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愛さえ知らずに

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「……もう一度言うわ。貴方、殺されるわよ?」

「っ……く、そんな出まかせ……」

「あの、メリュジーヌって娘の強さを見たでしょう? あれと戦えるほど、ブラックは強いのよ」

山本勝次から、灰原哀を連れたまま逃走したドラコ・マルフォイは、恐怖と困惑と疑心の中にあった。
灰原が語るブラックの存在に畏怖していたのだ。
彼女曰く、身を守って貰う契約を交わしたと。その強さは、到底マルフォイでは勝てないだろうと。
具体的な比較例として、家一つを簡単に消し飛ばしてしまったメリュジーヌを上げてきた為、その信憑性も高い。
そして契約を守る気があるのなら、灰原に害を及ぼしているマルフォイを殺めてしまうだろう。
もっとも、灰原はブラックを、そこまで信用はしていない。
良くも悪くも気まぐれで、マルフォイを見逃す事だって、あると考えている。
ただ、もしそうでなかった事を考えれば、やはり最悪の場合を想定させて脅す形にはなるが、殺し合いに乗るのを断念させた方が良い。

「お前を、どうしろというんだ……」

灰原の思惑など知らず、ブラックに恐怖し灰原を解放したマルフォイは、震えた声を絞り出す。
自分の力量など、マルフォイ本人が一番分かっている。磯野カツオ程度なら、なんとかなるだろうが、エリス・ボレアス・グレイラットに手も足も出ずに無様に敗北したのだ。
それでも、不意打ちなり作戦さえ考えれば、難しいかもしれないものの、なんとかエリスは倒せなくはないかもしれないが、あのメリュジーヌという女は絶対に無理だ。
並の魔法使いでは相手にならない。マルフォイが知る中でも、とても不敬だが、偉大な父であるルシウス・マルフォイが相手でも、勝負にもならず瞬殺されてしまうだろう。
それこそ対抗できるのは、あのアルバス・ダンブルドアか、闇の帝王くらいのものか。
あるいは…例え不可能であっても、どんな強大な敵にも、折れない勇気で立ち向かっていく、あのハリー・ポッターなら───。

(なんだというんだ……!? なぜ、ポッターが浮かぶ? 僕は…奴に、助けて欲しいとでもいうのか!!)

認めたくなかった。
賢者の石を、闇の帝王から守り退けた自分と同じ歳の英雄を、無意識の内に頼ろうとしている事を。
だが、もしハリーが居れば、その友であるハーマイオニー・グレンジャーも連れ去られており、何か知恵を出してくれるかもしれない。
彼女は幼いものの、非常に優秀な魔女だ。

(ぐ、グレンジャー…あ、あんな…穢れた血に……!!)

プライドとアイデンティティが崩壊していくようだった。
自分は純血として、高い地位に居る優秀な魔法使いである。その前提を木っ端みじんに砕かれ、それだけならばまだ良いが、受け入れる時間もないまま、命の危機に瀕しているのだ。
溢れる感情が大洪水を起こし、マルフォイの全身から弾けて飛び出してきそうだと、錯覚すらする。


「簡単よ。貴方は殺し合いには乗らず、私の仲間として行動していた。
 ……それだけでいいの」

まだ仮にも魔法の才があり、気に食わないが有能な魔女に成り上がったハーマイオニーに関しては、辛うじて納得はいく。
だがこんな魔法も知らないような女の子にまで、諭される自分がとても矮小で惨めに感じてしまった。

「……だが」

もう殺し合いに乗るのは現実的ではない。そう分かっているが、もし殺し合いを拒否した場合、首輪が爆破してしまう。
そう考えるだけで、マルフォイは全身が震え出す程に恐ろしい。

「こうしましょう? 貴方は優勝を目指す為に、私を利用している。
 放送で、乃亜は言っていたわ。対主催を欺き、人数が減ったところで裏切る算段かもしれないと…。このゲームでは、相手を利用することを他の誰でもない、ゲームマスターから認められているのよ。
 逆に私は、貴方に利用されるかわりに、しばらく見逃してもらう。そういう取引なら、殺し合いを否定する事にはならない」

屁理屈だなとマルフォイは思った。
子供染みた言い訳だ。どう考えたって、マルフォイが殺し合いを放棄しているのは、明らかではないか。
だが、追い込まれたマルフォイにとっては、これ以上ない程、縋りたくなるほどの妥協案であった。

「よう、我が荷物持ち」

───来てしまった。

マルフォイを説き伏せた直後、聞き覚えのあるハスキーな美声が響いてきた。
青いコートを着て、虫も殺せなさそうな幼い顔に見合ぬ目力の強さと、後ろに坂上げた金髪。
この島で灰原が初めて出会い、そして契約を結んだあの少年の姿に相違ない。

「殺さないで」

マルフォイを庇うように腕を広げ、ブラックの前に立つ。

「どういう意味だ?」

「状況は…多分、もう聞いてるんでしょう?」

「ああ」

「この子はもう……殺し合いには乗ってないわ」

「荷物持ちをしている間は、生かしてやる。そういう契約だったな?
 だが、俺の契約料(にもつ)は、お前の持ってるそれ一個だ」

灰原はその意図を理解した。
つまり、どっちでもいいが、二人も荷物持ちは要らないという事だ。
決して灰原だけを生かしたい訳でもなく、マルフォイでも良い。
ただ、契約を結べるのは一人だけだと、選択を迫っている。
マルフォイも薄々、その意味が分かってきており、灰原がそこまでして自分を助ける筈がないと理解していた。

(終わりじゃないか…死ぬの───)

「分かったわ」

背負っていたランドセルを灰原が下ろそうとする。

(こいつ、なんでだ……?)

マルフォイは、自分が恐怖のあまり幻覚を見ているのかと、この光景を現実だと思えなかった。
友や家族ならば分かるが、こんな赤の他人のマルフォイにランドセルを譲る理由が分からない。


「お取込み中、悪いんだけど良いかな?」

凄まじい轟音が鳴り響き渡る。それは、何かが走ってくる音だ。
音速を超えた速度で大気中を走り、空気に触れ、振動を引き起こしている。
ソニックブームと呼ばれる大音響だ。

「ルサルカって女の子知らないかな? アンナって本名もあるんだけど、ああ…一応、マレウスとも呼ばれてるんだけど」

それを引き起こしたと思わしき物体は人だった。
軍服を着た白髪の華奢な、女性のような体躯をした中世的な美少年。
整った顔は、右目の眼帯を加味しても天使のような美しさと、人懐っこい愛らしさを振り撒く。
だが、左の隻眼からは、これ以上ない程の災厄が込められている。そう、灰原には見えた。

「おいおい、今時珍しいな。絶滅危惧種のナチス馬鹿を、お目に掛かれるとはな。
ここはいつから、カビ臭い博物館になったんだ?」

「おや? ご希望とあらば今すぐ、血生臭い戦場(ヴァルハラ)に変えてあげよう」

ブラックの意識は灰原から逸れ、眼前の少年へと注がれている。
背後の空間が捻じれ、無数の炎が砲弾のように射出される。
人が触れれば一瞬で消し炭になるであろう高熱の炎が、さらに数を伴って、弾幕を張る光景は絶望以外に他ならない。
それらがまるで、ただ一人の人間を屠り去る為だけに、豪風に煽られた雨のように降り注ぐのだ。

「おい、俺の名を言ってみろ」

絶望の根源であり、体現者たる王は口許を吊り上げ、言い放った。
次の瞬間には、周囲一片を一掃し巨大なクレーターを空け、その中央で真っ黒な炭となるであろう少年に。

「良いねぇ、楽しめそうだ」

あろうことか、正面から突っ込んでくる。僅かな残された1秒ほどの寿命を、更に縮めるような自殺行為にも等しい。
炎が触れる寸前、少年は跳躍し、更に空を蹴り上げ軌道を下方へと修正し、隕石のような速さで滑空した。

「あはははははは!!」

強者と血の匂い。
先程のリンリンと違い、すでに完成された強者とそれが纏う死を嗅ぎ付け、ウォルフガング・シュライバーは狂乱の笑みと奇声をあげる。

「───ッッ!」


降下しながら、ギロチンのように脳天を狙った踵落としを、ブラックは後ろに飛び退き、避ける。
次の瞬間、シュライバーの両手の拳銃が銃声を木霊させる。
ルガーが吠える。モーゼルが哭く。
異様なほどにまで使い込まれ、光沢を発さなくなった二丁の拳銃が火を噴き、魔を帯びた弾丸を弾き出す。
ブラックの全身を穿つように、数百を超える弾丸が叩き込まれ、数㎝程浮いたまま、血肉を穿つ寸前で停止する。
ブラックの持つPSIの中で、もっともポピュラーな能力、念動力だ。
マシンガンのように連射された弾丸を念動力でを掴み停止させる。タネを明かせば単純な手品だが、全ての弾丸を見切り的確に停止させる離れ業は、まさしく人類の領域を遥かに超えた存在である13王にしか許されない。

「伏せなさい!」
「……っ!?」

灰原には、この戦いで何が起きているのか判別がつかない。
だが鼓膜を劈く銃声とそれに拮抗する念動力の轟音すら、常人にとっては引き裂かれそうなほどの衝撃波に感じられる。
いつこの流れ弾がこちらに向くかも分からず、それをブラックが庇う保証もなく、逃げるにしても戦いの規模が大きすぎる為、下手に動くのも危険すぎる。
今出来るのは可能な限り、身を屈め、その流れ弾の被弾率を可能な限り最小限に押さる事。
マルフォイは灰原の叱咤を聞き、震えながら頭を押さえて屈みこむ。灰原もマルフォイを覆うように、蹲った。

(なんだ…なんなんだ、この女……!)

いざという時は、自分が盾になってこの子だけでも生き残れるように。そんな灰原の、祈るような行動にマルフォイは動揺を隠せなかった。

「───ッ」

数千以上の弾丸を浴びながら、ブラックは未だ無傷。
だが、シュライバーもまた全人類の中でも秀でた超人の一人、黒円卓の中における最上位の大隊長だ。
その射撃は勢いを増し、弾丸を止め続けるブラックが勢いを殺せぬまま、ジリジリと後方へ圧されていく。

「返してやるよ」

先に痺れを切らしたブラックが呟く。
滞空し続けた弾丸が、全て吸い寄せられるようにシュライバーへと反射される。
二丁の拳銃、その銃口を空に向けシュライバーが駆けた。
数千以上の魔弾が放出され、コンクリートは廃人と化し周囲一帯を蜂の巣に変え、砂塵を巻き上げる。
だが、そこに人の欠片の一片もありはしない。全方位を囲むように魔弾を弾いた筈だが、ただの一つも掠りもせず、シュライバーは消えたのだ。

「……」

さしものブラックも僅かに眉を歪ませた。

「チッ…」

ブラックの目と鼻の先、手を伸ばせば容易に触れる程の超至近距離まで接近される。
PSIの発動よりも早く、シュライバーの靴底がブラックの鳩尾へと突き刺さった。

「───が、ッ」

骨が軋み、皮と肉が減り込む靴越しでも分かる柔い感触。
吹き飛んでいくブラックを見て、シュライバーは歓喜に浸っていた。
人の原型を保ったまま、肉体の欠損もせずシュライバーの速さに乗せた蹴りを受けて、なおも息がある。


「そうそう、すぐに死なないでよ」

面白い。面白い。面白い。面白い。
孫悟飯を始め、制限もあるにしろシュライバーに喰らい付く多くの猛者ども。
この男もまた極上の獲物だ。
だからこそ、ここまでのらしくもない殺戮の中断、それも三度も行ってきたが故の、殺人衝動の飢えが絶頂を迎える。

「僕、ここに来てから三回もお預けを喰らっちゃってさ、そろそろ最後までやって発散したいんだよ」

この少年、肉体(いれもの)はともかく、中身は別格だ。
あの悟飯にすら匹敵、あるいは制限や肉体などのあらゆる枷がなく、全快であればそれ以上の存在かもしれない。
安い言い方をすれば、それは神だとかそういった次元の存在。
ならば、それを轢き殺して轍とした時、何を計れるのか。
興味深い。なにせ、18万以上を殺戮した狂乱の白騎士も、未だ神を手に掛けた事はないのだから。

「……一人で好き勝手に盛り上がりやがって」

粉々に崩壊した民家、瓦礫をどけ、その中から気だるげにブラックは立ち上がる。
右手で首元に触れながら、頭を傾け、心底面倒そうに悠然と佇む。

「ブラック…?」

灰原がブラックと関わった期間は、決して長くない。通算すれば二時間も居たか分からない。
けれどもこの時、ブラックが一瞬見せた表情は、心底何も感じていない虚無のように見える。
いつ誰にでも軽薄で飄々とした態度で、それが敵意か好意か分からないが、だが自ら人に囚われたままだと口にしたブラックが。
あの軍服の少年に対し、一切の関心がないように思える
まるで、害虫や害獣を前にして、淡々と処理をするような。とても冷たい機械のようだ。

「遊ぶなら、一人でやってろ」

「えぇ!? こっから楽しくなるんじゃないか、まーたお預けだなんて、頭がおかしくなっちゃいそうだよ!
 遊んでよぉ~~、おにーーーさーーーん!」

「その出来損ないの脳味噌なら、それ以上ぶっ壊れる事もねえだろ」

ブラックの軽口に、おどけたような稚拙な喋り方をしていたシュライバーの雰囲気が変わった。

「───出来損ない……?」

殺意の張は衰えぬまま、むしろ鋭さを増して、そこに憤怒を交えたような不穏さを醸し出す。
これにブラックは違和感を覚える。何せ、こいつ狂っているようで冷静なのだ。
先程まで楽し気な台詞を吐きながら、ブラックに一切の隙を見せず、逆にこちらの挙動をただの一つも漏らさず注視していたほどだ。

「そうだ……僕、出来損ないって言われたんだ」

そんな奴が、急に激情を表に出し始めた。
トリガーはブラックの放った一言で、あまりにも唐突過ぎる。


「おまえなんか、おまえなんか、おまえなんかがいい気になるな。男のくせに、男のくせに、私の方が奇麗なのに女なのに───」

「あの子、親に……」

それを言ったのは他でもない親なのだろうと、灰原には容易に想像が付いた。
あの少年の容姿は本当に天使のようで、髪を伸ばせばそれこそ性別の見分けが付かない美貌だ。
それに恐らく嫉妬した母親が。
理由は分からない。いや、推測することは出来るが、現代の価値観ではやはり理解しがたい。
ただ、本来祝福されるはずの子が、恨まれ妬まれ呪われていて、そんな憎悪を愛情代わりに注がれてきたのだとしたら、この子供は……。

「……?」

対してマルフォイは言動の内容がまるで理解できなかった。

(子にあんなことを言う親など、いる筈がないだろう)

超人達の戦いに怯え、気が動転しているのもあるが、シュライバーの言動の他に、灰原の呟いたことも意味不明だ。
少なくとも今まで築き上げてきたマルフォイの価値観の中では、そんなものは親としてカテゴライズされなかった。

「病院行きな」

心底呆れたように、溜息交じりにブラックは呟く。
そして自分の頭を人差し指で見せつけるように叩く。

「頭(ここ)のな」

その刹那、空を覆い尽くすように拡がる炎の弾幕、それらがただ一人の人間目掛けて天空から殺到した。
まるで針の穴を通すような、極小にして僅かな炎の隙間を、シュライバーは自慢の絶速と精密さを駆使し次々と潜り抜けていく。

「おまえなんか、出来損ないの化け物じゃないか───!」

読めていた。分かっていた。こんな程度の弾幕では、この凶獣は止まらぬことを。

「ああ、お前…ほんとにツイてないんだな」

そして、確信していた。こいつは、その絶望(な)を知らないのだろうと。
簡単な話だ。シュライバーはありとあらゆる事象が、最終的に殺人へと直結する。
そこには絶望もなければ希望もない。なにせ、全てが殺人という結論に達するのだ。例外もなければ、劣化も進化も一切の変化も未来も可能性もない。
全ての結末が、決まりきった定石をなぞるだけだ。
こんな奴に、一体何の見込みがある。
何の望みがある?
こうなるまでの悲惨な過程など、いくらでも想像できる。
不幸で最悪な生い立ちであることは察しが付く。
ブラックは呆れを通り越して、最早憐れみすら抱いた。


「同情はしてやるよ。お前に配られた人生(カード)はクソッタレのブタだ」

狂える白騎士(アルベド)の狂言を受け流し、ブラックが呟く。
幾度目かの回避、シュライバーが駆けたその先にある物質から青白い炎が瞬く。
ブラックの能力の一片なのだろうと、乱れる狂気の中で冷静に判断する。
その炎が足元へと広がるころには既に宙を舞っていた。

「やるよ。欲しいだろ玩具、遠慮すんな。全部タダだ」

───別に俺のじゃないしな。

跳躍したシュライバーを串刺さんと、剣が槍が斧が射出される。
見ればブラックの背後、空間が捻じれ歪み、その中から無数の武具が姿を見せていた。
王の財宝を開き、目に付いた宝具を価値を考えもせず、片っ端から念動力で弾き飛ばす。
それら一つ一つが、聖遺物に匹敵する魔具の類であるとシュライバーは即座に理解し、空中で体を捻り初撃を避け、更に空を蹴り上げ加速、二丁の銃口をブラックへと向ける。
これらの宝具は制限によるものか、射出された時点で既に自壊を始めていた。
よって追尾機能等もなく、一度避けてさえしまえば勝手に消滅する一度限りの使い捨てだ。
こんな物に己が当たるわけがない。

「ッッッ───!?」

強い根拠とその絶速への信頼は、一瞬にして揺らぐ。
武具が青く燃え上がり、爆破し燃焼範囲が拡大したのだ。
射撃への態勢から、一気に全身をバネに炎から遠ざかる。腕を着いて着地し、大地から燃え広がる炎から遠ざかりながら、視界に飛び込む無数の武具。それらが瞬く間に、炎へと変貌し爆炎を広げていく。

「───」

シュライバーの能力は速さだ。何物をも寄せ付けず走り去る、絶対の速さ。
だが、逆に言えば走る先がなければ、その速さは何の意味も持たない。
今、この場に燃え広がる青い炎のフィールドのように。
シュライバーの行き場は限られていく、狭まれていく、拒まれていく。

「よう」

炎の中、それをものともせず音すら立てずにブラックが背後に立つ。
PSI能力の一つ、テレポートだ。孫悟空のようにこの島からの脱出には転用出来ないが、戦闘行為内の応用の範疇に限っては、ブラックはその行使が許されていた。
シュライバーが反射的に飛び退こうとし、前方左右に広がる炎が遮る。
跳躍しようとして、空を覆うように炎が猛る。
そして、背後には王の財宝を展開し、武具の切っ先を向け射出態勢を万全としたブラック。

「じゃあな、ヴィラン…相手はヒーローじゃなくて悪かったな」

いつもの軽い口調のまま、だが人に向ける何かへの期待や、願望は一切込められていない。
ただ目障りな蠅を落とすような冷酷さと気楽さで、ありったけの宝具を叩き込む。
さらにブラックの炎を宝具へと点火し、シュライバーの逃げ場を一切潰すように念入りに燃やし尽くす。

───駄目か。

手応えはあるが、まだ終わっていない。
予感めいたものを覚え、後方の灰原へ一瞥をくれる。
さて、どうするか。ブラックは一秒ほど逡巡した。

「アイ、口閉じてろ」

絶え間なく宝具を打ち込み続けながら、ブラックは一瞬で灰原とマルフォイの元へと移動し、二人を掴んで跳躍し浮遊したまま加速する。


「ブラック?」
「黙ってろ。舌噛むぞ」

炎の中、黒の人影が見えた。しかもそれは燃え滾り、苦しむのではない。

「グランシャリオォォォォォ!!」

名を叫び、漆黒の竜の鎧を纏い、怒声を雄叫びに乗せながらシュライバーは叫ぶ。
炎の中を駆け抜けながら、凄まじい速さで空中のブラックへと肉薄し、その視界が閃光に眩む。

「くっ───」

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)。宝具を自壊させることで、莫大な破壊を齎す一度限りの自爆技。
これは宝具を炎に変えてる中で、宝具の特性に気付いたブラックが利用し、再現したものだ。
PSIの炎で宝具の内部を刺激し、意図的に起爆させている。
本来の所有者が壊すそれに比べれば、強引に内部干渉した為に爆破の威力は大幅に下げられてはいるが、攻撃範囲の広さとしては上々な代物。
名付けるならば、疑似・壊れた幻想とでも言ったところだろうか。
もっともそんなもの、グランシャリオを突破する程ではない。派手な爆竹の玩具と何ら変わらない。
しかし、だとしても、例え竜の鎧に守られていても、それが鎧の下の体に一切の傷すら付けられないと知っていても、シュライバーはその攻撃を避ける。避けてしまう。

「やっぱりお前、攻撃を避けてるんじゃなく、避けずにはいられないんだろ?」

ここに至るまでの戦闘の中で、明らかに避けるまでもない攻撃がいくつかあったが、シュライバーはその全てを自らのルールに従うように避け続けた。
つまり、避けずにはいられない。理由は知らないし興味も全くないが、そういった癖なのだろうと、ブラックは見破る。
ゆえにこれは、それを利用した時間稼ぎと目晦まし。

「───ッ」

縮まった距離は爆破により乖離し、視界が明けた瞬間、更に飛び込んでくる武具の数々。
それらが全て起爆し、青の炎へと変換され広い範囲に拡散され、シュライバーの行く手を遮る。
ただの炎ならば超えられただろう。グランシャリオなどなくとも、霊的な加護が制限されたとはいえ、シュライバーの速さならば焼ける事などない。
だが、攻撃と認識した以上は別だ。シュライバーにとってそれは、最優先で避けなければならない障害となる。

「こ、の……ッ!!」

真っ直ぐ全速力で突っ切れば、いとも簡単に追いつく筈のブラックに対し、シュライバーは後方へ下がり、炎を迂回する。そうせずにはいられない。
だが、その進路方向へブラックが再び爆炎が轟かせる。
それを幾度か繰り返した時には、ブラック達は姿を消していた。

「なんだよ、もぉ……!!」

どんな速さであろうとも、後を追うべき標的が居なければ追い付けない。
視界の中に獲物が居ない以上、シュライバーが狩りを続けられる道理はない。

「せっかく、最後までやれると思ったのにさぁ!」

獲物を取り上げられた狼は苛立ちながら叫ぶ。
ここに来てから、調子が狂うばかりだ。まだ二人しか殺せていない。
沸き立つ殺戮衝動を発散できぬまま、行き場のない殺意を何処にぶちまければ良いのか。
さっきは、気紛れにリンリンの敵討ちに合わせてやったが、こんなことならば、そんなの関係なく最後まで殺し合えば良かったと後悔する。

「……まったく、すぐ逃げちゃうんだから困っちゃうよな」

ブラックを探し回してもいい。己の速さなら、こんな島一時間もせず一周できる。
制限のない本来のコンディションなら、もっと最短で最速で全エリアを走り抜ける自信があるが、これに関してはやむを得ない。
優勝した後に、たっぷりと乃亜にお返しをして、溜飲を下げさせてもらうとする。

「ま、僕足速いからさ…いつもすぐに追いついて、面白くなかったんだよ。だから、出来る限り、遠くへ逃げなよ」

犬歯を晒す程、歪んだ笑みを見せシュライバーは駆け出した。
何処かへ消えたブラックを探しに、そしてブラックがいようがいなかろうが、目に付いた参加者全てを鏖殺する為に。
どんな過程を経ても、全ての結果は殺戮へと至る。
そのあまりにも少なすぎる選択肢に、当のブラックからは全ての関心が消え失せている事に、シュライバーは欠片も気付いてはいなかった。



【D-3/1日目/早朝】

【ウォルフガング・シュライバー@Dies Irae】
[状態]:疲労(大)ダメージ(大 魂を消費して回復中)、形成使用不可(日中まで)、創造使用不可(真夜中まで)、欲求不満(大)
[装備]:ルガーP08@Dies irae、モーゼルC96@Dies irae、修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:皆殺し。
1:敵討ちをしたいのでルサルカ(アンナ)を殺す。
2:いずれ、悟飯と決着を着ける。その前に大勢を殺す。
3:ブラックを探し回る。途中で見付けた参加者も皆殺し。
[備考]
※マリィルートで、ルサルカを殺害して以降からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※形成は一度の使用で12時間使用不可、創造は24時間使用不可
※グランシャリオの鎧越しであれば、相手に触れられたとは認識しません。




空を飛んだのは灰原にとって初めての経験だった。
あまりのメルヘンな機会に、感動でもしたいところだったが、明らかに常軌を逸した殺人者に出くわした直後だ。
空という安全圏にいる安心感が勝り、その感動は薄れ、気付けばブラックに放り捨てられるように、地面を転がっていた。

「ツイてたな、お前」

灰原の横、同じように転がっているマルフォイをブラックは指差す。

「そこの荷物持ちを見張ってろ」

「見張るって……何をしろっていうんだ」

「自分で考えな。
 アイ、俺は少し寝る。放送が終わったら、起こせ」

疲弊している。あのブラックが。
灰原にとって想像もつかぬほどの強者であり不遜なブラックが、恐らくは荷物持ちを生かすという契約を果たすのに、もう一人従者が居た方が楽と考えた。
元より気紛れな性分なのもあるのだろうが、あの軍服の少年はブラックにとっても脅威に数えられる程の実力者。
そんな相手と殺し合わされているという事実に、灰原は背筋が凍るようだった。

「……そうだ、先に言っておくか。勝次ってガキ、知ってるだろ? あいつは俺が殺した」

「なっ…!? どうして───」

「忘れたのか? 俺はマーダーなんだぜ。ルール通り、ゲームをしてるだけだろ」

近くのエリアに居たのだ。この二人が遭遇する可能性は非常に高い。
何をやり取りしたのか、灰原には予想できないが、少なくとも灰原と勝次が面識がある事を把握した以上、マルフォイ関連の事を口にし、そして殺害されたのだろう。
あの時、大人しくしろ、ブラックには伝えるなとマルフォイの身を案じたせいか?
決してそんな理由で勝次を殺す程、ブラックは自分に執着しているとは思えないが、考えば考えるだけ後悔が募っていく。
そして目の前のブラックに対する反発心や、怒りも込み上げてくる。


「ブラック…貴方、これで私に貸し一つよ」

「あ?」

欠伸をして、眠れそうな施設を見渡しているブラックに灰原は声をあげた。

「貴方、最初に荷物持ちをしている間は、私を生かすと契約したわね?
 でも実際には沙都子とメリュジーヌが襲ってきた時に、貴方は何処かでほっつき歩いていたじゃない。あの子は、私を守ろうとしてくれたわ。貴方の代わりによ?」

「……」

「あの時、私は死に掛けたわ。これはゲームなんでしょ? ゲームにはルールが必要よ。そしてこれは、ルール違反だわ。
 一度ルールを破った貴方には、ペナルティがあって然るべきじゃない?」

勝次の死を悼む気持ちはある。短い付き合いだったが、とても根が善良で真っすぐな子だったと思う。
だが、それでこのブラックを糾弾していては始まらない。むしろ状況を逆に利用し、多くの命を生かす為に活用させて貰う。

「分かったよ。お前に貸し一つだ。精々、何処で使うか頭捻ってろ」

口調はぶっきらぼうに、だが口許を釣り上がり愉快気にブラックは呟いていた。
まるでシュライバーと話している時とは、別人のように。
逆に言えば、シュライバーには何の未練もなく、最早頭も片隅にまで記憶を放り出し忘れかけているようだ。
あんな強烈な存在を歯牙にもかけない。異常性とそれを裏付ける強さ。
その事実が灰原にとっては、恐ろしくて溜まらない。
僅かに震える灰原を見ながら、やはりブラックは楽しそうに口笛を吹き、仮の寝床を探し始めた。

【B-4 /1日目/早朝】

【絶望王(ブラック)@血界戦線(アニメ版)】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(小)
[装備]:王の財宝@Fate/Grand Order
[道具]:なし
[思考・状況]基本行動方針:殺し合いに乗る。
0:哀に貸し一つ。何処で使うか楽しみに待ってる。
1:気ままに殺す。
2:気ままに生かす。つまりは好きにやる。
3:シカマル達が、結果を出せば───、
4:放送まで寝たい。
[備考]
※ゲームが破綻しない程度に制限がかけられています。
※参戦時期はアニメ四話。
※エリアの境界線に認識阻害の結界が展開されているのに気づきました。





(なんだというんだ、この女)

マルフォイには理解が及ばなかった。
あの軍服の子供の尋常ではないが、それに張り合えるブラックも当然次元が違う強さだ。
しかも殺し合いに乗ったマーダーだと、公言しているではないか。
マルフォイはあまりの恐怖に、声をあげることも出来ず震えていた。
頭にあったのは両親やダンブルドア、スネイプが救出に来る瞬間。あまりにも都合の良い、希望的観測の現実逃避だけだった。
だが、この灰原という少女は違った。マルフォイよりも歳も下で、魔法も使えない穢れた血の癖に、ブラックに喰らい付いて言葉で対等に渡り合おうとしている。

「貴方、血が……」

灰原が処置した負傷箇所から血が滲んだのか。マルフォイの頬から血が伝っていくのを見て、灰原はハンカチを取り出してマルフォイに差し出す。
身長差がなければ、今頃頬を拭いてあげたのだろう。それを察して、マルフォイはわなわなと震えて、その手を弾いた。

「やめろ、僕にかまうな!」
「そう…分かったわ」

情けなかった。惨めだった。
名門の純血の家に生まれ、権力も備わり魔法も使え、容姿にも恵まれたマルフォイがあろうことかマグルの年下の女の子に庇われ憐れまれるなど。
あまりの屈辱に、さっさとこの場から離れたいところだが、勝手に離れたらブラックに何をされるか分からず、エリスやメリュジーヌ、シュライバーとまた出くわすのも怖くて、灰原から離れることも出来ない。
それが更に自分の情けなさに拍車をかける。
もっとも灰原の実年齢を考えれば、マルフォイはそう恥じる事もないのだが、薬で幼児化したなどという事情を知る由もない。

(そういえば、あの二人は来てるのか……)

情けなさにわなわなと震えながら、改めて落ち着いた時間も出来た事で、マルフォイの中で気掛かりが生まれた。
自分の取り巻きであるグラップとゴイルだ。
あの二人も、殺し合いの参加者の条件に当て嵌まってしまう。もし居れば、迅速に合流し守られねばならない。
優勝するにしても、何とか三人が最後に残れるように立ち回らねば。最悪の場合、自分が犠牲になり二人の内どちらかを生き残らせ、乃亜にもう一人を生き返らせれば最低でも二人は生還できる。

「……そうだ、放送前に替えの服も探しましょう。貴方も、いつまでもそれじゃ気持ち悪いでしょ?」

灰原に指摘され、改めて股の辺りがひんやりと冷たく、アンモニア臭が漂っているのを自覚する。

(クソッ……!)

こんな一回りも幼い女の子に、お漏らしした無様な姿を晒したのが悔しくて情けなくて仕方がなかった。



【B-4 /1日目/早朝】

【灰原哀@名探偵コナン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:絶望王の基本支給品、救急箱、絶望王のランダム支給品×0~2
[思考・状況]基本方針:コナンや探偵団のみんなを探す。
0:放送前までにマルフォイの着替えを探し、放送後ブラックを起こす。。
1:殺し合いを止める方法を探す。
2:ブラックについていき、説得できないか試みる。もし困難なら無力化できる方法を探る。
3:沙都子とメリュジーヌを警戒する。
4:ブラックに対する貸しは、有効活用したい。
5:あの軍服の子(シュライバー)、親から……。
[備考]
ハロウィンの花嫁は経験済みです。


【ドラコ・マルフォイ@ハリー・ポッター シリーズ】
[状態]:現状の怪我は応急処置済み(鼻骨骨折、前歯があちこち折れている、顔の至る所に殴られた痕)、ボサボサの髪、失禁、
     灰原を見ていると実感する自分の惨めさ(極大)、エリス、メリュジーヌ、シュライバー、ブラックへの恐怖(極大)
     本人は認めたがらないポッターへの信頼(極大)
[装備]:ホグワーツの制服、サブマシンガン(灰原に支給)@彼岸島 48日後…
[道具]:灰原の基本支給品
[思考・状況]
基本方針:生き残る。ゲームに乗るのは……。
0:グラップとゴイル等の自分の家族や身内が殺し合いに居るか確認したい。
1:殺し合いで一人になるのが怖いので、灰原と一緒にいるが、惨めさも感じる。
2:エリス、メリュジーヌ、シュライバー、ブラックが怖い。
3:着替えが欲しい。
4:ブラックに何をされるか分からず怖いので従う。
5:ポッターやグレンジャーが居れば、合流する……?
[備考]
※参戦時期は、「秘密の部屋」新学期開始~バジリスクによる生徒の石化が始まるまでの間



067:暗い水底の精霊達 投下順に読む 069:第1回放送
時系列順に読む
046:星に願いを 灰原哀 081:悪鬼羅刹も手を叩く
ドラコ・マルフォイ
058:無情の世界 絶望王(ブラック)
064:まもるべきもの ウォルフガング・シュライバー 072:死ヲ運ブ白キ風

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