やられる前に
「さて……。隣国、アメリカ絶体絶命のピンチなんだが。
連戦で力も残ってないところに、100体を優に越える戦闘狂の奴等が再度攻めてきたら
君だったらどうする! はい、僻地のヤコブ君!」
「え? えーと、諦めて白旗を揚げます。もしくは泣いて陛下に助けを求めて属国になります」
「それでは負けてしまうだろ! では次、科学相!」
「厳しい選択肢ですが……。首都ワシントンに少数の歩兵を置き、実質放棄。
同様に前線の都市で後退戦闘を行いながら、主力を後方へ退避。陛下にも援軍要請を行います。
技術を全て放出する勢いで金銭を集め、核を生産、購入。戦術核2個ほどが出来上がったら
自領ですが、敵主力へ投下。しかる後、総反攻を行います」
「おそらくはそれが最適解に近いとは思うがな。……すると思うか?」
「……いえ。どちらにせよ、首都が落ちた時点でルーズヴェルトの勝利の目は、ほぼなくなります。
おそらくは、首都の後、続いて1都市が落ちた辺りで降伏してしまうでしょう」
「だろうな。これ以上シャカにやれる技術もない。あのウォーモンガーに核分裂や複合材料なんぞ
渡すのは、それこそ狂気の沙汰だ。よって……遺憾ではあるが、こちらもアメリカを攻めるぞ。
最悪のシナリオは、核製造中にシャカに降伏し、それがウチに向けられることだ。
それだけは避けねばならん」
「幸いというか、アメリカの唯一のウランは最東部──つまりウチとの国境付近です。
ドイツに降伏するか、シャカに降伏することになるかはわかりませんが、最悪、シャカ陣営に
組したとして、今破壊すれば、アメリカが核をこちらに向ける可能性はなくなります」
「そういうことだ。強行軍だが、パンツァー・現代機甲部隊を再編し、こちらから
宣戦を布告する! 各自、準備にかかれ! ……なんだ、忍者。そこにいたのか。
何か言いたいことでもあるのか?」
「いえ、先ほどの科学相殿の対策の言ですが。それがしならば。途中までは同様、陛下に援軍を要請し
その間我慢して核を溜め込み、元アメリカ・ズールーの国境、ボストン奪還あたりまでドイツ軍が
必死に押し返したら陛下に宣戦布告し、独軍主力・ズールー軍まとめてその頭上に核を連続投下。
また沿岸から潜水艦で、独領主力都市に核の雨を降らせるかなあ、と思った次第で」
「ちょ、おま……。それは、汚いって言うか……ちょとそれ、syれならんでしょ……?」
AD1983 フリードリッヒがアメリカに宣戦布告!
前年、AD1982にはアメリカ首都ワシントンが落ちる。それまではアップグレード等を急ぎ
シャカの先陣の一部とアメリカの主力が潰れたのを確認しての行動であった。
どちらにせよ、シャカに降伏するのも已む無し。その場合はそのまま決戦も覚悟する。
AD1983 ヒューストン(アメリカ)が陥落! ドイツに占領!
AD1984 ミノア(アメリカ)が陥落! ドイツに占領!
AD1985 ロサンジェルス(アメリカ)が陥落! ドイツに占領!
ウランは現代機甲部隊でその上に乗っかり破壊。これでまず作成中の核があったとしても、ひとまずはお預けに。
そして──
「やりましたぞ! シャカより先にアメリカへ降伏勧告が可能になりました!」
「よし、賠償やらなにやらは適当で構わん!即時締結せよ!」
AD1985 アメリカ降伏。ドイツの属国へ。
「これで目の前の一つは片付いた、が……。さてどうするかな。今ならワシントンで孤立した
シャカ軍が援軍を貰う前に先制攻撃をかけられるとはいえ、スパイの報告だと駐留の敵ユニット、
1ページで収まらず2ページ目まで突入してるんだけど……馬鹿じゃないの?」
「案の定といいますか、既にシャカの外交画面は手一杯です。どこに攻めたいんでしょうね(棒)。
……陛下? 何、ユニット製造画面で手をぷるぷるさせてるんですか? まさか核は自分では
撃たないけど、作って他の属国に撃たせちゃおうか、なんて考えてないですよね?」
「そ、そんなこと考えてないよ! じゃ、じゃあ、誓うよ! ドイツは核を作ったりもしないからな!
うん、正々堂々とやるよ! 畜生、やりゃいいんだろー!?」
「……といいつつ、なんで属国の資源召し上げの代価に優先してウランを配ってるんでしょうね」
「な、なんのことかなー。余はしらないなー!? たまたまだろ、きっと!?」
「(小物だ……まあ、愛すべき小物、なんだろうかな……)」
その男、凶暴につき
強大すぎるシャカのスタックに対し、フリードリッヒは限界ギリギリまで軍を増強する。
維持ユニットのみを残し、アメリカ領、シアトルに持てる戦力の全てを集結。海上警戒の飛行船を除いた
全航空ユニットもアメリカ地方の各都市に配備。これ以上は逆さに振っても鼻血すら出ない全力。
目指すは旧アメリカ首都ワシントン。
そして──
「……次ターンで、ニューヨークの反乱が終わり、ズールーの領域が広がってしまう。
これ以上は待てん。今持てる戦力で行くしかない。皆、覚悟を決めろ! 戦端を開くぞ!」
AD1987 遂に、フリードリッヒがシャカ・ジョアンに宣戦布告!
同ターン、少数の別働隊で南部、元アメリカ領、アトランタ(シャカ)を奪還。占領、維持する。
「全航空ユニット発進! 機甲師団、進撃せよ!!」
「アメリカ領は鉄道網がしかれていますので、孤立したワシントンにはさほど移動力を使わず
到達できます。しかし、あれだけの量を一度に相手にするのは……」
「機甲師団には電撃戦のスキルがある。空爆で弱った敵なら2回連続で撃破できる!
こちらも50ユニット近くはいるのだ。航空ユニットの配備数は完全にこちらの方が上。
いけるだろう! 突撃だ!」
「──!? いけません! お戻りを、陛下! 駄目です、100を越えるユニットにその量では
イレギュラー次第でどうにでも転んでしまいます! 移動力が残っているうちに、追撃を止めて
シアトルにお戻り下さい!! それに相手にも戦車は──」
「だが、見ろ、2回目でも88%以上の勝率などで撃破可能なんだ! ユニットがあればあるだけ
撃破できる! ましてや、戦闘後のこちらの戦力も消えるわけではない! パンツァーは
防御時にもカウンターユニットになる! 海兵隊、SAM歩兵、ガンシップも防御配備!
余裕のあったユニットは後からの昇進も使い、回復! そしてターンエンドだ!」
・
・
・
「おや、忍者さんじゃねえかい。この前は爆発から助けてくれてありがとよ。
しかしどうしたあ。こんな離れたとこに。戦の真っ最中じゃねえのかい」
「おい、今すぐ作ってる建造物を変更しろ。未建設の所に空港を作れ。理由など聞くな。急げ!」
「お、おう──?」
「何体残った」
「航空部隊と機甲師団の連続強襲を受け、被害は甚大です……。
ガ、ガンシップ、対戦車歩兵はほぼ全滅。歩兵も半数は取られました。しかし、20%程度の
勝率でかなりの者が生き残ったため──」
「そんなものはどうでもいい。やつらを上回る数は残っているか、と聞いたんだ」
「──は、はい! 戦車21、歩兵15──あと、他の兵の数を合わせれば少し上回ります」
「では行け。戦車は電撃戦だ。機甲師団とやらの恐ろしさ、自らの身で味わってみるといい」
そしてENTER。いくつもの音が和音となって響き──
「な……。あれだけの量が、ぜ、全滅だと……?」
「衛生Ⅲエルヴィン・ロンメル大将軍、戦死……。損害、現代機甲部隊25機……、パンツァー10機、
ガンシップ、海兵隊、SAM歩兵……。残存は…パンツァー1機のみです」
これは完全な失策。ワシントンの反乱ターンに余裕がある以上、電撃戦を使わずに、回復を挟みながら 数度に渡って攻撃をしかければよかった。勝率80%越えで相当数が負けるという不運もあったものの 都市Ⅱ、Ⅲを付けた機甲師団は攻撃には強いが反撃には威力が落ちるという弱点もある。 技術有利と戦力を過信し、一部を南部アトランタ奪還に向けたのも失敗の一つだが、まず相手が大量すぎたのと パンツァーの能力のおかげで相手戦車が後ろに回り、余力のある状態で相手の回復ターンに回ってしまったこと、 何より、ログを見ると全航空ユニットを攻撃に回してしまったために、爆撃機への迎撃がおろそかに なっていたというのが最大の失敗。現代戦に慣れていなかった大きなツケを払うことになった。
「合流の遅れた数体を残し、既存の現代機甲部隊のほぼ全てを喪失…。アトランタ攻略部隊も2体を残し
撃破、包囲されました…。シャカは最前線のユニットこそ相当数を失いましたが、航空偵察の届かない
後方のユニットは把握し切れていません。更にジョアン軍が間隙を縫い、アメリカ新首都、
フィラデルフィアへ進撃中。残念ながら…今のアメリカ軍では対処不能です」
そして兵力を大幅に減らしたとはいえ、ワシントンにはまだ十分なズールー軍が駐留。
矢面に立つことになった属国アメリカ領の都市には、各防衛ユニットが5名程度しか残っていない。
連勝で調子に乗り、攻撃的AIのシャカを甘く見た結果がこれだよ!
「あああ…。そんな馬鹿なっ…こんな、こんな事が……!? ところがどっこい夢じゃありません、
現実です、これが現実……! (ざわ……ざわ……)」
「ああっ!? 陛下が軟体動物のように、ぐにゃぐにゃと!? お気を確かに──!?」
機甲師団のほぼ全軍を一瞬にして失ってしまった、ドイツ帝国。
忍び寄るジョアンの影。それをゆっくりと追うズールーの足音。
そして、その裏では静かに刻み始められる、核のカウントダウン。
ここでその全てが終わってしまうのか。
「──くそぉっ…! ここまで、なのか……?」
──次回、ドイツ機甲師団、突撃! その6
続く!