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第七章『血道の世界』その③

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orisuta

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アッコは気絶したアリーナを木の側へ運んで寝させた。


アッコ「……ナントカ、なったネ。バク、来てくれてアリガト。」

模「まさか、敵と出くわしてたとは思わなかったけどね。」

アッコ「『ヴァン・エンド』、見逃しちゃっタヨ……。」



アッコ「………ッ!?」グラッ


ドシン!

アッコはバランスを崩し、右ひざから崩れ落ちるように倒れた。

模「アッコ!?大丈夫?」

アッコ「………ヘヘ、大丈夫ダヨ。つまずいチャッただけダカラ。」

アッコは再び立ち上がり、右ひざをさすった。

模「ちょっと、休憩しようか。あいつもアッコが気絶させちゃって、起きるまで待たなきゃいけないしね。」

アッコ「あ……ウン。ゴメンネ……。」







二人は林の中の一本の木に寄りかかって座った。

空を見上げると、屋敷を出たころに広がっていた夕焼けはいつしか星空に変わっていた。

民家のあまりない林道は明かりが少なく、大きな半月と、夜空に横たわる天の川が美しく煌いていた。


アッコ「……………」

模「…………」

アッコ「…………ねえ、バク。」

模「……なに?」


アッコは模のほうに顔をむけ、首をかしげて尋ねた。

アッコ「…………バクの将来の夢ハ、ナニ?」

模「えぇ?」

模はアッコの脈絡のない質問に少したじろいでしまった。

アッコ「マエにも聞いたケドさ、バク、特にナイって言ってたジャン。

    アレから、いろいろあったシ、今はナニかあるんジャない?」

模「え?……あーうん。あるといえば……ある。」

アッコ「オシエテ!」

模「んと…………『ひとの役に立ちたい』……かな。」

アッコ「なんかバクゼンとしてるネ。……それで、ドウシテ?」

模「……僕、ずっと将来の夢とか、なかったんだ。ちっちゃい頃から。……小学校の作文とかでもさ、書くことなくて、

  となりの席の子のをマネして書いて怒られたこともあったんだ。よく通信簿にも『すすんで他人の手伝いをする』って書かれてさ、

  ……それも自分でやりたいことがないからなんだよね。」

アッコ「……………」

模「でもさ、杜王町に来てから……それでもいいんだって思えたんだ。自分が他人に必要とされてるってことの喜びを知ったんだ。

  そのやりがいを……これからも感じ続けていけたらなあって。」

アッコ「ふーん………。」

模「あ、でも、結局自分がないってのは変わらないんだよね。

  ……僕のセクター9もさ、他人のチカラが無ければ使えないって、皮肉にも僕らしい能力なんだよね。」

アッコ「フフ、そんなコトないヨ。」

模「……アッコは?」

アッコ「あたし?」

模「うん、アッコの……夢。」

アッコ「ソレだってマエにも言ったジャン。あたしは、陸ねえちゃんと、バクといっしょに暮らすコト。」

模「あ……あはは、そういえば言ってたね。」

アッコ「デね、あたしがバクとデートにいったら、ヤリたいコトがアルの。」

模「でで、デートって…………。えと、やりたいことって、何?」


アッコ「………バクとアイスクリームが食べタイ。」

模「え……アイスクリーム?」







アッコ「バク、覚えテル?あたし達ガ初メテ出会ったバショ。アイスクリーム屋さんノ近くのゴミ捨て場。」

模「アイスクリーム屋の近くのゴミ捨て場……?」

模は少し考え込み、


模「あ、アッコがゴミ捨て場で横になってた時だ!」

アッコ「そうダヨ。あそこのアイスクリーム屋さんニ行きたい!」

模「あれ、でもアッコあのとき僕に気づいてたの?」

アッコ「エ?あ、ア……ウン。(バクがスタンド使いだとわかっテタから、レイさんの指令で待ち伏せてたダケなんだけどネ。)」


模「ところでさ……アッコって、アイス食べれるの?機械の体なのに。」

アッコ「ナニ言ってんのサ、武田モータースで一緒に『トンカツ』食べたジャン。」

模「あ、そっか……じゃ食べれるんだ。」

アッコ「ソウダヨ。ね、ホッペタ……触ってミテヨ。」

模「え?あ、っちょ……!」


アッコは模の手を取り、自分の頬に押し当てた。

模「…………」

その頬は少し温もりがあって、柔らかかった。

模は陸の話から、アッコが体内で医療用の生命維持装置を融合させた、体の半分が機械でできた人間であることは知っていた。

……しかし、それでもアッコの肌は人間のそれとまったく同じ感触だった。


アッコ「……ね、ツギハギはあるけど、柔ッコイでショ?」

模「…………うん。」

アッコ「あたしは機械デ動いテルケド、外見はホトンド人間とイッショなんダヨ。」

模「うん…………」

アッコ「………………」



沈黙が流れた。

模が二の句をつなぐことができないでいたのは、アッコの様子が先ほどとは変わっていたからだ。

……いつもの元気なアッコの表情とは、少し違っていた。







先に口を開いたのはアッコだった。

アッコ「…………ねえバク、お願いがアルの。」

模「お願い?」

アッコ「アイスクリーム、イッショに食べたらさ………今度ハ、遊園地に行こう?」

模「…………?」

アッコ「デニーパーク行って、耶樹山動物園ニモ、行ってサ……。」


いつもの天真爛漫な、アッコじゃない。

その目には、少し、憂いが見えたような……そんな気がした。



模「ねえ、アッコあのさ……」

アッコ「バク…………っ!」

アッコは模の言葉を遮るように名を呼び、体を向けて、両手を模の肩にまわした。



アッコ「あたしッテさ、外見はヒトでもサ……機械だよネ……?」

模「え?」

アッコ「ナノにさ、どうしてナンだろ……ヘンな気持ちナんだ。どうも、落ちつかナクって、ナンダカ……さびしくッテ。」

アッコの頬を月明かりが照らした。もともと赤みのない頬がさらに青白く光り、無機質な肌の色はむしろ雪のように白い輝きを放っていた。



アッコ「ね、バク……ちょっと、目……閉じテ……」

模「え!?ちょっ……アッコ待って……」

アッコは模の制止にかまわず、顔をゆっくり近づけていく……。








<  アッコ!?アッコーーーーーッ!!?  >







模「ンッ!!?」

ビクッ!

突然入った無線に模とアッコは驚き、体を跳ね上がらせた。

アッコはあわてながらポケットから無線機を取り出し、応答する。

アッコ「あ、あ、ア、ア、ア……な、ナナ何!?はいコチラアッコ!」


通信してきたのは陸だった。

陸<なァーに動揺してんだアッコ。やっとつながったと思ったら……。>

アッコ「ア、ゴ、ごめんなさい!敵と、出くわしちゃッテ……。」

陸<え、マジかよ!?大丈夫なのか?>

アッコ「あ、ウン。バクも来てくれたカラ……でもキゼツさせちゃって、起キルまで情報をキキ出せなくて……」

陸<……そうか。だが、起きるのは待たなくていいぜ!>

アッコ「エ?」

陸<おれ達……九堂と五代とおれは今、『カメユーマーケット』の前にいる。そこがディザスターの移転先なんだ!>

アッコ「ホ、ホントに!?」

陸<そうだ、今となってはなるべく固まってたほうがいい。アッコと模もこっちへ来てくれ!じゃあ、切るぞ!>


ブツッ

陸から一方的に通信を切られた。


アッコ「ヤッタ、バク!これでディザスターに逃げラレずにスム!」

模「そ、そうだね!……移転先さえ抑えれば、ディザスターは隠れられる場所は無い…ね!」


模とアッコは立ち上がり、林の中から道の上へ移動した。


アッコ「あの女は……ホットこう。もう用ナシだし。」


模「……………」

アッコ「さあ、『カメユーマーケット』へ向かオウ、バク。」

模「………うん。」



アッコ「……ドウシタの?みんなのトコロへ行コウ?」


模「……『みんな』………か。」

アッコ「バク?」





    紅葉「……みんな、『杜王町でいっしょに』戦っているんだ。」





模が思い出したのは、別荘地帯へ来たときの紅葉の言葉だった。

今、紅葉は零が間に合ってなければ棟耶と一人で戦っているはずだった。







模「……ごめん、アッコ。僕は紅葉のところへ行くよ。」



アッコ「…………」

アッコは黙って、模の目を見ていた。

模「今、紅葉はひとりで戦ってる。零さんも合流しているかわからないんだ。だったら……僕も加勢しなきゃ。」

アッコ「………ソウ、ダネ。そうだヨね。」

模「ごめんね……。」

模はアッコから目を背け、下を向いた。

アッコ「バク!」

模「!」


模がアッコの声に驚き、ふっと顔を上げると、アッコが顔を模の目の前に近づけていた。

アッコ「…………」

模「………!!」

アッコ「………ニヒー。」

アッコはニィッと歯を出して笑った。


アッコ「謝るコトないでショ、バク。レイさんとクレハが別行動をとってルってんなら、バクはクレハのトコへ行かなきゃ。」

模「う、うん。」

アッコ「デモ、あたしはリクねえちゃんのトコへ行くからネ。『スペア・リプレイ』に体を修理シテもらう必要モあるし。」

模「……じゃあ、ここでお別れだね。」

アッコ「ソウだね。アイツが起きる前に、サッサと行かなきゃ。」

アッコは振り返って、木の側で寝転がるアリーナを見た。

いまだ起きる気配は無い。


アッコ「ソレじゃ、お互いガンバロウね。」

アッコはそのまま、杜王町内へ向かって進みだした。

模「アッコ……この戦いが終わったら、一緒に遊びに行こうね!」

アッコ「バクー、ソレ『死亡フラグ』だよ!!」

模「はは……そっか……。」

アッコは走りながら模に向かって手を振った。

模はその背中をずっと見続けていた。



模はすぐにでも紅葉のもとへ向かわねばならないはずだった。

……しかし、模は杜王町内へ向かうアッコを見えなくなるまで見届けた。


それは、先ほどのアッコの様子が気にかかっていたからだった。

いつものアッコと違う、憂いのある表情が心にひっかかっていた。


この厳しい戦いで、なにも起こらないということはきっとないだろう。

だがそれでも……きっと無事でいて欲しい。


そう、模は思った。







陸「何やってんだアッコのヤツ……。」


九堂「どーかしたのか?」

陸「ああいや、わかんねえけど……やっぱり敵には出くわしてたらしい。もう無事みたいだけど。

  すぐにこっちに来るってよ。」

九堂「そうか………。さて、五代よォ……」

五代「…………」

五代は腕を組んで、目の前の建物を見上げていた。


――杜王町、カメユーマーケット前――


すっかり夜も更けたとはいえ、大通りにはまだ人の姿がまばらにあった。

本来ならばこのカメユーマーケットも営業している時間帯なのだが、

現在は経営難のために建物がディザスターによって買収されて閉鎖中となっており、正面入り口にはシャッターがおりていた。


九堂「ほんとうにここにいるんだな?『弓と矢の男』が。」

五代「真偽はどうあれ、俺たちにはほかに手がかりもない。……ウソはついてないように見えたがな。」

九堂「?」

五代「シャッターを壊してもいいんだが、あまり目立たないように裏口から入ろう。」

九堂「……だな、そうしよう。」

陸「なあ、五代、九堂。」

九堂「なんだ、陸さん?」

陸「おれは……外にいるよ。」

九堂「え!?」

陸「考えてもみろ、今おれたちがカメユーマーケットが見えてるってことはヴァン・エンドの『ピープル・イン・ザ・ボックス』は発動していない。

  だが、おれ達が入った後、能力を外から発動させられちまえばおれ達は『弓と矢の男』を倒したとしても、閉じ込められちまうんだ。

  ピープル・イン・ザ・ボックスの能力下にある建物からは出ることもできないってエリックが言ってたからな。」

五代「……つまり、陸さんはヴァン・エンドを待ち伏せるつもりなんだな?」

陸「そうだ。……とはいえ、おれはヴァン・エンドの顔を見たことがない。だが、アッコと模は見ているはずだ。

  アッコたちがここに来るまではおれが誰もカメユーマーケットに入らないように見張っておく。」

九堂「……だったら、俺が残ったほうがいいんじゃねえか?陸さんならケガを治せるし、五代のサポートができる。」

五代「いや……『弓と矢の男』がケガを治す時間をくれるとは思えねえ。第一ヤツのスタンドの攻撃なら、一発くらえば即死だろう。

   ヤツは……四宮を一撃で殺したんだからな。」

陸「そういうことだよ……九堂、あんたは五代と一緒にいるほうがいい。」

九堂「……ああ、わかった。陸さんも、気をつけろよ。」

陸「外はまかせとけ。あんた達はヤツとの戦いに集中しなよ。」

五代「じゃ……いくぜ、九堂。」


五代と九堂は建物の裏にまわり、搬入用の出入り口からカメユーマーケット内に侵入した。

正面入り口前にひとり残った陸は、入り口前の階段に座り込み『スペア・リプレイ』を発現させた。

陸「スペア1、2、3、5は建物の四隅について監視しろ。スペア4は伝達役だ。建物に近づこうとするヤツがいたら、スペア4に伝えろ。」

スペア・リプレイ達「オッケェ―――イ!!!」


陸(アッコたちが来るまでは、だれも建物に入れさせない。

  零さんが戦ってて、ヴァン・エンドもいないなら建物の中にいるのは『弓と矢の男』だけだ。しかし……)


陸にはひとつだけ、疑問に思っていたことがあった。

陸「ディザスターのボス『ディエゴ・ディエス』はどこにいやがるんだ……?」


これまでディザスターのスタンド使いの中で、唯一『ディエゴ・ディエス』だけがいまだ模たちの前に姿を現していなかったのだ……。



現在の状況


模   :山道でアッコと協力して『アリーナ・シュゲット』を倒す。アッコとは別れ、紅葉に加勢するため再び別荘地帯へ。

五代  :路地裏で九堂と陸に合流した後、『カメユーマーケット』へ。九堂と共に建物内へ潜入。

アッコ :山道で模と協力して『アリーナ・シュゲット』を倒す。模とは別れ、『カメユーマーケット』へ向かう。

九堂  :路地裏で五代に合流した後、『カメユーマーケット』へ。五代と共に建物内へ潜入。

陸   :路地裏で五代に合流した後、『カメユーマーケット』へ。『ヴァン・エンド』を待ち伏せるため正面入り口前に座り込む。

零   :別荘地帯へ向かう途中で『シーチゥ』と遭遇。シーチゥは逃走し、現在追跡中。

紅葉  :別荘地帯で模を街中へ行かせた後、『棟耶輝彦』の誘いに乗り『ディザスターアジト内』へ入る。





ザッザッザッザッ……

木々の生い茂る林の中を桐生零は走っていた。

彼女の視線の先には、大船に乗った死神と女……『リバーサイド・ビュー』のシーチゥの姿があった。

シーチゥは「あるモノとの距離を瞬時につめる」というスタンド能力を使いながら零から逃げていた。

……いや、正確には「ある場所」へおびき寄せていたのだが。


シーチゥ「とまれ、『リバーサイド・ビュー』!!」

シーチゥの命令で、宙を航海していたリバーサイド・ビューは林の中で停止した。

そして同時に10mほど後ろから追っていた零も足を止めた。

零「どうしたの?もう鬼ごっこはおしまいかしら。」

シーチゥ「この女……!」

シーチゥが驚いたのは、零がここまでおよそ5キロの道のりを走ってきたにもかかわらず、全く息を切らしていなかったことだ。

シーチゥ(『この場所』へおびきよせるためにわざとまかなかったとはいえ、たったの20分でここまで相当速く走らせたのに……

     やはりこの女、只者じゃないな。)

零はまわりを見渡した。

自分が立っているのは林の中。やぶはあまりなく、木々の間からまばらに民家が立っているのが見える。

とはいえ、人の気配はまったくなかった。


零「ここは……『別荘地帯』。」







―――杜王町郊外、別荘地帯―――



零は改めてまわりを確認した。零の記憶が正しければ、ディザスターのアジトがあるこの別荘地帯には、模と紅葉がいるはずだった。

しかし、周りには自分たち以外に人の姿は無く、激しい戦いのあった痕跡も見られなかった。

木々の間から遠くに家屋が連なっているのも見えたが、どの建物がディザスターのアジトなのか、零にはわからなかった。


シーチゥ「私を前にしてよそ見するなんて、ナメられたモノね。」

零「…………」

シーチゥ「くやしいけど、それも仕方ないのかもね。あなたは、並の生活を送ったただの人間とは思えない。むしろ、"こっち側"の人間……。」

零「……『アンティーク・レッド』。」

零が自らのスタンドを現した。

真紅の鎧を身に纏った、サソリの風貌をしたスタンド。


シーチゥ「そう、そしてそのスタンド……決して、傷つけることができない。……私では、決して。」

零「急に足を止めて、何を話しているの?戦うのもあきらめた?」

シーチゥ「いいえ、まだあきらめちゃあいない。私の出来る限りの手段で、あんたを殺してみせる。

     ……そのために、『ここへ来たのだから』!」

零「…………?」


ガサッ!

シーチゥの後方に、複数の人影が現れた。


ザザザザザザザザッ!!

1、2、3……8人。

その全員が、迷彩服を身に纏い、アサルトライフルを抱えている。

迷彩たちはシーチゥの前に横に並び、片膝をついて銃を零に向け構えた。

零「…………!!」


零は動けなかった。この迷彩たちが何者なのか、理解してから行動するのでは遅すぎたのだ。

シーチゥ「私は、本作戦に参加する兵の半分の指揮を任されている。

     ……私のスタンドであんたの体を斬りつけても、すぐに傷がふさがってしまうのなら……

     原形がなくなるまで削ってあげたら……どうかしら?」

零「……!『アンティーク・レッド』!」

シーチゥ「今頃勘付いても遅いッ!"撃て"!!」



零「――――――――ッ!!」



ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!







シーチゥの号令で、迷彩たちの銃がいっせいに火を噴いた。

8人からの集中砲火はすべて零に向けられている。


バズッ!バズッ!バズッ!バズッ!バズッ!


声をあげさせる隙すらも与えず……銃弾は零の身体を貫いてゆく。


ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!

バズッ!ボッ!ドブッ!バヂッ!ドズッ!


脚に、腹に、胸に、腕に、肩に、顔に、頭に、無数の赤黒い穴が開く。

すでに頭は原型が無く、ピンク色の肉が見えている。

大口径の弾は腕をちぎり飛ばし、その腕さえもこま切れにする。


バババババババババババババババババババ!!!!!

ボズッ!ブズッ!ドブッ!ドヂュッ!ボゴッ!


腹がちぎれ、上半身が地に落ちる。しかしそれはもはや人の形をしていない。

迷彩たちが撃っている「それ」は、もはや人ではない。血にまみれた肉のかたまり。

無数の鉄の弾が、零の身体を削っていった。


それでもシーチゥは銃撃をやめさせない。スタンド使いでない迷彩たちには、自分が撃っている「それ」が何者かはわからない。

命令に従い、ただただ撃ちつくすだけだ。


弾倉をすべて吐き出すまで、迷彩たちの銃撃は止まなかった。


シーチゥと迷彩たちの前には、何分割もされた零の体が転がっている。

脚、腕、指がばらばらに散っている。

『アンティーク・レッド』は速いスピードを持たない。

迷彩たちの放った銃弾のほぼすべてを零は受けたのだ。







迷彩のひとりがシーチゥに尋ねた。

*「同志、この女はいったい……?」

シーチゥは答えた。

シーチゥ「おそらくは、敵の中でもっとも強大で、恐ろしい人間……。ここまでしてやっと十分だといえるほどのね。」

*「事後処理が面倒だぜ。心臓麻痺にするにゃ不自然が過ぎるし……海に落ちたってことにすりゃいいか。」

シーチゥ「後のことはいい。……こいつの仲間が近くにいるかもしれない。一応、装填しておきなさい。」


*「質問が……あるのですが。」

シーチゥ「何?」

迷彩のうちの一人の声は、震えていた。


*「千切れた脚が、ひとりでに立ち上がることがあるのですか?」


シーチゥ「何……?」



シーチゥはこま切れになった零の体のあるほうへ目を向けた。

シーチゥ「……信じられない。」


シーチゥの視線の先には、零の2つの脚が、揃って立っていた。


ドドドドドドドドドドドド……



片方はひざまで、もう片方は足首までしかないが、確かにこぶし2つぶんあけて並んで立っている。

*「何だよこれ……ホラーじゃあるまいし。」

*「おい、変なイタズラやめろよ。」


シーチゥがみたのはそれだけではない。両脚が立つそばに、大きな白い「もや」が何かの形を成そうとしているのが見えた。

目をこらしてそれが何かを確かめようとすると、続いて「聞こえるはずの無い声」が聞こえた。





  ≪ やはり、私があなたに出くわしたのは幸運だった……。 ≫





シーチゥ「何よ、この声……。」

*「声?」

*「何も聞こえないぞ、同志。」

シーチゥ「え?」


*「おい……見ろよ。いや、見ないほうがいいのか?」

*「あ、あああ、脚が!?」


並んで立っていた2本の脚が、さっきまではひざと足首までだったのが、股下まで肉がついていた。


……いや、それは違った。脚のまわりに散らばった肉が地面を這い、脚を這い、集まっていたのだ。

目に見える速さで例の肉が、骨が、血が、ひとつに集まりはじめていた!!







*「うわ、うわああああああああああああ!!」

*「なんだなんだ、これは『バイオハザード』か、『ターミネーター2』か!?」


そして、ひとつに固まりだした「零」が、シーチゥと迷彩たちに向かって歩き出した。

シーチゥから見えていた「白いもや」が、形をつくり、色もつきだした。


その正体は……零のスタンド、『アンティーク・レッド』だった。

シーチゥ「さっき私だけが聞こえた声は……スタンドを介したものだったのか!ということは…………」


迷彩の一人に近づいた「零」は、アンティーク・レッドの腕を、その迷彩を狙ってふりかぶった。

迷彩は目の前に立つ赤黒い肉のカタマリに目を奪われている。彼らに、スタンドを見ることはできない!


シーチゥ「この女は―――生きている!!」


*「え………」


ドグチャアッ!!!




アンティーク・レッドの拳は、迷彩の頭を叩き潰した。

体を激しく痙攣させ、地面にバタリと倒れた。

*「ううあああああああああああああああああああああああ!!!!」

人の体の形をなした「零」の肉は、筋肉の筋をつくり、血管をはりめぐらせ、皮膚で覆いはじめた。

頭のてっぺんまで皮膚が覆い、髪までもとのように復元する。

……それは先ほど集中砲火でばらばらにしたはずの女の顔だった。


零「『アンティーク・レッド』……私はこの能力で、死んでも死ぬことができない。

  こま切れにされようが、燃え尽きて灰になろうが、こなみじんになろうが……。

  これはもはや、私の生を縛る『呪い』よ。」






【名前】
桐生零
【身長】
157.4cm
【血液型】

【好きな食べ物】
ビーフストロガノフ
【嫌いな食べ物】
貝類

【趣味】
コメディ映画の鑑賞
【好きなマンガ】
『アカギ』『あしたのジョー』

【スタンド名】
アンティーク・レッド
【タイプ】
近距離型

【特徴】
赤い鎧を纏ったサソリのような人型。

【能力】
殺されることで発動。本体を殺したものに『殺されない』状態に成長して蘇生する能力。
銃弾で撃ち抜かれれば、銃撃されても死ななくなり、ビルから転落すれば、転落した高度以下の場所から落ちても死ななくなり、
病気で死ねば、その病原菌やウイルスには一生侵されない身体になる。
当然スタンドの場合も同様で、本体を一度殺したスタンドの攻撃も能力も一切通用しなくなる。

破壊力-A
スピード-D
射程距離-E

持続力-A
精密動作性-D
成長性-E






*「うわあああああああああッッ!!」

*「追撃ッ、追撃だ!!」

*「ま、まだ装填してねェッ!!」

*「お、おれは終わってる!早くしろ!!」

パパパパパパパパパパパパパパパ!!

迷彩のうち一人が零にむけて再び銃を放つ。


零「『アンティーク・レッド』………」

銃弾は零の身体に命中するも、弾は沈み込んで通り抜け、傷を一つもつけられなかった。

*「な………!」

零「もはやその銃では私を殺せない……!」


ガシッ!

アンティーク・レッドは迷彩が構えた銃を手でつかみ、もう一方の拳を振りかぶった。

*「……!?なんだ、銃が動かない……!」

シーチゥ「いけない、銃を放せ!!」


ドグチャッ!!

*「ぐぼ……!」


*「う、撃てぇッ、撃てェェ!!」

しかし6人の迷彩たちが銃を構えるより先に、零はアンティーク・レッドにつかませた銃を手に取り、迷彩たちに向けていた!


パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!!!

*「グアッ!」

*「うぐッ!」


ひとかたまりになっていた迷彩たちを、零が銃でもって蹂躙していた。

銃を構えていた者にも、逃げようとしていた者にも、銃を落として両手をあげていた者たちに対しても、零は無慈悲に攻撃をつづけていった。







銃撃の前に離れていたシーチゥは、零の背後からその様子に目を奪われていた。

あまりに不条理な力……圧倒的な力の差を見せ付けられているようだった。



……そして、シーチゥは彼女の背中を見て納得する。零のその強さに。

あらわになった零の背中には、ディザスターの刺青が刻まれていたのだ。自分と同じ、その刻印が。



別荘地帯に響く銃声が止んだ。零の前には迷彩服を纏った8つの骸が転がっている。

零は振り返って、シーチゥのほうを見た。睨みつけるわけでもなく、不敵な笑みを浮かべるわけでもない。

無表情………そして、冷ややかな目をしていた。死人のような、真っ黒な目だった。

「桐生零」は、ディザスターにとってみれば杜王町において未知の敵だった。

しかしその力量は紅葉や五代には劣るものだろうと幹部までもが軽視していたが、

シーチゥは、この女こそが敵の中で最も恐ろしい者だと確信していた。


……いや、シーチゥの知るディザスターの幹部と比較してみても、零を上回る者は見つからなかった。

この女を、誰が止めることが、始末することができるのだろうか?

ひょっとしたら幹部はおろか、ボスにさえも…………


零はアンティーク・レッドを発現させたままシーチゥのほうへ歩みだした。


シーチゥ「そういえば聞いたことがある……。かつて絶対不可能と思われた任務もこなし、

     殲滅された団体作戦においてもいつもたった一人生き残っていた『アンデッド』と呼ばれる女の団員がいたという話を……。」

零「…………」

シーチゥ「スタンド能力は、誰にも明かしていなかった。しかし必ず任務はこなしていたことで信頼を得ていた団員だった。

     でもあるとき、前触れもなくいなくなったとは聞いたけれど……。」

零「……ずいぶん懐かしい呼び名ね。私は嫌いだったけど。」

シーチゥ「私の、あこがれだった。いつか会ってみたいと思っていた。……なのに、こんな形で会うことになるなんてね……。」


零はシーチゥの目の前に立ち、アンティーク・レッドの拳をふりあげた。


零「それは、残念ね。」

シーチゥ「ええ……とても、残念。」





     グチャッ





別荘地帯に、低く、鈍い音が響いた。


……それから再び、一帯は静寂に包まれた。
 
 
 
 
【海沿いの道→別荘地帯】

 ○  桐生零  -  シーチゥ × 






to be continued...



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