MADムービー

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MADムービー - (2022/07/31 (日) 06:39:14) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2017/06/28 Wed 17:42:41
更新日:2023/12/09 Sat 17:38:47
所要時間:約 8 分で読めます




ここでは、インターネット・ミームのひとつ、『MADムービー』について解説する。

概要

MAD(マッド)とは、漫画・アニメ・ゲーム・その他メディアを編集・合成し、再構成したものである。
原義はこうなので「手描きMAD」というものは原義からはおかしい言葉にはなるが、
MAD『的』なものというイメージが現代日本人に定着したことでこうなったものである。
ちなみに「mad」とは狂っている、と言う意味であり、別に何かの頭文字というわけではないのだが、
どういうわけかカタカナ表記にされたり小文字表記にされることはほとんどない。

それを踏まえてMADムービーというのは「そういう風に作られた映像作品」として見なせるわけだが、
現代は単にMADといえばMADムービーを指す。


MAD史~ここテストに出ますよ~

MAD前史

MADムービーの起源と言えるものは、1970年代頃、大学のサークルなどで制作されていた「キチ○イテープ*1」である。
これを英訳すれば「マッドテープ」となり、これがMADの語源である。
このテープというのは「カセットテープ」のこと。
カセットテープというのは現代では珍しくなってしまったが、かつては音声録音のための記憶媒体として最も普及していた代物であり、
使われていた当時を知らない人でも「けいおん!」などで見たことがあるだろう。
つまり、当初のMADは映像作品ではなく音声作品が中心であった。著名なのは大阪芸大の『NEW MADTAPE』シリーズなど。
この時点で、後にニコニコ動画などで定番となる『歌の後に○○と付けるシリーズ』『忙しい人向けシリーズ』『特定のフレーズを執拗に何度も繰り返す』『マッシュアップ(非常にソックリな曲をいっぺんに同時再生する、合成する等)』といった手法があらかた開拓されているのだから、先人の知恵というのは侮れない。
作る方法はテープレコーダーの巻き戻しや早送りの機能をフル活用してカセットに録音していくという、だいぶアナログで手間のかかる方法だったがテープレコーダーと空のテープがあれば素人でもできたため、当時からかなり敷居が低かった。
なお高級なテープレコーダーであるほど編集に便利な機能が多数備わっていたことから重宝されていたらしい。
いまなら音源さえ確保しておけばパソコンの音声編集ソフトによるコピー&ペーストでサクサク作れるわけだから、こういうところも時代を感じる。
このMADテープは単に作った本人やその友人たちが楽しむだけに留まらず、同人誌のようにイベントで販売されたりもしていた。

また、1980年代には『タモリのオールナイトニッポン』というラジオ番組で、
NHKニュースのアナウンサーの声をつぎはぎする『つぎはぎニュース』というコーナーが二ヶ月だけあった。
最終的にはクレームが付いてコーナーは早々に終了してしまうが、
アナウンサーの声というのがつぎはぎ加工しやすいことからその後もアングラ文化として流行っており、
2000年代後期にすら新作が作成されていたくらい長生きしていた。

その後ビデオテープの普及によって音声作品から、映像作品のMADである『MADビデオ』が作成されていった。
初期は今みたいにコンピュータが普及していたわけではないので、セリフ差し替えやBGM変更などが主流な作品である。

Flashの登場・サンプリングの流行

インターネットが広まっていった2000年代から、Flashムービーと呼ばれるものが流行した。
Flashは「Adobe Flash」形式の動画ファイルのことを指すが、このFlashにおいてはMADビデオを元にしたような、
「アニメOPに、関係ない作品やネットではやったもの、あと有名になった人を貼り付ける」といったものが多くなる。
サザエさんやドラえもん、田代まさし*2や鈴木宗男や金正日、ブッシュ、小泉純一郎、ペリーなんかはよくネタにされていた。
この時点でバック音源(コミックソングや特撮・エロゲなどのOP、あとHatten)に映像や音声を合わせるという文化の萌芽はあり、少なくとも初版投稿者の小学生の時の思い出は学校のパソコンの授業で授業そっちのけでみんなでFlash見ていたという体験談もあるほど。

また、同時期よりヒップホップなどで使用されるサンプリングという技法も取り入れられ*3、サンプリングした音声でメロディを再現したり、音楽に取り入れるなど、今のMADムービーに通じる文化が発展した。
しかしそれは、奈良県の通称騒音おばさんと呼ばれる主婦や、鈴木宗男の国会答弁、
某大手予備校の授業やブラック企業の告発に伴い証拠として提出された上司の怒鳴り声の録音などのネタが使われるなど、
不謹慎さを孕んだモノも多く、今で言う「例のアレ」系のネタにも繋がるようになっていくといえる。

このような発展の裏には、あめぞうや2ちゃんねるなどのアングラサイトやWinnyなどのP2Pの登場が貢献している。
またブラクラよろしく踏ませようとする「釣り」文化や、逆にWebサイトで紹介して広める(フラッシュ倉庫)といった文化も、
現代の釣り動画やTwitterなどで面白動画を紹介するような文化へと繋がったといえる。


動画投稿サイトの登場

Flashは権利上問題ある物が著作権管理団体によって取り締まられていくようになったり、あるいは商業化などの批判が登場して廃れていくが、
変わって同時期にYoutubeが登場して流れが変わる。2005年に登場したYoutubeは、
まさにFlashの後継として、Flashの転載や単純に新作MADムービーを投稿されるようになり、
またこの時期に海外でも、1970年代から作られてきた「Anime Music Video*4」がやはりYoutubeに投稿されていた。
今ではYoutubeといえばYoutuberの躍進が目覚ましいが、当初は結構アングラよりのサイトだったのである。
この世界的なアニメの再構成作品の流行はいくつかの権利者にも「もはや無視できない」文化として受容されて行く。
この頃にはコンピュータでも高度なことが比較的簡単にできるようになっており、
素材集めも各種加工も自在なために黎明期とは比べ物にならない高度なMADが作られてきた。

更にその二年後には、ニコニコ動画が登場する。
ニコニコ動画ではFlash時代からあったIOSYSの東方二次創作音源や、
『Ievan Polkka』、『マイム・マイム』、音ゲー曲などやそれらのメドレーをベース、
アニメやニュース番組、駅アナウンス、レスリングなど、たくさんの素材が使われ制作されていった。
こうしてYoutube・ニコニコなどの動画投稿サイトが現代のMAD文化を完全に定着させ、10年たった今でも盛んに制作されている。
後述する問題点もあるとはいえ、現代ではMADを好意的に受け取る権利者も多く、ダイハツではエコカー減税終了後のCMを公式MADで作成したり、
日清食品はカレーメシのCMのMAD作品コンテストを行い、優勝者の作品をTVで放映したほど。

ただ一方で、宗教団体・政治団体のビデオや同人ボイスドラマ企画、更には炎上した市議会議員や弁護士などの音声を用いた
MADも生み出されるなど、やはりアングラ(不謹慎)なDNAは現在でもなお生き残っている。
発祥がアングラなんだからアングラなものが残るのは当然といえば当然ではあるのだが。


MADムービーの問題点

MADムービーは1970年代から問題点も多く抱えている。

まず重要な点は、基本的に著作権や肖像権など、多くの権利の侵害が見られることである。
騒音おばさんやその後の炎上ネタでは、一般人の顔が思いっきり映った作品も少なくない。
その上でこき下ろすようなネタが多いのだから、当然誹謗中傷に繋がる。
アニメMADなどでは肖像権が関係しないことも多いが、以前著作権絡みの問題点は残っている。
現代ではイメージ戦略などを理由に公認されたものも多く存在しているが、
著作者・視聴者を問わず「MADによってイメージが崩れる」ことを良しとしない人も多くいることを忘れてはいけない。
サザエさん原作者の長谷川町子は「二次創作は作者への冒涜だ」と考えていたため、MADに関しては完全にアウトである。

また、MADの内容如何によって、間違ったイメージがキャラや現実の人物に定着してしまう、
ある種の釣りに使われたり、事実上釣りとなってしまったりという、ファンにとっては苦々しいものも多い。
こと平成ライダー一期はMAD文化などによって、本編中ではフォローアップされていることであっても、
勘違いのまま広まってしまったことでネタキャラ扱いされた人なども多い。

他にも、MADの素材によって下ネタやレスリング、淫夢、AV、エロゲなどの、
本来ゾーニングされるべきものや風評被害ネタなどの教育によろしくないものが
未成年者にも広まってしまうなどの問題点も。
(初版投稿者の小学生だった2000年代初期からの問題だが、現代でも未だ深刻な問題でもある)


MADの楽しみ方

…と問題点もあるが、アニメやゲームのMADなどは欧米発祥のAMV同様、メディアへの注目を集めるきっかけになったり、
サブカルチャー文化の創造と発展に大きく寄与してきたのもまた事実である。
ある種キャラ崩壊系二次創作同様、面白い人にとっては面白いジャンルであることは間違いなく、
著作者や権利者との信頼関係を損なわない限り…という前提条件があればむしろプラスに転じているジャンルである。
またMADのように「音と行動を合わせる」という文化自体は創作では珍しいものではなく、
そういう方面でネタ化していくことが面白いのは間違いない。

ただしネタ化を好まない人も当然いるし、やはり上の問題点は依然残っているため、
非公認又はアングラなコンテンツを制作・公開することは、削除や訴訟を起こされるなどのリスクも覚悟する必要がある。
また、好まない人に押し付ける、逆に好きな人をことさら批難するということも推奨されない。
お互い分別を持ってメディアを楽しむべきであろう。


公式MAD

先程「著作者や権利者との信頼関係を損なわない限り」と書いたが、実際に公式が容認したり、
フリー音源や自作音源ベースなどになったりした事例もある。
特に公式が自作MADを公開した例は疑いようのないホワイトである。
黒からグレーのものが多かった発祥から大きく様変わりしたといえよう。

  • カプコン:公式でダルシムのボイスをつかったサンプリングミュージックを配信。
  • 日清食品:カレーメシCMのファン制作MADをテレビでCMとして流す。
  • コナミ:『メタルギアソリッド3』でゲーム内ムービーを使った改変ムービーを作成。
  • ダイハツ工業:ダイハツムーヴのエコカー減税終了後のCMは『公式MAD』であることを示唆。
  • 劇団イヌカレー:シャフト制作『獄・さよなら絶望先生』のOPデチューン(公式MAD風味)を担当。


AMV

似て非なるものにAMV(アニメ・ミュージック・ビデオ)やTMV(特撮・ミュージック・ビデオ)というものがある。
その名の通りアニメや特撮を使ったミュージック・ビデオであり、「音と行動を合わせる」というMADとの共通点があるが、
AMVは主に海外発祥の文化であり、大まかに言って
  • MADが歌詞と行動を組み合わせるのに対し、AMVはメロディーと動きのリズムを合わせる
  • MADがギャップによる面白さを目指すのに対し、AMVはシンクロさせて格好良さを目指す
といった傾向の違いがある。
最近は格好良いものもMADに分類されることがあるけどな!

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