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3-1 竜信仰・巨神信仰
■ 背景:
崩れゆく岩盤をものともせず、百年以上に渡る長き眠りから目覚めた‘竜’は、深遠な満月が見おろす静寂の夜の森に、銀光に包まれたその巨体を晒した。
「・・・傷一つ、ついていないとは」
半身を埋める崩れた岩盤を、雑草をなぎ払うかの如く掻き分る‘竜’を見上げ、異端審問官は手にした銃を握りなおしながら呟いた。
奪われた文書には、法王庁主催で開催される10日後に迫った聖誕祭の内容並びに、出席予定の各教区の要人が記されていた。
真相解明まで祭典の中止案が、審議会に掛けられたが、一部の強行派の押し切りにより、予定通りの開催が決定した。
異端審議会より、奪われた文書の追跡と真相解明の‘聖務’が自分に託されたのが、7日前。
襲撃現場に残された手がかりから、その足跡を辿り、第八教区のゼモス山脈を目指したのが5日前。
聞き込みと資料検索から、ゼモス山脈には百年前の‘統一戦争’時に法王庁派遣の‘聖騎士団’と激戦を繰り広げ、滅ぼされた‘黄昏の時代’の小国が存在していた事を認識したのが、3日前。
ゼモス山脈を移動中、黒装束の一団に襲撃され不覚を取り、渓谷の急流に落ちたのが2日前。
ゼモス中腹の羊飼いの娘に発見され、傷の手当を受けたのが、1日前。
彼女の小屋の近くの洞窟の奥底に、眠れる‘竜’を発見し、爆薬を仕掛けたのが十数分前。
そして、毛ほどの傷もつけずに、崩れ落ちた洞窟から悠然と姿を現した‘竜’の胸の装甲に、昨夜、包帯を巻いてくれた少女が身に着けていた指輪と同じ紋章を確認したのが、たった今。
『‘竜’の装甲に使用されている‘竜鱗(ドラゴン・スケイル)は、刀剣、火薬は言うに及ばず、A級アーティファクトの攻撃すら跳ね返す、という話はご存じなくて、神父様?』
完全にその巨体を現した‘竜’から声が響いた。
間違いない。朝食をつくりながら、第一教区の‘聖都’の話を聞きたがった彼女のものだ。
「知っているさ。旧時代のミッドガルド王国が作り上げた‘竜’は、‘統一戦争’時、聖騎士団を最も苦しめた異分子の一つだ。自分如きの歯が立つ存在ではないことも、よく知っている」
『・・・あなたには、早くここから出て行って欲しかった。計画実行前に、曽祖父の代からの私たち一族の悲願は、悟られたくなかった』
静かに首を振りながら審問官は答える。
「そうする事が、賢明だったのかもしれないが・・・無理な話だ」
『なぜ?』
応える審問官の胸で光る‘異端審問印’を、‘竜玉(ドラゴン・オーブ)’を通して、‘竜’と意識接続中の少女は、澄んだ瞳で見つめた。
「‘竜’の力をもって、祭典に襲撃をかければ、法王庁の基幹に傷を着けられるかもしれない。だが、そこまでだ。法王庁の存在は例え‘竜’を持ってしても揺るぎはしない」
『十分よ。私たちが倒れても傷さえつければ、次に立つものがその傷をさらに広げる。傷の直りが遅ければ、傷は腐り、全身を蝕む。その時法王庁は、あなた達が言う‘神の御加護’を見せてくれるのかしら?』
「そうなれば、このアスガルド半島に大きな戦が起る。関係のない、多くの人が戦火に巻き込まれ、血と涙と嗚咽の声を流す。・・・だから私は、」
そこまでしゃべると、黒衣の審問官は、手にした銃をゆっくりと‘竜’の頭に向ける。
「退くわけにはいかない!」
『どきなさい!あなたがどけば、私は血族の呪縛から、解き放たれるの!』
少女は悲鳴にも似た叫びと供に、同調した‘竜’の口から灼熱のブレスを放つ。
しかし、それよりも早く、審問官がその口を目掛けて構えた銃の引き金を引く。
百年に渡り、人の身に受け継がれてきた‘黄昏の時代の悲願’を託された少女と、平穏と正義のため、‘聖典’ではなく‘銃’を選んだ青年が、互いの使命と迷いを乗せた一撃が、静寂が支配する闇に交差した。
■ 解説:
竜信仰・巨神信仰とは、本来「黄昏の時代」の二大王家の残党を指す。「黄昏の時代」の戦略兵器を用い、王家復興のため法王庁に対し様々なテロ活動を行っていた。
法王庁設立当時こそ大規模な抵抗があったものの、「統一戦争」終結より百年が経過した現在では、純粋に「旧王家復興」を目的とした竜信仰・巨神信仰は減少した。
ただし、法王庁進出以前のアスガルド半島を九百年に渡り支配した両王家の遺物は、遺跡という形で半島各地に眠っており、その力を手に入れ、自己の野望を果たそうとする者は多い。
現在では、主義・主張に関わらず「黄昏の時代の技術・兵器を用い、法を逸脱する者」を総称し、「竜信仰」「巨神信仰」と呼んでいる。
「黄昏の時代」の兵器は、法王庁でも完全に原理が解明されていないため、有効な対抗手段が打てず対処が後手に回る事が多い。
竜信仰・巨神信仰が用いる「黄昏の時代」の技術・兵器は以下のものが代表的である。
1.竜
「黄昏の時代」に900年に渡り繁栄を築いた「ミッドガルド王国」が所有していた大型機動兵器で、『ミッドガルド伝承の創世神話に登場する‘竜’を模して作られた』とされている(‘竜’は、法王庁教典には、‘神に仇なすもの’として登場する)。
「黄昏の時代」には、ミッドガルド王家のみがその製造方法を所有しており、名門貴族や忠誠を誓った属国に少数の「竜」がミッドガルド王家より送られ、「竜騎士」と呼ばれる特殊な訓練を受けた乗り手たちが、戦場で華々しい活躍を遂げていた。
技術的には法王庁とは全く別系統のものが使用され、「統一戦争」終結から100年たった現在でも、完全なブラックボックスである‘竜の心臓’をはじめとしたその構造並びに製造方法を、完全には解明できていない。
平均体長5~6mの巨体が誇る戦闘力は極めて高く、以下の兵装を所有している。
・竜鱗(ドラゴンスケイル):特殊精錬された超硬度外装
・牙、爪:砦の外壁も崩す。
・ブレス:広範囲射程の放射武器
・竜玉(ドラゴンオーブ):搭乗者の精神と同調する事で、操作をスムーズにする補助装置。
・竜の心臓:現在の法王庁の技術をもってしても作成不可能な、圧倒的な出力を誇る動力炉。
また、ミッドガルド王家は「神竜(エンシェントドラゴン)」と呼ばれる従来型の竜の数十倍にも及ぶ能力を持つ「竜」を所有していた、とされている(数は不明)。「神竜」を乗りこなせる「竜騎士」が「統一戦争」時には存在しなかったため、王国滅亡後も、半島のどこかで己を目覚めさせる「竜騎士」と出会う日まで眠り続けているという。
危険度:大
出現頻度:稀
◇ 参考:雲竜ジキスムント
中期ミッドガルドの主力であった竜の一体。
伝承文献によると、ヨルツヘルムとのハイランドの戦いにおいて、巨神二体を含む一個大隊を殲滅させている。
圧倒的な戦闘能力を誇る反面、扱いが極めて難しく、竜騎士の中でも特に優秀な者でしか扱えなかったとされている。
竜翼を用いて前線からの帰還中に、ビスト山脈に原因不明の落下。その後、発見はされておらず、現在もビスト山脈の大氷河の下で眠り続けている。
2.巨神
ミッドガルドと900年に渡り、アスガルド半島の覇権を争い続けていた「ヨルツヘルム王国」が所有していた大型機動兵器で、創生神話に登場する‘巨神’を模して創られた、とされている(巨神は、法王庁聖典には、`神の地を追われた者’として記されている)。
その形状を一言で形容するならば、「巨大な鋼鉄の騎士」であるため、人型であるため、多様の巨神用の武器を使用することが可能である。
ミッドガルドの竜が、「局地戦」的な戦闘で性能を発揮したのに対し、ヨルツヘルムの巨神は、人型であるため「汎用性」が高い運用がされていたようだ。
また、操作性において
◇ 参考:上位巨神ヘルモーズ
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3.狂戦士・戦乙女
「黄昏の時代」は、戦場では数多くの狂戦士が溢れていた。
体内に無数のクリスタルを埋め込むことで、人間の限界を超えた身体能力を獲得した者達は、狂戦士と呼ばれている。
強化された肉体に、個人の経験と武術の腕が複合されれば、正規軍一個中隊に匹敵する、と言われている。
◇参考:狂戦士デモス
第九教区モーセン鉄橋において、貨物運搬中のアスガルド鉄道襲撃に関与したとされる狂戦士。
四十人程度の盗賊団に襲撃された鉄道員の複数が、「デモスと呼ばれている狂戦士が中心的役割だった」と証言していた。
強固な外装を誇る貨物車両が、紙のように引き裂かれた後があり、モスが狂戦士である可能性は極めて高い。
背後には、狂戦士化の技術を持つ組織が関与している可能性があるとして、法王庁は捜査のため異端審問官派遣を決定した。
4.下位竜・巨人
「黄昏の時代」中~後期に生産された竜・巨神のスペック・生産コストを大幅に引き下げる事により、大量生産が可能になった量産機。
それぞれ、「下位竜(レッサードラゴン)」「巨人(ギガース)」と呼ばれ、性能と同時に操作性も簡易となったため、訓練の浅い竜騎士・巨神の使徒でも操作が可能となった。
「統一戦争」でも多数の下位竜・巨人が聖騎士団と激戦を繰り広げ、現在でも古戦場では野晒しとなった残骸が放置されている。
一般に竜・巨神と比較すると「生産性は1/10、性能は1/20」と言われているが、下位竜でさえも一対一の戦いであれば、AFを所有する異端審問官を圧倒する事がある。
現在でも、下位竜・巨人は「黄昏の時代」の遺跡・洞窟・砦跡から頻繁に発掘される。
操作性が比較的簡易である事から、圧政に対する不満の鎮圧を試みる辺境領主から、偶然発見した山賊団まで、使用するものは多い。
◇ 参考:ワイバーン
飛行能力に特化した下位竜。
上空からの竜の吐息(ドラゴン・ブレス)の掃射を得意とし、有効な対空兵器がなければ、苦戦は必死。
その反面、竜としては接近戦能力は低く、「落としてしまえば、どうとでもなる」と言える。
参考:サイクロプス:
巨人の中でも、最も大量生産されたとされる機種。
全高は、成人男子の2.5倍程で、機動力に劣る反面、高い防御力と出力を誇る。
寒冷地や山岳地、低湿地帯での運用も可能な汎用性の高さで、現在でも高い出現率となっている。