起フェイズ①
『北の教会』
ライナス・バルグにより組織された『最大規模の抵抗精力』
二年前の『百人集の襲撃』さえ事も無げ凌いだ、最強の精鋭集団。
名を挙げようとする洗礼者達が、過去に幾度もライナス・バルグの首を狙ったが、悉く返り討ちとなった。
だが。
「・・・小さい」
自らの居城の展望室に立ち、`天空伯'ウルライヒは、呟く。
黄昏の時代の古城を改装し、最も堅牢な砦と言われている『北の教会』の拠点。
現在の技術では加工すら困難、とされる甲武岩で形成された城壁。
死角無く設置されたバリスタ。
その堅牢さをことさら強めているのが、背後の山岳、右の森林、左の渓谷、という立地にある。
大軍を盛って侵攻しようとしても、必然的に進軍ルートが限定される。
守りの機能に特化した、不敗の要塞。
「だが、私の『空中要塞』の前には、無意味だ」
薄笑いを浮かべ、ウルライヒは呟く。
「ベルザイン様より賜った、この『ウルライヒの空中要塞』の前にはな」
あらゆる地形を無視し、相手の喉元に打ち込まれた「楔」となる空中要塞は、事実、いくつもの抵抗勢力の拠点を陥落させてきた。
空中からの砲撃のみで陥落させた街、
城壁の内側に地上部隊を進入させられた城、
上空を選挙された恐怖感から、戦わずして降伏した砦、
「小さいのだ」
ウルライヒは再び呟く。
このアスガルドに、天空に領土を持つものは、ウルライヒただ一人。
天より見下ろせば、地上のあらゆる事は、少事となる。
「流石は『北の教会』ですね」
ウルライヒの背後から、女の声。
「設置されたバリスタに射角が設けられている、有効な対空設備を整えたのは、初めてではないですか?」
女の立ち位置は基より、窓際に立つウルライヒを持ってしても肉眼で確認できる距離ではない
'邪眼(グラムサイト)`の能力の一つ、'遠視`
「洗礼長エルロイド」
「はっ、」
ウルライヒの言葉に、白い詰襟子の軍服を纏った女は恭しくかしずく。
その恭順な姿勢とは対称的にウルライヒは僅かに不快な表情を浮かべた。
続く
『北の教会』
ライナス・バルグにより組織された『最大規模の抵抗精力』
二年前の『百人集の襲撃』さえ事も無げ凌いだ、最強の精鋭集団。
名を挙げようとする洗礼者達が、過去に幾度もライナス・バルグの首を狙ったが、悉く返り討ちとなった。
だが。
「・・・小さい」
自らの居城の展望室に立ち、`天空伯'ウルライヒは、呟く。
黄昏の時代の古城を改装し、最も堅牢な砦と言われている『北の教会』の拠点。
現在の技術では加工すら困難、とされる甲武岩で形成された城壁。
死角無く設置されたバリスタ。
その堅牢さをことさら強めているのが、背後の山岳、右の森林、左の渓谷、という立地にある。
大軍を盛って侵攻しようとしても、必然的に進軍ルートが限定される。
守りの機能に特化した、不敗の要塞。
「だが、私の『空中要塞』の前には、無意味だ」
薄笑いを浮かべ、ウルライヒは呟く。
「ベルザイン様より賜った、この『ウルライヒの空中要塞』の前にはな」
あらゆる地形を無視し、相手の喉元に打ち込まれた「楔」となる空中要塞は、事実、いくつもの抵抗勢力の拠点を陥落させてきた。
空中からの砲撃のみで陥落させた街、
城壁の内側に地上部隊を進入させられた城、
上空を選挙された恐怖感から、戦わずして降伏した砦、
「小さいのだ」
ウルライヒは再び呟く。
このアスガルドに、天空に領土を持つものは、ウルライヒただ一人。
天より見下ろせば、地上のあらゆる事は、少事となる。
「流石は『北の教会』ですね」
ウルライヒの背後から、女の声。
「設置されたバリスタに射角が設けられている、有効な対空設備を整えたのは、初めてではないですか?」
女の立ち位置は基より、窓際に立つウルライヒを持ってしても肉眼で確認できる距離ではない
'邪眼(グラムサイト)`の能力の一つ、'遠視`
「洗礼長エルロイド」
「はっ、」
ウルライヒの言葉に、白い詰襟子の軍服を纏った女は恭しくかしずく。
その恭順な姿勢とは対称的にウルライヒは僅かに不快な表情を浮かべた。
続く
- 329: 拾郎:2016/03/15 17:38 No.739
-
続き
『調停者ベルザインによる‘反逆者ライナス・バルグの拘束’指令を拝命した際、ウルライヒは狂喜した。
この‘空中要塞’の圧倒的戦力を持ってすれば、ライナス・バルグが指揮する『北の教会』の撃破など積み木の城を崩す行為に等しい。
だが同時に、『調停者の勅命状』には、エルロイド・リーベンデールをその補佐役にする、と記されていた。
‘邪視(グラム・サイト)’を授かった洗礼者。
アスガルド各地に潜伏した審問官狩りにおいて、突出した実績を引っさげ、調停者ベルザインの寵愛を受ける‘ベルザインの子供たち(チルドレン)’に名を連ねた美貌の実力者。
ウルライヒは、エルロイドに対しいくつかの親近感を憶えている
名門貴族出身であり、指揮能力に優れている点。
‘成り上がり者’が多い洗礼者において、‘持って生まれた上に立つ者の風格’を持つ者は少ない。
稀少と言ってもいい。
法王庁残党狩りが一段落した後、調停者ベルザインが統べるアスガルドは、自分達のような‘貴種が’、野党同様に支配権を‘掠め盗った’洗礼者達を導いていかなくてはならない。
その意味では、エルロイドは貴重な同士、と言っていい。
だが、同時に嫌悪感も憶える。
貴族特有の、社交的な笑みと慇懃な態度に隠された、本心。
挨拶を受けた初日から現在に至るまで。
この美貌の淑女はその本心を、ウルライヒに見せる事は皆無であった。
‘洗礼長’という有名無実の役職を与えた際も。
エルロイドが連れてきた‘4人の洗礼者’を事実上、ウルライヒの支配下とした際も。
‘手土産’を携え合流したジグ・ブライトを当て付けの様に優遇した際も。
エルロイドは悠然と頭を下げ、ウルライヒの指示に従った。
その従順さが気に入らない。
『‘調停者ベルザインの勅命’で、空中要塞のNo2に指名された自分が蔑ろにされている』
その事実になぜ、感情を顕にしないのか。
‘どうぞ、ご自由に’と言わんばかりの余裕の態度が、腹立たしい。
滑稽な事に、抑圧する者と抑圧される者の対場にたいする感情が、まるで逆になっている。
‘天に立つ者’は、空中要塞の主である自分唯一人。
神の視点で地上を睥睨できるのは、自分唯一人。
手始めに。
遠慮なく取らせてもらう。
首魁、ライナス・バルグを。
「所詮は付け焼刃、哀れな小細工にすぎない」
『北の教会』の城壁に展開する大型投擲弓(バリスタ)の列は、空中要塞から見下ろせば、玩具にしか見えない。
「私は棋盤を天に浮かべ、駒を天より地に進める。・・・ライナス・バルグは、棋盤を地に伏せ、駒は地で動かすのみ」
「おっしゃる通りでございます。天の理は初手からウルライヒ閣下に傅いております」
長い睫毛を伏せ、エルロイドは片膝をつけ、従順に頭を下げる。
「私の駒は、騎士、城砦、塔、戦車。そして女王が二対。・・・ライナス・バルグの駒は、歩兵と王、すなわち奴自身。」
「おっしゃる通りでございます。王を獲れば、ウルライヒ閣下の勝利でございます」
「我が初手は、洗礼者ガザルドを使う。」
洗礼者ガザルド。
エルロイドが連れてきた四人の洗礼者の一人。
「閣下の御意のままに。・・・‘感染’の奇跡、『北の教会』相手に不足はありませぬ」
恭しく、そして従順に応じるエルロイドの返答に、ウルライヒは満足した。
だから気付く事はない。
頭を下げたままのエルロイドの口元に薄笑いが浮かんでいる事に。
数分後、空中要塞から地上に向けて、一人の洗礼者が降下した