ダンゲロスSS上海
────だからこれは、燃え滓の物語
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dangerousss_shanghai
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はじめに
本作は一回戦の勝利SSの結果に準拠した作品となっております。
ご了承ください。
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◇ ◇ ◇
【ある男】
────月の、綺麗な夜だった。
漆黒の空に煌々と光る青白い月。
夜風は容赦なく肌を刺す。
夜風は容赦なく肌を刺す。
そんな夜。屋台街の片隅に蠢く塊があった。
その塊は動く襤褸布 といった様相であったが、驚くべきことに生きた人間だった。
その襤褸布のような男は、冷え冷えと美しい月を見て、深く嘆息した。
その塊は動く
その襤褸布のような男は、冷え冷えと美しい月を見て、深く嘆息した。
自身の惨めな服装が
自身の穢れた両腕が
そして何より、自身の汚れた心根が
恥ずかしくなるほどに、綺麗な綺麗な月の夜だったのだ。
自身の穢れた両腕が
そして何より、自身の汚れた心根が
恥ずかしくなるほどに、綺麗な綺麗な月の夜だったのだ。
月を見上げる男の名は灰蛇絡 と言った。
その男はかつてどうしようもなく格の低いマフィアだった。
自分自身で何も考えることもなく、ただ流されるままに、誰かから奪って生きていくようになり、そのことに特に何も思わないような屑であり馬鹿であった。
自分自身で何も考えることもなく、ただ流されるままに、誰かから奪って生きていくようになり、そのことに特に何も思わないような屑であり馬鹿であった。
ある日、所属する組織ごと、灼熱の正義感である劉炎嵐に叩きのめされた。
上海随一の解決屋は、灰蛇絡のような屑に慈悲を与えた。
上海随一の解決屋は、灰蛇絡のような屑に慈悲を与えた。
「一度だけ許す。これからは少しでも正しく生きろ。」
その言葉は、灰蛇絡にとって天啓であり救いであった。
彼は、正しく生きろなどと言われたのは初めてであったのだ。
彼は、正しく生きろなどと言われたのは初めてであったのだ。
灰蛇絡の周りの人間は皆彼を馬鹿にしていて、正しく生きるなんて出来るはずのない屑だと思っていた。改心など夢のまた夢と、誰も期待しなかったから、更生を促す言葉などくれるわけがなかった。
そんな灰蛇絡に、「正しく生きることが出来る」と期待してくれた灼熱は、確かに屑であったはずの男の胸に熱い火を灯した。彼は改心し、必死で善なる道を歩んだ。
────歩もうとした。
運が悪かったのか
間が悪かったのか
世界が悪かったのか
間が悪かったのか
世界が悪かったのか
男は懸命に懸命に贖罪を繰り返し、真人間として働こうとしたが組織の柵 から抜けること能わず。
縁を切ったつもりのマフィアに袋叩きにされ
自身に手を差し伸べてくれた善人は巻き込まれ躯と化し
当然周囲の人々は彼を疎むに至った。
縁を切ったつもりのマフィアに袋叩きにされ
自身に手を差し伸べてくれた善人は巻き込まれ躯と化し
当然周囲の人々は彼を疎むに至った。
絶望と困窮と衰弱の果てに、男は闇の世界に戻ってしまった。
自分もこうせねば死ぬのだと言い訳をし子供から食料を奪った。
お前は死なぬからいいだろうと旅行客の財布から小銭を盗んだ。
自分もこうせねば死ぬのだと言い訳をし子供から食料を奪った。
お前は死なぬからいいだろうと旅行客の財布から小銭を盗んだ。
灰蛇絡は本当に救いようのない男だった。
いっそ邪悪に戻り切り、開き直ってしまえばよかったのに、それすらも出来なかった。
いっそ邪悪に戻り切り、開き直ってしまえばよかったのに、それすらも出来なかった。
次こそ真人間になると頑張ってみて、また人に裏切られ、また組織に追いつかれ、また追い詰められて最小限の犯罪を犯し、また罪の意識に苛まれ…それを只々繰り返し、しまいには襤褸布のように成り果てたのだ。
峨眉山月半輪秋
影入平羌江水流
夜発清溪向三峡
思君不見下渝州
影入平羌江水流
夜発清溪向三峡
思君不見下渝州
男は冷え冷えとした月を見て李白の詩を思い出した。
果てしなく広がる期待と、それと同じくらい広がる不安を彷彿とさせる美しい月だった。
果てしなく広がる期待と、それと同じくらい広がる不安を彷彿とさせる美しい月だった。
男は、自身の滑稽さに思わず笑った。
あの燃えるような…自身にとって初めて救いの手を伸ばしてくれた劉炎嵐に喝を入れられて以来、何かの助けになるかもしれないなどと思い励んだ学問は結局役に立たなかった。
あの燃えるような…自身にとって初めて救いの手を伸ばしてくれた劉炎嵐に喝を入れられて以来、何かの助けになるかもしれないなどと思い励んだ学問は結局役に立たなかった。
屑が自身の心を慰めるのに用いるばかりである。
偉大な詩人の残した言葉も、自分に使われては無念というものだろう。
偉大な詩人の残した言葉も、自分に使われては無念というものだろう。
ひたすらに自嘲しながら屋台街の隅を這いずる男の耳に、光り輝く名が飛び込んできた。
「清王朝のダイヤ!あれ、まだ劉炎嵐が持っているらしいぜ!」
「マジかよ?あれだけ大々的にダイヤ持ちって知られたらよぉ、魔幇あたりに締められて終わりだろ普通?」
「いやいや、アイツ噂以上に強いし情報にも強いわ。もしかしたら魔幇に一杯食わせるかも…」
「馬鹿!滅多なこと言うもんじゃねえ!…でもよぉ、アイツなら…って思わせるよなぁ」
「ちげぇねぇ。【スーパースター 】ってのはああいう奴よ!」
「マジかよ?あれだけ大々的にダイヤ持ちって知られたらよぉ、魔幇あたりに締められて終わりだろ普通?」
「いやいや、アイツ噂以上に強いし情報にも強いわ。もしかしたら魔幇に一杯食わせるかも…」
「馬鹿!滅多なこと言うもんじゃねえ!…でもよぉ、アイツなら…って思わせるよなぁ」
「ちげぇねぇ。【
自身に道を開いてくれた恩人は変わらずに、むしろあの時以上に燃え輝いている。
そうして、そんな偉大な人に助けられた自分は小さな犯罪を繰り返すばかりの襤褸布。
そうして、そんな偉大な人に助けられた自分は小さな犯罪を繰り返すばかりの襤褸布。
灰蛇絡は、音も出さずにボロボロと泣いた。
どこまでも明るく熱い太陽に、天上の星に、自身の醜さを照らされるような気がして。
差し出してくれたあの手に、唾を吐いてしまったような気がして。
綱渡りで保っていた彼の心は、この夜に完全に折れてしまった。
どこまでも明るく熱い太陽に、天上の星に、自身の醜さを照らされるような気がして。
差し出してくれたあの手に、唾を吐いてしまったような気がして。
綱渡りで保っていた彼の心は、この夜に完全に折れてしまった。
ひとしきり泣いて泣いて泣きつくした彼の胸には、一つの歪んだ欲望しかなかった。
嗚呼────あの人に断罪されるのならば。
どうしようもなく、弱く、カスみたいな自分であっても、あの人の正義の炎の薪になれるならば。細やかであっても、彼の功績の一助になれるのであれば。
「どうしようもない屑を燃やし尽くした劉炎嵐!」そんな一時の賞賛の材料になれるのならば。
それが歪んだ願望であることは分かっている。
弱い自分の都合のいい話だということは分かっている。
弱い自分の都合のいい話だということは分かっている。
それでも尚…灰蛇絡にとって、救いはそこにしか見いだせなかったのだ。
ずるりずるりと襤褸布が屋台街を這いずる。
いつの間にやら襤褸布からは大小様々な蛇が、同じように這いずり始めた。
毒牙を備えた黒蛇と、筋力に優れた赤蛇は、音もなく屋台街で夜の番をする女に近づいた。
いつの間にやら襤褸布からは大小様々な蛇が、同じように這いずり始めた。
毒牙を備えた黒蛇と、筋力に優れた赤蛇は、音もなく屋台街で夜の番をする女に近づいた。
暗闇の屋台街に一つ、悲鳴が響いた。
月の、綺麗な夜だった。
本当に、本当に綺麗な夜だった。綺麗な夜だったのに。
本当に、本当に綺麗な夜だった。綺麗な夜だったのに。
◇ ◇ ◇
【死神】
泗涇夜市。
上海最大の夜市であり巨大な屋台街。
上海最大の夜市であり巨大な屋台街。
実のところ、現在の上海では屋台や露天商が自由に商売ができるところは限られている。
行政は積極的に景観区域での露店を取り締まった。
行政は積極的に景観区域での露店を取り締まった。
その結果、現在上海で観光客が見る屋台の多くは清潔さを保たれた屋台風の店舗だ。
日本で言うならば○○横丁や○○屋台村みたいに呼ばれる飲み屋街を想像してくれると早いかもしれない。
日本で言うならば○○横丁や○○屋台村みたいに呼ばれる飲み屋街を想像してくれると早いかもしれない。
泗涇夜市は屋台が多く並ぶメインストリートだけでなく、イベントを行うスペースや、そのイベントの様子を全体に流す巨大なモニターもある。屋外にあるショッピングモール…とでも言えばいいのだろうか。
そんな泗涇夜市で、わたし、死神は朝から働くことになった。
この巨大な屋台街で、ダブル・ハピネス?キャンペーン?とやらが開かれ、
それのせいで色々な施設が破損。急な人手不足が発生したのだという。
それのせいで色々な施設が破損。急な人手不足が発生したのだという。
この屋台街ではまもなくダイヤにまつわる催しがあるという話だったので、
一にも二もなくわたしは飛びついた。
一にも二もなくわたしは飛びついた。
わたしが担当することになったのは屋台カレーの売り子。
早速売り子を始める前に、手帳を開く。
古い写真を挟んであるページを、そっと撫でる。
古い写真を挟んであるページを、そっと撫でる。
いつ撮ったのか、どこで撮ったのか、最初からここに挟まっていたのか。
そういう記憶はもうだいぶ曖昧になってしまった。
そういう記憶はもうだいぶ曖昧になってしまった。
少し色の抜けた古い写真。
昔の上海らしい街並みを背に、わたしと義父母が映っている。
端が丸く擦り減り、全体的にくすんだ感じだけど、
これを見ると心が温まるのが分かる。
昔の上海らしい街並みを背に、わたしと義父母が映っている。
端が丸く擦り減り、全体的にくすんだ感じだけど、
これを見ると心が温まるのが分かる。
記憶は色々と欠落し、膨大な借金が魂を縛り、
ふと気を抜くと「向こう側」に落ちてしまいそうな恐怖に震える毎日。
ふと気を抜くと「向こう側」に落ちてしまいそうな恐怖に震える毎日。
でもこの写真を見ると、かつての上海と今の上海のどこか甘い空気は変わっていないのだと思える。その事実が沈む気持ちを押し上げて前向きにしてくれた。
手帳を丁寧にしまうと、わたしは早速カレーの販売を始めた。
上海にカレーが入り始めたのは2000年ごろの百夢多咖喱 だとか。
八角で香り付けされた中国カレーは、カレーでありながら上海を思わせる。
上海にカレーが入り始めたのは2000年ごろの
八角で香り付けされた中国カレーは、カレーでありながら上海を思わせる。
屋台街の油が軋む音。
どこかで鳴いている虫の声。
ダイヤを巡る騒動で破壊された後でも懸命に働く人々の喧騒。
騒動など知らず好奇心をむき出しに辺りを見回す観光客。
朝日。風。八角の香り。
どこかで鳴いている虫の声。
ダイヤを巡る騒動で破壊された後でも懸命に働く人々の喧騒。
騒動など知らず好奇心をむき出しに辺りを見回す観光客。
朝日。風。八角の香り。
それらを浴びながら、わたしは懸命に働いた。
昼が近くなると、お目当てのイベントが開催される時間となった。
昼が近くなると、お目当てのイベントが開催される時間となった。
イベント会場の様子を映す巨大モニターには派手なネオン色で文字が踊っていた。
求む!ダイヤへの挑戦者!
倒せ!劉炎嵐 !挑戦料500ドル
清王朝の物と噂されるダイヤ。
これが手にはいればわたしは…天国に行けるのだ。
これが手にはいればわたしは…天国に行けるのだ。
◇ ◇ ◇
【劉炎嵐】
「上海はどうなってんだよ!!」
死神と呼ばれた少女が屋台街に陣取る前日のこと。
相も変わらず劉炎嵐は事務所に怒声を響かせていた。
相も変わらず劉炎嵐は事務所に怒声を響かせていた。
『おぉ~うるせぇ~…ホェンちゃん、相変わらず燃えてるねぇ』
モニタ越しに電梟 の通り名で知られる、炎嵐の相棒にして屈指の情報屋、王双葉 の呆れ声が流れた。
怒れる大男、炎嵐は現在の上海の動向を探るために双葉の協力を得て情報を集めていたのだが、昨今の上海ではあまりにも多くの事件が起きていた。
ネット上を、ゴシップ誌の紙面を、毎日のように様々な大事件が踊る。
【泗涇夜市上空にダイヤ出没??ダブル・ハピネス・キャンペーンとは!!?】
【貧民街大崩壊!出現した謎のスーパーロボットは魔幇の隠し玉??】
【ジェット・ワンの新作発表会が大ジャングルに!動くダイヤを見た者多数!】
【上海蟹ランドに動く亡霊騎士とワニ?】
【貧民街大崩壊!出現した謎のスーパーロボットは魔幇の隠し玉??】
【ジェット・ワンの新作発表会が大ジャングルに!動くダイヤを見た者多数!】
【上海蟹ランドに動く亡霊騎士とワニ?】
「表 に出たのでもこれだけあるしよぉ…地下大放水路でも知ってる解決屋が何人か暴れたっていうし、マジでどうなってんだ上海…」
『ホェンちゃんだって上海騒動の一員で一因じゃん…まぁさ、ポジティブに考えれば事件になってるから有力者の動向が分かるわけじゃん?』
炎嵐は双葉が用意してくれた上海を駆ける猛者たちの情報に目を通す。
海千山千の曲者どもの名が目白押しであった。
海千山千の曲者どもの名が目白押しであった。
『そんなときになんだけどさ、面白そうな依頼が来てるんだよね』
双葉の言葉を受け、炎嵐は依頼に目を通した。
依頼の主は泗涇夜市の総支配人。
依頼の主は泗涇夜市の総支配人。
彼が言うことには、泗涇夜市は双喜のダブル・ハピネス・キャンペーンのせいで大きな打撃を受けているという。
施設の一部が破壊されただけでなく、上空に燦然と輝いた炎を
「ダイヤの輝きを見た」
などと吹聴する者たちがいたせいで
「本当にダイヤを持っているのは炎嵐なのか?」
「本物はきっとこっちに隠されてる!きっとそう!」
などと考える馬鹿どもがひっきりなしに表れて商売にならないのだそうだ。
施設の一部が破壊されただけでなく、上空に燦然と輝いた炎を
「ダイヤの輝きを見た」
などと吹聴する者たちがいたせいで
「本当にダイヤを持っているのは炎嵐なのか?」
「本物はきっとこっちに隠されてる!きっとそう!」
などと考える馬鹿どもがひっきりなしに表れて商売にならないのだそうだ。
そこで支配人の考えたのが
【倒せ!劉炎嵐!ダイヤゲットチャンス!】
というイベントである。
本物のダイヤはここですよ、とちゃんと見せることで一攫千金狙いの馬鹿どもを誘導し、泗涇夜市にダイヤが隠されているなどという陰謀論を払拭し、その上で参加料を徴収し、さらに見学者から稼ぐつもりなのだ。
本物のダイヤはここですよ、とちゃんと見せることで一攫千金狙いの馬鹿どもを誘導し、泗涇夜市にダイヤが隠されているなどという陰謀論を払拭し、その上で参加料を徴収し、さらに見学者から稼ぐつもりなのだ。
「なんだこれ。俺にメリットないじゃねぇかよ…」
『そうかな?意外とあると思うよ?』
双葉はこの企画を受けるメリットを列挙した。
- 現状ダイヤ狙いの雑魚から随時狙われる状況である。ならいっそ雑魚をまとめて呼び寄せたほうがいい
- 興行として行われるダイヤチャレンジは参加料を取るエントリー制。エントリーしている時間で私が相手を調査するから、情報的アドバンテージを持った状態で対応できる
- 強さを大々的に見せつけることで以後雑魚の襲撃は弱まる
- ダイヤを狙っている組織は観衆の面前でダイヤを奪い、【次のダイヤ持ちであること】が明らかになってしまう手法は取らない
総じて、不意打ちを避けた状態で雑魚を掃除できるというのが双葉の主張だ。
『それにさ、支配人の方に「連戦連戦でもう無理と思ったら切り上げる」って伝えとけばいいんじゃない?別に支配人はホェンちゃんの敵じゃなくて稼ぎたいだけなんだから、死ぬまで戦わせようって話じゃないでしょ?』
双葉の論には十分説得力があった。
(だけどよぉ…【次のダイヤ持ちであること】がばれても問題ないというような戦闘強者が、俺の対策をしっかりして挑んでくる可能性も全然あるんだよな…)
上海の騒動に目を通したことで、今上海にいる実力者の動向は大体把握している。
ダイヤを積極的に狙い、次のダイヤ持ちと周知されることを厭わず、それでいて炎嵐を打破しうる実力者は思いつかなかった。
ダイヤを積極的に狙い、次のダイヤ持ちと周知されることを厭わず、それでいて炎嵐を打破しうる実力者は思いつかなかった。
(張三の旦那は魔幇潰しに忙しいって話だし…喬芽芽は裏に別組織が付いてるから公然とした場で喧嘩は売ってこない…カムパネルラとジョバンニは裏の住人だし、『トラブルバスターズ槌歌』も『清海』も仕掛けてくるタイプじゃない…『万事屋』は強いが、上海には人捜しに来たと聞くし、それももう見つけて保護したらしい…)
今手元にある情報をつなげ、強者の挑戦の可能性を考える。
「…やってみてもいいかもしれねえな」
そうしたうえで、炎嵐は敵をあえて集めるという大胆な戦略を採用した。
考えた末の理屈であったが、何よりも
考えた末の理屈であったが、何よりも
「いいかげん、ちまちま狙われるのはムカついてたんだよ!」
ズン ズン ズン
ギリ ギリ ギリ
ミチ ミチ ミチ
ギリ ギリ ギリ
ミチ ミチ ミチ
怒りに大気を震わせながら、红虎は上海最大の屋台街、泗涇夜市に向かうことを決めた。
◇ ◇ ◇
【死神】
泗涇夜市が揺れる。
普段は観光客の賑やかさが支配する屋台街。
今は殺意にも似た興奮と血と汗のにおいが充満している。
普段は観光客の賑やかさが支配する屋台街。
今は殺意にも似た興奮と血と汗のにおいが充満している。
「うぎゃー!!」
「あー!!山田勝己の弟子!ブラックタイガー瞬殺!!」
「あー!!山田勝己の弟子!ブラックタイガー瞬殺!!」
「ほぎゃー!」
「うわー!ロマンスグレー板野が!ギャグを言う前に殴られた!」
「うわー!ロマンスグレー板野が!ギャグを言う前に殴られた!」
…なんか胡乱な実況がスクリーンから流れているけど、わたしは無視して淡々とカレーを給仕する。
スクリーンに流れているのは現在のダイヤ持ち、劉炎嵐の戦い。
わたしはそれを必死に頭に叩き込む。
300億という借金を返して天国に行くためには、おそらくここでダイヤを得るのが最短距離。
物理的に勝つのは難しい相手ではあるけれど、だからと言って分析しない理由はなかった。
わたしはそれを必死に頭に叩き込む。
300億という借金を返して天国に行くためには、おそらくここでダイヤを得るのが最短距離。
物理的に勝つのは難しい相手ではあるけれど、だからと言って分析しない理由はなかった。
それにしても。
上海トップクラスの戦闘特化魔人と聞いていたけれど、本当に強い。
熱く、速く、固く、それでいて華がある。
上海トップクラスの戦闘特化魔人と聞いていたけれど、本当に強い。
熱く、速く、固く、それでいて華がある。
(しかも強烈なバックアップがある…)
劉炎嵐は、相手をぶちのめすたびにスマホから何か情報を得ているようだった。
次の対戦相手についてであることは間違いないだろう。
ごく限られた短時間に対戦相手の情報を余さず伝える優れたブレインがいるからこそ、公の場に出てきて自分を狙わせたのだろう。
次の対戦相手についてであることは間違いないだろう。
ごく限られた短時間に対戦相手の情報を余さず伝える優れたブレインがいるからこそ、公の場に出てきて自分を狙わせたのだろう。
红虎の名の通り、燃える大型肉食獣のような苛烈な戦闘力。
それを冷静に支えるものは言うならば戦場を見渡し知恵を授ける梟 か。
それを冷静に支えるものは言うならば戦場を見渡し知恵を授ける
「こっちこっち!」
などと考え込んでいたら、カレーを注文したお客さんに呼び寄せられてしまった。
待たせてしまったことを詫びながら卓に向かう。
待たせてしまったことを詫びながら卓に向かう。
そのお客はウェーブのかかった茶髪と褐色の肌で…ありていに言えばギャルのような綺麗な顔立ちをした青年だった。
劉炎嵐のチャレンジが始まってだいぶ時間が経過し今はもう三時。
昼のピークタイムはとっくに過ぎて客はこの青年しかいなかった。
昼のピークタイムはとっくに過ぎて客はこの青年しかいなかった。
しかしこのギャルのような青年はカレーを食べ続けた。
一杯、二杯、三杯…このくらいでは驚かなかったが、十杯を超えたあたりで流石にわたしは
一杯、二杯、三杯…このくらいでは驚かなかったが、十杯を超えたあたりで流石にわたしは
「あの…食べすぎではないでしょうか」
と声をかけてしまった。
その青年────ギャラハッド・ソネットは、にへらっ、と人好きのする笑顔を向けてから
その青年────ギャラハッド・ソネットは、にへらっ、と人好きのする笑顔を向けてから
「あー、ごめんね。私、仕事の前には十五杯は食べるんだよね」
冗談かと思ったがギャラハッド・ソネットは本当にカレーを十五杯食べた。
女と見まごうばかりの美しい青年の引き締まったお腹が、カレーでポコリと膨らむさまは、何か見てはいけないもののような淫靡さがあった。
女と見まごうばかりの美しい青年の引き締まったお腹が、カレーでポコリと膨らむさまは、何か見てはいけないもののような淫靡さがあった。
「…それじゃあ、そろそろ私があの人に挑む番だから、行ってくるね」
これからギャラハッドはあの圧倒的強者に挑むという。
よせばいいのにわたしは、思わず聞いてしまった。
よせばいいのにわたしは、思わず聞いてしまった。
何故わざわざあの人に挑むのかと。
屋台街には八角の香り。
振り返る青年の波打った茶髪が陽に黄金に照らされた。
振り返る青年の波打った茶髪が陽に黄金に照らされた。
「あなたもダイヤに興味があるんだね。…ああ、目を見れば分かる。興味があるとかじゃない。何としても手に入れなきゃって顔だ。私も同じなの」
戦闘前というのに、ギャラハッドはどこまでも明るく軽い口調で語った。
「私の一族はさ、清王朝のダイヤについてデマをぶちまけた一族でさぁ。今炎嵐さんが持ってるダイヤが、うちの一族のデマに乗っかった逸品か、それともうちの一族がデマにデマを重ねていたかは分からないけど…なんにせよ噂を広めてみんなが狙うようになっちゃって…今炎嵐さんが狙われている理由の大半はうちの一族のせい」
ニッと笑って明るく告げた。
「じゃあさ、取っときたいじゃん?責任。自分の一族のせいで誰かが無駄に傷つくなんて嫌じゃん?というわけで、勝ち目薄だけどいってくるね!カレー、美味しかったよ!」
わたしには理解できなかった。
負けるかもしれない戦いに赴くのも。
その戦いに笑顔で挑むことが出来るのも。
一族の責任というのも。
負けるかもしれない戦いに赴くのも。
その戦いに笑顔で挑むことが出来るのも。
一族の責任というのも。
何もかも理解できなかった。
自身の立ち位置、中身すら「向こう側」に置いてきてしまったわたしには、それは酷く眩しいものに見えた。
自身の立ち位置、中身すら「向こう側」に置いてきてしまったわたしには、それは酷く眩しいものに見えた。
◇ ◇ ◇
【ギャラハッド・ソネット】
泗涇夜市のイベントスペースに足を進める。
「う~~ん!さっきは女の子にカッコつけちゃったけど、やっぱり怖いなぁ!無理ゲーでしょ!」
弱音を吐きながらも足は止めず。
上海随一の解決屋が待つ場に入り込んだ。
上海随一の解決屋が待つ場に入り込んだ。
連戦を繰り広げた劉炎嵐は全身から蒸気がもうもうと立ち上っている。
目はぎらつき、テンションMAX。いつでも誰でもやれるぞという構えだ。
目はぎらつき、テンションMAX。いつでも誰でもやれるぞという構えだ。
「お久しぶりです。炎嵐さん!」
ギャラハッドは解決屋として当然炎嵐と面識はある。
何回か仕事でニアミスしたこともある。
何回か仕事でニアミスしたこともある。
当然、劉炎嵐が怒りに満ちてはいるが常識的な善人であるということも知っている。
挨拶をしてきた馴染みに対して問答無用で殴りかかるような男ではないと分かっているから、まずは会話を試みたのだ。解決屋の先輩に対しての敬語も忘れずに。
挨拶をしてきた馴染みに対して問答無用で殴りかかるような男ではないと分かっているから、まずは会話を試みたのだ。解決屋の先輩に対しての敬語も忘れずに。
「…おう!本当にギャラハッドか!双葉から次の相手として聞かされていたが…まさか挑戦するとは思わなかったな…」
「…それはどういう意味ですか?」
ギャラハッドの疑問にやや申し訳なさそうに炎嵐は返した。
「いや、だってよぉ…お前じゃ俺に勝てねぇだろ。甘く見てるわけじゃなく、侮っているわけじゃなく、事実として、だ」
劉炎嵐の言っていることは紛れもない事実だ。
身体能力では炎嵐が圧倒している。
その差を埋めうるのが魔人能力であるが、ギャラハッドの能力は火炎攻撃。
食したカレーのカロリーを炎に変える能力であるが、
熱とともに戦う炎嵐との相性は最悪。
ほぼほぼ完全に能力を無効化されてしまう。
身体能力では炎嵐が圧倒している。
その差を埋めうるのが魔人能力であるが、ギャラハッドの能力は火炎攻撃。
食したカレーのカロリーを炎に変える能力であるが、
熱とともに戦う炎嵐との相性は最悪。
ほぼほぼ完全に能力を無効化されてしまう。
「お前の一族とダイヤに因縁があるのは知ってる。だけど、だからといって譲るわけにはいかねぇ。…お前ではダイヤを守り切れない。いつかどこかで殺される」
炎嵐は眉をぎゅっと歪めて残酷な事実を伝える。
その事実をギャラハッドは真っ直ぐ受け止めて、それでも返した。
その事実をギャラハッドは真っ直ぐ受け止めて、それでも返した。
「炎嵐さんの言いたいことは分かります。そしてそれは事実なのでしょう。だけど、うちの一族のせいで広がった騒動に炎嵐さんを巻き込んだままというのも違うと思うんです」
じゃあどうしたいのだ、という表情をした炎嵐にギャラハッドは続けた。
「ダイヤの所持者は私にしてください。そのうえで炎嵐さんが私を守って、炎嵐さんの使いたいやり方でダイヤを使ってください。責任の一端を私に背負わせてほしいんです!」
もしダイヤが奪われそうになったら、殺されるのはギャラハッド。
ただし守るのは炎嵐。そうすれば炎嵐の力を生かしつつ一族の責任が取れる。
ただし守るのは炎嵐。そうすれば炎嵐の力を生かしつつ一族の責任が取れる。
「アホか!それなら俺一人で十分だろうが!」
炎嵐のド正論。
だが、ギャラハッドは引き下がらなかった。
だが、ギャラハッドは引き下がらなかった。
それどころか、無様に土下座をして泣いて乞うた。
「炎嵐さん!お願いです!貴方を危険にさらしたくないんです!元凶の一族として…もう…これ以上は…耐えられません…お願い…です…」
豊かなウェーブの茶髪が床で汚れるのも厭わず続けられる土下座。
整った顔はくしゃくしゃに歪み、鼻水とともに涙が垂れる。
整った顔はくしゃくしゃに歪み、鼻水とともに涙が垂れる。
「…おいおい、頭を上げろって。気持ちは分かるけど、俺がダイヤ持っていた方が俺もお前も生存率は高いだろ?お前がダイヤを持った俺を随時サポートすればそれでいいじゃねえか…」
後輩の涙と土下座にほだされる炎嵐。
それこそがギャラハッドの狙いだった。
红虎、劉炎嵐が怒りで熱量を上げることは上海解決屋であれば誰もが知っている。
ならば怒りを霧散させ、出力を弱める。
劉炎嵐の善性を突く形の策略であるが、ギャラハッドはそれを選んだ。
红虎、劉炎嵐が怒りで熱量を上げることは上海解決屋であれば誰もが知っている。
ならば怒りを霧散させ、出力を弱める。
劉炎嵐の善性を突く形の策略であるが、ギャラハッドはそれを選んだ。
土下座の姿勢からファイアーボイスを全力発動!
ロケットのごとき出力で劉炎嵐に全身全霊の体当たり!
ロケットのごとき出力で劉炎嵐に全身全霊の体当たり!
「…!?うぉ!?」
炎嵐の反応は流石の物で瞬時に受けの構えをとる。
だが血管の強化がまだ足りない。
だが血管の強化がまだ足りない。
受けた左腕からミシリと嫌な音がした。
「あんたが!俺たち一族の都合に首を突っ込む必要なんざねぇだろ!!関係ないだろ!こっちもムカついてるんだよ!!!さっさとダイヤ渡せ!」
ズン ズン ズン
ギリ ギリ ギリ
ミチ ミチ ミチ
ギリ ギリ ギリ
ミチ ミチ ミチ
瞬時に劉炎嵐の血液温度が上がっていく。
「ああ!?関係ねぇだ!?」
「解決屋の仲間が襲われて死ぬかもしれないのに無関係なはずがねえだろ!」
つまるところ、ギャラハッド・ソネットは劉炎嵐の善性を見誤っていた。
ギャラハッドの理屈では、炎嵐はダイヤと一族の因縁に無関係であり、ダイヤのために怒り命を張る必要なんてないと思っていた。
ギャラハッドの理屈では、炎嵐はダイヤと一族の因縁に無関係であり、ダイヤのために怒り命を張る必要なんてないと思っていた。
だが、劉炎嵐は。
ダイヤを巡り血が流れることにムカついていた。
可愛い解決屋の後輩が一族のやらかしに悲壮な覚悟で挑むのにムカついていた。
いつかどこかの魔幇がダイヤを手にして上海市民を見下すかと思うと心底からムカついていた。
ダイヤを巡り血が流れることにムカついていた。
可愛い解決屋の後輩が一族のやらかしに悲壮な覚悟で挑むのにムカついていた。
いつかどこかの魔幇がダイヤを手にして上海市民を見下すかと思うと心底からムカついていた。
とっくの昔に、炎嵐はダイヤとは無関係ではなくなっていた。
「俺は無関係でございます」などとイモを引ける段階はとっくに過ぎていたのだ。
「俺は無関係でございます」などとイモを引ける段階はとっくに過ぎていたのだ。
(ああー!この人!マジでいい人だな!)
最初の不意打ちで仕留めきれなかった以上、ギャラハッドに勝ちの目はない。
それでも全力でぶつかりたかった。
全てを出し切ったうえで、因縁のダイヤを託したかった。
それでも全力でぶつかりたかった。
全てを出し切ったうえで、因縁のダイヤを託したかった。
ギャラハッドの全力はほんの数分の殴り合いで終結したが…それでも地に倒れるギャラハッドは満足そうな顔で炎嵐を見上げた。
「…強すぎるんですよ炎嵐さん…ダイヤは預けますけど…あんたを私が守るのは勝手にさせてもらいますからね?」
「勝手にしろ、好きにしていいんだよそんなもんは」
屋台街のイベントスタッフに抱えられてギャラハッドは去っていった。
炎嵐は最初の不意打ちでひびの入った左手を痛そうに撫でる。
炎嵐は最初の不意打ちでひびの入った左手を痛そうに撫でる。
「くぁ~、いい一撃貰っちまったなぁ…でもまぁ、立ち回りは悪くなかったんじゃねえか?」
次の対戦相手を待つ間、双葉に向かい軽口をたたく。
『いや~、ホェンちゃんなら最初の一撃だって防げたでしょ~。35点ってとこだねぇ』
「辛いなオイ!!」
ギャラハッド・ソネット:敗北
◇ ◇ ◇
【死神】
「あちゃー。良い線行ってたけど、ここまでかぁ!」
わたしがスクリーンでギャラハッドさんの敗北を見ていると、気が付いたら大柄な女性がそばで一緒に観戦していた。
右半身を黒・左半身を白に染め上げたスーツ。
スーツ同様にツートンカラーに分けたロングヘアーは、
有名なアメコミの悪役を少し思い出させた。
だがその奇妙な出で立ちをもってしても隠し切れない美貌。
180cmを超える長身から醸す匂い立つような色気は、何か人外めいたものを感じさせた。
スーツ同様にツートンカラーに分けたロングヘアーは、
有名なアメコミの悪役を少し思い出させた。
だがその奇妙な出で立ちをもってしても隠し切れない美貌。
180cmを超える長身から醸す匂い立つような色気は、何か人外めいたものを感じさせた。
「アタシは『万事屋』、白髪黒羽。よろしくね死神ちゃん」
わたしを知っている。
一気に気持ちを警戒させるわたしを、白髪黒羽と名乗った美女は笑った。
一気に気持ちを警戒させるわたしを、白髪黒羽と名乗った美女は笑った。
「警戒するのも分かるけどさ、こっちはプロで、情報が大事なの。だからアンタが鞍馬山で一席打ったことも知ってる。ギルドに死神で登録していたから名前も知ってる。ただそれだけ。知ってるってだけで何かする気はないよ」
にわかには信じがたかった。
しかし白黒のスーツ。同じく白黒の長髪。
怒号飛び交うイベントスペースと屋台街。
人々の活気。
しかし白黒のスーツ。同じく白黒の長髪。
怒号飛び交うイベントスペースと屋台街。
人々の活気。
それらが相まって非現実的な様相を見せ、不思議と白髪黒羽の言葉は信じられた。
わたしと白髪黒羽さんが会話をしているところに、ぶん殴られてボロボロのギャラハッドさんが帰ってきた。
わたしと白髪黒羽さんが会話をしているところに、ぶん殴られてボロボロのギャラハッドさんが帰ってきた。
色男が台無しのボコボコ顔だけど、不思議とその顔は晴れやかだった。
「ワタシにはよく分からねぇんだ。ギャラハッド、アンタは間違いなく炎嵐より弱い。戦ったら99%くらいこうなるって分かってたろ?なんで挑めたんだ?」
どこか余裕を持ち、笑いを崩さないイメージの白髪黒羽がこのときばかりは真剣な顔をした。
その真剣さに、ギャラハッド・ソネットも真剣に答えた。
その真剣さに、ギャラハッド・ソネットも真剣に答えた。
「…私は貴方が誰か知りませんが…風格で分かります。貴方はとても強いのでしょう。だからもしかしたら自分より強いのと戦うという感覚が分からないのかもしれませんが…」
ボコボコにされた顔であっても、なおギャラハッドは爽やかでカッコいい顔で笑った。
「強い弱いはやりたいことに関係ないでしょ?私は意地を張りたかった。それだけです」
そういうとスタッフに抱えられて医務室に運ばれていった。
「意地…ねぇ。そういう言い方なら分からないでもないかなぁ」
白髪黒羽は胸元から番号札を取り出した。
劉炎嵐への挑戦券だ。
劉炎嵐への挑戦券だ。
「じゃあワタシの勝利を祈っててよ。…って言っても、死神に祈ってもらうのもあれかなぁ」
◇ ◇ ◇
【白髪黒羽】
っかー、……『最悪の始末屋』がレイドボスと思ってたけどさぁ。
それ以上の裏ボスとタイマンとかどういう心境だよワタシ。
それ以上の裏ボスとタイマンとかどういう心境だよワタシ。
あーあー、炎嵐、完全に仕上がってるじゃん。
負けるつもりは1ミクロンもないけど、勝つビジョンもねえわ!ガハハ!
負けるつもりは1ミクロンもないけど、勝つビジョンもねえわ!ガハハ!
ま!決めるぞ覚悟、ってとこだな。
実際、ワタシの能力は相手が分かっている状態だと相性はいい。
ベタベタにメタメタな対策を打てるもんな!
実際、ワタシの能力は相手が分かっている状態だと相性はいい。
ベタベタにメタメタな対策を打てるもんな!
スーツには【熱を通さない】ってイメージを付与した。
持っている日本刀には【折れない】【避けられない】【劉炎嵐を切ることが出来る】というイメージを付与した。
劉炎嵐の能力は有名だ。怒りに応じて身体の温度を上げて肉体も強化することが出来る能力。噂では銃弾も真正面から受け止めるほどの肉体強度を得るのだとか。なんだよそのチート能力。「忍者と極〇道」の陽兄かよ。空飛ばない分マシか?
持っている日本刀には【折れない】【避けられない】【劉炎嵐を切ることが出来る】というイメージを付与した。
劉炎嵐の能力は有名だ。怒りに応じて身体の温度を上げて肉体も強化することが出来る能力。噂では銃弾も真正面から受け止めるほどの肉体強度を得るのだとか。なんだよそのチート能力。「忍者と極〇道」の陽兄かよ。空飛ばない分マシか?
だが、この日本刀は見せ札。
つーかワタシ、剣術はそこまで得意じゃねぇし。
本命はスーツの内ポケットに仕込んだ隠し拳銃。
拳銃にも日本刀と同様に【壊れない】【避けられない】【劉炎嵐を貫くことが出来る】というイメージを付与してある。
つーかワタシ、剣術はそこまで得意じゃねぇし。
本命はスーツの内ポケットに仕込んだ隠し拳銃。
拳銃にも日本刀と同様に【壊れない】【避けられない】【劉炎嵐を貫くことが出来る】というイメージを付与してある。
ワタシの『創造上の想像力 』は付与したイメージを発現させるためには相手に認識させる必要がある。
そして付与するイメージが具体的で効果的であるほど、相手が認識する時間を多く必要とする。【絶対無敵で相手を必ず切り裂く最強無敵の剣】なんてイメージを付与しようとしたらすげぇ時間がかかる。なんでもうまくはいかんね。
そして付与するイメージが具体的で効果的であるほど、相手が認識する時間を多く必要とする。【絶対無敵で相手を必ず切り裂く最強無敵の剣】なんてイメージを付与しようとしたらすげぇ時間がかかる。なんでもうまくはいかんね。
劉炎嵐なら、仰々しく構えた剣で隠すように仕込んだ拳銃を無意識に認識する。
これは相手の実力に基づいた信頼だ。
これから殴り合う相手を信頼しようとか腑抜けた話と思わなくはないが…
勝つための道筋はこれしか浮かばなかったんだから仕方ない。
これは相手の実力に基づいた信頼だ。
これから殴り合う相手を信頼しようとか腑抜けた話と思わなくはないが…
勝つための道筋はこれしか浮かばなかったんだから仕方ない。
炎嵐はイメージ付与を完成させないために日本刀を狙って仕掛けてくる。
その間にゆっくりと拳銃のイメージを高めていく。
その間にゆっくりと拳銃のイメージを高めていく。
…ワタシが、どうしても強い奴とやりあわなくちゃいけなくなった時の二段構えだ。
おかしいな。依頼で突発的にやべぇ奴とやりあうことはあっても
自分からやばい奴に向かうなんてなかったのにな。
リラックス、リラックスだbaby。
大丈夫。我が親友 も草葉の陰で応援しているだろう。
まずはギャラハッドの様に会話でペースをつかむとしようか。
自分からやばい奴に向かうなんてなかったのにな。
リラックス、リラックスだbaby。
大丈夫。
まずはギャラハッドの様に会話でペースをつかむとしようか。
「よう!あんたが噂の…」
「ドッゴォラァアアアア!!」
こちらの思惑ガン無視して灼熱の塊が殴り掛かってきやがった!
「てめぇの能力は知ってんだよ!『万事屋』!自分の知名度を甘く見積もってやしないか?イメージ付与の時間なんて与えねぇ!!」
猛烈な勢いで熱拳が目前を掠める。
熱が凄まじい。こんなこともあろうかとサングラスをつけてきてよかった。
【目を守る】というイメージを付与している。
サングラスは元々目を守るものだからな。それを強化するイメージ付与なんて朝飯前さ。
熱が凄まじい。こんなこともあろうかとサングラスをつけてきてよかった。
【目を守る】というイメージを付与している。
サングラスは元々目を守るものだからな。それを強化するイメージ付与なんて朝飯前さ。
「うわお!問答無用かよ!ティータイム楽しむ心のゆとりもないのかい?」
「だから!能力は割れてるって言ってんだろ!っていうかなんで参加してんだてめぇ!こっちの調べだと、もう護衛対象は保護してんだろ!用事はねえはずだろ!」
おおう。流石は電梟 、王双葉 !
そんなことまで調査済みとは恐れ入るね!
そんなことまで調査済みとは恐れ入るね!
「ハハ!我が親友 が今度母親になるのさ!世界最高のダイヤなら、世界最高の出産祝いになるだろ?こう見えてワタシは友情に篤いのさ!」
ピキピキと炎嵐の血管がひきつる音が聞こえた。
「出産祝いだぁ!!?舐めてんのかてめぇ!この上海から元気な身ぃ一つで保護対象とともに笑顔で帰ること以上の出産祝いなんてねぇだろうが!!余計な怪我する可能性なんざ捨てろ!」
ぐぇ。本当に聞いていた以上の善人だなコイツ。
あまりにも正論だ。だけど、こっちにも引けない理由があるんだな。
あまりにも正論だ。だけど、こっちにも引けない理由があるんだな。
「聞く気がねぇなら…ここで叩きのめして強制送還だボケが!」
叫びながらも劉炎嵐の劈掛拳 はよどみなく。
奇妙にうねり、回転し、弧を描く拳は白髪黒羽を翻弄した。
日本刀のガードをかいくぐり、綺麗な裏拳が脇腹に叩き込まれる。
奇妙にうねり、回転し、弧を描く拳は白髪黒羽を翻弄した。
日本刀のガードをかいくぐり、綺麗な裏拳が脇腹に叩き込まれる。
「ぶっ飛びなぁ!!」
スーツに付与した【熱を通さない】はギリギリで発動していた。
【打撃無効化】でも付与しときゃよかったか?
でもそれだと流石に時間かかるからなぁ。
【熱を通さない】が間に合っただけ良しとしよう。
今更だけど【打撃無効化】も追加。間に合うかは知らんけど。
複数効果を付与しようとすると発動に時間かかるから段階的に一つずつ付与した方が効果的なこともあるんだよな!ま、万能能力なんてないってこった。
【打撃無効化】でも付与しときゃよかったか?
でもそれだと流石に時間かかるからなぁ。
【熱を通さない】が間に合っただけ良しとしよう。
今更だけど【打撃無効化】も追加。間に合うかは知らんけど。
複数効果を付与しようとすると発動に時間かかるから段階的に一つずつ付与した方が効果的なこともあるんだよな!ま、万能能力なんてないってこった。
あー。熱は防いだけど肋骨はバキバキだ。
人間ってこんなに綺麗に吹っ飛ぶんだな。
一発貰ったと思ったらあっという間に壁だよ畜生!
人間ってこんなに綺麗に吹っ飛ぶんだな。
一発貰ったと思ったらあっという間に壁だよ畜生!
だけど、その強すぎる一発が仇だぜタイトルホルダー!
綺麗に決まりすぎた一撃で、劉炎嵐とワタシに十分な距離が開いた。
炎嵐は能力の高熱で仕留めるつもりだったのだろうが、僅かにワタシの能力付与が早かったな!
綺麗に決まりすぎた一撃で、劉炎嵐とワタシに十分な距離が開いた。
炎嵐は能力の高熱で仕留めるつもりだったのだろうが、僅かにワタシの能力付与が早かったな!
これだけ距離があれば、時間を稼げる。
手にした日本刀に【折れない】【避けられない】【劉炎嵐を切ることが出来る】が付与される。時間いっぱい待ったなし。これ以上のイメージを付与していたら間に合わなかっただろう。
ワタシは自分の選択に満足しながら、【折れない】【避けられない】【劉炎嵐を切ることが出来る】一刀を振るった。
手にした日本刀に【折れない】【避けられない】【劉炎嵐を切ることが出来る】が付与される。時間いっぱい待ったなし。これ以上のイメージを付与していたら間に合わなかっただろう。
ワタシは自分の選択に満足しながら、【折れない】【避けられない】【劉炎嵐を切ることが出来る】一刀を振るった。
結果として。
その一刀は折れなかった。
その一刀は避けられなかった。
そしてその一刀は、劉炎嵐を切ることが出来たのだろう。
────当たれば、の話だ。
その一刀は折れなかった。
その一刀は避けられなかった。
そしてその一刀は、劉炎嵐を切ることが出来たのだろう。
────当たれば、の話だ。
どうせならば、【劉炎嵐を切ることが出来る】ではなく【劉炎嵐を切る】と言い切ってしまえばよかった。勿論そんな強力な効果にしたらイメージ付与に時間はもっとかかっていただろうが…どっちが正解だったのかな。
劉炎嵐の野郎!
ワタシの一刀を白刃取りしやがった!
確かにこれならイメージに嘘はない。
長年の戦闘勘か?最良の手を打ちやがった!
そうしてそのまま体温上昇!日本刀を溶かしやがった!何度出てんだよてめぇ!
【溶けない】を付与しとけばよかったと思ったのも束の間。
ワタシの一刀を白刃取りしやがった!
確かにこれならイメージに嘘はない。
長年の戦闘勘か?最良の手を打ちやがった!
そうしてそのまま体温上昇!日本刀を溶かしやがった!何度出てんだよてめぇ!
【溶けない】を付与しとけばよかったと思ったのも束の間。
炎嵐の一撃がワタシの顔面に迫ってきていた。
「ああ、間に合った。最後の切り札を使わせるんじゃねぇよ」
ワタシは、炎嵐が無意識化で認識していた拳銃を取り出すと、躊躇わずにぶっ放した。
【壊れない】【避けられない】【劉炎嵐を貫くことが出来る】銃弾が6発。
それはイメージの通りに劉炎嵐を貫いた。
【壊れない】【避けられない】【劉炎嵐を貫くことが出来る】銃弾が6発。
それはイメージの通りに劉炎嵐を貫いた。
だが、貫いたのは両の手の平と耳。致命傷には程遠い箇所だった。
「…いってぇなオイ!…名高い『万事屋』ならよぉ…こういう手を仕込んでると思ったぜ…俺があんただったら、【絶対命中する】は付与する。なら致命傷にならない場所に自分から当たりにいけばいい。それだけの話だ」
それに気づくかよ。
万事休すだ。
万事休すだ。
「オイオイ肝が太いな!ワタシが【掠ったら死ぬ】とかイメージ付与していたらどうしていたんだよ?」
「あ?そんなことしねぇだろ。殺しが『万事屋』の仕事じゃあねえ。その辺りは信頼してたさ」
相手の実力に基づく信頼。
お前もしてたのかよ。ムカつくなぁ。
お前もしてたのかよ。ムカつくなぁ。
劉炎嵐の一撃が意識を刈り取るべく顔面に降り注いだ。
ワタシはそのまま意識を手放したり…はしなかった。
ワタシはそのまま意識を手放したり…はしなかった。
【ダメージを引き受ける】イメージをサングラスに追加付与していたから。
一撃だけなら防げると思ったけど、規格外の破壊力はは受け止めきれなかったみたいだ。
サングラスは粉々に砕け、残った衝撃が全身に叩きつけられた。
一撃だけなら防げると思ったけど、規格外の破壊力はは受け止めきれなかったみたいだ。
サングラスは粉々に砕け、残った衝撃が全身に叩きつけられた。
意識はかろうじて残っているが、体が全然動かん。
指先一本くらいが限界か?
指先一本くらいが限界か?
「うぉ…まだ意識あんのかよ。最後に聞いとくわ。なんで今回参加したんだよ。出産祝いだけじゃねえだろ?」
チクショウめ。負けた以上は素直に答えなきゃカッコ悪いてもんじゃねえか。
ワタシは赤くなりながら答えた。
ワタシは赤くなりながら答えた。
「私の護衛対象さぁ、日ノ御子神楽っていうんだけど…拉致された後、タチの悪い女衒集団に売られてたんだよね。…教団『愛愛猫々』、潰してくれたのあんただろ?」
ワタシは最後に動かせる指一本で中指を突き立てた。
「潰してくれてありがとう。これは本音。余計なことしやがって。ワタシにやらせろ。これも本音…」
ま、ようするに八つ当たりってこった。
我が親友 に「全部ワタシがまるっと解決したぜ」と笑いたかったなんて、子供らしい理由だよな。ま、意地の話だ。
白髪黒羽:敗北
◇ ◇ ◇
【死神】
スクリーンに白髪黒羽が敗北する姿が大写しになっている。
わたしには彼女の感情が全く理解できなかった。
わたしには彼女の感情が全く理解できなかった。
あれだけ強いのに何故に更なる強者に挑み負ける必要があるのか。
ギャラハッド・ソネットも、白髪黒羽も、最後は意地の話だと言った。
ギャラハッド・ソネットも、白髪黒羽も、最後は意地の話だと言った。
意地。言い換えるなら誇り…何か大切なもののための感情…だろうか。
わたしにはよく分からなかった。
本当によく分からなかった。
本当によく分からなかった。
ただ…胸をチリリと何かが襲った。
ドクンと胸が強く波打った。
それは久しく感じたことのない感触であったが…確かに熱であった。
ドクンと胸が強く波打った。
それは久しく感じたことのない感触であったが…確かに熱であった。
わたしが?白髪黒羽の?
会って間もない人の意地を見て何かを思っている?
自分で自分が分からなかった。
会って間もない人の意地を見て何かを思っている?
自分で自分が分からなかった。
いつもの手帳をゆっくりと開く。
少し色の抜けた古い写真。
昔の上海らしい街並みを背に、わたしと義父母が映っている。
そこに映るわたしは、悩みなど何一つないと言うような笑顔だった。
こんな笑顔を最後にしたのはいつだろう。
思い出せない。思い出せない。
少し色の抜けた古い写真。
昔の上海らしい街並みを背に、わたしと義父母が映っている。
そこに映るわたしは、悩みなど何一つないと言うような笑顔だった。
こんな笑顔を最後にしたのはいつだろう。
思い出せない。思い出せない。
思い出せないことが悲しいと思ったこともなかった。
何故?何故私は悲しいという思いすら忘れていた?
何故?何故私は悲しいという思いすら忘れていた?
気が付けばわたしは、劉炎嵐への挑戦券の最後の一枚を買っていた。
自分でも本当に意味が分からなかった。
自分でも本当に意味が分からなかった。
500ドル。今日の働きが一瞬にしてパァだ。
手帳の別のページを見る。
欄外には、細かい数字が並んでいる。
元本、利息、支払い済み、残り。
手帳の別のページを見る。
欄外には、細かい数字が並んでいる。
元本、利息、支払い済み、残り。
仕事が一つ片づくと、どの列がどれだけ減るのか、すぐに計算できる。
数字が一つ小さくなるたびに、借りたものを、ほんの少しだけ返せた気がする。
数字が一つ小さくなるたびに、借りたものを、ほんの少しだけ返せた気がする。
今日、わたしは数字を後退させてしまった。
それでもいいと思っているのが不思議だった。
それでもいいと思っているのが不思議だった。
雇い主に早退を告げ、参加の準備を進めた。
自分でもよく分からず参加してしまったが、
参加した以上は本気で勝ち筋を考えるべきだ。
自分でもよく分からず参加してしまったが、
参加した以上は本気で勝ち筋を考えるべきだ。
まずあの劉炎嵐という人は、エントリー者の情報を随時入手している。
そこは間違いない。
そこは間違いない。
であればわたしの情報は?
最近上海でしたことといえば鞍馬山に名前を付けた程度だ。
特に魔人能力を披露はしていない。
最近上海でしたことといえば鞍馬山に名前を付けた程度だ。
特に魔人能力を披露はしていない。
黒もっこを憑依させる『黒物子』については知らないはずだ。
あと、私が魂を“何か”に売られた関係で一般的な魔人よりも圧倒的な身体能力があることも知られていない。
あの人は超一級の戦闘特化魔人であることを差し引いても、良い勝負は出来るはず。
あと、私が魂を“何か”に売られた関係で一般的な魔人よりも圧倒的な身体能力があることも知られていない。
あの人は超一級の戦闘特化魔人であることを差し引いても、良い勝負は出来るはず。
────うん、そうなると大切なのは一撃目。
理想はダイヤがどうしても必要な一般人を装って近づいて、全開で一撃。
勿論それで勝負がつくとは思えないけど…一撃入れたらそこからは『黒物子』で翻弄していくしかない。
うん。だいぶ自分に都合のいい展開を考えているけど…勝つにはそれしか浮かばない。
勿論それで勝負がつくとは思えないけど…一撃入れたらそこからは『黒物子』で翻弄していくしかない。
うん。だいぶ自分に都合のいい展開を考えているけど…勝つにはそれしか浮かばない。
まずは炎嵐さんが鞍馬山の件について知っているかどうか。
要するに一般人と思ってくれるかどうか。
要するに一般人と思ってくれるかどうか。
これに関しては白髪黒羽さんでもわたしの名前を知っていたくらいだから、一般人と思ってくれる可能性は低いかな…
などなど色々と考えていたら、わたしの挑戦の番が来てしまった。
最終挑戦者のようだ。
最終挑戦者のようだ。
わたしの胸はバクバクと痛いほどの音を鳴らしていた。
戦いに挑むということ自体がほぼ初めてに近いのだから仕方ない。
戦いに挑むということ自体がほぼ初めてに近いのだから仕方ない。
通路の先に、炎嵐さんが見える。
果たしてわたしを一般人と思っているかどうか…
果たしてわたしを一般人と思っているかどうか…
────そんなわたしの思惑は、一瞬で吹き飛ばされた。
炎嵐さんは大きな声を出してサポートをしてくれている人?と通話をしていた。
そうして、心底驚いた顔をして、ひとつの言葉を吐いた。
そうして、心底驚いた顔をして、ひとつの言葉を吐いた。
「あの少女、…【KURAMA_NODE_07】に関わっているのか!?」
【KURAMA_NODE_07】
SESSION_ID:Σ-03 / LOCAL_NODE:KURAMA_07
TIME STAMP:■■■■-██-██T██:██:██Z(local同期不良)
わたしの脳裏に、鞍馬山の光景がよぎる。
わたしの知らないところで、わたしを見ていた何者かの存在を思う。
わたしの知らないところで、わたしを見ていた何者かの存在を思う。
見えないところでラベリングされるような居心地の悪さ。
その監視者の話を、炎嵐さんは知っている。
その監視者の話を、炎嵐さんは知っている。
通話を切ると、炎嵐さんは今わたしに気が付いたようだった。
そうして、“何か”を告げるべきかどうか酷く迷っているようだった。
そうして、“何か”を告げるべきかどうか酷く迷っているようだった。
頭に何かが昇っていた。
顔全体が熱くなった。
顔全体が熱くなった。
わたしの知らないわたしを目の前の人は知っていて、それを伝えるべきか悩んでいる。
『最初からそうだったって書き足されるのは好きじゃない』
鞍馬山であった“きみ”の言葉だ。今更ながら意味を理解できた。
わたしの頭に上ってきたものは…怒りだ。
わたしの頭に上ってきたものは…怒りだ。
勝手にわたしをラベリングするんじゃない!!
気が付いたら当初の計画も何もかも完全に無視して、わたしは劉炎嵐に勝負を挑んでいた。
◇ ◇ ◇
【死神】
『黒物子』発動。
姿の定まらぬ黒い何かが炎嵐にまとわりつく。
姿の定まらぬ黒い何かが炎嵐にまとわりつく。
それは黒いスーツのサラリーマンであったり、黒猫であったり、はたまた闇そのものでもあったが、炎嵐には確かな実体を持ったものとしか映らなかった。
そうしてその“何か”たちは炎嵐に話しかけてきた。
炎嵐にしか見えぬ存在とはとても信じられない存在感。
炎嵐にしか見えぬ存在とはとても信じられない存在感。
その黒もっこに紛れてわたしは攻撃を仕掛けるつもりだった。
「面倒くせえ!幻術系かよ!だったら全部ぶちのめすまで!」
戦闘慣れした炎嵐さんの決断は迅速にして苛烈。
見えてるものすべてを殴り飛ばしにかかった。
見えてるものすべてを殴り飛ばしにかかった。
「見境なしですか…ならば!」
憑依させる黒もっこを追加。
炎嵐さんの視界全てを埋め尽くしにかかる。
炎嵐さんの視界全てを埋め尽くしにかかる。
「チッ!なんだこいつら…邪魔すぎるだろ!」
勝機。炎嵐さんの背後に回り一気に仕留めようとする。
だが。
だが。
「さっき撃たれておいてよかったなぁオイ!!」
炎嵐さんは白髪黒羽さんに銃撃された両手の血を周囲に散弾銃の様に飛ばした。
わたしは炎嵐さんの能力は体を熱くする能力と思い込んでいたけど、正確には血液を熱くする能力みたいだ。マグマのような温度となった血液が周囲にばら撒かれた。
わたしは炎嵐さんの能力は体を熱くする能力と思い込んでいたけど、正確には血液を熱くする能力みたいだ。マグマのような温度となった血液が周囲にばら撒かれた。
何発か当たってしまい、じゅうじゅうと肉が焦げる。
猛烈な痛みに悲鳴を上げたくなるが、ここで声を上げたら位置がばれてしまう。
猛烈な痛みに悲鳴を上げたくなるが、ここで声を上げたら位置がばれてしまう。
必死に声を抑えた。だがわたしの努力を嘲笑うかのように、視界が黒もっこで埋まっているはずの炎嵐さんがこちらを睨んでいた。
────匂いだ。
肉の焼ける嫌な匂いが、炎嵐さんの鼻に届いたのだ。
位置はばれた。もうこうなっては突っ切るしかない!
わたしはばれたのを承知で全力で飛びかかった。
弾丸のような速度でわたしの身体が宙を進む。
位置はばれた。もうこうなっては突っ切るしかない!
わたしはばれたのを承知で全力で飛びかかった。
弾丸のような速度でわたしの身体が宙を進む。
「うぉ…!?」
さしもの炎嵐さんも、わたしの身体能力の異様な高さは計算外だったようだ。
それでもわたしの拳が届くかどうかは微妙なところ。
全霊の怒りを込めてわたしは炎嵐さんの顔面に拳を振りぬいた。
それでもわたしの拳が届くかどうかは微妙なところ。
全霊の怒りを込めてわたしは炎嵐さんの顔面に拳を振りぬいた。
破壊音が屋台街に響いた。
黒もっこが消え、炎嵐の視界が晴れていく。
そこには、僅差で拳が届かずカウンターを喰らい地に伏せる死神がいた。
黒もっこが消え、炎嵐の視界が晴れていく。
そこには、僅差で拳が届かずカウンターを喰らい地に伏せる死神がいた。
もしも、の話であるが…
死神の背丈がもう少しあったなら。
リーチが少しでもあったなら。
連戦で疲弊していた炎嵐に決死の一撃は届いたかもしれない。
死神の背丈がもう少しあったなら。
リーチが少しでもあったなら。
連戦で疲弊していた炎嵐に決死の一撃は届いたかもしれない。
だが、死神の身体は享年14歳のときのまま成長していなかった。
“何か”に魂を縛られた結果が、敗北を招いたのである。
“何か”に魂を縛られた結果が、敗北を招いたのである。
全力を出し切り、床に倒れたわたしを星が包んだ。
そうしてやっと理解した。
そうしてやっと理解した。
わたしはずっと、本当にずっと、自分でも分からないまま理不尽に耐えていたんだ。
だから、自分らしく意地を通して見せた白髪黒羽に胸を熱くさせられたんだ。
“何か”に挑んでみようと思わされたんだ。
だから、自分らしく意地を通して見せた白髪黒羽に胸を熱くさせられたんだ。
“何か”に挑んでみようと思わされたんだ。
「炎嵐さん…何も言わなくていいです。何も答えなくていいです。【KURAMA_NODE_07】のことを知っていても何も教えないでいいです」
炎嵐は黙って死神の言葉を待った。
「わたしは今まで天国に行くために借金を返そうと頑張ってきました。魂を契約で縛る“何か”に従って働いてきました…」
「でもこれ!理不尽なことだったんですね!ムカつくと言って!意地を張って!抗っていいことだったんですね!!」
普段の死神からしたら考えられないほどの大声で虚空に叫ぶ。
「成長したかった!魂を縛られたくなかった!大人になりたかった!義父さんたちと一緒に成長したかった!!」
炎嵐は何も返さない。
「────借金を返すのはやめです。わたしは、“何か”を倒す。利子で300億もつけるような悪辣な怪異を、自分自身の手で叩きのめす…!」
床に倒れながら、死神はにやりと呟いた。
「場合によっては貴方に依頼をするかもです。その時は自分でためたお金で正式に依頼をするので!今あなたが知っている情報は取っておいてくださいね。これはわたしがやるべき…」
「意地の話なのです」
死神:敗北
◇ ◇ ◇
【???】
こうして、劉炎嵐の長い一日は終わりを告げた。
ダイヤ狙いの木っ端は全てぶちのめし、劉炎嵐ここにありを見せつけた。
ダイヤ狙いの木っ端は全てぶちのめし、劉炎嵐ここにありを見せつけた。
今後は雑に炎嵐を狙うものは出てこないだろう。
屋台街での戦いは、参加した者たちの胸に火を灯した。
それぞれが呼応しあい、火から火へと移っていった。
それぞれが呼応しあい、火から火へと移っていった。
劉炎嵐という巨大で強大な壁に触れた結果、ギャラハッド・ソネットは打ち負かされても立ち上がる強さを得た。
ギャラハッドの熱い進軍を見た白髪黒羽は、最愛の友人に胸を張るため、自ら強者に挑んだ。
白髪黒羽の理屈を超えた戦いは、死神の心にかすかな火を灯し、運命に抗う決意を起こした。
人が何かを動かすとき、何かを思うとき、そこにはいくばくかの火が生まれる。
その火は、その場限りの一瞬の火かもしれない。
はたまた、火から火へと移っていき、何か大きな炎になるかもしれない。
その火は、その場限りの一瞬の火かもしれない。
はたまた、火から火へと移っていき、何か大きな炎になるかもしれない。
誰かに何かが伝わる。
それはかけがえのない物語であるだろう。
それはかけがえのない物語であるだろう。
────ただ、良き炎が良き炎に繋がるとは限らない。
火が移った結果、どうにもならぬちっぽけな火が一つ灯り、誰にも知られず燃え滓となるかもしれない。それは誰にもコントロールできないものなのだ。
「清王朝のダイヤ!あれ、まだ劉炎嵐が持っているらしいぜ!」
「マジかよ?あれだけ大々的にダイヤ持ちって知られたらよぉ、魔幇あたりに締められて終わりだろ普通?」
「いやいや、アイツ噂以上に強いし情報にも強いわ。もしかしたら魔幇に一杯食わせるかも…」
「馬鹿!滅多なこと言うもんじゃねえ!…でもよぉ、アイツなら…って思わせるよなぁ」
「ちげぇねぇ。【スーパースター 】ってのはああいう奴よ!」
「マジかよ?あれだけ大々的にダイヤ持ちって知られたらよぉ、魔幇あたりに締められて終わりだろ普通?」
「いやいや、アイツ噂以上に強いし情報にも強いわ。もしかしたら魔幇に一杯食わせるかも…」
「馬鹿!滅多なこと言うもんじゃねえ!…でもよぉ、アイツなら…って思わせるよなぁ」
「ちげぇねぇ。【
それは、劉炎嵐が大立ち回りをやってのけた日の晩のこと。
月の綺麗な夜だった。
月の綺麗な夜だった。
◇ ◇ ◇
───だからこれは、燃え滓の物語
◇ ◇ ◇
周浦小上海步行街。
観光地とは離れた地元民が通うそこは、
時代に取り残された故の混沌とした熱気に満ちている。
一昔前の上海、などとも称されるその地は常に喧騒が溢れていた。
時代に取り残された故の混沌とした熱気に満ちている。
一昔前の上海、などとも称されるその地は常に喧騒が溢れていた。
ドリアン、羊串、鶏頭の丸焼き、香辛料が混ざった匂い。
飛び交う生粋の上海語。
子供の泣き声、店主の怒鳴り声。
飛び交う生粋の上海語。
子供の泣き声、店主の怒鳴り声。
劉炎嵐が暴れた泗涇夜市とは全く趣は違うが、これも上海の屋台街であることに違いはなかった。
普段であれば賑やかな日常の喧騒に満ちた屋台街は、今は別種の喧騒が広がっていた。
暴走した魔人が屋台街の人々を蛇で縛り上げ、僅かばかりの金銭を奪ってしまったのだ。それだけでなく、その魔人は子供を拉致した。その卑怯で卑屈な小悪党の名は、灰蛇絡といった。
そうして、屋台街の真ん中で身勝手な理屈を叫び続けた。
縛り付けた子供のそばでナイフを翳す。
縛り付けた子供のそばでナイフを翳す。
「劉炎嵐を呼べ!俺がこんななっちまったのはアイツのせいだ!来ねえっていうならガキを刺し殺しちまうぞ!!」
屋台街の人々が呼んだのか、警察が手配したのか、はたまた凄腕の情報屋が拾い上げたのか。灰蛇絡が屋台街で叫び始めてから少しも経たぬうちに上海随一の解決屋、红虎、劉炎嵐は姿を現した。
ズン ズン ズン
ギリ ギリ ギリ
ミチ ミチ ミチ
ギリ ギリ ギリ
ミチ ミチ ミチ
既に怒りはフルスロットル。
目は血走り、赤銅色の肌は更に更に赤く熱く光っていた。
目は血走り、赤銅色の肌は更に更に赤く熱く光っていた。
「てめぇ…見たことあるツラだなオイ!懲りてねえって話かゴラ!」
灰蛇絡は劉炎嵐の呼びかけを無視。
我武者羅に自らを傷つけて血を溢れさせた。
無造作に自身の髪を切り辺りにばら撒いた。
そして魔人能力『堕落蛇道』を発動させた。
我武者羅に自らを傷つけて血を溢れさせた。
無造作に自身の髪を切り辺りにばら撒いた。
そして魔人能力『堕落蛇道』を発動させた。
灰蛇絡の髪は毒牙を備えた黒蛇になり、血液は筋力に優れた赤蛇となる。
蛇にはわずかながら知性があり可能な範囲で灰蛇絡の命令を聞く。
命令を与えなければ周囲の熱を探知して勝手に襲う。
命令を与えなければ周囲の熱を探知して勝手に襲う。
灰蛇絡はあえて命令をせず、出せる限りの蛇を繰り出した。
ざくざくと肌を切り裂き血を垂れ流し
ぶちぶちと千切るように髪を切る。
大量の血と髪が広がったかと思うと大量の蛇に変化した。
ざくざくと肌を切り裂き血を垂れ流し
ぶちぶちと千切るように髪を切る。
大量の血と髪が広がったかと思うと大量の蛇に変化した。
命令は与えなくとも、熱を探知して優先的に動く蛇はこの屋台街で最も熱を発する存在…劉炎嵐に一斉に襲い掛かった。
だがそれは文字通り飛んで火にいる夏の虫のような話。
黒蛇の毒牙は炎嵐の肌を通らない。
赤蛇の締め付けは炎嵐の首を絞めつけるに至らない。
まったくもってそれ以前の問題だ。
肌に届く前にその灼熱に蛇たちは焼き上がってしまった。
黒蛇の毒牙は炎嵐の肌を通らない。
赤蛇の締め付けは炎嵐の首を絞めつけるに至らない。
まったくもってそれ以前の問題だ。
肌に届く前にその灼熱に蛇たちは焼き上がってしまった。
あっという間に黒蛇も赤蛇も等しく真っ黒な炭になってしまった。
それでも灰蛇絡は動じない。
それでも灰蛇絡は動じない。
「ウキャキャキャ!蛇を燃やした程度で勝ったと思うなよクソが!俺はまだあきらめねぇ~!!」
むしろ内心では喜びに満ちていた。
あの日自分を叩きのめして救おうとしてくれたこの人は変わらずに強かった。
ちっぽけで弱い自分がそんな彼の英雄譚の一助になれることが喜ばしかった。
あの日自分を叩きのめして救おうとしてくれたこの人は変わらずに強かった。
ちっぽけで弱い自分がそんな彼の英雄譚の一助になれることが喜ばしかった。
「世の中にはよぉ~!俺みたいなどうしようもねぇ、誰にも救えねぇカスもいるんだよ!」
だから貴方が悪いわけではない。灰蛇絡は心の中で叫んでいた。
自身の行いが身勝手な愚行であることは百も承知している。
それでも灰蛇絡にはこれしか道が見つからなかった。
自身の行いが身勝手な愚行であることは百も承知している。
それでも灰蛇絡にはこれしか道が見つからなかった。
全ては灰蛇絡が悪い。
運が悪いわけではない。
間が悪いわけではない。
世界が悪いわけではない。
運が悪いわけではない。
間が悪いわけではない。
世界が悪いわけではない。
ましてや、灰蛇絡を助けた劉炎嵐が悪いわけがない。
弱く、自身を保てず、半端に良い人であろうとし、それでも更なる弱者から物を奪おうとする、ちっぽけな灰蛇絡という男が何もかも悪いのだ。
せめて最後に恩人たる劉炎嵐に報いようと、灰蛇絡は救いようのない悪役を全霊で演じた。
「ケケケケ~!本当に馬鹿だぜ!俺はお前に救われ絆された甘ちゃん達とは違ぇ~!お前にビビッて悪事も出来ないチキンとも違ぇ~!俺は俺である限り奪う側だぜ!」
遠巻きに見ていた野次馬たちも、灰蛇絡の悪辣さに罵声を浴びせ始めた。
『慈悲で見逃してもらったのになんて奴だ』
『他に改心した者がいるのにアイツは救いようがない』
『恐れて出てこないならまだしも繰り返すあたり本当に馬鹿だ』
『そんな奴、ぶっ殺してしまえ劉炎嵐』
『他に改心した者がいるのにアイツは救いようがない』
『恐れて出てこないならまだしも繰り返すあたり本当に馬鹿だ』
『そんな奴、ぶっ殺してしまえ劉炎嵐』
素人目に見ても灰蛇絡と劉炎嵐の実力差は明確であったため、周囲の人々は劉炎嵐の誅を求めた。屋台街が血を求める興奮に染まる。
ズン ズン ズン
その興奮を红虎の足音が更に盛り上げる。
「てめぇ…どこまでも救えねえな…来な!引導を渡してやらぁ!!」
炎嵐の呼びかけに、待っていましたとばかりに灰蛇絡は飛びかかった。
「キヒャァー!死ぬのはてめぇの方だぜお人よし!!」
雑な特攻に対し、熱く、固く、どこまでも強い拳がカウンターのように煌めいた。
その豪拳が灰蛇絡の顔面に叩きつけられる刹那。
灰蛇絡は劉炎嵐の瞳を見た。それはいつもの怒りに燃える爛々とした瞳ではなかった。
どこか陰鬱で、彼らしくなく沈んだ瞳だった。
その豪拳が灰蛇絡の顔面に叩きつけられる刹那。
灰蛇絡は劉炎嵐の瞳を見た。それはいつもの怒りに燃える爛々とした瞳ではなかった。
どこか陰鬱で、彼らしくなく沈んだ瞳だった。
灰蛇絡は、本当に救いようのない男だった。
純粋な悪であればまだマシだった。
どこまでも愚かで鈍い脳味噌であればまだ救われた。
純粋な悪であればまだマシだった。
どこまでも愚かで鈍い脳味噌であればまだ救われた。
(嗚呼!この人は!俺の嘘なんて完全に見抜いていて!俺の事情も何もかも分かっていて!!)
灰蛇絡は悟った。
自分が劉炎嵐と出会って変わったこと。変わろうとしたこと。
それでも過去から逃げきれずに周囲の人々を巻き込む形で制裁されたこと。
優しい人々は離れていき、もがいてもがいて、それでも上手くいかなかったこと。
気が付いたらまたちんけな犯罪人に戻っていたこと。
自分が劉炎嵐と出会って変わったこと。変わろうとしたこと。
それでも過去から逃げきれずに周囲の人々を巻き込む形で制裁されたこと。
優しい人々は離れていき、もがいてもがいて、それでも上手くいかなかったこと。
気が付いたらまたちんけな犯罪人に戻っていたこと。
劉炎嵐に断罪されたがっていること。
それら全てを、劉炎嵐は知っている。
知っていて、灰蛇絡の取るに足らない自己満足のような散り方に付き合ってくれているのだ。介錯をしてくれるというのだ。そうして、それしか行く先がない現状に怒り尽くしているのだ。
知っていて、灰蛇絡の取るに足らない自己満足のような散り方に付き合ってくれているのだ。介錯をしてくれるというのだ。そうして、それしか行く先がない現状に怒り尽くしているのだ。
(俺…弱くて…馬鹿で…他に思いつかなくて…)
灰蛇絡は泣きながら笑った。もしかしたら笑いながら泣いたのかもしれないが、
本人にも自分がどちらの顔をしたか分からなかった。
ぐしゃりと鈍い音がして灰蛇絡は地面に叩きつけられた。
灰蛇絡の意識は一瞬で吹き飛び、物言わぬ人形のように横たわった。
周囲の喝采を、劉炎嵐は虚しく聞いた。
本人にも自分がどちらの顔をしたか分からなかった。
ぐしゃりと鈍い音がして灰蛇絡は地面に叩きつけられた。
灰蛇絡の意識は一瞬で吹き飛び、物言わぬ人形のように横たわった。
周囲の喝采を、劉炎嵐は虚しく聞いた。
もしかしたらこの場で殺してやることが灰蛇絡のためかもしれない。
上海において魔幇の力は強大で、留置所の中だって安全ではない。
いくらやり直そうとしても、上手くいかないことなんていくらでもある。
客観的に見て、灰蛇絡の人生はほぼ詰んでおり、「頑張れ」という言葉ですら無責任で残酷な投げかけに思えた。
上海において魔幇の力は強大で、留置所の中だって安全ではない。
いくらやり直そうとしても、上手くいかないことなんていくらでもある。
客観的に見て、灰蛇絡の人生はほぼ詰んでおり、「頑張れ」という言葉ですら無責任で残酷な投げかけに思えた。
それでも、劉炎嵐は、灰蛇絡を殺すことは出来なかった。
それでも、いつかどこかでやり直せる可能性があると、そう思ってしまうのだ。
これが厳しい押し付けであると理解しながらも、そう思うことは止められなかった。
それでも、いつかどこかでやり直せる可能性があると、そう思ってしまうのだ。
これが厳しい押し付けであると理解しながらも、そう思うことは止められなかった。
「…俺が正しいなんて言わねえけどよ…ここでお前が死ぬことが正しいとは思えねぇんだよ。俺は…」
灰蛇絡:敗北・収監
劉炎嵐:勝利 ダイヤ所持続行
劉炎嵐:勝利 ダイヤ所持続行
◇ ◇ ◇
【劉炎嵐】
灰蛇絡を警察に引き渡した炎嵐は、屋台街にて諸々の後始末を済ませた。
気が付けば夜になっており、嫌になるほどに美しい月が炎嵐を照らしていた。
気が付けば夜になっており、嫌になるほどに美しい月が炎嵐を照らしていた。
炎嵐は人気のない外れの広場につくと、双葉に電話をし、事件の顛末を報告した。
双葉はドローンで状況を見ていたし、とっくに状況は把握していたが、炎嵐は自分の口で顛末を伝えたかった。
双葉はドローンで状況を見ていたし、とっくに状況は把握していたが、炎嵐は自分の口で顛末を伝えたかった。
「…なぁ、双葉。俺はどうすれば良かったんだろうな」
『ん~…正直、ホェンちゃんに出来ることはほとんどなかったと思うよん。気にするなとかは言わないけどさ、全部を救うなんて無理だよ』
「分かってる。分かってるけどよぉ…ムカついて仕方ねぇんだよ!!」
夜の静けさを怒りが切り裂く。
「やり直そうとしていた奴が、立ち直れなかったのがムカつく!」
「立ち直ろうとしていた奴の、足を引っ張るクソどもがムカつく!」
「あいつの生き方を知らず、無遠慮に『殺せ』と野次るボケどもがムカつく!」
「助けてやりてぇのに、助けきれねぇ自分の小ささがムカつく!」
「立ち直ろうとしていた奴の、足を引っ張るクソどもがムカつく!」
「あいつの生き方を知らず、無遠慮に『殺せ』と野次るボケどもがムカつく!」
「助けてやりてぇのに、助けきれねぇ自分の小ささがムカつく!」
ひとしきり吼え、肩で息をする炎嵐に、双葉はゆっくり語りかけた。
『ホェンちゃんはさ…不器用だよねぇ』
意外な返しに炎嵐は目を丸くした。
自分は直情のきらいはあるが、不器用であると思ったことはなかった。
むしろ大抵の事柄は上手くこなし、自分の思うとおりに物事を進めていると思っていた。
自分は直情のきらいはあるが、不器用であると思ったことはなかった。
むしろ大抵の事柄は上手くこなし、自分の思うとおりに物事を進めていると思っていた。
だが、双葉の言いたいことはそういう話ではなかった。
『ホェンちゃん、ホェンちゃんはね、悲しいんだよ』
双葉の言葉は皮肉なほどに美しい月夜に深々と溶け込んだ。
夜の広場は、シン、と音が聞こえそうなほどに静まり返った。
夜の広場は、シン、と音が聞こえそうなほどに静まり返った。
「…そうか。俺は悲しいのか…」
劉炎嵐の体温はどこまでも跳ね上がり、汗は蒸発してあっという間に蒸気となっていた。
だから、目元の蒸気だけは違う液体が蒸発したのだと気が付く者はいなかった。
双葉を除いては。
だから、目元の蒸気だけは違う液体が蒸発したのだと気が付く者はいなかった。
双葉を除いては。
「悪ぃ。迷惑かもしれねぇけどさ。ちょっと話し相手になってくれよ…」
『私でよければ喜んで。そこじゃ無粋な輩も来るかもだからさ、ホェンちゃん事務所に戻ってよ』
そうして事務所に戻った劉炎嵐と王双葉はたわいもない日常の話をひたすらにした。
上海蟹の美味い店があるとか
ジェット・ワンの新作映画はネタバレ厳禁らしいとか
そういうどうでもいい話を小一時間ほど続けてから、改めて双葉は炎嵐に問うた。
上海蟹の美味い店があるとか
ジェット・ワンの新作映画はネタバレ厳禁らしいとか
そういうどうでもいい話を小一時間ほど続けてから、改めて双葉は炎嵐に問うた。
『ホェンちゃん、人間って複雑だからさ。悲しいけど怒ることも、怒って悲しいことも、笑っちゃうくらい嬉しいことも、悲しいのに笑っちゃうことも、いろいろあると思う。でもさ、やっぱりホェンちゃんの軸は“怒り”なわけじゃん?』
何も言わずに炎嵐は頷いた。
『今から言うことをどう思うか、それだけを考えてみてよ…』
スッと息を吸い、モニタ越しに双葉は言葉を紡いだ。
『一生懸命頑張る人がさ、報われない世界ってどう思う?』
ムカつく。心底ムカつく。
夢想と分かっていても、誰かの切なる努力は報われる世界であってほしい。
夢想と分かっていても、誰かの切なる努力は報われる世界であってほしい。
『報われないことが当たり前でさ、色んな組織が跋扈して蝕んでる上海をどう思う?』
ムカつく。腸が煮えくり返る。
何故に悪を為す人間が我が物顔で道を歩むのか。
人を殴るその手で誰かを抱きしめるだけで世の中は随分綺麗になるのではないか。
何故に悪を為す人間が我が物顔で道を歩むのか。
人を殴るその手で誰かを抱きしめるだけで世の中は随分綺麗になるのではないか。
『魔幇のせいで、立ち直ろうとしたけど結局立ち直れない人がいる上海をどう思う?』
蛇野郎の泣き笑いを思い出した。
目の前が真っ赤になるほどの灼熱の怒りが全身を襲った。
目の前が真っ赤になるほどの灼熱の怒りが全身を襲った。
ズン ズン ズン
身体の芯に響くような重低音が事務所を揺らす。
それは、大型の肉食獣の足音を思わせた。
それは、大型の肉食獣の足音を思わせた。
ギリ ギリ ギリ
硬い物同士を強く潰し合わせるような、摩擦音が耳を震わせる。
それは、強靭な顎をもって鋭い牙を噛み締めている音に聞こえた。
それは、強靭な顎をもって鋭い牙を噛み締めている音に聞こえた。
ミチ ミチ ミチ
肉体が強く軋む音が空気ごと締め上げる。
それは、しなやかな四肢を持つ密林の王者が襲い掛かる直前の気配を想起させた。
それは、しなやかな四肢を持つ密林の王者が襲い掛かる直前の気配を想起させた。
红虎は、この上もなく怒っていた。
『ホェンちゃんのやりたいことは分かるからさ。やっちまおうぜ 』
劉炎嵐にはダイヤを用いてやりたいことがあった。
だがそれはあまりにも危険な一手であり、双葉を巻き込むと思うとなかなか決断できない一手だった。だが双葉はそんな自分の心境を見越していた。
だがそれはあまりにも危険な一手であり、双葉を巻き込むと思うとなかなか決断できない一手だった。だが双葉はそんな自分の心境を見越していた。
他人には夢想と笑われる怒りに寄り添い、共に歩むと言ってくれた。
────もう何も怖くなかった。
◇ ◇ ◇
【?????】
「うぉ~忙しい!戦いが!戦いを呼んでいる!最高~!今回の上海大賽は最高の祭りになるよ!!」
ハイテンションに叫びながら様々な機材を操る可愛い系のギャル。
その名は講知泉 。
魔幇の一員であり、上海大賽においてはネット中継での解説、関連情報番組のMCなどを務めている。
その名は
魔幇の一員であり、上海大賽においてはネット中継での解説、関連情報番組のMCなどを務めている。
現在彼女は上海大賽のPV作成を行っていた。
上海は混沌とした場所であってほしいと心底願っている彼女は、何か盛り上げるのにいいものはないかと考えながら常に手を動かしていた。
上海は混沌とした場所であってほしいと心底願っている彼女は、何か盛り上げるのにいいものはないかと考えながら常に手を動かしていた。
「よう、邪魔するぜ」
そんな彼女の作業室に現れたのは上海大賽優勝候補筆頭の劉炎嵐であった。
「りりり劉炎嵐!さん!?どどうしてここに??」
彼女は参加者全員のファンガール。勿論劉炎嵐のことは知っているし、超大好きだ。
「いやね、上海大賽、俺も盛り上げようと思ってよぉ…どうだい?ダイヤ持ちによる参加者への宣戦布告生放送とか!」
「!!!いいんですか!!それ、絶対盛り上がりますよ!!!すぐに準備します!生放送の予告に、撮影場所手配に…うはぁー!忙しい!!」
こうして、劉炎嵐は講知泉の協力を得て上海全体に放送をすることになった。
小奇麗なスタジオに灼熱の大男が収まる姿はいささか窮屈に見えたが、講知泉はそんなこと気にせず早速放送を始め、炎嵐にマイクを向けた。
小奇麗なスタジオに灼熱の大男が収まる姿はいささか窮屈に見えたが、講知泉はそんなこと気にせず早速放送を始め、炎嵐にマイクを向けた。
「ではで!優勝候補の炎嵐さんから!上海大賽の意気込みを!最強への想いを!聞かせてもらいましょう!!」
上海中で話題になっている清王朝のダイヤと上海大賽。
その二つの中心にいる劉炎嵐の言葉を、上海の人々は集中して聞いた。
どんな熱い言葉を発するのかと皆楽しみにしていた。
その二つの中心にいる劉炎嵐の言葉を、上海の人々は集中して聞いた。
どんな熱い言葉を発するのかと皆楽しみにしていた。
だが、炎嵐の紡いだ言葉は誰もが予想しないものであった。
炎嵐は拳から清王朝のダイヤを取り出し、カメラに見せつけた。
そうして、芝居がかったような大声で朗々と告げた。
炎嵐は拳から清王朝のダイヤを取り出し、カメラに見せつけた。
そうして、芝居がかったような大声で朗々と告げた。
「よう…知っての通り俺は清王朝のダイヤ持ちだ!清王朝のダイヤ…上海の主が持つものだとか、いろいろ噂されているいわくつきだけどよぉ…」
劉炎嵐は珍しく少し緊張していた。
次の言葉を言えば、もうすべては変わる。
これからするのは全面戦争の合図、宣戦布告だ。
次の言葉を言えば、もうすべては変わる。
これからするのは全面戦争の合図、宣戦布告だ。
「すぐ奪われるかと思ったけど、誰も俺からこれを奪えない!ならよぉ…これを持ってる俺が!上海を統べるに相応しいんじゃねえか!?」
講知泉は凍り付いた。
劉炎嵐は、超えてはならぬ一線を超えようとしている。
止めようとしたがもう遅かった。炎嵐が生放送を所望した意味を今更ながらに理解した。
劉炎嵐は、超えてはならぬ一線を超えようとしている。
止めようとしたがもう遅かった。炎嵐が生放送を所望した意味を今更ながらに理解した。
「違うっていうならよぉ…穴倉から出てこい!魔幇の大鼠!」
上海が、揺れた。
老いも若きも、喜びと悲嘆と怒りと嘲りとあらゆる感情を各地で爆発させた。
老いも若きも、喜びと悲嘆と怒りと嘲りとあらゆる感情を各地で爆発させた。
上海随一の解決屋が、清王朝のダイヤを持つ大男が、公然と魔幇のボスに喧嘩を売った!!!魔都上海を牛耳るボスに!真正面から喧嘩を売ってしまったのだ!!
心せよ 心せよ
これより、【魔都全域】が戦場となるだろう!!
これより、【魔都全域】が戦場となるだろう!!
◇ ◇ ◇
【?????】
上海某所。
歴史の重みを感じさせる重厚な中国伝統技法により作られた広大な部屋。
歴史の重みを感じさせる重厚な中国伝統技法により作られた広大な部屋。
その部屋には異様な光景が広がっていた。
部屋全体を埋め尽くすように集まった者たちは、無秩序としか言いようのない様相を示していた。
部屋全体を埋め尽くすように集まった者たちは、無秩序としか言いようのない様相を示していた。
全身をボディペイントした全裸の男がいた。
戦国大名を思わせる傾奇者がいた。
尻から鷹を生やした男がいた。
ハロウィンの乱痴気騒ぎのほうがまだマシと思えるほどの無秩序な者たち。
戦国大名を思わせる傾奇者がいた。
尻から鷹を生やした男がいた。
ハロウィンの乱痴気騒ぎのほうがまだマシと思えるほどの無秩序な者たち。
だが、その無秩序な者たちが。
秩序だって床に跪いて身じろぎもせずに控えていた。
まともな話など通じそうもない狂人たちが、一言も無駄口を叩かず静かに控えていた。
その光景は、まともな一団が一糸乱れぬ整列を見せるのとは別種の威圧感があった。
秩序だって床に跪いて身じろぎもせずに控えていた。
まともな話など通じそうもない狂人たちが、一言も無駄口を叩かず静かに控えていた。
その光景は、まともな一団が一糸乱れぬ整列を見せるのとは別種の威圧感があった。
そんな異様な者たちが控える部屋の、重苦しい扉が開いた。
そうして、一人の老人が部屋に入ってきた。
そうして、一人の老人が部屋に入ってきた。
瞬間、胸が重苦しくなるような、妙にかび臭い、ズンとした淀んだ空気が部屋を支配した。
たった一人の老人が、狂人ひしめく大部屋の空気感を変えてしまった。
たった一人の老人が、狂人ひしめく大部屋の空気感を変えてしまった。
「黑老大 !」
「黑老大 !」
「
部屋に集まった者たちが老人を黑老大 と呼び歓待する。
老人は部屋に集まった者たちを一眺めしたあと、豪奢な椅子にドカリと座った。
老人がスッと指を構えると、側近が即座に煙管を差し出し火をつけた。
老人は上手そうに煙管を吸い、白煙をたなびかせた。
老人がスッと指を構えると、側近が即座に煙管を差し出し火をつけた。
老人は上手そうに煙管を吸い、白煙をたなびかせた。
老人が何かを言い出す前に、周囲の者たちはてきぱきと準備を始め、スクリーンに映像が映し出された。側近が流した映像は、先日の劉炎嵐の大見得。
『これを持ってる俺が、上海を統べるに相応しいんじゃねえか!?違うっていうならよぉ…穴倉から出てこい!魔幇の大鼠!』
老人は目を細め、灼熱の大男の語りを聞く。
周囲の者たちは老人…魔幇のトップとして長年君臨している【五爪の翁】の反応を、固唾を飲んで見守った。
周囲の者たちは老人…魔幇のトップとして長年君臨している【五爪の翁】の反応を、固唾を飲んで見守った。
「…ククク…面白い…まだこんな奴がいたとはなぁ…」
酷く低い声音で翁は笑った。
だが、細い眼の奥には漆黒が広がり、まったく笑っていなかった。
だが、細い眼の奥には漆黒が広がり、まったく笑っていなかった。
大きく深く煙管を吸った翁は、煙とともにゆるりと言葉を紡いだ。
「儂は、戯れは許す」
煙管から一つ灰が落ちた。
「儂は、浅慮も許す」
側近の汗が一つ床に落ちた。
「儂は、愚昧も許す」
部屋にひしめく狂人たちは床を見つめ何も言えない。
部屋の空気が黒く冷たく重たい怒りに満ち溢れる。
部屋の空気が黒く冷たく重たい怒りに満ち溢れる。
「だが儂は、侮りは許さん。上海の主たる儂に敬意を、畏れを示さぬ者は許さん。家族郎党まとめて豚の餌にしてくれよう」
そう言い捨てた後、翁は今度は本当に楽しそうにクククと笑って言った。
「許さんが‥ここまで真っ直ぐに喧嘩を売られるのも久方ぶりよ。喜べ、小童。貴様は儂の敵になったぞ」
魔都上海の黒社会を牛耳る魔幇。
その頂に君臨し続ける大首魁────【五爪の翁】が穴倉から身を乗り出した。
その頂に君臨し続ける大首魁────【五爪の翁】が穴倉から身を乗り出した。
◇ ◇ ◇
【劉炎嵐】
人が何かを動かすとき、何かを思うとき、そこにはいくばくかの火が生まれる。
その火は、その場限りの一瞬の火かもしれない。
はたまた、火から火へと移っていき、何か大きな炎になるかもしれない。
その火は、その場限りの一瞬の火かもしれない。
はたまた、火から火へと移っていき、何か大きな炎になるかもしれない。
良き火が良き炎を生むかもしれない。
良き火が悪しき炎を生むかもしれない。
悪しき火が悪しき炎を生むかもしれない。
悪しき火が良い炎を生むかもしれない。
良き火が悪しき炎を生むかもしれない。
悪しき火が悪しき炎を生むかもしれない。
悪しき火が良い炎を生むかもしれない。
人の火がどのように移っていくか、それは神のみぞ知るところであろう。
ただ、何かが燃えたということ。そこに火があったということには、必ず意味がある。
ただ、何かが燃えたということ。そこに火があったということには、必ず意味がある。
────劉炎嵐が五爪の翁に喧嘩を売った直後のこと。
「うわわわわ…これマジ???」
上海を統べる魔幇のボスに劉炎嵐は喧嘩を売った。
講知泉は、自身が魔幇の一員だからこそ劉炎嵐のしたことの意味は痛いほど理解していた。
講知泉は、自身が魔幇の一員だからこそ劉炎嵐のしたことの意味は痛いほど理解していた。
その無謀さに背骨が凍る思いがした。
だが、それ以上に、「もしかしたら」という思いが胸を燃やす。
混沌の上海を更に熱くしてくれるかもしれない男に、講知泉は興奮してインタビューを続けていた。
だが、それ以上に、「もしかしたら」という思いが胸を燃やす。
混沌の上海を更に熱くしてくれるかもしれない男に、講知泉は興奮してインタビューを続けていた。
「うぉぉおお!!?劉炎嵐さん!!正気ですか!!?正気なんですね!!?何故??何故?何故今、このタイミングで??何が、貴方を動かしたのでしょうか???」
────燃え滓が何も生まないとは限らない。
────そこに火があった、という事実が何かを動かすこともある。
────そこに火があった、という事実が何かを動かすこともある。
劉炎嵐は、講知泉の問いに、何でもないことのように答えた。
「別に。…蛇野郎にムカついた。それだけさ」
────だからこれは、燃え滓の物語
終