ツキノワグマ

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&font(#6495ED){登録日}:2025/07/21 Mon 09:40:32 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 10 分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- #center(){&font(#e1e1e1,#1e1e1e,b,150%){&font(#cd9c0b){ツキノ}ワグマ}} &bold(){ツキノワグマ}(月輪熊、学名: Ursus thibetanus)は、哺乳綱食肉目[[クマ>クマ(動物)]]科クマ属に分類される食肉類。 #openclose(show=▼目次){ #contents } *🌙概要 ツキノワグマは日本や中国、朝鮮半島からロシアにかけて分布している。 以前は日本のものだけをツキノワグマと呼び、大陸のものはヒマラヤグマと呼んでいた。 だが、両者が同種とわかり、日本産は亜種のニホンツキノワグマと呼ばれるようになったという経緯がある。 そのため、現在でもこの別名が使われることがある。 名前の通り&bold(){胸に&font(#cd9c0b){三日月状の月の輪}を思わせる模様を持つ}のが特徴で、体毛は黒い。 **◇形態 体毛や体型にはバリエーションもあり、赤みがかった個体や茶色みがかった個体、月の輪の存在しない個体も存在する。 また、東南アジアのツキノワグマには金色の毛色の個体まで確認されている。 クマ科全般に言えることだが、肩甲骨が発達しているため中にはヒグマを思わせる広い肩幅を持つ個体もいる。 **◇大きさ 日本にいる個体群は平均体長120cm〜140cm。体重70〜120kgほどとされ、一応はこれでも比較的小柄な部類。((より小さい熊種にマレーグマと台湾ツキノワグマの2種類がいる。ゴビヒグマやシリアヒグマもオスの大熊で150~180㎏とあまり変わらない。)) それでも体長160cm、体重150kgクラスは日本でも普通に見られるとされており、大きい場合では、体長165cm、体重200kgに至ったという記録も存在する。 また、更に寒い((寒い地域ほど大型の個体が増えやすい、ベルクマンの法則によるものという説が有力。))ロシアでは体長180cm体重250kgにもなる巨大な個体が確認された事例もあるという。 4歳からが成熊のラインだが、オスは15才くらいまでは体が成長する。 十代後半辺りから急激に衰え、20歳手前辺りに寿命を迎えるというケースが多い。 ***《日本での一般的な大きさ》 &bold(){&color(#F54738){ニュースなどで発表される国産ツキノワグマの大きさは体長1mとされ世界最小の熊であるマレーグマの平均体長120〜150cm程度と比較しても異様に小さい}}。 また、体長がマレーグマの子熊並みなのに対し体重は60kg程度とマレーグマの成熊並みである。 よく「立派なオスグマは100kg程度」と紹介されるが体長が1mぽっきりでは大変なメタボであり「山に餌がなく出没」と明らかに矛盾である。 国産ツキノワグマの場合、北海道のヒグマなどと違い体長は背中に這わせるのではなく鼻先から尾の付け根まで直線であるため体の凹凸分小さな数字になる計り方をしている。 また、学術調査や行政の計量では100kgが上限の体重計を用いているため、それ以上重い個体は100kg超として一括りとなる。 とはいえ、100kg以上の個体でも勿論具体的な記録はあり、駆除された個体の年齢などの詳しい記録も公表している場合がある。 例えば[[山形県]]と[[富山県]]によれば、概ね成熊の平均は ・&bold(){&color(#3B4EF0){オス 体長140cm 体重90kg 身長180㎝}} ・&bold(){&color(#F54738){メス 体長130cm 体重70kg 身長170㎝}} ほどである模様。 &bold(){オスの成熊であれば100㎏は中堅サイズである。} ちなみに山形県の記録は冬眠明けの痩せた時期、それも4〜5歳のやや年若い個体が多く、若干小さめな傾向となる。 両県ともに体長なら170cm体重なら180kgという記録もある。 こういった資料を見る限り、 ・&bold(){オスグマは体長130〜160cm、体重70〜130kg、} ・&bold(){メスグマなら体長120〜150cm、体重50〜80kg、} ・&bold(){立ち上がった背丈なら160cm〜2m、} ほどが&bold(){「現実的に遭う可能性があるサイズ」}と言えるようだ。 ちなみに、新しい資料ほどより小さいサイズに更新されており、かつては ・体長120〜160cm 体重60〜150kg とマレーグマを一回り大きくしたようなサイズだったようだ。 ***《巨大個体の記録》 ●日本記録級 1993年春、[[長野県]]秋山郷にて&bold(){&color(#F54738){冬眠明け直後にして体長240cm体重210kg}}にもなる巨大な個体が捕獲された。 恐らく&bold(){日本最大}のツキノワグマだろうと推測される。 体長が大きいことに加え、痩せた冬眠明けの時期での唯一の200kg級であるためである。 体重の測定値ならこれ以上の例はいくつかあるが、いずれも10月以降のメタボ期である。 &bold(){&color(#3B4EF0){冬眠前には300kg級と推定され、ヒグマと比較しても巨大な部類になる。}} &bold(){長野県は150㎏級はざら}にいる大熊の産地であり、特大サイズに、2007年秋に有害駆除された&bold(){&u(){170㎏のオス「ジゴロー」}}がいる。ちなみにジゴローの体重はNPO法人の計測。 他の巨大クマとしては以下の個体が知られている。 |産地|大きさ|捕獲時|備考| |秋田県|体長2m、体重200㎏超、オス|1966年12月|&bold(){Wikipediaの「佐藤良蔵」}のページに写真がある。| |宮城県|220㎏、オス|1967年冬眠前|| |秋田県|237㎏オス、180㎏メス|2020年代秋|マタギYouTuberが捕獲。測定値における日本最大個体と考えられる。オスグマで237kgは他の特大個体より少し大きいだけだがメス180kgは少々信じがたい数値である。| |山形県|体長165cm体重200kg|2001年10月|他にも体長170cm体重170kg、体長150cm体重180kgいずれも冬眠明けのオスグマが令和に記録がある。| |群馬県|190kg|12月|狩猟| |宮崎県|オス220kg、メス131kg|戦前、冬眠前|&bold(){九州のツキノワグマは何故か巨大である。}| |富山県|体長130㎝、体重180㎏、&bold(){メス}|2006年10月|有害駆除。オスもしくは108㎏のタイポの可能性もある。| |岩手県|200㎏超|2023年秋|有害駆除| |岩手県|&bold(){体長2m}体重100㎏|2015年5月|有害駆除| 200㎏超えの巨大個体がニュースになったこともある。&youtube(https://www.youtube.com/watch?v=UTslZzAgCUQ&list=PLHzdGw21fPIo3lBYsJJJ_O_ZWYv6hYHMW&index=1) ●各地の最大級 |産地|大きさ|捕獲時|備考| |岩手県|体長135cm体重100kg、メス|2002年6月|有害駆除| |山形県|体長140cm体重110kg、メス|令和10月|有害駆除| |秋田県|体長137㎝体重87㎏メス|夏|学術調査| |山梨県|「身長180㎝」体重140㎏|2018年11月|狩猟。体長は目測で140㎝ほど。| |新潟県|体長150cm体重150kg|2005年10月|1日に同じ大きさの個体が&bold(){2体同時に有害駆除}される。| |富山県|体長130cm体重130kg、オス|2010年10月|有害駆除。5歳と未熟なクマ| |石川県|170㎏オス、110㎏メス|冬眠前|かなり古い記録である。2020年10月に体長130㎝体重100㎏超えのオス熊の記録がある。| |岐阜県|体長142㎝体重130㎏|2024年9月|有害駆除| |栃木県|130kg級オス|夏|学術調査| |東京都|体長140cm体重120kgオスと体長130cm体重80kgメス|2016年10月|有害駆除| |東京都|120㎏超え、オス|2002年11月|学術調査| |神奈川県|体長131㎝体重110㎏のオス|2010年11月|放獣。県最大だそうだが同サイズのオスグマが5例ほどあるので単に大熊を表しているのかもしれない。| |神奈川県|体長146㎝体重76㎏メス|2020年10月|放獣| |埼玉県|136㎏|2023年冬|狩猟。目測で体長120㎝、身長160㎝。| |兵庫県|131kg、オス|2021年11月|有害駆除| |愛知県|体長145㎝体重110㎏、オス|2012年5月|放獣| |広島県|体長152cm体重135kgオスと体長139cm体重98kgメス|夏場|学術調査。| &bold(){&u(){以上の記録から、本州のどの地域でも冬眠前のオスで150kg級、冬眠前のメス100kg級はコンスタントに存在すると考えられる。}} なお、国産ではないが&color(#F54738){最も巨大な亜種であるチベットツキノワグマだと体長2.5m体重318kg}の例もある。 ***《体重の季節変動》 クマは冬眠中に痩せるため、冬眠直前から明けるまでに体重が3割減少すると言われている。 また、オスの場合は夏の繁殖期になると食事そっちのけでメス探しとオス同士での喧嘩に励むため更に痩せていく。 ちなみに冬に見かける個体は、何らかの理由で冬眠し損ねている場合が多い(通称:穴持たず)のでやはり痩せる(そして殆どは空腹や寝不足で機嫌が悪い)。 なので、&color(#F54738){冬眠直前が一番体が重く、真夏になると体重もその半分近くまで痩せることになる}。 そのため、ツキノワグマの体重については計測された時期もかなり重要である。 (例えば、上記のように&bold(){冬眠前なら300kg}前後の大台にも乗っていた可能性も推定されている。) **◇豆知識 ・かつては&font(b,#60EE3C){ニホングマ}と呼ばれていた。 ・[[金太郎]]と相撲を取った熊も分布地的にこの種だと言われているようだ。 ・水戸黄門を助けた熊もやはり分布地的にツキノワグマとされている。 ・[[青森県]]に移住した津軽アイヌと呼ばれる本土アイヌからは「キムンカムイ」と呼ばれイオマンテ(熊祭り)の対象だった。 ・かつては[[ニホンオオカミ]]と共に日本の主要な猛獣として知られ、人畜に被害を与えた際は&bold(){「熊荒れ」}「狼荒れ」と呼ばれていた。 ・[[長野県]]には&bold(){「鬼熊」}と呼ばれる熊の妖怪が伝承されている。年を取った熊が妖怪化したもので、夜な夜な家畜の馬などを食害するようだが、下記の家畜被害を見る限り&color(#F54738){妖怪化の前後で行動が変わっていない}ようである。単にツキノワグマの大型個体を鬼熊と呼称しただけかもしれない。 *🌙戦闘力 クマとしては確かに小柄の種類((他の猛獣との比較だとジャガーや小型の虎くらいのサイズである。))とはいえ、日本の本州においては事実上生態系の頂点に立つ肉食獣である。 「&bold(){ククク…奴は日本のクマの中でも最弱}」というのも嘘ではないが、日本国内では比較対象がヒグマしかいないため数値上はあちらに劣るというだけに過ぎない。 &s(){そもそも分布域は綺麗に分かれているので、本州以南ではヒグマと比べてもあまり意味はない…。} 尚、小柄なだけあってか非常に敏捷性が高いという長所もあり、移動力もある。寧ろ、活動範囲の広さ故に脅威となるケースも挙がっている。 ・&color(#F54738){体長1メートルほどのメスグマでも成人男性のふともくらいの生木をへし折ったり猪用の檻の鉄格子を引きちぎるのは余裕であるため、小柄な分むしろ捕まえ辛く厄介という考え方もできる。} ・&color(#3B4EF0){ジャンプはやや苦手なようだが2.5メートルの高さに届くため、体長50cm程度の小熊に跳びつかれて大人が失明させられた事例も複数存在する。} ・&color(#F54738){牙で1cm弱程度の鉄の棒は切断することが可能。} 2024年12月の秋田県のスーパーでは、ツキノワグマが立て籠もった際特注クマスーツをはじめ完全武装の[[機動隊]]が対応に当たったが、突入してクマを取り押さえるなどはできなかった。 これはクマスーツで鋭い牙や爪を防げるとしても、膂力による衝撃は受けてしまうため。&color(#F54738){プロボクサーのグーパンチや成人並の体重で踏みつけ(しかも自動車並みのスピード)されては防具を着込んでも厳しい。} ヘルメット越しでも頭部に大きなダメージを受けて亡くなったというケースも多数存在する。 そんな訳で&color(#F54738){&bold(){一人一人が武道の有段者など腕利きの格闘家である機動隊員であっても、クマの傍に突入して素手で叩きのめすのは困難であるとされる}}。 [[石川県]]でもツキノワグマの立て籠もりが起きているが、やはり機動隊などが突入することはできず、最終的に猟友会によって駆除されている。 また、同県では自衛官が襲われて重症を負ったケースも有る。 &bold(){頭に20発の散弾銃の弾が入っていても元気に暴れていた事がある他、子連れの母熊の場合胸に2発猟銃を打ち込まれても数日生きて走っていた事があるなど生命力も非常に高い。} 余談だが、&bold(){熊爪や牙による筋肉や血管の断裂はマッチョな人ほどハイリスク}である。 マッチョな人ほど断裂する筋肉量が多く血管が太く、血流も多いためである。 また、筋肉が断裂すると物理的に動けなくなる上、傷完治後も運動能力低下などの後遺症のリスクがある。 同様に血管が太く、血流の良い人ほど出血が多くなる。出血が多くなると当然死亡リスクも高くなる。 **◇パンチ力 ツキノワグマのパンチ力はせいぜいボクサー並みというデータも存在する。 ただし、こういった測定値は大抵動物園の個体に餌か何かを与えてやらせたケースが多い。 &bold(){動物園の動物は基本どんなに怠けていても、餌は十分もらえるためこういった測定には本気を出さない場合がほとんどである。} 例えば本来は時速120㎞のチーターでも動物園の計測だと時速65km程度という記録も存在する。 ただ、これを鵜呑みにしたのでは時速90Kmのインパラは捕まえられないことになり明らかにおかしい。 ((野生個体だとボツワナでチーターに加速度計を付けて測定した実験では、人間にあっさり捕まる程にチーターの中では鈍くさい個体でも時速96kmの最高速度と120W/㎏の出力質量比を叩き出し、研究者から、「藪が少ない地域だったらもっとスピードは出るだろう」と太鼓判を押される程。)) また餌をもらうためのパンチと敵意が明確にある時のパンチでもまた異なってくるだろう。 日本ツキノワグマ研究所の米田一彦氏によれば、ツキノワグマのパンチ力は &bold(){&color(#3B4EF0){80kg以上のオスと100kg以上のメスは人間の頭部を破壊して一撃必殺可能}} であるとのことである。 [[十和利山熊襲撃事件]]におけるスーパーKは84kgとギリギリでありながらヘルメットごと被害者の頭部を破壊していた。 また、このサイズのオスのツキノワグマには体重200〜400kg級になる成豚の食害例も複数あるため、人間の力の及ぶところではないだろう。 50kg級の小型のメスグマにおいても、サフォーク種という千代の富士くらいのサイズの羊を捕食した事例があり((反撃や逃走が可能な広い放牧場))そのため、このくらいのサイズにもなれば一撃必殺とまではいかずとも人間の殺傷は決して難しい話ではないだろう。 **◇運動エネルギー ツキノワグマ、[[大谷翔平]]、力士の全力疾走の運動エネルギーを計算してみよう。 ・ツキノワグマ(体重50kg/時速50km)⇒81×10⁴J ・大谷翔平(体重95kg/時速33km)⇒67×10⁴J ・大の里(体重190kg/時速22.5km)⇒63×10⁴J &bold(){50kgと小型もしくは亜成獣熊を想定したがそれでも大谷選手より運動エネルギーが大分大きいことがわかる}。体重の大きな大の里が以外にも運動エネルギーが比較的小さいが、これは体重は1乗に対し速度は2乗されるためである。 さらに、&bold(){ただ運動エネルギーが大きいだけでなく1点に集中してくる。}大谷選手の全力疾走を優に超えるエネルギーが顔や胸腰膝などに集中するため、タックルの一撃でも人間には重大な一撃になることは間違いない。 一般的にスポーツ選手の記録は整備されたフィールドで装備とコンディションを整えた上でのものなのに対し野生のツキノワグマの記録は山道を全裸で雑に走ったときのものなのでそのあたりも違いが出るだろう。 また、ツキノワグマの体重は上記の通り50kgがボトムであり、新潟では車と並走した例もあるため実際には上記より幾分大きな運動エネルギーになることが予想される。例えば&bold(){80㎏のツキノワグマが時速60㎞で走れば運動エネルギーは187×10⁴Jと大谷選手の3倍近くなる。} *🌙食性 **◇野生下において どんぐり食のイメージがあるがこれはどんぐりの実がなる秋だけである。 基本的に食性については個体ごとの「好み」による部分も多く一概には言えない。 …とはいえ一応一般論のようなものは研究されている。それによると ・春…ブナの新芽や去年の秋に落ちた堅果類(どんぐり)の残り、木の芽、凍死した鹿やカモシカなど有蹄類を食べる。 ・夏…初夏には鹿の新生児狩りやアリ・ハチなど昆虫類を多く食べる。他にヤマグワの実もよく食べる。 ・秋…皆さんご存知どんぐり(堅果類)他に栗もよく食べる。 が主な食性であり、季節ごとに得られる物を食べている。 …が魚が安定して捕れる池などがある場合魚しか食べない個体もいるなど実は好き嫌いが激しい生き物でもある。 最近ではここに罠に掛かった鹿やイノシシを襲うパターンが加わっているため、肉が好きな個体は肉食率が高くなっていることが予想される。 ・ツキノワグマは堅果類の種子散布の役割を担っていることが最近判明した。 これはクマの生態系ニッチを明らかにした画期的な研究で北欧でヒグマを研究しているクマ研究者も興味を持ったそうだ。 草食寄りとされる場合が多いが、勿論肉も食べる時にはきっちり食べる。一般的に冬眠明け〜初夏にかけては腐肉食もしくは子鹿狩りで肉食性が高い傾向にある。 鹿やカモシカ、猪といった草食獣の捕食に加えて牛や豚など大型家畜の食害例も存在する。実際に岐阜県などを調査した海外の研究者もカモシカの捕食が複数回確認されていて、&color(#3B4EF0){「カモシカの唯一の捕食者」}とされている。 ・[[滋賀県]]で野生のツキノワグマがカモシカ狩りをする映像がで公開されているが、ツキノワグマの食肉目としての1面を垣間見ることができる。youtube&youtube(https://www.youtube.com/watch?v=m6u_4s1tJfU&list=PLHzdGw21fPIo3lBYsJJJ_O_ZWYv6hYHMW&index=9) ・[[兵庫県]]では罠にかかった鹿を襲って食べるケースが頻発している。 ・↑&bold(){鉄の檻を引き裂いて中にいる鹿を取り出した}そうだ。 ・&bold(){ニホンジカの新生児が産まれる初夏にはオスグマを中心に積極的に捕食するという調査もある。}これはニホンジカをエゾシカに変えればヒグマ同様の生態である。 ・&bold(){炭素同位体の研究ではオスの大熊に肉食性の高い個体がいることが分かっている。} ・海外では水牛を捕食した事例が知られている。 ・他にも海外では猿や大型カモシカ、マレーバクやイノシシなど様々な動物の捕食例が知られている。 以上のツキノワグマの生態を踏まえると、&bold(){&color(#F54738){種子散布と有蹄類の機会捕食者}}の「両刀使い」が生態系におけるニッチとなるだろう。 機会捕食者で有蹄類の個体数調整に役立つのか?という疑念もあるだろうが、ツキノワグマはヒョウやオオカミなどに比べると体が大きく、食べる量も多い。 そのため、鹿の新生児やウリ坊を狩るのみといった程度の捕食者であっても、単体のニホンオオカミやオオヤマネコ程度には捕食者として機能する可能性がある。 ***《ツキノワグマはどの程度捕食者として機能するのか》 ツキノワグマとニホンオオカミやオオヤマネコの間には約5.3倍の体重差がある。また、食べる量も体重比通りと仮定しよう。 ロシアでの調査ではツキノワグマは85%草食とされている。つまり15%が肉食である。これが国産ツキノワグマにも当てはまると仮定する。 一方ツキノワグマが食べる量の5.3分の1(ニホンオオカミやオオヤマネコが食べる量)は18.9%である。 かなり雑な推定だが、概ねツキノワグマの肉食量は単体のニホンオオカミやオオヤマネコと同等程度と言えるだろう。 ネックになるのは肉食に計上される昆虫、魚、スカベンジャーの比率がツキノワグマの場合かなり大きいだろうということである。無論ニホンオオカミやオオヤマネコも昆虫食やスカベンジャーはするのだがその割合は大きくは無いだろう… いずれにせよ、&bold(){体格差を考えればツキノワグマでも中型捕食者程度には機能する可能性が示された。} 下記のように、ツキノワグマの場合体格が大きいため大猪狩りなども可能と考えられるため、こういったニホンオオカミには多分難しい捕食者ニッチも考えると&s(){死神代行}&bold(){&color(#F54738){「ニホンオオカミ代行」くらいにはなる可能性がある。}} また、上記の通りオスの大熊に肉食性が強い個体が多いことがわかっている。ここから考えてみよう。 「オスの大熊」と言っても100kg級から240kg級まで幅広い記録がある。ピラミッド型の分布と考え130kg級を平均としよう。 肉食率は上記の15%の倍30%ほどとする。 130kg級の30%は40kg級になり、これはヒョウやピューマ、チーターなどに匹敵するサイズである。 次にオスの大熊の数を推定しよう。2万匹と推計されるツキノワグマのうち半分がオス、8割が成熊と仮定する。 栃木県での調査ではオス成熊47匹中11匹(23.4%)が100kg級以上だった。学術調査には小物やガリガリばかりかかることや痩せる春夏の調査であることを加味してオス成熊の35%ほどが100kg級以上としよう。 2万×80%×50%×35%=2800匹 以上をまとめると&bold(){&u(){ツキノワグマのオス大熊は肉食獣としてはヒョウやチーターなどに匹敵し、その数は2800匹である。言い換えるとヒョウやチーターが日本には2800匹ほど生息しているという事でもある。}} オス大熊は体格が肉食動物としては規格外サイズのため、肉食率3割と控えめな予想でもメジャー級肉食獣に匹敵する結果となった。また、100kg級以上はさほど珍しいサイズではないため、オス大熊のみに捕食者としての役割を求めても十分な個体数が確保できる。 アジアのチーターは生息数80匹、アフリカまで合わせた総数も7000匹程度である。近縁種のヒョウも各国で数十〜数百匹である。 1匹1匹の肉食率は小さくとも、ツキノワグマの場合、生息数が最低でも1万匹と推計されるため、数で挽回できる可能性がある。日本の本州にヒョウが100匹いたとしよう。これはアムールヒョウの生息数と同等である。一方ツキノワグマは推計の下限である1万匹とする。 ツキノワグマが月1匹の鹿を狩るとする。ヒョウは狩りの名人であるが、獲物に恵まれない日やウサギを狩る日もあるため3日に1匹鹿を狩るとする。月にすると10匹。 ツキノワグマもヒョウも8割が成獣(成熊、成猫)とする。 &bold(){1月に狩る鹿の数はツキノワグマが1万×80%=8000匹に対しヒョウは100×80%×10=800匹となりツキノワグマの方が10倍多いことになる。} &u(){これは、生息数と肉食量以外は条件を揃えたため、生息数100倍を肉食量だけで跳ね返す必要があるためである。}例えばヒョウ1匹が月に200匹鹿を狩るなら合計で月に16000匹鹿を狩ることになり、生息数を跳ね返すことができる。 &u(){また、この計算法なら肉食の比率は事実上無視できる。ともかく鹿を狩る実績をある程度コンスタントに出しさえすれば、後は数の力である。逆に言えば、絶滅危惧種の大型ネコに並ぶためには1/100の数の鹿を狩るだけでよいわけである。} ツキノワグマはあくまでも草食主体の雑食であるが、食肉目として、「狩りのための体」で産まれる。体が大きく生息数が多いことを活かして「捕食者の側面」を切り取ると中大型捕食者に匹敵することが示唆される。 **◇家畜の食害 体格差も考えてか主に幼獣を襲うケースが多い。 だが、&color(#F54738){&bold(){1999年[[栃木県]]で体重90kgのツキノワグマが種豚(体重300kg級)始め複数の成豚を捕食した例もある}。} その他 ・2022年[[長野県]]で豚3匹が食害される。&youtube(https://www.youtube.com/watch?v=YYHkkYOq7cQ&list=PLHzdGw21fPIo3lBYsJJJ_O_ZWYv6hYHMW&index=8) ・2017年以降[[秋田県]]でも子牛の食害事件が頻発している。 ・&bold(){&color(#3B4EF0){秋田では牛豚を食われて廃農するケースも複数出ている}。} ・2007年には[[宮城県]]&bold(){仙台市}で子牛が食害される。 ・1997年には[[東京都]]でジンギスカン用の大型羊7匹が食害される。 ・鶏の食害と廃農は全国で例がある。 ・↑島根県では体長60cm体重20kgの子熊が金網を破って侵入し鶏を食害した例もある。 以上の事例などから&bold(){自重の2倍から3倍程度の獲物は問題なく狩れる}と思われる。 体重200kg級以上の豚や肥育牛を仕留めた事例から、オスの大猪や角の生えた雄鹿も捕食できる可能性が高く、ニホンオオカミとは違った捕食者ニッチを占めていると思われる。 **◇人食い ***大規模事件 日本最大の熊害事件はヒグマによる[[三毛別羆事件]]とされるが、&bold(){&color(#F54738){ツキノワグマも江戸時代に三毛別を超える11人の人間を捕食した記録がある。}} 現在の青森県八甲田山でのことである。 仕留められたツキノワグマは体長160cmの高齢のオスグマだったと言われている。(「弘前藩庁護国日記」がこの事件の大元の出典とされている。)[[青森県]]で解説する。 比較的最近の有名なツキノワグマによる大規模人食い事件に[[十和利山熊襲撃事件]]、&color(#3B4EF0){戸沢村の人食い熊}([[山形県]]で解説)がある。 ***小規模事件 ヒグマの人食い事件が大きく報じられるのは有名だが、&bold(){ツキノワグマの場合、人食い事件は婉曲表現だったりそもそも報じられない場合もあるなど対応に大きな差が見られる}。 上記以外の単発の人食い事件に以下の事例がある。 ・1949年30代女性食害。[[石川県]] ・1969年30代男性食害。[[福島県]] ・1979年30代男性食害の可能性あり。[[秋田県]] ・1983年40代女性食害。[[秋田県]] ・1989年70代女性食害。[[福井県]] ・2000年60代男性食害。[[山梨県]] ・2006年50代男性食害。[[長野県]] ・2007年60代男性食害。[[秋田県]] ・2013年70代男性食害。[[福島県]] 以上、タブーとされるケースが多いと思われるツキノワグマによる人食い被害だが、&bold(){&u(){漏れ聞こえる例だけで9例もある}。} これらが「氷山の一角」というのは当然として事件のあった地域や年代から&bold(){、決して東北の一部の話でも「近年の異常行動」でもない。}((3割程が秋田ではあるが…)) &u(){2013年福島県の事例は捜索隊の&color(#3B4EF0){警官二人を含む男性4人に重軽傷被害を出すなど二次被害も大きかった。}} 1979年の秋田県、30代男性のケースは「腹をえぐられた」という表現で記事になった。これは内臓などを食害された際の婉曲表現である。一方、この青年は「重態」つまり当時の医療では長く保たないが一応息はあったとのことである。近縁種のアメリカクロクマには被害者が意識のある状況で食害に及んだケースがあるものの、「可能性あり」という表現にした。 1983年秋田県の40代女性のケースは体重わずか40kgの母熊である。熊研究者からも「母熊にしては小さすぎる」と言われているため栄養失調に耐えかねて犯行に及んだと考えられる。 2006年長野県の50代男性のケースも子連れ母熊の犯行である。長野であればメスでも100kg級の可能性も十分あるが、50kg級の小物だった可能性の方が高い。 上記2例は小型でガリガリのメスグマでも肉体労働に従事する壮年の男女を熊餌にできることを示している。 ちなみに2000年の山梨県の事例は海外の研究者により詳細が調査され、論文も発表されている。Angeli,C.B.2000.Death by Asiatic black bear in Japan :a predator attack ? International Bear News 9(3):10-11 *🌙人的被害 人食いを除いた大規模な人的被害に以下のものがある。 ・&bold(){&u(){1953年、富山県で男女13人が重体、重軽傷を負う大規模被害が出た。重体のものは事件後すぐ死亡したとされる。}}この被害者数は&color(#F54738){&bold(){三毛別ヒグマ事件を大きく超える日本最大級の事件である。}} ・1951年、山梨県で&bold(){男女10人が重軽傷}。こちらも被害者数だけなら三毛別並みである。 ・2009年、岐阜県で被害者数10人を出した&bold(){乗鞍岳熊襲撃事件}。[[岐阜県]]で解説。 &s(){三毛別級がいっぱいだ} 人食い同様、若年・壮年男性の重症死亡事例もツキノワグマの場合大きく報じられないが実際は毎年多数の事例がある。 高齢化で山間部にお年寄りが多く居住していることと、お年寄りの人的被害が多すぎて比率が低くなっているだけである。 ・2023年40代男性死亡[[奈良県]] ・2024年40代男性重症[[山口県]] ・2024年40代男性死亡[[福島県]] ・2024年20代と40代の男性重症(いずれも警官)[[秋田県]] ・2025年46歳男性(現場作業員)死亡[[長野県]] ・2025年29歳男性、39歳男性(いずれも自衛官)重症[[岩手県]] のようにざっと挙げただけでも近年だけでも全国で例がある。 残念ながら亡くなってしまわれた方には背後から頭や首に強烈な一撃を加えた形跡が無かったため、あくまで熊側からすればだが、&bold(){うっかり命を奪ってしまった}事例であと推測される。 昔は若い人の被害が多かった。 また、&bold(){&color(#3B4EF0){&u(){人的被害の約95%死亡事例についても80%ほどがツキノワグマによるものである。実はヒグマの人的被害が全くなかった年すら存在する。}}} &bold(){&u(){この被害者数の違いは熊の生息頭数では説明がつかない}。} ツキノワグマの生息数は2万匹、ヒグマが1万匹と推計((両者1.2万匹とする推計もある))されているため、熊口比通りならツキノワグマ65%、ヒグマ35%ほどが適正となる。 &bold(){ヒグマの方が死亡率が高いとされている死亡事故でさえツキノワグマが80%を占めている。} また、仮に熊口比通りだったとしてもツキノワグマとヒグマの凶暴性には差がないことになる。 本州と北海道の面積比も概ね3:1のため、&u(){熊口密度はむしろ北海道のほうが高い。} 人口密度については本州452人/平方kmに対して北海道65人/平方km。これだけ見ると人口密度に大きな差があり、それが遭遇率に影響しているように見える。 北海道と、特に人的被害の多い秋田県と岩手県を比較してみたい。((他に、長野県や福島県などが「大御所」と言える。)) &u(){この2県だけで例年北海道の10倍を超える人的被害を叩き出している。} 各指標を比べてみると… ・人口 北海道520万人vs秋田&岩手200万人 ・人口密度 北海道65人/平方kmvs秋田&岩手75人/平方km ・熊口 北海道1.2万匹vs秋田&岩手8000匹 ・熊口密度 北海道0.16匹/平方kmvs秋田&岩手0.29匹/平方km &bold(){&u(){人口と熊口は北海道が圧倒的に多く、密度は秋田と岩手がやや高いものの、僅差である。}} &u(){&color(#60EE3C){人口密度についても被害の特に多い2県なら北海道と大差ない数値が出るのである。}} &bold(){幸いなことにツキノワグマに女性や子供が襲われるケースはほとんど無い。また、稀に女性が襲われた場合40代以上の女性が軽症というケースが大部分を占める。} &s(){ツキノワグマはフェミニストだった…!?} **◇襲われたらどうするか 最も重要な問題と考えられるテーマである。まず、ツキノワグマによる攻撃パターンには主に以下のものがある。 ・攻撃の意思そのものが希薄…「熊の囁き」と呼ばれることもある。顔や首を狙わず腕や足などを甘噛する。背後から抱きつくこともある。小型なら間違いなく軽症。 ・攻撃の意思が弱い(警告攻撃)…子連れの母熊が良く行う。顔や首等を狙うが、本気の攻撃でなく、真正面から来る。軽症が基本だが重症死亡に繋がる場合もある。 ・人狩り熊…人間を獲物と見なしている場合である。背後から強烈な一撃を頭に食らわせる。 &u(){ニュースなどにしばしば顔を出す「ツキノワグマと素手で&bold(){格闘}して撃退」などというのはそもそも攻撃の意図が弱いか、無かったパターンと考えられる。} &color(#F54738){こういった場合特に格闘などせずとも「攻撃」は2〜30秒で終わり、軽症で済む可能性が高い。} 上記の人狩り熊のパターンからも、&u(){格闘になる辺り熊は本気ではない}こともわかる。 では、どうしたらよいか?本気の攻撃でなくとも顔や腹に当たればただでは済まない。熊研究者により以下の傾向が知られている。 ・武器の有無に関わらず戦うと重症化しやすい。 ・男性より女性のほうが軽症率が高い。 &u(){女性の場合、本能的に熊爪や牙を防ぐ姿勢を取るため、重症率が圧倒的に低いことがわかっている。}&bold(){&color(#3B4EF0){防御姿勢}}と呼ばれる姿勢である。地面にうつ伏せになり首を手でガードする姿勢である。リュックやヘルメットがあればなお良い。立ったまま顔を腕で覆うだけで意味がある。 こう書くと、「でも戦って熊を怯ませたから助かったケースも有るんじゃないの?」という声もあるだろう。 しかし、眼の前に熊が現れて「お前を食わせろ」と言ってきた時に「どうぞ召し上がれ」となる人が&s(){富士の樹海を除いて}果たしているだろうか?&bold(){大抵の人は蹴飛ばすくらいの抵抗はするだろう。重症死亡事例も大抵は戦った結果である}。 例えば上記の長野県における死亡被害の46歳男性の場合熊と組み合って転がっていたため相当に激しい格闘になっていたと考えられる。 また、武器を使って戦ったが押し切られ重症になったケースも有る。 ・2014年東京、30代男性が登山用ステッキで戦うも重症 ・2019年長野、30代男性が登山用厚底靴で蹴飛ばすも重症 &bold(){ナタで戦っても重症化しやすい}ことが知られている。 戦うと顔がガラ空きになる。 ・1959年新潟、20代男性が素手で格闘するも顔と手に重症 当時の医療技術ならブラックジャックのような容貌になっていただろう。現代ならサラッと治せる怪我でも一昔前は重大な負傷だった。&bold(){現代においても失明と表情筋などの断裂は治せない}。 20代30代の登山家なら「自衛官くずれ」くらいのことは言えそうである。行軍訓練を自発的に行っているようなものである。 &bold(){&color(#3B4EF0){大抵の場合蹴飛ばすくらいの格闘はしていると思われるため、こういったケースがむしろスタンダードと考えられる}。}登山や山仕事ができるあたり高齢であっても相当なフィジカルがあるだろう。 「格闘して撃退」などとされる事例についても、新聞記事などは簡潔な表現になるため、映像記録があった場合や、同行者などの客観を含めて詳細なインタビューがある場合とは大分印象が違う。 ・2023年岩手、50代男性が襲いかかってきた母熊を先を尖らせた木の棒で格闘して撃退。 このケースはYouTubeに一部始終が公開されニュースにもなった。&bold(){&u(){このケースは「撃退」とされているが、実際にはツキノワグマが男性を押し倒し、甘噛したあと勝手に逃げていったのである。}} 実際、被害男性自身が解説動画で「熊のスピードに負けた」としている。 &bold(){「格闘して撃退」となる事例でもほとんどの場合、蹴り飛ばすなどしているにも関わらず1度は押し倒されている}。下記の空手家のケースも「ふっ飛ばされた」などの証言があり、一度は押し倒されていると思われる。 軽症で住んでいるのも、熊側に攻撃意図が低いか全く無かったからである。例えば、上記の岩手県50代男性の場合も押し倒されノーガードになった際、噛みつかれ、爪を刺されたが、首顔腹等は狙われず、甘噛、刺した爪で切り裂くこともなかった。 &u(){押し倒した瞬間に殺そうと思えば殺せたのである。} &color(#F54738){「格闘して撃退」とされる事例のほとんどは戦った意味が薄いばかりか、顔をさらして重症死亡のリスクを上げているのである。}((この小柄な母熊からはたっぷり猶予時間を与えてから飛びかかる、木の槍で鼻を真っ二つにされているにも関わらず甘噛で済ますなど人間への配慮が伺われる。警告の意味合いが強いため、無駄に相手を怒らせたく無いのだろうか。)) とはいえ、防御姿勢は万能ではない。ヘルメット無しで後頭部を叩かれでもすればうっかり両目失明だなんて可能性もある。 ・2020年埼玉、クライミング中の男性を母熊が襲うも登山用厚底靴で蹴り落とすなどして撃退。手を脱臼の軽症。 戦ったのが功を奏した稀な事例と考えられる。YouTubeに公表され世界的にもバズった「Bear attack climber」である。 この事例は&u(){崖を登ってくる熊を蹴り落とせる、いわば地の利があったこと及び、防御姿勢が難しいだけではなく滑落の危険性があった。戦うしかなかった事例である。} ただし、攻撃パターンとしては小熊を逃がす時間稼ぎや威嚇のための警告攻撃であり、そもそも2〜30秒で撤退する予定だったと思われる。 この男性はクライマーで肉体的には格闘家顔負けであるが、登山用厚底靴で体重をかけて2回蹴り落としをかけたが多少怯ませたかどうかといったところである。逃げるのは上記の通り予定調和であるから、&bold(){ツキノワグマを怒らせることすらできなかった}と言うべきか。 最後に、ツキノワグマを目つきで撃退した空手家の事例を紹介しよう。 ・山でトレーニング中の空手家63歳男性に体長190cmのツキノワグマが襲いかかるも格闘し目つきで撃退。空手家は足や頭に軽傷。 体長190cmが本当に体長なのかそれとも身長なのかで大分大きさが変わる、体長190cmならロシア産なみであるが、身長190cmなら体長は150cm程度になり、体重は80kg級の可能性もある。 いずれにせよスーパーK以上の体格はありそうである。 同じ格闘家であっても&u(){相撲やラグビーのような直接体をぶつけ合うレスリング系はツキノワグマには相性が悪い}と考えられる。組み合った時点で切りつけ放題だからである。また、体重が重いと地面に倒された場合自重で相当にダメージを負うだろう。 &u(){比較的好相性と考えられるのが空手やキックボクシングのようなフットワーク・打撃系である。この空手家の場合もフットワークで攻撃を躱し、打撃を叩きこんだと考えられる。} このケースも格闘になっているあたり熊の囁きもしくは警告攻撃と思われる。また、繁殖期のオスのツキノワグマにはしばしば目を潰される個体がいることが知られている。目つきで怯む生き物ではない。 ただし、&bold(){&u(){スーパーk以上の体格があるため、ヒグマ同様じゃれ付きでも重篤な攻撃になる可能性が高い。つまり、防御姿勢を突き破って深刻なダメージになりうるケースである。この場合も戦うしかなかった、そして戦って勝ったケースと言えるだろう}。} とはいえ、&color(#F54738){&u(){ツキノワグマの警告攻撃などの場合、ヒグマと違って防御姿勢で耐えることができる場合も多い。熊を殴れるなら、その拳で顔を覆ったほうが無難なのが現実である}。} 少なくとも、体長120cm程度の大型犬サイズの母熊が真正面から向かってきた時は慌てず騒がず伏せたほうが良いだろう。 ***《熊スプレー》 防御姿勢の他に有効打になるのが&bold(){&color(#F54738){熊スプレー}}である。&u(){国産のツキノワグマにおいても複数の熊研究者が熊の攻撃をこの熊スプレーで退けている}。 ただし、値段が高価なこと、またスプレーを組み立てて構える時間が必要なのがネックである。 熊研究者たちは自爆に近い形で熊スプレーを使うケースも有るため風向きはさほど重要ではないようだ。また、自爆した際の健康被害についても熊研究者の中には何回も自爆している人もいるため少なくとも直ちに健康に悪影響が出ることは無い模様。そもそも熊も人も傷つけないための熊スプレーだしね! **◇二次被害 奥日光ではツキノワグマ出没を受けて修学旅行がキャンセルになるなど、人的被害に対する二次被害として観光客のキャンセルも発生している。 こういった点も知床や三毛別事件跡地が観光名所になっているヒグマとの大きな違いと言える。 北海道という特別な場所が非日常感を演出してくれる効果があるのだろう。 他に、ヒグマの場合何m何百kgというサイズで解説されるがこういう巨獣に襲われる姿は少々想像し辛いのではないだろうか。 一方、ツキノワグマは普通サイズは大型犬程度、大型でもせいぜいヘビィ級の格闘家程度のサイズを解説されるため、襲われた際の痛みやダメージを想像し易いのではないだろうか。 実際、追記者はトラやライオンよりヒョウやオオヤマネコのほうが出会った時を想像すると怖い。 *🌙遺伝的性質 &bold(){国産のツキノワグマはツキノワグマの枠内にいながらも大陸産のツキノワグマより原始的}でありやや特異な位置にいる。 そのため、日本固有種とまでは残念ながら言えないようだが遺伝的に個性があるため&color(#3B4EF0){エゾヒグマが海外産と同じ遺伝子であるのとは対照的にニホンツキノワグマは日本にしかいないことになる}。 そもそもツキノワグマ自体が熊の原型に近い骨格とされるため国産のツキノワグマはいわゆる「[[生きた化石]]」に近いと言える。 遺伝的には東北から北陸までの&bold(){東日本グループ}、&bold(){紀伊半島・四国のグループ}、中国・近畿などの&bold(){西日本グループ}に分かれる。 最大記録はともかく平均的な大きさは地域ごとにほとんど格差はなくなんなら九州で220㎏の記録もある。 *🌙各地のツキノワグマ **◇九州のツキノワグマ すでに絶滅してしまったツキノワグマの個体群。 九州産のツキノワグマは冬眠前のメタボとはいえ130㎏級の雌熊が確認されるなどベルグマンの法則に反して大型の個体が多いことやそもそもツキノワグマは九州から北上してきたことなどから大陸産大型亜種とのハイブリッドではないかといわれている。 ***《最後のツキノワグマ》 九州の個体は1987年に[[大分県]]で捕獲されたのを最後に確認できず、2012年に絶滅が宣言されている。 なおその個体はDNA鑑定の結果、ミトコンドリアDNAが[[福井県]]嶺北地方から[[岐阜県]]西部にかけて分布しているものと同一という結果が出ており琵琶湖以東から九州へ移入された個体、もしくはその子孫と考えられている。 確実な最後のツキノワグマは1941年12月宮崎県における133kgのオスグマである。やはりデカい。 ***《絶滅までの経緯》 時代ごとにツキノワグマの分布域を整理すると以下のようになる。 ・縄文時代…九州全土に分布していた。北九州市からも分布の証拠が出土しているため、福岡市にも分布していたと考えられる。 ・江戸時代…宮崎県、熊本県、大分県の一部にまで分布域が縮小。&bold(){このときはまだ熊本県に熊がいた}。 ・明治時代以降…祖母山系にほとんど分布が限定される。 少なくとも明治時代には九州ではツキノワグマは絶滅危惧種となっていたようだ。 九州のツキノワグマが早くから絶滅危惧であったことは&bold(){熊塚}という文化に見て取れる。これは&bold(){熊一匹}を捕殺する度にその遺骨の上に塚を建て慰霊を行う文化である。 &bold(){鹿や猪は千匹事}であったことを考えると相当に貴重な生物であったことが伺われる。 他に、乱獲を防ぐためか熊の祟なども伝承されていたようである。 上記のように縄文時代から減少が進んでいたことや保護に近い活動が古くからされていたため、絶滅の原因は人間の乱獲だけでは説明がつかない。九州では温暖な気候によって林業が発展し、クマの餌となるドングリの生る広葉樹林が伐採されてスギやヒノキなどの植林が進み、森の分断も進んだことで越冬が難しくなったためと考えられている。 また、九州は面積が小さく、大型食肉目であるツキノワグマの分布には適さないことも個体数減少に拍車をかけたとされる。 上記の事情は四国のツキノワグマにも全て当てはまる。九州のツキノワグマが祖母山系に追い詰められたように四国のツキノワグマも剣山系に追い詰められ、生息数はわずか20匹程度である。 ***《「熊」本の由来》 よりによって熊の名を冠する[[熊本県]]が九州にあることについては、九万の谷から水が流れこむ「九万川」と呼ばれた「球磨川」があることから 元々は特産の蓮根の良くとれる湿地を表す「隈」を用いた「隈本」と書いたが、隈という字は&ruby(おか){「阜」}と「畏れる」が複合したものなので 大名の居城としては相応しくないとして強い「熊」に加藤清正が変えたとされる。 ただし、上記のようにこの時代はギリギリ熊本にツキノワグマは生息していた。 **◇ロシアのツキノワグマ ロシアのツキノワグマは国産のツキノワグマよりはるかに大きくなる。 10数個体の簡素な調査で体長190cm体重190kgの雄熊が含まれるなど&bold(){日本なら伝説級の個体がゴロゴロいる}。 日本で同様の調査を行えば体長140㎝体重100㎏程の雄熊がいれば御の字だろう。 &bold(){ロシアでは、} ・&bold(){体長150〜2m 身長180〜2.3m程度} ・&bold(){オス 平均130~160㎏ 大型200~250㎏} ・&bold(){メス 平均120~140㎏ 大型170㎏} &bold(){という学術調査がある}。 学術調査は一般にガリガリや小物しかかからないため実際より過少に推定される(学術調査だと北海道のヒグマでも180kgで「オスの大熊」と評された事例がある。)がこれだけのサイズである。 日本での学術調査ではオスが70~80㎏、メス50~60㎏が平均的、オスの大熊でも100〜130㎏程度であるから倍ほどの体格差があることがわかる。 日本においては、ツキノワグマの方が人的被害が多く、ヒグマの方が死亡率が高いという傾向が古くから知られているが、ロシアでも全く同様の傾向が見られる。 **◇台湾のツキノワグマ 国産のツキノワグマは((大きな差は無いが))タイワンツキノワグマに次いで小兵の部類と言われている。 よってツキノワグマの中では最小の部類になる。 ・体長 120〜180cm 身長は170〜200cm程度 ・体重 60〜200kg 台湾では最大最強にして唯一の大型肉食獣であるためか軍隊の士気バッチに使われるなど国の象徴的野生動物である。実際に国獣に指定されている。 高雄の「雄」と「熊」が同音のため、2015年5月にマスコットキャラ「高熊」のデザインコンテストが行われ、優勝デザインは同年7月に「高雄熊」として着ぐるみ化され高雄観光大使の役職を果たしている。&font(#0000ff,u){&font(#ffffff){元デザインになかった瞳が付け足されたり月の輪の中の花柄が無くなったりした結果2011年から活動中の某熊本県のマスコットと似てしまったが、くまモンサイドから兄弟呼びされているらしいので大丈夫なようだ}} 日本同様カモシカの唯一の捕食者であり、台湾ウンピョウが健在だった時代は食べ残しを狙っていた。 2024年11月体重125㎏のオスのタイワンツキノワグマが養鶏場に乱入し鶏400羽が被害にあった。台湾では貴重動物のためか山に返された。 遺伝的には大陸産のツキノワグマと共通である。 **◇他の熊種とのハイブリッドについて 国外では他の熊種とハイブリッドを生じた事例があり、ナマケグマ・マレーグマとは野生下で交雑した例がある。 また、アメリカクロクマとは飼育下で交雑例があるが、遺伝的近縁性から野外でも会う機会があれば交雑すると予想される。 これらのハイブリッド熊はいずれも繁殖力の無い1代限りのものであると推定される。 国内では秋田県で熊牧場から脱走したヒグマとハイブリッドが生じていてそれが十和利山熊事件などを起こしたとする説がある。 ただ、これは週刊誌の記事が元ネタであり信憑性は高いものではない([[十和利山熊襲撃事件]]を参照)。 また、&bold(){国内ではヒグマとツキノワグマの体格の差を(いささか誇張しながら)強調して「別の生き物」とする解説がニュースや行政などほとんどを占めている。ハイブリッド熊は果たしてできるのだろうか?} 例えば大型犬と小型犬では交尾行動から難しいことが知られており、また強いて言えば大型種のメスと小型種のオスの間にしかハイブリッドが生じないのが一般的である。((例えばオオコクワガタ)) 一般的に解説されるツキノワグマとヒグマの間の「非常に大きな体格差」((丁度マレーグマの子熊と大型のシロクマくらいの体格差である))を考えれば交尾行動からして不可能であることは想像に難くない。 現実的なサイズでもせいぜいオスのツキノワグマとメスのヒグマが動物園のような環境で交尾行動に至るかどうか、といったところだろう。 *🌙まとめ ここまで読んだ方の中には&bold(){「ツキノワグマは危険な生き物だからいないほうがいい」}と思われた方もいるだろう。 それも当然の感覚ではある。 ただし、&bold(){共存が難しいのと同様に完全な排除もまた難しい}。大規模駆除となれば自衛隊員や若手のハンターが半矢にして重傷を負うリスクがある。ツキノワグマが生態系にニッチがあるのも事実である。 また熊にしては小柄だからということで過度に甘く見る意見もあり、こういった意見も危険だが一方で恐れすぎると観光のキャンセルなどに片鱗が出ているが生活に必要以上の支障が出る恐れがある。 熊に限った話ではなく野生動物問題には正解が無い。 結局のところ、ツキノワグマに限らず野生の獣に対しては「&bold(){過度に怯えても仕方ないが侮っては痛い目に遭う}」という一言に尽きるのである。 #center(){&bold(){追記・修正お願いします。}} #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,13) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() - 愚問だが、ヒグマはでかいから危険、ツキノワグマが小さいからかわいいなんてことはない!! -- 名無しさん (2025-07-21 10:10:06) - ぼのぼののヒグマの大将は作者のミスでツキノワグマみたいな模様が付いているというのをネットで知ったな -- 名無しさん (2025-07-21 11:18:50) - 月の輪グマとは言うけど、三日月模様じゃん。全然、月の“輪”じゃねーじゃん -- 名無しさん (2025-07-21 11:22:14) - 牛漫画家「ヒグマに慣れてるとツキノワグマくらいなら倒せる気がする」→「やっぱ無理ですゴメンナサイ」 -- 名無しさん (2025-07-21 11:26:04) - 熊肉が食用肉としても販売されていて通販で買える -- 名無しさん (2025-07-21 11:34:18) - そんな餌で俺様が釣られクマー 熊と出会ったら、熊から目をそらさずに後ずさりするのが良いそうだ -- 名無しさん (2025-07-21 11:45:29) - どうして人間の脅威となる生き物の能力の比較に大谷翔平が出てくるんだ… -- 名無しさん (2025-07-21 13:55:46) - 「ヒグマをライオンとしたらツキノワグマは犬くらい」と甘く見られることがあるけど、あくまでヒグマがヤバすぎるってだけでツキノワグマだって恐ろしい動物であることに違いはないんだよね。そもそも人間は生身じゃ犬にも勝てないって話でもあるけど。それはそれとして熊肉は美味しかったな。ジビエっぽい風味はあるけど、獣臭くはなくていい意味でワイルドな味わいになってた -- 名無しさん (2025-07-21 14:04:39) - ガトリングガンに比べたらマシンガンは弱いって言ってるようなもんだからな、どちらも脅威であることに変わりはないわけで -- 名無しさん (2025-07-21 14:25:19) - 報道の仕方などはともかく、隠ぺいされているってことは基本無いと思うからそこはカットした方がいいんじゃない?陰謀論じみててやばい -- 名無しさん (2025-07-22 06:39:41) - 面白いこと言おうとして滑ってるなぁ -- 名無しさん (2025-07-22 17:18:48) - 報道関係のとこだけなんか異様な気がする -- 名無しさん (2025-07-22 19:00:23) - ビーファイターにギガツキノワという、殺されたクマの怨念から誕生した合成獣が出てきてたな -- 名無しさん (2025-07-22 21:37:26) - 報道に関して、少なくとも秋田ではテレビやラジオが報じる前に自治体がSNSで出現情報流したり『クマダス』というアプリに通知飛ばしたりしてる。もはやテレビやラジオの情報では追いつかないから報じない -- 名無しさん (2025-07-22 23:20:53) - あの特徴的な月輪模様って、なんのためにあるんだろうな。いまでも残ってるってことは、進化学上でそれなりの意味はあるんだよね -- 名無しさん (2025-07-23 13:42:23) - ちょっと順序がとっ散らかってた印象を受けたので、勝手ながら整理させてもらいました。(章立ての順序を変えて改行を入れただけで、内容に関しては手を加えていません) -- 名無しさん (2025-07-23 15:09:52) - 肉食性が高くその個体がいるのも恐ろしいが、絶滅してしまった二ホンオオカミの役割を担ってもいるのも複雑。 -- 名無しさん (2025-07-23 23:08:46) - いくら人より強いと言っても、生態系にはいないと困るのは結果的には人類だから、人間は領分を守るしかないな。 -- 名無しさん (2025-07-24 17:00:38) - 安藤さんが食ってた奴 -- 名無しさん (2025-07-24 21:24:47) - まさか未だに『クマの縄張りに人間が入り込んでるから被害が起きる』だとか思ってるのはいないよな? -- 名無しさん (2025-07-25 03:26:06) - 2m近いコイツを実際に素手で撃退した空手家最近いたよな…… -- 名無しさん (2025-07-25 10:51:54) - Wikipediaの「佐藤良蔵」のページにある巨大個体の画像アップロードお願いできますか?部外者には無理なようです。 -- 名無しさん (2025-07-30 16:13:13) #comment() #areaedit(end) }
&font(#6495ED){登録日}:2025/07/21 Mon 09:40:32 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 10 分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- #center(){&font(#e1e1e1,#1e1e1e,b,150%){&font(#cd9c0b){ツキノ}ワグマ}} &bold(){ツキノワグマ}(月輪熊、学名: Ursus thibetanus)は、哺乳綱食肉目[[クマ>クマ(動物)]]科クマ属に分類される食肉類。 #openclose(show=▼目次){ #contents } *🌙概要 ツキノワグマは日本や中国、朝鮮半島からロシアにかけて分布している。 以前は日本のものだけをツキノワグマと呼び、大陸のものはヒマラヤグマと呼んでいた。 だが、両者が同種とわかり、日本産は亜種のニホンツキノワグマと呼ばれるようになったという経緯がある。 そのため、現在でもこの別名が使われることがある。 名前の通り&bold(){胸に&font(#cd9c0b){三日月状の月の輪}を思わせる模様を持つ}のが特徴で、体毛は黒い。 **◇形態 体毛や体型にはバリエーションもあり、赤みがかった個体や茶色みがかった個体、月の輪の存在しない個体も存在する。 また、東南アジアのツキノワグマには金色の毛色の個体まで確認されている。 クマ科全般に言えることだが、肩甲骨が発達しているため中にはヒグマを思わせる広い肩幅を持つ個体もいる。 **◇大きさ 日本にいる個体群は平均体長120cm〜140cm。体重70〜120kgほどとされ、一応はこれでも比較的小柄な部類。((より小さい熊種にマレーグマと台湾ツキノワグマの2種類がいる。ゴビヒグマやシリアヒグマもオスの大熊で150~180㎏とあまり変わらない。)) それでも体長160cm、体重150kgクラスは日本でも普通に見られるとされており、大きい場合では、体長165cm、体重200kgに至ったという記録も存在する。 また、更に寒い((寒い地域ほど大型の個体が増えやすい、ベルクマンの法則によるものという説が有力。))ロシアでは体長180cm体重250kgにもなる巨大な個体が確認された事例もあるという。 4歳からが成熊のラインだが、オスは15才くらいまでは体が成長する。 十代後半辺りから急激に衰え、20歳手前辺りに寿命を迎えるというケースが多い。 ***《日本での一般的な大きさ》 &bold(){&color(#F54738){ニュースなどで発表される国産ツキノワグマの大きさは体長1mとされ世界最小の熊であるマレーグマの平均体長120〜150cm程度と比較しても異様に小さい}}。 また、体長がマレーグマの子熊並みなのに対し体重は60kg程度とマレーグマの成熊並みである。 よく「立派なオスグマは100kg程度」と紹介されるが体長が1mぽっきりでは大変なメタボであり「山に餌がなく出没」と明らかに矛盾である。 国産ツキノワグマの場合、北海道のヒグマなどと違い体長は背中に這わせるのではなく鼻先から尾の付け根まで直線であるため体の凹凸分小さな数字になる計り方をしている。 また、学術調査や行政の計量では100kgが上限の体重計を用いているため、それ以上重い個体は100kg超として一括りとなる。 とはいえ、100kg以上の個体でも勿論具体的な記録はあり、駆除された個体の年齢などの詳しい記録も公表している場合がある。 例えば[[山形県]]と[[富山県]]によれば、概ね成熊の平均は ・&bold(){&color(#3B4EF0){オス 体長140cm 体重90kg 身長180㎝}} ・&bold(){&color(#F54738){メス 体長130cm 体重70kg 身長170㎝}} ほどである模様。 &bold(){オスの成熊であれば100㎏は中堅サイズである。} ちなみに山形県の記録は冬眠明けの痩せた時期、それも4〜5歳のやや年若い個体が多く、若干小さめな傾向となる。 両県ともに体長なら170cm体重なら180kgという記録もある。 こういった資料を見る限り、 ・&bold(){オスグマは体長130〜160cm、体重70〜130kg、} ・&bold(){メスグマなら体長120〜150cm、体重50〜80kg、} ・&bold(){立ち上がった背丈なら160cm〜2m、} ほどが&bold(){「現実的に遭う可能性があるサイズ」}と言えるようだ。 ちなみに、新しい資料ほどより小さいサイズに更新されており、かつては ・体長120〜160cm 体重60〜150kg とマレーグマを一回り大きくしたようなサイズだったようだ。 ***《巨大個体の記録》 ●日本記録級 1993年春、[[長野県]]秋山郷にて&bold(){&color(#F54738){冬眠明け直後にして体長240cm体重210kg}}にもなる巨大な個体が捕獲された。 恐らく&bold(){日本最大}のツキノワグマだろうと推測される。 体長が大きいことに加え、痩せた冬眠明けの時期での唯一の200kg級であるためである。 体重の測定値ならこれ以上の例はいくつかあるが、いずれも10月以降のメタボ期である。 &bold(){&color(#3B4EF0){冬眠前には300kg級と推定され、ヒグマと比較しても巨大な部類になる。}} &bold(){長野県は150㎏級はざら}にいる大熊の産地であり、特大サイズに、2007年秋に有害駆除された&bold(){&u(){170㎏のオス「ジゴロー」}}がいる。ちなみにジゴローの体重はNPO法人の計測。 他の巨大クマとしては以下の個体が知られている。 |産地|大きさ|捕獲時|備考| |秋田県|体長2m、体重200㎏超、オス|1966年12月|&bold(){Wikipediaの「佐藤良蔵」}のページに写真がある。| |宮城県|220㎏、オス|1967年冬眠前|| |秋田県|237㎏オス、180㎏メス|2020年代秋|マタギYouTuberが捕獲。測定値における日本最大個体と考えられる。オスグマで237kgは他の特大個体より少し大きいだけだがメス180kgは少々信じがたい数値である。| |山形県|体長165cm体重200kg|2001年10月|他にも体長170cm体重170kg、体長150cm体重180kgいずれも冬眠明けのオスグマが令和に記録がある。| |群馬県|190kg|12月|狩猟| |宮崎県|オス220kg、メス131kg|戦前、冬眠前|&bold(){九州のツキノワグマは何故か巨大である。}| |富山県|体長130㎝、体重180㎏、&bold(){メス}|2006年10月|有害駆除。オスもしくは108㎏のタイポの可能性もある。| |岩手県|200㎏超|2023年秋|有害駆除| |岩手県|&bold(){体長2m}体重100㎏|2015年5月|有害駆除| 200㎏超えの巨大個体がニュースになったこともある。&youtube(https://www.youtube.com/watch?v=UTslZzAgCUQ&list=PLHzdGw21fPIo3lBYsJJJ_O_ZWYv6hYHMW&index=1) ●各地の最大級 |産地|大きさ|捕獲時|備考| |岩手県|体長135cm体重100kg、メス|2002年6月|有害駆除| |山形県|体長140cm体重110kg、メス|令和10月|有害駆除| |秋田県|体長137㎝体重87㎏メス|夏|学術調査| |山梨県|「身長180㎝」体重140㎏|2018年11月|狩猟。体長は目測で140㎝ほど。| |新潟県|体長150cm体重150kg|2005年10月|1日に同じ大きさの個体が&bold(){2体同時に有害駆除}される。| |富山県|体長130cm体重130kg、オス|2010年10月|有害駆除。5歳と未熟なクマ| |石川県|170㎏オス、110㎏メス|冬眠前|かなり古い記録である。2020年10月に体長130㎝体重100㎏超えのオス熊の記録がある。| |岐阜県|体長142㎝体重130㎏|2024年9月|有害駆除| |栃木県|130kg級オス|夏|学術調査| |東京都|体長140cm体重120kgオスと体長130cm体重80kgメス|2016年10月|有害駆除| |東京都|120㎏超え、オス|2002年11月|学術調査| |神奈川県|体長131㎝体重110㎏のオス|2010年11月|放獣。県最大だそうだが同サイズのオスグマが5例ほどあるので単に大熊を表しているのかもしれない。| |神奈川県|体長146㎝体重76㎏メス|2020年10月|放獣| |埼玉県|136㎏|2023年冬|狩猟。目測で体長120㎝、身長160㎝。| |兵庫県|131kg、オス|2021年11月|有害駆除| |愛知県|体長145㎝体重110㎏、オス|2012年5月|放獣| |広島県|体長152cm体重135kgオスと体長139cm体重98kgメス|夏場|学術調査。| &bold(){&u(){以上の記録から、本州のどの地域でも冬眠前のオスで150kg級、冬眠前のメス100kg級はコンスタントに存在すると考えられる。}} なお、国産ではないが&color(#F54738){最も巨大な亜種であるチベットツキノワグマだと体長2.5m体重318kg}の例もある。 ***《体重の季節変動》 クマは冬眠中に痩せるため、冬眠直前から明けるまでに体重が3割減少すると言われている。 また、オスの場合は夏の繁殖期になると食事そっちのけでメス探しとオス同士での喧嘩に励むため更に痩せていく。 ちなみに冬に見かける個体は、何らかの理由で冬眠し損ねている場合が多い(通称:穴持たず)のでやはり痩せる(そして殆どは空腹や寝不足で機嫌が悪い)。 なので、&color(#F54738){冬眠直前が一番体が重く、真夏になると体重もその半分近くまで痩せることになる}。 そのため、ツキノワグマの体重については計測された時期もかなり重要である。 (例えば、上記のように&bold(){冬眠前なら300kg}前後の大台にも乗っていた可能性も推定されている。) **◇豆知識 ・かつては&font(b,#60EE3C){ニホングマ}と呼ばれていた。 ・[[金太郎]]と相撲を取った熊も分布地的にこの種だと言われているようだ。 ・水戸黄門を助けた熊もやはり分布地的にツキノワグマとされている。 ・[[青森県]]に移住した津軽アイヌと呼ばれる本土アイヌからは「キムンカムイ」と呼ばれイオマンテ(熊祭り)の対象だった。 ・かつては[[ニホンオオカミ]]と共に日本の主要な猛獣として知られ、人畜に被害を与えた際は&bold(){「熊荒れ」}「狼荒れ」と呼ばれていた。 ・[[長野県]]には&bold(){「鬼熊」}と呼ばれる熊の妖怪が伝承されている。年を取った熊が妖怪化したもので、夜な夜な家畜の馬などを食害するようだが、下記の家畜被害を見る限り&color(#F54738){妖怪化の前後で行動が変わっていない}ようである。単にツキノワグマの大型個体を鬼熊と呼称しただけかもしれない。 *🌙戦闘力 クマとしては確かに小柄の種類((他の猛獣との比較だとジャガーや小型の虎くらいのサイズである。))とはいえ、日本の本州においては事実上生態系の頂点に立つ肉食獣である。 「&bold(){ククク…奴は日本のクマの中でも最弱}」というのも嘘ではないが、日本国内では比較対象がヒグマしかいないため数値上はあちらに劣るというだけに過ぎない。 &s(){そもそも分布域は綺麗に分かれているので、本州以南ではヒグマと比べてもあまり意味はない…。} 尚、小柄なだけあってか非常に敏捷性が高いという長所もあり、移動力もある。寧ろ、活動範囲の広さ故に脅威となるケースも挙がっている。 ・&color(#F54738){体長1メートルほどのメスグマでも成人男性のふともくらいの生木をへし折ったり猪用の檻の鉄格子を引きちぎるのは余裕であるため、小柄な分むしろ捕まえ辛く厄介という考え方もできる。} ・&color(#3B4EF0){ジャンプはやや苦手なようだが2.5メートルの高さに届くため、体長50cm程度の小熊に跳びつかれて大人が失明させられた事例も複数存在する。} ・&color(#F54738){牙で1cm弱程度の鉄の棒は切断することが可能。} 2024年12月の秋田県のスーパーでは、ツキノワグマが立て籠もった際特注クマスーツをはじめ完全武装の[[機動隊]]が対応に当たったが、突入してクマを取り押さえるなどはできなかった。 これはクマスーツで鋭い牙や爪を防げるとしても、膂力による衝撃は受けてしまうため。&color(#F54738){プロボクサーのグーパンチや成人並の体重で踏みつけ(しかも自動車並みのスピード)されては防具を着込んでも厳しい。} ヘルメット越しでも頭部に大きなダメージを受けて亡くなったというケースも多数存在する。 そんな訳で&color(#F54738){&bold(){一人一人が武道の有段者など腕利きの格闘家である機動隊員であっても、クマの傍に突入して素手で叩きのめすのは困難であるとされる}}。 [[石川県]]でもツキノワグマの立て籠もりが起きているが、やはり機動隊などが突入することはできず、最終的に猟友会によって駆除されている。 また、同県では自衛官が襲われて重症を負ったケースも有る。 &bold(){頭に20発の散弾銃の弾が入っていても元気に暴れていた事がある他、子連れの母熊の場合胸に2発猟銃を打ち込まれても数日生きて走っていた事があるなど生命力も非常に高い。} 余談だが、&bold(){熊爪や牙による筋肉や血管の断裂はマッチョな人ほどハイリスク}である。 マッチョな人ほど断裂する筋肉量が多く血管が太く、血流も多いためである。 また、筋肉が断裂すると物理的に動けなくなる上、傷完治後も運動能力低下などの後遺症のリスクがある。 同様に血管が太く、血流の良い人ほど出血が多くなる。出血が多くなると当然死亡リスクも高くなる。 **◇パンチ力 ツキノワグマのパンチ力はせいぜいボクサー並みというデータも存在する。 ただし、こういった測定値は大抵動物園の個体に餌か何かを与えてやらせたケースが多い。 &bold(){動物園の動物は基本どんなに怠けていても、餌は十分もらえるためこういった測定には本気を出さない場合がほとんどである。} 例えば本来は時速120㎞のチーターでも動物園の計測だと時速65km程度という記録も存在する。 ただ、これを鵜呑みにしたのでは時速90Kmのインパラは捕まえられないことになり明らかにおかしい。 ((野生個体だとボツワナでチーターに加速度計を付けて測定した実験では、人間にあっさり捕まる程にチーターの中では鈍くさい個体でも時速96kmの最高速度と120W/㎏の出力質量比を叩き出し、研究者から、「藪が少ない地域だったらもっとスピードは出るだろう」と太鼓判を押される程。)) また餌をもらうためのパンチと敵意が明確にある時のパンチでもまた異なってくるだろう。 日本ツキノワグマ研究所の米田一彦氏によれば、ツキノワグマのパンチ力は &bold(){&color(#3B4EF0){80kg以上のオスと100kg以上のメスは人間の頭部を破壊して一撃必殺可能}} であるとのことである。 [[十和利山熊襲撃事件]]におけるスーパーKは84kgとギリギリでありながらヘルメットごと被害者の頭部を破壊していた。 また、このサイズのオスのツキノワグマには体重200〜400kg級になる成豚の食害例も複数あるため、人間の力の及ぶところではないだろう。 50kg級の小型のメスグマにおいても、サフォーク種という千代の富士くらいのサイズの羊を捕食した事例があり((反撃や逃走が可能な広い放牧場))そのため、このくらいのサイズにもなれば一撃必殺とまではいかずとも人間の殺傷は決して難しい話ではないだろう。 **◇運動エネルギー ツキノワグマ、[[大谷翔平]]、力士の全力疾走の運動エネルギーを計算してみよう。 ・ツキノワグマ(体重50kg/時速50km)⇒81×10⁴J ・大谷翔平(体重95kg/時速33km)⇒67×10⁴J ・大の里(体重190kg/時速22.5km)⇒63×10⁴J &bold(){50kgと小型もしくは亜成獣熊を想定したがそれでも大谷選手より運動エネルギーが大分大きいことがわかる}。体重の大きな大の里が以外にも運動エネルギーが比較的小さいが、これは体重は1乗に対し速度は2乗されるためである。 さらに、&bold(){ただ運動エネルギーが大きいだけでなく1点に集中してくる。}大谷選手の全力疾走を優に超えるエネルギーが顔や胸腰膝などに集中するため、タックルの一撃でも人間には重大な一撃になることは間違いない。 一般的にスポーツ選手の記録は整備されたフィールドで装備とコンディションを整えた上でのものなのに対し野生のツキノワグマの記録は山道を全裸で雑に走ったときのものなのでそのあたりも違いが出るだろう。 また、ツキノワグマの体重は上記の通り50kgがボトムであり、新潟では車と並走した例もあるため実際には上記より幾分大きな運動エネルギーになることが予想される。例えば&bold(){80㎏のツキノワグマが時速60㎞で走れば運動エネルギーは187×10⁴Jと大谷選手の3倍近くなる。} *🌙食性 **◇野生下において どんぐり食のイメージがあるがこれはどんぐりの実がなる秋だけである。 基本的に食性については個体ごとの「好み」による部分も多く一概には言えない。 …とはいえ一応一般論のようなものは研究されている。それによると ・春…ブナの新芽や去年の秋に落ちた堅果類(どんぐり)の残り、木の芽、凍死した鹿やカモシカなど有蹄類を食べる。 ・夏…初夏には鹿の新生児狩りやアリ・ハチなど昆虫類を多く食べる。他にヤマグワの実もよく食べる。 ・秋…皆さんご存知どんぐり(堅果類)他に栗もよく食べる。 が主な食性であり、季節ごとに得られる物を食べている。 …が魚が安定して捕れる池などがある場合魚しか食べない個体もいるなど実は好き嫌いが激しい生き物でもある。 最近ではここに罠に掛かった鹿やイノシシを襲うパターンが加わっているため、肉が好きな個体は肉食率が高くなっていることが予想される。 ・ツキノワグマは堅果類の種子散布の役割を担っていることが最近判明した。 これはクマの生態系ニッチを明らかにした画期的な研究で北欧でヒグマを研究しているクマ研究者も興味を持ったそうだ。 草食寄りとされる場合が多いが、勿論肉も食べる時にはきっちり食べる。一般的に冬眠明け〜初夏にかけては腐肉食もしくは子鹿狩りで肉食性が高い傾向にある。 鹿やカモシカ、猪といった草食獣の捕食に加えて牛や豚など大型家畜の食害例も存在する。実際に岐阜県などを調査した海外の研究者もカモシカの捕食が複数回確認されていて、&color(#3B4EF0){「カモシカの唯一の捕食者」}とされている。 ・[[滋賀県]]で野生のツキノワグマがカモシカ狩りをする映像がyoutubeで公開されているが、ツキノワグマの食肉目としての1面を垣間見ることができる。&youtube(https://www.youtube.com/watch?v=m6u_4s1tJfU&list=PLHzdGw21fPIo3lBYsJJJ_O_ZWYv6hYHMW&index=9) ・[[兵庫県]]では罠にかかった鹿を襲って食べるケースが頻発している。 ・↑&bold(){鉄の檻を引き裂いて中にいる鹿を取り出した}そうだ。 ・&bold(){ニホンジカの新生児が産まれる初夏にはオスグマを中心に積極的に捕食するという調査もある。}これはニホンジカをエゾシカに変えればヒグマ同様の生態である。 ・&bold(){炭素同位体の研究ではオスの大熊に肉食性の高い個体がいることが分かっている。} ・海外では水牛を捕食した事例が知られている。 ・他にも海外では猿や大型カモシカ、マレーバクやイノシシなど様々な動物の捕食例が知られている。 以上のツキノワグマの生態を踏まえると、&bold(){&color(#F54738){種子散布と有蹄類の機会捕食者}}の「両刀使い」が生態系におけるニッチとなるだろう。 機会捕食者で有蹄類の個体数調整に役立つのか?という疑念もあるだろうが、ツキノワグマはヒョウやオオカミなどに比べると体が大きく、食べる量も多い。 そのため、鹿の新生児やウリ坊を狩るのみといった程度の捕食者であっても、単体のニホンオオカミやオオヤマネコ程度には捕食者として機能する可能性がある。 ***《ツキノワグマはどの程度捕食者として機能するのか》 ツキノワグマとニホンオオカミやオオヤマネコの間には約5.3倍の体重差がある。また、食べる量も体重比通りと仮定しよう。 ロシアでの調査ではツキノワグマは85%草食とされている。つまり15%が肉食である。これが国産ツキノワグマにも当てはまると仮定する。 一方ツキノワグマが食べる量の5.3分の1(ニホンオオカミやオオヤマネコが食べる量)は18.9%である。 かなり雑な推定だが、概ねツキノワグマの肉食量は単体のニホンオオカミやオオヤマネコと同等程度と言えるだろう。 ネックになるのは肉食に計上される昆虫、魚、スカベンジャーの比率がツキノワグマの場合かなり大きいだろうということである。無論ニホンオオカミやオオヤマネコも昆虫食やスカベンジャーはするのだがその割合は大きくは無いだろう… いずれにせよ、&bold(){体格差を考えればツキノワグマでも中型捕食者程度には機能する可能性が示された。} 下記のように、ツキノワグマの場合体格が大きいため大猪狩りなども可能と考えられるため、こういったニホンオオカミには多分難しい捕食者ニッチも考えると&s(){死神代行}&bold(){&color(#F54738){「ニホンオオカミ代行」くらいにはなる可能性がある。}} また、上記の通りオスの大熊に肉食性が強い個体が多いことがわかっている。ここから考えてみよう。 「オスの大熊」と言っても100kg級から240kg級まで幅広い記録がある。ピラミッド型の分布と考え130kg級を平均としよう。 肉食率は上記の15%の倍30%ほどとする。 130kg級の30%は40kg級になり、これはヒョウやピューマ、チーターなどに匹敵するサイズである。 次にオスの大熊の数を推定しよう。2万匹と推計されるツキノワグマのうち半分がオス、8割が成熊と仮定する。 栃木県での調査ではオス成熊47匹中11匹(23.4%)が100kg級以上だった。学術調査には小物やガリガリばかりかかることや痩せる春夏の調査であることを加味してオス成熊の35%ほどが100kg級以上としよう。 2万×80%×50%×35%=2800匹 以上をまとめると&bold(){&u(){ツキノワグマのオス大熊は肉食獣としてはヒョウやチーターなどに匹敵し、その数は2800匹である。言い換えるとヒョウやチーターが日本には2800匹ほど生息しているという事でもある。}} オス大熊は体格が肉食動物としては規格外サイズのため、肉食率3割と控えめな予想でもメジャー級肉食獣に匹敵する結果となった。また、100kg級以上はさほど珍しいサイズではないため、オス大熊のみに捕食者としての役割を求めても十分な個体数が確保できる。 アジアのチーターは生息数80匹、アフリカまで合わせた総数も7000匹程度である。近縁種のヒョウも各国で数十〜数百匹である。 1匹1匹の肉食率は小さくとも、ツキノワグマの場合、生息数が最低でも1万匹と推計されるため、数で挽回できる可能性がある。日本の本州にヒョウが100匹いたとしよう。これはアムールヒョウの生息数と同等である。一方ツキノワグマは推計の下限である1万匹とする。 ツキノワグマが月1匹の鹿を狩るとする。ヒョウは狩りの名人であるが、獲物に恵まれない日やウサギを狩る日もあるため3日に1匹鹿を狩るとする。月にすると10匹。 ツキノワグマもヒョウも8割が成獣(成熊、成猫)とする。 &bold(){1月に狩る鹿の数はツキノワグマが1万×80%=8000匹に対しヒョウは100×80%×10=800匹となりツキノワグマの方が10倍多いことになる。} &u(){これは、生息数と肉食量以外は条件を揃えたため、生息数100倍を肉食量だけで跳ね返す必要があるためである。}例えばヒョウ1匹が月に200匹鹿を狩るなら合計で月に16000匹鹿を狩ることになり、生息数を跳ね返すことができる。 &u(){また、この計算法なら肉食の比率は事実上無視できる。ともかく鹿を狩る実績をある程度コンスタントに出しさえすれば、後は数の力である。逆に言えば、絶滅危惧種の大型ネコに並ぶためには1/100の数の鹿を狩るだけでよいわけである。} ツキノワグマはあくまでも草食主体の雑食であるが、食肉目として、「狩りのための体」で産まれる。体が大きく生息数が多いことを活かして「捕食者の側面」を切り取ると中大型捕食者に匹敵することが示唆される。 **◇家畜の食害 体格差も考えてか主に幼獣を襲うケースが多い。 だが、&color(#F54738){&bold(){1999年[[栃木県]]で体重90kgのツキノワグマが種豚(体重300kg級)始め複数の成豚を捕食した例もある}。} その他 ・2022年[[長野県]]で豚3匹が食害される。&youtube(https://www.youtube.com/watch?v=YYHkkYOq7cQ&list=PLHzdGw21fPIo3lBYsJJJ_O_ZWYv6hYHMW&index=8) ・2017年以降[[秋田県]]でも子牛の食害事件が頻発している。 ・&bold(){&color(#3B4EF0){秋田では牛豚を食われて廃農するケースも複数出ている}。} ・2007年には[[宮城県]]&bold(){仙台市}で子牛が食害される。 ・1997年には[[東京都]]でジンギスカン用の大型羊7匹が食害される。 ・鶏の食害と廃農は全国で例がある。 ・↑島根県では体長60cm体重20kgの子熊が金網を破って侵入し鶏を食害した例もある。 以上の事例などから&bold(){自重の2倍から3倍程度の獲物は問題なく狩れる}と思われる。 体重200kg級以上の豚や肥育牛を仕留めた事例から、オスの大猪や角の生えた雄鹿も捕食できる可能性が高く、ニホンオオカミとは違った捕食者ニッチを占めていると思われる。 **◇人食い ***大規模事件 日本最大の熊害事件はヒグマによる[[三毛別羆事件]]とされるが、&bold(){&color(#F54738){ツキノワグマも江戸時代に三毛別を超える11人の人間を捕食した記録がある。}} 現在の青森県八甲田山でのことである。 仕留められたツキノワグマは体長160cmの高齢のオスグマだったと言われている。(「弘前藩庁護国日記」がこの事件の大元の出典とされている。)[[青森県]]で解説する。 比較的最近の有名なツキノワグマによる大規模人食い事件に[[十和利山熊襲撃事件]]、&color(#3B4EF0){戸沢村の人食い熊}([[山形県]]で解説)がある。 ***小規模事件 ヒグマの人食い事件が大きく報じられるのは有名だが、&bold(){ツキノワグマの場合、人食い事件は婉曲表現だったりそもそも報じられない場合もあるなど対応に大きな差が見られる}。 上記以外の単発の人食い事件に以下の事例がある。 ・1949年30代女性食害。[[石川県]] ・1969年30代男性食害。[[福島県]] ・1979年30代男性食害の可能性あり。[[秋田県]] ・1983年40代女性食害。[[秋田県]] ・1989年70代女性食害。[[福井県]] ・2000年60代男性食害。[[山梨県]] ・2006年50代男性食害。[[長野県]] ・2007年60代男性食害。[[秋田県]] ・2013年70代男性食害。[[福島県]] 以上、タブーとされるケースが多いと思われるツキノワグマによる人食い被害だが、&bold(){&u(){漏れ聞こえる例だけで9例もある}。} これらが「氷山の一角」というのは当然として事件のあった地域や年代から&bold(){、決して東北の一部の話でも「近年の異常行動」でもない。}((3割程が秋田ではあるが…)) &u(){2013年福島県の事例は捜索隊の&color(#3B4EF0){警官二人を含む男性4人に重軽傷被害を出すなど二次被害も大きかった。}} 1979年の秋田県、30代男性のケースは「腹をえぐられた」という表現で記事になった。これは内臓などを食害された際の婉曲表現である。一方、この青年は「重態」つまり当時の医療では長く保たないが一応息はあったとのことである。近縁種のアメリカクロクマには被害者が意識のある状況で食害に及んだケースがあるものの、「可能性あり」という表現にした。 1983年秋田県の40代女性のケースは体重わずか40kgの母熊である。熊研究者からも「母熊にしては小さすぎる」と言われているため栄養失調に耐えかねて犯行に及んだと考えられる。 2006年長野県の50代男性のケースも子連れ母熊の犯行である。長野であればメスでも100kg級の可能性も十分あるが、50kg級の小物だった可能性の方が高い。 上記2例は小型でガリガリのメスグマでも肉体労働に従事する壮年の男女を熊餌にできることを示している。 ちなみに2000年の山梨県の事例は海外の研究者により詳細が調査され、論文も発表されている。Angeli,C.B.2000.Death by Asiatic black bear in Japan :a predator attack ? International Bear News 9(3):10-11 *🌙人的被害 人食いを除いた大規模な人的被害に以下のものがある。 ・&bold(){&u(){1953年、富山県で男女13人が重体、重軽傷を負う大規模被害が出た。重体のものは事件後すぐ死亡したとされる。}}この被害者数は&color(#F54738){&bold(){三毛別ヒグマ事件を大きく超える日本最大級の事件である。}} ・1951年、山梨県で&bold(){男女10人が重軽傷}。こちらも被害者数だけなら三毛別並みである。 ・2009年、岐阜県で被害者数10人を出した&bold(){乗鞍岳熊襲撃事件}。[[岐阜県]]で解説。 &s(){三毛別級がいっぱいだ} 人食い同様、若年・壮年男性の重症死亡事例もツキノワグマの場合大きく報じられないが実際は毎年多数の事例がある。 高齢化で山間部にお年寄りが多く居住していることと、お年寄りの人的被害が多すぎて比率が低くなっているだけである。 ・2023年40代男性死亡[[奈良県]] ・2024年40代男性重症[[山口県]] ・2024年40代男性死亡[[福島県]] ・2024年20代と40代の男性重症(いずれも警官)[[秋田県]] ・2025年46歳男性(現場作業員)死亡[[長野県]] ・2025年29歳男性、39歳男性(いずれも自衛官)重症[[岩手県]] のようにざっと挙げただけでも近年だけでも全国で例がある。 残念ながら亡くなってしまわれた方には背後から頭や首に強烈な一撃を加えた形跡が無かったため、あくまで熊側からすればだが、&bold(){うっかり命を奪ってしまった}事例であと推測される。 昔は若い人の被害が多かった。 また、&bold(){&color(#3B4EF0){&u(){人的被害の約95%死亡事例についても80%ほどがツキノワグマによるものである。実はヒグマの人的被害が全くなかった年すら存在する。}}} &bold(){&u(){この被害者数の違いは熊の生息頭数では説明がつかない}。} ツキノワグマの生息数は2万匹、ヒグマが1万匹と推計((両者1.2万匹とする推計もある))されているため、熊口比通りならツキノワグマ65%、ヒグマ35%ほどが適正となる。 &bold(){ヒグマの方が死亡率が高いとされている死亡事故でさえツキノワグマが80%を占めている。} また、仮に熊口比通りだったとしてもツキノワグマとヒグマの凶暴性には差がないことになる。 本州と北海道の面積比も概ね3:1のため、&u(){熊口密度はむしろ北海道のほうが高い。} 人口密度については本州452人/平方kmに対して北海道65人/平方km。これだけ見ると人口密度に大きな差があり、それが遭遇率に影響しているように見える。 北海道と、特に人的被害の多い秋田県と岩手県を比較してみたい。((他に、長野県や福島県などが「大御所」と言える。)) &u(){この2県だけで例年北海道の10倍を超える人的被害を叩き出している。} 各指標を比べてみると… ・人口 北海道520万人vs秋田&岩手200万人 ・人口密度 北海道65人/平方kmvs秋田&岩手75人/平方km ・熊口 北海道1.2万匹vs秋田&岩手8000匹 ・熊口密度 北海道0.16匹/平方kmvs秋田&岩手0.29匹/平方km &bold(){&u(){人口と熊口は北海道が圧倒的に多く、密度は秋田と岩手がやや高いものの、僅差である。}} &u(){&color(#60EE3C){人口密度についても被害の特に多い2県なら北海道と大差ない数値が出るのである。}} &bold(){幸いなことにツキノワグマに女性や子供が襲われるケースはほとんど無い。また、稀に女性が襲われた場合40代以上の女性が軽症というケースが大部分を占める。} &s(){ツキノワグマはフェミニストだった…!?} **◇襲われたらどうするか 最も重要な問題と考えられるテーマである。まず、ツキノワグマによる攻撃パターンには主に以下のものがある。 ・攻撃の意思そのものが希薄…「熊の囁き」と呼ばれることもある。顔や首を狙わず腕や足などを甘噛する。背後から抱きつくこともある。小型なら間違いなく軽症。 ・攻撃の意思が弱い(警告攻撃)…子連れの母熊が良く行う。顔や首等を狙うが、本気の攻撃でなく、真正面から来る。軽症が基本だが重症死亡に繋がる場合もある。 ・人狩り熊…人間を獲物と見なしている場合である。背後から強烈な一撃を頭に食らわせる。 &u(){ニュースなどにしばしば顔を出す「ツキノワグマと素手で&bold(){格闘}して撃退」などというのはそもそも攻撃の意図が弱いか、無かったパターンと考えられる。} &color(#F54738){こういった場合特に格闘などせずとも「攻撃」は2〜30秒で終わり、軽症で済む可能性が高い。} 上記の人狩り熊のパターンからも、&u(){格闘になる辺り熊は本気ではない}こともわかる。 では、どうしたらよいか?本気の攻撃でなくとも顔や腹に当たればただでは済まない。熊研究者により以下の傾向が知られている。 ・武器の有無に関わらず戦うと重症化しやすい。 ・男性より女性のほうが軽症率が高い。 &u(){女性の場合、本能的に熊爪や牙を防ぐ姿勢を取るため、重症率が圧倒的に低いことがわかっている。}&bold(){&color(#3B4EF0){防御姿勢}}と呼ばれる姿勢である。地面にうつ伏せになり首を手でガードする姿勢である。リュックやヘルメットがあればなお良い。立ったまま顔を腕で覆うだけで意味がある。 こう書くと、「でも戦って熊を怯ませたから助かったケースも有るんじゃないの?」という声もあるだろう。 しかし、眼の前に熊が現れて「お前を食わせろ」と言ってきた時に「どうぞ召し上がれ」となる人が&s(){富士の樹海を除いて}果たしているだろうか?&bold(){大抵の人は蹴飛ばすくらいの抵抗はするだろう。重症死亡事例も大抵は戦った結果である}。 例えば上記の長野県における死亡被害の46歳男性の場合熊と組み合って転がっていたため相当に激しい格闘になっていたと考えられる。 また、武器を使って戦ったが押し切られ重症になったケースも有る。 ・2014年東京、30代男性が登山用ステッキで戦うも重症 ・2019年長野、30代男性が登山用厚底靴で蹴飛ばすも重症 &bold(){ナタで戦っても重症化しやすい}ことが知られている。 戦うと顔がガラ空きになる。 ・1959年新潟、20代男性が素手で格闘するも顔と手に重症 当時の医療技術ならブラックジャックのような容貌になっていただろう。現代ならサラッと治せる怪我でも一昔前は重大な負傷だった。&bold(){現代においても失明と表情筋などの断裂は治せない}。 20代30代の登山家なら「自衛官くずれ」くらいのことは言えそうである。行軍訓練を自発的に行っているようなものである。 &bold(){&color(#3B4EF0){大抵の場合蹴飛ばすくらいの格闘はしていると思われるため、こういったケースがむしろスタンダードと考えられる}。}登山や山仕事ができるあたり高齢であっても相当なフィジカルがあるだろう。 「格闘して撃退」などとされる事例についても、新聞記事などは簡潔な表現になるため、映像記録があった場合や、同行者などの客観を含めて詳細なインタビューがある場合とは大分印象が違う。 ・2023年岩手、50代男性が襲いかかってきた母熊を先を尖らせた木の棒で格闘して撃退。 このケースはYouTubeに一部始終が公開されニュースにもなった。&bold(){&u(){このケースは「撃退」とされているが、実際にはツキノワグマが男性を押し倒し、甘噛したあと勝手に逃げていったのである。}} 実際、被害男性自身が解説動画で「熊のスピードに負けた」としている。 &bold(){「格闘して撃退」となる事例でもほとんどの場合、蹴り飛ばすなどしているにも関わらず1度は押し倒されている}。下記の空手家のケースも「ふっ飛ばされた」などの証言があり、一度は押し倒されていると思われる。 軽症で住んでいるのも、熊側に攻撃意図が低いか全く無かったからである。例えば、上記の岩手県50代男性の場合も押し倒されノーガードになった際、噛みつかれ、爪を刺されたが、首顔腹等は狙われず、甘噛、刺した爪で切り裂くこともなかった。 &u(){押し倒した瞬間に殺そうと思えば殺せたのである。} &color(#F54738){「格闘して撃退」とされる事例のほとんどは戦った意味が薄いばかりか、顔をさらして重症死亡のリスクを上げているのである。}((この小柄な母熊からはたっぷり猶予時間を与えてから飛びかかる、木の槍で鼻を真っ二つにされているにも関わらず甘噛で済ますなど人間への配慮が伺われる。警告の意味合いが強いため、無駄に相手を怒らせたく無いのだろうか。)) とはいえ、防御姿勢は万能ではない。ヘルメット無しで後頭部を叩かれでもすればうっかり両目失明だなんて可能性もある。 ・2020年埼玉、クライミング中の男性を母熊が襲うも登山用厚底靴で蹴り落とすなどして撃退。手を脱臼の軽症。 戦ったのが功を奏した稀な事例と考えられる。YouTubeに公表され世界的にもバズった「Bear attack climber」である。 この事例は&u(){崖を登ってくる熊を蹴り落とせる、いわば地の利があったこと及び、防御姿勢が難しいだけではなく滑落の危険性があった。戦うしかなかった事例である。} ただし、攻撃パターンとしては小熊を逃がす時間稼ぎや威嚇のための警告攻撃であり、そもそも2〜30秒で撤退する予定だったと思われる。 この男性はクライマーで肉体的には格闘家顔負けであるが、登山用厚底靴で体重をかけて2回蹴り落としをかけたが多少怯ませたかどうかといったところである。逃げるのは上記の通り予定調和であるから、&bold(){ツキノワグマを怒らせることすらできなかった}と言うべきか。 最後に、ツキノワグマを目つきで撃退した空手家の事例を紹介しよう。 ・山でトレーニング中の空手家63歳男性に体長190cmのツキノワグマが襲いかかるも格闘し目つきで撃退。空手家は足や頭に軽傷。 体長190cmが本当に体長なのかそれとも身長なのかで大分大きさが変わる、体長190cmならロシア産なみであるが、身長190cmなら体長は150cm程度になり、体重は80kg級の可能性もある。 いずれにせよスーパーK以上の体格はありそうである。 同じ格闘家であっても&u(){相撲やラグビーのような直接体をぶつけ合うレスリング系はツキノワグマには相性が悪い}と考えられる。組み合った時点で切りつけ放題だからである。また、体重が重いと地面に倒された場合自重で相当にダメージを負うだろう。 &u(){比較的好相性と考えられるのが空手やキックボクシングのようなフットワーク・打撃系である。この空手家の場合もフットワークで攻撃を躱し、打撃を叩きこんだと考えられる。} このケースも格闘になっているあたり熊の囁きもしくは警告攻撃と思われる。また、繁殖期のオスのツキノワグマにはしばしば目を潰される個体がいることが知られている。目つきで怯む生き物ではない。 ただし、&bold(){&u(){スーパーk以上の体格があるため、ヒグマ同様じゃれ付きでも重篤な攻撃になる可能性が高い。つまり、防御姿勢を突き破って深刻なダメージになりうるケースである。この場合も戦うしかなかった、そして戦って勝ったケースと言えるだろう}。} とはいえ、&color(#F54738){&u(){ツキノワグマの警告攻撃などの場合、ヒグマと違って防御姿勢で耐えることができる場合も多い。熊を殴れるなら、その拳で顔を覆ったほうが無難なのが現実である}。} 少なくとも、体長120cm程度の大型犬サイズの母熊が真正面から向かってきた時は慌てず騒がず伏せたほうが良いだろう。 ***《熊スプレー》 防御姿勢の他に有効打になるのが&bold(){&color(#F54738){熊スプレー}}である。&u(){国産のツキノワグマにおいても複数の熊研究者が熊の攻撃をこの熊スプレーで退けている}。 ただし、値段が高価なこと、またスプレーを組み立てて構える時間が必要なのがネックである。 熊研究者たちは自爆に近い形で熊スプレーを使うケースも有るため風向きはさほど重要ではないようだ。また、自爆した際の健康被害についても熊研究者の中には何回も自爆している人もいるため少なくとも直ちに健康に悪影響が出ることは無い模様。そもそも熊も人も傷つけないための熊スプレーだしね! **◇二次被害 奥日光ではツキノワグマ出没を受けて修学旅行がキャンセルになるなど、人的被害に対する二次被害として観光客のキャンセルも発生している。 こういった点も知床や三毛別事件跡地が観光名所になっているヒグマとの大きな違いと言える。 北海道という特別な場所が非日常感を演出してくれる効果があるのだろう。 他に、ヒグマの場合何m何百kgというサイズで解説されるがこういう巨獣に襲われる姿は少々想像し辛いのではないだろうか。 一方、ツキノワグマは普通サイズは大型犬程度、大型でもせいぜいヘビィ級の格闘家程度のサイズを解説されるため、襲われた際の痛みやダメージを想像し易いのではないだろうか。 実際、追記者はトラやライオンよりヒョウやオオヤマネコのほうが出会った時を想像すると怖い。 *🌙遺伝的性質 &bold(){国産のツキノワグマはツキノワグマの枠内にいながらも大陸産のツキノワグマより原始的}でありやや特異な位置にいる。 そのため、日本固有種とまでは残念ながら言えないようだが遺伝的に個性があるため&color(#3B4EF0){エゾヒグマが海外産と同じ遺伝子であるのとは対照的にニホンツキノワグマは日本にしかいないことになる}。 そもそもツキノワグマ自体が熊の原型に近い骨格とされるため国産のツキノワグマはいわゆる「[[生きた化石]]」に近いと言える。 遺伝的には東北から北陸までの&bold(){東日本グループ}、&bold(){紀伊半島・四国のグループ}、中国・近畿などの&bold(){西日本グループ}に分かれる。 最大記録はともかく平均的な大きさは地域ごとにほとんど格差はなくなんなら九州で220㎏の記録もある。 *🌙各地のツキノワグマ **◇九州のツキノワグマ すでに絶滅してしまったツキノワグマの個体群。 九州産のツキノワグマは冬眠前のメタボとはいえ130㎏級の雌熊が確認されるなどベルグマンの法則に反して大型の個体が多いことやそもそもツキノワグマは九州から北上してきたことなどから大陸産大型亜種とのハイブリッドではないかといわれている。 ***《最後のツキノワグマ》 九州の個体は1987年に[[大分県]]で捕獲されたのを最後に確認できず、2012年に絶滅が宣言されている。 なおその個体はDNA鑑定の結果、ミトコンドリアDNAが[[福井県]]嶺北地方から[[岐阜県]]西部にかけて分布しているものと同一という結果が出ており琵琶湖以東から九州へ移入された個体、もしくはその子孫と考えられている。 確実な最後のツキノワグマは1941年12月宮崎県における133kgのオスグマである。やはりデカい。 ***《絶滅までの経緯》 時代ごとにツキノワグマの分布域を整理すると以下のようになる。 ・縄文時代…九州全土に分布していた。北九州市からも分布の証拠が出土しているため、福岡市にも分布していたと考えられる。 ・江戸時代…宮崎県、熊本県、大分県の一部にまで分布域が縮小。&bold(){このときはまだ熊本県に熊がいた}。 ・明治時代以降…祖母山系にほとんど分布が限定される。 少なくとも明治時代には九州ではツキノワグマは絶滅危惧種となっていたようだ。 九州のツキノワグマが早くから絶滅危惧であったことは&bold(){熊塚}という文化に見て取れる。これは&bold(){熊一匹}を捕殺する度にその遺骨の上に塚を建て慰霊を行う文化である。 &bold(){鹿や猪は千匹事}であったことを考えると相当に貴重な生物であったことが伺われる。 他に、乱獲を防ぐためか熊の祟なども伝承されていたようである。 上記のように縄文時代から減少が進んでいたことや保護に近い活動が古くからされていたため、絶滅の原因は人間の乱獲だけでは説明がつかない。九州では温暖な気候によって林業が発展し、クマの餌となるドングリの生る広葉樹林が伐採されてスギやヒノキなどの植林が進み、森の分断も進んだことで越冬が難しくなったためと考えられている。 また、九州は面積が小さく、大型食肉目であるツキノワグマの分布には適さないことも個体数減少に拍車をかけたとされる。 上記の事情は四国のツキノワグマにも全て当てはまる。九州のツキノワグマが祖母山系に追い詰められたように四国のツキノワグマも剣山系に追い詰められ、生息数はわずか20匹程度である。 ***《「熊」本の由来》 よりによって熊の名を冠する[[熊本県]]が九州にあることについては、九万の谷から水が流れこむ「九万川」と呼ばれた「球磨川」があることから 元々は特産の蓮根の良くとれる湿地を表す「隈」を用いた「隈本」と書いたが、隈という字は&ruby(おか){「阜」}と「畏れる」が複合したものなので 大名の居城としては相応しくないとして強い「熊」に加藤清正が変えたとされる。 ただし、上記のようにこの時代はギリギリ熊本にツキノワグマは生息していた。 **◇ロシアのツキノワグマ ロシアのツキノワグマは国産のツキノワグマよりはるかに大きくなる。 10数個体の簡素な調査で体長190cm体重190kgの雄熊が含まれるなど&bold(){日本なら伝説級の個体がゴロゴロいる}。 日本で同様の調査を行えば体長140㎝体重100㎏程の雄熊がいれば御の字だろう。 &bold(){ロシアでは、} ・&bold(){体長150〜2m 身長180〜2.3m程度} ・&bold(){オス 平均130~160㎏ 大型200~250㎏} ・&bold(){メス 平均120~140㎏ 大型170㎏} &bold(){という学術調査がある}。 学術調査は一般にガリガリや小物しかかからないため実際より過少に推定される(学術調査だと北海道のヒグマでも180kgで「オスの大熊」と評された事例がある。)がこれだけのサイズである。 日本での学術調査ではオスが70~80㎏、メス50~60㎏が平均的、オスの大熊でも100〜130㎏程度であるから倍ほどの体格差があることがわかる。 日本においては、ツキノワグマの方が人的被害が多く、ヒグマの方が死亡率が高いという傾向が古くから知られているが、ロシアでも全く同様の傾向が見られる。 **◇台湾のツキノワグマ 国産のツキノワグマは((大きな差は無いが))タイワンツキノワグマに次いで小兵の部類と言われている。 よってツキノワグマの中では最小の部類になる。 ・体長 120〜180cm 身長は170〜200cm程度 ・体重 60〜200kg 台湾では最大最強にして唯一の大型肉食獣であるためか軍隊の士気バッチに使われるなど国の象徴的野生動物である。実際に国獣に指定されている。 高雄の「雄」と「熊」が同音のため、2015年5月にマスコットキャラ「高熊」のデザインコンテストが行われ、優勝デザインは同年7月に「高雄熊」として着ぐるみ化され高雄観光大使の役職を果たしている。&font(#0000ff,u){&font(#ffffff){元デザインになかった瞳が付け足されたり月の輪の中の花柄が無くなったりした結果2011年から活動中の某熊本県のマスコットと似てしまったが、くまモンサイドから兄弟呼びされているらしいので大丈夫なようだ}} 日本同様カモシカの唯一の捕食者であり、台湾ウンピョウが健在だった時代は食べ残しを狙っていた。 2024年11月体重125㎏のオスのタイワンツキノワグマが養鶏場に乱入し鶏400羽が被害にあった。台湾では貴重動物のためか山に返された。 遺伝的には大陸産のツキノワグマと共通である。 **◇他の熊種とのハイブリッドについて 国外では他の熊種とハイブリッドを生じた事例があり、ナマケグマ・マレーグマとは野生下で交雑した例がある。 また、アメリカクロクマとは飼育下で交雑例があるが、遺伝的近縁性から野外でも会う機会があれば交雑すると予想される。 これらのハイブリッド熊はいずれも繁殖力の無い1代限りのものであると推定される。 国内では秋田県で熊牧場から脱走したヒグマとハイブリッドが生じていてそれが十和利山熊事件などを起こしたとする説がある。 ただ、これは週刊誌の記事が元ネタであり信憑性は高いものではない([[十和利山熊襲撃事件]]を参照)。 また、&bold(){国内ではヒグマとツキノワグマの体格の差を(いささか誇張しながら)強調して「別の生き物」とする解説がニュースや行政などほとんどを占めている。ハイブリッド熊は果たしてできるのだろうか?} 例えば大型犬と小型犬では交尾行動から難しいことが知られており、また強いて言えば大型種のメスと小型種のオスの間にしかハイブリッドが生じないのが一般的である。((例えばオオコクワガタ)) 一般的に解説されるツキノワグマとヒグマの間の「非常に大きな体格差」((丁度マレーグマの子熊と大型のシロクマくらいの体格差である))を考えれば交尾行動からして不可能であることは想像に難くない。 現実的なサイズでもせいぜいオスのツキノワグマとメスのヒグマが動物園のような環境で交尾行動に至るかどうか、といったところだろう。 *🌙まとめ ここまで読んだ方の中には&bold(){「ツキノワグマは危険な生き物だからいないほうがいい」}と思われた方もいるだろう。 それも当然の感覚ではある。 ただし、&bold(){共存が難しいのと同様に完全な排除もまた難しい}。大規模駆除となれば自衛隊員や若手のハンターが半矢にして重傷を負うリスクがある。ツキノワグマが生態系にニッチがあるのも事実である。 また熊にしては小柄だからということで過度に甘く見る意見もあり、こういった意見も危険だが一方で恐れすぎると観光のキャンセルなどに片鱗が出ているが生活に必要以上の支障が出る恐れがある。 熊に限った話ではなく野生動物問題には正解が無い。 結局のところ、ツキノワグマに限らず野生の獣に対しては「&bold(){過度に怯えても仕方ないが侮っては痛い目に遭う}」という一言に尽きるのである。 #center(){&bold(){追記・修正お願いします。}} #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,13) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() - 愚問だが、ヒグマはでかいから危険、ツキノワグマが小さいからかわいいなんてことはない!! -- 名無しさん (2025-07-21 10:10:06) - ぼのぼののヒグマの大将は作者のミスでツキノワグマみたいな模様が付いているというのをネットで知ったな -- 名無しさん (2025-07-21 11:18:50) - 月の輪グマとは言うけど、三日月模様じゃん。全然、月の“輪”じゃねーじゃん -- 名無しさん (2025-07-21 11:22:14) - 牛漫画家「ヒグマに慣れてるとツキノワグマくらいなら倒せる気がする」→「やっぱ無理ですゴメンナサイ」 -- 名無しさん (2025-07-21 11:26:04) - 熊肉が食用肉としても販売されていて通販で買える -- 名無しさん (2025-07-21 11:34:18) - そんな餌で俺様が釣られクマー 熊と出会ったら、熊から目をそらさずに後ずさりするのが良いそうだ -- 名無しさん (2025-07-21 11:45:29) - どうして人間の脅威となる生き物の能力の比較に大谷翔平が出てくるんだ… -- 名無しさん (2025-07-21 13:55:46) - 「ヒグマをライオンとしたらツキノワグマは犬くらい」と甘く見られることがあるけど、あくまでヒグマがヤバすぎるってだけでツキノワグマだって恐ろしい動物であることに違いはないんだよね。そもそも人間は生身じゃ犬にも勝てないって話でもあるけど。それはそれとして熊肉は美味しかったな。ジビエっぽい風味はあるけど、獣臭くはなくていい意味でワイルドな味わいになってた -- 名無しさん (2025-07-21 14:04:39) - ガトリングガンに比べたらマシンガンは弱いって言ってるようなもんだからな、どちらも脅威であることに変わりはないわけで -- 名無しさん (2025-07-21 14:25:19) - 報道の仕方などはともかく、隠ぺいされているってことは基本無いと思うからそこはカットした方がいいんじゃない?陰謀論じみててやばい -- 名無しさん (2025-07-22 06:39:41) - 面白いこと言おうとして滑ってるなぁ -- 名無しさん (2025-07-22 17:18:48) - 報道関係のとこだけなんか異様な気がする -- 名無しさん (2025-07-22 19:00:23) - ビーファイターにギガツキノワという、殺されたクマの怨念から誕生した合成獣が出てきてたな -- 名無しさん (2025-07-22 21:37:26) - 報道に関して、少なくとも秋田ではテレビやラジオが報じる前に自治体がSNSで出現情報流したり『クマダス』というアプリに通知飛ばしたりしてる。もはやテレビやラジオの情報では追いつかないから報じない -- 名無しさん (2025-07-22 23:20:53) - あの特徴的な月輪模様って、なんのためにあるんだろうな。いまでも残ってるってことは、進化学上でそれなりの意味はあるんだよね -- 名無しさん (2025-07-23 13:42:23) - ちょっと順序がとっ散らかってた印象を受けたので、勝手ながら整理させてもらいました。(章立ての順序を変えて改行を入れただけで、内容に関しては手を加えていません) -- 名無しさん (2025-07-23 15:09:52) - 肉食性が高くその個体がいるのも恐ろしいが、絶滅してしまった二ホンオオカミの役割を担ってもいるのも複雑。 -- 名無しさん (2025-07-23 23:08:46) - いくら人より強いと言っても、生態系にはいないと困るのは結果的には人類だから、人間は領分を守るしかないな。 -- 名無しさん (2025-07-24 17:00:38) - 安藤さんが食ってた奴 -- 名無しさん (2025-07-24 21:24:47) - まさか未だに『クマの縄張りに人間が入り込んでるから被害が起きる』だとか思ってるのはいないよな? -- 名無しさん (2025-07-25 03:26:06) - 2m近いコイツを実際に素手で撃退した空手家最近いたよな…… -- 名無しさん (2025-07-25 10:51:54) - Wikipediaの「佐藤良蔵」のページにある巨大個体の画像アップロードお願いできますか?部外者には無理なようです。 -- 名無しさん (2025-07-30 16:13:13) #comment() #areaedit(end) }

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