「───全く、派手に大暴れしてくれたな。
だがまぁ、意味はあったと言うわけか」
「ウム。ござるのおかげで捜査に進展がありそうじゃ。
あやつに助けられるというのは気に入らんが……
ま、使えるものは何でも使うとしよう」
せっかくのござる鼬との時間を邪魔されてご立腹の
彼岸花に追い出されるように竹林を後にしたワシらは、
都に充満するヒトの匂いの中から妖の残り香を
嗅ぎ分ける作業に入っていた。妖の気配はいかに
微かでもそう簡単に消えたりはしない。
増して『複数の妖力が混ざり合った気配』ともなれば、
集中して感知すればすぐに分かる筈。
ひたすら都の中を歩き回って妖の気配を探す、
地味極まりない作業であるが……
今はこれが一番確実な方法と言える。
だがまぁ、意味はあったと言うわけか」
「ウム。ござるのおかげで捜査に進展がありそうじゃ。
あやつに助けられるというのは気に入らんが……
ま、使えるものは何でも使うとしよう」
せっかくのござる鼬との時間を邪魔されてご立腹の
彼岸花に追い出されるように竹林を後にしたワシらは、
都に充満するヒトの匂いの中から妖の残り香を
嗅ぎ分ける作業に入っていた。妖の気配はいかに
微かでもそう簡単に消えたりはしない。
増して『複数の妖力が混ざり合った気配』ともなれば、
集中して感知すればすぐに分かる筈。
ひたすら都の中を歩き回って妖の気配を探す、
地味極まりない作業であるが……
今はこれが一番確実な方法と言える。
「どうじゃ、神楽坂。それらしい気配は感じられるか?」
「そう簡単に言うな。
そもそも私は妖力を感知するなんて、
生まれてこの方一度もやった事がないんだぞ。
完全に勘でやってるんだから精度には期待するな」
ぶつくさうるさい奴じゃの、と喉まで出かかったが
これを言うとまたこやつのご機嫌を損ねるので、
ごくりと飲み下して感知作業に戻る。
「そう簡単に言うな。
そもそも私は妖力を感知するなんて、
生まれてこの方一度もやった事がないんだぞ。
完全に勘でやってるんだから精度には期待するな」
ぶつくさうるさい奴じゃの、と喉まで出かかったが
これを言うとまたこやつのご機嫌を損ねるので、
ごくりと飲み下して感知作業に戻る。
ワシらが彼岸花と出会ったり感知作業をしている間にも、
都の中で子供が消える被害は少しずつ起きていた。
しかしなぜか相変わらず都の住人たちは
大騒ぎする事もせず、消えた子供の親ですら
「そのうち戻ってくるだろうからそう心配しなくて良い」
と言い出す始末だった。
……実に、妙じゃの。
子供がいなくなって一月経とうかという親もいるのに、
この平和さはなんじゃ?
まるで誰かに操られているかのような異常さに、
不安が募る。
この一件は思った以上に大事のようじゃ。
早く件の妖を見つけなければ…………。
都の中で子供が消える被害は少しずつ起きていた。
しかしなぜか相変わらず都の住人たちは
大騒ぎする事もせず、消えた子供の親ですら
「そのうち戻ってくるだろうからそう心配しなくて良い」
と言い出す始末だった。
……実に、妙じゃの。
子供がいなくなって一月経とうかという親もいるのに、
この平和さはなんじゃ?
まるで誰かに操られているかのような異常さに、
不安が募る。
この一件は思った以上に大事のようじゃ。
早く件の妖を見つけなければ…………。
「見つけたぞ!!
貴様が今この都を騒がせている妖だな!!」
辺りに響き渡る大声で、誰かが叫ぶ。
ん、と思いそちらに顔をやると、
棒と鎖帷子で武装した男たちがずんずんと
こちらに近付いて来る。
こやつらは……この都の守護人か。
ワシらが、この都を騒がせているじゃと?
「おいおい、何の騒ぎじゃこれは?
ワシや神楽坂が何をしたと言うのじゃ」
「白々しい。貴様ら、昨日も東南区域の竹林で派手に
騒ぎを起こしていただろう。住人が不安がっている。
近頃、子供が消えるなどという良からぬ噂も
流れているではないか。
それも貴様らの仕業ではないのか?」
「はぁ?馬鹿も休み休み言え。
ワシらはその一件をずっと調査して、
消えた子供たちを探しておる。噂どころか本当に
子供がいなくなった親も数多くいるのじゃ。
何もしとらん貴様らに言われたくないわ!!」
「なっ……!!言うに事欠いて、
妖の分際で我々を馬鹿にするか!!無礼者!!
この場で叩き斬ってくれようか!!」
スラッ、と刀を抜く守護人。一気に辺りが騒然となる。
ちっ……これ以上の騒ぎにするのは良くないのぉ。
ワシらとしても、捜査がやりにくくなるのは困る。
と、そこに。
貴様が今この都を騒がせている妖だな!!」
辺りに響き渡る大声で、誰かが叫ぶ。
ん、と思いそちらに顔をやると、
棒と鎖帷子で武装した男たちがずんずんと
こちらに近付いて来る。
こやつらは……この都の守護人か。
ワシらが、この都を騒がせているじゃと?
「おいおい、何の騒ぎじゃこれは?
ワシや神楽坂が何をしたと言うのじゃ」
「白々しい。貴様ら、昨日も東南区域の竹林で派手に
騒ぎを起こしていただろう。住人が不安がっている。
近頃、子供が消えるなどという良からぬ噂も
流れているではないか。
それも貴様らの仕業ではないのか?」
「はぁ?馬鹿も休み休み言え。
ワシらはその一件をずっと調査して、
消えた子供たちを探しておる。噂どころか本当に
子供がいなくなった親も数多くいるのじゃ。
何もしとらん貴様らに言われたくないわ!!」
「なっ……!!言うに事欠いて、
妖の分際で我々を馬鹿にするか!!無礼者!!
この場で叩き斬ってくれようか!!」
スラッ、と刀を抜く守護人。一気に辺りが騒然となる。
ちっ……これ以上の騒ぎにするのは良くないのぉ。
ワシらとしても、捜査がやりにくくなるのは困る。
と、そこに。
「何をしているのです。白昼堂々、
人々が行き交う道の真ん中で刀を抜くなど……」
「は、お、大仁田様!!これは失礼を」
コツコツと、静かな歩調ですらりと痩せた優男が
歩いて来る。派手ではないものの高級感のある
着物を纏い、後ろには何人もの従者を連れ歩いている。
大仁田……その名前には聞き覚えがある。
こやつがこの都のお代官というわけか。
「話は聞かせていただきましたよ、そこの妖殿。
この都の良からぬ噂を調査して下さっているとか」
細い目で、見下すでもなく恐れるでもなく
しっかりとこちらを見据える大仁田。
「…………ウム。肝心の都の住人たちは
さほど気にしておらんようじゃがの。
子供が消えるというのは、由々しき事態であろう?」
「えぇ。大変な事です。ですがご安心を。
既に犯人は捕まえました」
「……何?」
捕まえた?人間が、妖をも食らう化け物を?
一体どういう……。
人々が行き交う道の真ん中で刀を抜くなど……」
「は、お、大仁田様!!これは失礼を」
コツコツと、静かな歩調ですらりと痩せた優男が
歩いて来る。派手ではないものの高級感のある
着物を纏い、後ろには何人もの従者を連れ歩いている。
大仁田……その名前には聞き覚えがある。
こやつがこの都のお代官というわけか。
「話は聞かせていただきましたよ、そこの妖殿。
この都の良からぬ噂を調査して下さっているとか」
細い目で、見下すでもなく恐れるでもなく
しっかりとこちらを見据える大仁田。
「…………ウム。肝心の都の住人たちは
さほど気にしておらんようじゃがの。
子供が消えるというのは、由々しき事態であろう?」
「えぇ。大変な事です。ですがご安心を。
既に犯人は捕まえました」
「……何?」
捕まえた?人間が、妖をも食らう化け物を?
一体どういう……。
「この一件の犯人は、東南地区の竹林に潜んでいた、
恐るべき妖。『彼岸童子』と名乗る鬼です。
手を焼きましたが、先ほど私の誇る兵(つわもの)達が
捕まえてくれました。
明日の朝、この鬼を公開処刑する手筈になっています」
恐るべき妖。『彼岸童子』と名乗る鬼です。
手を焼きましたが、先ほど私の誇る兵(つわもの)達が
捕まえてくれました。
明日の朝、この鬼を公開処刑する手筈になっています」
……………………
………………………………
…………………………………………
「───どえらい事になったのぉ。まさか
彼岸花のやつが、犯人として捕まってしまうとは……」
「なぜ退いたのだ、猫!知り合ったばかりとは言え、
無実のあいつが処刑されるなど断じて捨て置けない。
なんとかしなければ……!!」
都の外れの、荒屋。ワシらはあの場で揉める事はせず、
一度撤退する事にした。馴染みの人間も増えたとはいえ、
ワシらは妖。
こちらを疑いの目で見ている人間も少なくなかった。
これ以上状況を悪くする前に、
引き下がる方が良いと判断したためだ。
「ワシとて同じ気持ちじゃ。
しかしの、あそこで奴を問い詰めたところで、
彼岸花が解放される事はないじゃろう。
住民達から絶大な信頼を置かれとるあいつと、
妖であるワシらでは圧倒的にこちらの分が悪いからのぉ」
彼岸花のやつが、犯人として捕まってしまうとは……」
「なぜ退いたのだ、猫!知り合ったばかりとは言え、
無実のあいつが処刑されるなど断じて捨て置けない。
なんとかしなければ……!!」
都の外れの、荒屋。ワシらはあの場で揉める事はせず、
一度撤退する事にした。馴染みの人間も増えたとはいえ、
ワシらは妖。
こちらを疑いの目で見ている人間も少なくなかった。
これ以上状況を悪くする前に、
引き下がる方が良いと判断したためだ。
「ワシとて同じ気持ちじゃ。
しかしの、あそこで奴を問い詰めたところで、
彼岸花が解放される事はないじゃろう。
住民達から絶大な信頼を置かれとるあいつと、
妖であるワシらでは圧倒的にこちらの分が悪いからのぉ」
大仁田が現れた時の反応を見ても、
あやつが人々にとても信用されているのが見て取れた。
実際の手腕は知らんが、人気取りは上手いようじゃの。
「なら、黙って見ていろと言うのか!?
例え私一人でも、あの男に訴えに行くぞ。
何の証拠もないのにいきなり処刑するなどという
蛮行を許すわけには……」
「くっ……くく、カカカカカ!
随分と丸くなったものじゃのぉ、神楽坂!
訴えに行くとは、くくく……」
「何が可笑しい!!
貴様とて、あいつを見殺しにはできないだろう!?」
「無論じゃ。ここまで来たら、
平和的な手段はもうヤメにする。
あちらが強引な手段を取るなら、
こちらもそうするというだけの事。
───討ち入りじゃ」
あやつが人々にとても信用されているのが見て取れた。
実際の手腕は知らんが、人気取りは上手いようじゃの。
「なら、黙って見ていろと言うのか!?
例え私一人でも、あの男に訴えに行くぞ。
何の証拠もないのにいきなり処刑するなどという
蛮行を許すわけには……」
「くっ……くく、カカカカカ!
随分と丸くなったものじゃのぉ、神楽坂!
訴えに行くとは、くくく……」
「何が可笑しい!!
貴様とて、あいつを見殺しにはできないだろう!?」
「無論じゃ。ここまで来たら、
平和的な手段はもうヤメにする。
あちらが強引な手段を取るなら、
こちらもそうするというだけの事。
───討ち入りじゃ」
……………………
………………………………
…………………………………………
その日の夜。
ワシと神楽坂は、都の中心にある
守護人達の詰所に来ていた。聞くところによれば、
彼岸花はここに囚われておるらしい。
しかし、妙じゃの。
明日処刑する囚人を収容しておるのなら、
もっと警備は厳重なはず。手薄どころか、
人っ子ひとり見当たらん。
「これは……どういう事だ?情報が間違っていたのか?」
「しかしの、昼間の守護人をふん捕まえて
聞き出した情報じゃぞ。
間違っているとは考えにくいが……」
これは、罠の気配がするのぉ。
ワシと神楽坂は、都の中心にある
守護人達の詰所に来ていた。聞くところによれば、
彼岸花はここに囚われておるらしい。
しかし、妙じゃの。
明日処刑する囚人を収容しておるのなら、
もっと警備は厳重なはず。手薄どころか、
人っ子ひとり見当たらん。
「これは……どういう事だ?情報が間違っていたのか?」
「しかしの、昼間の守護人をふん捕まえて
聞き出した情報じゃぞ。
間違っているとは考えにくいが……」
これは、罠の気配がするのぉ。
「間違ってはいませんよ。
お二人にここに来ていただくために、
私が守護人達に情報を流すよう頼んだのです」
後ろから首筋を撫でられるような悪寒と声が聞こえ、
ワシと神楽坂は即座に臨戦態勢になって振り返った。
そこにいたのは……。
お二人にここに来ていただくために、
私が守護人達に情報を流すよう頼んだのです」
後ろから首筋を撫でられるような悪寒と声が聞こえ、
ワシと神楽坂は即座に臨戦態勢になって振り返った。
そこにいたのは……。
「オヌシ……大仁田ではないか。
なぜオヌシがこんな場所に……」
「待て、下がれ猫。奴の方向から妖の気配が漂ってくる。
何か『居る』ぞ」
昼間会った時には奴からは妖の匂いはしなかった。
だからさほど警戒はしておらなんだが……
ワシの勘が鈍ったのか?……いや、違うな。
なぜオヌシがこんな場所に……」
「待て、下がれ猫。奴の方向から妖の気配が漂ってくる。
何か『居る』ぞ」
昼間会った時には奴からは妖の匂いはしなかった。
だからさほど警戒はしておらなんだが……
ワシの勘が鈍ったのか?……いや、違うな。
「そちらの方は敏感なのですねぇ。そう、お察しの通り
今回の一件の犯人はあの小僧ではありません。
今回の一件の犯人はあの小僧ではありません。
───この私です」