『‘白銀の翼’から全死徒へ。
‘銀水晶’姉様の指令を伝えます。
・・・‘ライナス・バルグを殺せ’
指令は以上です」
脳幹に、直接響く少女の声。
自身の思考を送り込む‘白銀の翼’の‘伝声糸’の能力だが、こちら側の思考は送り返す事は出来ない。
- ◇ - ◇ - ◇ -
「・・・つまらねえ‘指令’だ」
墓石に腰を掛けていた男が、悪態めいた溜息を吐く。
男の左右には、古びた木箱が5つづつ、積まれている。
「俺は‘好き勝手出来る’から、逆十字団に入ったんだぜ」
中肉中背の体躯を、古ぼけた革鎧が包んでいる。
革鎧の表面には無数の刀傷が刻まれ、男の身体には革鎧以上の傷が刻まれている。
「それが、使い走りみてえな事ばかりだ。
・・・やっぱり俺には向いていないな、‘組織’ってヤツは」
ぶつぶつと呟きながら、男は左右の木箱を無造作に掴む。
墓石に腰掛けた姿勢で、攻城砲の様な勢いで木箱を上空に投げつける。
膂力のだけで成す、荒業だ。
射出された木箱は空圧に軋み、上空で四散する。
月光を浴びながら、木箱の中からは十本の刀剣が散らばる。
長剣。
直刀。
大剣。
曲刀。
錆剣。
平刀。
形、大きさ全てが異なる刀剣が落下し、石畳に突き刺さる。
「俺が思うに、アレだな。
‘銀水晶’は‘将の器なし’ってヤツだな」
男は次々と木箱を掴むと投出する。
十個の木箱が砕け、計百本の刀剣が、男を囲んだ。
これが、男の必勝の陣。
自分だけの地の利。
「あんたはどうよ、‘No4’?」
男は、背後の闇に紛れて立っていた黒い外套に包まれた人影に声を掛ける。
小柄な人影は無言のまま、男に視線を送る。
僅かに、重圧で男の身体が押される。
「へっ、やるかい?
‘銀水晶’の使い走りで終わるより、よっぽど面白そうだ」
‘No4’は逆十字団の中でも、最も新しい新顔だ。
能力も、経歴も男は知らない。
だが、実力は初対面ではっきりと分かった。
単純な戦闘能力なら、死徒の中でも三傑に入るだろう。
‘No3 引き裂く者’‘No4 混濁の魔獣’、そして自分‘No8 百貌の剣奴’パイロン・ジムザだ。
だが、パイロンの期待に反し、‘No4’は、静かに闇の中へと消えていった。
「ちっ、どいつもこいつも!
不可視の重圧からは開放された。
だが、パイロンの胸の中の苛立ちは募るばかりだ。
「悩みがあるなら聞きましょうか?
・・・神父の務めですから」
パイロンの頭上から、場違いな程明るい声が投げかけられる。
墓石を見下ろす石碑の上に、青年神父が立っていた。
いや、神父服は着ているが、神父と呼ぶには余りに異様な衣で立ちだ。
神父服の胸元から除く鎖帷子。
首掛けられた三本の聖印。
右腕は肘から破け、鈍く輝く鋼手甲とワイヤーの義手。
金髪の下の端正な顔は、左半分だけ‘道化師’の仮面で覆われている。
「もっとも、神父らしい事をするのは久しぶりですからね。
お役に立てるか、分かりませんが」
右半分の端正な顔が、にっこりと微笑む。
・・・ああ、こいつは。
パイロンは直感的に理解する。
「聞いて、くれるか?
俺の胸の内を聞いてくれるか?」
「何なりと」
「暴れてえ。
命令も、使命も関係なく、ただ真っ白になるまで暴れてえ!」
「ああ、良かった」
微笑み携えたまま、頷く。
「それなら、僕でもお役に立てそうだ」
・・・間違いない。
パイロンの理解は、確信に変わる。
・・・こいつは、俺と同じだ。
「名前を名乗っておくぜ!」
もっとも近くに突き刺さった剣を無造作に掴みながら、パイロンは叫んだ。
「‘逆十字団No8 百貌の剣奴’パイロン・ジムザだ!」
「僕は法王庁異端審問局・第八課異端審問官、ジャンルイジ
・・・通称、‘ライナス・バルグの犬’です」
短い名乗り合いの後、二人は同時に動く。
剣と拳が穿空と化し、交差した。