Bv141

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Bv141 - (2021/12/05 (日) 08:56:09) のソース

&font(#6495ED){登録日}:2015/05/29(金) 19:58:53
&font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red)
&font(#6495ED){所要時間}:約 10 分で読めます

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Bv141とは、ドイツ軍の&font(l){妖怪}[[試作>試作機]]偵察機である。


*概要
時は第二次世界大戦の真っ只中。
ドイツ航空省は国内の航空機メーカーに対し、

「そろそろ新型偵察機が必要なんだけどさ、なんか考えてくんない?」

と要求を出した。
尚この際に出された条件は以下の様なものであった。
・エンジン単発
・視界良好
・3人乗り

しかし、しかしである。
その要求を受けた中には「あの」[[変態企業]]、ブローム・ウント・フォス(以下B&V)が居た…。
これが問題であった。
B&V「単発で視界良好な偵察機か…[[私にいい考えがある]]」

後日、B&Vが提出してきた「試作品」を見て、航空省の役人共は絶句した。

何しろB&Vがドヤ顔で提出してきたのは、

#center(){&bold(){ 左 右 非 対 称 の 飛 行 機 。}}

#center(){&font(#0000ff,b){「それはひょっとして冗談で作ってるのか…?」}
}

#center(){「[[あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!]]
 『俺達は 国内の飛行機屋に新型偵察機を考えろと言ったら
 B&Vから左右非対称の飛行機を提出された』
 な、何を言ってるのかわからねーと思うが 俺達にもわからねえ
 頭が変になりそうだった
 [[変態企業]]とかマッドサイエンティストとか、そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
 もっと恐ろしい物の片鱗を味わったぜ…」
}


普通の飛行機なら胴体に当たる部分に入っているのはエンジン、燃料タンク、油圧機器などといった「機械類」のみ。
乗員が搭乗するスペースは、"胴体"のどこにも見当たらない。
それではどこに乗り込むのかといえば、胴体右側に設置された全面ガラス張りのキャビン。
全面ガラス張りだけあって確かに視界は良好すぎる。
しかし胴体とキャビンで形状が…ってか、「長さ」からして違う。

しかも驚くべきことに、この驚異のフォルムにも関わらずちゃんと飛んだどころか

#center(){&bold(){ 操 縦 性 ・ 機 動 性 は 極 め て 良 好 、}
&bold(){安 定 性 も さ ほ ど 問 題 は な い}}


という結果だったのである。

…尚、本機がテイクオフした際には航空省の役人たちは
&bold(){「[[嘘だッ!!>ひぐらしのなく頃に]]」}
&bold(){「[[なん…だと!?>BLEACH]]」}
&bold(){「嘘だろ!?」}
&bold(){「[[…アリエナイ。>ナナシノゲエム]]」}
&bold(){「マジて飛びやがったァ!?」}
&bold(){「[[あ…ありのまま起こったことを話すぜ(ry>ジャン=ピエール・ポルナレフ]]」}
と絶叫したとかなんとか。

しかしエンジンと油圧周りに欠陥がある、「もしもの時の生存性」で有利、フォッケウルフの政治力などもあり、
制式採用が決まったのは要求の一つにあった&bold(){「エンジン単発」を盛大に全力で無視して双胴機に仕立てあげた}フォッケウルフ製の競合機、
Fw189であった。
ちなみにこのFw189というヤツ、双胴機の中央にBv141のものに似た全面ガラス張りのキャビンを装備しているという形状をしており、
Bv141ほどじゃあ無いがコイツも中々キモい外見である。
その形状からソ連軍からは「空飛ぶ額縁」とかなんとか呼ばれていたそうで。
...まぁでも常人の航空設計師が考えるなら普通こうなる筈だよね...。

…政治力とか不具合とか生存性なんてのは飽くまで表向きの話で、
本当は&bold(){「あんなキモい飛行機なんて採用できるか!」}ってことじゃないのかなあ…

尚、Fw189との競合にこそ敗れているが、航続距離・機動性・操縦性・最高速度などのスペックに関してはあろうことかBv141の方が上だったのである。
まあ機動性、最高速度に関しては、Bv141は曲がりなりにも単発機であるゆえ分からないでもないが、
航続距離はエンジン2基の方がなにかと有利なはずなのにどういうことなの…。

また、本機を開発したB&Vと、そのB&Vのエンジニアである「リヒャルト・フォークト」博士は、
コイツ以外にも奇妙奇天烈摩訶不思議・奇想天外四捨五入・出前迅速落書無用なゲテモノ航空機をこれでもかというほど開発しているそうで。
どうして誰も止めなかった。
ちなみにこのフォークト博士だが実は&bold(){戦前の日本陸軍航空機の設計を担当している。}


*派生機
その形状の時点で飛行機の常識を全力で蹴っ飛ばしているBv141だが、なんの因果か爆装をウリにしたfw189というライバルに対抗する形で、
さらに発展型として爆撃機バージョンの「Bv194」という機体も企画されていた。
このBv194はBv141をベースとし(つまりやっぱり左右非対称)、キャビンの装甲化や胴体部への爆弾倉の追加などを行ったものである。
極めつけはキャビン下部に、[[Me262>メッサーシュミットMe262シュヴァルベ]]戦闘機でお馴染みの[[ターボジェットエンジン>ジェットエンジン]]、ユンカース Jumo004を補助エンジンとして追加。
但しこちらは計画のみで終わった。フォークト博士、自重してください。


*左右非対称の意味
勿論、洒落や冗談や趣味やギャグその他で左右非対称にしたわけじゃあない。
ちゃんとした理由がある。
(でもフォークト博士のこと考えると"趣味"だけは案外あってそうな気がするけどなあ)

プロペラ機というのは一見すると分からないが、実は機体に常に左右のバランスを崩そうとする力がかかっている。
この力の犯人は実はプロペラである。
まずプロペラは「回転して空気を後ろに押し出して推進力を生じさせる装置」である。回転しているのである。
この回転により機体には「プロペラの回転とは逆方向のトルク」が常にかかっている。
また、プロペラの回転により渦巻状の気流がプロペラのブレード先端から発生し、機体を常に曲がらせようとする力も生じさせている。

これを解決する方法としては、
・自動的に当て舵を行って偏る分を相殺する
・或いはブリテン・ノーマン「アイランダー」のように2台のエンジンを逆回転させてお互いのトルクを相殺する
・さらに最後の切り札「二重反転プロペラ」を採用する
…などが(一般的な手段としては)存在する。


ところがである。
当て舵ってのは空気抵抗を増やす原因である。しかもそんなことを「常時」「自動的に」行っていた日には…。
お互い逆回転するエンジンを使えば左右対称に設計できるし当て舵も不要だが、今度は増えたエンジン分コストやら重量やら増すし整備するときに左右のエンジンで互換性がなくなる。実際この時期の双発機は生産性を考慮して敢えて左右同じ向きのエンジンであることも珍しくない。
二重反転プロペラ?あんな信頼性もメンテナンス性がクソなもの、ばんばん使ってみろ。製造者と整備屋が過労で倒れるぞ。

さて、ここで発想を180度変えて、
&bold(){「偏った力が発生している以上どーやってもバランス崩れるんなら逆に最初から左右非対称にすればよくね?」}ということをやってみよう。
具体的にはそりゃまたしっかりきっかり151匹…じゃなかった、例えば右側に偏る力が働いている場合、
右側にキャビンをずらしたりして右側「だけを」重くして空気抵抗も大きくしてみたりするってことである。

そうすると…[[なんということでしょう。>大改造!!劇的ビフォーアフター]]

反トルクは右側だけ重くなったお陰で勝手に相殺されてしまいます。右に曲がろうとする癖は空気抵抗で自動的に打ち消されてしまいます。

実際多くのプロペラ戦闘機の多くは細部をよく見ると左右対称に見えて、実際は微妙に形状が違ってて左右非対称になっていることが多い。その理由はこの恩恵を少しでも受けるため。

この「結果として」形が左右非対称により、空力的・力学的に左右対称にしてしまう究極の形を目指したのがBv141なのである。
しかもキャビンだけ独立させたことにより、強度の面でどーしようもない床以外は文字通りの全面ガラス張りを実現し最高の視界を提供できる。


[[任天堂]]公式サイトの名物コーナー、社長が訊くで「複数の問題を一挙に解決できるアイデアこそが良いアイデアである」と言われていたが、
この形状も実は「複数の問題を一度に解決できるアイデア」なのだ。

しかし「航空機」としては合理的な形状ではあっても、
「実用品」や「工業製品」としてはぶっちゃけ左右対称の方がデメリットを遥かに上回るメリットを有していることが殆ど。
実際のところ、今の時点で空飛んでいる飛行機はほとんどが「左右対称」、例外でも「尾翼等一部除いて左右対称」のものが圧倒的に多いわけで。
戦争という「合理性・実用性」を極限まで求められる環境と、
何よりそこそこの無茶が許される「試作機」だからこそこんなぶっ飛んだ設計が許された、とも言えよう。


*戦後のフォークト博士
戦時中は様々な奇想天外な兵器の開発をしていたフォークト博士だったが、戦後はペーパークリップ作戦を展開していたアメリカによって
数多くの技術者と共にアメリカへと移住、いくつかの職場を転々とするがその間に垂直離着陸機や水中翼船などの研究に携わった。
中でも博士はある程度有用性は確認されたものの、必要性のある航空機が少なかったために研究されていなかった主翼の先端に小型の
延長翼を増設することで空気力学が改善される&bold(){「延長翼」}の有用性を実証。
この延長翼は博士存命中にいくつかの航空機で採用されたがその後40年以上経っても廃れることなく、
現在は&bold(){「ウイングチップ・ウイングレット」}の名称で数多くの航空機でこの延長翼が採用され更に効率のいい翼の研究が続けられている。
…とBv141やその類似機ばかり注目される博士だが航空史的にはかなりの貢献もされた立派な御仁でもある。



航空省:
次世代偵察機の要件としては、
本項目の加筆は「エンジン単発」の、
同じく修正は「視界良好な3人乗り」の偵察機で行うことが望ましい。

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#openclose(show=▷ コメント欄){
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- トンデモゲテモノ飛行機かと思ったら、実はめっちゃ理に適った設計になってるとかどういうことなの…  -- 名無しさん  (2015-05-29 22:36:51)
- ドイツの数あるゲテモノの中では、かなりまとも(な性能)でありイカれてる(外見の)兵器。  -- 名無しさん  (2015-05-30 01:49:25)
- 要するに『海を越えた英国面』なんだよな、これ  -- 名無しさん  (2015-05-30 14:39:44)
- これを初めて見た時はニンジャリアリティーショックみたいな状態になったわ  -- 名無しさん  (2015-05-30 17:16:54)
- ↑4 心配するな。宇宙ではよくあることだとメーテルが言ってたぞ、たぶん。  -- 名無しさん  (2015-05-30 17:29:30)
- なおB&Vの本業は造船で軍事方面だとビスマルク作ってたりする。  -- 名無しさん  (2015-06-02 21:18:17)
- 晩年、フォークト博士の自宅は全焼したらしいが、変態飛行機の設計図の宝庫だったんだろうな  -- 名無しさん  (2016-04-17 12:03:50)
- 思ったよりまじめな記事だった  -- 名無しさん  (2016-09-12 09:23:30)
- ちなみにアメリカのF4Uは左右対称に見えて実は微妙に非対称な設計になっている。  -- 名無しさん  (2017-11-30 17:19:29)
- バウハウスの信念である「形は機能に従うべし」に通じる、まさにドイツデザインといったシンプルでスパルタンな形状。こいつはやっぱり美しいと思うんだよ。  -- 名無しさん  (2020-06-05 16:04:42)
- 後世の世からしてみれば、性能いいし生産性いいんだし、こっち使えよ!て思うけど、現場からしたら、あんな得体のしれないモノ操縦するの?て気分なんだろうな   -- 名無しさん  (2020-09-03 15:43:30)
- 最新のプロペラ機はトルクどうしてるんだろう  -- 名無しさん  (2020-09-03 15:59:11)
- 地味に名記事。何故左右非対称なのか?というとこをちゃんと説明してるのってほぼ見かけないので  -- 名無しさん  (2021-09-30 20:23:02)
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