SCP-3997

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SCP-3997 - (2020/06/01 (月) 21:54:24) のソース

&font(#6495ED){登録日}:2019/04/01 Mon 00:51:58
&font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red)
&font(#6495ED){所要時間}:約 6 分で読めます

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#center(){&bold(){我々が暗闇の中で死ぬことで、君たちは光の中を生きられる。}}

#center(){&bold(){純白の過去に逃げるな。我々は漆黒の未来に立ち向かわなければならない。}}


SCP-3997とは、共同創作サイト「[[SCP Foundation]]」に登場する[[オブジェクト>オブジェクト(SCP Foundation)]]である。
[[オブジェクトクラス>オブジェクトクラス(SCP Foundation)]]は&bold(){Keter}。
メタタイトルは「&bold(){わたしの終わりはわたしの始まり}」。
クリアランスレベルの低い職員向けに、特定の情報が伏せられているのだが、欺瞞情報の部分が短すぎるため初っ端からネタバレ全開で行かせていただく。

*特別収容プロトコル
まずは恒例の収容手順。
>全てのSCP-3997-1個体は発見され次第、即時かつ恒久的に財団の拘留下に置き、SCP-3997関連の知識を得るために尋問します。
>特殊機動部隊ミュー-45 “不揃いの鉤爪”がSCP-3997-1個体の拘留および&font(l){SCP-3997の発見}のために結成されています。
>SCP-3997に予想される効果に対抗するため、当該機動部隊は広範な反ミームおよび認識災害への訓練を受けています。

欺瞞情報の方では、発見した3997-1個体は記憶処理して解放、機動部隊のナンバーが伏せられている。
プロトコルそのものは要するに、3997-1を確保せよという話だが、3997自体にはミームや認識災害的な効果があるらしく、対抗訓練を受けることが義務付けられているらしい。


*概要
で、そんなSCP-3997は何かというと、イギリスはグロースターシャーのどこかに存在するとされるバラ園である。
欺瞞情報ではこいつが与える影響のみを切り取り、この州の住民に多くみられる、白いバラへの愛着を抱かせる精神影響である、とされている。
確かにそれは間違いではないのだが、あくまでも発生する現象の一部分を切り取ったものに過ぎない。

その全貌はいかなるものかと言うと、ズバリ&bold(){超小規模なCK-クラス:世界再構築シナリオの発生}である。
しかもコレ、過去に何度も何十度も何百度も起こされた節がある。
ただ後述する理由から、SCP-3997に関する情報は3997-1個体から得られたもののみである。


で、具体的にどんな異常性を持つのかと言うと、まずこのバラ園に成人が侵入することがトリガーとなる。
侵入した人物は大規模な時間的変位の対象となる。よってその存在は消滅し、その記憶は、2歳から5歳頃のその人物へとそっくりそのまま転送される。子供だったその人物からは明瞭極まる夢として認識され、最短で5年、最長で8年近く同じ夢を見続ける。こうなった人物が3997-1個体である。
なお、当人はこれが異常であることは気付かない。

これら、夢という形で見られる転送された記憶はその人物の成長に大きな影響を及ぼし、元々の時系列とは全く異なる決断や選択を行うようになる。そして、個人的にも職業的にも大きな成功を収め、だいたいの場合は選択した分野の専門家となる。

影響者の共通点として、白いバラ、バラ園=SCP-3997、子供時代の思い出を特徴とする鮮明な夢を見続ける。そして、それらの夢について語る場合トランス状態に陥り、夢の内容を詳細に想起できるようになる、ということが挙げられる。


要するにこのバラ園は、いわゆる時間逆行型転生を引き起こすのである。
その手のラノベやネット小説を呼んだ人なら、大体その仕組みはわかるだろう。そういう作品では単なる偶然だったり神様だったりする「原因」の部分が、ここでは白いバラの園なのだ。

で、財団としては当然ながらそんな危険なもんほっとけるわきゃあない。
というわけでミュー-45がバラ園の発見と終了のために奔走していた……のだが、O5の一人から捜索の中止命令が出され、現在この任務は終わっている。
さらに何と、財団内部にこのバラ園を個人的に見つけたい、と言う理由で研究していた職員が相次いで発見されたのである。

これらの事象から、SCP-3997に関する完全な知識はO5評議会、およびバラ園の研究に関わる限られた職員のみに限定されることとなった。


*補遺
2011年11月、ミュー-45の隊員たちが、複数の実在しない隊員についての記憶を持っていたことが判明した。
担当研究者は隊員たちから聞き取りを行い、該当する人物を調査したところいずれも発見。だが、彼らは財団とは何のかかわりも持たない一般人であり、いずれもが3997-1個体であった。

この事例から、SCP-3997は幻覚の類ではなくどこかに実在する場所系オブジェクトである、という可能性が強くなった。
だが同時に、財団そのものが幾度となく再構築された、という可能性の表れでもある。この部分はO5命令でデータが消されているが、異常性が判明している時点で明らかであろう。

そしてこれは、別の危険性を意味する。
SCP-3997によって逆行転生した者達は、「前世」の記憶をまんま引き継いでいる。つまり、財団の機密情報がいきなり外に流出していることに他ならない。だからこそ財団は各個体の確保に躍起になっているのだ。

SCP-3997が実在するなら、そこを完全封鎖して誰も入れないようにし、残る3997-1個体を全て確保すれば完封となる。
それが出来ないのは、SCP-3997による逆行で、人生をもう一度やり直せるという誘惑に負ける人間が常に一定数いるからである。
ミュー-45の隊員にすら、逆行を選んだ者たちがいたように。


ところで、3997-1個体は具体的にはどんな夢を見るのか?
ここに、元はトラックの運転手であり、逆行によって財団研究者となった人物へのインタビュー記録がある。
その中から、バラ園に関する部分を抜粋する。

まず、とあるカントリーハウスがあるらしい。

>所詮は夢だからな、易々と思い出せるような… そう、生け垣を目にした。入口からそこへ入った。先に進むと、バラ園に出た。沢山の白いバラがそこら中に。アーチの上に、木枠の上に配置されていた。小さくて綺麗な石敷きの道が前に、前に伸びていた… とても白くて、純粋で…
>そして私はそこを歩きながら、空を見た… 晴れた空だった… 太陽が輝いていて、草も光っているように見えて、全てはとても静かで、平和で、麗らかだった… 他には誰も周りにいなかった。ただ私とバラだけが…

>そしてその時… 一瞬のうちに、バラは全て落ちてしまった。バラは全て私の周りに散らばっていて、それは全て… 正しく感じられた。私が子供だった頃のように、そして彼らは何が正しくて何が間違っているかを、私の母の腕の暖かさを知っていた。
>私は思い出した… 色々な事を、イメージを、君が覚えていないだろう些細な事柄を思い出した… 
>教会への道すがら、古い墓石に目をやってその歳月に思いを馳せ、空と遠くの雲を、雲と空のたわむれ方を見た夏の日を。雲は蒸気と水の抽象的な塊なんかじゃない、それは… それは、大地への無限の錨であり、無限というものの堅実で実際的な備忘録なのだ。
>私は墓石を見て、この場所が、この英国がどれほど美しい場所なのかを考えた。そこは本当の意味で平和になれる場所、太陽の下で、緑と黄色の畑の中で、丘を転げ回ることができる場所だった。世界は地平線の彼方だった。ここは楽園だった。

>他に? 思い出せるのは… 公園で走っていたことを覚えている。
>スエズ危機についてのニュースを見て、それが何を意味するのか、どうして母がいきなり深刻そうになったのか理解できなかったことを覚えている。
>雨の日は昔の本を読みながら、部屋の隅にあるラジエーターに寄り添って過ごしたことを覚えている。
>ニューヨークについての映画を、タクシーが走り回る都市の風景や、私が墓地で見たものと同じ明るい空の縁で揺れ動く灰色の建物をどれほど奇妙に感じたかを覚えている。
>私は子供時代を丸ごと一つのものとして思い出した、当時はごく普通で重要でないように思われた、しかし今では腹の底から、とてもリアルに感じられる些細な物事を全て。そして私はバラの事を思い出した。

>バラを… 庭のバラを。バラはまだそこにあって、私はその中に分け入っていった。バラは私の母の腕、バラは夏の暖かさ、バラは明るく照らされた電車の中に座っていて、電車は暗い雷雨の中を突き抜けていく… 
>バラは記憶だった。私が属していた、本当の意味で属していた場所の記憶だった、それが全てバラバラに崩れて意味を失うまでは。私は再び現実になった。私は再び私になった。私は我が家、我がイギリスに戻り、そして、そして — そして、目覚めたんだ。
>
>すまない、フランク。少し脱線してしまったようだ。何の話をしていたんだっけな?


トランス状態になるのはヤバく思えるが、改変自体の影響は少ない。
CK-クラスイベントとはいえ、その影響が及ぶのは個人レベル。組織そのものを揺るがすには至っていない。むろん機密漏出の危険性は付きまとっているが、世界終焉シナリオに比べればだいぶマシなレベルのリスクではある。

……だが、問題は、そのようなオブジェクトを確保・収容・保護すべき財団の内部にも、そのような考えが蔓延してしまったことである。
これについて、とあるO5からの御言葉がある。
謹んで拝見するように。



>そろそろ、君たちも自分が読んだものの含意を理解しているだろう。我々が何を成したかを。そして、君たちの大半が今ではバラ園に自ら入りたいという誘惑を感じているだろうと私は確信している。
>それ故、私はバラ園が存在し得る場所についての情報公開をO5評議会のみに限定した。
>誘惑は常にそこにあり、常に素晴らしいものだ。私も夜中に目を覚ましたまま横になり、あらゆる後悔と、犯してきたあらゆる過ちのことを考えることがある。
>幾つかの悪夢と引き換えに、私は自分の罪を洗い流してもう一度人生をやり直すことができるかもしれない。
>
>&bold(){私の終わりは私の始まりになる。}
>
>
>&bold(){そんなことを試そうなどと思うな。}
>
>君たちが読んだのは逃げ道ではなく、財団の失敗の証だ。我々が再三再四にわたって自分たちの身に及ぼしてきた、徹底的かつ完全な失敗だ。
>君たちは無垢を殺し、彼らが生まれることを阻み、人生の何たるかを知るのを妨げることになるだろう。彼らはただ記憶の中の影、かつて彼らを知っていたかもしれない人々の中で孤独な日々を送る散り散りの思い出になり果てるだろう。

過去の自分へと逆行し、人生をやり直す。誰でも一度は考えたことがあるだろう、あの時に戻れたらと。
だが、それを実行してしまえばどうなる? 

「今」の自分が「あの時」の自分を殺す。「あの時」の自分が思い描き、抱いていた全てのものは、「今」の自分にとって代わられる。
「あの時」の自分を知っていた人々の中から、「あの時」の自分がいなくなる。「あの時」の自分の皮を被った「今」の自分になる。

それは、「今」の自分の完全なる否定、これまで歩んできた道のり、「今」の自分を愛して支えてくれた人々を無に帰すことに他ならない。


&bold(){やり直しのきく物語を人生とは呼ばない。}


&bold(){今ここにいる自分は、今ここにいるたった一人だけだ。}


>これでも十分でないというなら、覚えておくがいい。バラ園が与える快適さは非現実的なものだ。真実からの逃避だ。
>我々は皆、物事が暖かく単純で、夏の太陽と冷たい草に満たされていた日々に戻りたいと思っている。
>
>&bold(){我々は皆、もう一度光の中で暮らしたいと思っている。}
>
>だが我々は皆、選択をして、誓いを立てたのだ。
>

真実があまりに辛ければ、逃避することも一つの手段だ。
だが、そのための逃げ場を守る財団に逃避は許されない。

「&bold(){人類が健全で正常な世界で生きていけるように、他の人類が光の中で暮らす間、我々は暗闇の中に立ち、それと戦い、封じ込め、人々の目から遠ざけなければならない}」

そのために、彼らは選択した。自らに誓った。
多くの人々が光の中で生きるために、暗闇の中で死んでいくことを。

暗闇の中にわずかな灯をともしながら、死にゆくその時まで歩き続ける。
だから、バラ園でやり直すことは許されない。
自分が暗闇の中で死ぬことを拒めば、光の中の誰かがその代わりに死ぬだけだ。

それだけではない、やり直しを許容すれば、本来そこで関わっていたかもしれない誰かも消えてしまう。
彼らが財団職員であったがゆえに救われたかもしれない命が、やり直しを選んだがために失われたかもしれない。
だから、O5はバラ園の情報を秘匿した。

同じくやり直しの誘惑に駆られ、それを許さないという決意と共に、命令を下して。


#center(){&bold(){自らの記憶を「確保」せよ。}}

#center(){&bold(){唯一の人生に「収容」せよ。}}

#center(){&bold(){暖かな誘惑から「保護」せよ。}}


確保、収容、保護。
財団の戦いは続く。暗闇の中で、世界が終わるその時まで。



>
>#center(){&sizex(5){&bold(){我々は一人残らず暗闇の中で死んでゆく。}}}
>
>
>#center(){&sizex(5){&bold(){それを、受け入れろ。}}}
>
>
>O5-▮

追記・修正は今、ここにいる自分を認められる人にお願いします。

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#right(){SCP-3997 - In My End Is My Beginning
アカウント削除につき原著者不明
http://www.scp-wiki.net/scp-3997
http://ja.scp-wiki.net/scp-3997(翻訳)
この項目の内容は『[[クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス>https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/deed.ja]]』に従います。
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- 財団の宿命、財団の使命。その意味と意義を思い出させてくれる、いいscpだ。  -- 名無しさん  (2019-04-01 01:41:47)
- 財団の矜持を語る記事は良記事  -- 名無しさん  (2019-04-01 02:26:55)
- O5からの言葉、確か碧の軌跡で主人公ロイドが言ってたよね。『過去の改変は、今までの自分たちがしてきたことの否定になる』って。  -- 名無しさん  (2019-04-01 15:28:16)
- Fateの衛宮士郎も同じ意の言葉を言っている。過去改変によるやり直しは『今』に対する裏切りだってのは割かしポピュラーな考え方かと  -- 名無しさん  (2019-04-01 15:51:43)
- でもクソすぎる今をどうにか出来る手段があってそれに飛びつく人間を卑怯だの弱いだの言うのは違うと思う、人間だからどうしようもなく惹かれるもんだ  -- 名無しさん  (2019-04-01 16:47:08)
- ↑世界が終わるレベルの何かを変える手段としてはありだろうな。ここでの問題は、それを個人的に使ってる人が大勢いること。下手すりゃバタフライエフェクトで別のK-クラス起きかねんし。  -- 名無しさん  (2019-04-01 17:26:27)
- バラ園は実在するが財団は場所を把握できていない?財団は知らないのに一般人は場所を知っていて入ってくる?収容さえすればK-クラスシナリオ発生時に使えばThaumielだろうに。なんか色々釈然としない  -- 名無しさん  (2019-04-02 23:24:22)
- ↑財団内に場所が割れると、個人的欲求のために利用する奴が頻発する。組織としても世界的にもやばくなるから、収容したくても場所を伝えるのは危険。機動部隊の隊員ですら誘惑に負けてるから、完全収容を諦めてでもこうするしかない。  -- 名無しさん  (2019-04-02 23:44:17)
- SCP-243-JPのエージェント「わかりみが深すぎてつらい」  -- 名無しさん  (2019-04-03 06:37:23)
- ↑3ちゃんと読んでみな 存在しうる場所は特定できている  -- 名無しさん  (2019-04-08 13:13:37)
- 財団職員となることは、他人のために生ける屍となることを意味するんだな。もはや光の中には戻るまい、そう誓って働いてきたのに、今更光の中で生きる自分を求めることは全てへの裏切りであると。  -- 名無しさん  (2019-05-20 16:18:57)
- SCP-1990-jpもバラで人生やり直せる話だね。とんでもないものを代償にさせられるけど  -- 名無しさん  (2019-07-16 18:14:12)
- なろう主人公たちにも読み聞かせたい話だ  -- 名無しさん  (2019-12-15 16:09:25)
- ↑まぁ財団の信念的にはこれは認められない、ってだけだからね。 K-クラスシナリオが起きた世界ならThaumielとして機能するのもその通りだし  -- 名無しさん  (2020-03-29 08:18:33)
- ↑2このO5の発言を裏返すなら今までの全てを否定してもいいなら逃げてもいいのよ?にも聞こえる。この場合逃避してるのは主人公じゃなく作者なんだろうけど  -- 名無しさん  (2020-04-11 11:04:04)
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