『カスJK沙都子とJC雉子vs火』
ある日。
梨花様の御慈悲により、ついに“聖域”への立ち入りを許可(=遊びに来た)された沙都子。
部屋にて――。
梨花「じゃ、すぐ帰ってくるから」
沙都子「え、まじ?どこいくの!!」
梨花「……あのさぁ、たかが10分もじっとできないの?ついてきたら即110だからね」
沙都子「警戒レベル草。つか、これなに?」
梨花「は?ヘアアイロン。絶対触らないでよね!」
沙都子「うぃ〜〜(窪田等(@WiiのCM)ボイス)」
パタン。
ドアが閉まる。
静寂。
3秒。
5秒。
6秒目で限界。
――じゅー……じゅー……
沙都子「おいひぃ〜〜〜♡脳みそ溶けりゅ〜〜」
ヘアアイロン、ON。
挟まれているのは――グリーンカレー大福。(理由:なんかいけそうだったから)
圧縮。加熱。変形。もはや和菓子ではない。概念せんべい。
油と餅の匂いが高級フローリングに染み込み始めた、その時。
ガチャッ。
雉子「お姉ちゃ〜――」
雉子「あ」
沙都子「あ」
時間が止まる。
回想
不登校。繊細。そして、梨花の妹である――雉子ちゃん。
かつて沙都子の迷惑行為により、軽度のPTSDを発症した被害者である。
当然、パニックにならないなどあるはずなく──…
雉子「あ、沙都子お姉さん!……お久しぶりです……!」
沙都子「ひっ!! ど、ども……!w」(ヘアアイロンポイッ)
……だなんてことはなく。
雉子は割と大人だった。
◆
沙都子「き、雉子ちゃ〜ん。まだピアノとかやってんの?w」
雉子「あ、はい……! えっと……これしか趣味がないので……」」
沙都子「へー……。……どんな曲ひくの?」
雉子「あ、い、いろいろです……!クラシックとか……アニメの曲とか……」
沙都子「へー……」
会話尽きるの早すぎる。
時計の秒針がやけに響く。
沙都子(……無理)
沙都子(……本気で、このコ無理)
沙都子(なんなんこの“ちゃんとしてる感”……)
沙都子(……てか今、平日昼間だぞ?なんで家おんねん。……あ、不登校だからかw)
沙都子(……この勝ち組LOSERがっ……)
お盆に帰省して、
特に仲良くない親戚のおじさんと
麦茶だけ置かれて二人きりになった時のあの感じ。
逃げ場ゼロ。
会話テーマゼロ。
沙都子(早く帰ってきてよ……梨花……)
沙都子は限界だった。
沙都子「あーところでさ、PTSD……じゃなかった。PUBGの―」
雉子「あ!!!!!!」
沙都子「は?」
雉子「沙都子お姉さん!!!!!!」
沙都子「は??」
雉子「火!!!!!!!!!!!!」
振り返る。
じゅうじゅうと赤くなったヘアアイロン。
そこから立ちのぼる煙。
そして――ぽすっ。
梨花のふわふわ高級枕に、火が移る。
白が、じわりと黒に変わる。
ボワアアッ!!!
沙都子「は」
沙都子の顔から血の気が引いた。
【緊急クエスト発生!】
▶ 梨花帰宅までに炎を鎮圧せよ!
▶ 制限時間:10分
▶ 推奨知能:人間以上
▶ 現在知能:沙都子
難易度:★★★★★+★★★★★(IQ不足)
♪
◆
ボワァアアア――
炎が枕の端をなめる。
沙都子、髪をくしゃくしゃに掻きむしり、半狂乱。
沙都子「あああああああああああ!!!!!!梨花に叱られる~~~~!!!!」
雉子「あ、あの……!ど、どうすれば……!?(パニック)」
沙都子「うっせえ!!このこと、二人だけの秘密な!!!」
震える指でスマホを開く。
検索→「高級 枕 似てるやつ 最短配送」
メルカリ即購入。
沙都子「……よし」
雉子「え?!」
沙都子は未来を買った。
準備運動は以上。いよいよ本番だ。
沙都子「消えろ!!!!カス!!!!」(燃えている枕を――ポイ)
雉子「え?! え?!」
沙都子「ゴミはゴミ箱にだろぉおおおおおお?!!」
しかしゴミ箱の中身は――ヘアオイル、ティッシュ、整髪スプレー、嫌いなクラスメイトの写真。
可燃物の宝庫。
炎は一瞬、息を吸い――ぼわぁあああああ!!!!!!
爆ぜる。炎が立ち上がる。
もはや枕の問題ではない。
部屋が“燃料”になった。
警報機『ピュイピュイ!火事です。火事です』
沙都子「どうしてこんなことするのおおおおおおおおお????!!!」
雉子「い、いやぁああああああああああああ!!!!」
煙が天井に溜まる。
焦げた匂いが喉に刺さる。
それでも――
沙都子「……もう無理」
沙都子「帰りたい……寝たい……世界バグれ……」
沙都子「死にたい死にたい氏にたい……みんな消えろ……この世ログアウトしろ……」
バカは現実逃避。
雉子「さ、沙都子おね……火!!!火!!!」
沙都子「(カッチーン)……あ、雉子ちゃん見て〜。酸素が漂ってる〜」
雉子「え?なにを……ゴホッ……!」
沙都子「それと同じなんだよ!!!!火だぁ?! 見りゃわかんだろ!!!!!いちいち目についたもん実況すんなよ!!!!」
沙都子「私だって辛いのにぃっ!!!!!」
その酸素が薄くなってるというのに。
沙都子「と、とりあえず……おつりはやる!買ってこい!!!」
雉子「え?な、なにを」
沙都子「フラペチーノだよ!!!ダッシュしろアホ!!!!」
雉子「こ、こんなときに飲むんですか?!」
沙都子「ぃい!!!水代わりだよ!!!!理解しろやこのPT─」
警報機『火事です!火事です!』
沙都子「うっっっっっさいんだけど!!!!」
沙都子、逆ギレ。
警報機を梨花の健康器具で破壊。
バリンッ。
その反動で財布が、手から滑る。ぽと。
よりによって、火元へ。
ボワァアアアア!!!!!!
革。紙幣。レシート。全財産、着火剤へ昇華。
沙都子「あああああああああ!!!!!ままあああああああああああ!!!!!!!!ぱぱぁああああああああ!!!!!」
雉子「あぁあ!!!ああああああああああ!!!」
炎は天井へ舌を伸ばす。
煙が視界を削る。
膝をつくファイアーバカ。
世界がぐらぐら揺れる。
沙都子「うっ……うう……!」
沙都子「なんで!?!?なんで毎回こうなんの!?」
沙都子「神様ァ!!聞いてる!?!?そんなに私のこと嫌い!?!?」
沙都子「私はただ!!!笑って!!!遊んで!!!適当に生きてたいだけなのにぃいいいいいい!!!!」
──その時。
???『沙都子ちゃん!』
沙都子「え?」
梨花のうさぎのぬいぐるみ『沙都子ちゃん!頑張って!!』(もちろん空耳)
くまのぬいぐるみ『諦めるのはまだ早いよ!!』(もちろん空耳)
沙都子「み、みんな……!」
彼女は立ち上がった。
(ぬいぐるみも燃え散った)
雉子「あぁ……あ、ぁ……(過呼吸)」
沙都子「……泣くなって」肩ポン
雉子「え?」
沙都子「──泣き笑いは、この地獄抜けてからのお楽しみだろ?」
沙都子「──北条沙都子、動きます──」
録画ボタン、タップ。
tiktok『【拡散しろ】家が燃えてます!!誰か助けてください!!!』
作戦、開始──。
◆
【作戦A】
沙都子「……そうだ!!!」
沙都子「おい梨花妹!!!冷蔵庫!!!氷水フルパワーで持ってこい!!!!」
沙都子「こっちは炎見張ってるから!!!!」
雉子「は、はい!!(見張ってる……?)」
リビング。
雉子「よいしょっと……」(桶に氷水いっぱい)
沙都子「バカか!!!なんで冷蔵庫しめてんだよ!!!」
雉子「え?あ、すみません!!(あれ、見張りは……?)」
沙都子「冷蔵庫って冷たい箱だろ!?!?開けっぱにしたら部屋冷えるだろ!!!!」
部屋へ。
さっきより、めっちゃ燃えてる。炎がカーテンを舐めている。
雉子「はぁ、はぁ……」(一人で桶持たされてる)
沙都子「ィイッ!!!どうにかなれ!!!」
ちゃぱ……
ちゃぱ……
ほんの少量ずつ、慎重に。
雉子「あ、あの沙都子お姉さん……一気にかけないと……」
沙都子「草。そしたら爆発するかもでしょ!!!」
雉子「え?な、なんでですか!?」
沙都子「私たち知識ないんだから、慎重にやらなきゃ!!!死ぬんだよ!?!!遊びじゃないんだよ!!!!」
5分後、諦めた。
作戦変更。
◆
【作戦2】
沙都子「考えろ、考えろ……私はバカじゃない……バカじゃない……」
テロリーン!
『ヘアアイロン』
沙都子「そうだ!!風呂!!!!風呂行くよ!!!!」
沙都子「……銭湯行くって話じゃねーからな?!バカ!!!!」
雉子「え、あ、はい!(何も言ってないのに……)」
沙都子の作戦はこうだ。
シャワーの水は細かい
↓
ちょっと出すだけですぐびしょびしょ
↓
つまり広範囲に分散
↓
よって爆発せず安全消火
↓
火ざまぁw
脳内ホワイトボード。
『∑水量 × 分散率 ÷ 爆発リスク = 勝利』
――天才。
……ただ。
沙都子「ここまでしか伸びないにょおおおおおおおおおおおおお?!」
雉子「あぁ、ぁぁぁ……」
シャワーの長さがまったく足りず断念。
沙都子、脳ショート。
作戦変更。
◆
【作戦しー】
沙都子は大胆にも、燃え盛る部屋に入り込む。
そしてテレビをなぎ倒し、近くにあったダンベルで殴り始めた。
バンッ!!
雉子「え??!!」
沙都子「お前ガキだから知らないだろうけどさ!家電って数%は水あるわけ!!いけるわけ!」
沙都子「遭難したときラクダ殺してコブから水分補給するのと一緒!!!」
沙都子「なんにでもサバイバル精神ってのは活きてくんだよ!!!」
天才。
バンっ!!
バン!!
沙都子「壊れろ壊れろ!!水でろ!!!」
沙都子「お願いします神様!!!今だけ理科を味方に!!!!」
しかし、
沙都子、筋力C-。
テレビ、耐久SS。
むしろ沙都子の方がダメージ。
煙が濃くなる。
視界が揺れる。
酸素が削れる。
思考が歪む。
沙都子「あぁあああああああ!!!!」
急にキレ先変更。
沙都子「死ね死ね梨花!!!」
雉子「え?!」
沙都子「いつも上から目線でさぁ!!!!」
沙都子「“沙都子、落ち着きなさい”とか言いやがって!!!!」
沙都子「あんたのこと大嫌いなんだよ!!!!!!」
バンッ!!
渾身。
――それでも、液晶すら割れない。
沙都子「ぁ……ぁぉ……」
ダンベルが手から落ちた。
自然の驚異に抗えない沙都子。
作戦、全滅。
◆
この頃にはもう、部屋は完全に炎一色。
赤。
橙。
黒。
立ち込める煙が廊下まで押し寄せる。熱が壁を鳴らす。
その廊下で、すべてを諦めた沙都子は座っていた。
目、死。
沙都子「……ひひ。ひひひ!」
雉子「え?」
沙都子「り、梨花にい、いじめられる……」
沙都子「あいつ陰湿だから……絶対エグい仕返し……くる……」
沙都子「私のカースト、終わり……」
沙都子「……てか……ワンチャン私、犯罪者……?」
沙都子「うぅ……ぐすん、ひぐっ……(泣)」
雉子「……お、お姉さん」
沙都子「なんで私いつもこうなんだろ……生まれてきていいことなんかなかった……(泣)」
雉子「に、逃げましょう」
沙都子「逃げる?簡単に言うね。私なんて逃げてももう終わりだよぉ……(泣)」
雉子「お姉さん!」
沙都子「梨花に、梨花に爪剥がされるぅ……」
雉子「お姉さん!!!」
バシン(ビンタ)
雉子の手が、赤くなる。
沙都子「うぇ」
雉子「早く逃げましょう!!!!!」
そのまま引きずられ非常階段へ。
◆
その頃、梨花。
外へ帰る途中。
梨花「……バカらし。なんで私、あんなバカのためにケーキとか買ってんの」
梨花「重いとか言ってきそうだし。あーほんとIQベイビー」
梨花「……ま、いっか。たまにはツンデレムーブも」
梨花「〜♪」
ちょっとご機嫌。
消防車「ピーポー」
梨花「?」
野次馬「うおすげ!」「やば」「これ放火?!」
梨花「え?」
梨花、見上げるとタワマンが火事。
梨花「わぁすっげ!!ガチ無惨~~w」
梨花「え?何あったんですか?」
野次馬「火事っすよ!すげぇ燃えてて、みんな避難してる!」
梨花「バカのせいでとんだ迷惑っすねw」
梨花「ん?つかあれうちじゃね」
梨花「ん??つかあれ私らの部屋じゃね」
梨花「……ん。てか、めちゃくちゃ燃えてね」
梨花「私んちめちゃくちゃ燃えてね???!!!!」
信じられない光景をやっと理解。
ケーキの箱が、手から滑り落ちる。
◆
タワマン階段。
ジジイのような足取りでくだるバカと、雉子。
沙都子「……あんたのせい」
雉子「へ?」
沙都子「……お金あげる。あんたが、火つけました。そういうシナリオでいいよね」
雉子「さ、沙都子お姉さ…」
沙都子「はいって言ってよぉ……。じゃなきゃ私殺されんだよぉ……司法と梨花にぃ……(涙)」
雉子「…………」
涙でぐしゃぐしゃ。
責任より恐怖。
そのとき――ドンッ。
沙都子「いて!!」
誰かにぶつかる。
見上げる。
沙都子「え!?」
焦燥に歪んだ顔。
猛ダッシュ。
手には――消火器。
梨花「沙都子ぉおおおおおおおおお!!!!!死ぬなよこのばかぁああああああああ!!!!!!(大号泣)」
沙都子「り、梨花?!」
雉子「お姉ちゃん!!!」
梨花は二人に気づかない。
そのまま階上へ。部屋へ。
そして――
ボンッ
ドガァーン!!!
沙都子「な」
沙都子「り、梨花ぁあああああああああああああああ!!!!」
………
……
…
沙都子「はっ!!!」
ちゅんちゅん。
朝。
沙都子「……夢か」
沙都子「……」
天井。
静かな部屋。
燃えていない。
煙もない。
財布もある。
LINE『じゃ、明日来てね』『腹すかせてきてよ』『理由は言わないけど』
沙都子「…………」
沙都子「…………梨花、梨花ぁ……(号泣)」
◆
待ち合わせの時間。
ピンポーン
梨花「……チッ!」
梨花「遅いわ!!2時間遅刻?!フランス人か─」
ガチャ
梨花「……は?」
そこにいたのは沙都子。
バケツ。
消火器。
『炎炎ノ消防隊』全巻。
顔面にはゴーグル。
背中にリュック。
フラペチーノには氷が山ほど詰め込まれている。
もはや非常事態前提の来訪。
沈黙。
エレベーター前の住人も二度見。
沙都子「……ヘアアイロン、持ってないよね?」
梨花「……」
改めて二度見する梨花。
もはやため息も不要。
死んだ目でそっと一言。
梨花「…………『火葬』」
ガチャン。
無言で鍵を閉めた。
終
最終更新:2026年07月13日 20:38