『策謀』
更新日:2020/07/17 Fri 22:40:12
「この服、きっとあなたに似合う筈よ」
母は優しい人だった。
「駄目よ。ブロッコリーもきちんと食べなさい」
母は美しい人だった。
「夏祭りに行くの。お母さんの友達も一緒よ」
母は明るい人だった。
「朱夏、お婆様が亡くなったの」
あの日までは。
五歳のあの日、酷く怯えた様子の母が祖母の死を知らせてきた時に、私の世界は変わってしまった。
「ああ朱夏、生きていたの?てっきり死んだのかと……」
心が凍ってしまい、狂っていく母をみて、いつしか私の心まで凍っていた。
「朱夏ちゃん」
そんな中、天晴達は声をかけ続けてくれた。
「どうして私に構うの?」
そんな事を聞いたことがある。
「なんかさ、朱夏はほっとけないもん。放っとくととんでもない事しだす気がしてさ」
太陽のように全てを照らし、全てを焼き尽くすような笑みを浮かべた天晴。
「俺は弱いやつは守るんだぜ?それがたまたまお前だっただけだよ」
根っからのヤンキーで凄く荒々しいけど何処か抜けてる日和。
「皆といると楽しくてさ、私はそれだけだよ」
そんな二人を楽しそうに見やる真理。
「そう……」
私はそれしか言えなかった。私の家には、そんな事を教えてくれた人はいなかったのだから。
うちの家はいつもタイプライターの音が響いていた。
母が狂ったようにタイプライターを打っているのだ。本人曰く、今を忘れないために。
その音が死ぬほど嫌だった。
ある日、私は終わらせようと思った。
カッターナイフを握りしめ、母の部屋に向かう。
もう限界だ。終わらせる。
この"呪い"を。
開け放たれた窓の外から、強風で舞う桜の花弁達が見えた。
「あ」
窓の外から桜の花が飛んできた。
私は咄嗟にそれを抱き止めていた。
暖かい心臓の鼓動を胸の中に感じる。
桜の花弁をくっ付けた黒猫だった。
「お嬢ちゃん、すまんの」
私はビクりとした。普通猫が喋ったら誰でもビックリするだろう。
私の顔を見て、猫は笑う。
「よかった。感情が無い訳では無かったのじゃな」
「何…?」
私は聞き返した。この猫は一体何なのだろう。明らかに普通の猫ではない事だけは確かだ。
「わしは……」
猫は言う。
「ーーーーーー」
母は優しい人だった。
「駄目よ。ブロッコリーもきちんと食べなさい」
母は美しい人だった。
「夏祭りに行くの。お母さんの友達も一緒よ」
母は明るい人だった。
「朱夏、お婆様が亡くなったの」
あの日までは。
五歳のあの日、酷く怯えた様子の母が祖母の死を知らせてきた時に、私の世界は変わってしまった。
「ああ朱夏、生きていたの?てっきり死んだのかと……」
心が凍ってしまい、狂っていく母をみて、いつしか私の心まで凍っていた。
「朱夏ちゃん」
そんな中、天晴達は声をかけ続けてくれた。
「どうして私に構うの?」
そんな事を聞いたことがある。
「なんかさ、朱夏はほっとけないもん。放っとくととんでもない事しだす気がしてさ」
太陽のように全てを照らし、全てを焼き尽くすような笑みを浮かべた天晴。
「俺は弱いやつは守るんだぜ?それがたまたまお前だっただけだよ」
根っからのヤンキーで凄く荒々しいけど何処か抜けてる日和。
「皆といると楽しくてさ、私はそれだけだよ」
そんな二人を楽しそうに見やる真理。
「そう……」
私はそれしか言えなかった。私の家には、そんな事を教えてくれた人はいなかったのだから。
うちの家はいつもタイプライターの音が響いていた。
母が狂ったようにタイプライターを打っているのだ。本人曰く、今を忘れないために。
その音が死ぬほど嫌だった。
ある日、私は終わらせようと思った。
カッターナイフを握りしめ、母の部屋に向かう。
もう限界だ。終わらせる。
この"呪い"を。
開け放たれた窓の外から、強風で舞う桜の花弁達が見えた。
「あ」
窓の外から桜の花が飛んできた。
私は咄嗟にそれを抱き止めていた。
暖かい心臓の鼓動を胸の中に感じる。
桜の花弁をくっ付けた黒猫だった。
「お嬢ちゃん、すまんの」
私はビクりとした。普通猫が喋ったら誰でもビックリするだろう。
私の顔を見て、猫は笑う。
「よかった。感情が無い訳では無かったのじゃな」
「何…?」
私は聞き返した。この猫は一体何なのだろう。明らかに普通の猫ではない事だけは確かだ。
「わしは……」
猫は言う。
「ーーーーーー」
~~~~~
「朱夏の影響か」
居眠りから目覚めたのじゃロリ猫は、腹をさすりながら言う。
「……以前よりも鮮明に思い出した」
のじゃロリ猫はズボンのポケットから"呪い"が入った小瓶を取り出して眺める。
「もう、同化してしまうのか……早いのう。早すぎるわ」
のじゃロリ猫の耳がピクリと動いた。
「ああ…」
黒い怪物は小さく嘆く。
「お前達は本当によく狙われる」
「朱夏の影響か」
居眠りから目覚めたのじゃロリ猫は、腹をさすりながら言う。
「……以前よりも鮮明に思い出した」
のじゃロリ猫はズボンのポケットから"呪い"が入った小瓶を取り出して眺める。
「もう、同化してしまうのか……早いのう。早すぎるわ」
のじゃロリ猫の耳がピクリと動いた。
「ああ…」
黒い怪物は小さく嘆く。
「お前達は本当によく狙われる」
~~~~
気が付くと愛歩は、白い台の上に大の字で寝かされていた。
頭を動かすと、ジクリと痛んだ。
何とか頭を上げると、手足首は茶色のロープによって拘束されていたのが見えた。
これでは身動きが取れない。
「気が付いた~?」
「ヒ…」
茶色の翼が生えた女が、愛歩の顔を覗き込んだ。
「ああ、怖がらないでほしいんだもん!ホーはだもんロリ梟!君の大好きなのじゃロリ猫の分身……アナザーの一体だもん」
「アナザー?分身?」
愛歩はその言葉を思わず繰り返し呟いていた。
「そうそう、蛇もパンダも、みぃんな君を食べたがってたでしょ?あれはのじゃロリ猫が食べたがってるからだよ」
「……違う」
愛歩は信じたくなかった。
「のじゃロリ猫ちゃんは私を助けてくれた!食べたいなんて……」
「そう…でもさ、仮にのじゃロリ猫が君を食べる必要がないとして、君みたいな貴重な能力、アナザー共には使われたくなくない?」
そこで愛歩はハッとした。
ーーー鐘明家の心臓を食べると時間を操る事が出来るーーー
確か動物園で襲ってきた奴がそう言っていた。
林間学校の時、助けてくれた時……のじゃロリ猫は止まった時の中でも動けていた。
それはつまり……のじゃロリ猫が鐘明家の誰かを食べたって事なんじゃないか?
心臓が痛くなる。そんな事あり得ないと思うのに、思うのに……
「……のじゃロリ猫ちゃんは…そんな奴じゃ……」
「無いって言えるんだ?」
だもんロリ猫は更に顔を近付けた。大きな目がジロリとこっちを見ている。
「君がどう思おうが関係ないや、ただ食べるだけだからね」
「違う……のじゃちゃんは……のじゃちゃんは……」
だもんロリ梟は愛歩の服をはだけさせ、自分の翼から羽を一本抜き取った。
「じゃあね」
ブラが丸見えになった愛歩の胸に、ダーツのような羽が落ちていった。
気が付くと愛歩は、白い台の上に大の字で寝かされていた。
頭を動かすと、ジクリと痛んだ。
何とか頭を上げると、手足首は茶色のロープによって拘束されていたのが見えた。
これでは身動きが取れない。
「気が付いた~?」
「ヒ…」
茶色の翼が生えた女が、愛歩の顔を覗き込んだ。
「ああ、怖がらないでほしいんだもん!ホーはだもんロリ梟!君の大好きなのじゃロリ猫の分身……アナザーの一体だもん」
「アナザー?分身?」
愛歩はその言葉を思わず繰り返し呟いていた。
「そうそう、蛇もパンダも、みぃんな君を食べたがってたでしょ?あれはのじゃロリ猫が食べたがってるからだよ」
「……違う」
愛歩は信じたくなかった。
「のじゃロリ猫ちゃんは私を助けてくれた!食べたいなんて……」
「そう…でもさ、仮にのじゃロリ猫が君を食べる必要がないとして、君みたいな貴重な能力、アナザー共には使われたくなくない?」
そこで愛歩はハッとした。
ーーー鐘明家の心臓を食べると時間を操る事が出来るーーー
確か動物園で襲ってきた奴がそう言っていた。
林間学校の時、助けてくれた時……のじゃロリ猫は止まった時の中でも動けていた。
それはつまり……のじゃロリ猫が鐘明家の誰かを食べたって事なんじゃないか?
心臓が痛くなる。そんな事あり得ないと思うのに、思うのに……
「……のじゃロリ猫ちゃんは…そんな奴じゃ……」
「無いって言えるんだ?」
だもんロリ猫は更に顔を近付けた。大きな目がジロリとこっちを見ている。
「君がどう思おうが関係ないや、ただ食べるだけだからね」
「違う……のじゃちゃんは……のじゃちゃんは……」
だもんロリ梟は愛歩の服をはだけさせ、自分の翼から羽を一本抜き取った。
「じゃあね」
ブラが丸見えになった愛歩の胸に、ダーツのような羽が落ちていった。
「お…」
真っ直ぐに突き刺さるかと思われた羽は、飛んできた小石に当たって弾かれた。
「来るとは思っていたよ……」
だもん梟がそう口に出した瞬間、空間が歪む程のスピードで拳が飛んできたのだった。
「オラァ!」
のじゃロリ猫の攻撃は見事だもん梟にヒットしていた。
「オラオラオラオラ!」
のじゃロリ猫はラッシュをしかけた。だもんロリ梟は遠隔射撃型のアナザーだ。距離を詰めればそこまでの脅威ではない。
「オラオラオラオラオラァ!」
「ぐへぇぇぇぇぇ」
のじゃロリ猫は渾身の力を出しきってだもんロリ梟をぶっ飛ばした。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
だもんロリ梟がゴム毬のように吹っ飛んでいく。
「はぁ」
のじゃロリ猫が息を大きく吐き出す。
「の、のじゃちゃん……」
「おう愛歩」
のじゃロリ猫が爪を伸ばし、愛歩の手足首のロープを切った。
「あ、ありがとう……」
「うん?今日は大分しおらしいのう。なんかあったんか?」
頭がズキッとし、手を当ててみると、そこから真っ赤な血が流れている。
愛歩はだもん梟に言われた事を伝えようか迷った。
「えっと…」
愛歩が口を開きかけた時、のじゃロリ猫が愛歩の肩を引き寄せた。
愛歩の直ぐ横、さっきまで頭があった場所をダーツのような羽が飛んできていた。
真っ直ぐに突き刺さるかと思われた羽は、飛んできた小石に当たって弾かれた。
「来るとは思っていたよ……」
だもん梟がそう口に出した瞬間、空間が歪む程のスピードで拳が飛んできたのだった。
「オラァ!」
のじゃロリ猫の攻撃は見事だもん梟にヒットしていた。
「オラオラオラオラ!」
のじゃロリ猫はラッシュをしかけた。だもんロリ梟は遠隔射撃型のアナザーだ。距離を詰めればそこまでの脅威ではない。
「オラオラオラオラオラァ!」
「ぐへぇぇぇぇぇ」
のじゃロリ猫は渾身の力を出しきってだもんロリ梟をぶっ飛ばした。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
だもんロリ梟がゴム毬のように吹っ飛んでいく。
「はぁ」
のじゃロリ猫が息を大きく吐き出す。
「の、のじゃちゃん……」
「おう愛歩」
のじゃロリ猫が爪を伸ばし、愛歩の手足首のロープを切った。
「あ、ありがとう……」
「うん?今日は大分しおらしいのう。なんかあったんか?」
頭がズキッとし、手を当ててみると、そこから真っ赤な血が流れている。
愛歩はだもん梟に言われた事を伝えようか迷った。
「えっと…」
愛歩が口を開きかけた時、のじゃロリ猫が愛歩の肩を引き寄せた。
愛歩の直ぐ横、さっきまで頭があった場所をダーツのような羽が飛んできていた。
「痛い~!すごぉく痛い~!」
だもんロリ梟は身体中から血を吹き出し、フラフラになりながらも立っていた。
「もう一発いくか?」
のじゃロリ猫の言葉に、だもん梟は不気味にニヤリと笑った。
「バカじゃないの?一発イくならこんな接近してないよ」
のじゃロリ猫はその顔から笑みを消す。全く持ってその通りだからだ。
「覚悟しろよ……のじゃロリ猫!」
だもんロリ梟が懐から何かを取り出す。
それを見た瞬間、のじゃロリ猫は愛歩を弾き飛ばした。
のじゃロリ猫の瞳には……小さな灰色の鼠が見えた。
だもんロリ梟は身体中から血を吹き出し、フラフラになりながらも立っていた。
「もう一発いくか?」
のじゃロリ猫の言葉に、だもん梟は不気味にニヤリと笑った。
「バカじゃないの?一発イくならこんな接近してないよ」
のじゃロリ猫はその顔から笑みを消す。全く持ってその通りだからだ。
「覚悟しろよ……のじゃロリ猫!」
だもんロリ梟が懐から何かを取り出す。
それを見た瞬間、のじゃロリ猫は愛歩を弾き飛ばした。
のじゃロリ猫の瞳には……小さな灰色の鼠が見えた。
でちロリ鼠は弱いアナザ―だ。他のアナザーには、遠く及ばない。
だがそんなでちロリ鼠にも生き残る為の術はあった。
その一つがカウンター、自身のダメージを与えた相手に倍にして返す技だ。
のじゃロリ猫にはだもん梟の行動を見て、直ぐに意図に気がついた。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
でちロリ鼠の身体から灰色の光が放出され、のじゃロリ猫を貫いた。
壁に激突し、身体中から血が吹き出すのじゃロリ猫。
「はは!でちロリ鼠!やっぱり君は凄いんだもん!」
だもんロリ梟はでちロリ鼠の頭を撫でた。
「チューチュートレイン、未来を読み取る君の女児符号とホーの能力なら、負ける事はない!」
そう、でちロリ鼠はこの光景を事前に知っていたのだ。
『チューチュートレイン』
不特定多数の未来を見る符号だ。でちロリ鼠はこの能力で幾多の困難を"直面する前"に乗り越えてきた。
だがある日、空中から舞い降りた翼に捕まってしまった。女児符号を発動する暇さえ与えられずに、でちロリ鼠は空に拐われていた。
そこからは最悪だった。自分よりも身体の大きなアナザーにこきつかわれ、食べ物も満足に食べられない日々。隙をみて女児符号で見た未来はどれも最悪だった。逃げても逃げなくても殺される……
でちロリ鼠は絶望した。静かにただの溝鼠のように生きることこそ自分の目標だったのに。
でも、とでちロリ鼠は思った。それも今日で終わる。
でちロリ鼠をこの場から逃してくれる出来事が、もうすぐ起こるのだ。
だがそんなでちロリ鼠にも生き残る為の術はあった。
その一つがカウンター、自身のダメージを与えた相手に倍にして返す技だ。
のじゃロリ猫にはだもん梟の行動を見て、直ぐに意図に気がついた。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
でちロリ鼠の身体から灰色の光が放出され、のじゃロリ猫を貫いた。
壁に激突し、身体中から血が吹き出すのじゃロリ猫。
「はは!でちロリ鼠!やっぱり君は凄いんだもん!」
だもんロリ梟はでちロリ鼠の頭を撫でた。
「チューチュートレイン、未来を読み取る君の女児符号とホーの能力なら、負ける事はない!」
そう、でちロリ鼠はこの光景を事前に知っていたのだ。
『チューチュートレイン』
不特定多数の未来を見る符号だ。でちロリ鼠はこの能力で幾多の困難を"直面する前"に乗り越えてきた。
だがある日、空中から舞い降りた翼に捕まってしまった。女児符号を発動する暇さえ与えられずに、でちロリ鼠は空に拐われていた。
そこからは最悪だった。自分よりも身体の大きなアナザーにこきつかわれ、食べ物も満足に食べられない日々。隙をみて女児符号で見た未来はどれも最悪だった。逃げても逃げなくても殺される……
でちロリ鼠は絶望した。静かにただの溝鼠のように生きることこそ自分の目標だったのに。
でも、とでちロリ鼠は思った。それも今日で終わる。
でちロリ鼠をこの場から逃してくれる出来事が、もうすぐ起こるのだ。