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賢者の帰還

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【小話】『賢者の帰還』

「じゃあ、そろそろ行くわ。世話になったな、爺さん」
肩から背負い袋を担ぎ上げると、エムレ・ゼラードは、見送る老人に別れの言葉を告げた。
額には包帯を巻き、右頬は腫れ上がったままだが、その顔には活力が満ちていた。
「・・・宿代は踏み倒して行くつもりかの?」
老人は右手で杖を持ち上げ、エムレの背負い袋を叩く。
「爺さん、いい歳して強欲はみっともないぜ。『村を襲う化け物を退治したら、宿代はチャラ』って約束だっただろう?・・・蓋を開けてみれば`洗礼者'が絡んでいて、冗談抜きで死ぬところだったんだぜ?」
「知っとるよ。何せ、その死にかけのお主を手当てをしたのは儂じゃからな。その分、宿代に治療代を加算させて貰うぞ」
「・・・出世払いでもいいか?」
「なに、一つ質問に答えて貰えれば結構じゃ。・・・お主は何故『異端審問官』を目指す。法王庁も崩壊したこの時代に?」
「洗礼者と同じことを聞くんだな。・・・俺は異端審問官って奴が大ッ嫌いだからさ。」
「どういう意味かの?」
「へへッ、知らないのか、爺さん。・・・嫌いだからこそ、面白いだぜ。」
エムレは、絆創膏の貼られた鼻を擦り、屈託なく笑った。つられて老人も苦笑気味に笑う。
「馬鹿じゃのう、お主は」
「ハハッ、今さら気づいたのかよ。年はとっても勉強は必用だぜ」
「違いない」
今度こそ、老人は笑った。
エムレ同様に、屈託のない笑いだった。

「一ついい忘れていた。この村でやるべき事が終わったら、お主の所に'勉強`をさせて貰いに行くとしよう。構わんかの?」
「そういう時勢、大事だと思うぜ、いつでも来いよ、『北の教会』に」

帰還の途につくエムレを見送ると、老人は呟いた。
「やれやれ、世を棄て、知識すら見限ったこの儂が『無知の知』に教えられる事になろうとはのう」
袖口から聖印を取り出すと、懐かしそうに目を細めた。
「それにしても、あんな未熟者を送り込むとはの。やり方がイルドルフに似てきたのではないか、ライナス・
バルグよ」
聖印を首から下げると、異端審問局元第五課課長ケステ・ジャイムはもう一度、笑った。

解説
組織のアドバイザーポジでいけるやん、的な発想で動かしてみました。
生存を知ったライナスとルナンは、その知識わ頼りに何度か協力を求め説得を試みたが、>>53の通り断られてしまう。
逆に、何も知らず、何も求めなかったエムレだからこそ、自主的に協力を申し出ることになった、と。
アニエスの遺産=タイムベント発動に関して、解説することは多いはず。
因みにケステ爺さんは、好好爺のイメージだったけど、書き始めたら偏屈シジイっぽくなった。
・・・きっと、五年の月日が変えてしまったのでしょう。

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