
…でも、恥ずかしくて誰にも会いたくないって気持ちも分かるでしょ?
もっと落ち着いたら、私がゆーちゃんと一緒に帰るから。
まあ、今日のところは、ゆーちゃんのフォローは私に任せてくれたまえ」
…でも、恥ずかしくて誰にも会いたくないって気持ちも分かるでしょ?
もっと落ち着いたら、私がゆーちゃんと一緒に帰るから。
まあ、今日のところは、ゆーちゃんのフォローは私に任せてくれたまえ」
泉先輩は申し訳なさそうに言った。
どうして、こんなに優しくしてくれるんだろう。
ゆたかにおもらしさせた張本人は、私なのに。
ふゆき先生がいるから怒りを隠している、という風にも見えなかった。
どうして、こんなに優しくしてくれるんだろう。
ゆたかにおもらしさせた張本人は、私なのに。
ふゆき先生がいるから怒りを隠している、という風にも見えなかった。
…きっと、ゆたかはまだ、先輩に詳しい状況を説明してないのだろう。
本当なら、その場で本当のことを告げて泉先輩にも謝らなきゃいけなかった。。
なのに…結局私は黙って泉先輩とふゆき先生に頭を下げて保健室を後にした。
ゆたかに拒絶されたのがショックで言葉が出なかった…そんなのはただの言い訳。
ゆたかをこんなにしたのが私だって知ったら、泉先輩は当然私を責める。
それが怖くて、本当のことを言えなかっただけだ…。
なのに…結局私は黙って泉先輩とふゆき先生に頭を下げて保健室を後にした。
ゆたかに拒絶されたのがショックで言葉が出なかった…そんなのはただの言い訳。
ゆたかをこんなにしたのが私だって知ったら、泉先輩は当然私を責める。
それが怖くて、本当のことを言えなかっただけだ…。
家に帰っても、ご飯を食べても、お風呂に入っても、寝るときになっても、
頭の中の真っ白が、ずっと消えなかった。
頭の中の真っ白が、ずっと消えなかった。
……………
真っ白な部屋の中に、ぽつんとベッドがあった。
ベッドには、ゆたかが横になっていた。
ゆたかは私に気付くと、頭までシーツをかぶってしまった。
ベッドには、ゆたかが横になっていた。
ゆたかは私に気付くと、頭までシーツをかぶってしまった。
「ゆたか…ごめん…本当に…私のせいで…こんなことになって…」
「………」
ゆたかは答えてくれない。
「ゆたか…」
「………」
ゆたかは答えないまま、ベッドの中で顔を背けた…。
「許してなんて言わない…でも…何か言って。知らんぷりしないで…」
「………」
ゆたかは何も言ってくれない…。
「ゆたか…」
声が震える。
泣き出しそうになっている自分を懸命に抑える。
泣き出しそうになっている自分を懸命に抑える。
「ゆたか…何か言ってよ…お願いだから…。
このままじゃ私…どうしたらいいのか分からないよ…」
このままじゃ私…どうしたらいいのか分からないよ…」
「無駄無駄。答えるわけないじゃん」
背後からの冷たい声に振り向くと、泉先輩が立っていた。
「ゆーちゃんから聞いたよ。
おもらししたの、みなみちゃんのせいなんだってね」
おもらししたの、みなみちゃんのせいなんだってね」
「……!」
「かわいそうにね。ゆーちゃん、すっかり落ち込んじゃってる。
もう学校には行けないと思う。行ったっていじめられるだろうし。
取り返しの付かないことしてくれちゃったね…」
もう学校には行けないと思う。行ったっていじめられるだろうし。
取り返しの付かないことしてくれちゃったね…」
泉先輩は、私の目の前まで近付いてきた。
「みなみちゃん…」
泉先輩は、ゆっくりと手を上げた。
「…許せないよ」
その手は、急に速度を上げて、私の顔をめがけて飛んだ…。
びくっ!
体を震わせて目覚めると…真夜中で、私の部屋のベッドの中だった。
「夢…」
私がしたことは、もう取り返しがつかない。
ゆたかはもう二度と私と口をきいてくれない。
ゆたかはもう二度と立ち直れない。
夢が、冷酷に私に突き付けた未来。
ゆたかはもう二度と私と口をきいてくれない。
ゆたかはもう二度と立ち直れない。
夢が、冷酷に私に突き付けた未来。
「やだ…」
思わず声に出していた。
何とか…できないの?
私はゆたかに永遠に嫌われたって仕方ない。
でも、ゆたかが私のせいで二度と立ち直れないなんて、絶対に嫌だ…!
何とか…できないの?
私はゆたかに永遠に嫌われたって仕方ない。
でも、ゆたかが私のせいで二度と立ち直れないなんて、絶対に嫌だ…!
夢の中と同じように、泣き出しそうになる。
でも、抑え込む。
私に泣く資格なんかない。誰も見ていなくたって。
何もかも、私がまいた種だ。
自分に、そう言い聞かせる。
でも、抑え込む。
私に泣く資格なんかない。誰も見ていなくたって。
何もかも、私がまいた種だ。
自分に、そう言い聞かせる。
「………」
何とか、落ち着いた。
その代わり、頭の中にずっとある真っ白が、少し大きくなった気がした…。
その代わり、頭の中にずっとある真っ白が、少し大きくなった気がした…。