ヤマザキ(小説)

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&font(#6495ED){登録日}:2021/05/09 (日) 21:26:55 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 8 分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- #center(){&bold(){&sizex(8){&color(black){信長が本能寺で死んだのは一五八二年六月二日、朝の六時頃だった。}}}} #center(){&bold(){&sizex(8){&color(black){そのころ秀吉は岡山県にいた。備中の高松城を攻めていたのである。}}}} 『ヤマザキ』とは1972年に『別冊小説新潮』誌上に発表された、[[戦国時代>戦国時代(日本)]]を材に取った短編小説である。作者は筒井康隆。 短編集『将軍が目醒めた時』に収録。その後自選ドタバタ傑作集『最後の喫煙者』にも収録されている。 もし「ああ、『[[時かけ>時をかける少女]]』の人か。歴史モノも書いてたんだ」という感想しか抱けなかったのならば今すぐ氏の本来の作風について知ってもらいたい。[[これ>走る取的(世にも奇妙な物語)]]とか[[これ>銀齢の果て]]とか。 当然ながらただの時代小説で済むはずもなく……。 *◆あらすじ 備中高松城を攻めている最中だった秀吉の下に、光秀謀反の知らせが届いたのは六月三日午後十時頃の事だった。 ただちに周辺を封鎖して毛利方へ伝令が情報を届けぬよう手を打った秀吉は、高松城城主の清水宗治との講和を家臣である蜂須賀彦右衛門に命じる。この時、時刻は四日の午前零時から一時頃であった。 その夜のうちに毛利方の使者と話し合いをした彦右衛門だったが、どうしても相手方と講和条件の折り合いがつかない。 秀吉の提案で総大将の毛利輝元ではなく、宗治を直接説得して腹を切らせる事に成功。急ぎ京へと引き返したい彦右衛門だったが、当の秀吉はまだ高松城を水攻めした際の堤防の後始末が済んでいないと言ってなかなか出発の準備をしようとしない。 堤防の始末をしたらしたで、今度は流れ出た水によって[[馬]]を出せなくなってしまった。そのままダラダラと時は流れてとうとう迎えた五日の昼。彦右衛門の焦りは募るばかりであった。 &color(darkorange){&bold(){「佐和山城、長浜城、安土城が落ちるのも、もはや時間の問題かと」}} &font(b,red){「だからどうしろというのだ」} &color(darkorange){&bold(){「高槻の高山重友、茨木の中川清秀らが光秀方に走らぬよう、書状でもって押さえておかれましてはいかがかと」}} &font(b,red){「手紙を書くまでもあるまい」} #center(){&bold(){&sizex(8){&color(red){「電話をかけよう」}}}} 電話である。同じ名前の別の何かではない、紛う方なきテレフォンである。 当たり前のように電話をかける秀吉、当たり前のように電話に出る中川。通話を終えた秀吉は、更に彦右衛門を困らせる発言をするのだった。 #center(){&bold(){&sizex(8){&color(red){「新幹線は、もう岡山まで来ているか」}}}} この件に関しては黒田官兵衛が名乗り出て、[[岡山>岡山駅]]発の[[新幹線>山陽新幹線]]の当日券を買い占めてくる運びとなった。満足してシェーバーでヒゲを剃り始める秀吉。 兵糧や武器を手配した運送業者のトラックに運ばせて身一つになった羽柴軍三万人は、始発の新幹線に乗車するべく六日の午前四時に岡山駅まで軍馬や[[ハイヤー]]でやって来た。 部下達を先行させ、自身は十三時五分岡山発ひかり66号のグリーン車に乗った秀吉だったが、電気系統のトラブルによって新幹線は緊急停止してしまう。 途中下車して備前沼城で一泊する事にした秀吉とその側近達。だがその晩山陽地方を激しい暴風雨が襲い、川が氾濫するというアクシデントに見舞われてしまった。 [[詰腹が切られ>切腹/ハラキリ]]、殉死者が現れ、無礼討ちが行われ、仇討ちが横行し、小規模な戦闘が車内で発生しながらもひかり号は進んでいく。果たして秀吉一行は十三日の午後四時までに山崎へ辿り着けるのだろうか……? *◆登場人物 ・[[羽柴秀吉>豊臣秀吉(戦国武将)]] さも当たり前のように時代錯誤な品々を使用する、後の天下人。 六月九日にわざわざ海を渡ってまで淡路島の洲本城を攻め落としているが、史実だと挟撃を防ぐためという切迫した事情があったのに対し、本作では&font(b){明らかに時間調整のために行われている。} &font(b,red){「説明は、何もないのじゃ」} ・黒田官兵衛 「ご運が開けましたぞ」でお馴染みの軍師。&font(l){本作では言わないが。} こいつも当たり前のように新幹線の当日券を買いに行くし、食堂車で昼食を取りながら秀吉と談笑している。 ・蜂須賀彦右衛門 かつて蜂須賀小六と呼ばれていた、古くから秀吉に仕えている武将。 本作における数少ない「異常を異常と認識している」人物。ただ相手が主君なので困惑しつつも流れに身を任せている。 ・福島市松 後の福島正則。 秀吉の小姓として寝所で寝ずの番をしていたため非常に眠そう。なお加藤清正や[[石田三成>石田三成(戦国武将)]]の出番は無い。 ・安国寺恵瓊 毛利方の使者を務める僧。彦右衛門とは昔馴染み。 ・清水宗治 備中高松城城主で毛利家の忠臣。 羽柴軍が講和 → 撤退の流れをスムーズに行うための建て前として切腹を要求される。 ・中川清秀 茨木城城主。秀吉に信長は本能寺から脱出したと偽の情報を電話で伝えられ、光秀に呼応しないよう釘を刺される。 高槻城城主の高山右近には彼の方から連絡網が回ったようだ。 ・岡山駅長 国鉄(現[[JR>JR西日本]])職員。時代に合わせて紋付に裃姿で登場。 空席の関係で全軍を移動させるのに四~五日かかる事を秀吉から責められ、責任を取って切腹する。 殉死しようとする職員が多かった事から、職場では慕われていたと思われる。 ・ひかり66号車掌 国鉄(現JR)職員。 停電により四時間も新幹線がストップした責任を取るべく、白装束で秀吉の前に現れ切腹して果てた。 食堂車のウェイトレスの娘が殉死した事から、生前は人望が厚かったと思われる。 ・老車掌、若い車掌 七日に秀吉達が乗ったひかり号に、親子で車掌として乗車している。 父親の方は川の氾濫による運休を伝えた際、激高した官兵衛に無礼討ちされて絶命。 息子はその仇討ちのためにスパナ片手に官兵衛を襲撃するが、返り討ちに遭って若い命を散らしてしまう。 ・新婚夫婦 どうやら新婚旅行のためにひかり号を利用していたらしい。 官兵衛に斬られた車掌の死体が飛んできたせいで、生涯忘れられない新婚旅行になったと思われる。 ・[[明智光秀>明智光秀(戦国武将)]] 本能寺の変を起こし[[信長>織田信長(戦国武将)]]を討った謀反人。 彦右衛門同様に本来の歴史の時間軸で生きているため、秀吉のあまりにも迅速な帰還に混乱を隠し切れなかった。 &font(b,purple){「何かの間違いだ。嘘にきまっている。そんな猛烈な早さで備中から戻ってこられるわけがない」} &font(b,purple){「神わざだ。奇術だ。悪魔の仕業だ。猿め。いったいどんな手品を使いおったのか」} *◆解説 ここまで読んでいただいても分かる通り、荒唐無稽な小説である。 しかもタチの悪い事に、&font(b){全33ページのうち21ページまでまともな時代小説として進行する}のである。 『秀吉事記』や『毛利家文書』などの複数の資料を引用してかなり正確に考証が行われており、作中に登場する日付も全て記録通りとなっている。 それだけに唐突に電話が出てきた事で度肝を抜かれた読者も多かったと思われる。 では何故こんな小説を書いたのか。時代小説ファンの中には、本作についてこのような考察を行う者もいる。 本作が発表された当時、[[「本能寺の変の黒幕は誰か」>陰謀論]]をテーマにした歴史[[ミステリー]]が多く世に出ていた。 しかしながら、どんなに素晴らしい内容であっても所詮は推理、悪い言い方をすれば作り事でしかない。 ならば広い意味ではこの『ヤマザキ』も同じ条件下にあるので否定はできないよね――という皮肉・風刺なのではないかという説だ。 筒井氏の作風を考えるとありそうな話である。 *◆余談 かの[[手塚治虫]]も代表作『[[火の鳥>火の鳥(漫画)]]』にて、鎌倉時代の人間が電話で話をするシーンを登場させている。 ただしこちらはギャグとして狙って描かれたのに加え、遠く離れた人物に情報伝達が行われた事を示す記号としての表現なので『ヤマザキ』とはまた話が別である。 筒井氏は本作以外にも歴史を題材とする短編を多く発表している。そのいずれも途中までは真面目だったり資料をしっかり精査した上で書かれているのが特徴。 逆に言うと普通に書いても問題ないのにわざわざネタを挟んじゃうのである。&font(l){ネタを挟まないと死んじゃう病} 一応こんなギャグばかりではなく、本作が収録された短編集の表題作『将軍が目醒めた時』は、ある史実を原典に主人公のモデルとなった人物の心境や状況を独自に補完するような考えさせられる話となっている 以下、いくつかを簡単に紹介する。 ・『万延元年のラグビー』 大江健三郎の名著『万延元年のフットボール』の題名をパクった、かの有名な桜田門外の変を題材にしたコメディ。 [[井伊大老の首>首ちょんぱ/首切断]]を取った人物、井伊大老が近江牛を幕府に献上しなくなったから暗殺されたという俗説、大老の死を隠ぺいした井伊家に幕府が贈った見舞いの品などこれでもかと史実ネタが盛り込まれているにも関わらず、細部にちょっと手を加える事でコメディに仕立て上げている。 だが物語後半になると、井伊家の[[忍者]]が本場[[イギリス]]直伝のラグビーを用いて奪われた首を奪還しようとするトンデモ展開に。 首にラグビーと聞いて嫌な予感がしたあなた、&font(b){正解}。但し『~フットボール』の方は万延元年に起こった出来事が百年後のフットボールチームと重なるなんて意味なので、ある意味本作の方が題としては分かりやすいかもしれない。 ・『モーツァルト伝』 大音楽家モーツァルトの生涯を、残された記録を意図的に曲解して再構成するというトンデモ作品。 たとえば1762年にオーストリア女帝マリア・テレジアの御前で演奏した際、布を被せて見えなくした鍵盤を指一本で叩いて素晴らしい演奏をしたという逸話から &font(b){「どうやらすでに彼の指は一本しかなかったらしい」} と記述するなど、モーツァルトマニアが読んだら爆笑必至のネタに溢れている。 ……が、真面目な音楽誌に掲載したところ冗談の通じる読者が誰一人おらず、&font(b){出版社に抗議が殺到してクビになる}という憂き目に遭っている。 ちなみに筒井氏は同じ手法で『レオナルド・ダ・ヴィンチの半狂乱の生涯』という短編も発表している。 追記・修正は山陽新幹線の切符を確保してからお願いします。 #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,3) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() - 何、この……何? -- 名無しさん (2021-05-09 23:10:41) - 一瞬、某学級王かと思った。 -- 名無しさん (2021-05-09 23:58:35) - この小説が出たのは1972年だから、山陽新幹線は岡山が終点。博多開業は1975年の話。 -- 名無しさん (2021-05-10 12:23:20) - 必殺シリーズの特番で籠が走ってる背景で新幹線が並走してたりとか城の前の普通に車が通過してるシーンがあるやつ(もちろん意図的な演出)があったがそれ以上だな… -- 名無しさん (2021-05-10 12:30:20) - 終盤の、読者に有無を言わせぬ畳みかけが素晴らしい(笑) -- 名無しさん (2021-05-10 12:38:28) - やべえ、ラグビーのが超読んでみたい…。 -- 名無しさん (2021-05-10 13:58:19) - 『ジャズ大名』ではギリギリありえるレベルで人種も言葉の壁をも超えた幕末異文化セッションを描いていたのに…(笑)。 -- 名無しさん (2021-05-10 17:13:40) - これ初めて読んだとき落丁かと思って焦った笑 -- 名無しさん (2021-05-10 22:37:33) - おいらもタイトルから「学級王ヤマザキの小説か何かか?」と思ったよ…。 -- 名無しさん (2021-05-11 11:05:04) - 後世には賤ケ岳帰りの羽柴軍が本能寺から秀吉を回収して暫定明智軍の伊賀超えで逃げる徳川勢と山崎の戦いをする話も出たが(境界線上のホライゾン)、途中から別時空に入る分こっちの方が…(笑) -- 名無しさん (2021-06-20 18:59:42) #comment #areaedit(end) }
&font(#6495ED){登録日}:2021/05/09 (日) 21:26:55 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 8 分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- #center(){&bold(){&sizex(8){&color(black){信長が本能寺で死んだのは一五八二年六月二日、朝の六時頃だった。}}}} #center(){&bold(){&sizex(8){&color(black){そのころ秀吉は岡山県にいた。備中の高松城を攻めていたのである。}}}} 『ヤマザキ』とは1972年に『別冊小説新潮』誌上に発表された、[[戦国時代>戦国時代(日本)]]を材に取った短編小説である。作者は筒井康隆。 短編集『将軍が目醒めた時』に収録。その後自選ドタバタ傑作集『最後の喫煙者』にも収録されている。 もし「ああ、『[[時かけ>時をかける少女]]』の人か。歴史モノも書いてたんだ」という感想しか抱けなかったのならば今すぐ氏の本来の作風について知ってもらいたい。[[これ>走る取的(世にも奇妙な物語)]]とか[[これ>銀齢の果て]]とか。 当然ながらただの時代小説で済むはずもなく……。 *◆あらすじ 備中高松城を攻めている最中だった秀吉の下に、光秀謀反の知らせが届いたのは六月三日午後十時頃の事だった。 ただちに周辺を封鎖して毛利方へ伝令が情報を届けぬよう手を打った秀吉は、高松城城主の清水宗治との講和を家臣である蜂須賀彦右衛門に命じる。この時、時刻は四日の午前零時から一時頃であった。 その夜のうちに毛利方の使者と話し合いをした彦右衛門だったが、どうしても相手方と講和条件の折り合いがつかない。 秀吉の提案で総大将の毛利輝元ではなく、宗治を直接説得して腹を切らせる事に成功。急ぎ京へと引き返したい彦右衛門だったが、当の秀吉はまだ高松城を水攻めした際の堤防の後始末が済んでいないと言ってなかなか出発の準備をしようとしない。 堤防の始末をしたらしたで、今度は流れ出た水によって[[馬]]を出せなくなってしまった。そのままダラダラと時は流れてとうとう迎えた五日の昼。彦右衛門の焦りは募るばかりであった。 &color(darkorange){&bold(){「佐和山城、長浜城、安土城が落ちるのも、もはや時間の問題かと」}} &font(b,red){「だからどうしろというのだ」} &color(darkorange){&bold(){「高槻の高山重友、茨木の中川清秀らが光秀方に走らぬよう、書状でもって押さえておかれましてはいかがかと」}} &font(b,red){「手紙を書くまでもあるまい」} #center(){&bold(){&sizex(8){&color(red){「電話をかけよう」}}}} 電話である。同じ名前の別の何かではない、紛う方なきテレフォンである。 当たり前のように電話をかける秀吉、当たり前のように電話に出る中川。通話を終えた秀吉は、更に彦右衛門を困らせる発言をするのだった。 #center(){&bold(){&sizex(8){&color(red){「新幹線は、もう岡山まで来ているか」}}}} この件に関しては黒田官兵衛が名乗り出て、[[岡山>岡山駅]]発の[[新幹線>山陽新幹線]]の当日券を買い占めてくる運びとなった。満足してシェーバーでヒゲを剃り始める秀吉。 兵糧や武器を手配した運送業者のトラックに運ばせて身一つになった羽柴軍三万人は、始発の新幹線に乗車するべく六日の午前四時に岡山駅まで軍馬や[[ハイヤー]]でやって来た。 部下達を先行させ、自身は十三時五分岡山発ひかり66号のグリーン車に乗った秀吉だったが、電気系統のトラブルによって新幹線は緊急停止してしまう。 途中下車して備前沼城で一泊する事にした秀吉とその側近達。だがその晩山陽地方を激しい暴風雨が襲い、川が氾濫するというアクシデントに見舞われてしまった。 [[詰腹が切られ>切腹/ハラキリ]]、殉死者が現れ、無礼討ちが行われ、仇討ちが横行し、小規模な戦闘が車内で発生しながらもひかり号は進んでいく。果たして秀吉一行は十三日の午後四時までに山崎へ辿り着けるのだろうか……? *◆登場人物 ・[[羽柴秀吉>豊臣秀吉(戦国武将)]] さも当たり前のように時代錯誤な品々を使用する、後の天下人。 六月九日にわざわざ海を渡ってまで淡路島の洲本城を攻め落としているが、史実だと挟撃を防ぐためという切迫した事情があったのに対し、本作では&font(b){明らかに時間調整のために行われている。} &font(b,red){「説明は、何もないのじゃ」} ・黒田官兵衛 「ご運が開けましたぞ」でお馴染みの軍師。&font(l){本作では言わないが。} こいつも当たり前のように新幹線の当日券を買いに行くし、食堂車で昼食を取りながら秀吉と談笑している。 ・蜂須賀彦右衛門 かつて蜂須賀小六と呼ばれていた、古くから秀吉に仕えている武将。 本作における数少ない「異常を異常と認識している」人物。ただ相手が主君なので困惑しつつも流れに身を任せている。 ・福島市松 後の福島正則。 秀吉の小姓として寝所で寝ずの番をしていたため非常に眠そう。なお加藤清正や[[石田三成>石田三成(戦国武将)]]の出番は無い。 ・安国寺恵瓊 毛利方の使者を務める僧。彦右衛門とは昔馴染み。 ・清水宗治 備中高松城城主で毛利家の忠臣。 羽柴軍が講和 → 撤退の流れをスムーズに行うための建て前として切腹を要求される。 ・中川清秀 茨木城城主。秀吉に信長は本能寺から脱出したと偽の情報を電話で伝えられ、光秀に呼応しないよう釘を刺される。 高槻城城主の高山右近には彼の方から連絡網が回ったようだ。 ・岡山駅長 国鉄(現[[JR>JR西日本]])職員。時代に合わせて紋付に裃姿で登場。 空席の関係で全軍を移動させるのに四~五日かかる事を秀吉から責められ、責任を取って切腹する。 殉死しようとする職員が多かった事から、職場では慕われていたと思われる。 ・ひかり66号車掌 国鉄(現JR)職員。 停電により四時間も新幹線がストップした責任を取るべく、白装束で秀吉の前に現れ切腹して果てた。 食堂車のウェイトレスの娘が殉死した事から、生前は人望が厚かったと思われる。 ・老車掌、若い車掌 七日に秀吉達が乗ったひかり号に、親子で車掌として乗車している。 父親の方は川の氾濫による運休を伝えた際、激高した官兵衛に無礼討ちされて絶命。 息子はその仇討ちのためにスパナ片手に官兵衛を襲撃するが、返り討ちに遭って若い命を散らしてしまう。 ・新婚夫婦 どうやら新婚旅行のためにひかり号を利用していたらしい。 官兵衛に斬られた車掌の死体が飛んできたせいで、生涯忘れられない新婚旅行になったと思われる。 ・[[明智光秀>明智光秀(戦国武将)]] 本能寺の変を起こし[[信長>織田信長(戦国武将)]]を討った謀反人。 彦右衛門同様に本来の歴史の時間軸で生きているため、秀吉のあまりにも迅速な帰還に混乱を隠し切れなかった。 &font(b,purple){「何かの間違いだ。嘘にきまっている。そんな猛烈な早さで備中から戻ってこられるわけがない」} &font(b,purple){「神わざだ。奇術だ。悪魔の仕業だ。猿め。いったいどんな手品を使いおったのか」} *◆解説 ここまで読んでいただいても分かる通り、荒唐無稽な小説である。 しかもタチの悪い事に、&font(b){全33ページのうち21ページまでまともな時代小説として進行する}のである。 『秀吉事記』や『毛利家文書』などの複数の資料を引用してかなり正確に考証が行われており、作中に登場する日付も全て記録通りとなっている。 それだけに唐突に電話が出てきた事で度肝を抜かれた読者も多かったと思われる。 では何故こんな小説を書いたのか。時代小説ファンの中には、本作についてこのような考察を行う者もいる。 本作が発表された当時、[[「本能寺の変の黒幕は誰か」>陰謀論]]をテーマにした歴史[[ミステリー]]が多く世に出ていた。 しかしながら、どんなに素晴らしい内容であっても所詮は推理、悪い言い方をすれば作り事でしかない。 ならば広い意味ではこの『ヤマザキ』も同じ条件下にあるので否定はできないよね――という皮肉・風刺なのではないかという説だ。 筒井氏の作風を考えるとありそうな話である。 *◆余談 かの[[手塚治虫]]も代表作『[[火の鳥>火の鳥(漫画)]]』にて、鎌倉時代の人間が電話で話をするシーンを登場させている。 ただしこちらはギャグとして狙って描かれたのに加え、遠く離れた人物に情報伝達が行われた事を示す記号としての表現なので『ヤマザキ』とはまた話が別である。 筒井氏は本作以外にも歴史を題材とする短編を多く発表している。そのいずれも途中までは真面目だったり資料をしっかり精査した上で書かれているのが特徴。 逆に言うと普通に書いても問題ないのにわざわざネタを挟んじゃうのである。&font(l){ネタを挟まないと死んじゃう病} 一応こんなギャグばかりではなく、本作が収録された短編集の表題作『将軍が目醒めた時』は、ある史実を原典に主人公のモデルとなった人物の心境や状況を独自に補完するような考えさせられる話となっている 以下、いくつかを簡単に紹介する。 ・『万延元年のラグビー』 大江健三郎の名著『万延元年のフットボール』の題名をパクった、かの有名な桜田門外の変を題材にしたコメディ。 [[井伊大老の首>首ちょんぱ/首切断]]を取った人物、井伊大老が近江牛を幕府に献上しなくなったから暗殺されたという俗説、大老の死を隠ぺいした井伊家に幕府が贈った見舞いの品などこれでもかと史実ネタが盛り込まれているにもかかわらず、細部にちょっと手を加える事でコメディに仕立て上げている。 だが物語後半になると、井伊家の[[忍者]]が本場[[イギリス]]直伝のラグビーを用いて奪われた首を奪還しようとするトンデモ展開に。 首にラグビーと聞いて嫌な予感がしたあなた、&font(b){正解}。但し『~フットボール』の方は万延元年に起こった出来事が百年後のフットボールチームと重なるなんて意味なので、ある意味本作の方が題としては分かりやすいかもしれない。 ・『モーツァルト伝』 大音楽家モーツァルトの生涯を、残された記録を意図的に曲解して再構成するというトンデモ作品。 たとえば1762年にオーストリア女帝マリア・テレジアの御前で演奏した際、布を被せて見えなくした鍵盤を指一本で叩いて素晴らしい演奏をしたという逸話から &font(b){「どうやらすでに彼の指は一本しかなかったらしい」} と記述するなど、モーツァルトマニアが読んだら爆笑必至のネタに溢れている。 ……が、真面目な音楽誌に掲載したところ冗談の通じる読者が誰一人おらず、&font(b){出版社に抗議が殺到してクビになる}という憂き目に遭っている。 ちなみに筒井氏は同じ手法で『レオナルド・ダ・ヴィンチの半狂乱の生涯』という短編も発表している。 追記・修正は山陽新幹線の切符を確保してからお願いします。 #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,3) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() - 何、この……何? -- 名無しさん (2021-05-09 23:10:41) - 一瞬、某学級王かと思った。 -- 名無しさん (2021-05-09 23:58:35) - この小説が出たのは1972年だから、山陽新幹線は岡山が終点。博多開業は1975年の話。 -- 名無しさん (2021-05-10 12:23:20) - 必殺シリーズの特番で籠が走ってる背景で新幹線が並走してたりとか城の前の普通に車が通過してるシーンがあるやつ(もちろん意図的な演出)があったがそれ以上だな… -- 名無しさん (2021-05-10 12:30:20) - 終盤の、読者に有無を言わせぬ畳みかけが素晴らしい(笑) -- 名無しさん (2021-05-10 12:38:28) - やべえ、ラグビーのが超読んでみたい…。 -- 名無しさん (2021-05-10 13:58:19) - 『ジャズ大名』ではギリギリありえるレベルで人種も言葉の壁をも超えた幕末異文化セッションを描いていたのに…(笑)。 -- 名無しさん (2021-05-10 17:13:40) - これ初めて読んだとき落丁かと思って焦った笑 -- 名無しさん (2021-05-10 22:37:33) - おいらもタイトルから「学級王ヤマザキの小説か何かか?」と思ったよ…。 -- 名無しさん (2021-05-11 11:05:04) - 後世には賤ケ岳帰りの羽柴軍が本能寺から秀吉を回収して暫定明智軍の伊賀超えで逃げる徳川勢と山崎の戦いをする話も出たが(境界線上のホライゾン)、途中から別時空に入る分こっちの方が…(笑) -- 名無しさん (2021-06-20 18:59:42) #comment #areaedit(end) }

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