真っ白な雪原に、華が咲く。
カナン・ヨハナンの振るうグングニルと、『狂犬』と呼ばれた男を師に持つ少女が駈るテスティレンス・サイズ。
二つの超重量級AFが交差する度に、
その共鳴が大気を振るわせ音叉を咲かせ、
その激突が金属の火花を咲かせ、
その余波が大地を抉り雪と土砂を放射状に拡散させる大花を咲かせ、
そして一撃毎に、互いの体から血煙を咲かせた。
「・・・」
大きく振りかざした『槍』を大地に打ち付けるカナンの顔には、表情はない。
額から流れた血と、泥で汚れた頬が激戦を物語るが、一切の感情を浮かべない瞳が、戦闘開始以前と比較し、より人形めいた印象を与える。
「この程度で・・・」
足下より大地が隆起し喉元に迫る『槍』を、『大鎌』で一閃しなぎ払った少女は、対照的に溢れる感情を隠そうともしない。
表情に乏しかった戦闘前とは別人を思わせる変動ぶりだ。
砕いた大地の『槍』の破片を『大鎌』の柄でカナンに向けて打ち付ける。瞬時に、5連。
「『魂が喰える』のか!?」
打ち付けられた破片は、大砲から打ち出された砲弾のような速度でカナンを襲う。
浮かべた表情は、歓喜。
餌を目の前にした『狂犬』が浮かべる、唇を引き釣らせ牙を剥き出しにするような、獰猛な笑みだった。
-間違いない。
左膝の痛みを圧し殺し
、超重量級AFが織り成す激戦を見守っていたアズールは、呻くように呟く。
常人であれば持ち上げることすら敵わず、修練を積んだ異端審問官でさえ使いこなす事は困難と言われる超重量級AFを、手足のように操る。
AFに関して天才的才能、すなわち『白き腕』と呼ばれたカナン・ヨハナンであることは間違いない。
-だが
今のカナンの戦いかたは、アズールの記憶にある姿とはかけ離れている。
感情と共に武器を振るい、激情にまかせれば『巨神』すら打ち倒し、消極的姿勢をとれば駆け出しの準騎士にすら遅れを取る。
その『ムラ』がカナンの長所であり、短所であったはずだ。
今のカナンの戦いかたは、その真逆といってよかった。
「なんて・・・」
疾風の速さで繰り出される『槍』の連撃の中で、少女は呻くように呟いた。
呼吸する間も与えられずに、回避も反撃も許されない。
ただ、弾くことがいつまでもつか、が問われる連続攻撃。
一撃事の余波が少女の四肢を傷つける。
「なんて、楽しいんだ」
避けた頬から流れた血を嘗めとり、少女の瞳は、喜悦で歪んだ。
-楽しい、戦う事は楽しい
-ねぇ、そうでしょう?お師匠様
続きます
- 97: 拾郎:2016/02/12 15:47 No.326
-
続き
~◇~◇~◇~
『半年だけ時間をやる』
名前も知らない山の廃村。
まれに見る凶悪な表情をした男が、少女の目の前に精巧な彫刻が施された棒を投げる。
棒の正体を少女は知っている。
使用者の生命力を代償に数多の効果を発動させる『テスティレンス・サイズ』
男の半身とも言うべき武器だ。
『そいつを使って、この俺を殺せ。・・・出来なきゃ俺が貴様を殺す』
『わかりました』
少女はテスティレンス・サイズの冷たい柄で拾い、素直に頷く。
感情を欠落させた忌み子として村を終われた自分を拾ったのは『さまよえる逆十字団』だった。
恐怖を感じる事が無いことから、連絡係のような事をやらされて一年近く。
際もの揃いの逆十字団の中でも、目の前の男、『魂飢の狂犬』ラグジャの性格は一際異彩を放っていた。
単純にして、凶悪。
要求を断れば半年と言わず、今すぐ殺されるだろう。
『いい返事だ』
同時に少女は、手にした柄でラグジャの右側より斬りかかる。
直後、蹴り飛ばされた。
圧倒的な速度で革靴の爪先が、顎の先端に叩き込まれる。
フワリとした感覚の後、薄れ行く意識のなかで、踵を返す長身の背中が見えた。
ダラダラと歩くその後ろ姿には、右手が無かった。
『いいか、半年後だぞ』
その日から、死に物狂いの毎日が始まった。
少女は全力の攻撃を、ラグジャは手にした枝で、錆びた剣で、動物の骨で、いとも容易く打ち付ける。
技術的な教えは一切なく、ただひたすら繰り返される実践練習。
数百回となく叩きつけられた地面の感覚。
変化が現れたのは三ヶ月後、少女が初めて自分の意思で『光の刃』を発動させた時であった。
『コツを掴んだようだな』
胸元を浅く薙いだ一撃に、ラグジャは胸を撫でた左手を話すと、薄く血が溢れだす。
『・・・笑っている』
『え?』
ラグジャの思わぬ言葉に、少女は戸惑う。
『貴様は今、笑っている』
『・・・お師匠様も笑っています』
『俺の渇きは、命をかけたギリギリのやり取りの中で癒される。同情も、憐れみも、愛もお呼びじゃねぇ。戦いだけが、この俺を満たすんだ』
『貴様も同じだ、ガキ。貴様は感情を無くしてなどいない。戦いを通して、相手の魂を喰らえ。自分の全てを出し、相手の全てを引き出せ。その先にあるのが、感情って奴だ』
戦いのみで繋がる歪な師弟関係。
戦いのみで癒される穴だらけの心。
戦いのまで満たされる不器用な信頼。
『さあ、こい。今度こそ俺を殺してみろ。』
『はい、次こそ殺します』
少女が『光の刃』を伸ばす。
ふたりの距離を満たすのは、刃の長さと言わんばかりに全力をそそぐ。
が、その刃が届くのは、後三ヶ月後の事だ。
嵐の夜だった。
『・・・お師匠様』
少女の呼び掛けに、ラグジャは答えない。
痩せ細った体と異様にギラつく瞳で暴風雨の中、歩き続ける。
『何処へ行くのです、お師匠様』
ラグジャの体に異変の徴候は以前から現れていた。
永年に渡り使用し続けたテスティレンス・サイズの副作用だと知るのは、もう少し後になってからだ。
『・・・腹が減った』
ラグジャが足を止めたのは、山間の麓に広がる村の灯りが見えた時だった。
『だから、あいつらを喰おう』
『えっ?』
麓の村には少女は何度か立ち入った時がある。
不審者扱い去れる事もあったが、食料を分けて貰うこともあった。
『待って下さ・・・』
『いつからお前は俺に命令出来るほど、偉くなった?』
振り向き様に、少女の膝を蹴り飛ばす。
『久しぶりの餌だ。どれだけ足掻いて楽しませてくれるか』
雷鳴轟く雨の中、『狂犬』が進む。
『待って・・・』
泥に這いずりながらの少女の呼び止めは、届く事はない。
何が届く?
何が。
ザンッ。
『・・・そうだ、・・・それでいい』
背後から己の胸を貫いた長大な『光の刃』に、ラグジャは満足げな笑みを浮かべる
『・・・』
『クククッ、なんてツラ、してやがる』
歩みよる少女に対し、隻腕を伸ばす。
『今日からお前が、・・・『魂喰の狂犬』だ』
~◇~◇~◇~
もうちょい続く - 98: 拾郎:2016/02/12 18:51 No.327
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「逃がさない」
カナンを囲むように地中から伸びた六本の光の刃が伸びる。
巨大な食虫植物が、その顎を閉じるかの如く、光の刃は内側に、すなわちカナンに対して、『折り畳まれる』。
さらに。
「散華!」
カナンに接触する直前に、光の刃は無数の華吹雪へと姿を代える。
「屠(とっ)た!」
この間合いであれば、いかなる身体能力を持とうと避せない。
だが。
「!?」
華吹雪を貫いて、光輝くグングニルより放たれた閃光が、少女の胸元に伸びる。
「っ!」
テスティレンス・サイズを最大稼働。
放出できる刃を全て展開し、高速回転。
最大の攻撃技を防御として使用し、グングニルより放たれた『雷神の審判』を拡散させる。
そして、巨大な爆発。
「あはっ、はははっ、」
何処かで、笑い声が、響いてる。
笑っているのは自分だと気づき、遠のいていた意識が戻る。
左手が動かない。
先ほど最大の出力で稼働差せたテスティレンス・サイズが、彼女の左手を『喰った』。
腕の健は切れ、皮膚は水脹れを起こし、ただれている。
全身にも酷い倦怠感が包んでいた。
右腕で大鎌を掴み体を支える事で、ようやく立っている。
「・・・なるほどね。」
爆煙をかき分け、カナンがゆっくりと近づいてくる。
右手をには、白き輝きを放つグングニル。
そして左手は。
「・・・防御を捨て、攻撃に活路を求めた」
左手は肩から先が欠落していた。
感情と共に痛覚も欠落しているのか、カナンは相変わらずの無表情。
だが、右手に構えたグングニルは、一層強い輝きを放っている。
既にテスティレンス・サイズに『喰われ』始めた少女とは対照的だ。
「これが、・・・白き腕」
基は、侮蔑の称号。
基は、汚辱の称号。
基は、畏怖の称号。
基は、闘争の称号。
基は、破壊の称号。
カナンが霧を裂き、加速する。
「これが、白き腕か!」
降り下ろされる槍を見つめ、叫ぶ。
向かえ撃つ大鎌の動きはあまりに遅い。
眼前でグングニルが止まる。
受け止めたのは『柱』、いや柱ほどもある巨大な槍斧(ハルバード)であった。
「さすがは、白き腕。見事なものだ」
AFよ格を考慮すれば『エイバムの柱』といえど、白き腕が操るグングニルを支えきれるものではない。
「お前を殺すことに、全力は出せぬが・・・」
赤く燃焼を続ける刃の維持に全霊を注ぎつつ、アズールはカナンに語りかける。
気を抜けば、AF共鳴の圧力に押し潰される。
「お前が誰かを殺すことに止めるためなら、全力を注げよう」
悲鳴のような痛みを送る左膝を黙殺し、「エイバムの柱」の握り手を振り絞る。
柱に装填された封印弾が作動、封印攻撃『エイバムの光』により、巨大な爆発が起こった。
~◇~◇~◇~
確か、初めて『光の刃』を出した日の事だ。
『殺す』と宣言し、ひたすら長く、長く刃を出すことに集中した少女は、神経を磨り減らし昏倒した。
翌朝まで、記憶はない。
記憶はないが、不思議な感覚は覚えている。
固く、大きく、暖かい壁に、自分が揺られている。
壁の正体は分からないが、奇妙な安心感があった。
~◇~◇~◇~
「気がついたか」
正体が目を覚ましたのは、アズールの背中の上であった。
片手で、エイバムの柱とテスティレンス・サイズをかつぎ上げ、片手で背中の少女を背負っている。
「下がっていてろ、とは言われたが・・」
少しの間。
「手を出すな、とは言われなかったのでな」
言葉の意味を理解するのに少し、時間が掛かった。
「全ては私の未熟が招いた事だ。言われた通り、覚悟すら出来ていなかった。結果、君を巻き込んだ」
「私、負けたんだ」
ぽつりと呟く。
「ああ、負けた。だが、」
背中が、大きく揺れる。
「次は勝つさ」
不器用な謝罪と、慰めと、励まし。
アズールに出来る、精一杯の誠意。
だから、正面を向いたままのアズールは気がつかない。
その瞬間、少女の顔に浮かんでいた表情を。
「・・・そうね」
-全然違うのに、何処か似てる。
そう思うと、少女は二度目の『暖かな揺れる壁』の感覚に身を任せた。
満身創痍であった少女も、エイバムの柱の稼働に全身を集中させていたアズールも、気がつく事は無かった。
『エイバムの光』により吹き飛ばされる瞬間、カナンの表情が、僅かに動いた事を。
聞くことは無かった。
その口許が呟いた言葉を。
言葉にならない程の小さな呟きであったが、確かに発していた。
『イルドルフ、様』、と。