セブンスカラー 外伝 Cross Story 前編
更新日:2020/08/07 Fri 11:12:00
更新日:2020/08/07 Fri 11:12:00
そこはある意味幻想的な世界だった。洞窟の一面を氷が覆い、一切の生命が生きることを許さない恐ろしい程美しく、残酷な銀世界。
冷気と静寂が漂うこの空間の中にある氷の檻で一体の怪物が微睡んでいた。
“彼”はここに閉じ込められたから何度か脱出を試みたものの固く封じられたこの空間は彼を外に出すことを許さなかった。
その内疲れた怪物は眠るようになった。やることもないし、会いに来る奴もいない。兎に角無駄に時間が過ぎて行くこの鬱屈した場所で彼がやれることは惰眠を貪ることだけだった。
そんな彼が一人欠伸をしながらウトウトしている時だった。
ふと、音楽が聞こえた。荘厳かつ壮大に流れてくる音楽にとうとう自分もおかしくなったかと怪物が独りごちていると自分を閉じ込めている檻の前に一人の少女が現れる
「おっ、いたかも。」
思わず怪物は目をパチクリとさせる。少女がここに来ることもだが、何よりもその少女は冷気が漂うこの空間で肩を出し、太腿を露出したあまりにも薄着な格好をしており、にも関わらず眉一つ動かさない余裕を醸し出していることに驚く。
「....何者だ。」
「あんたをここから出してあげる心優しい奴かも。」
怪物が尋ねると少女は笑いながら答え、人差し指を立てて、続ける。
「あ、でも一つだけ約束して欲しいかも。ここから出れたら俺に協力すること。してくれた出したげるかも。」
その少女の提案に怪物はハッと笑う。
「ここから出せるモンなら出してみろ。そしたら協力でもなんでもしてやるよ。」
自分を閉じ込めたものの能力によって作成された檻は強力だ。自分でも脱出出来ないのに目の前の少女が破れるハズは無いと高を括る。
だが少女はニヤリと笑うと手を氷の檻に触れる。
「契約成立、かも。」
すると次の瞬間氷がパズルのように亀裂が入って砕けていく。自分がどう足掻いても脱出出来なかった氷の檻を目の前の少女は容易く破壊してみせた。
少女はポカンと呆けている怪物に自慢気に説明する。
「この檻、単純な力には強く作ってあるけどパズルのように魔力の流れを解いていけば簡単に破壊出来るかも。」
「....お前、“同類”じゃないな。何者だ?」
「あぁ。自己紹介遅れたかも。私はかもロリピラニア。貴方達とは“別世界”から来た妖怪、かも。」
かもロリピラニアの自己紹介を聞きながら怪物は立ち上がって割られた氷の檻から出る。怪物は身体に鎖を巻き、恐ろしく凶暴な顔と毛を蓄えた屈強な身体つきをしている。
怪物は物珍しそうに少女を眺める。近くに寄れば確かに人間とは違うと直感出来る妖しげな雰囲気がある。
「俺様はカッカブ。...にしてもこんなガキがアッサリと、ねぇ。」
カッカブがしげしげと見つめる中、かもロリピラニアはカッカブに自慢気に言う。
「檻から出したかも。」
「あぁ。言っちまったからな、協力するさ。どうせ出てもこれと言ってやること考えてなかったしな。」
「よろしいかも。」
などと話している内、カッカブはふと気になった事を尋ねた。
「にしても...」
彼の視線は先程からかもロリピラニアの後ろで演奏を続けている楽器のような怪物達に向けられる。
「なんだコイツら。」
「あぁ。彼らも俺の同盟者、かも。」
「♪」
楽器達は音楽で返事をする。なんとも珍妙な集団の仲間になったものだとカッカブが思っていると、地面から沸き上がるように黒い影がかもロリピラニアの隣に現れる。
「終わったか。」
「終わったかも。」
くぐもった声で話し掛ける影にかもロリピラニアが軽く返すと、影はカッカブに向く。
「私は影。暗闇に潜む者だ。精々よろしく頼む。」
「カッカブだ。なんだ、マトモな見た目の奴もいるじゃねぇか。」
「挨拶は終わったかも?ならもう出るかも。寒いし。」
「おっと、出るのには賛成だ、だが歩きながらでいいが聞かせて貰おうか。お前らの目的は何だ?」
「まっ、そこ気になるかも。教えてあげるかも。」
かもロリピラニアはギョロリと目を蠢かせて、鋭い歯を見せ笑みを浮かべながら答える。
「不死を得ること...かも。」
冷気と静寂が漂うこの空間の中にある氷の檻で一体の怪物が微睡んでいた。
“彼”はここに閉じ込められたから何度か脱出を試みたものの固く封じられたこの空間は彼を外に出すことを許さなかった。
その内疲れた怪物は眠るようになった。やることもないし、会いに来る奴もいない。兎に角無駄に時間が過ぎて行くこの鬱屈した場所で彼がやれることは惰眠を貪ることだけだった。
そんな彼が一人欠伸をしながらウトウトしている時だった。
ふと、音楽が聞こえた。荘厳かつ壮大に流れてくる音楽にとうとう自分もおかしくなったかと怪物が独りごちていると自分を閉じ込めている檻の前に一人の少女が現れる
「おっ、いたかも。」
思わず怪物は目をパチクリとさせる。少女がここに来ることもだが、何よりもその少女は冷気が漂うこの空間で肩を出し、太腿を露出したあまりにも薄着な格好をしており、にも関わらず眉一つ動かさない余裕を醸し出していることに驚く。
「....何者だ。」
「あんたをここから出してあげる心優しい奴かも。」
怪物が尋ねると少女は笑いながら答え、人差し指を立てて、続ける。
「あ、でも一つだけ約束して欲しいかも。ここから出れたら俺に協力すること。してくれた出したげるかも。」
その少女の提案に怪物はハッと笑う。
「ここから出せるモンなら出してみろ。そしたら協力でもなんでもしてやるよ。」
自分を閉じ込めたものの能力によって作成された檻は強力だ。自分でも脱出出来ないのに目の前の少女が破れるハズは無いと高を括る。
だが少女はニヤリと笑うと手を氷の檻に触れる。
「契約成立、かも。」
すると次の瞬間氷がパズルのように亀裂が入って砕けていく。自分がどう足掻いても脱出出来なかった氷の檻を目の前の少女は容易く破壊してみせた。
少女はポカンと呆けている怪物に自慢気に説明する。
「この檻、単純な力には強く作ってあるけどパズルのように魔力の流れを解いていけば簡単に破壊出来るかも。」
「....お前、“同類”じゃないな。何者だ?」
「あぁ。自己紹介遅れたかも。私はかもロリピラニア。貴方達とは“別世界”から来た妖怪、かも。」
かもロリピラニアの自己紹介を聞きながら怪物は立ち上がって割られた氷の檻から出る。怪物は身体に鎖を巻き、恐ろしく凶暴な顔と毛を蓄えた屈強な身体つきをしている。
怪物は物珍しそうに少女を眺める。近くに寄れば確かに人間とは違うと直感出来る妖しげな雰囲気がある。
「俺様はカッカブ。...にしてもこんなガキがアッサリと、ねぇ。」
カッカブがしげしげと見つめる中、かもロリピラニアはカッカブに自慢気に言う。
「檻から出したかも。」
「あぁ。言っちまったからな、協力するさ。どうせ出てもこれと言ってやること考えてなかったしな。」
「よろしいかも。」
などと話している内、カッカブはふと気になった事を尋ねた。
「にしても...」
彼の視線は先程からかもロリピラニアの後ろで演奏を続けている楽器のような怪物達に向けられる。
「なんだコイツら。」
「あぁ。彼らも俺の同盟者、かも。」
「♪」
楽器達は音楽で返事をする。なんとも珍妙な集団の仲間になったものだとカッカブが思っていると、地面から沸き上がるように黒い影がかもロリピラニアの隣に現れる。
「終わったか。」
「終わったかも。」
くぐもった声で話し掛ける影にかもロリピラニアが軽く返すと、影はカッカブに向く。
「私は影。暗闇に潜む者だ。精々よろしく頼む。」
「カッカブだ。なんだ、マトモな見た目の奴もいるじゃねぇか。」
「挨拶は終わったかも?ならもう出るかも。寒いし。」
「おっと、出るのには賛成だ、だが歩きながらでいいが聞かせて貰おうか。お前らの目的は何だ?」
「まっ、そこ気になるかも。教えてあげるかも。」
かもロリピラニアはギョロリと目を蠢かせて、鋭い歯を見せ笑みを浮かべながら答える。
「不死を得ること...かも。」
キーンコーンカーンコーン。
終業の鐘が鳴る。そんな鐘が鳴る中、薄桃色の髪をピンで留めた少女桃井かおりは目の前の紙を穴が開くほど見つめる。
「うっ...」
「何してんの?」
用紙を見つめているかおりに後ろから薄色の金髪を青のリボンでツインテールに留め、左目を眼帯で覆っている少女、雪花が声を掛けてくる。
「あ、雪花ちゃん...」
雪花がかおりが何の紙を見ているのか気になり、覗き込むと、それは赤いハネがたくさん書き込まれてるテスト用紙であった。
それを見て、雪花はフッと鼻で笑う。
「あー!今鼻で笑ったでしょ!?」
「いや、別に?」
そう言うと雪花はこれ見よがしにテスト用紙をかおりに見せびらかす。その用紙にはかおりと打って変わって大量の丸が。
「ま、私はこんなもんだけド。」
「く、くきぃ~!り、龍香!龍香~!!」
「何かおり?」
「どうしたの桃井さん?」
かおりに呼ばれた桃色の髪をポニーテールにまとめた少女、龍香が振り返る。と、同時に龍香と話をしていた青い髪を同じようにポニーテールに纏めた少女、大石愛歩が反応する。
振り返った龍香にかおりは抱き着く。
「わ、わ?」
「龍香は私の味方だよね!?」
「う、うん。」
「大石さんも味方してくれるよね!?」
「え、えぇ。」
かおりは二人に訴え掛けるような眼差しで言う。
「二人はテスト、どうだった?」
「いや...まぁ88点だったけど。」
「私は凡ミスしちゃって...97点だった。」
二人のその言葉にかおりはショックを受けた顔をした後、叫んだ。
「こ、この裏切り者ー!!」
終業の鐘が鳴る。そんな鐘が鳴る中、薄桃色の髪をピンで留めた少女桃井かおりは目の前の紙を穴が開くほど見つめる。
「うっ...」
「何してんの?」
用紙を見つめているかおりに後ろから薄色の金髪を青のリボンでツインテールに留め、左目を眼帯で覆っている少女、雪花が声を掛けてくる。
「あ、雪花ちゃん...」
雪花がかおりが何の紙を見ているのか気になり、覗き込むと、それは赤いハネがたくさん書き込まれてるテスト用紙であった。
それを見て、雪花はフッと鼻で笑う。
「あー!今鼻で笑ったでしょ!?」
「いや、別に?」
そう言うと雪花はこれ見よがしにテスト用紙をかおりに見せびらかす。その用紙にはかおりと打って変わって大量の丸が。
「ま、私はこんなもんだけド。」
「く、くきぃ~!り、龍香!龍香~!!」
「何かおり?」
「どうしたの桃井さん?」
かおりに呼ばれた桃色の髪をポニーテールにまとめた少女、龍香が振り返る。と、同時に龍香と話をしていた青い髪を同じようにポニーテールに纏めた少女、大石愛歩が反応する。
振り返った龍香にかおりは抱き着く。
「わ、わ?」
「龍香は私の味方だよね!?」
「う、うん。」
「大石さんも味方してくれるよね!?」
「え、えぇ。」
かおりは二人に訴え掛けるような眼差しで言う。
「二人はテスト、どうだった?」
「いや...まぁ88点だったけど。」
「私は凡ミスしちゃって...97点だった。」
二人のその言葉にかおりはショックを受けた顔をした後、叫んだ。
「こ、この裏切り者ー!!」
「何だっただろうねかおりの奴。」
「さぁ...?」
龍香と愛歩はそんなことを話ながら廊下を歩いていると廊下の向こう側から一人の少女が歩いてくる。
白い髪を三つ編みにした橙の瞳の少女。少女は龍香達に気付くと手を挙げて挨拶をしてくる。
「あら、また会ったわね。」
「あ、えっと。」
「悪いけど、私用があるから。」
そう言うと少女は屋上へと続く廊下を歩いていく。その後ろ姿を見つめる龍香に愛歩が話し掛けてくる。
「知り合い?」
「いや、前に一回すれ違っただけなんだけど...、違和感って言うか、初めて会った気がしなくて。」
「...?変なの。」
愛歩の言葉を聞きながら、胸になにかモヤモヤしたものを感じつつ龍香は首を傾げる。
「うーん....ホントに、初めて会った気がしないんだけどなぁ...。」
龍香はちょっと悩んだがやっぱり思い違いか、と気を取り直し今度は逆に龍香が愛歩に尋ねる。
「そう言えば、愛歩ちゃんは調べ物ものの方は順調なの?」
龍香が尋ねると、愛歩は言い淀んだ後顔を伏せる。
「....いや、その。実はあんまり...。」
「そうなんだ...早く見つかると良いね。」
少し落ち込んだ風の愛歩を見て、龍香は少し考えた後、何かを閃いたようで、ポンと手をたたく。
「あ、そうだ!なら元気が出るように私のお気に入りのお店に連れて行ってあげる!」
「さぁ...?」
龍香と愛歩はそんなことを話ながら廊下を歩いていると廊下の向こう側から一人の少女が歩いてくる。
白い髪を三つ編みにした橙の瞳の少女。少女は龍香達に気付くと手を挙げて挨拶をしてくる。
「あら、また会ったわね。」
「あ、えっと。」
「悪いけど、私用があるから。」
そう言うと少女は屋上へと続く廊下を歩いていく。その後ろ姿を見つめる龍香に愛歩が話し掛けてくる。
「知り合い?」
「いや、前に一回すれ違っただけなんだけど...、違和感って言うか、初めて会った気がしなくて。」
「...?変なの。」
愛歩の言葉を聞きながら、胸になにかモヤモヤしたものを感じつつ龍香は首を傾げる。
「うーん....ホントに、初めて会った気がしないんだけどなぁ...。」
龍香はちょっと悩んだがやっぱり思い違いか、と気を取り直し今度は逆に龍香が愛歩に尋ねる。
「そう言えば、愛歩ちゃんは調べ物ものの方は順調なの?」
龍香が尋ねると、愛歩は言い淀んだ後顔を伏せる。
「....いや、その。実はあんまり...。」
「そうなんだ...早く見つかると良いね。」
少し落ち込んだ風の愛歩を見て、龍香は少し考えた後、何かを閃いたようで、ポンと手をたたく。
「あ、そうだ!なら元気が出るように私のお気に入りのお店に連れて行ってあげる!」
「ここがオススメの場所だよ!」
「.....ここって。」
龍香に案内されるままやってきた愛歩の前には赤い暖簾を掲げた少し薄汚れた感じの小さな拉麺屋だった。
「いや、拉麺って」
「ここスゴい美味しいんだよ!こんちはー!」
ガララ、と引き戸を開け龍香は中へと入っていく。愛歩も一瞬躊躇したが、続くように入る。
「おお!龍香ちゃん!久しぶりだねぇ」
中には割烹着姿初老の男性がいた。男性は龍香の顔を見ると嬉しそうに顔を綻ばせる。
龍香は愛歩ちゃんにこの初老の男性を紹介する。
「この人は店長の竹田さんだよ。竹田さん、この子私の友達の愛歩ちゃん。」
紹介された男性、竹田はニッコリと愛歩に笑いかける。
「あら、新しいお友達かい。ワシは竹田だよ。よろしくね、愛歩ちゃん。」
「あ、愛歩です。」
愛歩はペコリと頭を下げる。龍香はいつも以上にニコニコしながら愛歩に言う。
「ここの拉麺ホント絶品で、食べたら私、元気になれるんだ!だから愛歩ちゃんもどう?」
「ごめんけどご飯前だから拉麺はいいかな...」
「あ、残念。じゃあ、取り敢えず竹田さん!いつもの!」
「お、龍香ちゃんも好きだねぇ。」
「そんなバーテンダーみたいなノリで拉麺って注文するものだっけ...」
竹田は龍香の注文を受けると厨房の方へと向かう。龍香と愛歩はカウンター席に座る。
「ここ、私が昔からよく来てる拉麺屋なんだ。スゴく美味しいんだよ。」
「へぇ...。」
「落ち込んだ時とかここの拉麺食べたら元気になれるんだ。」
なんて龍香と愛歩が話していると、厨房から竹田が話し掛けてくる。
「それにしても最近は何かと物騒だからねぇ。なんでも最近、出るらしいじゃないか。」
「出るって?」
「“狼男”、さ。」
竹田はわざとおどろおどろしい、脅すような口調になる。
「夜になると、遠吠えが聞こえて来るらしい。そして気がついたら狼男の群れに囲まれて...」
その話に龍香と愛歩はゾッとする。
「お、狼男?」
「アハハ、竹田さん怖い話上手だね。でも、流石に騙されないよ...」
「それはどうかねぇ。ま、暗くなる前に帰ることを心掛けなってことさね。」
竹田は笑いながら調理を進める。龍香は小声で愛歩に言う。
「もしかして、のじゃ猫さんの知り合いかな?」
「え、多分違うと思うけど...。」
「まぁ、知り合いだったらのじゃ猫さんが止めてるか。」
「うん...かもね。」
「?」
愛歩は妙に歯切れ悪そうに答える。そんな愛歩に龍香はちょっと違和感を覚えたが、気のせいかと追及するのはやめる。
あまり人の心にに踏み込むようなことを言うものではないと龍香は学んだからだ。
なんてしていると奥の方からツンと鼻をつくような匂いが漂ってくる。
「おっ、来た来た。」
龍香が手を合わせる。それと同時に竹田が奥から拉麺の入った器を持ってくる。
「へいお待ち!」
「これこれ!これだよぉ~!」
「り、龍香ちゃん...」
持ってこられた拉麺を見て、愛歩は絶句する。まずスープの色がおかしい。唐辛子などを入れた辛い系の拉麺なら愛歩も見たことがあるが、目の前の拉麺は赤いを通り越して赤黒い色をしている。しかも龍香の隣にいるだけなのに匂いと湯気で涙が出てくる。
果たして料理と言えるのか怪しい程の暴力的な雰囲気を醸し出す拉麺と言う名の劇物を目の前にしても龍香は目を輝かせている。
「これはウチのチャレンジメニューの一つでね。食べきればタダ!食べきれなければ2000円!って言う激辛拉麺だよ。ブート・ジョロキアをふんだんに使わせて貰ってる奴で、龍香ちゃんが来るまで食べきれた人はいないんだけど。」
「スゴく美味しい!やっぱこれだよね~。」
見た目劇物拉麺を龍香は物ともせずバクバク食べていく。その豪快な食べっぷりに愛歩は、実はそんなに辛くないのでは、と思い始める。
「龍香ちゃん辛くないの?」
「ん?まぁまぁ、って感じかなぁ。良かったら一口いる?」
「え?」
龍香がレンゲを差し出す。愛歩は少し迷うが、結局好奇心が勝った。怖いもの見たさである。竹田が苦笑いしながら「やめといた方が良いと思うケドなァ」と言うが、もう遅い。愛歩は龍香から受け取ったレンゲ一杯分のスープを飲んでみる。
「ね、そこまででしょ?」
たしかに、ちょっとピリッと来たがそんな取り立てて騒ぐ程か、と言われるとそうでもない気がする。
「うん、そうだ」
そう言いかけた瞬間それは間違いであったと確信する。鼻の奥から突き刺すような刺激が走り、次に舌を辛味が蹂躙し、喉が焼けつくように痛くなり、喋ることもままならなくなる。
「カッ...!!辛ッ!?ア゛ァ゛!?」
涙と汗がドッと吹き出し、悶える愛歩に竹田が慌てて牛乳を差し出す。
「大丈夫かいお嬢ちゃん。ほら、飲み物。」
「~ッ!?!!!!!!」
愛歩は慌てて受け取った牛乳を一気飲みする。悶える愛歩を見ながら龍香は苦笑する。
「もー、愛歩ちゃん。それはオーバーだよ~。」
《いや、これが普通のリアクションだと思うが。》
「そーかな?」
龍香が謎の声と話すが愛歩はそれどころではなかった。蹂躙された口内を牛乳でなんとか誤魔化し、龍香を見る。
「よ、よく食べれるねそれ...」
「うん。美味しいからね。いつか一番辛いドラゴンズ・ブレスっていう種類の唐辛子を使った拉麺食べてみたいなぁ。」
「ハハハ。龍香ちゃん。それは多分ワシの腕が死んじゃうかな。」
ちなみにドラゴンズ・ブレスはブート・ジョロキアの二倍以上の辛さを誇り、あまりの辛さに食べると命の危険性がある上に医療用の皮膚を麻痺させる薬に用いられる、食材と言うより毒に近い代物である。
素手で触れば炎症どころでは済まないというのも付け足しておく。
龍香はその後もペースを全く緩めずに食べ続け、30分程で汁まで飲んで完食してしまう。
「ご馳走さまー!」
「ハハハ。またお代はタダだな。」
「いや~ッ!スッゴい美味しかった!」
「そりゃ良かった。」
「どんな舌をしてるの...?」
悶絶物を食べてケロリとしている龍香に愛歩は怪訝な目を向ける。
竹田はふと窓を見る。窓の外はそろそろ日が沈もうとしており、徐々に暗闇が広がりつつあった。
「ま、それ食べたなら暗くなってるからそろそろ帰りな。」
「うん!拉麺ありがとうね!」
「お邪魔しました~。」
そう言うと、二人は拉麺屋を後にし、帰路につく。
「ごめんねー。なんか私だけが楽しんじゃって。」
「いや、龍香ちゃんの食べっぷり見てるだけでも私楽しかったよ。」
「うーん、でもやっぱ見てるだけじゃ勿体ないし...そうだ!愛歩ちゃんも挑戦してみようよ!さっきの辛いみたいだし...まずは四川料理から馴らしていこう!」
「それ結構辛い奴じゃなかったっけ...?」
なんて話ながら二人は帰り道を歩く。自分達を見つめる怪しい視線に気づかずに。
二人から少し離れた建物の上、貯水タンクの陰からじわりと染み出すように黒い影が現れる。その影の視線は二人に向けられている。
「...見つけたぞ。その心臓、薄く切ってツマミにしてやろう。」
「.....ここって。」
龍香に案内されるままやってきた愛歩の前には赤い暖簾を掲げた少し薄汚れた感じの小さな拉麺屋だった。
「いや、拉麺って」
「ここスゴい美味しいんだよ!こんちはー!」
ガララ、と引き戸を開け龍香は中へと入っていく。愛歩も一瞬躊躇したが、続くように入る。
「おお!龍香ちゃん!久しぶりだねぇ」
中には割烹着姿初老の男性がいた。男性は龍香の顔を見ると嬉しそうに顔を綻ばせる。
龍香は愛歩ちゃんにこの初老の男性を紹介する。
「この人は店長の竹田さんだよ。竹田さん、この子私の友達の愛歩ちゃん。」
紹介された男性、竹田はニッコリと愛歩に笑いかける。
「あら、新しいお友達かい。ワシは竹田だよ。よろしくね、愛歩ちゃん。」
「あ、愛歩です。」
愛歩はペコリと頭を下げる。龍香はいつも以上にニコニコしながら愛歩に言う。
「ここの拉麺ホント絶品で、食べたら私、元気になれるんだ!だから愛歩ちゃんもどう?」
「ごめんけどご飯前だから拉麺はいいかな...」
「あ、残念。じゃあ、取り敢えず竹田さん!いつもの!」
「お、龍香ちゃんも好きだねぇ。」
「そんなバーテンダーみたいなノリで拉麺って注文するものだっけ...」
竹田は龍香の注文を受けると厨房の方へと向かう。龍香と愛歩はカウンター席に座る。
「ここ、私が昔からよく来てる拉麺屋なんだ。スゴく美味しいんだよ。」
「へぇ...。」
「落ち込んだ時とかここの拉麺食べたら元気になれるんだ。」
なんて龍香と愛歩が話していると、厨房から竹田が話し掛けてくる。
「それにしても最近は何かと物騒だからねぇ。なんでも最近、出るらしいじゃないか。」
「出るって?」
「“狼男”、さ。」
竹田はわざとおどろおどろしい、脅すような口調になる。
「夜になると、遠吠えが聞こえて来るらしい。そして気がついたら狼男の群れに囲まれて...」
その話に龍香と愛歩はゾッとする。
「お、狼男?」
「アハハ、竹田さん怖い話上手だね。でも、流石に騙されないよ...」
「それはどうかねぇ。ま、暗くなる前に帰ることを心掛けなってことさね。」
竹田は笑いながら調理を進める。龍香は小声で愛歩に言う。
「もしかして、のじゃ猫さんの知り合いかな?」
「え、多分違うと思うけど...。」
「まぁ、知り合いだったらのじゃ猫さんが止めてるか。」
「うん...かもね。」
「?」
愛歩は妙に歯切れ悪そうに答える。そんな愛歩に龍香はちょっと違和感を覚えたが、気のせいかと追及するのはやめる。
あまり人の心にに踏み込むようなことを言うものではないと龍香は学んだからだ。
なんてしていると奥の方からツンと鼻をつくような匂いが漂ってくる。
「おっ、来た来た。」
龍香が手を合わせる。それと同時に竹田が奥から拉麺の入った器を持ってくる。
「へいお待ち!」
「これこれ!これだよぉ~!」
「り、龍香ちゃん...」
持ってこられた拉麺を見て、愛歩は絶句する。まずスープの色がおかしい。唐辛子などを入れた辛い系の拉麺なら愛歩も見たことがあるが、目の前の拉麺は赤いを通り越して赤黒い色をしている。しかも龍香の隣にいるだけなのに匂いと湯気で涙が出てくる。
果たして料理と言えるのか怪しい程の暴力的な雰囲気を醸し出す拉麺と言う名の劇物を目の前にしても龍香は目を輝かせている。
「これはウチのチャレンジメニューの一つでね。食べきればタダ!食べきれなければ2000円!って言う激辛拉麺だよ。ブート・ジョロキアをふんだんに使わせて貰ってる奴で、龍香ちゃんが来るまで食べきれた人はいないんだけど。」
「スゴく美味しい!やっぱこれだよね~。」
見た目劇物拉麺を龍香は物ともせずバクバク食べていく。その豪快な食べっぷりに愛歩は、実はそんなに辛くないのでは、と思い始める。
「龍香ちゃん辛くないの?」
「ん?まぁまぁ、って感じかなぁ。良かったら一口いる?」
「え?」
龍香がレンゲを差し出す。愛歩は少し迷うが、結局好奇心が勝った。怖いもの見たさである。竹田が苦笑いしながら「やめといた方が良いと思うケドなァ」と言うが、もう遅い。愛歩は龍香から受け取ったレンゲ一杯分のスープを飲んでみる。
「ね、そこまででしょ?」
たしかに、ちょっとピリッと来たがそんな取り立てて騒ぐ程か、と言われるとそうでもない気がする。
「うん、そうだ」
そう言いかけた瞬間それは間違いであったと確信する。鼻の奥から突き刺すような刺激が走り、次に舌を辛味が蹂躙し、喉が焼けつくように痛くなり、喋ることもままならなくなる。
「カッ...!!辛ッ!?ア゛ァ゛!?」
涙と汗がドッと吹き出し、悶える愛歩に竹田が慌てて牛乳を差し出す。
「大丈夫かいお嬢ちゃん。ほら、飲み物。」
「~ッ!?!!!!!!」
愛歩は慌てて受け取った牛乳を一気飲みする。悶える愛歩を見ながら龍香は苦笑する。
「もー、愛歩ちゃん。それはオーバーだよ~。」
《いや、これが普通のリアクションだと思うが。》
「そーかな?」
龍香が謎の声と話すが愛歩はそれどころではなかった。蹂躙された口内を牛乳でなんとか誤魔化し、龍香を見る。
「よ、よく食べれるねそれ...」
「うん。美味しいからね。いつか一番辛いドラゴンズ・ブレスっていう種類の唐辛子を使った拉麺食べてみたいなぁ。」
「ハハハ。龍香ちゃん。それは多分ワシの腕が死んじゃうかな。」
ちなみにドラゴンズ・ブレスはブート・ジョロキアの二倍以上の辛さを誇り、あまりの辛さに食べると命の危険性がある上に医療用の皮膚を麻痺させる薬に用いられる、食材と言うより毒に近い代物である。
素手で触れば炎症どころでは済まないというのも付け足しておく。
龍香はその後もペースを全く緩めずに食べ続け、30分程で汁まで飲んで完食してしまう。
「ご馳走さまー!」
「ハハハ。またお代はタダだな。」
「いや~ッ!スッゴい美味しかった!」
「そりゃ良かった。」
「どんな舌をしてるの...?」
悶絶物を食べてケロリとしている龍香に愛歩は怪訝な目を向ける。
竹田はふと窓を見る。窓の外はそろそろ日が沈もうとしており、徐々に暗闇が広がりつつあった。
「ま、それ食べたなら暗くなってるからそろそろ帰りな。」
「うん!拉麺ありがとうね!」
「お邪魔しました~。」
そう言うと、二人は拉麺屋を後にし、帰路につく。
「ごめんねー。なんか私だけが楽しんじゃって。」
「いや、龍香ちゃんの食べっぷり見てるだけでも私楽しかったよ。」
「うーん、でもやっぱ見てるだけじゃ勿体ないし...そうだ!愛歩ちゃんも挑戦してみようよ!さっきの辛いみたいだし...まずは四川料理から馴らしていこう!」
「それ結構辛い奴じゃなかったっけ...?」
なんて話ながら二人は帰り道を歩く。自分達を見つめる怪しい視線に気づかずに。
二人から少し離れた建物の上、貯水タンクの陰からじわりと染み出すように黒い影が現れる。その影の視線は二人に向けられている。
「...見つけたぞ。その心臓、薄く切ってツマミにしてやろう。」
屋上の菜園で野菜に水をあげながら、白髪の少女、エフィはふと空を見る。
空は美しい黄昏と共にエフィに“良くない”気配を漂わせる風を運んでくる。
そんな風にエフィはため息をつくと水をあげ終えたジョウロを置き、空を見つめる。
「また...ね。」
エフィは【符号】を使用し、大きく跳躍する。ジョウロについた雫が夕暮れの光を照らしていた。
空は美しい黄昏と共にエフィに“良くない”気配を漂わせる風を運んでくる。
そんな風にエフィはため息をつくと水をあげ終えたジョウロを置き、空を見つめる。
「また...ね。」
エフィは【符号】を使用し、大きく跳躍する。ジョウロについた雫が夕暮れの光を照らしていた。
「ちょー、自分のせいでだいぶ遅くなったやないけー。」
「何よアンタも乗ったでしょ!同罪よ同罪!」
なんて言い合いながら白髪の髪をポニーテールに纏め、蟹のヘアアクセをつけた活発そうな少女、蟹乃むらサメと薄い色の金髪をツインテールにした少し目付きが鋭い少女、雪花藍がやいのやいの言い合いながら道を歩く。
二人が他の生徒ならとっくの昔に家にいる時間であるにも関わらず帰りがこうも遅くなったのには訳がある。
時は遡ること放課後。掃除当番の二人は最初は真面目にやっていたのだが、その内雪花は段々掃除に飽きてきてふと目に入ったゴムボールを拾うとむらサメに言った。
「ちょっと野球しない?」
「面白そうやん。ええで!」
むらサメも若干飽きて来たのでこれを了承。10分位軽く遊んだら作業に戻るつもりだったのだが、これが遊んでいる内に二人とも徐々にヒートアップしていき、気がついたらこんな時間に。
慌てて作業に戻るがもう日は暮れかけており、現在に至ると言う訳だ。
「でも自分こういうの結構熱中するんやな。意外。」
「言っとくけどアンタの方が熱中してたからね!“甲子園球場までかっ飛ばしたる”とか言ってたし!」
「いやいやいや、自分も魔球どうのこうの言うてたやん。いやー、今日び魔球なんて聞かんからおもろかったわ。」
なんて言いながら二人が話している時だった。何処からか妙な音楽が聞こえることに気づく。
最初はよく暗くなる時に帰りを促す“蛍の光”かと思ったが、聞こえてくる音楽は静かで湖面の水面を写すかのような独特の曲調のオーケストラだった。
二人は聞こえてくる音楽に小首を傾げる。
「あれ?これなんやんたっけ?どっかで聞いたことあるような?」
「...これ、“G線上のアリア”じゃない。」
「あ、それや!音楽の授業でやった奴!」
「何だってそんな曲が流れるのよ。」
「アレやない?今をときめかすストリートパフォーマーって奴や!見に行こ!」
「いや、私は、って力強ッ!分かった行く!私も行くわよ!だから離しなさい!」
是非ともストリートパフォーマーを見たい好奇心旺盛なむらサメに引き摺られながら雪花も演奏を奏でていると思われる場所へと向かうのであった。
「何よアンタも乗ったでしょ!同罪よ同罪!」
なんて言い合いながら白髪の髪をポニーテールに纏め、蟹のヘアアクセをつけた活発そうな少女、蟹乃むらサメと薄い色の金髪をツインテールにした少し目付きが鋭い少女、雪花藍がやいのやいの言い合いながら道を歩く。
二人が他の生徒ならとっくの昔に家にいる時間であるにも関わらず帰りがこうも遅くなったのには訳がある。
時は遡ること放課後。掃除当番の二人は最初は真面目にやっていたのだが、その内雪花は段々掃除に飽きてきてふと目に入ったゴムボールを拾うとむらサメに言った。
「ちょっと野球しない?」
「面白そうやん。ええで!」
むらサメも若干飽きて来たのでこれを了承。10分位軽く遊んだら作業に戻るつもりだったのだが、これが遊んでいる内に二人とも徐々にヒートアップしていき、気がついたらこんな時間に。
慌てて作業に戻るがもう日は暮れかけており、現在に至ると言う訳だ。
「でも自分こういうの結構熱中するんやな。意外。」
「言っとくけどアンタの方が熱中してたからね!“甲子園球場までかっ飛ばしたる”とか言ってたし!」
「いやいやいや、自分も魔球どうのこうの言うてたやん。いやー、今日び魔球なんて聞かんからおもろかったわ。」
なんて言いながら二人が話している時だった。何処からか妙な音楽が聞こえることに気づく。
最初はよく暗くなる時に帰りを促す“蛍の光”かと思ったが、聞こえてくる音楽は静かで湖面の水面を写すかのような独特の曲調のオーケストラだった。
二人は聞こえてくる音楽に小首を傾げる。
「あれ?これなんやんたっけ?どっかで聞いたことあるような?」
「...これ、“G線上のアリア”じゃない。」
「あ、それや!音楽の授業でやった奴!」
「何だってそんな曲が流れるのよ。」
「アレやない?今をときめかすストリートパフォーマーって奴や!見に行こ!」
「いや、私は、って力強ッ!分かった行く!私も行くわよ!だから離しなさい!」
是非ともストリートパフォーマーを見たい好奇心旺盛なむらサメに引き摺られながら雪花も演奏を奏でていると思われる場所へと向かうのであった。
「いやー、暗くなっちゃったね。」
「龍香ちゃん大丈夫?アレだったらお父さんに頼んで送ってあげようか?」
「いやいやそれは申し訳ないし、それに私は大丈夫だから。心配しないで。」
「ホント?」
「うん。全然平気。慣れっこだからさ。」
「なら良いけど...。」
等と話しながら、龍香と愛歩の二人が暗くなる住宅街を歩いていた時だった。何処からか音楽が聞こえる。寂寥感漂う物静かな曲。
「ん?」
「これって....」
二人が突然流れてきた音楽に困惑していると物陰などあちこちからワラワラと楽器達が現れる。
「えっ、何これ!?」
「コレってあの時の...!?」
人の手も無しにひとりでに動き出す楽器達に愛歩と龍香は身構える。音楽を奏でながら楽器達が二人を取り囲む。
そして唯一楽器達がいない二人の前に一体の角笛に手を生やしたような物体が現れ、ペコリとお辞儀する。
「あ。」
「これは親切に。」
二人もついついつられてお辞儀をする。その物体はお辞儀を終えると何処からか指揮棒を取り出すとそれを翳し、物体が周りの楽器達に指示を飛ばそうとした瞬間だった。
「ハァッ!」
上空から舞い降りた少女が氷で出来た剣で物体に襲いかかる。だがその一撃をいち早く気づいた物体はスッと後ろへと下がって一撃をかわす。
「チッ、仕留め損ねたわね。」
その少女は白髪に白のパーカーを着込んだ少女だった。その少女に龍香は見覚えがあった。
そう、数日前に突然現れた楽器達を倒すために一緒に結託して戦った少女だった。確か名前はエフィ、とか言ったか。
「あ、貴方は。」
「ん?貴方と何処かで会ったかしら?」
「あ。」
龍香を見ていぶかしむエフィに龍香はハッとなる。そうだ、龍香の正体は頭のヘアアクセ、“カノープス”によって認識を阻害していたのだった。だからエフィが龍香のことを知っている訳がないのだ。
「い、いや。知り合いに似てるなーって。」
「?よく分からないけどここから早く離れなさい。コイツらこんなトンチキな見た目してるけどかなり危険よ。」
「で、でも周りを囲まれてて。」
愛歩の言う通り、逃げようにも楽器達に囲まれて何処にも逃げることは出来ない。エフィもその状況をすぐに理解すると右手にパチパチと音を立てて電気を発生させ、発生した電気が徐々に槍の形を作り出す。
「『ナルカミ』!!」
エフィは作り出した雷の槍を楽器の群れの一部に投擲する。放たれた槍はその射線上にいた楽器達を貫き粉砕する。そして槍が放たれた跡に道が出来る。
「これで道が出来たわよ。早く逃げなさい!」
「あっ...」
「龍香ちゃん、早く逃げよう!」
一瞬共に戦おうと提案するが龍香は正体を隠さなくてはいけない身。ここは愛歩と一緒に逃げに徹することにする。
だが逃げる直前に龍香はエフィに叫ぶ。
「あの!」
「?」
「その...ありがとうございます!頑張って!」
「龍香ちゃん早く!」
「うん!」
そう言うと二人はエフィが作った敵陣の穴を通って駆け出す。そんな二人を見ながら龍香に声をかけられたエフィはポカンとしていたがクスッと笑って楽団に振り返る。
「ああ言われちゃ...頑張らない訳にはいかないわね!」
エフィは突進してくる楽器達を見据えると、氷の剣を握り締める。
楽団の指揮者も指揮棒を振るい、エフィに立ち向かわせるように楽器を指揮する。
そして次の瞬間両者が激突する。
「龍香ちゃん大丈夫?アレだったらお父さんに頼んで送ってあげようか?」
「いやいやそれは申し訳ないし、それに私は大丈夫だから。心配しないで。」
「ホント?」
「うん。全然平気。慣れっこだからさ。」
「なら良いけど...。」
等と話しながら、龍香と愛歩の二人が暗くなる住宅街を歩いていた時だった。何処からか音楽が聞こえる。寂寥感漂う物静かな曲。
「ん?」
「これって....」
二人が突然流れてきた音楽に困惑していると物陰などあちこちからワラワラと楽器達が現れる。
「えっ、何これ!?」
「コレってあの時の...!?」
人の手も無しにひとりでに動き出す楽器達に愛歩と龍香は身構える。音楽を奏でながら楽器達が二人を取り囲む。
そして唯一楽器達がいない二人の前に一体の角笛に手を生やしたような物体が現れ、ペコリとお辞儀する。
「あ。」
「これは親切に。」
二人もついついつられてお辞儀をする。その物体はお辞儀を終えると何処からか指揮棒を取り出すとそれを翳し、物体が周りの楽器達に指示を飛ばそうとした瞬間だった。
「ハァッ!」
上空から舞い降りた少女が氷で出来た剣で物体に襲いかかる。だがその一撃をいち早く気づいた物体はスッと後ろへと下がって一撃をかわす。
「チッ、仕留め損ねたわね。」
その少女は白髪に白のパーカーを着込んだ少女だった。その少女に龍香は見覚えがあった。
そう、数日前に突然現れた楽器達を倒すために一緒に結託して戦った少女だった。確か名前はエフィ、とか言ったか。
「あ、貴方は。」
「ん?貴方と何処かで会ったかしら?」
「あ。」
龍香を見ていぶかしむエフィに龍香はハッとなる。そうだ、龍香の正体は頭のヘアアクセ、“カノープス”によって認識を阻害していたのだった。だからエフィが龍香のことを知っている訳がないのだ。
「い、いや。知り合いに似てるなーって。」
「?よく分からないけどここから早く離れなさい。コイツらこんなトンチキな見た目してるけどかなり危険よ。」
「で、でも周りを囲まれてて。」
愛歩の言う通り、逃げようにも楽器達に囲まれて何処にも逃げることは出来ない。エフィもその状況をすぐに理解すると右手にパチパチと音を立てて電気を発生させ、発生した電気が徐々に槍の形を作り出す。
「『ナルカミ』!!」
エフィは作り出した雷の槍を楽器の群れの一部に投擲する。放たれた槍はその射線上にいた楽器達を貫き粉砕する。そして槍が放たれた跡に道が出来る。
「これで道が出来たわよ。早く逃げなさい!」
「あっ...」
「龍香ちゃん、早く逃げよう!」
一瞬共に戦おうと提案するが龍香は正体を隠さなくてはいけない身。ここは愛歩と一緒に逃げに徹することにする。
だが逃げる直前に龍香はエフィに叫ぶ。
「あの!」
「?」
「その...ありがとうございます!頑張って!」
「龍香ちゃん早く!」
「うん!」
そう言うと二人はエフィが作った敵陣の穴を通って駆け出す。そんな二人を見ながら龍香に声をかけられたエフィはポカンとしていたがクスッと笑って楽団に振り返る。
「ああ言われちゃ...頑張らない訳にはいかないわね!」
エフィは突進してくる楽器達を見据えると、氷の剣を握り締める。
楽団の指揮者も指揮棒を振るい、エフィに立ち向かわせるように楽器を指揮する。
そして次の瞬間両者が激突する。
「はぁ!はぁ...!一体何なのアレ...!」
「わ、分かんない!けど、彼女に任せて大丈夫だと思う!...多分。」
「た、多分って...」
二人はあの現場から必死に走って逃げ出し、楽器達から大分遠ざかる。
「と、取り敢えずここまで来たら大丈夫かな...」
「結構走ったしね...」
二人が肩で息をしながら休んでいる時だった。何処からか狼の遠吠えのような咆哮が聞こえる。
その音に二人は拉麺屋の竹田さんが行っていたことを思いだし、ドキッとする。
『夜になると、遠吠えが聞こえて来るらしい。そして気がついたら狼男の群れに囲まれて...』
「こ、これって...」
「ま、まさか...。」
二人が顔を見合わせた瞬間嫌な予感通りと言うべきか、ぞろぞろと人影が現れる。
「えっ、」
「人...?」
最初二人は人かと思ったがすぐにそれは間違いであることに気づく。
何故ならその人には狼のような耳と尻尾が生え、赤い目に鋭い牙が生え揃っていたからだ。
まさしく狼男と言った風貌の怪物達の前の暗闇から、滲み出るように黒い影が現れる。
黒い影はひょろ長い身体に足まで届く長い腕をしており、灼熱の炉のごとく赤い瞳をしている。
「イレギュラーが乱入したとは言え、まさか逃げ切られるとはな。奴らも存外...と言った所か。」
「今度は何!?」
「シードゥス!?」
龍香の声に影はクククと肩を震わせ笑う。
「私はシードゥスとやらではない。私は影...お前達の身近の闇に潜む者だ。」
影は長い腕の先にある鋭い爪を二人に向ける。
「お前達はもう終わりだ。“モドキ”どもに囲まれ、何処にも逃げられん。ここで死ぬのみだ。」
楽しむかのように指を蠢かせながら二人を影は見つめる。
「くっ...」
龍香は迷う。ここで変身すれば突破出来るかもしれない。だがそうすれば愛歩に正体を晒してしまうことになる。どうするか迷いながらも龍香は愛歩を庇うように前に出る。
「龍香ちゃん...!」
「任せて...私が最後まで守るから。」
こちらを睨む龍香を見て、怪物はせせら笑うように二人に言う。
「命乞いをしないのか?その方がお互いに楽しめる。」
「誰がするもんか!」
「遠慮するな、存分に恐れると良い。やれ。」
影が指示すると同時に狼男達が二人に襲いかかる。襲い来る狼男達に龍香が一瞬カノープスに触れそうになった瞬間だった。
「うおりゃあああああああああ!!」
突然横から現れた1人の少女の膝が狼男の一人の顔面に炸裂する。続けざまに少女は目にも止まらぬ速さで拳を振るい、狼男達をなぎ倒していく。
「貴様は...」
その少女の頭には猫のような耳が生え、赤いマフラーに黒い髪、そしてジャージとブルマと言った珍妙な出で立ちであった。そして同時に二人に見覚えがある人物でもある。
「のじゃロリ猫さん!」
「ナイスタイミングって奴じゃの。」
のじゃロリ猫はフッと笑って黒い影に向き直る。影は手下がやられたのにも関わらず、何処と吹く風と言った様子で突然の乱入者を面白そうに見つめる。
「愛歩、怪我はないか。」
「うん!のじゃロリ猫さん!ここは私も!」
そう言うと愛歩は息を止めて時間を止める。のじゃロリ猫は時を止められ動けない影に近づくと拳を振るう。
「卑怯だと言ってくれるなよ!ワシも暇じゃないのじゃ!」
怒涛のラッシュが影に炸裂する。拳を打った場所から影が弾け飛ぶ。そして愛歩が息を止めるのをやめて能力を解除すると同時に影は同時に襲いかかる衝撃に影の上半身が吹き飛ばされる。
「やった!」
「ふん。意外と他愛ないもんじゃな。」
のじゃロリ猫が得意気に胸を張る。愛歩と龍香も一安心してのじゃロリ猫の方に行こうとした瞬間。
「珍妙な術を使うな。」
声がした方を振り返ると下半身から黒い靄のようなものが吹き飛ばされた上半身を形成する。そして影は完璧に元通りになる。
「再生した!?」
「...珍妙な奴じゃのォ。」
再生した影にのじゃロリ猫はうんざりとした顔をする。それを見た愛歩が再び息を止めようとすると影は闇に沈み込むように消える。
「消えた!」
三人が辺りを見回すが、影はどこにもいない。何処にいるのか分からない恐怖に愛歩が思わず後退りした瞬間。
後ろの建物の影から、鋭い爪が愛歩に襲いかかる。
「危ない!」
気づいた龍香が愛歩を突き飛ばして何とかその一撃をかわす。
「そこか!」
のじゃロリ猫が影に攻撃するが、影は地面に沈み込むように消え、攻撃をかわす。
のじゃロリ猫は舌打ちすると、愛歩に言う。
「愛歩!ここは早く逃げるんじゃ。正直コイツとお主を守りながら戦うのはちとめんどい。」
「わ、分かった!龍香ちゃん!逃げよう!」
「え、うん!」
二人が駆け出す。のじゃロリ猫は影は恐らく逃げる愛歩を狙って攻撃すると予想して身構えるが、影は二人が見えなくなるまで姿を現さなかった。
「?」
「気が変わった。まずは邪魔者のお前から始末してやろう。」
どこに潜んでいるのか。くぐもった不気味な声が何処からか聞こえてくる。どこから仕掛けられても良いようのじゃロリ猫は身構え、辺りをグルッと見回して影を探す。
だが、影の居場所は分からない。のじゃロリ猫が警戒している中でも影は話続ける。
「何でもそこらでは有名な妖怪らしいな。お前の断末魔の声はしっかりと覚えておいてやろう。」
「お主のような悪趣味の真っ黒黒スケにも名前が知られとるとはわしも有名になったモンじゃな。」
軽口を叩くが、影は余裕を崩さない。そして影は蠢きながら目の前にいる獲物を見つめ、舌なめずりをする。
「クク...楽しみだ。蛆虫の苗床として永遠の時を過ごさせてやる。」
「わ、分かんない!けど、彼女に任せて大丈夫だと思う!...多分。」
「た、多分って...」
二人はあの現場から必死に走って逃げ出し、楽器達から大分遠ざかる。
「と、取り敢えずここまで来たら大丈夫かな...」
「結構走ったしね...」
二人が肩で息をしながら休んでいる時だった。何処からか狼の遠吠えのような咆哮が聞こえる。
その音に二人は拉麺屋の竹田さんが行っていたことを思いだし、ドキッとする。
『夜になると、遠吠えが聞こえて来るらしい。そして気がついたら狼男の群れに囲まれて...』
「こ、これって...」
「ま、まさか...。」
二人が顔を見合わせた瞬間嫌な予感通りと言うべきか、ぞろぞろと人影が現れる。
「えっ、」
「人...?」
最初二人は人かと思ったがすぐにそれは間違いであることに気づく。
何故ならその人には狼のような耳と尻尾が生え、赤い目に鋭い牙が生え揃っていたからだ。
まさしく狼男と言った風貌の怪物達の前の暗闇から、滲み出るように黒い影が現れる。
黒い影はひょろ長い身体に足まで届く長い腕をしており、灼熱の炉のごとく赤い瞳をしている。
「イレギュラーが乱入したとは言え、まさか逃げ切られるとはな。奴らも存外...と言った所か。」
「今度は何!?」
「シードゥス!?」
龍香の声に影はクククと肩を震わせ笑う。
「私はシードゥスとやらではない。私は影...お前達の身近の闇に潜む者だ。」
影は長い腕の先にある鋭い爪を二人に向ける。
「お前達はもう終わりだ。“モドキ”どもに囲まれ、何処にも逃げられん。ここで死ぬのみだ。」
楽しむかのように指を蠢かせながら二人を影は見つめる。
「くっ...」
龍香は迷う。ここで変身すれば突破出来るかもしれない。だがそうすれば愛歩に正体を晒してしまうことになる。どうするか迷いながらも龍香は愛歩を庇うように前に出る。
「龍香ちゃん...!」
「任せて...私が最後まで守るから。」
こちらを睨む龍香を見て、怪物はせせら笑うように二人に言う。
「命乞いをしないのか?その方がお互いに楽しめる。」
「誰がするもんか!」
「遠慮するな、存分に恐れると良い。やれ。」
影が指示すると同時に狼男達が二人に襲いかかる。襲い来る狼男達に龍香が一瞬カノープスに触れそうになった瞬間だった。
「うおりゃあああああああああ!!」
突然横から現れた1人の少女の膝が狼男の一人の顔面に炸裂する。続けざまに少女は目にも止まらぬ速さで拳を振るい、狼男達をなぎ倒していく。
「貴様は...」
その少女の頭には猫のような耳が生え、赤いマフラーに黒い髪、そしてジャージとブルマと言った珍妙な出で立ちであった。そして同時に二人に見覚えがある人物でもある。
「のじゃロリ猫さん!」
「ナイスタイミングって奴じゃの。」
のじゃロリ猫はフッと笑って黒い影に向き直る。影は手下がやられたのにも関わらず、何処と吹く風と言った様子で突然の乱入者を面白そうに見つめる。
「愛歩、怪我はないか。」
「うん!のじゃロリ猫さん!ここは私も!」
そう言うと愛歩は息を止めて時間を止める。のじゃロリ猫は時を止められ動けない影に近づくと拳を振るう。
「卑怯だと言ってくれるなよ!ワシも暇じゃないのじゃ!」
怒涛のラッシュが影に炸裂する。拳を打った場所から影が弾け飛ぶ。そして愛歩が息を止めるのをやめて能力を解除すると同時に影は同時に襲いかかる衝撃に影の上半身が吹き飛ばされる。
「やった!」
「ふん。意外と他愛ないもんじゃな。」
のじゃロリ猫が得意気に胸を張る。愛歩と龍香も一安心してのじゃロリ猫の方に行こうとした瞬間。
「珍妙な術を使うな。」
声がした方を振り返ると下半身から黒い靄のようなものが吹き飛ばされた上半身を形成する。そして影は完璧に元通りになる。
「再生した!?」
「...珍妙な奴じゃのォ。」
再生した影にのじゃロリ猫はうんざりとした顔をする。それを見た愛歩が再び息を止めようとすると影は闇に沈み込むように消える。
「消えた!」
三人が辺りを見回すが、影はどこにもいない。何処にいるのか分からない恐怖に愛歩が思わず後退りした瞬間。
後ろの建物の影から、鋭い爪が愛歩に襲いかかる。
「危ない!」
気づいた龍香が愛歩を突き飛ばして何とかその一撃をかわす。
「そこか!」
のじゃロリ猫が影に攻撃するが、影は地面に沈み込むように消え、攻撃をかわす。
のじゃロリ猫は舌打ちすると、愛歩に言う。
「愛歩!ここは早く逃げるんじゃ。正直コイツとお主を守りながら戦うのはちとめんどい。」
「わ、分かった!龍香ちゃん!逃げよう!」
「え、うん!」
二人が駆け出す。のじゃロリ猫は影は恐らく逃げる愛歩を狙って攻撃すると予想して身構えるが、影は二人が見えなくなるまで姿を現さなかった。
「?」
「気が変わった。まずは邪魔者のお前から始末してやろう。」
どこに潜んでいるのか。くぐもった不気味な声が何処からか聞こえてくる。どこから仕掛けられても良いようのじゃロリ猫は身構え、辺りをグルッと見回して影を探す。
だが、影の居場所は分からない。のじゃロリ猫が警戒している中でも影は話続ける。
「何でもそこらでは有名な妖怪らしいな。お前の断末魔の声はしっかりと覚えておいてやろう。」
「お主のような悪趣味の真っ黒黒スケにも名前が知られとるとはわしも有名になったモンじゃな。」
軽口を叩くが、影は余裕を崩さない。そして影は蠢きながら目の前にいる獲物を見つめ、舌なめずりをする。
「クク...楽しみだ。蛆虫の苗床として永遠の時を過ごさせてやる。」
「ハァッ...ハァッ...」
「もう、何なの...」
龍香と愛歩はまたあれから走り続け、離れた場所で息をつく。
「のじゃロリ猫さん、大丈夫かな...」
「あの人ならきっと大丈夫...だよ。」
「あら?人の心配してる暇あるのかも?」
声がした方を見ると、奥から青色のマフラーを撒いた黒みがかった青髪で魚のようなギョロ目の少女と巨大な体躯に狼のような怪物が現れる。
またもや現れたどう見ても仲良くするつもりがないと分かる存在の登場に二人はうんざりする。
「また出た!?」
「またかも。」
ギョロ目の少女はニヤリと笑うと龍香に言う。
「そこのお前。」
「私?」
「そう、お前だ。そこの隣にいる少女をこっちに差し出すかも。そしたらお前の命だけは保証してやるかも。」
「なっ、そんな友達を見捨てるようなこと、する訳ないでしょ!」
龍香が言い返す。だが少女はニヤニヤと笑いながら今度は龍香ではなく愛歩に言う。
「美しい友情かも。でも、お前が命を差し出せばお友達の命は助かるかも。俺達の目的はお前の心臓を食べることだからかも。」
「私が...」
一瞬迷う愛歩に龍香は叫ぶ、
「騙されないで!この人達が約束を守るかも怪しいんだよ!しかも心臓どうこうって!」
「だが、俺達を信じるしか貴様に道は無いんだぜ?それともお前らが俺達を倒すのか?」
狼のような怪物が愛歩に言う。確かにこの怪物の言う通りだ。いくら時を止めれても相手を倒せなければ意味がない。
つまり、今の二人にもう打つ手はない。愛歩がせめて龍香だけでも助けようと前に出ようとした時だった。
「...待って、愛歩ちゃん。」
「龍香ちゃん?」
龍香は前に出ようとした愛歩を手を伸ばして制止すると、自分が一歩前に出る。
《良いのか?龍香?》
「うん。仕方ないよ。友達を守るためだもん。」
何処からともなく声が聞こえる。そして聞こえてきた龍香とは別の声に怪物の方がピクリと反応する。
「?龍香ちゃん誰と...」
「愛歩ちゃん。悪いけど...この事秘密にしといてね!」
「え?」
困惑する愛歩をよそに、龍香はスゥーと深呼吸をすると頭のヘアアクセ、カノープスに触れる。
「カノープス!」
《おう!》
龍香がカノープスに触れると地面から紫の輝きを放つ恐竜が現れバクリと龍香を食べるように包見込む。
「た、食べられたー!?」
「お、おおおお!?」
突然の出来事に狼の怪物以外の二人が驚く。そして恐竜が弾けると共に恐竜の意匠の装甲に身を包み、黒いドレスを纏った龍香がその場にいた。
《暴虐不尽!ティラノカラー!》
「龍香ちゃん...」
変身した龍香は愛歩に親指を立てサムズアップすると戦斧型武器“タイラントアックス”を構え、敵である二体に振り返る。
「友達に手は出させない...!」
「もう、何なの...」
龍香と愛歩はまたあれから走り続け、離れた場所で息をつく。
「のじゃロリ猫さん、大丈夫かな...」
「あの人ならきっと大丈夫...だよ。」
「あら?人の心配してる暇あるのかも?」
声がした方を見ると、奥から青色のマフラーを撒いた黒みがかった青髪で魚のようなギョロ目の少女と巨大な体躯に狼のような怪物が現れる。
またもや現れたどう見ても仲良くするつもりがないと分かる存在の登場に二人はうんざりする。
「また出た!?」
「またかも。」
ギョロ目の少女はニヤリと笑うと龍香に言う。
「そこのお前。」
「私?」
「そう、お前だ。そこの隣にいる少女をこっちに差し出すかも。そしたらお前の命だけは保証してやるかも。」
「なっ、そんな友達を見捨てるようなこと、する訳ないでしょ!」
龍香が言い返す。だが少女はニヤニヤと笑いながら今度は龍香ではなく愛歩に言う。
「美しい友情かも。でも、お前が命を差し出せばお友達の命は助かるかも。俺達の目的はお前の心臓を食べることだからかも。」
「私が...」
一瞬迷う愛歩に龍香は叫ぶ、
「騙されないで!この人達が約束を守るかも怪しいんだよ!しかも心臓どうこうって!」
「だが、俺達を信じるしか貴様に道は無いんだぜ?それともお前らが俺達を倒すのか?」
狼のような怪物が愛歩に言う。確かにこの怪物の言う通りだ。いくら時を止めれても相手を倒せなければ意味がない。
つまり、今の二人にもう打つ手はない。愛歩がせめて龍香だけでも助けようと前に出ようとした時だった。
「...待って、愛歩ちゃん。」
「龍香ちゃん?」
龍香は前に出ようとした愛歩を手を伸ばして制止すると、自分が一歩前に出る。
《良いのか?龍香?》
「うん。仕方ないよ。友達を守るためだもん。」
何処からともなく声が聞こえる。そして聞こえてきた龍香とは別の声に怪物の方がピクリと反応する。
「?龍香ちゃん誰と...」
「愛歩ちゃん。悪いけど...この事秘密にしといてね!」
「え?」
困惑する愛歩をよそに、龍香はスゥーと深呼吸をすると頭のヘアアクセ、カノープスに触れる。
「カノープス!」
《おう!》
龍香がカノープスに触れると地面から紫の輝きを放つ恐竜が現れバクリと龍香を食べるように包見込む。
「た、食べられたー!?」
「お、おおおお!?」
突然の出来事に狼の怪物以外の二人が驚く。そして恐竜が弾けると共に恐竜の意匠の装甲に身を包み、黒いドレスを纏った龍香がその場にいた。
《暴虐不尽!ティラノカラー!》
「龍香ちゃん...」
変身した龍香は愛歩に親指を立てサムズアップすると戦斧型武器“タイラントアックス”を構え、敵である二体に振り返る。
「友達に手は出させない...!」
To be continued.....