1-4 小話「異端研究室」
例示:
アーキタイプ:異端審問官
異端 :異端錬金術師
「なぜだって?簡単なことだ」
ある貴族別宅の地下に作られた研究室。
壁一面の陳列棚には、無数の薬品、鉱物、実験機材。
錬金術協会顔負けの品揃えだ。
「一級品に手が届く状況の中、二級品で満足する人間はいない。それだけのことだ」
異端審問官オベリスクが構えた銃口を前にして、地下研究室の主は平然と答えた。
「それでも最低限のルールはある。我々が異端を狩るのは、罪の無い人々を守る為だ。その為に使われるアーティファクトが、誰かを犠牲にして作られてはならない」
オベリクスは、銃口の先に立つ‘元’国家第三位錬金術師ベルファウストを睨み付ける。
「だとしたら、尚のこと私の研究は進められるべきだ。強力なアーティファクトが量産出来るようになれば、法王庁は組織の末端までアーティファクトを供給できる。
そのほうが君たちにも都合がいいのだろう?」
「強力なアーティファクトだと?それが貴様の人体実験と関係があるとでも言うつもりか!?」
地下研究室に整然と並べられた無数の‘実験素材’に僅かに眼を移し、オベリスクは叫んだ。
首から提げた‘異端審問印’が僅かに揺れる。
「異端審問官殿ならば聞いているだろう?アーティファクトの中のSSカテゴリーに分類されるロストアーティファクトの事を。
その自我プログラムの解明が進めば、ロストアーティファクトはおろか、失われた自動人形(マリオネット)さえも作る事が出来るだろう。・・・技術が進めば、君の言う‘人体実験’さえ、広義のものとなる」
「正気か!?貴様!」
照準を合わせたまま、オベリクスはさらに距離を詰める。
「私に言わせれば、君たちこそ正気なのか? 過去の遺失技術の復活。人間の英知の極みとも言える技術の追求に、なぜ理解をしめさない?」
ベルファウストは、芝居がかった仕草で首を振る。
「技術の追求だと?自分の好奇心を満たす為の行為を、都合良く言い換えているに過ぎん。
ベルファウスト、貴様を‘異端錬金術師’として拘束する。これより先の抵抗は、‘異端審問’とみなし、異端審問官の権限において対処する」
審問官の言葉に、錬金術師の目が僅かに細くなる。
「無知がここまで罪だとは・・・。私の研究の邪魔をするな!若造風情が!」
「!?」
ベルファウストの声と同時に、並べられた遺体が起きあがる。
生々しい切り口を見せる体には、無数の銃口が覗いている。
「完全な自動人形(マリオネット)とまでは行かんが、‘動く死体’程度なら、ご覧の通りだ」
「人間の尊厳を冒涜する悪魔め!」
怒りの言葉と供に、オベリスクは躊躇わず引き金を引いた。
銃口から吐き出された弾丸は、ベルファウストの前に飛び出した遺体の体で止められる。
同時に残りの‘動く遺体’に埋め込まれた無数の銃口が、オベリスクを捉える。
吐き出された大量の弾丸が、研究室の資料や机が天井まで舞い上がる中、オベリクスは部屋の入り口へと飛び込んだ。。
銃撃は続き、部屋のあちこちで跳弾が爆ぜる。
だが、‘動く死体’達が、オベリスクを追いかけ、研究室の外に出てくることはなかった。
(‘動く死体’は、時間稼ぎか!?)
あの危険な思想を持つ錬金術師を逃がすわけにはいかない。
オベリクスはポケットから一発の弾丸を取り出す。
「・・・あまり使いたくはないのだが、止むを得まい」
手にした銃の弾層を開き、装填されていた通常弾を排除し、特殊な封印の施された弾丸をセットする。
僅かに身を乗り出すと、銃口だけを射撃の続く研究室へと向ける。
「生まれ変わったら、人を救う医者にでもなるんだな。」
引き金を引く。
一瞬の沈黙。
そして轟音と閃光が辺りを包む。
粉塵立ち込める研究室に飛び込むが、。辺りは瓦礫の山があるのみだった。
ベルファウストの姿は見当たらない。
「・・・非常通路か」
研究室の奥に開いた回転扉を確認し、追撃に入ろうとしたオベリスクだが、数歩移動しただけで膝をつく。
「くっ!」
‘封印攻撃’を使用した反動が、使用者の体を襲ってきた。
体中を炎が駆けめぐるような激痛に耐えながら、オベリクスは叫んだ。
「必ず止めてやる・・・必ずだ!」
叫びながら、オベリクスの体が前へと倒れる。
そこで彼は気を失った。