『本日付けにて、クェイル・バーネットを異端審問局十一課へ転属を命じる』
クェイルにとって、その辞令は突然だった。
異端審問官となり、五年。
十三課の中でも、最も知識と理性を重んじる第五課は、自分に適していると思っている。
膨大な量の聖書物・祝福物と、過去の異端審問の裁判録。
そこから得られる知識・情報を元に、異端を公正に裁く。
時には、最前線に赴くこともあるが、そこに必要な情報があると判断したからだ。
また、課長であるケステ・ジャイムも、異端審問官を経験せず、学術都市ノーウィッチの神学者から審問局課長となった異色の経歴を持つ。
戦闘が決して得意ではないクェイルにとって、最も適している課だと自覚している。
同時に、五課以外では審問官として通用しないことも自覚している。
それが・・・。
異端審問官となり、五年。
十三課の中でも、最も知識と理性を重んじる第五課は、自分に適していると思っている。
膨大な量の聖書物・祝福物と、過去の異端審問の裁判録。
そこから得られる知識・情報を元に、異端を公正に裁く。
時には、最前線に赴くこともあるが、そこに必要な情報があると判断したからだ。
また、課長であるケステ・ジャイムも、異端審問官を経験せず、学術都市ノーウィッチの神学者から審問局課長となった異色の経歴を持つ。
戦闘が決して得意ではないクェイルにとって、最も適している課だと自覚している。
同時に、五課以外では審問官として通用しないことも自覚している。
それが・・・。
「十一課、ですか?」
「そう十一課じゃ」
クェイルの問いかけに、本棚で囲まれた執務机に座るケステは、その白髭を振るわせた。
「不服かの?」
ケステの部屋は、書物を傷めないように、採光は出来るだけ抑えられている。
無煙製のランプが照らす中、ケステはクェイルに問いかける。
「そう十一課じゃ」
クェイルの問いかけに、本棚で囲まれた執務机に座るケステは、その白髭を振るわせた。
「不服かの?」
ケステの部屋は、書物を傷めないように、採光は出来るだけ抑えられている。
無煙製のランプが照らす中、ケステはクェイルに問いかける。
「不服ではありません。ただ・・・」
異端審問官の転属自体は珍しい事ではあるが、ありえない事ではない。
聖務法令でも、しっかりと条項が割かれている。
転属の理由は主に二つ。
一つは、優秀な審問官を別の課が引き抜くケース。
もう一つは、能力的・あるいは性格的に問題のある審問官を別の課に押し付けるケース。
どちらにも該当することはないと思っていたが、二つ目の対象となったのか?
異端審問官の転属自体は珍しい事ではあるが、ありえない事ではない。
聖務法令でも、しっかりと条項が割かれている。
転属の理由は主に二つ。
一つは、優秀な審問官を別の課が引き抜くケース。
もう一つは、能力的・あるいは性格的に問題のある審問官を別の課に押し付けるケース。
どちらにも該当することはないと思っていたが、二つ目の対象となったのか?
「移動先が、十一課というのが・・・」
戸惑うクェイルに、ケステは皺だらけの顔に笑みを浮かべる。
「いけば、分かる。お主が求めれれた理由がの。
例えどのような理由があろうとも、納得できる理由でなければ、部下は手放さんよ。
・・・今回の事は、お主を良い方に導くと信じておる。
第五課の誓文、忘れるな」
「理性を尖らせよ。
知識を習得せよ。
理性を根底とした知識は、あらゆる暴力を凌ぐ」
クェイルの言葉に、ケステは大きく頷く。
「心配はない、お主は良い異端審問官じゃ。
少なくても、この老人にとってはの」
戸惑うクェイルに、ケステは皺だらけの顔に笑みを浮かべる。
「いけば、分かる。お主が求めれれた理由がの。
例えどのような理由があろうとも、納得できる理由でなければ、部下は手放さんよ。
・・・今回の事は、お主を良い方に導くと信じておる。
第五課の誓文、忘れるな」
「理性を尖らせよ。
知識を習得せよ。
理性を根底とした知識は、あらゆる暴力を凌ぐ」
クェイルの言葉に、ケステは大きく頷く。
「心配はない、お主は良い異端審問官じゃ。
少なくても、この老人にとってはの」
- ◇ - ◇ - ◇ -
転属の理由は行けば分かる、とケステは言った。
その言葉の通り、クェイルは法王庁南外壁に面した十一課の執務室に移動した。
そして思いだす。
ケステは、いけば『すぐに』理由が分かる、とは言っていなかった事を。
その言葉の通り、クェイルは法王庁南外壁に面した十一課の執務室に移動した。
そして思いだす。
ケステは、いけば『すぐに』理由が分かる、とは言っていなかった事を。
執務室というよりは、倉庫と言ったほうが近い。
もっと言えば、山賊のアジトか。
積み上げられた木箱。
壁に掛けられた無数の武器、防具。
そして床に転がる酒瓶。
そこで、三人の男がクェイルを待っていた。
もっと言えば、山賊のアジトか。
積み上げられた木箱。
壁に掛けられた無数の武器、防具。
そして床に転がる酒瓶。
そこで、三人の男がクェイルを待っていた。
「俺は、認めねえぜ!手前みたいな青っちろい奴が、十一課なんてよ!
怒声が、クェイルに叩きつけられる。
肉厚の男が、顔を赤らめてクェイルをにらんでいる。
腹にも、肩にも、暴飲暴食を思わせる脂肪が着いている。
だが、その脂肪を押し上げる筋肉も同時につけている。
腰からさげた黒鉄鎖製のフレイルが、男の怒声の度に重い音と供に揺れる。
肉厚の男が、顔を赤らめてクェイルをにらんでいる。
腹にも、肩にも、暴飲暴食を思わせる脂肪が着いている。
だが、その脂肪を押し上げる筋肉も同時につけている。
腰からさげた黒鉄鎖製のフレイルが、男の怒声の度に重い音と供に揺れる。
「大声を出さなくても、分かっているさ。
彼は、『秀才揃いの』五課に居た頭脳明晰な優秀な人材だよ。
ラデル、君と違ってね」
激昂する男を諌めたのは、芝居がかった口調の長身痩躯の男だ。
細面に鋭い目つき。
顔の下半分は、黒の面布で覆ている
華奢な体だが、役者のよう佇まいが、単純な審問服を舞台衣装の様に栄えさせている。
「何だと!スミリー、てめ・・・」
「その優秀な彼なら、気づいているさ。
『自分がいかにこの場にそぐわないか』をね。
古めかしい恫喝などしなくても、今すぐ回れ右をして、出て行くさ」
皮肉交じりの言葉だ。
軽蔑交じりの視線からも、クェイルを心よく思っていないのは明白だ。
彼は、『秀才揃いの』五課に居た頭脳明晰な優秀な人材だよ。
ラデル、君と違ってね」
激昂する男を諌めたのは、芝居がかった口調の長身痩躯の男だ。
細面に鋭い目つき。
顔の下半分は、黒の面布で覆ている
華奢な体だが、役者のよう佇まいが、単純な審問服を舞台衣装の様に栄えさせている。
「何だと!スミリー、てめ・・・」
「その優秀な彼なら、気づいているさ。
『自分がいかにこの場にそぐわないか』をね。
古めかしい恫喝などしなくても、今すぐ回れ右をして、出て行くさ」
皮肉交じりの言葉だ。
軽蔑交じりの視線からも、クェイルを心よく思っていないのは明白だ。
だがクェイルはその二つの視線を受け流し、置くの木箱に腰掛ける三人目の男に注目した。
頬髯を浮かべた中年男。
前の二人と違い、クェイルには何の興味も無い様だ。
騒ぎに背を向け、静かに煙草を吸っている。
・・・この人が、一番強い。
クェイルは理解する。
もちろん、他の二人も、自分とは比較にならない程の実力者だと言う事は理解している。
だが、奥の中年は、その上を行く。
頬髯を浮かべた中年男。
前の二人と違い、クェイルには何の興味も無い様だ。
騒ぎに背を向け、静かに煙草を吸っている。
・・・この人が、一番強い。
クェイルは理解する。
もちろん、他の二人も、自分とは比較にならない程の実力者だと言う事は理解している。
だが、奥の中年は、その上を行く。
「・・・異端審問官の職務は、捜査・審問・征伐に大別される」
「なんだ、てめえ!何言ってやがるんだ!」
ラデルと呼ばれていた肉厚の男の右腕が、クェイルの襟元を掴む。
息が詰まる。
だが、クェイルはかまわず続ける。
「十一課はその中でも、征伐に特化された、言わば『特戦隊』。
『強さ』こそが、十一課審問官の絶対条件。
・・・強ければ、俺も十一課に認めてもらえる」
パチパチと、わざとらしい拍手が響く。
「その通りだよ、お勉強が出来るという事はすばらしいね。
で、君は強いのかい?」
「俺が、言うまでもなく・・・」
クェイルは呼吸を吐き出す。
「確かめれば、いいでしょう?」
「上等だ!青二才!」
浮遊感の後、クェイルの身体は、木箱の山に叩きつけられた。
「なんだ、てめえ!何言ってやがるんだ!」
ラデルと呼ばれていた肉厚の男の右腕が、クェイルの襟元を掴む。
息が詰まる。
だが、クェイルはかまわず続ける。
「十一課はその中でも、征伐に特化された、言わば『特戦隊』。
『強さ』こそが、十一課審問官の絶対条件。
・・・強ければ、俺も十一課に認めてもらえる」
パチパチと、わざとらしい拍手が響く。
「その通りだよ、お勉強が出来るという事はすばらしいね。
で、君は強いのかい?」
「俺が、言うまでもなく・・・」
クェイルは呼吸を吐き出す。
「確かめれば、いいでしょう?」
「上等だ!青二才!」
浮遊感の後、クェイルの身体は、木箱の山に叩きつけられた。
意地があったわけでもない。
誇りがあったわけでもない。
ただ、理由が見つからなかった。
自分が、十一課に呼ばれた理由が。
そして、自分が十一課を去る理由が。
だから、引く訳にはいかなかった。
誇りがあったわけでもない。
ただ、理由が見つからなかった。
自分が、十一課に呼ばれた理由が。
そして、自分が十一課を去る理由が。
だから、引く訳にはいかなかった。
「・・・なあ、第五課の奴らは、『頭脳明晰』なんだよな?」
「・・・」
荒い息を吐きながら、ラデルが後方で控えるスミリーに問いかける。
「・・・こいつ、頭脳明晰どころか」
「・・・」
荒い息を吐きながら、ラデルが後方で控えるスミリーに問いかける。
「・・・こいつ、頭脳明晰どころか」
あれから何度も投げられた。
殴られた。
背中が痛む。
肋骨のどこかにヒビが入ったかもしれない。
右肩は脱臼している。
瞼は腫れ上がり、視界は半分ほどに狭まっている。
だが、まだ立てる。
まだ、『理由』は見つかっていない。
殴られた。
背中が痛む。
肋骨のどこかにヒビが入ったかもしれない。
右肩は脱臼している。
瞼は腫れ上がり、視界は半分ほどに狭まっている。
だが、まだ立てる。
まだ、『理由』は見つかっていない。
「バカなんじゃねえのか?」
ラデルは困惑する。
累積したダメージは、とっくに立ち上がれないものだ。
一般人であれば、死んでいてもおかしくない。
だが、クェイルは立ち上がる。
何度も叩きつけられても、殴られても、立ち上がる。
こんな相手は、初めてだ。
ラデルは困惑する。
累積したダメージは、とっくに立ち上がれないものだ。
一般人であれば、死んでいてもおかしくない。
だが、クェイルは立ち上がる。
何度も叩きつけられても、殴られても、立ち上がる。
こんな相手は、初めてだ。
「面白そうな事やっているじゃない」
小柄な人影が入り口に立っていた。
小物の装飾品が着けられた尼僧服。
頭巾は用いず、伸ばした髪は後部でまとめられている。
小柄な人影が入り口に立っていた。
小物の装飾品が着けられた尼僧服。
頭巾は用いず、伸ばした髪は後部でまとめられている。
「あ、何だ、てめえは!」
一度はしぼみかけたラデルの怒りが再び膨張する。
「フェルメノ・キルス。今日から十一課からの課長よ」
一度はしぼみかけたラデルの怒りが再び膨張する。
「フェルメノ・キルス。今日から十一課からの課長よ」
「フェルメノ・キルス?あなたが、フェルメノ・キルス?」
クェイルが反芻する。 <
切れた口が動かす度に痛いが、構っていられない。
「そうよ」
「・・・あなたは、俺が知っている人にとても良く似ている」
「ああ、その人なら洗礼受けて、名前変えたみたいね。
ちなみに、私の事、その人の名前で詠んだら罰金ね」
間違いない。
容姿。
声。
そして性格。
かつて、クェイルと共に聖務をかなした『彼女』だ。
「・・・フェルメノ課長。あなたが、俺を十一課に?」
「ええ、呼んだのよ。
権力っていいわね。
課長になって最初に言った事が、その日のうちに通っちゃたわ」
無防備なまでの笑顔が答える。
クェイルが反芻する。 <
切れた口が動かす度に痛いが、構っていられない。
「そうよ」
「・・・あなたは、俺が知っている人にとても良く似ている」
「ああ、その人なら洗礼受けて、名前変えたみたいね。
ちなみに、私の事、その人の名前で詠んだら罰金ね」
間違いない。
容姿。
声。
そして性格。
かつて、クェイルと共に聖務をかなした『彼女』だ。
「・・・フェルメノ課長。あなたが、俺を十一課に?」
「ええ、呼んだのよ。
権力っていいわね。
課長になって最初に言った事が、その日のうちに通っちゃたわ」
無防備なまでの笑顔が答える。
- ああ、なるほど。
クェイルは腫れた頬の下で笑う。
- 俺が十一課にきた『理由』は、『これ』か。
理解すると同時に、微かな笑みを浮かべ、クェイルは気を失った。
「改めまして、自己紹介ね」
‘一同注目’と言わんばかりに、フェルメノは、パンパンと手を叩く。
「今日から、私、フェルメノ・キルスが課長として、そこで寝ているクェイル・バーネットが審問官として十一課に配属になりました。
歓迎する人は拍手で、異議のある人は・・・」
フェルメノは言葉を一度切る。
「腕づくで示して下さい」
‘一同注目’と言わんばかりに、フェルメノは、パンパンと手を叩く。
「今日から、私、フェルメノ・キルスが課長として、そこで寝ているクェイル・バーネットが審問官として十一課に配属になりました。
歓迎する人は拍手で、異議のある人は・・・」
フェルメノは言葉を一度切る。
「腕づくで示して下さい」
「上等だ!!!」
一瞬の間の後、ラデルの拳が叩き込まれる。
ラデルの拳に手加減は無い。
体重と速度を乗せた一撃だ。
初速と同時に半歩踏み込んだ事により、間合いが広がる。
踏み込んだ前足からの加重により、石床が悲鳴に似た軋みを上げる。
一瞬の間の後、ラデルの拳が叩き込まれる。
ラデルの拳に手加減は無い。
体重と速度を乗せた一撃だ。
初速と同時に半歩踏み込んだ事により、間合いが広がる。
踏み込んだ前足からの加重により、石床が悲鳴に似た軋みを上げる。
「へえ!」
フェルメノが感嘆の声を残し、拳の前方に身を翻す。
ただ、避けるのではない。
ラデルの拳を至近でかわすと同時に、懐へと距離を詰める。
二人の身長差と腕足の尺から一瞬で間合いを計算し、自身の間合いへ踏み込んだのだろう。
常人離れした身体能力と技量。
実戦により裏付けされた経験。
向かってくる拳に向かう豪胆さ。
冷静な判断力。
瞬時の決断力。
そのどれもが欠けても出来ない芸当だ。
だが。
フェルメノが感嘆の声を残し、拳の前方に身を翻す。
ただ、避けるのではない。
ラデルの拳を至近でかわすと同時に、懐へと距離を詰める。
二人の身長差と腕足の尺から一瞬で間合いを計算し、自身の間合いへ踏み込んだのだろう。
常人離れした身体能力と技量。
実戦により裏付けされた経験。
向かってくる拳に向かう豪胆さ。
冷静な判断力。
瞬時の決断力。
そのどれもが欠けても出来ない芸当だ。
だが。
「甘えんだよ!」
ラデルにしても、自身の間合いは理解している。
接近戦とい状況であれば、ラデルと立合う大半の相手は、ラデルの身体が作り出す広範囲な間合いに苦慮する。
相手が二流なら、間合いを攻略できずに沈む。
一流なら、一度距離をとり、間合いを詰める隙を伺う。
超一流なら、至近距離に詰め、ラデルの間合いの内側を狙う。
「お見通しだぜ!」
連撃。
接近戦において、ラデルの最も得意とする分野だ。
初撃と同じ速度で、左の拳を振り下ろす。
フェルメノは僅かに体勢を崩し、重心が下がっている。
ラデルにとっては、超一流相手の必勝パターンだ。
ラデルにしても、自身の間合いは理解している。
接近戦とい状況であれば、ラデルと立合う大半の相手は、ラデルの身体が作り出す広範囲な間合いに苦慮する。
相手が二流なら、間合いを攻略できずに沈む。
一流なら、一度距離をとり、間合いを詰める隙を伺う。
超一流なら、至近距離に詰め、ラデルの間合いの内側を狙う。
「お見通しだぜ!」
連撃。
接近戦において、ラデルの最も得意とする分野だ。
初撃と同じ速度で、左の拳を振り下ろす。
フェルメノは僅かに体勢を崩し、重心が下がっている。
ラデルにとっては、超一流相手の必勝パターンだ。
「撃つな、ラデル!」
静止の声が、倉庫に似た薄暗い十一課執務室を揺るがした。
だが、ラデルは既に左拳を振り下ろしている。
静止の声が、倉庫に似た薄暗い十一課執務室を揺るがした。
だが、ラデルは既に左拳を振り下ろしている。
「なっ!?」
会心の二撃目に、手応えはない。
「まず、一人」
フェルメノの楽しげな声が耳元で聞こえる。
同時に、眉間への一撃。
眉間を介した脳への直接的な衝撃は、ラデルの意識を闇へと沈める。
体格差をものともせず振り抜かれた蹴りは、ラデルの肉厚な体躯が木箱の山へと吹き飛ばした。
会心の二撃目に、手応えはない。
「まず、一人」
フェルメノの楽しげな声が耳元で聞こえる。
同時に、眉間への一撃。
眉間を介した脳への直接的な衝撃は、ラデルの意識を闇へと沈める。
体格差をものともせず振り抜かれた蹴りは、ラデルの肉厚な体躯が木箱の山へと吹き飛ばした。
難しい事ではない。
ラデルの一撃を避わして際、フェルメノが体勢を崩したのは、『誘い』だ。
不自然さのない、実戦であり得る僅かな『隙』。
当然、ラデルは見逃さずに、二撃目を叩き込む。
本来の間合いの内側の為、体勢が前傾になる事を承知の上で。
フェルメノの狙いはそこだ。
腰を落とした姿勢から跳躍すると、無防備なラデルの眉間に、蹴りを叩き込んだ。
尼僧服の裾を翻し、白い脚が描いた軌跡は、月輪の様な美しさを伴っていた。
攻防一体のそう動きは、華麗。
華麗にしてえげつない。
ラデルの一撃を避わして際、フェルメノが体勢を崩したのは、『誘い』だ。
不自然さのない、実戦であり得る僅かな『隙』。
当然、ラデルは見逃さずに、二撃目を叩き込む。
本来の間合いの内側の為、体勢が前傾になる事を承知の上で。
フェルメノの狙いはそこだ。
腰を落とした姿勢から跳躍すると、無防備なラデルの眉間に、蹴りを叩き込んだ。
尼僧服の裾を翻し、白い脚が描いた軌跡は、月輪の様な美しさを伴っていた。
攻防一体のそう動きは、華麗。
華麗にしてえげつない。
「フェルメノ・キルスか・・・」
呻く様な呟きが、煙草の煙と同時に吐き出される。
ラデルへの静止の声を掛けた中年、バノーリ・フィルゴは煙草の火を踵で潰しながら立ち上がった。
呻く様な呟きが、煙草の煙と同時に吐き出される。
ラデルへの静止の声を掛けた中年、バノーリ・フィルゴは煙草の火を踵で潰しながら立ち上がった。
「次は、どっち?」
遊び相手の順番を決める様な気軽さで、フェルメノは問いかける。
「・・・私だ。お相手頂こうか、お嬢さん」
スミリーが、壁に立掛けていた長槍を手にする。
揶揄するような口調は変わらない。
だが先程までとは違い、スミリーの眼光は射抜くような鋭さが灯っている。
遊び相手の順番を決める様な気軽さで、フェルメノは問いかける。
「・・・私だ。お相手頂こうか、お嬢さん」
スミリーが、壁に立掛けていた長槍を手にする。
揶揄するような口調は変わらない。
だが先程までとは違い、スミリーの眼光は射抜くような鋭さが灯っている。
「いや・・・」
スミリーの長槍の柄を、バノーリが押さえる。
「俺が行こう」
「バノーリさん。しかし・・・」
「俺が行く。異論は無いな、スミリー?」
「・・・適わないな」
苦笑いを浮かべ、スミリーは槍を引く。
バノーリは、フェルメノの真正面へと動く。
スミリーの長槍の柄を、バノーリが押さえる。
「俺が行こう」
「バノーリさん。しかし・・・」
「俺が行く。異論は無いな、スミリー?」
「・・・適わないな」
苦笑いを浮かべ、スミリーは槍を引く。
バノーリは、フェルメノの真正面へと動く。
「二人同時、っていうのも嫌いじゃないわよ」
「『お前のやり方』があるように・・・」
フェルメノの軽口を無視し、バノーリは壁に掛けられた無数の武具へと視線を投げる。
AFではない、通常の武具だ。
だが、いずれも模擬戦用でな無く、実戦で使用される通常の武具である。
「・・・こちらにも『こちらのやり方』がある」
得物を使う。
すなわち、喧嘩の範疇を超えるという事だ。
「いいわよ。私も使った方がいいのかな?」
「無論」
バノーリの返答に、フェルメノの浮かべた笑みが深まった。
「『お前のやり方』があるように・・・」
フェルメノの軽口を無視し、バノーリは壁に掛けられた無数の武具へと視線を投げる。
AFではない、通常の武具だ。
だが、いずれも模擬戦用でな無く、実戦で使用される通常の武具である。
「・・・こちらにも『こちらのやり方』がある」
得物を使う。
すなわち、喧嘩の範疇を超えるという事だ。
「いいわよ。私も使った方がいいのかな?」
「無論」
バノーリの返答に、フェルメノの浮かべた笑みが深まった。
「名前は、聞いたかな?」
フェルメノの質問は、バノーリの広刃剣での重撃を、細剣で三度受け流した後だった。
「バノーリ・フィルゴ」
問われて、バノーリも直接名乗っていなかった事に気づく。
普段のバノーリであれば、先に名乗っている。
余程、フェルメノに意識を集中させていたらしい。
フェルメノの質問は、バノーリの広刃剣での重撃を、細剣で三度受け流した後だった。
「バノーリ・フィルゴ」
問われて、バノーリも直接名乗っていなかった事に気づく。
普段のバノーリであれば、先に名乗っている。
余程、フェルメノに意識を集中させていたらしい。
「ああ、あなたが・・・。
あなたが、昇進話を断り続けるから、私が十一課課長に選任されちゃった訳よ。
『十一課課長の椅子を一年以上も空位にしておく訳にはいかない』ってね」
フェルメノが動く。
細剣を突き出し、身を延べる。
速度に特化した、刺突の動きだ。
「俺にとって、十一課課長は決まっている」
細剣の切っ先を、広刃剣の面にて受け止める。
『剣』を『盾』として使う。
高域の金属音が、空気を震わす。
「先代課長以外に、十一課は動かせん。
新たな十一課課長が就任する時は、それは俺達三人が死んだ後だ」
「俺とラデルは、バノーリさんが課長でも、問題はないのさ。
ただ、バノーリさんがそう言う以上、その意思は尊重する」
二人の立会いに口を挟んだスミリーを、バノーリは目で制した。
「・・・手も出さないのだから、口を出してもいいでしょう?」
「却下だ」
あなたが、昇進話を断り続けるから、私が十一課課長に選任されちゃった訳よ。
『十一課課長の椅子を一年以上も空位にしておく訳にはいかない』ってね」
フェルメノが動く。
細剣を突き出し、身を延べる。
速度に特化した、刺突の動きだ。
「俺にとって、十一課課長は決まっている」
細剣の切っ先を、広刃剣の面にて受け止める。
『剣』を『盾』として使う。
高域の金属音が、空気を震わす。
「先代課長以外に、十一課は動かせん。
新たな十一課課長が就任する時は、それは俺達三人が死んだ後だ」
「俺とラデルは、バノーリさんが課長でも、問題はないのさ。
ただ、バノーリさんがそう言う以上、その意思は尊重する」
二人の立会いに口を挟んだスミリーを、バノーリは目で制した。
「・・・手も出さないのだから、口を出してもいいでしょう?」
「却下だ」
「じゃあ、私はあなた達三人を殺せば、課長になれる訳?
就任早々、部下がクェイル一人っていうのも寂しいんだけどな」
軋んだ細剣が折れる寸前に、フェルメノは後方に跳ぶ。
そのまま、無数に積まれた木箱の山を、トントンと跳ね上がる。
「・・・言葉をそのまま返すぞ。
お前が俺達三人の誰かに殺されれば、お前は課長でいられないという事だ、フェルメノ・キルス」
「ははっ、それもそうね」
木箱の山の上から、フェルメノは跳躍する。
狙いはバノーリの頭上。
頭頂部へ向け、細剣を振り下ろす。
「理解しているなら、それでいい」
バノーリも剣を振り上げる。
死角からの一撃。
狙いはいい。
だが空中のフェルメノは、身をかわし様がない。
バノーリの広刃剣は、フェルメノの身体を両断する。
就任早々、部下がクェイル一人っていうのも寂しいんだけどな」
軋んだ細剣が折れる寸前に、フェルメノは後方に跳ぶ。
そのまま、無数に積まれた木箱の山を、トントンと跳ね上がる。
「・・・言葉をそのまま返すぞ。
お前が俺達三人の誰かに殺されれば、お前は課長でいられないという事だ、フェルメノ・キルス」
「ははっ、それもそうね」
木箱の山の上から、フェルメノは跳躍する。
狙いはバノーリの頭上。
頭頂部へ向け、細剣を振り下ろす。
「理解しているなら、それでいい」
バノーリも剣を振り上げる。
死角からの一撃。
狙いはいい。
だが空中のフェルメノは、身をかわし様がない。
バノーリの広刃剣は、フェルメノの身体を両断する。
はずだった。
「それ!」
振り上げられた広刃剣がフェルメノに届く直前。
フェルメノは空中で細剣を投げる。
狙いはずれているのが、分かった。
バノーリは、敢えて避けない。
細剣は、岩のように盛り上がった肩に突き刺さる。
が、致命傷には程遠い。
落下するフェルメノの体を、バノ-リの広刃剣が確実に捉え・・・
振り上げられた広刃剣がフェルメノに届く直前。
フェルメノは空中で細剣を投げる。
狙いはずれているのが、分かった。
バノーリは、敢えて避けない。
細剣は、岩のように盛り上がった肩に突き刺さる。
が、致命傷には程遠い。
落下するフェルメノの体を、バノ-リの広刃剣が確実に捉え・・・
「何?」
振り上げられた広刃剣が自身に届くより早く、フェルメノが蹴りを放つ。
刃の側面からの一撃が軌道をずらす。
鈍く、重い一撃に、バノーリの手から広刃剣は離れた。
得物を落とすのは、何年振りか。
飛ばされた刃が、フェルメノの側頭部を掠め、束ねられた髪を結んでいた紐が解けた。
クセのかかった栗色の髪が、着地と同時にフェルメノの浮かべた笑みを隠すように広がる
振り上げられた広刃剣が自身に届くより早く、フェルメノが蹴りを放つ。
刃の側面からの一撃が軌道をずらす。
鈍く、重い一撃に、バノーリの手から広刃剣は離れた。
得物を落とすのは、何年振りか。
飛ばされた刃が、フェルメノの側頭部を掠め、束ねられた髪を結んでいた紐が解けた。
クセのかかった栗色の髪が、着地と同時にフェルメノの浮かべた笑みを隠すように広がる
「・・・これは、大層なお嬢さんだ」
壁際で戦況を見つめていたスミリーが、思わず感嘆の声を漏らした。
フェルメノは、武器を投げた。
バノーリは 、武器を飛ばされた。
現在は、互いに無手。
自分の条件を飲ませ、相手の条件を飲み、その上で振り出しに戻す。
さあ、この場面でフェルメノは何を語る?
壁際で戦況を見つめていたスミリーが、思わず感嘆の声を漏らした。
フェルメノは、武器を投げた。
バノーリは 、武器を飛ばされた。
現在は、互いに無手。
自分の条件を飲ませ、相手の条件を飲み、その上で振り出しに戻す。
さあ、この場面でフェルメノは何を語る?
「殺すか、殺されるかっていうのも悪くないけど・・・」
乱れた髪を掻き揚げた後、フェルメノは両手を広げる。
「ちょうど、飽きたトコなのよ、そう言うの」
「・・・」
バノーリは無言でフェルメノを見つめる。
先程の一撃は、互いに生死に関わるものだった。
だが、フェルメノのこの自然体はどうだ。
なぜ、ここまで無防備でいられる?
乱れた髪を掻き揚げた後、フェルメノは両手を広げる。
「ちょうど、飽きたトコなのよ、そう言うの」
「・・・」
バノーリは無言でフェルメノを見つめる。
先程の一撃は、互いに生死に関わるものだった。
だが、フェルメノのこの自然体はどうだ。
なぜ、ここまで無防備でいられる?
「そこのラデル君、だっけ?
起こして貰えるかな。
面白くする為に、こういうのはどうかしら?」
起こして貰えるかな。
面白くする為に、こういうのはどうかしら?」
警戒と感嘆の視線を受け止めながら、フェルメノはある『提案』を持ち出した。
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- ◇ - ◇ - ◇ -
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- ◇ - ◇ - ◇ -
冷水を頭から浴びせられ、クェイルは飛び起きた。
瞼と頬、傷口を開けた唇が激痛を放ち、意識はまだ朦朧としている。
瞼と頬、傷口を開けた唇が激痛を放ち、意識はまだ朦朧としている。
「お目覚めだね、‘新入り君’」
手にしたバケツを優雅な動作で後方に投げると、スミリーが一礼する。
「俺はスミリー・バンケット。
十一課では七年程、審問官をやっている。
そして、先程君を殴り倒したのが、俺の同期のラデル・ボルトだ」
「・・・ああ、よろしく」
朦朧としたまま、クェイルは立ち上がる。
全身に激痛が走るが、両腕は動いた。
打撲及び裂傷には傷薬が塗られ、特に打撲の酷かった背中から胸元にかけては湿布薬と包帯が巻かれている。「
外れたと思った右肩の間接もしっかりと固定されている。
「悪かったな‘新入り’
だが、お前の意思の強さ、見せてもらったぜ。
俺は手加減しなかったんだからな。
十一課に相応しい『強さ』を見せてもらえれば、異論はねえ。
『頭のいい奴』はいけ好かないが、『利口な馬鹿』は嫌いじゃない。
・・・侘びの印だ。
注がせてくれ」
ラデルが、クェイルに酒杯を握らせる。
自身も眉間に湿布を貼り付けており、浮かべた笑みの人懐こさもあり、どことなくユーモラスさが漂っている。
握らされた酒杯は、大柄なラデルの身体でグラスだと錯覚していたが、実際にはジョッキサイズであった。
それも、特大サイズだ。
手にしたバケツを優雅な動作で後方に投げると、スミリーが一礼する。
「俺はスミリー・バンケット。
十一課では七年程、審問官をやっている。
そして、先程君を殴り倒したのが、俺の同期のラデル・ボルトだ」
「・・・ああ、よろしく」
朦朧としたまま、クェイルは立ち上がる。
全身に激痛が走るが、両腕は動いた。
打撲及び裂傷には傷薬が塗られ、特に打撲の酷かった背中から胸元にかけては湿布薬と包帯が巻かれている。「
外れたと思った右肩の間接もしっかりと固定されている。
「悪かったな‘新入り’
だが、お前の意思の強さ、見せてもらったぜ。
俺は手加減しなかったんだからな。
十一課に相応しい『強さ』を見せてもらえれば、異論はねえ。
『頭のいい奴』はいけ好かないが、『利口な馬鹿』は嫌いじゃない。
・・・侘びの印だ。
注がせてくれ」
ラデルが、クェイルに酒杯を握らせる。
自身も眉間に湿布を貼り付けており、浮かべた笑みの人懐こさもあり、どことなくユーモラスさが漂っている。
握らされた酒杯は、大柄なラデルの身体でグラスだと錯覚していたが、実際にはジョッキサイズであった。
それも、特大サイズだ。
「歓迎の酒さ」
クェイルの背後から、中年の声がする。
「君と、フェルメノ・キルス新課長を迎えるな」
先程までと同じ木箱に腰掛ける中年、バノーリの右手には既にジョッキが握られている。
「そして・・・」
今度は、背後から首筋に腕が回される。
逃げ出す前に捕まえるかの如く、きつく捲かれ、打ち身だらけの身体に響く。
「新生第十一課の誕生を祝う酒でもあるわ」
クェイルの背後から、中年の声がする。
「君と、フェルメノ・キルス新課長を迎えるな」
先程までと同じ木箱に腰掛ける中年、バノーリの右手には既にジョッキが握られている。
「そして・・・」
今度は、背後から首筋に腕が回される。
逃げ出す前に捕まえるかの如く、きつく捲かれ、打ち身だらけの身体に響く。
「新生第十一課の誕生を祝う酒でもあるわ」
「・・・そうか。
そうだったな。
君が俺を呼んだんだっけな、ミサエ・・・」
「はい、罰金」
フェルメノは、左手でクェイルの脇腹を小突く。
「うぐっ!」
「私は、法王庁異端審問局第十一課課長、フェルメノ・キルス」
白い指先で、自身の胸元をトントンと叩く。
その指先が、クェイルの包帯の巻かれた胸元を差す。
「そして、あなたは十一課所属審問官クェイル・バーネット」
クェイルの顔を覗き込んだフェルメノは、ニコリと笑った。
「・・・その通りだ」
激痛の中、クェイルも笑う。
そうだったな。
君が俺を呼んだんだっけな、ミサエ・・・」
「はい、罰金」
フェルメノは、左手でクェイルの脇腹を小突く。
「うぐっ!」
「私は、法王庁異端審問局第十一課課長、フェルメノ・キルス」
白い指先で、自身の胸元をトントンと叩く。
その指先が、クェイルの包帯の巻かれた胸元を差す。
「そして、あなたは十一課所属審問官クェイル・バーネット」
クェイルの顔を覗き込んだフェルメノは、ニコリと笑った。
「・・・その通りだ」
激痛の中、クェイルも笑う。
理由は分からない。
過程も知らない。
だが、フェルメノと名を変えた彼女が、クェイルを必要としている。
それだけで、クェイルにはある種の高揚感と誇らしさを与えた。
彼女は常に前に進む。
その脇で彼女と共に進むのも悪くない。
壁にぶつかっても、暗闇に閉ざされても前に進むのが彼女のやり方だ。
結果、誰も歩いたことの無い道が開け、誰も見たこともない光が差し込む。
彼女が必要とするなら、彼女の事を支えよう。
例え、道の半ばで死ぬ事になっても、だ。
過程も知らない。
だが、フェルメノと名を変えた彼女が、クェイルを必要としている。
それだけで、クェイルにはある種の高揚感と誇らしさを与えた。
彼女は常に前に進む。
その脇で彼女と共に進むのも悪くない。
壁にぶつかっても、暗闇に閉ざされても前に進むのが彼女のやり方だ。
結果、誰も歩いたことの無い道が開け、誰も見たこともない光が差し込む。
彼女が必要とするなら、彼女の事を支えよう。
例え、道の半ばで死ぬ事になっても、だ。
「さあ、飲め」
いつの間にかラデルが短剣の刺さった酒樽を担いでいた。
短剣を抜くと、強烈なアルコール臭を伴う蒸留酒が、クェイルのジョッキに注がれる。
ラデル自身、スミリー、バノーリ、そしてフェルメノのジョッキに次々に酒を注ぐと、短剣を再び刺し、栓にする。
「・・・なんて、飲み方だ」
山賊の宴会でも、もう少し上品な気がする。
クェイルの嘆息には構うことなく、フェルメノが高らかにジョッキを掲げる。
「それでは、十一課の新たな歩みと・・・」
「クソ生意気な新課長と、大馬鹿野郎の新入りに!」
不思議と、タイミングは分かった。
喉から自然に声が出る。
『乾杯!』
五人の声が唱和する。
いつの間にかラデルが短剣の刺さった酒樽を担いでいた。
短剣を抜くと、強烈なアルコール臭を伴う蒸留酒が、クェイルのジョッキに注がれる。
ラデル自身、スミリー、バノーリ、そしてフェルメノのジョッキに次々に酒を注ぐと、短剣を再び刺し、栓にする。
「・・・なんて、飲み方だ」
山賊の宴会でも、もう少し上品な気がする。
クェイルの嘆息には構うことなく、フェルメノが高らかにジョッキを掲げる。
「それでは、十一課の新たな歩みと・・・」
「クソ生意気な新課長と、大馬鹿野郎の新入りに!」
不思議と、タイミングは分かった。
喉から自然に声が出る。
『乾杯!』
五人の声が唱和する。
「なんだ、それだけか?」
「もっと飲め、飲みやがれ新入り
十一課秘蔵の蒸留酒だ」
「今日は、君の為に空にするよ。
遠慮はいらないさ」
「もっと飲め、飲みやがれ新入り
十一課秘蔵の蒸留酒だ」
「今日は、君の為に空にするよ。
遠慮はいらないさ」
飲みきれない程の酒と、全身の痛み。
通常であれば、『地獄』と感じただろう。
だが。
今までに経験した事のない馬鹿騒ぎ。
通常であれば、『地獄』と感じただろう。
だが。
今までに経験した事のない馬鹿騒ぎ。
- 悪くはない。
‘問題児揃い’と言われていた十一課の三人の審問官が、屈託のない笑みを浮かべはしゃいでいる。
- 悪くはない。
視線の先には、木箱をイス替わりにし、楽し気にグラスを傾けるフェルメノの姿。
- 悪くはない。
- フェルメノ・キルスと一緒であれば、地獄もまた楽しめるのだから。