『研ぎ澄ませ!静動』
更新日:2021/06/20 Sun 13:04:09


わたしの名前は慶光院 九(けいこういん ここの)。
みんなに呼ばれてる名前は、きゅーばんちゃん!
自慢じゃないけど、好奇心なら誰にも負けない!
「目がキラキラしてるね」とよく言われるけど、
わたしにはよくわかんない・・・
みんなに呼ばれてる名前は、きゅーばんちゃん!
自慢じゃないけど、好奇心なら誰にも負けない!
「目がキラキラしてるね」とよく言われるけど、
わたしにはよくわかんない・・・
わたしたちの住む青空町では、昔から女の子にさまざまな力が芽生える現象が発生している。
不思議な力『女児符号』(ガールズコード)、
その力を持つ『符号保持者』(コードホルダー)。
この『符号』は、わたしの友達にも芽生え始めている。
わたしのお姉ちゃんも、持っている。
お母さんも、かつては持っていたらしい。
そして、その力はわたしにも例外なく-
不思議な力『女児符号』(ガールズコード)、
その力を持つ『符号保持者』(コードホルダー)。
この『符号』は、わたしの友達にも芽生え始めている。
わたしのお姉ちゃんも、持っている。
お母さんも、かつては持っていたらしい。
そして、その力はわたしにも例外なく-
極めろ!女児符号
Case 1 研ぎ澄ませ!静動
Case 1 研ぎ澄ませ!静動
わたしの趣味の一つめは、コマ撮り撮影。
今日も自室の机で、去年の誕生日に買ってもらった人形を少しずつ動かしながら撮っていく。
リビングから聞こえるお父さん-慶光院 九十九(つくも)-のサックスが、BGM代わり。
慎重な作業だけど、さながら気分はアニメーター!
「次は、左手をちょっとだけ上げて・・・あっ、上げすぎ・・・っ」
勢い余って必要以上に動かしてしまった。今回のシーンは細かい動きだから、いつもより神経を使う。
「左手は、もうちょっと下かな・・・2ミリ、いや3ミリ?そーっと、そーっと、もう少し・・・わっ!?」
今日も自室の机で、去年の誕生日に買ってもらった人形を少しずつ動かしながら撮っていく。
リビングから聞こえるお父さん-慶光院 九十九(つくも)-のサックスが、BGM代わり。
慎重な作業だけど、さながら気分はアニメーター!
「次は、左手をちょっとだけ上げて・・・あっ、上げすぎ・・・っ」
勢い余って必要以上に動かしてしまった。今回のシーンは細かい動きだから、いつもより神経を使う。
「左手は、もうちょっと下かな・・・2ミリ、いや3ミリ?そーっと、そーっと、もう少し・・・わっ!?」
その時だった。
視界が、急に薄暗くなったのを感じる。
遠くのものはぼんやり、近くはよりはっきり見えていく。
目の前の人形は、コマ送りの映像のように、カク、カクと少しずつ後ろにのけぞっていく。
ついさっきまでBGMを奏でていたはずの、お父さんのサックスの音も聞こえない。
間違いない、これは-
視界が、急に薄暗くなったのを感じる。
遠くのものはぼんやり、近くはよりはっきり見えていく。
目の前の人形は、コマ送りの映像のように、カク、カクと少しずつ後ろにのけぞっていく。
ついさっきまでBGMを奏でていたはずの、お父さんのサックスの音も聞こえない。
間違いない、これは-
「-はっ!」
再度、サックスの音色が聞こえる。
気付いた時には、感覚は元に戻っていた。
そう、これがわたしの『女児符号』。
時間の感覚を遅らせ、周囲がコマ送りで動いて見える、『名前のない力』。
集中力が高まると発動するみたいだけれど、いまいち使いこなせていない。
ふとした拍子に発動したり、使いたい時に限って何も起こらないこともある。
この力を使いこなせる時は来るのか、どんな事に使えるのか、まだまだわからないことだらけだ。
「またこの感覚・・・もう、突然出てくるんだから。あれ、ってことは・・・ああっ!!」
さっきまで撮影していた人形は、符号発動に驚いた勢いで押し出してしまったのか、仰向けにぱたりとたおれていた。
「あぁ、やっぱりまた撮り直しだ・・・」
再度、サックスの音色が聞こえる。
気付いた時には、感覚は元に戻っていた。
そう、これがわたしの『女児符号』。
時間の感覚を遅らせ、周囲がコマ送りで動いて見える、『名前のない力』。
集中力が高まると発動するみたいだけれど、いまいち使いこなせていない。
ふとした拍子に発動したり、使いたい時に限って何も起こらないこともある。
この力を使いこなせる時は来るのか、どんな事に使えるのか、まだまだわからないことだらけだ。
「またこの感覚・・・もう、突然出てくるんだから。あれ、ってことは・・・ああっ!!」
さっきまで撮影していた人形は、符号発動に驚いた勢いで押し出してしまったのか、仰向けにぱたりとたおれていた。
「あぁ、やっぱりまた撮り直しだ・・・」
「九?どうかしたの?」
部屋のドアが開き、お母さん-慶光院 桃花(ももか)-が顔を出す。
「ううん、大丈夫。ちょっと『符号』が出てきちゃって」
「『符号』・・・お姉ちゃんだけでなくあなたにも芽生えていて嬉しいけど、突然現れて制御が効かないとなると、うーん、お母さん心配ね」
部屋のドアが開き、お母さん-慶光院 桃花(ももか)-が顔を出す。
「ううん、大丈夫。ちょっと『符号』が出てきちゃって」
「『符号』・・・お姉ちゃんだけでなくあなたにも芽生えていて嬉しいけど、突然現れて制御が効かないとなると、うーん、お母さん心配ね」
わたしの家系は、この町に伝わる『女児符号』の存在を代々語り継いでいる。
お姉ちゃん-慶光院 士(つかさ)-は、いつの間に『符号』の力を身につけ、使えるようになっていた。
お母さんもかつては使えたけど、大人になるにつれて、力が消えていったという。
お姉ちゃん-慶光院 士(つかさ)-は、いつの間に『符号』の力を身につけ、使えるようになっていた。
お母さんもかつては使えたけど、大人になるにつれて、力が消えていったという。
「ねえ、お姉ちゃんやお母さんはどうやって制御できるようになったの?」
わたしは、ずっと気になっていた質問を投げかけた。
「そうねぇ、お姉ちゃんは不思議と最初から上手く使えていたわね。ある種の才能があったのかしら」
「才能かぁ・・・お姉ちゃんは凄いなぁ」
「お母さんも九と同じで、最初はうまく使えなかったわ。それはもう、周りの友達を巻き込んでいっぱい迷惑かけてしまったもの」
「お母さんも、そうだったんだ・・・」
少しホッとしたような、ギョッとしたような。周りを巻き込むほどの力を持っていたなんて・・・
「だけどね、ある日、大切な人を傷つけたくない、守りたいって強く思った時があったの。そうしたら、思い通りに使えるようになっていたのよ」
「大切な人?それって・・・あ、でも、稽古をつけてくれる人でもいればいいんだけど・・・」
「稽古・・・そうだわ!名案しかないわ!」
お母さんの瞳が、キラキラッと輝いたような気がした。〜〜しかないわ、というのはお母さんの口癖みたいなもので、昔から何かを閃いた時や、興味を示したときについ口から出てしまうらしい。
「名案って、お母さんの知り合いに誰かアテがあるの?」
「そうね・・・とにかく、今日はもう遅いから、寝る準備をしなさい。きっとピッタリな人が来るわ。信じていれば、きっと!」
「き、きっと・・・???」
お母さんの人脈に、『符号』に詳しい人がいるのだろうか。その誰かを紹介してくれるのか、それとも、ただ願ってくれるだけなのだろうか。
その言葉に半信半疑になりつつも、わたしは床に就くことにした。
わたしは、ずっと気になっていた質問を投げかけた。
「そうねぇ、お姉ちゃんは不思議と最初から上手く使えていたわね。ある種の才能があったのかしら」
「才能かぁ・・・お姉ちゃんは凄いなぁ」
「お母さんも九と同じで、最初はうまく使えなかったわ。それはもう、周りの友達を巻き込んでいっぱい迷惑かけてしまったもの」
「お母さんも、そうだったんだ・・・」
少しホッとしたような、ギョッとしたような。周りを巻き込むほどの力を持っていたなんて・・・
「だけどね、ある日、大切な人を傷つけたくない、守りたいって強く思った時があったの。そうしたら、思い通りに使えるようになっていたのよ」
「大切な人?それって・・・あ、でも、稽古をつけてくれる人でもいればいいんだけど・・・」
「稽古・・・そうだわ!名案しかないわ!」
お母さんの瞳が、キラキラッと輝いたような気がした。〜〜しかないわ、というのはお母さんの口癖みたいなもので、昔から何かを閃いた時や、興味を示したときについ口から出てしまうらしい。
「名案って、お母さんの知り合いに誰かアテがあるの?」
「そうね・・・とにかく、今日はもう遅いから、寝る準備をしなさい。きっとピッタリな人が来るわ。信じていれば、きっと!」
「き、きっと・・・???」
お母さんの人脈に、『符号』に詳しい人がいるのだろうか。その誰かを紹介してくれるのか、それとも、ただ願ってくれるだけなのだろうか。
その言葉に半信半疑になりつつも、わたしは床に就くことにした。
-次の日、青空小学校の放課後。
「今日は水曜日!ということで・・・バーテンダーごっこ参加する人ー!!」
「はい!」
「ほいっ」
「はいはーい!」
「OK!よし、行こー!」
わたしの趣味の二つめは、ジュースやシロップを組み合わせて作る、ノンアルコールカクテルの製作。
毎週水曜日の放課後、先生の許可のもと部屋を借りて、バーテンダーごっこを行っている。
無理を言って、材料も冷蔵庫に保管させてもらったんだ。
「はい!」
「ほいっ」
「はいはーい!」
「OK!よし、行こー!」
わたしの趣味の二つめは、ジュースやシロップを組み合わせて作る、ノンアルコールカクテルの製作。
毎週水曜日の放課後、先生の許可のもと部屋を借りて、バーテンダーごっこを行っている。
無理を言って、材料も冷蔵庫に保管させてもらったんだ。
そして、家庭科室。今日の参加者はわたしと、3人のお友達。
「きゅーばんマスター!さっそくだけどモスコミュール!」
元気にそう言ったのは愛歩ちゃん-大石 愛歩-。
「はい、よろこんで!でもお酒は飲めないから、代わりにこれで・・・はい、どうぞ!」
わたしは冷蔵庫からササッと材料を取り出し、氷を入れたグラスに注ぎ込んだ。
「やった〜!いただきます!・・・わあ美味しい!爽やかで大人っぽい!」
「でしょでしょ!?この前調べたレシピなんだ!名前は、確か、えーっと・・・」
「ジンジャーエールとライムジュースとガムシロップの組み合わせ、『サラトガ・クーラー』だね」
古代ちゃん-古代 ナオ-がズバリと言い当てた。
「それだ!古代ちゃん、さすが!」
「モスコミュールの代わりに、お酒をガムシロップに置き換えて作れる、このドリンクを選択した・・・と。なるほど」
愛歩ちゃんが飲んでいるドリンクをクールに分析しているような、物知り古代ちゃん。
「きゅーばんマスター!さっそくだけどモスコミュール!」
元気にそう言ったのは愛歩ちゃん-大石 愛歩-。
「はい、よろこんで!でもお酒は飲めないから、代わりにこれで・・・はい、どうぞ!」
わたしは冷蔵庫からササッと材料を取り出し、氷を入れたグラスに注ぎ込んだ。
「やった〜!いただきます!・・・わあ美味しい!爽やかで大人っぽい!」
「でしょでしょ!?この前調べたレシピなんだ!名前は、確か、えーっと・・・」
「ジンジャーエールとライムジュースとガムシロップの組み合わせ、『サラトガ・クーラー』だね」
古代ちゃん-古代 ナオ-がズバリと言い当てた。
「それだ!古代ちゃん、さすが!」
「モスコミュールの代わりに、お酒をガムシロップに置き換えて作れる、このドリンクを選択した・・・と。なるほど」
愛歩ちゃんが飲んでいるドリンクをクールに分析しているような、物知り古代ちゃん。
わたしはこの日のために用意した、秘密兵器を取り出すことにした。
「みんな注目!ちゅうもーく!今日は良い物が入ったよ・・・じゃんっ!」
「おー!何や何や?真っ赤っかなシロップや!」
むらサメちゃん-蟹乃 群鮫-が早速、秘密兵器に興味深々だ。
「これぞザクロ味の『グレナデンシロップ』!風華総合ショッピングセンターで新しく売ってたから買ったんだ!」
「ザクロ味!どんな味なんやろ!ウチにも何か作って作って!」
「任せて!このシロップで、スペシャルドリンクを考えたんだ!これとこれで・・・じゃーん!」
わたしは冷蔵庫から思うがままに材料を取り出し、混ぜ合わせ、飾り付けた。
「おおー!アイスティーがシロップで真っ赤に!しかも!カニさんとサメさんのお菓子乗っとるやん!」
「そう!これがむらサメちゃんらしさを出したオリジナルレシピ、『イメージドリンク』!さあ召し上がれ!」
「どれどれ・・・おお!いつもの紅茶に甘酸っぱさが足されとる!さっすがきゅーばんちゃんや!」
「みんな注目!ちゅうもーく!今日は良い物が入ったよ・・・じゃんっ!」
「おー!何や何や?真っ赤っかなシロップや!」
むらサメちゃん-蟹乃 群鮫-が早速、秘密兵器に興味深々だ。
「これぞザクロ味の『グレナデンシロップ』!風華総合ショッピングセンターで新しく売ってたから買ったんだ!」
「ザクロ味!どんな味なんやろ!ウチにも何か作って作って!」
「任せて!このシロップで、スペシャルドリンクを考えたんだ!これとこれで・・・じゃーん!」
わたしは冷蔵庫から思うがままに材料を取り出し、混ぜ合わせ、飾り付けた。
「おおー!アイスティーがシロップで真っ赤に!しかも!カニさんとサメさんのお菓子乗っとるやん!」
「そう!これがむらサメちゃんらしさを出したオリジナルレシピ、『イメージドリンク』!さあ召し上がれ!」
「どれどれ・・・おお!いつもの紅茶に甘酸っぱさが足されとる!さっすがきゅーばんちゃんや!」
「そして次は、このシロップを使った・・・古代ちゃんのイメージドリンク!ベースはもちろんコーヒー!」
わたしは材料を再び取り出し、並べて混ぜ合わせていく。しかし、ここからが難関だ。
古代ちゃんは苦めのコーヒーが好きだから、最後のシロップは甘くしすぎないように分量を慎重に調節する必要がある。しかし、量が少なすぎては入れる意味が無くなってしまう。
多すぎず、少なすぎず、集中して一滴、一滴・・・
わたしは材料を再び取り出し、並べて混ぜ合わせていく。しかし、ここからが難関だ。
古代ちゃんは苦めのコーヒーが好きだから、最後のシロップは甘くしすぎないように分量を慎重に調節する必要がある。しかし、量が少なすぎては入れる意味が無くなってしまう。
多すぎず、少なすぎず、集中して一滴、一滴・・・
その時だった。
辺りが突然、しんと静まり返った。
目の前にあるシロップの赤い雫は、コマ送りのようにゆっくりと滴り落ちていく。
普通ではありえない、この落ち方、いやこの感覚は-
辺りが突然、しんと静まり返った。
目の前にあるシロップの赤い雫は、コマ送りのようにゆっくりと滴り落ちていく。
普通ではありえない、この落ち方、いやこの感覚は-
「・・・?・・・ばんちゃん?きゅーばんちゃん?」
「-はっ!?」
ぼんやりと聞こえた愛歩ちゃんの声でふと我に帰ると、3人が心配そうにわたしの顔を覗き込んでいた。
「大丈夫?しばらく返事もなかったから、ウチら心配しとったで」
「もしかして、例の『符号』?」
「だ、大丈夫・・・うん、集中していると突然発動しちゃうんだ・・・あ、ちょっとシロップの量多くなっちゃったかもだけど、古代ちゃんのドリンク完成したよ!」
「ふむ・・・アメリカンコーヒーにグレナデンシロップ、レモンを入れた『カフェ・ド・シトロン』のアレンジね。そしてレモンスライスと十字に組んだストローで古代の『古』を表現、と。うん、悪くない」
古代ちゃんは相変わらずクールに分析しているようだけど、そう言いつつスマホでいろんな角度からドリンクの写真をパシャパシャ撮りまくっている。
「きゅーばんちゃん、集中してると『符号』が突然出ちゃうって大変そうだよね」
「うん、昨夜も家でコマ撮りの最中にいきなり発動しちゃって。みんなみたいに上手く使いこなせればいいんだけど・・・」
ぼんやりと聞こえた愛歩ちゃんの声でふと我に帰ると、3人が心配そうにわたしの顔を覗き込んでいた。
「大丈夫?しばらく返事もなかったから、ウチら心配しとったで」
「もしかして、例の『符号』?」
「だ、大丈夫・・・うん、集中していると突然発動しちゃうんだ・・・あ、ちょっとシロップの量多くなっちゃったかもだけど、古代ちゃんのドリンク完成したよ!」
「ふむ・・・アメリカンコーヒーにグレナデンシロップ、レモンを入れた『カフェ・ド・シトロン』のアレンジね。そしてレモンスライスと十字に組んだストローで古代の『古』を表現、と。うん、悪くない」
古代ちゃんは相変わらずクールに分析しているようだけど、そう言いつつスマホでいろんな角度からドリンクの写真をパシャパシャ撮りまくっている。
「きゅーばんちゃん、集中してると『符号』が突然出ちゃうって大変そうだよね」
「うん、昨夜も家でコマ撮りの最中にいきなり発動しちゃって。みんなみたいに上手く使いこなせればいいんだけど・・・」
ここにいる友達も、愛歩ちゃんは時間を操る『リモコン』、古代ちゃんは人を意のままに動かす『スニーク・ユニーク』、むらサメちゃんは身体が大きくなる『巨躯の呼び声』・・・みんなそれぞれの『符号』の制御に成功している。
このままでは、わたしはみんなに置いてけぼりにされている気がしてならない。
このままでは、わたしはみんなに置いてけぼりにされている気がしてならない。
「-それじゃ、今日のバーテンダーごっこはここで閉店!また来週!」
制御できない『符号』への焦りを隠しつつ、わたしたちは解散し、それぞれの帰路へと就いた。
学校を東へ、東へと進んだ先が、わたしの家だ。
その道をひとり歩く最中、わたしはふと立ち止まって振り返り、空を見た。
「わぁ、綺麗・・・」
思わず声が出てしまうほど美しい、オレンジの夕日。この時間帯の空が、わたしの思う最高の美しさ。心が洗われる、と言うのかな。
しばらく夕日を見ていたら、焦りは気がつくとどこかへ消え去り、勇気が湧いてくる気がした。『符号』は必ず制御できるようになる、いや、してみせる!わたしは心の中でそう強く決意した。
学校を東へ、東へと進んだ先が、わたしの家だ。
その道をひとり歩く最中、わたしはふと立ち止まって振り返り、空を見た。
「わぁ、綺麗・・・」
思わず声が出てしまうほど美しい、オレンジの夕日。この時間帯の空が、わたしの思う最高の美しさ。心が洗われる、と言うのかな。
しばらく夕日を見ていたら、焦りは気がつくとどこかへ消え去り、勇気が湧いてくる気がした。『符号』は必ず制御できるようになる、いや、してみせる!わたしは心の中でそう強く決意した。
「九・・・」
背後から誰かの声が聞こえたような。わたしはおもむろに振り返るも、誰もいない。視界に見えるのは、自宅までの道と、長く伸びるわたしの影-
背後から誰かの声が聞こえたような。わたしはおもむろに振り返るも、誰もいない。視界に見えるのは、自宅までの道と、長く伸びるわたしの影-
「こ〜このっ」
「うひゃあっ!?」
再び聞こえた声とともにわたしの影がうねり、次の瞬間にそこから人のような何かがぴょんと飛び出した。
「うひゃあっ!?」
再び聞こえた声とともにわたしの影がうねり、次の瞬間にそこから人のような何かがぴょんと飛び出した。
その「何か」・・・人、というよりも人の形をした存在。真白い肌に真紅の眼差し、涼しげな格好の上に赤マントと赤いマフラー、猫のような耳に二又の尻尾・・・
「の、のじゃちゃん!!びっくりしてひっくり返るかと思った・・・」
のじゃちゃん。
この町に昔から住む怪異、猫のような人のような存在、通称のじゃロリ猫だ。わたしと同じくらいの年齢に見えるけど、実はものすごく長生きしているらしい。
「驚かせてすまんな、九。お主は昔から夕焼け空が好きじゃのう」
「流石のじゃちゃん、よく知ってるね。それで、どうしてここに?」
「お主が浮かない顔をしていたんで、世話を焼きに来た次第じゃ。もっとも、夕日を眺めてから幾分マシな顔になったようじゃがの。どうやら、『符号』の制御が上手くできていないようじゃな」
のじゃちゃんの言葉は、的の中心を正確に射抜く矢のように、わたしの悩みをズバリ見抜いた。
「そ、そこまでわかるの?」
「うむ。ワシにわからん事などない。長年『符号保持者』を数えきれんほど見てきたからのう。どうじゃ九、ワシが上手く扱えるよう手ほどきしてやろうか?」
「本当に!?」
手助けをしてもらえるなら、まさに渡りに船だ。ふと、昨夜お母さんが言っていた「きっとピッタリな人が来る」を思い出した。
「もしかして、お母さんと何か・・・?」
「ん〜?さあな、知らんのう。とにかく、制御の訓練にちょうど良い場所を知っておる。あの公園じゃ」
のじゃちゃんが足にグッと力を入れると、バネのように大きく跳躍し、公園のある方向へ飛んでいった。
「の、のじゃちゃん!!びっくりしてひっくり返るかと思った・・・」
のじゃちゃん。
この町に昔から住む怪異、猫のような人のような存在、通称のじゃロリ猫だ。わたしと同じくらいの年齢に見えるけど、実はものすごく長生きしているらしい。
「驚かせてすまんな、九。お主は昔から夕焼け空が好きじゃのう」
「流石のじゃちゃん、よく知ってるね。それで、どうしてここに?」
「お主が浮かない顔をしていたんで、世話を焼きに来た次第じゃ。もっとも、夕日を眺めてから幾分マシな顔になったようじゃがの。どうやら、『符号』の制御が上手くできていないようじゃな」
のじゃちゃんの言葉は、的の中心を正確に射抜く矢のように、わたしの悩みをズバリ見抜いた。
「そ、そこまでわかるの?」
「うむ。ワシにわからん事などない。長年『符号保持者』を数えきれんほど見てきたからのう。どうじゃ九、ワシが上手く扱えるよう手ほどきしてやろうか?」
「本当に!?」
手助けをしてもらえるなら、まさに渡りに船だ。ふと、昨夜お母さんが言っていた「きっとピッタリな人が来る」を思い出した。
「もしかして、お母さんと何か・・・?」
「ん〜?さあな、知らんのう。とにかく、制御の訓練にちょうど良い場所を知っておる。あの公園じゃ」
のじゃちゃんが足にグッと力を入れると、バネのように大きく跳躍し、公園のある方向へ飛んでいった。
わたしも彼女の方向にすぐに追いかけ、到着したのは青空一丁目公園。
この青空町に最も古くからあるらしい広い公園だけど、最近は危険だという理由で遊具のほとんどは撤去されてしまっている。
「どれ、ここでお主の『符号』を鍛えてやろう。要となるのはコ・レ・じゃ」
公園で待っていたのじゃちゃんが左手で指差すのは、敷地内に生えている一番大きな木。よくある一般的な住宅よりも高くそびえており、この公園のシンボルのようなものだ。でも、この大木でいったい何をするのだろう。まさか、てっぺんまで登れと・・・?
「カカカ、木登りするとでも考えておるのか?それはハズレじゃな。正解は・・・こうじゃ」
のじゃちゃんの赤いマフラーがひとりでに動き出し、巨大な左拳を形作り、わたしの方へ向いていく。
「えっ・・・まさか!?」
「そして、こうじゃっ!」
マフラーの赤い拳は、こちらに向かうと見せかけて、真横の大木へと突っ込んだ。
ドゴンッ、と鈍い音が鳴り響き、葉っぱが何枚か落ちていく。
「さらに、こうじゃぁっ!!」
赤い拳は平手へと変え、ブンッと空を薙ぎ払う。
途端につむじ風が発生し、落ちていこうとしていた葉が次々と風に乗っていく。
「お主の『符号』で、風に舞う葉を避けきってみるがいい!」
「よし・・・!」
わたしは渦を巻いて迫り来る木の葉を前に、集中力を高めた。
「今だっ!!」
この青空町に最も古くからあるらしい広い公園だけど、最近は危険だという理由で遊具のほとんどは撤去されてしまっている。
「どれ、ここでお主の『符号』を鍛えてやろう。要となるのはコ・レ・じゃ」
公園で待っていたのじゃちゃんが左手で指差すのは、敷地内に生えている一番大きな木。よくある一般的な住宅よりも高くそびえており、この公園のシンボルのようなものだ。でも、この大木でいったい何をするのだろう。まさか、てっぺんまで登れと・・・?
「カカカ、木登りするとでも考えておるのか?それはハズレじゃな。正解は・・・こうじゃ」
のじゃちゃんの赤いマフラーがひとりでに動き出し、巨大な左拳を形作り、わたしの方へ向いていく。
「えっ・・・まさか!?」
「そして、こうじゃっ!」
マフラーの赤い拳は、こちらに向かうと見せかけて、真横の大木へと突っ込んだ。
ドゴンッ、と鈍い音が鳴り響き、葉っぱが何枚か落ちていく。
「さらに、こうじゃぁっ!!」
赤い拳は平手へと変え、ブンッと空を薙ぎ払う。
途端につむじ風が発生し、落ちていこうとしていた葉が次々と風に乗っていく。
「お主の『符号』で、風に舞う葉を避けきってみるがいい!」
「よし・・・!」
わたしは渦を巻いて迫り来る木の葉を前に、集中力を高めた。
「今だっ!!」
『符号』が発動した感覚だ。視界が薄暗くなり、猛烈な風を纏う葉は、止まっては動く、止まっては動くを小刻みに繰り返している。
「(これなら・・・いける!)」
足元に向かってくる葉を、さっと跳んでかわす。次に顔に飛んでくる葉を、小さく屈んで避ける。
3枚、4枚、5枚、上から下から、忍者の手裏剣のように飛び交う木の葉を、わたしは力の限りかわしていった。この力を使えば、どんな方向から来ても-
「(これなら・・・いける!)」
足元に向かってくる葉を、さっと跳んでかわす。次に顔に飛んでくる葉を、小さく屈んで避ける。
3枚、4枚、5枚、上から下から、忍者の手裏剣のように飛び交う木の葉を、わたしは力の限りかわしていった。この力を使えば、どんな方向から来ても-
-後ろじゃ-
「(えっ!?)」
-この瞬間に聞こえないはずの声を、どこからか感じとったような・・・
すぐに振り向き、後ろを確認すると、見逃していた一枚の葉が、額の先、1、2cmほどの距離に-
-この瞬間に聞こえないはずの声を、どこからか感じとったような・・・
すぐに振り向き、後ろを確認すると、見逃していた一枚の葉が、額の先、1、2cmほどの距離に-
「あいたっ!」
気が付くと、元の感覚に戻っていた。『符号』は解除されたようだ。そして、額には軽い痛みを感じた。避けそこねた木の葉がぶつかったようだ。
のじゃちゃんは空中に腰掛け、マフラーをメモ用紙代わりに、見えないペンで何かを書いているようなジェスチャーを見せていた。
「ふむふむ。お主の『符号』はやはり、時間干渉のようじゃの。そして、完全に時間を遅らせるわけではなく、飛ばし飛ばしのようじゃ。だいたい1秒を10分割ぐらいかのう」
「もしかして、のじゃちゃんも分かるの、あの感覚を・・・?」
「ワシは怪異。時間も空間も全てお見通しじゃ。もっとも、見えも聞こえもせんが・・・『感じる』のじゃ」
「さすが怪異だね。背後は見落としてたなぁ」
「時間干渉を最大限優位に使い、上下も左右も、前後もくまなく見渡すがいい。そして、お主の集中力はまだ極限ではなさそうじゃな。まだいけるかの、九?」
「うん、もちろん!もう一度お願いします!」
「うむ・・・よかろう」
のじゃちゃんは再度マフラーを拳に変え、大木を思い切り殴り、風を起こす。
今落ちてきた木の葉と、先程まで舞っていた木の葉、合わせて先の2倍ほどの数の葉が再びつむじ風に乗って迫り来る。
「もう一度・・・集中して・・・そこだっ!」
気が付くと、元の感覚に戻っていた。『符号』は解除されたようだ。そして、額には軽い痛みを感じた。避けそこねた木の葉がぶつかったようだ。
のじゃちゃんは空中に腰掛け、マフラーをメモ用紙代わりに、見えないペンで何かを書いているようなジェスチャーを見せていた。
「ふむふむ。お主の『符号』はやはり、時間干渉のようじゃの。そして、完全に時間を遅らせるわけではなく、飛ばし飛ばしのようじゃ。だいたい1秒を10分割ぐらいかのう」
「もしかして、のじゃちゃんも分かるの、あの感覚を・・・?」
「ワシは怪異。時間も空間も全てお見通しじゃ。もっとも、見えも聞こえもせんが・・・『感じる』のじゃ」
「さすが怪異だね。背後は見落としてたなぁ」
「時間干渉を最大限優位に使い、上下も左右も、前後もくまなく見渡すがいい。そして、お主の集中力はまだ極限ではなさそうじゃな。まだいけるかの、九?」
「うん、もちろん!もう一度お願いします!」
「うむ・・・よかろう」
のじゃちゃんは再度マフラーを拳に変え、大木を思い切り殴り、風を起こす。
今落ちてきた木の葉と、先程まで舞っていた木の葉、合わせて先の2倍ほどの数の葉が再びつむじ風に乗って迫り来る。
「もう一度・・・集中して・・・そこだっ!」
再び、『符号』の感覚だ。
さっきよりも、風に舞う木の葉がより細かく動いて見える。
のじゃちゃんに言われたとおり、上下左右、そして前後を見渡して、近づいてくる葉を一枚一枚確認する。これなら-
「(・・・あれっ!?)」
体の反応が鈍い。わたしは、呼吸が整っていないことに気付いた。
思い返せば、先程の符号発動から今の発動まで現実ではほんのわずかしか経過していない。一度の発動で、知らぬ間に激しく体力を消費していたんだ。
こんな短いスパンで連発したら、たぶん-
さっきよりも、風に舞う木の葉がより細かく動いて見える。
のじゃちゃんに言われたとおり、上下左右、そして前後を見渡して、近づいてくる葉を一枚一枚確認する。これなら-
「(・・・あれっ!?)」
体の反応が鈍い。わたしは、呼吸が整っていないことに気付いた。
思い返せば、先程の符号発動から今の発動まで現実ではほんのわずかしか経過していない。一度の発動で、知らぬ間に激しく体力を消費していたんだ。
こんな短いスパンで連発したら、たぶん-
「いたたたっ!??」
感覚が元に戻り、両手両足に葉っぱが命中するのを感じた。ほんのわずかな傷がつく程度だけど、あちこちに次々当たるとさすがに堪えるものがあり、わたしは片膝をついた。
「どうじゃ?ただの木の葉といえども、この速度にこの量では来るものがあるじゃろう」
「うう、これは結構痛い・・・」
「今の感覚は、ふむ、1秒の20分割くらいじゃな。集中力は上がっておるが、呼吸が整わんうちはまだまだじゃな。『スロー』モーションならぬ、『ストップ』モーションといったところかのう」
「ストップモーション・・・コマ撮り・・・それだっ!それだよのじゃちゃん!」
「んっ?」
わたしはあることを閃いて、立ち上がった。
「のじゃちゃん、もう一度お願い!今ならどんな方向から葉っぱが来ても避けられる気がする!」
「ぬぬっ、どうしたどうした。目がキラキラしておるぞ?」
「できる!わたしはできるんだ!」
「・・・どうやら吹っ切れたようじゃの。九、それではワシも、さらに本気で行かせてもらおう」
目つきをより鋭くしたのじゃちゃんが、構えに入る。
「いつでもいいよ!」
「では・・・」
のじゃちゃんのマフラーの拳は、先の2回よりもより激しい音を立てて、大木の幹に突っ込んだ。
あまりの衝撃に、すべての葉っぱが木から舞い落ちる。
「これでどうじゃああっ!!!」
のじゃちゃんのマフラーが2本の腕に分かれ、2つのつむじ風を作り、大量の葉っぱを巻き上げる。
わたしは物怖じせず、深呼吸をして、両手の人差し指と親指で、四角形を作った。
「来る・・・!」
わたしが閃いたこと、それはコマ撮り撮影の際の集中力を、この場で再現することだった。
指で組んだカメラのフレームを覗き込み、襲い来るつむじ風を画角に納め-
感覚が元に戻り、両手両足に葉っぱが命中するのを感じた。ほんのわずかな傷がつく程度だけど、あちこちに次々当たるとさすがに堪えるものがあり、わたしは片膝をついた。
「どうじゃ?ただの木の葉といえども、この速度にこの量では来るものがあるじゃろう」
「うう、これは結構痛い・・・」
「今の感覚は、ふむ、1秒の20分割くらいじゃな。集中力は上がっておるが、呼吸が整わんうちはまだまだじゃな。『スロー』モーションならぬ、『ストップ』モーションといったところかのう」
「ストップモーション・・・コマ撮り・・・それだっ!それだよのじゃちゃん!」
「んっ?」
わたしはあることを閃いて、立ち上がった。
「のじゃちゃん、もう一度お願い!今ならどんな方向から葉っぱが来ても避けられる気がする!」
「ぬぬっ、どうしたどうした。目がキラキラしておるぞ?」
「できる!わたしはできるんだ!」
「・・・どうやら吹っ切れたようじゃの。九、それではワシも、さらに本気で行かせてもらおう」
目つきをより鋭くしたのじゃちゃんが、構えに入る。
「いつでもいいよ!」
「では・・・」
のじゃちゃんのマフラーの拳は、先の2回よりもより激しい音を立てて、大木の幹に突っ込んだ。
あまりの衝撃に、すべての葉っぱが木から舞い落ちる。
「これでどうじゃああっ!!!」
のじゃちゃんのマフラーが2本の腕に分かれ、2つのつむじ風を作り、大量の葉っぱを巻き上げる。
わたしは物怖じせず、深呼吸をして、両手の人差し指と親指で、四角形を作った。
「来る・・・!」
わたしが閃いたこと、それはコマ撮り撮影の際の集中力を、この場で再現することだった。
指で組んだカメラのフレームを覗き込み、襲い来るつむじ風を画角に納め-
「すべてをコマ送りに・・・『静動-ストップ・モーション-』!!!」
三度、コマ送りの感覚に。
しかし、今までと違う。
風に乗って荒れ狂う葉っぱは、さっきの3倍ほどの細かさで、ほとんど止まっているように見えるほどだった。
今のわたしは、全方向のあらゆる葉っぱを捉えることができた。
右、左、前、さらに右、上、左、そして後ろ、下・・・すべての葉を次々かわしていくことができた。
これなら、いける!
ついに、わたしも『符号』の力をー
しかし、今までと違う。
風に乗って荒れ狂う葉っぱは、さっきの3倍ほどの細かさで、ほとんど止まっているように見えるほどだった。
今のわたしは、全方向のあらゆる葉っぱを捉えることができた。
右、左、前、さらに右、上、左、そして後ろ、下・・・すべての葉を次々かわしていくことができた。
これなら、いける!
ついに、わたしも『符号』の力をー
「(!?)」
その瞬間、確かに目に入ったものがあった。
風の勢いで舞っているのは、葉っぱだけではなかった。
木から生えていた大きな枝が風圧で折れ、巻き上げられているのが見える。
そして、その枝は、公園から外れた道に落ちようとしている。
薄暗い視界の中、目を凝らした先の道に歩いていたのは、知っている2人の女の子。
あの子の『符号』なら、きっと・・・でも、この速さで落ちてくる枝に普通の人が反応できるはずが・・・
「(そうだ・・・今はこれしか、ない!どうか、届いて・・・)」
わたしは目を閉じ、意識を集中させて心の中で言葉を紡いだ。
怪異ののじゃちゃんなら、きっと感じとってくれると信じたい。
でも、そろそろ、限界かも・・・集中力が、これ以上持たない、解除するんだ・・・!
風の勢いで舞っているのは、葉っぱだけではなかった。
木から生えていた大きな枝が風圧で折れ、巻き上げられているのが見える。
そして、その枝は、公園から外れた道に落ちようとしている。
薄暗い視界の中、目を凝らした先の道に歩いていたのは、知っている2人の女の子。
あの子の『符号』なら、きっと・・・でも、この速さで落ちてくる枝に普通の人が反応できるはずが・・・
「(そうだ・・・今はこれしか、ない!どうか、届いて・・・)」
わたしは目を閉じ、意識を集中させて心の中で言葉を紡いだ。
怪異ののじゃちゃんなら、きっと感じとってくれると信じたい。
でも、そろそろ、限界かも・・・集中力が、これ以上持たない、解除するんだ・・・!
「はっ!!?」
元の感覚に戻ると、つむじ風は弱まり、葉っぱはすべて辺りに落ちていた。
わたしはすぐに、あの枝の落ちていった方向に目をやった。
元の感覚に戻ると、つむじ風は弱まり、葉っぱはすべて辺りに落ちていた。
わたしはすぐに、あの枝の落ちていった方向に目をやった。
そこに見えたのは、赤い、
赤い、巨大な腕。
のじゃちゃんのマフラーの腕が、公園の外まで伸び、大きな枝をしっかりと掴んでいた。
「危ないところじゃったのう」
のじゃちゃんはその一言とともに、赤い拳で枝をグシャリと握り潰し、元のマフラーの形状に引っ込めた。
その向こうにいたのは、ぐれあちゃん-虹富 玲亜-、そして彼女を守るように立っていた初ちゃん-音羽 初-だった。
「玲亜、怪我はない?」
「うん、大丈夫」
2人が去っていくのを見て、わたしは胸をなでおろした。
本当に本当に、無事で良かった・・・それにしても、この稽古は思っていた以上に危険だ。
「危ないところじゃったのう」
のじゃちゃんはその一言とともに、赤い拳で枝をグシャリと握り潰し、元のマフラーの形状に引っ込めた。
その向こうにいたのは、ぐれあちゃん-虹富 玲亜-、そして彼女を守るように立っていた初ちゃん-音羽 初-だった。
「玲亜、怪我はない?」
「うん、大丈夫」
2人が去っていくのを見て、わたしは胸をなでおろした。
本当に本当に、無事で良かった・・・それにしても、この稽古は思っていた以上に危険だ。
「もうっ、のじゃちゃん、危なかったよ!」
「カーッカッカッカ!!流石じゃ九!『符号』の力で、自分だけでなく周囲まで気を配れるとは、まさしくワシの思惑通りじゃ!」
のじゃちゃんは最初からこれを見越していたように高笑いを浮かべるが、わたしは疑念が晴れない。
「むむむっ・・・ほんとうに??」
「・・・冗談じゃ。すまんかったのう、完全にワシの見落としじゃ。それにしても、『符号』の発動中に念を送るとはたまげたものじゃ」
「うん、のじゃちゃんがなんでもお見通しって言ってたから、わたしの方から心の声で訴えかけてみたんだ。伝わってて良かったよ・・・」
「うむ、あの時確かに感じとった。玲亜と初が危ない、2人を助けてほしい、とな」
「これでひとまず、わたしの『符号』も・・・あれっ、力が」
わたしは極度の集中で疲れ切ってしまい、力が抜けるようにその場にぱたりと座り込んだ。
「ふむ、最大限の力なら、1秒を60分割して視認できておるようじゃ。ただし、精神と身体に強い負担をかけとるようじゃから、連続使用は現実時間でいう1分が限界のようじゃな。気をつけるが良い」
「うん。分析ありがとう、のじゃちゃん」
「カーッカッカッカ!!流石じゃ九!『符号』の力で、自分だけでなく周囲まで気を配れるとは、まさしくワシの思惑通りじゃ!」
のじゃちゃんは最初からこれを見越していたように高笑いを浮かべるが、わたしは疑念が晴れない。
「むむむっ・・・ほんとうに??」
「・・・冗談じゃ。すまんかったのう、完全にワシの見落としじゃ。それにしても、『符号』の発動中に念を送るとはたまげたものじゃ」
「うん、のじゃちゃんがなんでもお見通しって言ってたから、わたしの方から心の声で訴えかけてみたんだ。伝わってて良かったよ・・・」
「うむ、あの時確かに感じとった。玲亜と初が危ない、2人を助けてほしい、とな」
「これでひとまず、わたしの『符号』も・・・あれっ、力が」
わたしは極度の集中で疲れ切ってしまい、力が抜けるようにその場にぱたりと座り込んだ。
「ふむ、最大限の力なら、1秒を60分割して視認できておるようじゃ。ただし、精神と身体に強い負担をかけとるようじゃから、連続使用は現実時間でいう1分が限界のようじゃな。気をつけるが良い」
「うん。分析ありがとう、のじゃちゃん」
「さて・・・ところでお主のその『符号』、いったい何のため使えるか、わかっておるかの?」
「えっ?使い方?」
「そうじゃ。考えてみるが良い。常人を超えた集中力によって、時間干渉を可能とする『符号』、その力でお主に出来ること、それは・・・」
のじゃちゃんが目を鋭くしてわたしを見つめ、ギザギザの歯をギラリと剥き出す。
「それは・・・?」
わたしは、『符号』を使いこなすことには成功したが、それを何に使うかは特に思いついていなかった。
この力で、わたしに出来ること?
わたしの『符号』が、役に立つ時?
それは・・・
「えっ?使い方?」
「そうじゃ。考えてみるが良い。常人を超えた集中力によって、時間干渉を可能とする『符号』、その力でお主に出来ること、それは・・・」
のじゃちゃんが目を鋭くしてわたしを見つめ、ギザギザの歯をギラリと剥き出す。
「それは・・・?」
わたしは、『符号』を使いこなすことには成功したが、それを何に使うかは特に思いついていなかった。
この力で、わたしに出来ること?
わたしの『符号』が、役に立つ時?
それは・・・
「・・・ドッジボールで、ボールを避けまくれる、とか?」
「カカカカカ!その通りじゃ!『符号』の力で、あらゆる球を難なくかわす!大活躍できるかも知れぬのう!」
「他にも他にも、生き物の動きを観察して、コマ撮りのアイデアにもできるかも!」
「そうじゃ、それもあるのう!『符号』の可能性は無限大じゃ!」
「あっ!使い道まだありそう!たとえば、えっとえっと」
「他にも他にも、生き物の動きを観察して、コマ撮りのアイデアにもできるかも!」
「そうじゃ、それもあるのう!『符号』の可能性は無限大じゃ!」
「あっ!使い道まだありそう!たとえば、えっとえっと」
「・・・やはり、--に続きこの子もじゃな。--よ」
「えっ?」
「ん、なーんでも」
今、のじゃちゃんが何か呟いたような。
誰かの名前を言ったようだけど、その部分だけなぜかはっきり聞こえなかった。だけど、不思議と聞き慣れている、という感覚だけがわずかに残る。
「ともかく、これでお主は立派な『符号保持者』じゃ。そしてその『符号』の名前も、決まったようじゃの」
「うん!意識しなくても自然と口から出てきたんだ!」
「なるほどのう。さて、ところで最近感じ取ったところによると、お主の周りには、自身が『符号保持者』でありながら、それに気付いとらん子もおるようじゃ。ワシが稽古をつけてやるかのう」
「うん、でものじゃちゃん、乱暴はしないであげてね。今回はなんとか被害がなくて済んだけど、わたしがいない時はどうなるかわからないからね」
「うむ、承知した。次からは被害を抑える方法でも考えておこう。人間はワシのように不死ではないからのう」
「えっ?」
「ん、なーんでも」
今、のじゃちゃんが何か呟いたような。
誰かの名前を言ったようだけど、その部分だけなぜかはっきり聞こえなかった。だけど、不思議と聞き慣れている、という感覚だけがわずかに残る。
「ともかく、これでお主は立派な『符号保持者』じゃ。そしてその『符号』の名前も、決まったようじゃの」
「うん!意識しなくても自然と口から出てきたんだ!」
「なるほどのう。さて、ところで最近感じ取ったところによると、お主の周りには、自身が『符号保持者』でありながら、それに気付いとらん子もおるようじゃ。ワシが稽古をつけてやるかのう」
「うん、でものじゃちゃん、乱暴はしないであげてね。今回はなんとか被害がなくて済んだけど、わたしがいない時はどうなるかわからないからね」
「うむ、承知した。次からは被害を抑える方法でも考えておこう。人間はワシのように不死ではないからのう」
「-それじゃ、今日は付き合ってくれてありがとう、のじゃちゃん!」
「帰り道は気をつけるんじゃぞ。疲れとるんじゃから、しっかり休みを取るが良い」
のじゃちゃんはそう言うと、わたしの瞬きの瞬間にどこかに消えていった。
それにしてもあの大木、葉っぱが全部落ちちゃって、悪いことしたなぁ・・・
「帰り道は気をつけるんじゃぞ。疲れとるんじゃから、しっかり休みを取るが良い」
のじゃちゃんはそう言うと、わたしの瞬きの瞬間にどこかに消えていった。
それにしてもあの大木、葉っぱが全部落ちちゃって、悪いことしたなぁ・・・
それから、わたしは帰宅し、場面は慶光院家の4人が囲む食卓。
さっそく家族に、わたしの『符号』を話すことにした。
「我がシュヴェスター、九!?ついに『符号』の力を己が手に!これぞヴンダーバール、まさにファーベルハフト・・・!」
お姉ちゃんが、芝居がかったような口調で褒めてくれた。ドイツ語はよくわからないけど、中学生になると多用したくなるらしい・・・
「うん!お姉ちゃんにも負けないような立派な『符号』だよ!いつかお姉ちゃんの助けにもなれたらいいな!」
「私の助けに・・・!九〜〜!もうほんと可愛いんだから〜!撫で回しちゃう!!」
「数秒前と口調が完全に別人だよ、お姉ちゃ・・・痛い痛い、ちょっと強いよ」
「士、なでなでは優しくね。九、お母さんもその話、興味しかないわ!」
「父さんにも聞かせてもらおうかな」
「うん!実は、公園で『符号』の稽古をつけてもらってたんだ!ちょっと大変だったけど、おかげでうまく扱えるようになったんだからね!」
さっそく家族に、わたしの『符号』を話すことにした。
「我がシュヴェスター、九!?ついに『符号』の力を己が手に!これぞヴンダーバール、まさにファーベルハフト・・・!」
お姉ちゃんが、芝居がかったような口調で褒めてくれた。ドイツ語はよくわからないけど、中学生になると多用したくなるらしい・・・
「うん!お姉ちゃんにも負けないような立派な『符号』だよ!いつかお姉ちゃんの助けにもなれたらいいな!」
「私の助けに・・・!九〜〜!もうほんと可愛いんだから〜!撫で回しちゃう!!」
「数秒前と口調が完全に別人だよ、お姉ちゃ・・・痛い痛い、ちょっと強いよ」
「士、なでなでは優しくね。九、お母さんもその話、興味しかないわ!」
「父さんにも聞かせてもらおうかな」
「うん!実は、公園で『符号』の稽古をつけてもらってたんだ!ちょっと大変だったけど、おかげでうまく扱えるようになったんだからね!」
「やっぱり、・・・みたいね」
「ああ、相変わらずだな・・・」
お父さんとお母さんが、小声で何か交わしていた。
「どうかしたの?」
「ううん。ところで九、『符号』の名前は決まった?」
その質問を待っていましたとばかりに、わたしはみんなに『符号』の名を発表することにした。
「ああ、相変わらずだな・・・」
お父さんとお母さんが、小声で何か交わしていた。
「どうかしたの?」
「ううん。ところで九、『符号』の名前は決まった?」
その質問を待っていましたとばかりに、わたしはみんなに『符号』の名を発表することにした。
「もちろん!『静けさ』と『動き』の組み合わせ、そしてわたしの大好きなものにもかかっているんだ!
その名も-」
その名も-」
Case 1
THE END
THE END