重い金属音と共に、地下室の扉が開く。
天窓からの採光のみの、薄暗い空間。
規則性を以て並べられた書架の森。
一人の老人が、古びた椅子に腰掛け、積み上げられた本を読んでいた。
『書庫の主』のような雰囲気だが、老人がこの『北の教会』に合流して一週間。
もっとも、この地下書庫に籠って三日が経過している。
ライナス・バルグが付く杖の音が、地下書庫に響く。
書架を眺めるライナス。
沈黙。
「・・・勝手に入るな、とは申しませんが」
先に口を開いたのはライナスだった。
「本は元の場所に戻して頂きたい。ケステ・ジャイム殿」
「これは失礼したのう、『北の教会』最高司令官ライナス・バルグ殿」
「・・・再三の合流要請を無視しておいて、どういうおつもりですか?」
「先日、『勉強不足』をお前さんの所の若いのに教えられたからのう。・・・恥をかきに来た訳じゃ」
「それで、勉強の成果は?」
「対した事はない。・・・どこぞの誰かが、『時越の錬金術師の遺産』の発動を試みている事が、解ったくらいじゃ」
ライナスの眼光が鋭さを増す。
ライナスはメモや記録媒体を残さない。
弱視ゆえに読み返すことの困難であることもあるが、情報の漏洩に万全を期すためだ。
頭の中で記憶してしまえば、外部に漏れる事はない。
時越の錬金術師の遺産については、補佐役であるルナン・クライトスにさえ話していない。
「何処でそれを?」
「そんな顔をするな、鉄翼鷲。ここに集められた資料からの推測じゃよ。ワシは元とは言え第五課だからの。・・・肝心の錬金術師は集まっているのかの?」
「国家一級位は、掴めていません」
「ふむ、エーテル出力炉は?」
「今朝方、97式ヘルメス機関を登載した機関車が鉄道騎士団と共に合流しました」
「千年神器(ミレニアム・アーティファクト)は?」
「探索中ですが、聖剣インフェルノメーカーについては、消失が確認されています」
「ふむ、困ったもんじゃの」
ケステは懐から取り出したメモ帳を捲ると、そのうちの1枚を破り、ライナスに渡す。
「今の段階だと、これくらいかのう。多層式錬成印を並列構造にすれば、ゲート維持時間を稼げる。もっとも、発動させるエーテルエネルギーそのものが足りんがの」
「・・・参考にさせて頂きます」
ライナスの落ち着いた態度に、ケステはある可能性が思いあたる。
「まさか、現時点でも、ゲートを開く算段はあるのか?」
「それの質問には答えられません。貴方が裏切らない保証はありませんからな」
ケステは苦笑する
「相変わらずじゃな。まあライナスよ。飛び続けるのも結構、ワシはもはや並んで飛ぶことは敵わぬが、止まり木位には成れると自惚れておる」
「私には、羽を休める時間などないのですよ。例え片翼であっても」
何冊かの本をとり、杖をつき地下書庫を去るライナス。
「やれやれ、時間がないのはこちらも同じじゃ」