2-2 小話「少年 ラシル」
第3教区の闘技大会。
だが、実際そこで行われているのは、公然の秘密となっている『殺し合い』だった。
法王庁の監視の目が届かない、あるいは黙認されているその地下で、非合法な娯楽は今も続いている。
「ふぅ・・・。」
一人の少年がため息を吐く。
まだ完全に成長を終えていないその細い体は、闘技場の男たちの中にあっては一際小さく見える。
少年は自らの手の刺青を見つめる。
そしてその中にある一対の武器を見つめる。
それはボロボロの鉄屑を無理矢理に組み合わせた武器、トンファーだった。
アスガルド半島。
厳しい気候と貧富の差が激しいこの半島は、人が生きていくには厳しい環境だった。
また気候以外にも、“魔獣”や“異端”など死は間近に存在している。
そんな中、親に残された、あるいは捨てられた子供が生き残る為には選択肢は少ない。
自力で生きるか、教会に育てられるか、暗殺者として鍛えられるか、権力者に拾われるか。
少年、ラシルはある貴族に買われた。
早い話が“奴隷”である。
知恵、知識に秀でている子供の中には養子として育てられる者もいるが、大部分は単純な労働力である。
ラシルもその労働力として使われていた。
だが、そんな彼に転機が訪れた。
ある日、野犬に襲われた“主人”を少年は助けた。
少年には天賦の才があった。
野犬を追い払い、少年は自分の能力を見出した。
そんな彼に“主人”である貴族は言った。
「‘闘技’に出場してみるか?」
貴族の権力争いの場である闘技大会に、貴族は“闘士”を必要としていた。
そして少年は自由を求めた。
手に刻印された刺青・・・その“奴隷である証”に抗うため。
ラシルは鉄屑を拾い集め、それらを組み合わせた。
少年は体躯においてだけでなく、その武器においても大きなハンデを背負っている。
戦いは、死すら有り得る。
それでも少年は求めた。
協力してくれ、期待してくれている“仲間”の為にも、彼は這い上がらなければならないのだ。
「次、ラシル!・・・居ないのか!?ラシル!」
高圧的な係員の声で、少年は我に返った。
「居ます!今、行きます!」
腕の中の武器を握り締める。
(さあ、戦いだ!)
少年は闘技場の入口へ歩き始めた。