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小話「‘強欲’の蝕(エクリプス)

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匿名ユーザー

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-浄眼
それが、邪視(グラムサイト)の奇跡を授かって以来、最も初期に取得し、最も使用し、そして最も訳にたっている能力に、エルロイドがつけた名前だった。
特別な集中も、準備も不用。
ただ、相手を『視る』だけで、発動する。


初めて足を踏み入れた『調停者の間』で壁に背を古風な戦士装束姿の長身の男が、一瞥と供に出迎える。
「初めまして。私はエルロイド・リーデンバーグ。今日から貴方と同じ『ベルザインの子供達(チルドレン)』の一員よ。一つのお手柔らかに」
「・・・サリエリ・プシューケスだ」
男は短く名乗り、そして沈黙する。
だが、寡黙であろうと雄弁であろうと、エルロイドには関係ない。
言葉よりも本質を理解する手段を、エルロイドは持っている。

-相は、孤高
-願いは、頂

浄眼を通して写る、サリエリの深層心理。
魂の色、といってもいい。
老獪な詐欺師であろうと、天才的な役者であろうと、魂と言う本質までを変えることは出来ない。
エルロイドはこの能力により、敵と味方の判別、裏切りの予測、そして本質を刺激する事で相手を意のままに操り、ここまで登りつめた。
相変わらず無表情のサリエリに対し、優雅に一例する。
「素敵な名前をお聞かせ頂いて感謝します、サリエリ・プシューケス」
腹芸の出来るタイプではない。
さしずめ、強敵を求めて戦い続けるうちにたどり着いた狂戦士か。扱いも、難しくはないだろう。

「ボリエ・ディコン、ダ。戦士の道を供に進める事を誇りに思ウ」
「痩せてるナ。ちゃんと肉食っているカ」
-ボリエ・ディコン
相は、矜持
願いは、強敵。
分かりやすくて、笑いをこらえる。
-パディー・ディコン
相は、怠惰
願いは、糧(かて)
一心同体でありながら、全く別の個体である事が確定面白い。

「・・・」
『告げる者』と呼ばれる特殊な全身鎧に身を包んだ戦士

一言も発する事は無かったが、浄眼の前には影響はない。
相は、虚無
願いは、救済
掴み所は難しいが、願いの色は濃い。
探りを入れれば、『使える』かもしれない。

そして、出会った。
白い仮面の巨体。
幾重にも巻き付けた外套。
「ようこそ、美しいお嬢さん。故亜って本名は明かせませぬが、ここでは『蝕(エクリプス)』と名乗らせて頂いています。」
耳心地のよい低音の、だがどこか無機質な声
「・・・なんだ?」
エルロイドは絶句する。
相は、苦悶、怨み、悔恨、恐怖、絶望、憎悪、葛藤、後悔、そして破滅
出口を求めて殺到する人波のように、魂の影が揺らめいている。
あり得ない。
あの双頭のリザードマンですら、独立した相を持っていた。
一つの魂に、複数の相が交わる事はあり得ない、
自分に、他人が混じれば、拒絶する。
ましてや、これだけの濃縮された負の感情の波に晒されれば、精神が耐えられるはずがない。
一方の願いは・・・。
「平穏!?」
老成した老人のような穏やかな凪(なぎ)の状態。
何なんだ。
何なんだ、この化け物は。
「!?」
その時、エルロイドは仮面越しの視線に気づいた。
素肌の表面を、毛穴の奥まで、舐め回すかのような絡み付く視線。
戦慄が全身に走る。
これでは、どちらが覗かれているか、分かったものではない。
「フッ」
仮面の奥から息が漏れる。
笑ったのか?
「さあ、間もなく調停者がお越しになります。さあ、そろそろ着席しましょう」
悠然と立ち去る巨体の背中を、エルロイドはただ見送る事しか出来なかった

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