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1-1「ジャンルイジとエスピノーザ」

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匿名ユーザー

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「ははっ」
 手にしたグラスをカウンターに置くと、異端審問官エスピノーザは乾いた笑いを漏らした。
 狭い酒場に、低い笑い声が響く。
 既にエスピノーザの前には酒瓶が三本転がっている。
 住民を強制退去させた後で、安全確認を行う。
 ルシアーノが異端審問官である充実感を実感する、至福の時だ。

「どうしました、エスピノーザさん?」
 カウンターに腰掛け、新しく購入した懐中時計をいじっていたジャンルイジが声をかける。
 珍しいこともある。
 今日のエスピノーザは機嫌が良い。
 経験上、聖務直前のエスピノーザは荒れる。
 を前にした野犬が荒れるのと同じ理屈だ。
 加えて今回の聖務は、八課としては始めての共同聖務であり、制約が多い。
 ジャンルイジ自身も個人行動を好む事もあり、今回は枷をつけられたかのような窮屈さを感じる。
 それが、短気にして粗暴、最多の謹慎歴を誇るエスピノーザがこうも上機嫌でいる。

「俺は、思いついたぜ」
 再びグラスに酒を注ぐ。
「ライナス・バルグを殺す方法を、だ」
「なるほど」
 ジャンルイジは思わず笑った。
 二人の上官であるライナス・バルグは、異端審問局でも指折りの実力者である。
 冷徹な合理主義者にして、A級AF湖畔の英霊を使役する人形使い。
 エスピノーザは時折、ライナスを殺す方法を大真面目で語る。
 冗談か、本気かは分からない。
 だが、雑談にしては実のある会話をジャンルイジは気に入っていた。


「結局はだ」
 ジャンルイジが促すまでもなく、エスピノーザは語り始める。
質より量ってやつですか?」
「そうだ。例えば、お前がどれほど接近戦に自信があろうとも、ライナス・バルグには勝てない。なぜだか分かるか?」
湖畔の英霊がありますからね。・・・十二体の戦闘用自動人形に高速機動されたら、僕程度では適いませんよ」
「だから、湖畔の英霊無力化する」
湖畔の英霊は課長と精神接続されているんですよ。どんな状況だろうと、課長の意思一つで起動します」
動いていても、無力化は出来るぜ。十二体が全て交戦中ならどうなる?身動きが出来ない程の大群に囲まれていたら?」
「ははぁ、それでですか」
「それでだ」
 エスピノーザが口元に深みのある笑みを浮かべる。
 その自信が可笑しく、ジャンルイジも釣られて笑う。
「でも課長は高速起動させたまま、自身も戦闘に参加できますよ。司教座都市カミュエの城門括りはエスピノーザさんもご存知でしょう?」
「北限の化物共を飼いならした異端者相手にたった一人で撃退した、って話だろう。だが、相手は接近戦しか挑まなかった」
「・・・つまり、飛び道具? 課長なら回避するかと・・・」
「言っただろう。さ」
 傍らの長銃を手に取る。
 長身である自分に決して引けをとらない銃身を持つAFシリウスの矢
「俺の流星雨なら、回避も意味がない。護身用に動く自動人形さえいなければな」
「成るほど。・・・おめでとうございます。これなら課長を殺せそうですね」
「ああ、ライナス・バルグを殺せる」

 雑談が一区切りすると同時に、二人の眼前で光の粒子が煌く。 
 鏡の破片が複雑な光を反射する、そんな輝きだ。
「流石、ジュノイさん。時間通りですね。」
 手にした懐中時計に視線を落とした後、ジャンルイジがカウンターから腰を落とす。
「では、聖務実行といきましょうか。・・・逆十次団殲滅作戦を開始しましょう」
 笑顔を浮かべていたジャンルイジの表情が一変する。
 人当たりの良い笑みが、肉食獣の笑みへと変貌する。
 足音もなく酒場の出口に向かう背中からは、押さえきれない闘争本能が噴出している。

「そうか。・・・ライナス・バルグを殺せるのか」
 残されたエスピノーザはぶつぶつと呟いていたが、やがてグラスを投げ捨てるとゆっくりと立ち上がった。

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