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3-2 「後日談」

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匿名ユーザー

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3-2 小話「法王庁襲撃編 後日談1」


「俺の質問は、二つだ」

低い声と供に、ジャラリと重い金属音が石壁に反響する。

「なんでしょうか?アムンゼンさん」

薄暗い地下牢の中、キルシェはいつも通りの応答をした。

「一つは、今回の任務でなぜ俺の刑期は一日も減っていないのか、だ」

分厚い格子に遮られた牢の中で、アムンゼンは片腕で倒立したまま言葉を発した。

両腕の『聖バロスの鎖』だけではなく、足には足枷で拘束されたまま、呼吸も乱さず片腕立てを続けている。

鋼の肉体が、振り子を思わせる規則正しさで上下に動く。

「‘聖務を果たせなかったから’です。聖都に侵入した‘逆十字団使徒’の撃破が任務でしたからでね。僕たちが地下水路で対峙した‘No5 鋼翼の執行人’は、あの直後から第一教区の騎士団、衛兵隊が三日間に渡りウルベ川流域を捜索したにも関わらず、その生死の確認は出来ていません」

「生き延びたんだろう。間違いなくな。・・・見つからなくて正解だ。せっかく被害が最小限に収まったんだからな。新しい犠牲者を増やす事もないだろう」

ジャラリ、と再び聖バロスの鎖がこすれる音が響いた。

右腕から左腕へ、その全身を支える腕が変わっている。

「二つ目の質問だ。どうしてお前がここにいる?」

アムンゼンは片腕立てを続けながらも顎を上げ、細い通路を挟んだ対面の牢の中で、本を広げているキルシェを見上げた。

「聖都の第二水路の水門を、責任者の許可無く開放した罪による刑執行です。十日間の禁固刑だそうですよ。・・・本来ならば、‘都市管理法違反’で一般の監獄行きなんですが、法王庁のどなたかが気を回して‘聖務規定違反’を適用して、この特別監獄に回していただいたようですね。・・・おかげで読書が捗ります」

監獄を照らす光量の絞られたランタンの下で、キルシェは先程から持参した本を広げていた。

「そいつは・・・」

アムンゼンの無精髭の浮いた頬に、意地の悪い笑みが浮かぶ。

「気の毒にな。未来ある神跡記録官殿の輝かしい経歴に傷がついたって訳だ」

「構いませんよ、経歴なんて」

キルシェの間髪を置かず答えた。

「‘その時に出来る事を、そのとき最大に考え、その時に最速に実行する事だ’。かつてのバハルデの名執行官ヘンドリーが、その著書『神智概論』の中に残した言葉です。・・・それに、第二水路は元々‘非常時’のための水路なんです。あのときは立派な‘非常時’でしたよ」

キルシェの視線は、本の上に落とされたままだ。

だが、発せられた言葉には確固たる自信があった。

アムンゼンは再度笑う。

今度は先程とは違う種類の笑みだ。

「違いない。間接的とは言え、このロンバルディアに住む人間の命が、かかっていた」

片腕倒立の姿勢から、前転の要領で立ち上がった。

今度は、両手両足の鎖は音を立てなかった。

「もちろん、それが第一なんですが・・・」

「何だ?」

キルシェの声が僅かに篭った。

アムンゼンの経験上、こういう時はろくな事を言わない。

「あの日、オルティアさんが‘鋼翼の執行人’と一緒に、‘下層域に落下したとき、初めて見ました」

「何を?」

「あんなに焦っているアムンゼンさんを、です。敵対する相手が‘混濁の魔獣’でも、‘堕天使’でも、楽しんでいたアムンゼンさんがですよ」

ここでキルシェは、初めて本から顔を上げ、ひどく真面目な顔で言った。

「大変な‘非常事態’です」

「おい!どう言う意味だ!俺は、断じて焦ってなんかいなかったぞ!オルティアの奴が、人質なんぞになって、事態が膠着化するのが嫌だっただけだ!」

大音響が、石壁に響く。

「なるほど。・・・もっともらしいですね」

「‘らしい’とはなんだ!‘らしい’とは!」


「そのオルティアさんなんですが・・・」

「何だ!?」

囚人用の上着に袖を通しながら、アムンゼンは乱暴に聞き返した。

「あれ以来、元気が無いんですよ。・・・本人の‘魔獣化’の症状も進行したとの報告が上がったようですし、お姉さんの治療も例によって進展がないようですし。アルティアさん、何か考え込むことが増えたようです」

「ちょうどいい。元々口やかましい奴だからな。キルシェがここからでたら、あいつに‘当分の間黙っていろ’と伝えておいてくれ」

「分りました」

今度はキルシェの声は篭っていなかった。

「‘休めるときに休んでおけ’と伝えておきます」

「・・・ちょっと待て」

再び本の上に視線を移したキルシェに、アムンゼンが抗議する。

「・・・せめて‘借りを返すまで、勝手に死ぬな’にしろ」

「それは、‘次’の時に直接伝えて下さい」

「分ったよ。これ以上、お前には頼まん。そうするさ」

アムンゼンは、その巨体を薄い布が敷かれた丈夫なだけがとりえのベットに投げ出す。

「‘次’があればな」

天井の通気口から微かに入り込む、冷たい外気を顔に感じながら低い声で呟き、目を閉じた。

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