第1節:試練の樹
戻りたかった、みんなで遊んでいたあの頃に。
許せなかった、あの子を苦しめるこの世界が。
だから決めたんだ、「神様になろう」って。
許せなかった、あの子を苦しめるこの世界が。
だから決めたんだ、「神様になろう」って。
校庭には大きなサクラの樹が植えてある。
この樹には神様が住んでいて、その樹の根本に願い事を書いたものを埋めると「ひとつだけ願いが叶う樹」。
ただし、引き換えとして卒業までにその生徒へ、何かしら試練を与えるのだという。
この樹には神様が住んでいて、その樹の根本に願い事を書いたものを埋めると「ひとつだけ願いが叶う樹」。
ただし、引き換えとして卒業までにその生徒へ、何かしら試練を与えるのだという。
すみれが丘小“七不思議”のひとつ
『神様のいるサクラの樹』
『神様のいるサクラの樹』
「現希(うつつき)ナオ」、今日から6年生。
4月1日、新学期で早く帰るその日、校庭に植えられている大きなサクラの樹の前で、人差し指にはめた大切な指輪を触りながら、感傷に浸っていた。
彼女は心に空いた穴の淵をなぞることで、母の面影を追う。
母は、ナオがまだ幼いころに失踪していた。
「お母さんに会えるかな。」
ナオは、背負っていた赤いランドセルを下ろし、中から貰い物のお菓子の箱とスコップを取り出すと、サクラの樹の根元を掘り出した。
箱には、「おかあさんにあいたい」と書いたノートの切れ端が入っている。
迷信なんて信じる類じゃないナオだが、この日ばかりはウワサに想いを委ねたいと考えたのだ。
4月1日、新学期で早く帰るその日、校庭に植えられている大きなサクラの樹の前で、人差し指にはめた大切な指輪を触りながら、感傷に浸っていた。
彼女は心に空いた穴の淵をなぞることで、母の面影を追う。
母は、ナオがまだ幼いころに失踪していた。
「お母さんに会えるかな。」
ナオは、背負っていた赤いランドセルを下ろし、中から貰い物のお菓子の箱とスコップを取り出すと、サクラの樹の根元を掘り出した。
箱には、「おかあさんにあいたい」と書いたノートの切れ端が入っている。
迷信なんて信じる類じゃないナオだが、この日ばかりはウワサに想いを委ねたいと考えたのだ。
少女は夢を見た。
校庭にある綺麗なサクラの樹の下で、大好きな母と一緒にいる夢。
「お母さん、どこか行っちゃうの?」
少女は、不思議そうに尋ねた。
母は娘の方を見て、“何か”を伝えようと口を動かす。
そして涙を浮かばせ、微笑んでいた。
不思議なことに、ナオは母の顔を覚えていた。
もう何年も会っていないはずなのに、最後に顔を見たのは物心ついたときかも怪しいのに、意外にもその顔は、鮮明に頭の中で思い浮かんだ。
それが一層、起きたばかりのナオの心に、錆びついた大きな鉛のようなものを抱かせた。
(お母さんを探さなきゃ)
なぜだか、そんな焦りを感じた。
校庭にある綺麗なサクラの樹の下で、大好きな母と一緒にいる夢。
「お母さん、どこか行っちゃうの?」
少女は、不思議そうに尋ねた。
母は娘の方を見て、“何か”を伝えようと口を動かす。
そして涙を浮かばせ、微笑んでいた。
不思議なことに、ナオは母の顔を覚えていた。
もう何年も会っていないはずなのに、最後に顔を見たのは物心ついたときかも怪しいのに、意外にもその顔は、鮮明に頭の中で思い浮かんだ。
それが一層、起きたばかりのナオの心に、錆びついた大きな鉛のようなものを抱かせた。
(お母さんを探さなきゃ)
なぜだか、そんな焦りを感じた。
サクラの樹の周りにはシロツメグクサが敷かれている。
校庭のこの部分だけはなぜか開花が早く、この時期にはすでにポツリポツリと数輪の白い花が咲いていた。
やがて春真っただ中になると白い絨毯のようになるその一帯は、日当たりがいいこともあって一部ののんびりとした生徒には人気のスポットであり、教師もたまにこっそりと昼寝をすることで有名だった。
ナオもよくここで本や図鑑を読んで過ごしていた。
(ここにしよう)
白絨毯の中には一部だけ赤いエリアがある。
それはシロツメクサの赤バージョンのような見た目であり、ナオはこの花が好きだった。
なので、願い事を埋める場所もできるだけ、この花の近くと決めていた。
校庭のこの部分だけはなぜか開花が早く、この時期にはすでにポツリポツリと数輪の白い花が咲いていた。
やがて春真っただ中になると白い絨毯のようになるその一帯は、日当たりがいいこともあって一部ののんびりとした生徒には人気のスポットであり、教師もたまにこっそりと昼寝をすることで有名だった。
ナオもよくここで本や図鑑を読んで過ごしていた。
(ここにしよう)
白絨毯の中には一部だけ赤いエリアがある。
それはシロツメクサの赤バージョンのような見た目であり、ナオはこの花が好きだった。
なので、願い事を埋める場所もできるだけ、この花の近くと決めていた。
しばらくしてナオは、小6の女児にしてはそれなりに深い穴を掘った。
あと、もうひと踏ん張りで箱を埋められるサイズになろうかというとき、彼女は気づいた。
穴の底に別の箱の角がチラっと見えている。
「あれ、別の人がもう埋めちゃってる…?」
木のウワサは、入学当時から有名だったので先客がいてもおかしくはない。
ナオもそれは分かっていたので、別の方向に堀りはじめようとした。
だが、その直後にナオはすぐ手を止めた。
『ゴトッ!!』
箱から音がした。
「え・・・ッ!?」
『ガタガタッ!!ゴトッ!』
気のせいではない、確実に何かが箱の中で動いている。
彼女は咄嗟に、誰かが悪戯で生き物を埋めているのではと考え、「急いで助けないと」と焦った。
埋もれていた箱を引っ張り出すと、それは大きな裁縫箱だった。
ただし、奇妙なことにその裁縫箱は長い布でグルグルと巻かれており、まるで中身を封印しているかのような不気味さをナオに感じ取らせた。
『ゴトッゴトッ!!』
箱の中からはやはり音がする。
「やっぱり中に何かいるんだわ…ッ!」
ナオは刹那に感じた不気味さを拭いさり、急いで裁縫箱の蓋を開けようとした。巻かれていた布をほどき、縁に指をかけ力を込める。蓋は固く閉ざされていたが、中にいる「何か」が外に出ようと力を加えたのか、「ゴガンッ」という鈍い音とともに開いた。
あと、もうひと踏ん張りで箱を埋められるサイズになろうかというとき、彼女は気づいた。
穴の底に別の箱の角がチラっと見えている。
「あれ、別の人がもう埋めちゃってる…?」
木のウワサは、入学当時から有名だったので先客がいてもおかしくはない。
ナオもそれは分かっていたので、別の方向に堀りはじめようとした。
だが、その直後にナオはすぐ手を止めた。
『ゴトッ!!』
箱から音がした。
「え・・・ッ!?」
『ガタガタッ!!ゴトッ!』
気のせいではない、確実に何かが箱の中で動いている。
彼女は咄嗟に、誰かが悪戯で生き物を埋めているのではと考え、「急いで助けないと」と焦った。
埋もれていた箱を引っ張り出すと、それは大きな裁縫箱だった。
ただし、奇妙なことにその裁縫箱は長い布でグルグルと巻かれており、まるで中身を封印しているかのような不気味さをナオに感じ取らせた。
『ゴトッゴトッ!!』
箱の中からはやはり音がする。
「やっぱり中に何かいるんだわ…ッ!」
ナオは刹那に感じた不気味さを拭いさり、急いで裁縫箱の蓋を開けようとした。巻かれていた布をほどき、縁に指をかけ力を込める。蓋は固く閉ざされていたが、中にいる「何か」が外に出ようと力を加えたのか、「ゴガンッ」という鈍い音とともに開いた。
「ブッはーーーーぁぁッッ!!!やっと出れたぜ!!!」
そこから出てきたものをナオはすぐには理解できなかったが、異常なことが起こっているということだけはハッキリ理解した。
異常な“それ”と目が合った瞬間、彼女の『試練』は幕を開けた。
異常な“それ”と目が合った瞬間、彼女の『試練』は幕を開けた。
第2節:箱の中のキオク
「なんッ・・・、噓でしょ?」
中から出てきたのは1体の木彫りの人形だった。草葉をモチーフにした髪型と、昔読んだピーターパンのような服を着た、少し古さを感じさせるような人形。しかし、異常なのはそれが「動いている」という事実だった。
「ん~~~、急に押し込まれたから窮屈だったぜ!」
人形のくせに背伸びをした“それ”は、すぐにキョロキョロと周りを見回すとナオに目を向けた。
「ヒッ!?」
ナオは驚いた拍子に、創作物でしか聞かないような小さな悲鳴を上げた。
「おっ、お前かぁ、出してくれたのは!ありがとよ・・・って、ミノリ?」
「え・・・あ・・・、あの・・・」
「いや、違うよなさすがに。タイムスリップってやつなわけないよな。・・・てことは“ナオ”か」
人形は、少し考えこむとナオの名前を出した。その瞬間、ナオの恐怖心は最高潮に達した。
「いやああああああぁぁぁあああぁぁぁ!!!!?」
ナオは、校門へ向かって無我夢中で走り出した。
「ちょっ、ちょっと待て!お前ナオだろ、『現希ナオ』!逃げることないって、おーいー」
言葉をしゃべる異常な人形は、背中から羽のような葉を生やし、飛んでナオを追った。
ナオは決して運動が得意な少女ではなかったので、すぐにへばって追いつかれてしまった。
「はぁ・・・、はぁ・・・、なんなのよ、あなた?!」
「ちょっと待てって、俺はミノリのことを聞きたかっただけだって!・・・体力無ッ」
校門までまだ百メートル近くあるところで、彼女は完全に足を止めてしまい、その場にへたり込んだ。しかし、疲れで緊張状態が一瞬解けたおかげで彼女の耳は、先ほどは聞き落したキーワードを拾い上げた。
「え、ミ・・・ノ、リ?お母さん?」
「そう!おめーの母ちゃんと話がしたいんだ、どこか知ってるだろ?」
ナオは、母の名前を口にした奇妙な人形を目を丸くしながら見て、そして、この人形はお母さんのことを知ってどうするつもりなのかと思った。
私に怖いことをするのか、それとも母に何かしようとしているのか・・・。
「し、知らない」
どちらでもないとしてもかなり厄介なことに巻き込まれる匂いをかぎ取ったナオは、考えている間に、先に言葉をひねり出した。
とにかく、この目の前の怪物の注意が別のものに向かうことを願っての発言だった。
「ん~、嘘じゃないみたいだな」
目の前のソレは、指で輪をつくり、目を皿のようにしてナオを見る。そして、やや不機嫌そうに、
「でもよ、昨日まで一緒にいたんだろ?だったら、知らないってこたぁないだろ」
と言った。
「昨日まで?何を言ってるの?お母さんは、弟を産んで・・・私が小さいころに行方不明になったの」
「はぁ!?そんなこと嘘に決まっ、・・・そんな・・・嘘じゃない、だと!?」
人形は、皿のようにしていた目を丸くした。
「当然でしょ、嘘なんてついてないんだから。あなたこそ、なんでお母さんを探してるの?そもそも何なの、生き物?昨日まで一緒にいたってどういうこと?」
「待て待て待て、まず今日は何日だ?」
「質問に答えてよッ!!」
「答えるって!だけど先に日付だ!ミノリと最後に話したのが3月の終わりだったんだ。そのときナオ、お前の話も聞いたんだよ」
「私の、話・・・」
「そう!だから、そっから何日たったかだけ知りたいんだ」
ナオは半分以上人形の言っていることが理解できなかった、というより納得がいかなかった。当たり前である、母は何年も前から行方不明であり、自分も母の顔はおぼろげなのだ。
それが昨日話しをして、ましてや自分のことを言っていたなど信じられるわけがない。
だが、ナオは少しでも会話を成り立たせようと答えた。
「・・・今日は4月1日よ」
「えええぇえぇえぇえ!!?てことは、昨日の話じゃねえかッ!いや待てよ、今何年だ?」
「202X年」
「じゃあ、やっぱり昨日じゃないか!・・・でも“嘘”なら分かるんだけどなぁ」
人形は、悩んで頭を掻く仕草をした。
「今度はこっちの番よ、お母さんと昨日まで話してたって一体どういうこと?」
「どうもこうも、そのまんまの意味だぜ。3月31日、つまり昨日だな。俺はミノリに呼ばれて、そんで突然さっきの箱の中に閉じ込められたのさ。『ナオのそばにいて』って言い残して」
「嘘でしょ・・・?だったら、昨日までお母さんが家にいたって言うの?冗談言わないでッ!」
「嘘も冗談も言うかよ!俺は嘘が嫌いなんだ!」
「知らないわよ!じゃあ、なんで私にその記憶が無いの?お母さんと一緒に遊んだことも、勉強したことも、出かけたことも・・・、何も覚えてないのはなんでなのよッ!」
ナオは、要領を得ない人形の言葉に少々苛立ち、声を荒げた。
「そんなこと、俺にも分かんねーよ!」
人形も状況を理解できていないのか、声を荒げる。
会話は進展せず、この状況を早く終わらせたいとナオは校門へ向かって歩き出した。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!どこに行くんだよ」
ここで、家だと言ったらコイツはついてくるだろうか。だとしたら、弟を怖がらせてしまうかもしれないし、何より鬱陶しい。
そうナオは感じた。
「これから塾だからついてこないで。」
「はぁ!?嘘吐くんじゃねーよ!」
「嘘じゃないわよ!!」
「いーや、今度は間違いなく嘘だ!俺は“コトノハ人形”の『キオ』。嘘は聞けば分かるんだよ!」
怒った顔をし、『キオ』と名乗ったソレは、とても信じられないことを言い出した。それじゃあ、こいつは超能力でも使えるというのか。
中から出てきたのは1体の木彫りの人形だった。草葉をモチーフにした髪型と、昔読んだピーターパンのような服を着た、少し古さを感じさせるような人形。しかし、異常なのはそれが「動いている」という事実だった。
「ん~~~、急に押し込まれたから窮屈だったぜ!」
人形のくせに背伸びをした“それ”は、すぐにキョロキョロと周りを見回すとナオに目を向けた。
「ヒッ!?」
ナオは驚いた拍子に、創作物でしか聞かないような小さな悲鳴を上げた。
「おっ、お前かぁ、出してくれたのは!ありがとよ・・・って、ミノリ?」
「え・・・あ・・・、あの・・・」
「いや、違うよなさすがに。タイムスリップってやつなわけないよな。・・・てことは“ナオ”か」
人形は、少し考えこむとナオの名前を出した。その瞬間、ナオの恐怖心は最高潮に達した。
「いやああああああぁぁぁあああぁぁぁ!!!!?」
ナオは、校門へ向かって無我夢中で走り出した。
「ちょっ、ちょっと待て!お前ナオだろ、『現希ナオ』!逃げることないって、おーいー」
言葉をしゃべる異常な人形は、背中から羽のような葉を生やし、飛んでナオを追った。
ナオは決して運動が得意な少女ではなかったので、すぐにへばって追いつかれてしまった。
「はぁ・・・、はぁ・・・、なんなのよ、あなた?!」
「ちょっと待てって、俺はミノリのことを聞きたかっただけだって!・・・体力無ッ」
校門までまだ百メートル近くあるところで、彼女は完全に足を止めてしまい、その場にへたり込んだ。しかし、疲れで緊張状態が一瞬解けたおかげで彼女の耳は、先ほどは聞き落したキーワードを拾い上げた。
「え、ミ・・・ノ、リ?お母さん?」
「そう!おめーの母ちゃんと話がしたいんだ、どこか知ってるだろ?」
ナオは、母の名前を口にした奇妙な人形を目を丸くしながら見て、そして、この人形はお母さんのことを知ってどうするつもりなのかと思った。
私に怖いことをするのか、それとも母に何かしようとしているのか・・・。
「し、知らない」
どちらでもないとしてもかなり厄介なことに巻き込まれる匂いをかぎ取ったナオは、考えている間に、先に言葉をひねり出した。
とにかく、この目の前の怪物の注意が別のものに向かうことを願っての発言だった。
「ん~、嘘じゃないみたいだな」
目の前のソレは、指で輪をつくり、目を皿のようにしてナオを見る。そして、やや不機嫌そうに、
「でもよ、昨日まで一緒にいたんだろ?だったら、知らないってこたぁないだろ」
と言った。
「昨日まで?何を言ってるの?お母さんは、弟を産んで・・・私が小さいころに行方不明になったの」
「はぁ!?そんなこと嘘に決まっ、・・・そんな・・・嘘じゃない、だと!?」
人形は、皿のようにしていた目を丸くした。
「当然でしょ、嘘なんてついてないんだから。あなたこそ、なんでお母さんを探してるの?そもそも何なの、生き物?昨日まで一緒にいたってどういうこと?」
「待て待て待て、まず今日は何日だ?」
「質問に答えてよッ!!」
「答えるって!だけど先に日付だ!ミノリと最後に話したのが3月の終わりだったんだ。そのときナオ、お前の話も聞いたんだよ」
「私の、話・・・」
「そう!だから、そっから何日たったかだけ知りたいんだ」
ナオは半分以上人形の言っていることが理解できなかった、というより納得がいかなかった。当たり前である、母は何年も前から行方不明であり、自分も母の顔はおぼろげなのだ。
それが昨日話しをして、ましてや自分のことを言っていたなど信じられるわけがない。
だが、ナオは少しでも会話を成り立たせようと答えた。
「・・・今日は4月1日よ」
「えええぇえぇえぇえ!!?てことは、昨日の話じゃねえかッ!いや待てよ、今何年だ?」
「202X年」
「じゃあ、やっぱり昨日じゃないか!・・・でも“嘘”なら分かるんだけどなぁ」
人形は、悩んで頭を掻く仕草をした。
「今度はこっちの番よ、お母さんと昨日まで話してたって一体どういうこと?」
「どうもこうも、そのまんまの意味だぜ。3月31日、つまり昨日だな。俺はミノリに呼ばれて、そんで突然さっきの箱の中に閉じ込められたのさ。『ナオのそばにいて』って言い残して」
「嘘でしょ・・・?だったら、昨日までお母さんが家にいたって言うの?冗談言わないでッ!」
「嘘も冗談も言うかよ!俺は嘘が嫌いなんだ!」
「知らないわよ!じゃあ、なんで私にその記憶が無いの?お母さんと一緒に遊んだことも、勉強したことも、出かけたことも・・・、何も覚えてないのはなんでなのよッ!」
ナオは、要領を得ない人形の言葉に少々苛立ち、声を荒げた。
「そんなこと、俺にも分かんねーよ!」
人形も状況を理解できていないのか、声を荒げる。
会話は進展せず、この状況を早く終わらせたいとナオは校門へ向かって歩き出した。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!どこに行くんだよ」
ここで、家だと言ったらコイツはついてくるだろうか。だとしたら、弟を怖がらせてしまうかもしれないし、何より鬱陶しい。
そうナオは感じた。
「これから塾だからついてこないで。」
「はぁ!?嘘吐くんじゃねーよ!」
「嘘じゃないわよ!!」
「いーや、今度は間違いなく嘘だ!俺は“コトノハ人形”の『キオ』。嘘は聞けば分かるんだよ!」
怒った顔をし、『キオ』と名乗ったソレは、とても信じられないことを言い出した。それじゃあ、こいつは超能力でも使えるというのか。
- いや、今のは自分が分かりやすい嘘を吐いたから感づかれたのかもしれないと思い、ナオは作戦を変えた。
「じゃあ正直に言ってあげるわ!あなたみたいな不気味な奴、モトヤにもお父さんにも合わせたくないし、鬱陶しいのよ」
作戦というよりは、本音だった。彼女の中の怒りを、嘘は嫌いと言った目の前の怪物にぶつけてみた。
これでいなくなってくれたら・・・、そんな期待はすぐに外れた。
「お、やっと“本音”が出たな!」
キオは“ニコッ”と笑いかけた。
これは、当然ナオにとって想定すらしていないシチュエーションで、さらに怒りが込み上げてきた。
「な、なんで笑ってるのよ!もうっ、私から離れてよ、怖いから!」
「なんだよ!こっちはミノリの場所を聞きたいだけなのにさ」
「『なんだよ』じゃないわよ、急に出てきてお母さんが昨日までいたですって?・・・じゃあ、なんで帰ってきてくれないの?なんで電話をくれないの?どうしてお父さんも居場所を知らないの?どうして私は覚えてないのッ!!!!」
ナオの目には涙が浮かんでいた。
この正体不明の怪物が言っていることが本当ならば、自分は記憶喪失になったとでも言うのか。それとも、今この見えてる世界が幻覚あるいは夢なのだろうか。
作戦というよりは、本音だった。彼女の中の怒りを、嘘は嫌いと言った目の前の怪物にぶつけてみた。
これでいなくなってくれたら・・・、そんな期待はすぐに外れた。
「お、やっと“本音”が出たな!」
キオは“ニコッ”と笑いかけた。
これは、当然ナオにとって想定すらしていないシチュエーションで、さらに怒りが込み上げてきた。
「な、なんで笑ってるのよ!もうっ、私から離れてよ、怖いから!」
「なんだよ!こっちはミノリの場所を聞きたいだけなのにさ」
「『なんだよ』じゃないわよ、急に出てきてお母さんが昨日までいたですって?・・・じゃあ、なんで帰ってきてくれないの?なんで電話をくれないの?どうしてお父さんも居場所を知らないの?どうして私は覚えてないのッ!!!!」
ナオの目には涙が浮かんでいた。
この正体不明の怪物が言っていることが本当ならば、自分は記憶喪失になったとでも言うのか。それとも、今この見えてる世界が幻覚あるいは夢なのだろうか。
(お母さん、どこか行っちゃうの?)
あの夢を思い出す。
なんにせよ、母が昨日まで生きていた、なんなら今日もどこかで生きているかもしれない、そんな可能性すら匂わすキオの発言を、彼女は信じられなかった。
いや信じたくなかった。信じたら、何か怖い世界に囚われる気がしたのだ。
怖い、怖い、怖い・・・。
正体不明の恐怖が彼女の心を這った。
「ナオ・・・」
「気安く呼ばないで!お母さんが付けてくれた大事な名前なんだから!あなたみたいな“嘘つき”に言われたくないッ!!」
「・・・ッ!?誰が嘘つきだ!あのなぁ、俺は嘘が嫌いな・・・」
「知らないわよ!あっちに行って!!」
ナオは、近くに落ちてた石をキオに向かって投げつけた。
「痛っ!!?」
『どごっ』と鈍い音がして、石はキオの頭にヒットした。
キオがよろめいている間に、ナオは家へ向かって走って行った。
校門へ続く道には、小さな雨粒が降ったような跡が残っていた。
なんにせよ、母が昨日まで生きていた、なんなら今日もどこかで生きているかもしれない、そんな可能性すら匂わすキオの発言を、彼女は信じられなかった。
いや信じたくなかった。信じたら、何か怖い世界に囚われる気がしたのだ。
怖い、怖い、怖い・・・。
正体不明の恐怖が彼女の心を這った。
「ナオ・・・」
「気安く呼ばないで!お母さんが付けてくれた大事な名前なんだから!あなたみたいな“嘘つき”に言われたくないッ!!」
「・・・ッ!?誰が嘘つきだ!あのなぁ、俺は嘘が嫌いな・・・」
「知らないわよ!あっちに行って!!」
ナオは、近くに落ちてた石をキオに向かって投げつけた。
「痛っ!!?」
『どごっ』と鈍い音がして、石はキオの頭にヒットした。
キオがよろめいている間に、ナオは家へ向かって走って行った。
校門へ続く道には、小さな雨粒が降ったような跡が残っていた。
第3節:物書き人形“ゴォーリー”
「いててて・・・、ナオのやつ本気で石をぶつけやがって。もう知らん!!!」
ぷんぷんと、擬音がなりそうなほど怒っていたキオだが、心地よい春風と共にしばらく休んでいるとそれも収まってきた。
キオは、一本の電柱の上に座って街を眺めている。
この街の風景を見るのは久しぶりだった。ずっと彼は、“神様”のもとで暮らしていた。
ぷんぷんと、擬音がなりそうなほど怒っていたキオだが、心地よい春風と共にしばらく休んでいるとそれも収まってきた。
キオは、一本の電柱の上に座って街を眺めている。
この街の風景を見るのは久しぶりだった。ずっと彼は、“神様”のもとで暮らしていた。
- そう、ミノリと別れたその日から・・・。
「・・・あいつ、昔のミノリにそっくりだったなー。」
かつて、一緒に冒険をしたミノリ。遊んで、寝て、遠くへ行って、笑って、泣いて、怒って、喜んで。
そう言えば、何回も喧嘩したなぁ、とキオは思い出した。
(もう!ちょっとは気を使いなさいよ!!)
「そういや、ミノリ達とも嘘だ嘘じゃないって喧嘩になったっけ。変わってないのは俺の方かな・・・。」
20年以上前、ミノリが小学校を卒業し別れることになったときと同じ春風が吹き、キオの背中を押した。
「はぁ~、謝りに行かなくちゃな・・・。でもミノリの家ってもう昔のとこじゃないんだっけ?だったら一度“フキ”のとこへ戻ろう。」
かつて、一緒に冒険をしたミノリ。遊んで、寝て、遠くへ行って、笑って、泣いて、怒って、喜んで。
そう言えば、何回も喧嘩したなぁ、とキオは思い出した。
(もう!ちょっとは気を使いなさいよ!!)
「そういや、ミノリ達とも嘘だ嘘じゃないって喧嘩になったっけ。変わってないのは俺の方かな・・・。」
20年以上前、ミノリが小学校を卒業し別れることになったときと同じ春風が吹き、キオの背中を押した。
「はぁ~、謝りに行かなくちゃな・・・。でもミノリの家ってもう昔のとこじゃないんだっけ?だったら一度“フキ”のとこへ戻ろう。」
キオが電柱から飛び降りると、なにやら慌ただしい声が聞こえてきた。
「あ、こんなところにいた!探しましたよ、キオさーん!!」
「ん?“お鏡(きょう)”か?」
キオは辺りを見回すと、後ろから同じくらいの背丈の人形が近づいてきた。
それは、目以外が頭巾か外套に覆われている、傍から見ると怪しさ満点の姿をした人形であった。
「やっぱお鏡じゃん!丁度フキんとこに戻ろうとしてたんだ、ナイスタイミング」
「あ、そうだったんですか・・・。じゃなくて!!どこ行ってたんですか!?緊急事態なんですよ!」
怪しさ満点のその人形は、かなり慌てた様子だった。
「んなもん俺が聞きてーよ!ていうか、はあ?緊急事態?」
「そうなんですー!急いでミノリさんのところに行かないと、ミノリさんの子どもが危ないんです!」
「ッ!?ナオが!?」
「あ、こんなところにいた!探しましたよ、キオさーん!!」
「ん?“お鏡(きょう)”か?」
キオは辺りを見回すと、後ろから同じくらいの背丈の人形が近づいてきた。
それは、目以外が頭巾か外套に覆われている、傍から見ると怪しさ満点の姿をした人形であった。
「やっぱお鏡じゃん!丁度フキんとこに戻ろうとしてたんだ、ナイスタイミング」
「あ、そうだったんですか・・・。じゃなくて!!どこ行ってたんですか!?緊急事態なんですよ!」
怪しさ満点のその人形は、かなり慌てた様子だった。
「んなもん俺が聞きてーよ!ていうか、はあ?緊急事態?」
「そうなんですー!急いでミノリさんのところに行かないと、ミノリさんの子どもが危ないんです!」
「ッ!?ナオが!?」
どれくらい走っただろうか。
ナオは、家の玄関をくぐるとドア越しにへたり込んでしまった。
「ひぐっ・・・、ぐすっ・・・」
疲れ果てたおかげで、悲しさも怒りも大分収まったのだが、涙が引っ込むのにはまだ時間がかかりそうであった。
「キオの馬鹿」
ボソッとつぶやく。
彼女は靴を脱ぎ捨て自室へと向かう。
玄関には、弟の靴が散乱していた。
弟は小学4年生で、ホームルームは6年生よりも先に終わる。
学校でもたもたしたのもあり、一足先に弟は帰り着いたようだ。
(モトヤ先に帰ってる。)
リビングの方を見ると、ランドセルを枕に横になっている弟の姿が目に入った。
「もう・・・、そんなところで寝てると風邪引くわよ」
箪笥から厚手の毛布を1,2枚取り出し、弟にかぶせたその瞬間、ナオは気づいた。
彼の頬に、墨かマジックのようなもので大きく『寝』と書かれている。
「え、顔に落書きされてる?」
ナオは、急いで洗面所でタオルを濡らし持ってきて彼の顔を拭いたが、全然とれず、滲むことすらない。それどころか、顔を拭かれているというのに弟は一向に起きる気配を見せない。
「どうして・・・、そんなに疲れてるのかしら。ていうか、モトヤいじめられてないわよね」
姉として不安に思うことと別に、どうしても『寝』の文字が拭き取れないことへ、言葉にできない怖さを感じた。
「まさか、さっきのが?」
得体の知れない力を持つ“人形”という怪物に出会ったばかりで、いつもなら考えないような可能性まで思い浮かんでしまう。
(とりあえず起きたらお風呂にでも入れよう。)
そう考え、ナオは頭に浮かんだ嫌な考えを振り払おうとした。
(今日は変なことだらけだ。)
この半日で、明らかに異常なことが起こってる。
もう、これで終わりにしてほしい。部屋に戻ってベッドで眠ったら、全部無かったことになっていないだろうか。
そう願ったナオだった。
ナオは、家の玄関をくぐるとドア越しにへたり込んでしまった。
「ひぐっ・・・、ぐすっ・・・」
疲れ果てたおかげで、悲しさも怒りも大分収まったのだが、涙が引っ込むのにはまだ時間がかかりそうであった。
「キオの馬鹿」
ボソッとつぶやく。
彼女は靴を脱ぎ捨て自室へと向かう。
玄関には、弟の靴が散乱していた。
弟は小学4年生で、ホームルームは6年生よりも先に終わる。
学校でもたもたしたのもあり、一足先に弟は帰り着いたようだ。
(モトヤ先に帰ってる。)
リビングの方を見ると、ランドセルを枕に横になっている弟の姿が目に入った。
「もう・・・、そんなところで寝てると風邪引くわよ」
箪笥から厚手の毛布を1,2枚取り出し、弟にかぶせたその瞬間、ナオは気づいた。
彼の頬に、墨かマジックのようなもので大きく『寝』と書かれている。
「え、顔に落書きされてる?」
ナオは、急いで洗面所でタオルを濡らし持ってきて彼の顔を拭いたが、全然とれず、滲むことすらない。それどころか、顔を拭かれているというのに弟は一向に起きる気配を見せない。
「どうして・・・、そんなに疲れてるのかしら。ていうか、モトヤいじめられてないわよね」
姉として不安に思うことと別に、どうしても『寝』の文字が拭き取れないことへ、言葉にできない怖さを感じた。
「まさか、さっきのが?」
得体の知れない力を持つ“人形”という怪物に出会ったばかりで、いつもなら考えないような可能性まで思い浮かんでしまう。
(とりあえず起きたらお風呂にでも入れよう。)
そう考え、ナオは頭に浮かんだ嫌な考えを振り払おうとした。
(今日は変なことだらけだ。)
この半日で、明らかに異常なことが起こってる。
もう、これで終わりにしてほしい。部屋に戻ってベッドで眠ったら、全部無かったことになっていないだろうか。
そう願ったナオだった。
ナオは自分の部屋に戻った。
ランドセルを机にかけようと目を向けた瞬間、ナオの期待は打ち砕かれた。
「ヒッ・・・!!」
ナオはまた小さな悲鳴を上げる。
なぜなら、彼女がいつも座っている椅子に、着物を身につけ、髭を生やした1体の“人形”が胡坐をかいて座っていたからだ。
「やあ、おかえりなさい『現希ナオ』、迎えに来ましたよ。ともに『神様』の元へ行きましょう。」
その人形は、手に持ったペンの先をナオに向けると、もう片方の手で髭をさわり、ナオに声をかけた。
ナオは急いで踵を返し、部屋から出ようとしたが扉が開かない。
「なんで・・・ッ!?どうして開かないのッ?」
ナオは、力いっぱい扉を引くがビクともしない。
「ふふふ、扉をよく見てみなさい」
人形は落ち着いた様子で話す。
ナオが恐る恐る扉そのものを見てみると、そこには大き『閉』の黒文字が書かれていた。
「こっ、これは!?」
ナオは、弟の顔に書かれていた『寝』の文字を思い出した。
「弟に落書きしたのも、あ、あなたの仕業なの?」
「ん?ああ、居間にいた男の子ですか。どうやら私が見えていたみたいですので、ちょっと寝てもらうことにしたんですよ」
普通に会話出来ている感覚、やはり学校にいたキオと同じやつなのだろうか。
「大丈夫です、手荒なことはしておりませんので」
人形は、得意げな顔で髭をさする。
「あなた、キオの仲間なの?」
「キオ?ああ、あの“おしゃべりな”やつですか。安心を、彼とは敵です。私は、彼から貴女を守りに来たんです」
人形は髭をさすり続ける。
「・・・私を守りに?」
「そうです。貴女が、彼に“騙されて”ついていかないように、私が“神様”から遣わされたのです」
ナオは、学校のときと同様に今の状況について理解が追いついていなかった。
「さっきから何を言ってるの、神様って誰?」
ナオが聞き返すと、人形はぴょんと机に乗りペンを掲げる。
「神様は、私たち“人形”を生み出された御方。そして、貴女の願いを叶えてくれる救世主!」
ナオは唖然とした。
言っていることが余りにも突拍子が無かったからだ。
だが、ハッと正気を取り戻すと再び尋ね返した。
「う、嘘なんじゃないの?その神様っていうのが人形を作ったんだったら、キオもそうじゃない!やっぱり、あなたたち仲間なんじゃ・・・」
ナオがそこまで言うと、今度は彼女の前にジャンプしてきて、遮るように割って話し出した。
「いいですか?やつは異端者、例外、はみ出し者です。神様も奴には手を焼いていました。ですから、私と奴は仲間ではありません!!そこは理解してもらいましょう。」
人形は厳しい口調で、それでいて淡々と話す。それからペンをナオに向けると、
「貴女は選ばれたのです!神様を守護する特別な人間、そう「親衛隊」のメンバーに!」
「しんえいたい・・・?」
ナオは聞きなれない言葉に困惑しつつも、なんとなく話の断片を理解しだした。
「おっと、少し難しい言葉を使いすぎましたかな?とにかく、神様が貴女を仲間にするため、会いたがっているということです。あなたには特別な力がある。」
人形は、やや早口で続ける。
「特別な、力」
「そう!今はまだ自覚がないでしょうが、それも大丈夫。神様から全て教えてもらえるでしょう。それに、来てくれれば貴女にもご褒美がありますよ」
「ご褒美?」
「・・・現希ナオ、母親に会いたくないですか?」
「!?」
そのセリフに、ナオは目を見開いた。
(3月31日、つまり昨日だな。俺はミノリに呼ばれて、そんで突然さっきの箱の中に閉じ込められたのさ。『ナオの傍にいて』って言い残して)
キオの言葉が、頭の中で再生される。
「お母さんが、生きているの?」
「ええ、貴女の母親は神様のところにいます」
信じられなかった。というより、今日は信じられないことの連続だった。
お母さんが生きてる?昨日まで?今も?神様のところ?でもキオは昨日話したって?どっちが嘘?どれが本当?
(そのときナオ、お前の話も聞いたんだよ)
記憶が脳裏をかすめる。
「私は“物書き”人形のゴォーリー。さあ、一緒に行きましょう、母と神様のもとへ。」
ランドセルを机にかけようと目を向けた瞬間、ナオの期待は打ち砕かれた。
「ヒッ・・・!!」
ナオはまた小さな悲鳴を上げる。
なぜなら、彼女がいつも座っている椅子に、着物を身につけ、髭を生やした1体の“人形”が胡坐をかいて座っていたからだ。
「やあ、おかえりなさい『現希ナオ』、迎えに来ましたよ。ともに『神様』の元へ行きましょう。」
その人形は、手に持ったペンの先をナオに向けると、もう片方の手で髭をさわり、ナオに声をかけた。
ナオは急いで踵を返し、部屋から出ようとしたが扉が開かない。
「なんで・・・ッ!?どうして開かないのッ?」
ナオは、力いっぱい扉を引くがビクともしない。
「ふふふ、扉をよく見てみなさい」
人形は落ち着いた様子で話す。
ナオが恐る恐る扉そのものを見てみると、そこには大き『閉』の黒文字が書かれていた。
「こっ、これは!?」
ナオは、弟の顔に書かれていた『寝』の文字を思い出した。
「弟に落書きしたのも、あ、あなたの仕業なの?」
「ん?ああ、居間にいた男の子ですか。どうやら私が見えていたみたいですので、ちょっと寝てもらうことにしたんですよ」
普通に会話出来ている感覚、やはり学校にいたキオと同じやつなのだろうか。
「大丈夫です、手荒なことはしておりませんので」
人形は、得意げな顔で髭をさする。
「あなた、キオの仲間なの?」
「キオ?ああ、あの“おしゃべりな”やつですか。安心を、彼とは敵です。私は、彼から貴女を守りに来たんです」
人形は髭をさすり続ける。
「・・・私を守りに?」
「そうです。貴女が、彼に“騙されて”ついていかないように、私が“神様”から遣わされたのです」
ナオは、学校のときと同様に今の状況について理解が追いついていなかった。
「さっきから何を言ってるの、神様って誰?」
ナオが聞き返すと、人形はぴょんと机に乗りペンを掲げる。
「神様は、私たち“人形”を生み出された御方。そして、貴女の願いを叶えてくれる救世主!」
ナオは唖然とした。
言っていることが余りにも突拍子が無かったからだ。
だが、ハッと正気を取り戻すと再び尋ね返した。
「う、嘘なんじゃないの?その神様っていうのが人形を作ったんだったら、キオもそうじゃない!やっぱり、あなたたち仲間なんじゃ・・・」
ナオがそこまで言うと、今度は彼女の前にジャンプしてきて、遮るように割って話し出した。
「いいですか?やつは異端者、例外、はみ出し者です。神様も奴には手を焼いていました。ですから、私と奴は仲間ではありません!!そこは理解してもらいましょう。」
人形は厳しい口調で、それでいて淡々と話す。それからペンをナオに向けると、
「貴女は選ばれたのです!神様を守護する特別な人間、そう「親衛隊」のメンバーに!」
「しんえいたい・・・?」
ナオは聞きなれない言葉に困惑しつつも、なんとなく話の断片を理解しだした。
「おっと、少し難しい言葉を使いすぎましたかな?とにかく、神様が貴女を仲間にするため、会いたがっているということです。あなたには特別な力がある。」
人形は、やや早口で続ける。
「特別な、力」
「そう!今はまだ自覚がないでしょうが、それも大丈夫。神様から全て教えてもらえるでしょう。それに、来てくれれば貴女にもご褒美がありますよ」
「ご褒美?」
「・・・現希ナオ、母親に会いたくないですか?」
「!?」
そのセリフに、ナオは目を見開いた。
(3月31日、つまり昨日だな。俺はミノリに呼ばれて、そんで突然さっきの箱の中に閉じ込められたのさ。『ナオの傍にいて』って言い残して)
キオの言葉が、頭の中で再生される。
「お母さんが、生きているの?」
「ええ、貴女の母親は神様のところにいます」
信じられなかった。というより、今日は信じられないことの連続だった。
お母さんが生きてる?昨日まで?今も?神様のところ?でもキオは昨日話したって?どっちが嘘?どれが本当?
(そのときナオ、お前の話も聞いたんだよ)
記憶が脳裏をかすめる。
「私は“物書き”人形のゴォーリー。さあ、一緒に行きましょう、母と神様のもとへ。」
ナオは指輪をはめた手を、強く握った。
ふと横を見るとそこには、5歳の誕生日に母から買ってもらった姿見があった。
信じられないことに、鏡には小さかった頃の彼女が映っていた。
後ろには母がいて、新しい服を着て嬉しそうなナオを抱きかかえている。
そして優し気な声で語りかける。
(素敵よ、ナオ)
(えへへ、わたしかわいい?)
(ええ、かわいいわ。ほら、モトヤにも見せてあげて)
そう、おぼろげだが確かに覚えている、母の優しい顔。
波打つ水面に映るかのようなその顔は、幼いナオから今の自分に向けられた。
「お母さん・・・」
これはやはり幻覚だろうか。記憶が思い出の姿見に反射し、現在の自分の目に飛び込んでくる。
記憶の中の母は、口を開きこういった。
(誕生日おめでとう)
そこでナオは気づいた、記憶の中の歪に。
ふと横を見るとそこには、5歳の誕生日に母から買ってもらった姿見があった。
信じられないことに、鏡には小さかった頃の彼女が映っていた。
後ろには母がいて、新しい服を着て嬉しそうなナオを抱きかかえている。
そして優し気な声で語りかける。
(素敵よ、ナオ)
(えへへ、わたしかわいい?)
(ええ、かわいいわ。ほら、モトヤにも見せてあげて)
そう、おぼろげだが確かに覚えている、母の優しい顔。
波打つ水面に映るかのようなその顔は、幼いナオから今の自分に向けられた。
「お母さん・・・」
これはやはり幻覚だろうか。記憶が思い出の姿見に反射し、現在の自分の目に飛び込んでくる。
記憶の中の母は、口を開きこういった。
(誕生日おめでとう)
そこでナオは気づいた、記憶の中の歪に。
あれ?お母さんがいなくなったのは、モトヤを産んですぐのはず。
段々と、疑問が浮き彫りになる。
モトヤは私の2つ下、鏡は私の5歳の誕生日に。
なぜ気づかなかったのか、いや気づく時間が無かった?
だってお母さんがいなくなったのは・・・
モトヤは私の2つ下、鏡は私の5歳の誕生日に。
なぜ気づかなかったのか、いや気づく時間が無かった?
だってお母さんがいなくなったのは・・・
「・・・ねえ、お母さんに合わせてくれるって、“本当”?」
ゴォーリーは少し間をおいて、笑みを見せて答えた。
「・・・ああ、“本当”だとも」
ゴォーリーは少し間をおいて、笑みを見せて答えた。
「・・・ああ、“本当”だとも」
ナオは今朝見た夢を思い出す。
校庭にある綺麗なサクラの木の下で、大好きな母と一緒にいる夢。
「お母さん、どこか行っちゃうの?」
少女は、不思議そうに尋ねた。
母は少女の方を見て、何も告げず目に涙を浮かばせ、微笑んでいた。
校庭にある綺麗なサクラの木の下で、大好きな母と一緒にいる夢。
「お母さん、どこか行っちゃうの?」
少女は、不思議そうに尋ねた。
母は少女の方を見て、何も告げず目に涙を浮かばせ、微笑んでいた。
だけど最後に、夢が覚める間際に、たった一言だけ母はナオに話していた。
(ナオ・・・、あなたを信じてる。だから、自分を信じて)
(ナオ・・・、あなたを信じてる。だから、自分を信じて)
「違う・・・」
「ん?」
「違う、あなたは嘘をついてる」
根拠はなかったが、ナオの直感が目の前の人形を信じてはいけないと発した。
「あなたについて行っちゃ、いけない。」
「何を言うんだッ!大丈夫、会ってすぐだから混乱しているだけ、私は貴女の味方です!」
ゴォーリーがナオの左手を掴む、その瞬間ナオの手に『縛』の文字が浮かび上がる。
「!?」
「今だけ、手を動けなくしましたが、ですが安心してください。神様のところへ行くまでです!私を信じて、貴女のためにここにいるのですから!」
「ん?」
「違う、あなたは嘘をついてる」
根拠はなかったが、ナオの直感が目の前の人形を信じてはいけないと発した。
「あなたについて行っちゃ、いけない。」
「何を言うんだッ!大丈夫、会ってすぐだから混乱しているだけ、私は貴女の味方です!」
ゴォーリーがナオの左手を掴む、その瞬間ナオの手に『縛』の文字が浮かび上がる。
「!?」
「今だけ、手を動けなくしましたが、ですが安心してください。神様のところへ行くまでです!私を信じて、貴女のためにここにいるのですから!」
姿見の表面が波打った気がした。
自分が攫われそうな瞬間に彼女は、その違和感に気付いた。
ナオの前には“2体の”人形がいた。
どこから現れたのか、緑髪の古ぼけた“それ”は、物書き人形の頭を足蹴にした。
初めて会ったときよりも怒り、そして頼りある顔をして彼は叫んだ。
「嘘吐くんじゃぁねえッ!!!!」
自分が攫われそうな瞬間に彼女は、その違和感に気付いた。
ナオの前には“2体の”人形がいた。
どこから現れたのか、緑髪の古ぼけた“それ”は、物書き人形の頭を足蹴にした。
初めて会ったときよりも怒り、そして頼りある顔をして彼は叫んだ。
「嘘吐くんじゃぁねえッ!!!!」
第4節:手を組もう
「なッ!??なんだと、なぜ貴様が!」
ゴォーリーは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「ッたく、“テメーのため”に子どもに近づくなんて、人形の風上にも置けねー奴だぜ」
キオは、ふんと鼻を鳴らした。
「・・・キオ」
「よお、その、・・・さっきはおどかして悪かったな・・・。俺も慌ててたんだ、ごめんよ」
キオは申し訳なさそうに目を逸らしている。
「私こそごめんなさい・・・、ついヒドイこと言っちゃって」
「いいよ、本音で話してくれたし。それより、“これから”の事だ!」
吹っ飛んだ人形は、ゆっくりと身体を起こしていた。
勢いよく飛んだわりに、壁には目立つ傷はない。
それでも、“物書き人形のゴォーリー”はかなりダメージを受けているようで、頭を抱えてこちらを睨んでいた。
「痛ッ・・・、いきなり蹴るとは随分じゃないですか、おしゃべり人形?」
ゴォーリーは、落としたペンを拾い上げると、自分の頭に『癒』と書いた。
ナオにその文字は読めなかったが、意味は直ったゴォーリーの頭を見てなんとなく理解できた。
「誰がおしゃべり人形だ!!ああ!?」
ゴォーリーは、叫ぶキオを無視して続ける。
「現希ナオ、分かったでしょう!そいつがどれほど凶暴な人形なのか。私と手を組みましょう!きっと貴女の役に立ちますよ!!」
彼は必死の様相を装い、ナオに手を差し伸べる。
だがナオの心は揺るがなかった。
「・・・ごめんなさい、あなたにはついて行けない。お母さんが・・・私に自分を信じてって言ってくれる気がしたから。さっき無理やり連れていかれそうになって分かったわ。あなたを、“私”は信用できない」
真っ直ぐな眼差しを“敵”に向け、ナオはキオの傍に近寄った。
キオは嬉しそうに、「へへッ・・・」と鼻の下を掻く。
「そうか・・・、そうですか。ならば仕方ありませんね。力ずくで神様のところへ連れて行くことにしましょう。でなければ、貴女が後悔するのですよ」
ゴォーリーは後ろに下がりながら床に何かを書き、再びジャンプし机に乗った。
「“ペンは剣より強し(ライティング・イズ・ストレンジ)”『炎(ファイアー)』!!!」
そこに書かれていたのは『炎』の文字だった。
「“言霊”をご存じですかな?平たく言うと文字や言葉の持つ力です。私の能力は、“文字に宿る力”を引き出すこと!」
文字のところから、竜が火を噴くかのように轟轟と真っ赤な炎が吹き出す。
「きゃああッ!!?」
ナオは、突然の炎の勢いに驚いた。部屋の中が徐々に灼熱の色で染められていく。
急いで、外に出ようと思っても、扉は未だゴォーリーの力で閉ざされたままだった。
キオもかなり驚いており、
「うわ!あちちちちち!!!!嘘だろ、『持ち主(マスター)』がいないはずなのになんで!?」
「ふふふ、そちらの紛い物(・・・)とは違うんですよ。私たち(・・・)は最初からこれほどの力を持っているのです。」
「なんだと・・・ッ、そんなこと、ん?うわあぁちちちち!髪に燃え移った!こっちは木製なんだ、火は反則だろッ!」
「ふんっ、勝負に反則もクソもありますか。さあ、ナオ!私と手を組みましょう!私の“持ち主”となれば、この炎の影響は受けない!」
ペンを持った人形は、炎の中からナオに問いかける。
ナオは部屋を炎で包もうとしている怪物に対して、瞳に光の宿った睨みをきかせる。
「イヤ」
「・・・そうですか、残念です。ならば少々手荒なことをしなければいけませんね」
炎は段々と彼女らを囲みだす。
ナオはキオの方に向き直ると、
「キオ、どうしよう、このままじゃ・・・」
「あちちちちち、大丈夫・・・とはあんまり言えない状況だけどよ。・・・ナオは植物に詳しいか?」
唐突な質問に、ナオは困惑する。
「え、どういう意味?」
「どうもこうも、そのまんまだぜ!俺は“コトノハ人形”、植物を操って攻撃するんだ。だけど、俺はアイツみたいに、ひとりじゃ力を発揮できない」
キオは、髪についた火を振り払おうともがきながら説明した。
「お母さんもそうやって戦ってたの?」
「そうさ、だからいっぱい木とか花とかを知ってて、想像力豊かなマスター・・・“人形使い”が必要なんだ」
「人形、使い・・・」
ナオは自分の本棚を見る。
母の部屋をまねたくて、買ってもらった植物図鑑の数々。校庭のサクラの木に寄りかかって読んでいた日々が、ナオの背中を押すかのように思い出された。
火は、今にも二人を呑み込まんとしている。
「あっちぃいいいい!!!どうなんだ、ナオーーーッ!燃えるうううう!」
「植物ならちょっと知ってる。花言葉も読んだ。読んだからきっと、あなた(・・・)に(・)会えた(・・・)。」
キオは、「へ?」っと驚いた顔を向けた。
「じゃあ、俺の『持ち主(マスター)』になってくれ!」
「その前に、ひとつ聞かせて」
「はあ!?もう時間が・・・」
「大事なことなの!キオ、あなた“正直”なのよね」
ナオは、炎に照らされた真っ赤で真っ直ぐな瞳をキオに向ける。
「きゅ、急になんだよ・・・」
「嘘はつかないんだよね」
ナオはキオから視線を逸らさない。キオもナオの目に、曇りのない“本音”を感じ取った。
「ああ」
キオはハッキリと答える。
二人を包む炎は、もう足元まで来ていた。
「キオ。私と、お母さんを探すの手伝ってくれる?」
「もちろんだ!!絶対見つけ出して、会わせてやる、俺は嘘が嫌いなんだ!!!」
グワアアアアアっと、炎が体全体を呑み込む。
「だから、手を組もう」
ゴォーリーは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「ッたく、“テメーのため”に子どもに近づくなんて、人形の風上にも置けねー奴だぜ」
キオは、ふんと鼻を鳴らした。
「・・・キオ」
「よお、その、・・・さっきはおどかして悪かったな・・・。俺も慌ててたんだ、ごめんよ」
キオは申し訳なさそうに目を逸らしている。
「私こそごめんなさい・・・、ついヒドイこと言っちゃって」
「いいよ、本音で話してくれたし。それより、“これから”の事だ!」
吹っ飛んだ人形は、ゆっくりと身体を起こしていた。
勢いよく飛んだわりに、壁には目立つ傷はない。
それでも、“物書き人形のゴォーリー”はかなりダメージを受けているようで、頭を抱えてこちらを睨んでいた。
「痛ッ・・・、いきなり蹴るとは随分じゃないですか、おしゃべり人形?」
ゴォーリーは、落としたペンを拾い上げると、自分の頭に『癒』と書いた。
ナオにその文字は読めなかったが、意味は直ったゴォーリーの頭を見てなんとなく理解できた。
「誰がおしゃべり人形だ!!ああ!?」
ゴォーリーは、叫ぶキオを無視して続ける。
「現希ナオ、分かったでしょう!そいつがどれほど凶暴な人形なのか。私と手を組みましょう!きっと貴女の役に立ちますよ!!」
彼は必死の様相を装い、ナオに手を差し伸べる。
だがナオの心は揺るがなかった。
「・・・ごめんなさい、あなたにはついて行けない。お母さんが・・・私に自分を信じてって言ってくれる気がしたから。さっき無理やり連れていかれそうになって分かったわ。あなたを、“私”は信用できない」
真っ直ぐな眼差しを“敵”に向け、ナオはキオの傍に近寄った。
キオは嬉しそうに、「へへッ・・・」と鼻の下を掻く。
「そうか・・・、そうですか。ならば仕方ありませんね。力ずくで神様のところへ連れて行くことにしましょう。でなければ、貴女が後悔するのですよ」
ゴォーリーは後ろに下がりながら床に何かを書き、再びジャンプし机に乗った。
「“ペンは剣より強し(ライティング・イズ・ストレンジ)”『炎(ファイアー)』!!!」
そこに書かれていたのは『炎』の文字だった。
「“言霊”をご存じですかな?平たく言うと文字や言葉の持つ力です。私の能力は、“文字に宿る力”を引き出すこと!」
文字のところから、竜が火を噴くかのように轟轟と真っ赤な炎が吹き出す。
「きゃああッ!!?」
ナオは、突然の炎の勢いに驚いた。部屋の中が徐々に灼熱の色で染められていく。
急いで、外に出ようと思っても、扉は未だゴォーリーの力で閉ざされたままだった。
キオもかなり驚いており、
「うわ!あちちちちち!!!!嘘だろ、『持ち主(マスター)』がいないはずなのになんで!?」
「ふふふ、そちらの紛い物(・・・)とは違うんですよ。私たち(・・・)は最初からこれほどの力を持っているのです。」
「なんだと・・・ッ、そんなこと、ん?うわあぁちちちち!髪に燃え移った!こっちは木製なんだ、火は反則だろッ!」
「ふんっ、勝負に反則もクソもありますか。さあ、ナオ!私と手を組みましょう!私の“持ち主”となれば、この炎の影響は受けない!」
ペンを持った人形は、炎の中からナオに問いかける。
ナオは部屋を炎で包もうとしている怪物に対して、瞳に光の宿った睨みをきかせる。
「イヤ」
「・・・そうですか、残念です。ならば少々手荒なことをしなければいけませんね」
炎は段々と彼女らを囲みだす。
ナオはキオの方に向き直ると、
「キオ、どうしよう、このままじゃ・・・」
「あちちちちち、大丈夫・・・とはあんまり言えない状況だけどよ。・・・ナオは植物に詳しいか?」
唐突な質問に、ナオは困惑する。
「え、どういう意味?」
「どうもこうも、そのまんまだぜ!俺は“コトノハ人形”、植物を操って攻撃するんだ。だけど、俺はアイツみたいに、ひとりじゃ力を発揮できない」
キオは、髪についた火を振り払おうともがきながら説明した。
「お母さんもそうやって戦ってたの?」
「そうさ、だからいっぱい木とか花とかを知ってて、想像力豊かなマスター・・・“人形使い”が必要なんだ」
「人形、使い・・・」
ナオは自分の本棚を見る。
母の部屋をまねたくて、買ってもらった植物図鑑の数々。校庭のサクラの木に寄りかかって読んでいた日々が、ナオの背中を押すかのように思い出された。
火は、今にも二人を呑み込まんとしている。
「あっちぃいいいい!!!どうなんだ、ナオーーーッ!燃えるうううう!」
「植物ならちょっと知ってる。花言葉も読んだ。読んだからきっと、あなた(・・・)に(・)会えた(・・・)。」
キオは、「へ?」っと驚いた顔を向けた。
「じゃあ、俺の『持ち主(マスター)』になってくれ!」
「その前に、ひとつ聞かせて」
「はあ!?もう時間が・・・」
「大事なことなの!キオ、あなた“正直”なのよね」
ナオは、炎に照らされた真っ赤で真っ直ぐな瞳をキオに向ける。
「きゅ、急になんだよ・・・」
「嘘はつかないんだよね」
ナオはキオから視線を逸らさない。キオもナオの目に、曇りのない“本音”を感じ取った。
「ああ」
キオはハッキリと答える。
二人を包む炎は、もう足元まで来ていた。
「キオ。私と、お母さんを探すの手伝ってくれる?」
「もちろんだ!!絶対見つけ出して、会わせてやる、俺は嘘が嫌いなんだ!!!」
グワアアアアアっと、炎が体全体を呑み込む。
「だから、手を組もう」
完全に炎が部屋を覆いつくした。
ゴォーリーは、髭をさすりながらに残念そうに二人がいた場所を眺めていた。
「『侵略すること火の如く』。ふん、こんなもんですか現希ナオ。ホントに彼女は、『親衛隊』にふさわしい存在なのですかね。まあ、『キオを消す』という指令もついでにこなせたわけだし、あとは彼女を連れていきますか。・・・ん?」
彼は火を消す前に、その光景の異様さに気付いた。
「な、なんだあの壁(・)は!!?」
火が天井まで登っているのかと思ったが、それは違った。
いつの間にか部屋の中央に半円状の壁、いや、何本もの樹木が壁のように連なって出現していたのだ。
「ま、まさか・・・」
ゴォーリーは、髭をさすりながらに残念そうに二人がいた場所を眺めていた。
「『侵略すること火の如く』。ふん、こんなもんですか現希ナオ。ホントに彼女は、『親衛隊』にふさわしい存在なのですかね。まあ、『キオを消す』という指令もついでにこなせたわけだし、あとは彼女を連れていきますか。・・・ん?」
彼は火を消す前に、その光景の異様さに気付いた。
「な、なんだあの壁(・)は!!?」
火が天井まで登っているのかと思ったが、それは違った。
いつの間にか部屋の中央に半円状の壁、いや、何本もの樹木が壁のように連なって出現していたのだ。
「ま、まさか・・・」
「「ドールハウス“開花(オープン)”」」
壁の中には2人がいた。ナオは緑色の下地に草花で装飾されたドレスのようなものを着ており、頭には黄色い花の髪飾りを刺していた。
彼女は周囲に樹木を生やし、自分たちを覆う。
「はぁ、はぁ、それっぽくやったけど、意外と上手くいくものなのね・・・」
「人形の能力は“人形使い”の想像力次第だからな!」
「ていうか、今私どうなっているの。キオの手を掴んだら急にはだk・・・ていうか“ドールハウス”ってなに?」
ナオは火に呑まれる直前、キオが伝えた言葉を唱えた。
すると、まるでアニメで見たような変身の仕方をして結構恥ずかしくなり、ドキドキしていた。
「へへ、人形の力を使うための合言葉さ。それよりも、これ樹で防いで大丈夫なのか?」
キオは、ナオの顔が赤面していることに気付かない。
樹木の壁の外側では火は一向に収まる気配を見せていない。それどころか、増しているまである。
「これは、サザンカの樹よ。花言葉は「困難に立ち向かう」。樹木に水を多く含んでて、火に強いの・・・でも、さすがに直接燃やされたら突破されるのは時間の問題」
「え?じゃあ、どうするのさ?」
「もうひとつ方法があるのよ。ちょっと覚悟する必要があるんだけど・・・キオ、できる?」
「へっ!もちろんさ!」
壁の中には2人がいた。ナオは緑色の下地に草花で装飾されたドレスのようなものを着ており、頭には黄色い花の髪飾りを刺していた。
彼女は周囲に樹木を生やし、自分たちを覆う。
「はぁ、はぁ、それっぽくやったけど、意外と上手くいくものなのね・・・」
「人形の能力は“人形使い”の想像力次第だからな!」
「ていうか、今私どうなっているの。キオの手を掴んだら急にはだk・・・ていうか“ドールハウス”ってなに?」
ナオは火に呑まれる直前、キオが伝えた言葉を唱えた。
すると、まるでアニメで見たような変身の仕方をして結構恥ずかしくなり、ドキドキしていた。
「へへ、人形の力を使うための合言葉さ。それよりも、これ樹で防いで大丈夫なのか?」
キオは、ナオの顔が赤面していることに気付かない。
樹木の壁の外側では火は一向に収まる気配を見せていない。それどころか、増しているまである。
「これは、サザンカの樹よ。花言葉は「困難に立ち向かう」。樹木に水を多く含んでて、火に強いの・・・でも、さすがに直接燃やされたら突破されるのは時間の問題」
「え?じゃあ、どうするのさ?」
「もうひとつ方法があるのよ。ちょっと覚悟する必要があるんだけど・・・キオ、できる?」
「へっ!もちろんさ!」
「くそっ!もう少し早く奴を消しておくんだったか・・・、まあいい。どっちみち火を木材で防ぐなんて出来はしない。」
ゴォーリーは再びペンを持ち直すと、近くの窓に『風』の字を描く。
「“ペンは剣より強し(ライティング・イズ・ストレンジ)”『風(ウィンド)』!」
部屋に突風が吹く、炎には追い風、ナオたちには向かい風になるように。
「ふふふ、この風でその防御壁ごと倒してしまおうか」
ゴゴゴゴゴゴゴゴとすさまじい勢いで風は部屋を荒らす。
火はすでに、木の壁を燃やし尽くさんとしているほどの業火の波と化しており、樹木からパチパチと破裂音のようなものが聞こえていた。
「さあ、守り一辺倒では私には勝てませんよ。今からでも遅くない、現希ナオ!私と手を組もう!このままだと、貴女の体に火が移るぞ、私もそこまではしたくない!」
ゴォーリーは、勝ち誇ったように、というより勝ちの確信を得て炎の中で胸を張って叫んだ。
彼の放った炎と風はナオたちの壁を押し続ける。このままでは壁ごと燃やされてしまい、壁をどければ、風によって炎が流れ込む。どちらにせよ、彼女らに打つ手はない。
(“人形の能力”では人の命を奪えない・・・、怖い思いはさせてしまうが、これも彼女のためだ。神様を敵に回すようなまね、子供(・・)の(・)味方(・・)である私はさせられないのでね)
ゴォーリーがナオの返事を待っていると、木の壁の幹が「グワッ」と出入口を作るように曲がって開く。
「なにッ!?」
諦めたか?と、ゴォーリーは思ったが、すぐに違うことが分かった。
幹の間から誰かが飛び出し、火の海に飛び込んだのだ。
「今の大きさは人形(キオ)の方だ。奴め、自分から燃えに行った!!?」
いや、そんなわけがない。
ゴォーリーは、攻撃に出たのだと思い、改めて身構える。しかし、火の勢いが強いせいで狭い部屋の中でも、キオの位置が分からない。
「ふんっ、燃え尽きるのが先か私を倒すのが先か、賭けに出たのか?だがな」
彼は机に『槍』の字を書くと、一本の槍を出し左手に持った。
「“ペンは剣より強し(ライティング・イズ・ストレンジ)”『槍(スピッド)』
「最初から貴様の勝ち目は0だ!これで、返り討ちにしてあげましょう」
炎から出てきた瞬間、この槍で頭を貫いてやる。そう、最初に私の頭を足で割ったように。
そう思い、ゴォーリーの口角が上がった瞬間だった。
「これで、あなたの負けよ」
ナオの力の篭った言葉が、壁越しにゴォーリーに届く。
「!!?」
ナオを覆っていた木々がボロボロと崩れ落ちる。
部屋の中で吹き荒ぶ風が、より一層ナオの方に向かって流れ込む。当然、その風に乗って炎も同時に・・・。
「血迷ったか!そんなことをしても貴女がより早く燃えてしまうだけだぞ!それで、私の隙が突けるとでも・・・、ん?」
ゴォーリーの周りの炎の背丈が、風に押されどんどん低くなる。
「こ、これは!?」
「あなたは自分の力を受けないかもしれない。けど、あなたが生み出したものはどうなの!」
ゴォーリーは再びペンを持ち直すと、近くの窓に『風』の字を描く。
「“ペンは剣より強し(ライティング・イズ・ストレンジ)”『風(ウィンド)』!」
部屋に突風が吹く、炎には追い風、ナオたちには向かい風になるように。
「ふふふ、この風でその防御壁ごと倒してしまおうか」
ゴゴゴゴゴゴゴゴとすさまじい勢いで風は部屋を荒らす。
火はすでに、木の壁を燃やし尽くさんとしているほどの業火の波と化しており、樹木からパチパチと破裂音のようなものが聞こえていた。
「さあ、守り一辺倒では私には勝てませんよ。今からでも遅くない、現希ナオ!私と手を組もう!このままだと、貴女の体に火が移るぞ、私もそこまではしたくない!」
ゴォーリーは、勝ち誇ったように、というより勝ちの確信を得て炎の中で胸を張って叫んだ。
彼の放った炎と風はナオたちの壁を押し続ける。このままでは壁ごと燃やされてしまい、壁をどければ、風によって炎が流れ込む。どちらにせよ、彼女らに打つ手はない。
(“人形の能力”では人の命を奪えない・・・、怖い思いはさせてしまうが、これも彼女のためだ。神様を敵に回すようなまね、子供(・・)の(・)味方(・・)である私はさせられないのでね)
ゴォーリーがナオの返事を待っていると、木の壁の幹が「グワッ」と出入口を作るように曲がって開く。
「なにッ!?」
諦めたか?と、ゴォーリーは思ったが、すぐに違うことが分かった。
幹の間から誰かが飛び出し、火の海に飛び込んだのだ。
「今の大きさは人形(キオ)の方だ。奴め、自分から燃えに行った!!?」
いや、そんなわけがない。
ゴォーリーは、攻撃に出たのだと思い、改めて身構える。しかし、火の勢いが強いせいで狭い部屋の中でも、キオの位置が分からない。
「ふんっ、燃え尽きるのが先か私を倒すのが先か、賭けに出たのか?だがな」
彼は机に『槍』の字を書くと、一本の槍を出し左手に持った。
「“ペンは剣より強し(ライティング・イズ・ストレンジ)”『槍(スピッド)』
「最初から貴様の勝ち目は0だ!これで、返り討ちにしてあげましょう」
炎から出てきた瞬間、この槍で頭を貫いてやる。そう、最初に私の頭を足で割ったように。
そう思い、ゴォーリーの口角が上がった瞬間だった。
「これで、あなたの負けよ」
ナオの力の篭った言葉が、壁越しにゴォーリーに届く。
「!!?」
ナオを覆っていた木々がボロボロと崩れ落ちる。
部屋の中で吹き荒ぶ風が、より一層ナオの方に向かって流れ込む。当然、その風に乗って炎も同時に・・・。
「血迷ったか!そんなことをしても貴女がより早く燃えてしまうだけだぞ!それで、私の隙が突けるとでも・・・、ん?」
ゴォーリーの周りの炎の背丈が、風に押されどんどん低くなる。
「こ、これは!?」
「あなたは自分の力を受けないかもしれない。けど、あなたが生み出したものはどうなの!」
紅蓮の魔の手は、暴風から身を守るためか、ナオに纏わりつくように引き寄せられる。
その様はまるで、自分らの生みの親であるゴォーリーから逃げるようでもあった。
物書き人形は、恐る恐る床に目をやる。
そこには、炎で朽ちている花で体を覆った小さな勇者の姿があった。
「『紫陽花の装衣(ハイドランジャクローズ)』、藤色の花言葉は“辛抱強い愛”だっけか。熱かったぞ、この野郎!!」
彼の手には槍のような根っこがあった。
言霊の魔王は、今起きたことを察し息をのむ。
「水分の多い花で即席の防火服を創ったのか!!馬鹿な・・・耐えられたからよかったものを、失敗すれば二人とも焼けるかもしれないというのに!」
「へ、耐えられたさ。お前の薄っぺらい言葉の火ぐらいならな!」
「なんだと・・・ッ!」
ゴォーリーは一瞬怒りに我を忘れかけるが、すぐに冷静さを取り戻し、
「ふん、何とでも言え!だが、近づいてもすぐには私を倒せんぞ!彼女が気絶するまで持ちこたえてみせましょう」
ナオは、火に焼かれ意識が朦朧としている。
普通ならば最早火傷じゃすまないが、彼女の目はまだ二人に向けられている。
ゴォーリーはその様子にゾッとし、槍を構える。
キオも構えながら、言葉をつづける。
「悪い、大事なことをナオに言ってなかったな。俺の能力には、もうひとつ特徴があるんだ。」
「「ん?」」
ナオは薄れゆく意識の中で、キオの声にかじりつく。
ゴォーリーは、急なセリフに訝しんだ。
「何を言い出すのです」
「俺の力は・・・相手の嘘を引っぺがす」
「嘘を?」
「そう。たとえそれが幻覚だろうと、幻聴だろうと、絵だろうと・・・文字だろうとな」
ゴォーリーはキオの言っていることが一瞬理解できなかったが、次の刹那で顔が強張る。
「“ペンは剣より強し(ライティング・イズ・ストレンジ)”『敏(コレクト)』!!!」
ゴォーリーは自分の左手に「敏」の字を書く。これは、彼の左手の器用さを増長させる。
これで、ヤツの頭を“正確”に貫ける。
いや、貫かねば負ける。
(そんなこと、神様から聞いてないぞ!!ならば、奴の攻撃が私に当たるとどうなる!?早く彼を戦闘不能にしてしまわなければ!)
その様はまるで、自分らの生みの親であるゴォーリーから逃げるようでもあった。
物書き人形は、恐る恐る床に目をやる。
そこには、炎で朽ちている花で体を覆った小さな勇者の姿があった。
「『紫陽花の装衣(ハイドランジャクローズ)』、藤色の花言葉は“辛抱強い愛”だっけか。熱かったぞ、この野郎!!」
彼の手には槍のような根っこがあった。
言霊の魔王は、今起きたことを察し息をのむ。
「水分の多い花で即席の防火服を創ったのか!!馬鹿な・・・耐えられたからよかったものを、失敗すれば二人とも焼けるかもしれないというのに!」
「へ、耐えられたさ。お前の薄っぺらい言葉の火ぐらいならな!」
「なんだと・・・ッ!」
ゴォーリーは一瞬怒りに我を忘れかけるが、すぐに冷静さを取り戻し、
「ふん、何とでも言え!だが、近づいてもすぐには私を倒せんぞ!彼女が気絶するまで持ちこたえてみせましょう」
ナオは、火に焼かれ意識が朦朧としている。
普通ならば最早火傷じゃすまないが、彼女の目はまだ二人に向けられている。
ゴォーリーはその様子にゾッとし、槍を構える。
キオも構えながら、言葉をつづける。
「悪い、大事なことをナオに言ってなかったな。俺の能力には、もうひとつ特徴があるんだ。」
「「ん?」」
ナオは薄れゆく意識の中で、キオの声にかじりつく。
ゴォーリーは、急なセリフに訝しんだ。
「何を言い出すのです」
「俺の力は・・・相手の嘘を引っぺがす」
「嘘を?」
「そう。たとえそれが幻覚だろうと、幻聴だろうと、絵だろうと・・・文字だろうとな」
ゴォーリーはキオの言っていることが一瞬理解できなかったが、次の刹那で顔が強張る。
「“ペンは剣より強し(ライティング・イズ・ストレンジ)”『敏(コレクト)』!!!」
ゴォーリーは自分の左手に「敏」の字を書く。これは、彼の左手の器用さを増長させる。
これで、ヤツの頭を“正確”に貫ける。
いや、貫かねば負ける。
(そんなこと、神様から聞いてないぞ!!ならば、奴の攻撃が私に当たるとどうなる!?早く彼を戦闘不能にしてしまわなければ!)
二人は同時に槍を投げる。
「『我々(ラ)の(ン)心(ス)を(・)揺(オブ)さ(・)ぶ(ア)る(ス)者』!!」
「『本根(ルート)の(・)槍(スピア)』!!!」
文字で創り出された槍と、言葉(コトノハ)で創り出された槍。
二つの槍が互いを貫き合おうとする。
「『我々(ラ)の(ン)心(ス)を(・)揺(オブ)さ(・)ぶ(ア)る(ス)者』!!」
「『本根(ルート)の(・)槍(スピア)』!!!」
文字で創り出された槍と、言葉(コトノハ)で創り出された槍。
二つの槍が互いを貫き合おうとする。
キオの顔が抉れる。
丸身を帯びた彼の左頬に大きな傷跡ができる。
だが、キオの瞳は敵を見据えて動かなかった。
キオの背後で、折れた槍の柄が落ちる。
彼の顔を抉ったのは穂先ではなかった。
穂先は無残に砕け散り、風に乗って焔の中へ溶けてゆく。
丸身を帯びた彼の左頬に大きな傷跡ができる。
だが、キオの瞳は敵を見据えて動かなかった。
キオの背後で、折れた槍の柄が落ちる。
彼の顔を抉ったのは穂先ではなかった。
穂先は無残に砕け散り、風に乗って焔の中へ溶けてゆく。
「く・・・そ・・・ッ!!」
ゴォーリーは天井に届いた槍に貫かれていた。
彼はそのままガックリと項垂れ、持っていたペンは宙を舞いカーペットに落ちる。
その瞬間、ナオを覆っていた炎も、部屋を荒らす風も、扉を閉ざしていたものも、弟の顔に書かれていた呪いもすべて、インクが乾いて、色褪せるように消える。
全てが無かったかのように、今までのことが嘘のように、景色は無傷へ戻っていくのだった。
「ッ!!」
ナオは薄れていた意識をハッと掴み直す。
両足で立ち、先ほどまで燃えていた自分の体を確認する。
ところが全く火傷の跡もなく、わずかなかすり傷もなかったことにナオは唖然とした。
「私・・・無事・・・なの?」
「それが、“人形使い”の戦いさ」
キオは何事もなかったように、彼女のところまで来た。
「キオ、あなた顔が・・・」
だがキオの顔は無事ではなかった。
彼の負った傷は、徐々に顔を侵食していた。
傷口からは彼の顔の内部、人形の“骨組み”の部分がのぞき、それが彼にとってただ事でないことはナオも直感できた。
「ごめんなさい・・・私が無理な事させたから」
ナオは声を震わし、手で目元を拭う。
「なーに、泣いてんだよ。ナオがいなきゃ、あいつは倒せなかった。それに、久しぶりに誰かと一緒に戦えて楽しかったぜ」
キオは、はにかんだ顔を見せた。
その笑顔がより一層ナオの心を締め付けるようだった。
「でも、このままじゃキオが・・・嫌だよ、せっかく仲良くなったのに、いなくなっちゃうなんて!」
ナオはキオを抱き寄せる。
彼女は力いっぱい、しかし彼を壊さぬよう優しく抱きしめた。
「ん?いなくなる?ああ、この傷か」
キオは自分の顔を撫で、近くの姿見を見て自分の今の様相を知った。
「結構ヒデェなぁ!でも、大丈夫さ、心配いらねぇよ。言ったろ、お前のかーちゃんに会わせるって、それまでは壊れたりなんかするもんか。俺は嘘つかねぇ。」
「え?」
ナオは、呆気に取られる。
キオは、そんな彼女に優しく笑いかけ手を差し伸べる。
「ほら、まだ終わって(・・・・)ない(・・)ぜ。覚えてるか?さっき教えた合言葉」
「さっき・・・、“ドールハウス”オープンってやつ?」
「そうさ、それは俺とナオを守る結界を作り出す呪文。だけど、結界の中で起きたことは現実にはならないんだ。これは、子どもと人形だけの世界の話だからな。ドールハウスに引きこもっている限り、俺たちは現実にいない。だから閉じなきゃいけない、それだけさ。ほら。」
ナオは言われるがままにキオの手を取り、そして、頭に浮かんだ終わりの呪文を彼と共に唱えた。
「「“ドールハウス”『散花(クローズ)』」」
その瞬間、どこからともなくキオの顔に桜の花びらが集まる。
花びらは彼の大きな傷口を覆い、そして彼の顔を元通りにした。彼の顔だけではない、天井に刺さった根でできた槍も花びらとなり消える。そして、そこに突き刺さっていた人形が床に落ちる。
「キオ・・・良かったぁ・・・ッ!!」
ナオは、より一層強く抱きしめた。
「おいおいおい、大げさだな・・・」
ナオの目からは更に大粒の涙がこぼれ落ちると同時に、彼女の心に安堵の気持ちが広がる。
ゴォーリーは天井に届いた槍に貫かれていた。
彼はそのままガックリと項垂れ、持っていたペンは宙を舞いカーペットに落ちる。
その瞬間、ナオを覆っていた炎も、部屋を荒らす風も、扉を閉ざしていたものも、弟の顔に書かれていた呪いもすべて、インクが乾いて、色褪せるように消える。
全てが無かったかのように、今までのことが嘘のように、景色は無傷へ戻っていくのだった。
「ッ!!」
ナオは薄れていた意識をハッと掴み直す。
両足で立ち、先ほどまで燃えていた自分の体を確認する。
ところが全く火傷の跡もなく、わずかなかすり傷もなかったことにナオは唖然とした。
「私・・・無事・・・なの?」
「それが、“人形使い”の戦いさ」
キオは何事もなかったように、彼女のところまで来た。
「キオ、あなた顔が・・・」
だがキオの顔は無事ではなかった。
彼の負った傷は、徐々に顔を侵食していた。
傷口からは彼の顔の内部、人形の“骨組み”の部分がのぞき、それが彼にとってただ事でないことはナオも直感できた。
「ごめんなさい・・・私が無理な事させたから」
ナオは声を震わし、手で目元を拭う。
「なーに、泣いてんだよ。ナオがいなきゃ、あいつは倒せなかった。それに、久しぶりに誰かと一緒に戦えて楽しかったぜ」
キオは、はにかんだ顔を見せた。
その笑顔がより一層ナオの心を締め付けるようだった。
「でも、このままじゃキオが・・・嫌だよ、せっかく仲良くなったのに、いなくなっちゃうなんて!」
ナオはキオを抱き寄せる。
彼女は力いっぱい、しかし彼を壊さぬよう優しく抱きしめた。
「ん?いなくなる?ああ、この傷か」
キオは自分の顔を撫で、近くの姿見を見て自分の今の様相を知った。
「結構ヒデェなぁ!でも、大丈夫さ、心配いらねぇよ。言ったろ、お前のかーちゃんに会わせるって、それまでは壊れたりなんかするもんか。俺は嘘つかねぇ。」
「え?」
ナオは、呆気に取られる。
キオは、そんな彼女に優しく笑いかけ手を差し伸べる。
「ほら、まだ終わって(・・・・)ない(・・)ぜ。覚えてるか?さっき教えた合言葉」
「さっき・・・、“ドールハウス”オープンってやつ?」
「そうさ、それは俺とナオを守る結界を作り出す呪文。だけど、結界の中で起きたことは現実にはならないんだ。これは、子どもと人形だけの世界の話だからな。ドールハウスに引きこもっている限り、俺たちは現実にいない。だから閉じなきゃいけない、それだけさ。ほら。」
ナオは言われるがままにキオの手を取り、そして、頭に浮かんだ終わりの呪文を彼と共に唱えた。
「「“ドールハウス”『散花(クローズ)』」」
その瞬間、どこからともなくキオの顔に桜の花びらが集まる。
花びらは彼の大きな傷口を覆い、そして彼の顔を元通りにした。彼の顔だけではない、天井に刺さった根でできた槍も花びらとなり消える。そして、そこに突き刺さっていた人形が床に落ちる。
「キオ・・・良かったぁ・・・ッ!!」
ナオは、より一層強く抱きしめた。
「おいおいおい、大げさだな・・・」
ナオの目からは更に大粒の涙がこぼれ落ちると同時に、彼女の心に安堵の気持ちが広がる。
お母さん、私、新しいお友達ができたよ。
第5節:『神様』とこれから
あの戦いからちょっと経った。
ナオとキオは、ゴォーリーを連れリビングにいた。
もう何時間も過ぎたように感じたナオたちだったが、実際は10分程度だったらしい。
時計を見たナオは、改めてすさまじい体験をしたことを実感した。
部屋中を燃やす炎、それを操る魔術師のような存在、そして、それから自分を守る植物の戦士・・・。
(今日は大変だったな)
ひとしきり泣いて落ち着いたナオは、そんな小学生並みの感想を抱いた。
「よいしょっと、これで良し」
横では、キオがゴォーリーを紐のようなもので縛ってセロハンテープでグルグル巻きにしていた。
「ねえ、その子大丈夫なの?」
ナオは、さっきのことを思い出していた。
ゴォーリーはお腹を貫かれていたはず・・・人間ならば無事ではいられない。
燃え盛る火に一度呑み込まれ、気を失いかけたあの時、熱や体が燃える感覚は、偽物じゃないと思ったが・・・。
しかしキオが言うには、結界(ドールハウス)の中で起こったことは現実に引継がれないそうだ。
だとすれば、彼は再び私たちを襲ってくるのではないだろうか、とナオは心配した。
「ああ、こいつへのダメージはほぼ無かったことになってるだろうな。『人形の力』で誰かの命を奪うことは出来ない。でも、一度気を失ったら、流石にすぐに起き上がってくることはないさ。」
キオは作業を終えた手の埃をパンパンっと払い、ナオに向く。
「それに、何度こいつが襲ってきても、俺が返り討ちにしてやるよ!ナオと一緒ならな!」
そう言って彼は、ナオに笑いかけた。
ナオは、今はそれでいいっか・・・と深く考えることを一度置いた。
扉が開けられるようになった後、ナオは弟を確認しにいくと、顔の文字は消えていたがそのまま眠っていた。
もう人形の力で眠ってる訳じゃないから、すぐに目を覚ますさとキオは言っていたが、やはり少し心配だったのでモトヤの傍らにいることにした。
「ねぇ、さっきその子が気になること言ってたんだけどさ」
ナオは気になっていたことを尋ねる
「ん?」
「お母さんが神様のところにいるって。それで、私も神様のところへ連れて行くって言ったの。ねぇ、神様って本当にいるの?」
ナオの質問に、キオは驚いた顔をし、考え込む様子を見せた。
「ああ、神様はいるぜ。なんせ、ナオの家はその神様に教えてもらったんだからな!」
その言葉にナオはビックリすると同時に混乱もした。
「えっ!?キオも神様の仲間なの?」
「そうだけど、アイツの言ってた“神様”と別人だぜ。」
ナオは更に混乱する。
「“神様”って何人もいるの???」
「俺も一人だと思ってたけど、ここに来る前に少し話を聞いたんだ。『悪い神様』がいるんだとよ。そんで、ナオが危ないって分かったから話の途中で来ちゃって、そっから先はよく覚えてないんだけどな」
キオは申し訳なさそうに頭を掻く。
ナオとキオは、ゴォーリーを連れリビングにいた。
もう何時間も過ぎたように感じたナオたちだったが、実際は10分程度だったらしい。
時計を見たナオは、改めてすさまじい体験をしたことを実感した。
部屋中を燃やす炎、それを操る魔術師のような存在、そして、それから自分を守る植物の戦士・・・。
(今日は大変だったな)
ひとしきり泣いて落ち着いたナオは、そんな小学生並みの感想を抱いた。
「よいしょっと、これで良し」
横では、キオがゴォーリーを紐のようなもので縛ってセロハンテープでグルグル巻きにしていた。
「ねえ、その子大丈夫なの?」
ナオは、さっきのことを思い出していた。
ゴォーリーはお腹を貫かれていたはず・・・人間ならば無事ではいられない。
燃え盛る火に一度呑み込まれ、気を失いかけたあの時、熱や体が燃える感覚は、偽物じゃないと思ったが・・・。
しかしキオが言うには、結界(ドールハウス)の中で起こったことは現実に引継がれないそうだ。
だとすれば、彼は再び私たちを襲ってくるのではないだろうか、とナオは心配した。
「ああ、こいつへのダメージはほぼ無かったことになってるだろうな。『人形の力』で誰かの命を奪うことは出来ない。でも、一度気を失ったら、流石にすぐに起き上がってくることはないさ。」
キオは作業を終えた手の埃をパンパンっと払い、ナオに向く。
「それに、何度こいつが襲ってきても、俺が返り討ちにしてやるよ!ナオと一緒ならな!」
そう言って彼は、ナオに笑いかけた。
ナオは、今はそれでいいっか・・・と深く考えることを一度置いた。
扉が開けられるようになった後、ナオは弟を確認しにいくと、顔の文字は消えていたがそのまま眠っていた。
もう人形の力で眠ってる訳じゃないから、すぐに目を覚ますさとキオは言っていたが、やはり少し心配だったのでモトヤの傍らにいることにした。
「ねぇ、さっきその子が気になること言ってたんだけどさ」
ナオは気になっていたことを尋ねる
「ん?」
「お母さんが神様のところにいるって。それで、私も神様のところへ連れて行くって言ったの。ねぇ、神様って本当にいるの?」
ナオの質問に、キオは驚いた顔をし、考え込む様子を見せた。
「ああ、神様はいるぜ。なんせ、ナオの家はその神様に教えてもらったんだからな!」
その言葉にナオはビックリすると同時に混乱もした。
「えっ!?キオも神様の仲間なの?」
「そうだけど、アイツの言ってた“神様”と別人だぜ。」
ナオは更に混乱する。
「“神様”って何人もいるの???」
「俺も一人だと思ってたけど、ここに来る前に少し話を聞いたんだ。『悪い神様』がいるんだとよ。そんで、ナオが危ないって分かったから話の途中で来ちゃって、そっから先はよく覚えてないんだけどな」
キオは申し訳なさそうに頭を掻く。
「ふん、『悪い神様』だと・・・?言ってくれるじゃないですか“おしゃべり人形”」
2人が驚き声の主の方を見ると、縛られているゴォーリーが、キオを睨みつけていた。
「あっ・・・」
ナオは小さく声を上げる。
「大丈夫、ペンは取り上げてるんだし手足を縛ってるから何もできやしねぇよ。」
「現希ナオ!今すぐ私を開放しなさい。私たちの神様は、全ての子どもたちの味方であり、救世主であり、決して『悪い神様』などではない!間違っているのはそちらの神様だろう!!!」
ゴォーリーはもがきながら叫び続ける。
「私は本当に、現希ナオを救うためにここに来た。遣わされたのだ!この縄を解きたまえ!」
「はん、本当に『良い神様』の人形なら子ども部屋に火を・・・、ましてや本人に放つか!たとえ現実じゃないドールハウスの中の出来事だとしてもな!」
「ぐぬぬぬ・・・」
ゴォーリーは悔しそうに口を噛む。
実のところ、彼の能力は何か書くもの無しには発動しない。故に“物書き人形”なのである。そのため、ペンを取られているこの状況では反撃できない。
(なんという失態、侮っていたこの古い人形を・・・。このままでは神様に顔向けでき・・・ん?)
2人が驚き声の主の方を見ると、縛られているゴォーリーが、キオを睨みつけていた。
「あっ・・・」
ナオは小さく声を上げる。
「大丈夫、ペンは取り上げてるんだし手足を縛ってるから何もできやしねぇよ。」
「現希ナオ!今すぐ私を開放しなさい。私たちの神様は、全ての子どもたちの味方であり、救世主であり、決して『悪い神様』などではない!間違っているのはそちらの神様だろう!!!」
ゴォーリーはもがきながら叫び続ける。
「私は本当に、現希ナオを救うためにここに来た。遣わされたのだ!この縄を解きたまえ!」
「はん、本当に『良い神様』の人形なら子ども部屋に火を・・・、ましてや本人に放つか!たとえ現実じゃないドールハウスの中の出来事だとしてもな!」
「ぐぬぬぬ・・・」
ゴォーリーは悔しそうに口を噛む。
実のところ、彼の能力は何か書くもの無しには発動しない。故に“物書き人形”なのである。そのため、ペンを取られているこの状況では反撃できない。
(なんという失態、侮っていたこの古い人形を・・・。このままでは神様に顔向けでき・・・ん?)
「さーて、お前には聞きたいことが山ほどあるんだ。まずは・・・」
キオが問い詰めようとした、そのときだった。
「ぐおおおおおおおおおお!!!!」
「「!!?」」
ゴォーリーは突如叫び、床をのたうち回る。
急変したその姿に2人は驚きを通り越し、恐怖の感情が沸き上がる。
「え、どうしたの!大丈夫!?」
「待て!ナオ近づくな!!」
ただ事じゃない様子に、ナオはに駆け寄ろうとするが、キオに飛びつかれ制止される。
「あ、あああ、ああ、神様ぁぁ・・・」
ゴォーリーは苦しそうに言葉を吐き出す。同時に彼の顔はひび割れだし、やがて散った木片が塵芥のように消えていく。
「神様ぁああ、次は、しっぱい、しません・・・からぁ、・・・おゆ、る、し・・・を・・・ぐがががあああああぁぁぁぁ!!!」
彼の顔から、腕、足、そして見えない胴体部分に至るまでヒビは到達し、
「バリバリバリバリ、メリメリメリメリ」
と、木材が割れる音が部屋中に響く。
彼の断末魔はその場にいるものすべてに届いた。
そして“物書き人形のゴォーリー”は、遂に完全な塵となったのだった。
人形とはいえ、あまりに惨いその光景にナオは目を背けつつ、寝ている弟が目を覚まし、万が一にも見えないよう覆っていた。
キオもナオのトラウマとならぬよう、目を手で覆い、耳を背中から生えている葉っぱで塞いだ。
やがて、部屋に静寂が訪れる。
キオは、もう敵がいないことを確認するとナオから離れる。
「もう、大丈夫なの?」
「ああ、多分な。これで分かっただろ、アイツらの言う神様は、絶対ナオの味方じゃないって」
「・・・うん」
キオが問い詰めようとした、そのときだった。
「ぐおおおおおおおおおお!!!!」
「「!!?」」
ゴォーリーは突如叫び、床をのたうち回る。
急変したその姿に2人は驚きを通り越し、恐怖の感情が沸き上がる。
「え、どうしたの!大丈夫!?」
「待て!ナオ近づくな!!」
ただ事じゃない様子に、ナオはに駆け寄ろうとするが、キオに飛びつかれ制止される。
「あ、あああ、ああ、神様ぁぁ・・・」
ゴォーリーは苦しそうに言葉を吐き出す。同時に彼の顔はひび割れだし、やがて散った木片が塵芥のように消えていく。
「神様ぁああ、次は、しっぱい、しません・・・からぁ、・・・おゆ、る、し・・・を・・・ぐがががあああああぁぁぁぁ!!!」
彼の顔から、腕、足、そして見えない胴体部分に至るまでヒビは到達し、
「バリバリバリバリ、メリメリメリメリ」
と、木材が割れる音が部屋中に響く。
彼の断末魔はその場にいるものすべてに届いた。
そして“物書き人形のゴォーリー”は、遂に完全な塵となったのだった。
人形とはいえ、あまりに惨いその光景にナオは目を背けつつ、寝ている弟が目を覚まし、万が一にも見えないよう覆っていた。
キオもナオのトラウマとならぬよう、目を手で覆い、耳を背中から生えている葉っぱで塞いだ。
やがて、部屋に静寂が訪れる。
キオは、もう敵がいないことを確認するとナオから離れる。
「もう、大丈夫なの?」
「ああ、多分な。これで分かっただろ、アイツらの言う神様は、絶対ナオの味方じゃないって」
「・・・うん」
「う、う~ん」
ゴォーリーが消滅し少しして、眠っていたモトヤが目を覚ました。
「お・・・姉ちゃん・・・?」
「あ、モトヤ!起きたのね!良かったぁ・・・」
ナオは、無事な弟の姿を見て先ほどの恐怖が和らぎ、弟を抱きしめた。
「んん~、お昼寝しちゃってた・・・お姉ちゃんどうしたの?」
「大丈夫、なにも無かったから、大丈夫」
モトヤは大きな欠伸をし目をこすりながら、いつもと違う姉の様子を不思議そうに見つめる
これで全部片付いた、少なくともさっきの人形に関しては。
「あれー?お姉ちゃんその子誰?」
モトヤはキオを指さす。
「え?ああ、この子はキオって言うのよ。」
「おう、よろしくな」
キオは気さくに声をかける。
「うん、よろしく?」
モトヤもあまり状況を理解できていないようだったが、とりあえず返事をした。
ナオは、気を落ち着かせこれからの話の続きをする。
「ねぇ、キオ?」
「ああ、 ナオはこれからどうしたいんだ」
ナオは一呼吸置く。
「神様に会わせて」
ゴォーリーが消滅し少しして、眠っていたモトヤが目を覚ました。
「お・・・姉ちゃん・・・?」
「あ、モトヤ!起きたのね!良かったぁ・・・」
ナオは、無事な弟の姿を見て先ほどの恐怖が和らぎ、弟を抱きしめた。
「んん~、お昼寝しちゃってた・・・お姉ちゃんどうしたの?」
「大丈夫、なにも無かったから、大丈夫」
モトヤは大きな欠伸をし目をこすりながら、いつもと違う姉の様子を不思議そうに見つめる
これで全部片付いた、少なくともさっきの人形に関しては。
「あれー?お姉ちゃんその子誰?」
モトヤはキオを指さす。
「え?ああ、この子はキオって言うのよ。」
「おう、よろしくな」
キオは気さくに声をかける。
「うん、よろしく?」
モトヤもあまり状況を理解できていないようだったが、とりあえず返事をした。
ナオは、気を落ち着かせこれからの話の続きをする。
「ねぇ、キオ?」
「ああ、 ナオはこれからどうしたいんだ」
ナオは一呼吸置く。
「神様に会わせて」
神社は今も静かだ。
人もいないのに、桜の花びらは散っている。
幾つもの人形が、東西問わずの混沌とした並びで社の壁一面の棚に並べられている。
手元のお茶を飲み残し、お盆において空を仰ぐ。
雲は西へ、太陽は東へ向かっている。
私にとってはいつも通り。
「フキさーん!」
入口となっている鳥居から、“鏡写し人形のお鏡”が近づく。
神社の静寂は、慌ただしくもどこか抜けた声によって打ち砕かれた。
「お鏡、キオは無事にナオちゃんと会えた?」
神様は、お鏡に目を向ける。
「はい!先に『他の神様』の人形が来てましたが、ナオさんがキオさんの“人形使い”になったので助かったみたいです!」
それを聞くと、神様と呼ばれた女性は立ち上がり、社の中の大きな姿見に向かって歩き出す。
「じゃあ、早く向かわないとね」
これから始まるのは、『子どもと人形の物語』。
「彼女の“ドールハウス”を閉じるためにね」
人もいないのに、桜の花びらは散っている。
幾つもの人形が、東西問わずの混沌とした並びで社の壁一面の棚に並べられている。
手元のお茶を飲み残し、お盆において空を仰ぐ。
雲は西へ、太陽は東へ向かっている。
私にとってはいつも通り。
「フキさーん!」
入口となっている鳥居から、“鏡写し人形のお鏡”が近づく。
神社の静寂は、慌ただしくもどこか抜けた声によって打ち砕かれた。
「お鏡、キオは無事にナオちゃんと会えた?」
神様は、お鏡に目を向ける。
「はい!先に『他の神様』の人形が来てましたが、ナオさんがキオさんの“人形使い”になったので助かったみたいです!」
それを聞くと、神様と呼ばれた女性は立ち上がり、社の中の大きな姿見に向かって歩き出す。
「じゃあ、早く向かわないとね」
これから始まるのは、『子どもと人形の物語』。
「彼女の“ドールハウス”を閉じるためにね」
続く