嗤う伊右衛門(小説)

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嗤う伊右衛門(小説)」を以下のとおり復元します。
&font(#6495ED){登録日}:2011/08/16(火) 01:10:23
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&font(#6495ED){所要時間}:約 7 分で読めます

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#center(){伊右衛門はにこりと嗤った。}





◇嗤う伊右衛門

「わらういえもん」は京極夏彦の小説作品。
日本に於ける怪談物語の傑作として知られる、歌舞伎作者・四世鶴屋南北の『東海道四谷怪談』を筆頭とした「怪談物」と、何よりもそれらの原点となった作者不詳の「実録物(現実に虚構を交えた下世話話)」である『四谷雑談』を下敷きとして、新時代の戯作者を自認する作者が新たな解釈の許に紡ぎ出した、現代の『四谷怪談』である。
97年に中央公論社から新書版が、現在は角川文庫から文庫版も刊行されている。
映画版も存在するが、ここでは原典の紹介のみに留める。

#center(){愛と憎、}

#center(){美と醜、}

#center(){正気と狂気、}

#center(){此の世と彼の世、}

#center(){第二十五回泉鏡花賞に輝く、}
#center(){著書渾身の傑作怪談。}



【物語】

江戸の終わりの頃の事……。

夏には無数の蚊の涌く、水縁の貧乏長屋の一角に終ぞ笑った事の無い美貌の浪人……境野伊右衛門は住んでいた。

その伊右衛門に、僅かばかりの機縁を発端に降って涌いた、御先手組の棒突役人……民谷の鬼娘、お岩との縁談話。
……類稀な美貌の持ち主であり乍ら、二年前に患った疱瘡で二目と見れぬ顔になり乍らも自らを憐れみもせずに正しくあろうとする岩。
その、岩の清廉さを本能的に感じ取った伊右衛門は、岩との縁談を受諾……晴れて婚姻の運びとなるが……。

岩の父、民谷又左衛門に、その上役である筆頭与力の伊東喜兵衛。
伊右衛門とは馴染みの、医者の下男の直助に盲目按摩の宅悦、彼らの知己の御行乞食の又市……。

二人を囲む、様々な人物の思惑が絡み合う中で次々と巻き起こる陰惨な事件の顛末や如何に?



【主要登場人物】

・民谷伊右衛門
「岩は俺の妻だ」
五年前にお取り潰しになった、ある藩に仕えていた食い詰め浪人で、登場当初の名は境野(さかいの)伊右衛門。
禄を喪うと共に父母も失い、天涯孤独の身の上となり江戸に流れて来た後は得意の木匠(大工)を生業として貧乏長屋に住んでいた。
整った細面の持ち主だが、生まれてから終ぞ笑った事が無いと云う朴念仁で、困窮の中で二本差しを売って竹光を差していても顔色一つ変えていなかった。
馴染みの直助に依頼されて受けた用心棒仕事の際に僅かな知己を得た又市の斡旋により、民谷の家に入り婿に入るが……。
※実は、途轍もない剣の遣い手。

・民谷岩
「厭じゃ。厭じゃ厭じゃ厭じゃァ」
御先手組鉄砲組同心、民谷又左衛門の一人娘。
類い稀なる美貌と、誰よりも正しくあろうとする心根の持ち主で、それ故に他者と衝突し、理解されぬ故に孤立するも、尚も折れる事のしない人物。
※『東海道四谷怪談』とは違い、&font(#0000ff){最初から面相が崩れた状態}で登場する。
また、史実に於ける貞女であったと云う岩の姿は、彼女の先祖の話とされた。

・民谷又左衛門
「岩を……娘を……民谷の家を……ご家名を……譲ろうぞ……伊右衛門殿」
岩の父で、民谷家の総代。
由緒ある御先手組の同心と、厳格、且つ美しい母に教え込まれて育てられたが、所詮は自分が微禄な棒突同心に過ぎぬ事も理解していた。
……しかし、娘の岩の前では決してそうした「本音」を見せまいとして、内職もせずに粛々と御役目を果たして来た。
……突然の鉄砲の暴発事故により片眼を失う怪我を負い、岩の目から見てもあっさりと引退……当初は同心株をも売ると言っていたが……。

・直助
「……人ってえものは、刺しゃあくたばるもんですかい」
町医者、西田尾扇に仕える下男で無頼の徒。
妹のお袖を溺愛しており、ある事件以来、鬱ぎ込んでいるお袖の世話をしていた。
人付き合いが苦手な伊右衛門とは、矢張りある事が契機で知り合い親交を結んでいた。
……後に、お袖が自ら首を吊って死んだ後に出奔。
伊右衛門らの前から姿を消していたが……。
※直助とお袖は、役割こそ大きく違うが『東海道四谷怪談』の重要人物。

・灸閻魔の宅悦
「い、いいんだ。儂は御覧の通りの醜男じゃから……こ、このくらいの」
肥満体で盲目の足力按摩で、直助や又市とは馴染みの、無頼だが気の良い男。
伊東喜兵衛の無法を正すべく行った「仕掛け」の協力者であり、その際に結果的に自分達を救ってくれた又左衛門の治療を行っており、又左衛門からの婿探しの依頼を又市に伝えた。
友人の直助の妹である、お袖の治療もしていたが……。

・民谷梅
「の、覗きやる、岩様が覗きやる」
元々は薬問屋「利倉屋」の娘であったが、伊東喜兵衛に手込めにされ、その非道を正すべく直助や宅悦らが伊東の屋敷に乗り込み……と、物語の発端に関わる美しくも愚かな娘。
直助らの依頼に、何故か中途半端な準備で臨んだ又市の「仕掛け」が失敗に終わろうとしていた所で仲介に入った民谷又左衛門の口利きで、民谷の養女になった後に伊東喜兵衛の許に嫁入りさせられる。
……しかし、同じ組内では縁組みを出来ない掟もあり結局は妾(監禁肉奴隷)としての生活を送っていたが、又左衛門の跡目を継ぎ伊東の部下となった伊右衛門の姿を目撃し……。

・西田尾扇
直助が仕える町医者。
腕はともかく、金次第で如何様にも動く悪辣な人物。
後に『[[前巷説百物語>前巷説百物語(小説)]]』にも登場。

・秋山長右衛門
伊東喜兵衛の腹心。
伊東に憎まれ乍らもそれを理解せず、伊東が望めばどんな非道も行う。

・堰口官蔵
矢張り伊東の腹心。
最終的には、己の報いを一生掛けて償うかの様な目に遭う。

・伊東喜兵衛
「ほう。貴様……女房が犯されるのを見物すると申すのか……それも一興じゃ。構わぬぞ。見ておるが善い。さあどけ。蚊帳の外に出い」
……物語最大の悪役。
御先手組鉄砲組筆頭与力で、どれだけ女を犯しても、どれだけ酒を呑んでも満足する事の無い怪物。
元は商人の出であったが、跡目を継ごうと云う間際に父親から知らされた「ある事実」を知り、父親を打ち据え、母と妹を犯した後に金の力で侍となった。
……彼の運命を変えた「秘密」とは……。

・佐藤余茂七
民谷家の遠縁に当たる若い同心で、物語の最後を見届ける役目を担う。
※本作では僅かな登場だが、『東海道四谷怪談』では直助とお袖に関わる重要な人物である。

・御行の又市
「御行 奉為……」
「小股潜り」の二つ名を持つ弁舌の達人で、言葉のみで世の中を渡り、人の願いを叶えて生きる大望を掲げる若い偽物の御行乞食。
馴染みの宅悦の願いを聞き入れ、伊右衛門をお岩の婿にするべく尽力する。
……初登場乍らも、らしくないとされる行動を見せるが……?
この頃は若さからか、失敗も多かったようだ。






【余談】

本作の狂言回しであり、これが初登場作となる御行の又市は、同年よりスタートした『[[巷説百物語>巷説百物語(小説)]]』の中心人物であり、以降のシリーズに於ける活躍により、京極作品の中でも京極堂と共に多大な支持を集めて行く事になるキャラクター。
……因みに、作者の完全なオリジナルキャラクターでは無く、『四谷雑談』にも登場して来る詐欺師を脚色した存在である。

史実の民谷岩=お岩さんは、夫の非道から亡霊となった女性でも性格の烈しい醜女でも無く、夫を支え稲荷神社を建てた貞女であったらしい。

時代小説にも関わらず、ミステリーとしても高い評価を受けており、謎解きが本筋では無いものの、終盤に明かされる「ある事実」に度胆を抜かれた読者も多いと思われる。




















#center(){「言うな。解っておる。冥殿、誰にも追記と修正されたくなかったか」}


#center(){「その権利……俺が貰うた」}

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- 京極夏彦の傑作。そして純愛ものだったりする。  -- 名無しさん  (2014-05-19 15:29:16)
- 読了後、涙出た。素直になれなかった二人の、愛の形に…  -- 名無しさん  (2014-05-21 21:00:34)
- 映画も良く出来てたよ。個人的に小説の方が好きだけど。  -- 名無しさん  (2014-09-03 22:38:04)
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