アットウィキロゴ
マグノリア@Wiki
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

マグノリア@Wiki

1-3 「イルドルフとライナス」

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

「状況の説明は、紋章官?」
急遽本営として徴収された市庁舎の一室。
扉を開けるなり、イルドルフに硬質な声が突き刺さる。

「住民の避難状況は、八割程度だ。健脚な者ばかりではないからな
 ・・・馬車と荷台の確保に時間が掛かっている」
 威圧的な響きを持ったライナスの問いかけに、イルドルフは落ち着いた口調で答える。
避難だと?第一段階では、住民を隔離させるのが、貴公等七課の第一任務のはずだが?」
 ライナスの口調に鋭さが増す。
「その通り。そして作戦では二十四時間以内の全住民の隔離となっている。
 ・・・まだ七時間弱の猶予がある」
 イルドルフの穏やかな口調は変わらない。
 口調だけではなく、佇まい、身振りの1つからも落ち着いが伺える。

「僭越ながら・・・」
 ライナスの後方に待機していた金髪の審問官が、その美貌を上げて抗議する。
「作戦の前段階に時間を掛けすぎています。イルドルフ司祭は、圧縮可能な時間は圧縮し、速やかに作戦の第二段階に移るべきだとお考えにならないのですか?」
 第八課異端審問官ジュノイ・アーク。
 ライナス・バルグの懐刀と囁かれる程の切れ者、と聞く。

「・・・土台を固めなければ、良い家は建てられない。
 我々が相手にするのは、目先の異端だけではない。
 同様に、人々の生活を脅威に晒すのは、異端ばかりではない」
「・・・ご高説を」
 ジュノイの口元が歪ぶ。
「よく、この状況で飾れますね!逆十字団殲滅令が発動された状況で!」



「この逆十字団殲滅作戦には・・・」
 ジュノイの舌鋒は鋭さを増す。
「八課課所属審問官4名、七課所属審問官5名、罪人3名、猟犬2名、国家錬金術師1名。
 そして、異端審問局課長2名。これだけの戦力を集中させた最大級の聖務で、まだ戯言を続けられますか?」
 静かに受け止めたイルドルフが口を開くよりも早く、ライナスが制する。
「・・・ジュノイ。外部の状況を確認しろ。目視でだ。五分あれば出来るな?」
「はい。・・・これより確認してまいります」
 伝令系能力を持つジュノイに対し、ライナスは目視でと言った。。
 つまりは、こういう意味だ。
 席をはずせ

「失礼いします」
 ライナスに対する一礼を残し、扉を閉める。
 その肩は僅かに震えていた。
 ライナスの不興を買ってしまったのか?
 なぜ?
 自分は、ライナスの真意を誰よりも理解している筈なのに。
 普段のライナスであれば、問題は無かったはずだ。
 だが、この作戦開始以来、ライナスに対し違和感を覚える。
 ジャンルイジやエスピノーザは何も感ずいていないだろう。
 副官を務めるジュノイにしか気づかない、僅かな違和感だ。
 鉄翼鷲と謳われたライナス・バルグが、その感覚の鋭さを僅かに鈍らせている。
 ジュノイは、奥歯を噛み締める。
 聖務発令時には問題は無かった。
 違和感を覚えたのは、七課との最初の作戦会議を行った直後からだ。
「・・・イルドルフめ!」 
 はき捨てるように呟き、出てきた扉を振り返ると、ジュノイは足早に立ち去った。



「作戦の確認だ」
 ライナスが部屋の壁にかけられた街の地図に歩み寄る。
伯爵級悪魔と同系の魔素を感知したポイントは三箇所。
 ワイン貯蔵庫。
 旧水道跡。
 地下墓地。
 いずれも街の下に広がる地下洞窟へと繋がっている。
 作戦の第二段階へ移った時点で、八課と七課による同時強襲を開始する」
「ワイン貯蔵庫は七課。
 旧水道跡は、八課。
 地下墓地は混成隊が担当。
 前衛での指揮は貴公が、後衛での指揮は私が担当する
 ・・・そうだったな」
 イルドルフは部屋の中央へと歩み寄る。
 窓から差し込んだ落日が、イルドルフの壮健な横顔を照らし出す。
魔素は、キスリング導師、そして探索型猟犬により現在も監視中だ。
 すなわち、この街の地下で逆十次団の手により、伯爵級悪魔に匹敵する異端が胎動している事になる
 ・・・以上、訂正はあるか?」
「・・・一つだけ、な。
 探索型猟犬ではなく、ジェーン・ドウだ。アズール・バールの良き相棒だよ」
 ライナスは眼鏡を押し上げ、イルドルフに眼光を向ける。
「理解しているか、イルドルフ?
 アディール・ノウの遺言は、我々の手に託されている。
 その意味を、理解しているか?」

 第二課課長アディール・ノウが、伯爵級悪魔と刺違えたのは、半年前だ。
 所属全審問官を率い、史上最大級の質量を誇る悪魔を、アディールは叩き伏せた。
 己の命と引き換えに。
 事件後、破壊された伯爵級悪魔の残骸から、銀爪の破片が発見された。
 宿主の欲望を糧に、体組織を増殖・変形させる銀爪
 使うは、歴史上ただ一人。
 二年前に、壊滅したはずの彷徨える逆十次団
 その傍らに必ず存在する銀水晶

 アディールは散り際に、特別な言葉を残したわけではない。
 ただ、最大級の悪魔を滅殺により、滅びたはずの逆十次団へと繋がった。 
 異端審議局では、これをアディールの遺言と呼んでいる。
 半世紀に渡り、異端審問局を見守り続けた聖教母
 そのアディールが死してもなお、示唆した法王庁への脅威。
 残された審問官達の士気は高い。
 だが・・・。

 



「二課課長の死は、全ての異端審問官に動揺を与えている」
 半世紀に渡り、法王庁と共にあった偉大な存在だ。
「・・・見習いや、新人はもちろん、異端審議会内部でも、聖教母様の一言は無意識の中に頼りにしていた」
「二課課長は、賦活の腕輪を使用し、全盛期の戦乙女として戦い、死んだ。
 幻想が現実と直面した結果を見せ付けられた」
 年配者は彼女の全盛期を直視し、若輩者は伝説となった活躍を聞いている。
 それは、ある意味第一課課長アダスタよりも影響は大きかったかもしれない。
 アディールは、法王庁異端審問局の「最強」を象徴する存在だった。
「ここで、我々が逆十字団に敗れれば・・・」
 ライナスの右手が、机に広げられたアスガルド半島縮図の上に置かれる。
「異端審問局は、更に動揺する。
 外部に伝わる程にな。
 異端審問局の動揺は、法王庁の動揺だ。
 民は怯え、異端は跳梁する。
 法王庁は絶対秩序だ
 ・・・秩序は必ず、」
 ライナスの右手に力が込められ、アスガルド縮図がその手のひらに収まった。
「守らなければならない」 

「最もな意見だ。
 だがな、アディール様が残したのは遺言だけではない」
 イルドルフは穏やかな表情で、聖印を掲げてみせる。
「不屈の精神。
 仲間との絆。
 未来への意思。
 目に見えない多くの宝物を残していかれた。
 不可視の脅威に怯えもするが、それに立ち向かうのも不可視の精神だ。
 ・・・少なくとも、私と私の教え子達はそう信じている」
「・・・全く」 
 嘆息とも侮蔑ともつかない息を漏らし、話は終わりとばかりにライナスは背を向ける。




「・・・それとライナス」
「何だ?」
「昨夜、仮面をつけた奇妙な一団に、七課の宿舎を襲われた。
 小競り合いの末撃退したが、軽症を負った者もいる。
 ・・・私自身もこの様だ」
 神父服の袖をめくり、包帯の巻かれた右腕を見せる。
「知らんな。・・・せいぜい気をつける事だ」 
 振り返りもせず、ライナスは答える。
 その態度に、イルドルフは僅かに苦笑する。
 それでシラを切ったつもりか?
 何年の付き合いだと思っている。
「・・・心配するな。
 八課の脚は引っ張らんさ。
 七課も、この私も、な」
 立ち去る間際に、一言を残す。
逆十次団討伐にかける意気は、私も貴公に負けていない」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー