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2-5 「‘白銀の翼’と‘紅蓮腕’」

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匿名ユーザー

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白銀の翼は、下唇を噛む。
自分には自負がある。
逆十字団を組織し、強大な権力の結晶たる法王庁に弓を引く、強く美しい銀水晶
感覚糸を筆頭とする自分の能力は、銀水晶の右腕に相応しいという自負がある。
更に言うならば、銀水晶の求める情報を提供し、放出可能な自分は、銀水晶の眼であり耳であり、口にもなれる。
事実、重要な作戦では銀水晶により指揮権を任される事もあった。
出自も、素性も関係なく、逆十字団死徒に求められる事は、二つのみ。
『法王庁に恨みをもつ事』
そして、『ただ、強い事』
自分はその逆十字団で、銀水晶に信頼され指揮権を任せられている。
世界から他の如何なる評価も、褒章もいらない。
銀水晶に必要とされている。
その事に勝る充実感は存在しない。

「それなのに・・・」
 白銀の翼は呻くように呟く。
銀水晶より賜った命令は、単純極まりないものだ。
『ライナス・バルグを殺せ』
 ただ、それだけだ。
感覚糸により、他の死徒に命令は伝えた。
だが、現状ではライナス・バルグは生きている。
イルドルフに重傷を負わせられながらも、地下墓所を目指し移動している。
命令を伝えたはずの死徒達が、命令通りに動いていないからだ。






No8百貌の剣奴は、遭遇した第八課審問官ジャンルイジと接近戦を展開している。
享楽的な戦闘を好む百貌の剣奴だ。
自分が戦いを楽しんでいる間は、命令は後回しにしている可能性がある。

No3引き裂く者は、忠誠心は現死徒の中では極めて高い。
法王庁倒壊に必要であると判断すれば、「百人殺せ」と言われれば、ためらい無く実行する男だ。
銀水晶の命令を無視する事はありえない。
だが、引き裂く者が対峙したのは、ザック・プレバンスだ。
引き裂く者が死徒となる以前、騎士団長であった時代の部下であり、法王庁では罪人の身でありながら、ライナス・バルグにより異端審問官に抜擢された男。
「因縁というものがある」
今回の作戦に参加する際、引き裂く者は語っていた。
引き裂く者が唯一、自らの手で片付けなくてはいけない相手、それがザック・プレバンスなのだろう。

No7鋼翼の執行人
コイツは駄目だ。
現死徒の中では、銀水晶に次ぐ古参メンバーだが、使えない。
己の欲求と美意識を最優先する気取り屋だ。
今回も「ライナス・バルグ抹殺」の命令を出したのにも関わらず、墓地外部の持ち場から動かなかった。
そして白銀の翼自身、最初から作戦戦力として当てにしていない。

No4混濁の魔獣の実力は認める。
その全身から溢れ出るような憎悪の波動も、本物だろう。
ただし、一人だけ特別扱いを受けている節がある。
今回もただ一人、地下墓所に入る事を許されている。
死徒の中で最後の加入した分際で、特別扱いされているのが気に食わない。

「滑稽な話だわ・・・」
感覚糸により、敵の行動は分かる。
伝声糸により、距離に関係なく指示を送る事ができる。
しかし、肝心の味方が指示通りに動かない。



「つまりは、こういう事ね・・・」

白銀の翼を展開する。
感覚糸を展開し、ライナス・バルグの現位置と移動速度を細くする。

「最初からこうすれば良かった」
感覚糸の放出を終えると、展開したを変形させる。
 左右に大きく伸びていく、
 翼の表面には、びっしりと鋭く尖った羽根が付属している。

「ボク自身が、お前を殺せばよかったんだ!ライナス・バルグ!」
 叫ぶと同時に、羽根を上空に向って射出する。
 居並ぶ弓兵隊による一斉射撃を思わせる唸りを上げて、百を越える閃光が夜空を切り裂いた。
 
「射程外からの遠距離攻撃。
 半死人の貴様など、簡単に仕留められるんだよ」
 白銀の翼に、薄い笑みが広がる。
 
「幸せね、ライナス・バルグがこの程度で殺せると思っているんだ」
 背後から軽薄な声が響く。
 近づいてくる足音。
 焼け焦げた尼僧服の隙間から覗く、金属部位鎧。
 白い肌には、真新しい無数の火傷の痕。
 長い髪は額にかかり、さながら戦場から逃げ延びた敗残兵のようだ。

「・・・今更、死に損ないの君が何しにきたんだい?」
「聞きたい?なら、教えてあげる」
 煤に塗れたフェルメノの頬に、凶暴な笑みが広がる。

「目障りな異端者を潰しにきてやったんだよ!」
「アハハ!おもしろい冗談だ!やってみなよ、フェルメノ・キルス!」



距離は、十歩と離れていない。
白銀の翼にとっては、あってなきが如きの距離。
パキパキ、と背中のが形状変化を遂げる。
この状態で、相手を仕留める、最適の形。
連射弓から極節槍へと。

「一応、聞くけど・・・」
 白銀の翼は、愉しそうに足踏みを刻む。
 爪先を小さく上下させ、独自のリズムを奏でていく。

「これを見ても、さっきの冗談をもう一度言えるかい?」
 左右に幾重にも張り出した極節槍が爪先のリズムと共にざわめく。
 フェルメノは小指で耳を穿るジェスチャーを交えてて、返す。
「耳も頭も悪いのか?・・・バカの相手はこれだから嫌なんだ」
「なるほどね。嫌いじゃないよ、強がってるヤツが泣き叫ぶ無様な姿は」
「ハッ!」

 笑い声の残響を残し、フェルメノが前方に跳ぶ。
 速度は敢えて抑えてある。
 歩走法と反射で、敵の虚をつく、フェルメノ独自の接近法。
 抜刀。
 黒銀色の細剣(レイピア)が、闇夜に鈍い煌めきを放つ。
 その直前、左右から展開した極節槍が、連続した突きを放つ。
 だが。
「遅いね!」
 フェルメノは、地を這う様に上半身を伸べ、槍の下を潜る。
 尼僧服の端が槍の穂先を掠め、黒い繊維が散る。
「はい、ここまで」 
 レイピアの剣先が、白銀の翼の左胸を貫いた。




「ああ、残念だな」
 白銀の翼から、嘆息が漏れる。
 左胸を貫いたレイピアを、見下ろす。
「知らなかったのかい?」
 傷口からは、全く血が出ていない。
「ボクに刃物は効かないって」

 フェルメノは、瞬時に理解する。
 心臓を切り裂いた感触はない。
 もっと堅い、樫の板でも貫いたような感触。
「そうじゃないかとは、思っていたけどねえ」
 通常の人間とは異なる、生体構造。
 フェルメノは大きく跳躍した。
 直後に、フェルメノの居た位置に、槍による刺突が殺到する。

 フェルメノは疾走する。
 墓地の隙間を縫うように、反撃の姿勢を放棄し、
 ただ逃げる為だけに全力をそそぐ。

「どんなに早くても・・・」
 囁き声は耳元で響いた。
として使用し、フェルメノの背後に迫る。
走っては、飛ぶボクからは、逃げられない」 



「結局は、いつも通り」

白銀の翼は、ほくそ笑む。
飛ぶ者這う者
勝負事に於いて、最重要となる決定的な差が存在する。
すなわち、速度。
どんなに敏捷性を持っていようが、決定的な速度の差は埋められない。
に勝負を挑むの末路など、語るに値しない。

ベートの街で対峙した異端審問官レスター・ハインは、で距離を取り、速度の差を軽減した。
同じく異端審問官カナン・ヨハナンは、二つの鉄球を時間差で放ち、速度の差を軽減した。
どちらも有効な手段だった。
白銀の翼自身、勝利が紙一重のものだったと自覚している。

「・・だからこそ」
目の前を全力で疾走する、女。
接近戦を最も得意とする、紅蓮腕
戦闘に特化され、法王朝の中でも異形の集団とされる十一課を束ねる、十一課課長。
「ボクの相手になる訳ないじゃん」
冷笑と共に、大きくを羽ばたかせる。
の間に生まれた光球が、走り続けるフェルメノの背中に向って降り注ぐ。


夜の墓地に響く爆炎。
-避せるタイミングではないが、致命傷まではいかない。

肉が焦げ落ちる異臭。
-だが、を脅かすには十分な一撃。

「さて、泣き叫ぶ準備はできたかい?」

嘲笑を浴びせた白銀の翼の眼前に、炎の矢が迫った。



熱が夜気を巻き込み、沸騰させる。
炎が眩い光を放ち、猛り狂う。
巨大な炎の矢は、白銀の翼の真横を通過すると、天高く駆け上り爆撒した。

紋章官が、AFの暴走なんてさせるから・・・」
 右腕に装着した手甲がひび割れ、砕け落ちる。
 光球を防いだのだろうが、当然全てを防ぎきれた訳ではない。
 手甲が剥がれ落ちた後の右腕、右肩が焼け爛れている。
紅刃女王(クイーン・クリムゾン)も使い潰す事になったじゃない。・・・結構、気に入ってたのに」
 頬を煤で染めたフェルメノが、笑みを深める。

「・・・お前」
 白銀の翼は理解する。
 先程の炎の矢の正体は、フェルメノの細剣型AF紅刃女王
 イルドルフとの戦闘により劣化したAFを投擲し、爆撒させた。
 だが、腑に落ちない。
 フェルメノと対峙した際、初撃で左胸を貫いたのも、同じ細剣だ。
 使い潰すつもりなら、なぜその時に使用しなかった?  
 そして今の投擲。
 恐らく自分を狙っていない。
 AFの最後の熱と光は、自分を掠め、夜空の花火となり消えた。
 いや、花火というより、むしろ・・・。
「・・・信号弾?
 貴様、誰に何の合図を送った!?」

・・・やられた。
フェルメノは逃げていたのではない。
白銀の翼を引き剥がしていたのだ。
どこから?
白銀の翼が構えていた、地下墓地の入り口から。
何のために?
戦闘能力を低下させたあの男を通過させる為に。
白銀の翼に有効な武器を持たないと思わせて。
逃げるだけしかできないと、演じてみせた。
信号弾は、一連の作業が終了した事を知らせる合図だ。



「まあ、いいじゃない。そんな事は」
 フェルメノが左手で腰袋をまさぐり、小瓶を取り出す。
「アタシに言わせれば、あなたは向いていないわよ。
 指揮しながら戦うなんて、ね」
 口で蓋を外し、吐き捨てる。
「状況がどうあれここまで来たら、外敵の各個撃破。それしかないでしょう?」
 爛れた右腕と右肩に、瓶に入った液剤を振り掛けると、投げ捨てる。
「周囲の事なんて当人に任せておけばいいのよ。
 やる奴はほっといてもやるし、やらない奴は手を貸してもやらない。そんな者でしょ?
 それよりも、あなたには集中してもらいたいのよ。
 このアタシとの戦いに。
 あなたの全てを出して」

「ふふっ」
 笑いが、こみ上げてくる。
「ふはははっ!」
 白銀の翼は、を収納しながら、ゆっくりと地面に降りる。
「キミはそこまでボクに、ご執着なのかい?」
不器用だけど、強引だ。部下には良く言われるわ
 何にしても、愉しい時間をすごしましょう。・・・アレ、名前を聞いていなかったわね」
「やだね。姉様以外には教えないのさ、ボクの名前は」
 二人の距離は、徐々に近づく。
 互いの放つ圧が絡みつく、限界の均衡。

「ただ、特別に勝ったら教えてあげるよ」
「そう、ならすぐ知ることになるわね」

 均衡が崩れ、二つの咆哮が響いた。

 

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